ミリオンロンパ (非)日常編1-5
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
佐竹美奈子【超アイドル級の料理人】
世界のあらゆる料理をマスターした料理人。得意料理は回鍋肉と肉じゃが。
実家は中華料理屋で、彼女自身もよく店を手伝っているためか料理を作るのが早い。明るく世話好きで気も回る。
人が食べている姿を見るのが好きなようで、ことあるごとに何かを食べさせようとしてくる。
豊川風花【超アイドル級の看護師】
温和で優しい雰囲気を漂わせた女性。性格とは対照的に、そのプロポーションは刺激的。
元看護師であり、趣味は献血。ここぞという時の度胸は人一倍。
正統派アイドルを目指しているが、人目を引く上に毎年成長していく胸に悩まされている。
『オマエラ、おはようございます!朝です、7時になりました!起床時間ですよ~!
さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』
いつになくすっきりした気分でベッドから体を起こす。昨日の未来ちゃんとの会話が影響したのかもしれない。
手早く身支度を済ませて食堂に向かうと、そこには既に談笑している姿があった。
「おはよう~!」
「おはようございます、可奈さん」
「おはよう星梨花ちゃん、麗花さん!」
「うふふ、なんだかスッキリした顔してるね。よく眠れた?」
「はい、もうバッチリです!」
そっかそっか~と微笑む麗花さん。
「そういえば麗花さんって、いつも食堂に来るの早いですよね?」
「お散歩がてら、劇場の中を探検してからここに来てるからね~。いつもアナウンスが流れる前には起きてるかな」
「あれ…夜時間の間は外に出ちゃいけないんじゃないんですか?」
「えっ?”夜時間”って寝てから起きるまでの間じゃないの?」
星梨花ちゃんがぽかんと口を開けて固まった。
「そうなんですか、可奈さん?」
「あ、あはは…。えっと、それで何か見つかりました?」
「ぜんぜん!でもいい運動になるよ~♪」
元気な人だなぁ…。
あのDVDの影響が欠片も見られないのはこの人だけだった。逆に何が映っていたのか気になる。
「私以外にも、昴ちゃんは毎日廊下でランニングしてるし、美奈子ちゃんは朝早くから厨房の前で待機してるんだよ~。
早起きは十文の得って言うし、皆も早起きしよう!」
「そんなにお得なんですか!?なんだかすごいかもかも~♪」
「あの、どうして早起きをするだけで得をするんですか?」
「それはね~、まず朝日に向かっておはよーっ!って挨拶して一日の~…――」
他愛ない会話をしているうちに、続々と食堂に人が集まってきた。
「皆、おはよう。もう全員揃ったかな?」
「春日さんと周防さんがまだ来ていません」
えっ、と今更のように部屋を見渡す。
瑞希さんの言うように、未来ちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。
「あ、私、ここに来る前に桃子ちゃんのお部屋に行ったんですけど、ちゃんと起きてました」
「本当、星梨花ちゃん?」
「桃子ちゃん今日は早起きだったんだよ~。アナウンスが流れる前に廊下で見かけたから」
「アナウンスが流れる前…って、麗花さんは何してたんですか…?」
「散歩だよ。早朝のランニング中によく見かけるからな」
「昴さん、そもそも夜時間には出歩かないって決めたばっかりじゃ…」
「え?夜時間って寝てから起きるまでの間じゃねーの?」
「あ、やっぱり昴ちゃんもそう思う~?」
「いや、ちゃんとアイドル手帳の規則一覧に書いてあるじゃないですか…」
「……」
「紗代子ちゃん落ち着いて、2人とも悪気はないと思うの!」
なんだか話がズレている気がしたので、慌てて横から口を挟む。
「ええと、桃子ちゃんは起きてたんだよね?じゃあ後は未来ちゃんかな」
「まだスリーピングなのでは?」
「それはないと思うけど…変ね、いつも私を起こしに来るくらいなのに」
静香ちゃんの言葉を最後に場が静まった。
なんだろう、この嫌な感じ…。
「私、未来さんの部屋まで行って様子を見てきます!」
耐えられなくなったのか、星梨花ちゃんが走って食堂を跳び出していった。
「待って星梨花ちゃん!私も行くよ!」
「ちょっと2人とも、勝手に行動しては駄目!」
紗代子さんの制止を振り切って星梨花ちゃんの後を追う。
どうして食堂に表れないのか。来られない事情があるのか。
寝坊しただけならいい。でも、もしそうじゃないとしたら、他に考えられる理由は…。
(…ううん、そんなはずない。そんな事、あるわけない…!)
とにかく走る。この時ほど廊下が長く感じたことはなかった。
「あれ、可奈さん?」
未来ちゃんの部屋に向かう途中でばったり桃子ちゃんと出くわした。
「桃子ちゃん!よかった、無事だったんだね!」
「無事…ってどういう事?それになんだか急いでるみたいだけど」
怪訝そうに尋ねる。どうやら私より先に行った星梨花ちゃんとは会わなかったようだ。
「それが、食堂に未来ちゃんと桃子ちゃんが来てなくて、星梨花ちゃんが未来ちゃんを探しに行って…。
でも桃子ちゃんは無事で、未来ちゃんを探しに行った星梨花ちゃんを探しに行かなくちゃなの!」
「何言ってるのか全然わからないんだけど…」
頑張ってまとめたのに伝わらなかった。
こうして説明している時間も惜しい。私は桃子ちゃんの手を掴んだ。
「と、とにかく桃子ちゃんも一緒に来て!」
「…わかった、そうやって桃子を騙して皆のところに連れて行くつもりでしょ?その手には乗らないよ」
「違うよ、そういう事じゃなくて…!」
もう一度最初から説明しよう、そう考えて口を開いた瞬間――
「「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
廊下に叫び声が響いた。
「今の声って…」
「星梨花!?」
桃子ちゃんは私の手を振り払って走り出した。慌ててその背中を追う。
ほどなくして桃子ちゃんは立ち止まった。疑問に思う暇もなく、正面に注目するよう指で指し示す。
「…あれ、未来さんの部屋だよね?ドアが開いてる…」
開けっ放しになったドアが目に入った。さっきの悲鳴が聞こえてきたのもあそこからだ。
「星梨花ちゃんは中にいるのかな…?私が先に行くから、桃子ちゃんはここで待ってて」
「う、うん。気をつけてね」
おそるおそる部屋に足を踏み入れる。
室内は特に何の異常も見られなかった。争ったような形跡もない。
(星梨花ちゃんと未来ちゃんは…)
部屋のどこにも2人はいない。
ベッドの下を覗こうとして、ふと気が付いた。
シャワールームに繋がる扉がほんの少し開いている。
まるで誰かが通った後、自然に閉まろうとして途中で止まったように。
(2人はここにいるのかな…?)
緊張しながら、ゆっくり扉に手をかける。
特に抵抗もなく扉は開いた。
扉が完全に開き切る前に、誰かが倒れているのが見えた。
「…ッ!?星梨花ちゃん!?」
ちょうどシャワールームのカーテン前で星梨花が横たわっていた。
「気絶してる…いったい何が……あっ……た……」
そして、見た。
見えた。気休め程度に張られた、近づいてしまえばたいして効果のないカーテンの奥が。
シャワールームの、中が。
「………………………………………
……………………みらい、ちゃん?」
何かが、そこにいた。
シャワールームの奥に、ナニカが倒れていた。
壁にもたれ掛かったまま動かないソレは、うなだれた姿勢のままピクリともしない。
床には赤い紅い色がどこまでも広がっている。
目を凝らすまでもない。
死体だった。
血だまりの中に沈む、春日未来の死体だった。
「――ああああああああああああああああああああああッッッ!?!?」
気付いたら叫んでいた。勝手に喉から声が溢れていた。
目の前の現実を否定するように、全て塗り潰すように、とめどなく声は溢れていった。
「可奈さん!?どうしたのッ!?」
私の悲鳴を聞いて桃子ちゃんが驚いた様子で駆けつけてきた。
背後で、桃子ちゃんがシャワールームの光景を見て凍り付くのが振り向かなくても感じ取れた。
「……うそ、でしょ…」
桃子ちゃんの呆然とした声を聞きながらも、私はただ叫び続けた。それが涙の代わりであるかのように。
人生で初めて見る見知った人の変わり果てた姿を前にして、私はただ、叫ぶ事しかできなかった。
次第に意識が遠くなっていく。世界が暗闇に包まれる前に、小さく思う。
これは悪い夢だ。次に目を覚ますときには、きっといつもの日常が待ってるんだ…と。
そう思うことでしか、私は自分の正気を保つことができなかった。
そして、これが本当の始まりだったんだ。
私達の劇場生活の…本当の始まり。
『ピンポンパンポーン…!』
『死体が発見されました!』
『一定の自由時間の後、【劇場裁判】を開きます!』
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