ミリオンロンパ 非日常編1-3
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
【劇場規則】
規則1:候補生達はこの劇場内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。
規則2:夜10時から朝7時までを”夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。
規則3:就寝は寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。
規則4:劇場について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。
(次は厨房を調べてみよう)
誰もいない食堂を通り抜け、厨房に入る。
厨房の中は驚くほど綺麗に磨かれていた。食器や調理道具も綺麗に整頓されている。籠に入った野菜が新鮮で美味しそうだ。
ここに閉じ込められて数日経つけど、そういえば厨房には入ったことなかったなあ…。
「えへへ、綺麗でしょ?食べ物を作る所だから清潔にしないとね~」
「あ、美奈子さん」
「調査中なんだよね?私も協力するよ~。気になる事があったら何でも聞いてね!」
「ありがとうございます。…でもいいんですか?美奈子さんも私が犯人って疑ってるんじゃ…?」
「う~ん…私には誰が犯人とかよくわからないんだ。調査も何から始めたらいいんだろうって感じだし」
困ったように頬を掻きながら、美奈子さんは続ける。
「それに、同じ空間で生活して、一緒にご飯を食べた相手を疑いたくないかな、って…」
「…そう、ですね…」
私だって、できれば誰も疑いたくない。
でも未来ちゃんが殺されたのも事実だ。それに、このままじゃここにいる全員がわけもわからないまま殺されてしまう。
誰かを疑うなんてことはしたくない。けど誰かがやらなくちゃいけないんだ。
向き合わないと、前には進めないから。
(…あれ?)
厨房にある包丁差しには大小さまざまな大きさの包丁が取り揃えられている。
でも、よく見ると…。
(包丁が、1本足りない…?)
「あの、美奈子さん…」
「ああ…その包丁ね。私が朝厨房に来た時にはもうなくなってたんだ」
「じゃあ、元からこの部分は抜けていたわけじゃないんですね?」
「うん、昨日まではちゃんとあったよ。私も何度か使ったし」
ということは…。
「誰かが昨日の間に持ち出した…!?」
「そうなるね…。晩御飯の後に洗い物をしてた時は、たしかまだ揃ってたはずだよ」
「じゃあ、それから夜時間までの間に誰かが…」
「いつもはずっと厨房にいるんだけど、昨日は早めにお部屋に戻っちゃったから誰が来たのかまでは分からないんだ。ごめんね」
「いえ、十分です!ありがとうございました!」
少なくとも、誰かが厨房まで来たことは事実だ。
ひょっとしたら厨房に入る”誰か”を目撃した人がいるかもしれない。あとで聞き込みをしてみよう。
【『厨房の包丁セット』を手帳に記録しました】
美奈子さんは何かを片手に厨房内を動き回っている。
「あの、それは…?」
「ああ、これ?備品リストだよ。料理する時に必要な物がなくなってたら困るでしょ?」
そう言って美奈子さんは手に持ったリストを見せてくれた。
これなら何かが失くなっていればすぐに気付くはずだ。
「毎日チェックしてるんですか?」
「まあね~。日課みたいなものかな。他にやる事がないって言うのもあるんだけど」
全然気付かなかった。洗い物の数も尋常じゃないはずなのに、流石は超アイドル級の料理人…。
と、手際よく道具を数えていた美奈子さんの手が止まった。
「あれ~?おかしいな…」
「どうしたんですか?」
「備品の数が合わないの。鍋とかまな板とか、伸ばし棒も足りなくなってる。
あと、ゴム手袋も減ってるかな。どれも昨日片付けた時には揃ってたはずなんだけど…」
「これも誰かが持ち出したんでしょうか…?」
「そうなのかなぁ。う~ん……あっ!」
「ど、どうしたんですか!?もしかして何かに気付いて…」
「きっと夜にお腹が空いちゃって、夜食でも作ってたんだよ!
もう、言ってくれれば私が何でも作ってあげたのに~」
「美奈子さん…」
でも、考えてみれば変だ。
包丁は凶器に利用できるかもしれないけど、鍋とかまな板を持ち出して何に使うつもりだったんだろう…?
【『厨房の備品リスト』を手帳に記録しました】
(これで一通り厨房は調べ終えたかな…)
「あの、美奈子さんは何か気付いた事ってありませんか?」
「気付いた事?」
「どんな些細な事でもいいんですが」
「う~ん……。
そういえば、食材がちょっと減ってたかな」
「それは、毎日食べてますから」
「そうじゃなくて、みんながご飯を食べる前の話だよ」
「えっと…?たしか食材って毎日補充されてるんですよね?」
「そ♪オマエラが餓死しないようにアカネちゃんが新鮮な素材を用意してあげてるの。感謝してよね!」
「うわっ、出た!?」
またしてもアカネが現れた。
監視カメラで私達の行動が筒抜けなのは知ってるけど、タイミングを見計らってるとしか思えない。
もしかして暇なんだろうか。
「そうそう、朝のアナウンスが流れて、食堂が開放される頃にアカネちゃんが補充してくれてるんだよ~」
「この人、いっつも時間直前には食堂前で待機してるんです…ぶっちゃけメイワクなんですけど」
「毎日厨房に入ってるから断言できるよ。朝アカネちゃんが食材を補充する前、確かに数が減ってた」
「このアカネちゃんをスルーですか!?」
ええと、食堂が開放される前…つまり夜時間になる前に食材が消えたってことか。
これも誰かが持ち出したのかな。でも、何の為に…?
「気になったのはそれくらいかな。ごめんね、あんまり力になれなくて」
「そんなことないです!すっごく助かりました、ありがとうございます!」
「ん、そっか。よかった。この後も調査頑張ってね~!」
「はいっ!」
【『美奈子の証言』を手帳に記録しました】
美奈子さんに見送られて厨房を後にした私は、食堂で話し声がすることに気付いた。
「桃子ちゃん、どうかな?」
「……!!こ、このタルトは…!」
(おいしい…っ!こんなにおいしいタルト食べたの、初めてかも…)
「あれれ、おいしくなかった…?」
「…ま、まあまあかな。ちょっと子供っぽい味だけど、桃子は嫌いじゃないよ」
「本当?よかったぁ…」
「星梨花ちゃんに…桃子ちゃん?どうしたのこんな所で」
「あ、可奈さん。タルトを作ってみたんですけど、おひとつどうですか?」
そう言って星梨花ちゃんが差し出したのはフルーツタルトだ。色鮮やかで甘い香りに思わず目が奪われる。
「わっ、おいしそう!ちょうどお腹空いてたんだ~♪ありがたくいただきます!」
一口食べる。
……こ、これは…!
「おいし~いっ!タルトのサクサク感と~♪フルーツの甘さと酸味がベストマッチ~♪」
「えへへ、ありがとうございます!」
そっ、と星梨花ちゃんが顔を寄せてきた。
(それ、桃子ちゃんを元気付けるために作ったんです)
(桃子ちゃんを?)
(はい。桃子ちゃん、さっきまでずっとお手洗いで泣いてたんです。皆さんから疑われたのがショックだったみたいで…)
(そうだったんだ…)
桃子ちゃんは自発的にみんなと離れて行動していたから疑われるのは仕方ないのかもしれない。
でも、はっきりした証拠がないのに犯人扱いされたのは桃子ちゃんもショックだったんだろう。
「ねぇ、もう食べ終わったでしょ。早く調査に戻ったら?」
「桃子ちゃん…」
「ま、いくら調査した所で、どうせみんな桃子を疑うんだろうけどね」
「…そんなこと、ないよ。少なくとも私は桃子ちゃんを疑ってない」
「よく言うよ。桃子が犯人じゃないっていう証拠もないのにさ」
「確かに証拠はまだ見つかってないよ。でも、私は桃子ちゃんが殺人を犯す人だなんて思えない。
星梨花ちゃんの悲鳴が聞こえたあの時だって、誰よりも早く桃子ちゃんは動いてた。
自分以外の誰かを思いやれる優しい人が、簡単に人を殺せるはずがない。――これが信じる理由じゃ、ダメかな?」
桃子ちゃんの目をまっすぐ見つめる。想いを、伝える。
嘘偽りのない本心だった。桃子ちゃんが犯人だなんて思えないし、思いたくない。
感情的な理由以外にも、単独行動の多かった桃子ちゃんが犯人だなんて『出来過ぎて』いる。
何より、動機が思い当たらない。アカネがわざわざ用意した以上、あの”動機”は絶対に今回の事件に関わってきているはずなんだ。
できればあの映像に何が映っていたのかみんなに聞いてみたかったけど、犯人と疑われてる人が頼んでも余計怪しまれちゃうだけだろう。
だから私は、信頼する。私のカンと、その人自身を信じる。
「……ふん」
じっと見つめ合うこと数秒。
桃子ちゃんは一度鼻を鳴らすと、興味を失ったように椅子に座り直した。
「勝手にすれば。どう思おうと可奈さんの自由だし」
「桃子ちゃん、ひょっとして照れ…」
「うるさい。ついでに星梨花、飲み物ちょうだい」
「はーい♪ちょっと待っててね~」
えーと、ひとまず一件落着…かな?
なんとなく手持無沙汰に感じて星梨花ちゃんのあとをついていく。
食堂の棚にはいろんな種類の茶葉が並んでいた。名前だけ見ると本当にお茶なのか疑いたくなるものまで。
「こんなに種類があるんだね…」
「私も驚きました。いつも美奈子さんが用意してくれるので」
「あ、それにするの?」
「はい。昨日の夜桃子ちゃんといろいろ試してみたんですけど、それが一番お気に入りみたいです」
昨日の、夜…?
「星梨花ちゃん、昨日の夜は食堂に居たの!?」
「は、はい。夜時間になるまでずっとここで桃子ちゃんと紅茶を飲んでました」
桃子ちゃんと、2人で…。
「その時に包丁触ったりしてない?」
「包丁…ですか?」
顎に指を添え、考える仕草をする星梨花ちゃん。
「うーんと…たぶん、触ってないと思います。桃子ちゃんもずっと椅子に座ってましたし」
「そっか…ありがとう」
「あ、でも…」
「どうしたの?」
何かを言いかけた星梨花ちゃんの口が――そのままゆっくりと閉じる。
薄く笑いながらふるふると首を振る。動きに合わせて結んでいる髪が揺れた。
「…いえ、やっぱり何でもないです。すみません」
「……?うん…」
気にはなるけど、言いたくないなら無理に聞くことはできなかった。
そのうち話したくなったら話してくれればいい。
とにかく今の話で、私と桃子ちゃんは包丁を触ってない事が証明できるかな…。
【『星梨花の証言』を手帳に記録しました】
「おまたせ~」
「ん」
「じゃあ、私はこれで…」
「あのさ、可奈さん」
そそくさと立ち去ろうとしたところで桃子ちゃんに呼び止められる。
やっぱりさっきのことで怒ってるのかな…。
「な、なにかな?」
「…さっきは、ありがとう。可奈さんも犯人って疑われてるけど、私は違う…って、思ってるから」
「桃子ちゃん…」
「ほ、ほら。早く行きなよ。調査の途中なんでしょ?」
「うん、行ってくるね!私と桃子ちゃんが犯人じゃないって、絶対に証明してみせるから!」
「わぁ、頼もしいです!調査頑張ってくださいっ♪」
笑顔の星梨花ちゃんとぶっきらぼうに手を振る桃子ちゃんに見送られて食堂を後にする。
届いた。伝わった。受け取ってくれた。とにかく嬉しい、足取りが軽い。
浮かれてられる状況じゃないけど、確実に一歩進んだ気はする。
がんばろう。彼女の期待に応えるために。事件の真実を明らかにするんだ…!
「あっ」
次に私が向かった場所。そこはおそらく未来ちゃんの部屋の次に…そして”事件”が起こった場合、もっとも犯人が立ち寄る可能性の高い場所。
つまりトラッシュルームだ。証拠を隠滅するならここが最適。けれど、そこには既に人影があった。
「昴ちゃん!」
「よう」
昴ちゃんは腕組みしたまま目線だけをこちらに向ける。
「調査中か?」
「うん。昴ちゃんは?」
「似たようなモンかな。他にやることもないし。…でまあ、残念だけどここは入れないみたいだ」
昴ちゃんは渋い顔のまま顎で目の前を指し示す。
彼女が入れないと言った理由はすぐに分かった。
「鉄格子が降りてるね…」
上階に続く階段を塞いでいたのと同じような鉄格子が入り口を塞いでいた。その隙間はほとんどなく、すり抜けるどころか拳のひとつも入りそうにない。
部屋の中は真っ暗で、鉄格子の隙間から中を覗き見ることも不可能だ。
「ほら、ここ」
昴ちゃんが鉄格子の隅を指し示す。
見ると、そこには小さな穴が開いていた。
「鍵穴…かな?」
「たぶんな。つまり、鍵がないと開かないってコト。他に入り口もないし、ここは諦めるしか…」
「鍵なら持ってるよ~」
「へっ?」
突然、明るい声が背後から聞こえた。
慌てて振り返る。薄暗がりの中、私達の後ろにいたのは――
「麗花さん!?」
「は~い♪」
「お、おどかすなよ……って、何で麗花がトラッシュルームの鍵なんか持ってるんだ?」
「私、掃除当番だからね~。昨日の朝にアカネちゃんにお願いされたんだ。えっへん!」
なんで偉そうなんだろう。
「一週間の交代制らしいから、そのうちみんなにも回ってくるんじゃないかな~」
「全然気付かなかったぞ…。紗代子が聞いたら怒りそうだな。そういう事はちゃんと知らせろーって」
「あはは、そうだね。…それで麗花さん、鍵は?」
「ちょっと待ってね。確かこっちのポケットに…」
ごそごそと服のポケットをまさぐり始めた麗花さん。
「……あれれ~?じゃあこっちかな…?」
忙しく手を動かしていた麗花さんの手が、ほどなくして止まった。
麗花さんは笑顔のまま首を傾ける。私と昴ちゃんもその動きに倣った。
「…で?」
「失くしちゃったみたい。てへ♪」
「てへ♪…じゃねーよ!どうするんだよおい!?」
「ま、まあまあ」
「うーんと…あっ、思い出した!あのね、私は掃除当番じゃないの!」
………。
「はい?」
「さっきと言ってることが違うじゃん…」
「あっ、違うの。そうじゃなくて、掃除当番を交代してもらったんだ~。
アカネちゃんに頼まれたその日に交代したから、結局私は全然お仕事してないんだけどね~」
「なんじゃそりゃ…ってかそれって自分から代わるって言ってきたのか?物好きなヤツだなぁ」
「誰に代わってもらったんですか?」
「未来ちゃんだよ」
「………。そう、ですか…」
「なるほど…な。アイツなら納得かも…」
「昨日のお昼にトラッシュルームの掃除をしようと思ってたら、偶然通りがかった未来ちゃんと静香ちゃんに会ったんだ。
そしたら、未来ちゃんが”掃除当番やりたいです!”って言ってくれてね。私の顔を見て、ちょっと無理してるってバレちゃってたみたい」
麗花さんは朗らかに笑っている。その時の光景が容易に想像できて、私も思わず笑んだ。
今はいつも通りに見える麗花さん。けれど、昨日は違ったんだろう。
「あのDVDを見せられた後だもんな…無理ないよ」
私は全然気付かなかった。でも未来ちゃんには分かったんだ。いつもみんなを気にかけている人だったから。
「あの、麗花さん」
物思いに沈みそうになる心を無理やり引っ張り上げる。
少しだけ気になることがあった。
「その時に静香ちゃんも一緒だった…って言ってましたよね?」
「うん。ほら、静香ちゃんも”あの後”落ち込んでたじゃない?未来ちゃんが元気付けてあげてたんじゃないかな」
「あ、なるほど。そうかもしれないですね」
静香ちゃんもあのDVDを見て、傍目からでも分かるくらい取り乱していた1人だ。
当日はもちろん、次の日もずっと自室に閉じこもっていたと思っていた。
無理に元気付けようとするのも良くないかなと思ってそっとしていたけど、未来ちゃんが付き合っていてくれたらしい。今日の朝は食堂に来ていたからきっと気分転換にはなったんだろう。
【『掃除当番の交代』を手帳に記録しました】
「えっと、麗花は未来と掃除当番を交代した…ってことでいいんだよな?」
「うん、そうだよ~。鍵もちゃんと渡したからね!」
「未来が誰とも掃除当番を代わってないんなら、トラッシュルームの鍵は未来の…死体がまだ持ってるのかもしれないな」
「私、確認してくるよ。2人はここで待っててくれる?」
「あー…その、オレが行くよ。なんていうか、えっと…」
昴ちゃんは言いにくそうにしていた。私が”彼女”の死体を見て倒れたことはみんなが知っている。
その気遣いだけで十分だった。
「大丈夫、ほかにも用事があるし…ちゃんと向き合わなきゃいけないことだと思うから」
「…ん、分かった。頼んだぜ」
「うんっ。心配してくれてありがとう。それじゃ、行ってくるね!」
「気を付けてね~。夕飯までには帰るんだよ~!」
麗花さんのどこか見当違いな見送りの声を背中に、私は足を速めた。
鍵の在り処。すなわち、未来ちゃんの部屋のシャワールームへ向かって。
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