ミリオンロンパ 非日常編1-6
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
『キーン、コーン… カーン、コーン』
『えー、アカネちゃん待ち疲れたんで…そろそろ始めちゃいますか?』
『お待ちかねの…』
『劇場裁判をっ!!』
『ではでは、集合場所を指定します!
劇場エリア1階にある、赤い扉にお入りください。
あ、そうそう。私服じゃダメだよ。自分の部屋にステージ衣装があるから、それをちゃんと着て来ること!
うぷぷ、じゃあ後でね~!!』
「劇場エリアの…赤い扉…」
アカネが指定した場所。何度か見たことはある。その扉が開かないことも確認済み。
閉ざされた扉の奥にいったい何があるのか。
調査の時間は終わった。行きたくなくても行くしかない。
このみさんと瑞希さんに一声かけて急ぎ自室に戻る。アカネの言っていた衣装はいつの間にかハンガーで吊るされていた。私達が調査で出払っている間に用意したんだろう。
状況に不釣り合いなほど派手な衣装だった。ここに来た本来の目的を考えれば最適なのかもしれないけど、よりによってこのタイミングで…。
吐き気を堪えて衣装に袖を通し、なるべく何も考えないようにしながら目的地に急ぐ。赤い色が目に入るまでそう時間はかからなかった。
扉の前で深呼吸。目を閉じてリラックス。姿勢を整え、後は動くだけ。
…よし、行こう。
扉を開けると私以外の全員が揃っているのが目に入った。全員指定された衣装を着ている。
衣装はどれも同じだと思っていたけど、人ごとに装飾が変わっていたりと微妙に違いがあるらしい。妙なところで凝っているのがまた不気味だった。
「遅刻よ、可奈ちゃん。みんな待ってたんだから」
「すみません紗代子さん、ちょっとバタバタしちゃって…」
「そう…。まあ、仕方ないかもね。だって……」
わざとらしく言葉を切る。言われなくてもその意味は十分すぎるほど伝わった。
みんなが遠巻きにこちらを見ている。視線が痛い。
やっぱり犯人だと疑われてるのかな…。
だけど、私が犯人じゃないってことは…私自身と、未来ちゃんがよく知ってる。
(…だったら、真犯人は誰なの?未来ちゃんを殺した真犯人は…)
本当に、この15人の中にいるの…?
『うぷぷ…みんな揃いましたね?それでは…
正面に見えるエレベーターにお乗りください。そいつがオマエラを裁判場まで連れてってくれるよ。
オマエラの…運命を決める裁判場にね……。
うぷぷ…アカネちゃんは一足先に行って、待ってるからね~!!』
(このエレベーターに…乗ればいいんだよね…?)
「裁判場…ね。そんなものまでご丁寧に用意してくれちゃって…」
「みんな、順番にね。全員が入るスペースはちゃんとあるから。押さないで」
「このエレベーター、地下に続いてるのか?どこかに出口とかないかな」
「仮に見つかったとして、素直に逃がしてくれるとも思えませんけどね…」
「き、緊張するね…深呼吸しなきゃ。すー、はー。すー。はー…」
「…おお、揺れてる」
[揺れてるわね]
「ちょっと、後がつかえてるんだから早く行ってよ」
「も、桃子ちゃん。さっき押さないでって紗代子さんが…」
「…マーベラス。このエレベーター、どういうストラクチャーになっているんでしょう…?」
「………」
「杏奈ちゃん眠そうだね~。…ふあぁ、私もちょっと…」
「長丁場になりそうだからちゃんと栄養付けなきゃダメだよ。いろいろ作ってきたから召し上がれ!」
「あの、うどんがないんですが…」
……なんだろう、緊張感がない。
もっと重苦しい雰囲気を想像してたんだけど…。
「期待外れ?」
志保ちゃんだ。
「そういうわけじゃないけど…なんか、みんな元気だなって」
「そう見える?」
「えっ?」
「私には、無理やり明るく振る舞っているようにしか見えないけど」
そうなんだろうか。たしかに普段より口数が多い気もする。
内に篭ってだんまりでいるよりはいいのかもしれない。でもそれは危うい橋を渡るような、緊張の線が切れてしまったら取り返しのつかないことになる気もした。
「それだけ緊張するのも仕方ないと思うけどね」
「志保ちゃんは怖くないの…?」
「さあ」
「さあ、って…」
「今から腹の探り合いをする相手に本音を見せるわけないじゃない」
平時と変わらない無表情で言い放つ。
調査の時は協力してくれたのに今更な気もするけど…。
「何よ」
「ううん。ただ私は…腹の探り合いとかじゃなくて、みんなで協力できるって信じてる」
「……」
志保ちゃんは無言のままエレベーターに向かっていった。
最後の私が乗り込んだところで扉は閉じ、エレベーターは動き始めた。
ゴウン、ゴウンと音を響かせながらエレベーターは地下へと下っていく。
しばらく続いていた話し声も途切れ、重苦しい空気のままエレベーターはさらに下へ…。
そして、扉が開いた。
「にょほほ!やっと来たね!」
エレベーターの開いた先…その光景を見た私は思わず顔を引きつらせた。
およそ地下とは思えないくらい煌びやかな舞台。真紅の幕が下がる中心に、周りの絢爛さとは不似合いな証言台が円状に並んでいる。
「どう、このアカネちゃんチョイス!いかにも裁判場って感じじゃない?
うぷぷ、オマエラの衣装もいい感じですな。やっぱりアイドルはステージでこそ輝くモノだからね~!」
「最悪…悪趣味にも程があるわ…」
紗代子さんですらうんざりした表情を隠しもしない。
アカネは無視して話を続ける。
「はいはい、じゃあオマエラは自分の名前が書かれた席に着いてくださいな。
ハリーアップ、ハリーアップ!!」
アカネに言われるまま、私達は指定された席へと向かった。
一同が、円状に陣取るように配置された席…。
みんなの顔が、ぐるりと見回せるようになっている。
互いの緊張感が、互いへと飛び火し…その場の空気は、一気に重苦しいものへと変化していった。
そして、幕は開く。
命がけの裁判…。
命がけの騙し合い…。
命がけの裏切り…。
命がけの謎解き…命がけの言い訳…命がけの信頼…。
命がけの…劇場裁判……。
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