ミリオンロンパ 非日常編1-5
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
「ただいま~!」
「おっ、戻ってきたな」
走ってトラッシュルームの前まで戻ってきた私を昴ちゃんと麗花さんが出迎える。
「可奈ちゃんおかえり~」
「ケッコー時間かかったみたいだけど…何かあったのか?」
「う、ううん。何もないよ」
犯行現場を調べて調子が悪くなったので寝込んでました…とはちょっと言いづらいので黙っておく。
体調は戻ったし、2人に余計な心配をかけさせたくない。
「ふーん…?ならいいけど」
「あとトラッシュルームの鍵だけど、どこを探しても見つからなかったんだ…ごめんね」
「あ、鍵なら大丈夫だよ~。今私が持ってるから」
ほら♪と麗花さんが差し出したのはたしかに鍵だった。
…………って。
「え、えええっ!?やっぱり麗花さんが持ってたんですか!?」
「あーいや、そうじゃないんだ。可奈が鍵を探しに行ってちょっと経ってから、急にアカネが鍵を渡していったんだよ」
「アカネが…?」
「たぶん見つからないだろうからスペアを渡しとく、ってさ。だったら最初から鍵なんかかけるなっての…」
「でも、それだと誰でも簡単に証拠隠滅ができちゃうから、アカネちゃん的には面白くないんじゃない?」
「あー、なるほど。…麗花って時々鋭いよな」
えへへ~と頭をかく麗花さんを見ながら、私はふいに思い出していた。
志保ちゃんの言った、掃除当番だった未来ちゃんが鍵を持っていない理由。アカネの言った『たぶん見つからない』という意味。
(…そっか、じゃあ今鍵を持っているのは…)
「ま、いいや。鍵も手に入った事だし、さっさと中調べようぜ」
思考を中断して声のほうを向くと、昴ちゃんが麗花さんから受け取った鍵を鉄格子の鍵穴に入れているところだった。
カチリ、と鍵の嵌まる音がした。と同時に鉄格子が軋んだ音を立てて昇っていく。これも電動式になっているようだ。
昴ちゃんに続いて私、麗花さんの順番で部屋に入る。照明のスイッチを探すまでもなく自動で明かりが点いた。
「わー、結構広いんだね~」
麗花さんの言う通り、中は思った以上にスペースがあった。
奥に鎮座している大きな機械は……
「これが焼却炉だな。スイッチを押して中に物を入れると自動で燃やしてくれるってさ」
しばし無言で室内を調べてみる。広いとは言っても入り口から全体が見渡せるくらいの大きさでしかない。何も――それこそゴミのひとつも落ちていないことが確認できるまで時間はかからなかった。
「…なんか、綺麗だね。ここは事件とは無関係なのかな…」
「いや、そうとも限らないんじゃないか」
顎に手を当てて神妙な顔をしている昴ちゃんのほうへ向き直る。
「どういうこと?」
「もしもの話だけど、犯人が自由にトラッシュルームを行き来できたんだとしたら、痕跡を残さずに綺麗さっぱり証拠隠滅してたって不思議じゃないよな?
未来が死んだ…いや、殺されたのは0時半くらい。そっから朝まで何時間もある。オレ達の寝てる部屋は防音性で、鉄格子の軋む音も、焼却炉の動く音も部屋から出ない限り聞こえない。犯人がせっせと証拠をここまで持ち込んで、床を綺麗に雑巾がけした後かも分からないよな?」
「そう…だね。特に夜時間なら誰かがこっそり部屋を出入りしたり、トラッシュルームに人が居ても気付かないかも…」
「誰が何時に起きるか分かんねーし、動き回ってるのを見られたらヤバいからそんなに大胆なコトはしてないと思うけど、さすがに全部燃やされちまったらお手上げだぜ…」
思わずため息をつく。と、何事か調べていた麗花さんが私達を呼んだ。
「ねえねえ2人とも、これ見て!」
「何か見つけたんですか?」
「ほら、ここ!焼却炉の中!」
言われるまま昴ちゃんと2人で覗き込む。明かりがあるとはいえ、焼却炉の中までは届かず奥が見えにくい。
目を凝らす私の横で昴ちゃんははっとしたように動きを止め、次いで手を伸ばして真っ黒になった塊を取り出した。
「それは…?」
「分かんねえ。とりあえず引っ張り出してみたけど…麗花が見つけたのってコレの事だよな?」
「うん。それ、お鍋だよ」
麗花さんはあっけらかんと言った。
「美奈子ちゃんが料理してるときに見たのと同じ形と大きさだもん。間違いないよ」
「…言われてみると、そんな気もする。でも何でこんなモノが焼却炉に入ってるんだ?」
「”ここ”にそれが”ある”っていうことは、答えはひとつしかないんじゃないかな?」
答えはひとつしかない…。
そうだ、たしかに”それ”以外に理由はない。だったらほかに確認しないといけないことがある。
「ここって誰にも使われたことはない…ううん、使われてないことになってるんだよね?」
「たぶんな。少なくともオレは今日初めて来た。そもそも掃除当番の存在すら知らなかったし」
「私も。たぶん鍵を持っていた未来ちゃんの他には誰もトラッシュルームに入ったことないんじゃないかな」
そして、未来ちゃんが焼却炉を利用する理由はない。
考え込む私の横で昴ちゃんは焼却炉の中をまさぐっている。
「んー…ほかは鉄くずみたいな物ばっかりだな。ほとんど灰と一体化してて区別が付かないし……うへぇ、手が真っ黒だ」
「証拠はもう残ってないみたいだね」
「にしても、何で鍋だけ残ってたんだろうな?」
「火力が足りなかったんじゃないかな~。それに時間が経ったら自動的に焼却炉の火は消えちゃうみたいだし」
ふーんと相槌を打っている昴ちゃんの横で調べた内容を手帳にまとめる。
掃除当番以外誰も入れないトラッシュルーム。ゴミ一つ落ちていない室内と、焼却炉に残っていた黒焦げの鍋。
これは、ひょっとしたら重要な証拠になるかもしれない…。
【『トラッシュルームの焼却炉』を手帳に記録しました】
「…よし、鉄格子降ろすぞー」
全員が外に出たのを確認してから鍵を反対側に回す。先ほどと同じようにキイキイと音を立てて鉄格子が降りてきた。
鉄格子が下まで降りたことを確認し、昴ちゃんは気だるげに首を回す。
「なんか期待ハズレだったなぁ。なんつーかこう…お前が犯人だーってビシッと言えるような証拠が見つかると思ったのに」
「あはは…残念だったね」
「う~ん、頑張って調査したからお腹空いちゃった~。私、食堂で休憩してくるね♪」
「お、いいな。じゃあオレも…」
「ま、待って昴ちゃん」
麗花さんに続こうとする昴ちゃんを引き留める。
どうしても今聞いておきたいことがあった。
「ん?なんだよ?」
「あのさ、ここから鉄格子越しに焼却炉を起動させることって出来るかな…?」
「は?」
先ほど調べたトラッシュルームの暗闇――それを視界から妨げる鉄格子を見て、昴ちゃんは私の意図を察したのか訝し気な顔で問い返す。
「…まさか、こっから何かを投げてスイッチに当てる…なんて考えてないよな?」
「可能性は無くもないんじゃないかなーって…」
「アホか!無理無理、絶対無理!届くワケないって!!」
「『超アイドル級の野球選手』の昴ちゃんなら、って思ったんだけど…」
「無理なものは無理!!」
いいか、と前置きし、
「まず鉄格子の隙間が小さすぎる。ほら、握り拳だって通らない。スイッチを押すってことはそれなりの大きさと重さが必要だけど、そんなモンまず通らねーよ。だいたい女の肩じゃあそこまで飛ばない、男子だったら届くかもしれないけど外したら終わりだ。それに投げたものは回収できないから結局証拠が残っちまう。さっき部屋の中が綺麗だったのはオレ達3人で確認しただろ?
だから、焼却炉を起動させるには鍵持ってないと無理なの!分かったか!!」
「う、うん。ありがとう。ごめんね、別に昴ちゃんを疑ってるとかじゃなくて…ただどうしても気になっちゃったから」
まあ、たしかに自分でもありえないかなとは思った。
ということはやっぱり鍵がないとトラッシュルームで証拠隠滅するのは不可能ってことかな…。
【『昴の証言』を手帳に記録しました】
「…ま、いいけどさ。オレはもう行くぜ。可奈もあんまり無理するなよ?」
「うん、ありがとう。またね」
手を振って昴ちゃんと別れる。
一通り気になるところは調べ終えた。最後にこのみさんと瑞希さんの様子を見に行こう。
体育館に行くと、ちょうどこのみさんが寝ている体勢から体を起こしたところだった。
「このみさん、気が付いたんですね!」
「今さっきね。…ごめんなさい、最年長の私がしっかりしなきゃいけないのに…」
「仕方ないですよ。危うく串刺しにされるところだったんですから…」
「…そうね。それも踏まえて改めて言うわ。アイツには逆らっちゃダメ。危険すぎるもの」
このみさんはため息をつく。
「ただ、従いっぱなしだと向こうの思う壺よね。何か反撃する手立てがあればいいんだけど」
「今は目の前の問題を解決する事に集中しましょう。このままだと私達は全滅ですから…」
「そうね。…可奈ちゃん、なんだか大人っぽくなった?」
「え?」
「覚悟が決まったのね、とても真っ直ぐな目をしてる。素敵よ」
「そ、そうですか?えへへ…」
このみさんにそう言われると嬉しい…けど残念ながら私はまだブレブレだ。
覚悟なんて、きっとできない。誰かが殺されて、犯人を皆で暴いて殺す覚悟なんて…。
「そうだ、瑞希ちゃんに助けてもらったお礼をまだ言ってなかったわね。
瑞希ちゃーん、今大丈夫ー?」
瑞希さんは私達が出ていった時とまったく同じ位置で俯いていた。
このみさんが声をかけても反応はない。
「瑞希さん、まだ落ち込んでるのかな…」
「無理もないわね…ずっと一緒だった家族を殺されたようなものでしょうから」
慰めと励ましの言葉を考えていると、瑞希さんがぼそっとつぶやいた。
「…よし、修復完了」
立ち上がり、私達の姿を認めると足早に近づいてくる。
その手には小さな人形が収まっていた。
「ご心配をおかけしました。リトルミズキ、ここに復活です」
「わっ、すごーい!綺麗に穴が治ってる!」
[フフン、リトルミズキは不死身なの!あんな程度の傷へっちゃらなんだから!]
瑞希さんはどこか誇らしげにリトルミズキちゃんを見せる。
無残に串刺しにされた跡、無数に空いていた穴は綺麗に塞がっていた。私達が捜査している間ずっと手当てをしていたんだろう。
「あなたが助けてくれなかったら、私は今頃串刺しだったわ。ありがとうね、リトルミズキちゃん」
[い、いいわよお礼なんて。大した事なんてしてないし…]
「それに、瑞希ちゃんも。本当にありがとう。あなた達は命の恩人よ」
「いえ、その…本当に気にしないでください。馬場さんは、今の私達には必要な人ですから」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ。あと、あの時みたいに名前で呼んでくれてもいいのよ?」
「あ…あれはとっさに呼んでしまっただけで、特に深い意味は…」
瑞希さんとリトルミズキちゃんがシンクロした動きであたふたしている。結構照れ屋さんらしい。
生暖かく見守る私に気付き、助け舟を見つけたばかりに瑞希さんは人差し指を立てた。
「そう、調査をしましょう。矢吹さんもその為に来たはずでは?」
「うーんと、私は2人の様子を見に来ただけなんだけど…」
[いいから調査するの!どこにどんな証拠が残ってるかわからないでしょっ!?]
「リトルミズキちゃんの言う通りね。じゃ、パパッと終わらせちゃいましょうか!」
このみさんの号令のもと、体育館の調査を始める私達。
ここと未来ちゃんの部屋は離れている。とても事件と関係があるとは思えないけど…。
でも志保ちゃんも後悔しないようにって言ってたし、やれる事は全部やらないと…だよね。
「…む、これは」
「何か見つかったの!?」
「ピアノがあります」
「それ、前から置いてあるよ…」
膝から崩れ落ちそうになったのをなんとか堪える。瑞希さんも何度かここに来たはずなのに覚えてなかったのか…。
このみさんが壇上横に設置されたピアノに指を這わせた。
「なかなか立派なピアノよね~。結構な値段しそうだもの」
「残念ですね。不良品のようなのでたいした値打ちは付かないかと。……見かけ倒し」
「…ちょっと待って。不良品?」
[音が鳴らないピアノなんて不良品以外の何物でもないでしょ?]
声が出なかった。
音が鳴らない?そんなはずが…。
「あらほんと…壊れちゃってるわね。中の弦が切れちゃってるんだわ。せっかく高そうなのに」
「私、そのピアノで静香ちゃんが演奏してるのを聴きました。たしかここに来て3日目くらいに」
「えっ…じゃあ誰かが壊したってこと?何のために?」
「そこまでは、ちょっと…」
「ミステリーですね。…流石に、今回はドキドキしてる場合じゃないかな」
自然に壊れたのじゃないなら誰かが壊したってことになるけど…。
いったい誰が、何のために…?
【『壊れたピアノ』を手帳に記録しました】
結局、ピアノが壊れている以外に新しい発見はなかった。
このみさんは残念そうだったが私は特に落胆もしなかった。正直、慣れない調査で疲れたので休みたい気持ちもある。
ほとんどの人は食堂に集まっているだろう。私達も向かおうと、体育館を出ようとした瞬間――
『キーン、コーン… カーン、コーン』
「――ッ!!」
「このチャイムは…!!」
「…時間切れ、ですか」
終わりを告げる鐘が鳴る。
運命の時が迫っていた。
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