ミリオンロンパ (非)日常編1-3
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。一部キャラが死亡するので苦手な方はご注意。
北上麗花【超アイドル級の美声】
万人を魅了する美声を持つ女性。本人曰く母親譲りらしい。
清楚な見た目とは裏腹に登山やドライブなどアクティブな趣味を持つ。
独特な思考の持ち主で、その言動から周囲を困惑させることもしばしば。
悪気があるわけではなく、そんな天真爛漫な彼女に癒される人も多いとか。
伴田ロコ【超アイドル級の芸術家】
独自の感性を武器とする新進気鋭の芸術家。「アーティスト」と呼ばないと怒る。
特徴的なセンスに魅了された投資家も多く、界隈ではいろんな意味で有名らしい。
カタカナ語を多用するが、横文字が得意なわけではなく常に辞書を携帯している。
劇場生活3日目。
今日は杏奈ちゃん、志保ちゃんと一緒にふたつある教室のうちのひとつを調査することになった。
ここは私が最初にいた教室とは違うほうだったけど、机の数も、監視カメラやモニターの配置も、窓が鉄板で塞がれてるのもすべて同じだった。
それでもどこかに新しい手がかりはないか、脱出するためのヒントがないか探していたのだけど…。
「ふあぁ……ねむ……」
「杏奈ちゃん、こんなところで寝ちゃダメだよ!?まだ調査始めたばかりなのに…」
「夜更かしして…ゲームやってたから……眠い…。ぐぅ……」
「おーきーてー!杏奈ちゃんってばー!」
背中を軽く叩いても反応がない。
無言でロッカーの中を漁っていた志保ちゃんから一言。
「耳元で歌ってあげれば、起きるかもね」
「本当!?よーし……。
おっきろ~杏奈~朝ですよ~♪ここは教室、今は調査中~♪出口を探して右に左に~……」
杏奈ちゃんがピクッと反応した。
起きた!?と期待していると、そのままゆっくりと崩れ落ちてしまった。
「ばたんきゅ~…」
「はれっ!?な、なんで?どうして~!?」
「衝撃が大きすぎたみたいね。しばらく起きないでしょうし、放っておきましょう」
事もなげに言う。まるで最初からこうなることが予想できていたかのような反応だった。
微妙に納得いかない思いを抱えつつも、すうすう寝息を立てはじめた杏奈ちゃんを近くの席に座らせ、作業に戻る。
「……」
「……」
無言。
(き、気まずい…)
ここに閉じ込められて(体感で)3日が経つけど、未だに志保ちゃんと面と向かって会話したことはなかった。朝、食堂で挨拶しても基本的に無視、よくて視線を軽く向けられておしまい。いくら話しかけても適当な相槌が返ってくるか無視されるかため息をつかれて離れて行ってしまうことがほとんど。向こうから話しかけてくれたのは、私が食事中に歌って注意されたときの一回だけだ。
嫌われてはいない……と、思いたい。
志保ちゃんは机を一つひとつひっくり返して中身を確認している。
(スタイルいいなー…)
どんな人なんだろう。どうしてアイドルを目指しているんだろう。いつも難しい顔をしているけど、笑ったらきっと素敵だと思う。そういえば絵本とぬいぐるみが好きって言ってたっけ。ちょっと意外だったけど、絵本とぬいぐるみに囲まれている彼女は不思議とすんなり想像できた。
お話ししてみたい。話しかけたら返事してくれるかな。でも調査中だし、迷惑だって思われないかな…。
「さっきから何」
えっ。
「視線が鬱陶しいんだけど。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「じ、じゃあ…えっと……わ、私とお話ししてください!」
「もうしてるじゃない」
「…あ。そ、そうだよね!あはは…」
いけない。志保ちゃんから話しかけられて舞い上がってしまっている。
せっかくだからちゃんとお話ししなきゃ…。
「あ、あの…志保ちゃんってどういう歌が好き?私は明るい系の歌が…」
「…何か気付いたことがあるのかと思ったら、そんなこと?言っておくけど、あなた達と馴れ合うつもりはないから。今は脱出の為に一緒に行動しているだけ。
くだらない質問をする暇があったら調査に集中してくれる?迷惑なんだけど」
「……ごめんなさい」
また怒られてしまった。
今は調査中で、みんなここから脱出するのに必死なんだ。それなのに関係ないことを聞いて志保ちゃんを怒らせてしまった。
私って駄目だなぁ…。
「はぁ…」
「……」
「はあぁ……」
「うるさい」
「うぅ…」
「……ハァ。
明るい歌もいいけど、静かな歌の方が好き。気分が落ち着くし」
「……!」
「何よ。ちゃんと答えたでしょう?」
「も、もっといろいろ聞いていいかなっ!?」
「調子に乗りすぎ」
「えへっ」
だって嬉しかったから。
これでわかった。志保ちゃんはやっぱり優しい人だ。
「ついでだから言っておくけど」
「うん?」
「夜中に廊下で歌うのはやめたほうがいい。何かあったときに疑われても知らないよ」
ちょっと驚いた。夕食を取って解散してから、こっそり自室の前で気晴らしに歌をうたっていたことに志保ちゃんが気付いていたなんて。
「心配してくれてるの?」
「別に。というか、自室で歌えばいいじゃない。なんで廊下で」
「廊下のほうが開放感があって歌いやすいんだ。部屋にこもってるといろいろ考えちゃうし…」
「そう。…とにかく、疑われたくないなら目立つ行動は控えたほうがいい」
「はーい♪」
ようやく志保ちゃんとまともな会話ができた。そのことに喜びつつ作業に戻ろうとしたとき、どこか遠くから聞き覚えのある音が聞こえてきた。
この音は――
「ピアノ…?」
「確かピアノは体育館にあったわね。誰かが調査をサボって弾いてるんじゃない」
(誰が弾いてるんだろう…もっと近くで聴いてみたいな…)
「…行ってきていいよ」
「え?で、でも…」
「こっちのことは気にしなくていい。そんなに広い教室じゃないし。望月さんは私が見ておくから」
「わかった、それじゃ行ってくるね。……ありがとう、志保ちゃん!」
志保ちゃんにお礼を言って、教室を出て体育館に向かう。
いったい誰がピアノを弾いているのか。そればかりが気になって、出口を探すことは完全に頭の中から抜け落ちてしまっていた。
矢吹可奈が飛び出して行ってひとり…いや、ふたりになった教室内。
(…ふぅ。やっと静かになった)
ひっくり返した机を元に戻しながら、静寂の訪れた室内でひとり思案する。
おそらく――いや確実に――私達の行為は無意味だ。少なくとも一階に出口がないことは初日のうちにこっそり確認しているし、素人が探した程度で見つかるようなところに出口が隠されている可能性も皆無だろう。仮に出口があったとしても、そんなものはとっくに埋められるなりして使用不可能にされているはずだ。鉄板で塞がれた窓と同じように。
(出口があるとすれば、恐らく上層。でも上層に続く階段への道はシャッターで塞がれている…)
調べたところ、あのシャッターは鍵かなにかで開けられる造りになっていなかった。つまり電動なのだ。動かすためのリモコンは考えるまでもなく犯人が持っている。要するに、私達を生かすも殺すも犯人次第ということだ。
完全に遊ばれている。そして、その遊びの内容も醜悪だ。しかし犯人がもっとも関心を持ち、私達に積極的に関わってくるとすれば。
(それはあの特別ルール以外にない…か。事態を動かすには一番手っ取り早い)
ルール説明から数日。既に何人か疑心暗鬼に陥っているものの、高山紗代子と馬場このみによってある程度メンバーの理性は保たれている。ここから脱出するために殺人を犯す、そのことにためらいを覚えなくなるほど追い詰められている者はいない。
今は、まだ。
(黒幕は、さぞ退屈しているでしょうね)
わざわざまだるっこしい手順を踏んで舞台とルールを整えたのだ。誰もがお互いを疑いつつも、何も起こらない現状に満足しているはずがない。
(だったら、そろそろ仕掛けてくるはず)
私達に過ちを犯させるための、”きっかけ”となる何かを――
体育館の扉を開くと、誰がピアノを弾いていたのかすぐにわかった。
「~~~♪」
鍵盤を叩く指の動きに合わせて綺麗な黒髪が揺れる。普段の物静かな印象とは対照的に、今の彼女はあらゆる感情を指に乗せ、ピアノを介して詠っているようだった。
(やっぱりピアノ弾いてたのって静香ちゃんだったんだ。綺麗な音…)
聞き惚れていると、ややあって演奏が終わった。そばに立っていた未来ちゃんが拍手を送る。
「はぁ~…。すっごく、すーっごく良かったよ!静香ちゃんかっこよくてきれいで、かわいくて素敵だった!」
「何よそれ」
静香ちゃんが苦笑する。
「でもでも、本当にすごかったよ?まるで別人みたいだった」
「普通に弾いてただけよ。いつもと変わらないわ」
「いつもの静香ちゃんも綺麗だけど、演奏中の静香ちゃんはオーラが出てたって感じ!」
「か、可奈!?いつの間に…」
「えへ!遠くからピアノの音が聴こえてきたから気になって聴きに来ちゃった。最高だったよ~!」
「そ、そう。ありがとう…」
「あっ、静香ちゃん照れてる~!カワイイ♪」
「茶化さないで。あんまり調子に乗ってるともう弾いてあげないからね」
「えぇ~!?ごめんなさい、もうしないから許して~!」
静香ちゃんに縋り付いて謝罪し始める未来ちゃん。よほど静香ちゃんの演奏が気に入ったみたい。
「そういえば、どうして静香ちゃんはピアノを弾いてたの?」
「未来に頼まれたの。調査中だから断ったんだけど、どうしてもってうるさいから」
「だって、『超アイドル級のピアニスト』が隣にいて、おまけにピアノも置いてあるんだよ!?これはもう演奏を聴かせてもらわずにはいられないよ!」
手をぶんぶん振って主張する。間近で演奏を聴いた感動がまだ抜けきっていないのだろう。
壇上の隅に鎮座しているピアノに目を向ける。昨日調査したときにも調べたものだ。静香ちゃん曰くブランド品で滅多に流通していないものらしいけど、学校のピアノくらいしか触ったことのない私には高そうなピアノという感想しか浮かばなかった。
「…実を言うとね、そんなにピアノ好きじゃないんだ」
「そうなの?」
「嫌いでもないんだけどね。小さい頃からピアノ教室に通ってて、たまたま才能があったから続けて…。
だからかな。どうしても”親からやらされている事”ってイメージが抜けないのよね…」
静香ちゃんは自嘲するように笑った。
「そんなだから、『超アイドル級のピアニスト』なんて呼ばれると困っちゃうの。
ピアノは嫌いじゃないけど、私が本当に心から望んで続けてきた事じゃないから…」
「じゃあ、静香ちゃんが本当にやりたい事って…」
「アイドル――なのかな。とりあえず事務所に入ってみたけど、未だによくわからない。
でも、これは自分で選んだ事。誰に決められるのでもなく、自分でやろうと決めた事。
ここからなら、今まで見えなかった世界が見える。そんな気がするの」
「そっか…」
ふ、と静香ちゃんの表情に影が差した。
「……あの人も、きっと認めてくれる。私がアイドルになれば、きっと…」
「えっ?今なんて…」
「なろうよ、アイドルっ!私、静香ちゃんならみんなを幸せにするような、可愛くて素敵なアイドルになれると思う!」
「そうかな…?」
「絶対だよ、ぜーったい!私も応援するから頑張ろっ!!」
静香ちゃんが顔を上げる。
そこにはいつも通りの彼女がいた。一瞬見せた影が嘘だったかのように。
「ふふっ。人の応援ばかりだけど、未来もアイドルになりたいんじゃないの?」
「そ、そうでした…。じゃあ、私も静香ちゃんも可奈ちゃんも、みんなで頑張ってアイドルになろう!」
「うんっ!」
「言われなくてもそのつもりよ」
「そうと決まれば、早いところ出口を見つけて脱出しよう!調査も元気出していこーっ!」
「「「ファイト、おーっ!!」」」
円陣を組んで掛け声をあげる。たった3人の円陣だったけど、それは私に何よりの力をくれた。
私達全員がステージに立って会場いっぱいの歓声とスポットライトを浴びる…。
未来ちゃんの言葉は、そんな夢のような”未来”を私に見させてくれた。
そうだ、私達は仲間だ。みんなで協力して、全員で脱出する。
みんなで頑張ればどんなことだってできる。どんな困難だって超えてみせる…!
食堂に戻った後も、未来ちゃんの振りまく元気につられるようにみんな明るい雰囲気を取り戻したように感じた。
昨日よりずっと口数も多くなり、おいしい食事を囲みながら賑やかな時間が過ぎる。
ただひとり、志保ちゃんだけは私達の空気と相反するようにずっと難しい顔をしていた。
気になって聞いてみたけれど、結局何も言わないまま自室に戻ってしまった。
ただ、このときの志保ちゃんの反応はいつもと違った。いつもは完全に無視するのに、今日は何かを言うべきかどうか、迷っている雰囲気を感じた。
(いったいどうしたんだろう)
また明日聞いてみよう。そう気楽に考えて、自室でシャワーを浴びてからベッドに入った。
彼女だけが、これから何が起こるか危惧していた。
私達は明るい話に食いつくばかりで、"最低"を考えることを極力避けていた。
私達はもろかったんだ。
身構えていれば少しは変わったのかもしれない。
彼女が全員に考えを伝えていても、誰も耳を貸さなかったかもしれない。
わからない。何も変わらなかったかもしれない。
ただひとつわかるのは、
”全員”がステージでスポットライトを浴びる夢は永遠に叶わないということだけだった。
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