ミリオンロンパ 非日常編1-2
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
北沢志保【超アイドル級の???】
名前以外の全てが謎に包まれている少女。
あまり他者と関わろうとせず、自分のことも話さないのでやや孤立気味。
可奈が深夜に歌っているのを知っていたりと、他者に関心がないわけではないようだ。
何か特別な理由があって劇場に来たらしいが、詳細は不明。
「捜査を始める前に…現場の保全はどうする?」
誰にともなく問い掛けた紗代子さんの言葉に何人かがぽかんと口を開ける。私もその一人だった。
「現場の…保全?」
「現場が荒らされない為の”見張り役”の事でしょ。犯人に証拠を隠滅されるかもしれないから」
「へえ…桃子ちゃん詳しいね?」
「別に。何度か刑事ドラマに出たことあるからその時知っただけ」
ロコちゃんが挙手する。
「では、そのロールはロコが請け負います。インべスティゲーションは皆さんにお任せしますね!」
「じゃあ現場の見張り役はロコちゃんに任せるとして…」
「待って。あなた一人に見張りをさせるわけにはいかない」
志保ちゃんの言葉にロコちゃんは困惑した。
「ど、どうしてですか…?」
「あなたが犯人かもしれないじゃない。現場に残ればいくらでも証拠隠滅が可能になるわ」
「そんな言い方…!」
「別に伴田さんに限った話じゃないわ。私もそうだし…矢吹さん、あなただって犯人じゃないとは言い切れないでしょう?」
「…そうだけど、でも…!」
「な、なら私も見張りをします。皆さんは調査の方をお願いしますね」
「これで見張りは2人になったわね。志保ちゃんもこれなら文句ないでしょう?」
「ええ、まあ」
「……」
風花さんが割って入ってくれたおかげで、ひとまず現場の見張り役は決まった。
「…なんか前途多難って感じ」
「いっそ、ここで犯人の人が名乗り出てくれればいいのにね~」
「そりゃさすがにマヌケすぎんだろ…」
「何時頃に未来ちゃんが死んだのか、せめてそれだけでも絞れれば…」
「えっと、私が最後に未来ちゃんと会ったのがたしか夜の9時30分くらいだから、その後ってことになるのかな…」
私がそう言った途端、空気が変わった。
無言。そして、向けられる視線。
……あれ?
「みんなどうしたの?急に静かになって…」
「…ねえ可奈ちゃん。あなた、昨日の夜に未来ちゃんと会ったの?」
「は、はい。自分の部屋の前で歌っていたら、未来ちゃんが偶然通りかかって…」
「その後、未来ちゃんの部屋まで付いて行って彼女を殺害した…」
「えっ……!?」
「そう捉えられても仕方がない、って事だよ。昨日の夜に食堂で別れてから、未来ちゃんと一対一で会ったのはあなたしかいない」
「それってつまり…」
「未来を誰にも知られずに殺害するチャンスがあったのは可奈だけ…?」
「ちょ、ちょっと待って!そんなのありえないよ!私が未来ちゃんを…こ、殺すだなんて…!」
「それを証明できる人は?アリバイはあるの?」
「……ありません。でも私は…!」
「残念だけど、現状で一番疑わしいのは可奈ちゃんなの。それか…」
紗代子さんの視線は、仏頂面で話を聞いていた小さな影のほうを向いた。
「私達と完全に別行動だった桃子ちゃんとかね」
「はぁっ!?桃子が犯人だって言いたいの!?」
「その可能性が高い、というだけの話だよ」
「ふざけないでよっ!一緒にいなかったからって犯人だって決めつけるわけ!?
じゃあこっちも言わせてもらうけど、昨日は一日中全員バラバラに行動してたよね?だったら紗代子さんが誰にも見られてない間に未来さんを殺した可能性だって否定できないんじゃないの!?」
「ちょ、ちょっと桃子ちゃん落ち着いて…」
大きなため息が聞こえた。
「キリがないわね」
壁にもたれ掛かった志保ちゃんが、腕組みをしたまま呆れた視線を向けている。
「こうして疑い合っていても埒が明かない。…私は行くわ」
「行くってどこに…?」
「証拠を集められそうな所。それじゃ、また後で」
そう言うなり、志保ちゃんは振り返りもせず歩いて行ってしまった。
志保ちゃんに続くように、ほかのみんなも足早に体育館から去っていく。
無言のまま、私に疑いの視線を向けて…。
(………)
どうしよう。
どうやったら疑いを晴らすことができるんだろう…。
体育館にはまだ残っている人がいた。
呼吸しやすい姿勢で寝かせられているこのみさん。それに――
「あの、瑞希さん…」
「……すみません、今は…ひとりにさせてください。
馬場さんの事は私に任せてもらって大丈夫です。だから…どうか、お願いします」
瑞希さんは穴だらけになったリトルミズキちゃんを大事そうに抱えていた。さっき私達が言い争いをしてる最中に助け出したんだろう。
「わかりました。じゃあ、また後で…」
俯いたまま動かない瑞希さんに掛けられるような言葉を、今の私は思いつかなかった。
それに、このままここで止まっているわけにはいかない。
私や瑞希さん…ここにいるみんなの命がかかってるんだから。
(…とにかく、出来る事から始めよう。未来ちゃんを殺した犯人を突き止めるんだ…!)
【捜 査 開 始】
まずは、さっき配られたアカネファイルに目を通しておこう…。
『被害者は春日未来…死亡時刻は午前0時半頃。
死体発見現場となったのは、寄宿舎エリアにある春日未来の個室。
被害者はそのシャワールームで死亡していた。
腹部に刃物で刺された傷。その他、首に擦過傷あり。
被害者の周辺には大量の血痕が残っていた』
(これを元に…捜査を進めていくしかないのかぁ…)
でも、やるしかない。私やみんなのために。
そして、この事件の真相を確かめるためにも…!
【『アカネファイル1』を手帳に記録しました】
最初に私が向かったのは、一番事件の証拠が見つかりそうな場所。
事件の現場になった未来ちゃんの部屋だ。
ここならきっと何かが見つかるはず…!
――と、思ったのだけど。
(特に変わった所はないなぁ…荒らされた形跡もないし)
「カナもワンダーに思いましたか?」
話しかけてきたのはロコちゃんだ。
見張り役の彼女は部屋の物を触ることもできず、所在なさげにしている。
「私も…ってことはロコちゃんも?」
「ええ、まあ。少しインベスティゲイトしましたが、どこも乱れた所が見当たらないんです」
「何て言うか、ここで殺人が起こったとは思えないくらいだよね…」
「可能性としては、ミライがレジストする事なくあえて犯人に殺されたか…。
あるいは、抵抗する間も無く犯人に殺されたか。このどちらかでしょうね」
少し考える。
未来ちゃんは優しい人だった。いつも私達の事を気遣ってくれていた。
だからといって未来ちゃんが黙って殺されるような人だとは思えない。
特別な理由があったとしても、絶対に全員で生き残る方法を選ぼうとするはずだ。
だとしたら……。
【『未来の部屋の状況』を手帳に記録しました】
机の引き出しの中には工具セットが入っている。どの部屋にも共通で備え付けられているものだ。
工具セットは未開封のまま使われた形跡はない。
まあ、こんなの使う場面なんて思い浮かばないけど…。
「あれ、ミライはツールセットを使っていないのですね」
「へっ?ロコちゃんは使ってるの!?」
「ええ、アートをクリエイトするのに使ってます。マイツールはここに連れて来られたときにロストしてしまいましたから。
いろいろ入っててユースフルなんですよ。たとえば、バイスグリップ、サンドブラスト、ハンマーペンチ、硬鋼線カッター…」
「ほ、ほんとにいろいろ入ってるんだね…」
一瞬ゲームの技名かと思った。
名前だけでも物騒だけど、いったい何に使うんだろう…。
「どれもあまり頑丈ではないですけどね。用途も限られますし」
「そうなの?」
「試しにあの鉄板を外せないかトライしてみた結果が、コレです」
「うわぁ…」
ロコちゃんがポケットから取り出した工具は歪に曲がっていた。
結局鉄板には傷一つ付けられなかったようだ。
「凶器に使えたりは?」
「出来なくはないかもしれませんが、クリティカルには程遠いでしょうねぇ」
「そうなんだ…まあロコちゃん以外に使う人いなさそうだけど」
「あっ、ひょっとしてロコのことサスペクトしてます!?」
「そ、そうじゃないよ。ほら、工具なんてここで使う機会ないから」
「クリエイトする分にはいろいろ揃ってるんですけどねぇ…」
凶器として使えなくもないみたいだけど、この部屋の工具セットは未開封だ。
事件には関係なさそうかな…?
【『工具セット』を手帳に記録しました】
ベッドの下を覗くと、見覚えのあるものが見つかった。
(この摸擬刀…たしか、体育館に置いてあったのを未来ちゃんが護身用に持ち帰ったやつだよね)
まるで隠すように置いてあったのは犯行に使われたからだろうか。
ちょっとあからさますぎる気もするけど…。
「あっ」
よく見ると、表面の金箔が一ヶ所だけ剥がれていた。
きっと誰かが素手で触って金箔を剥がしてしまったに違いない。
(犯人が使ったってことなのかな…?)
うっかり金箔が手に付かないよう慎重に調べたけど、他に怪しい点は見つからなかった。
鞘も抜かれた形跡はない。犯行に使われたなら鞘の部分の金箔も剥がれているはずだ。
うーん…事件に関係あるのかないのか…。
【『金箔の摸擬刀』を手帳に記録しました】
一通り部屋の中を調べ終えたところで、シャワールームの扉が開く音がした。
「あ、志保ちゃん」
「あれ、矢吹さんも来たんだ?」
「う、うん。最初に調べるならやっぱりここかなって」
「犯人は現場に戻る…」
「うっ……」
「冗談よ。その泣きそうな顔やめて」
「志保ちゃんも私が犯人だって疑ってるの…?」
「あなただけじゃない、全員疑ってるわ。誰も犯行当時のアリバイなんて証明できないんだから」
でも、と志保ちゃんは続ける。
「今は疑心暗鬼になって立ち止まってる場合じゃない。それはあなたもわかってるはず」
「…うん」
「身の潔白を証明したいなら、犯人に繋がる証拠を見逃さない事ね」
「わかったよ、ありがとう!」
何故か、志保ちゃんは居心地が悪そうに目を逸らした。
「…それで、何か見つかった?」
「うーん、今のところはあんまり…。あ、そういえばベッドの下で模擬刀が見つかったよ」
「知ってるわよ。この部屋は一通り調べたから」
何当たり前のこと言ってるの?みたいな顔で言われてしまった。
考えてみれば、志保ちゃんは私より先にこの部屋に来ていたんだった。
「え、えっと…志保ちゃんは?」
「教えない」
「えっ」
そんな、ひどい…。
聞かれたからちゃんと答えたのに自分は教えてくれないなんて…。
「…だからその顔やめて。言ったでしょ、全員疑ってるって。あなたが犯人だったらどうするのよ」
「あ、そっか。……はれっ?でも今私に聞いて…」
「そうそう、シャワールームにはしばらく入らないで。豊川さんに検死をお願いしてるところだから」
「検死…うん、わかった」
なんだろう、誤魔化された気がする。
「まだ時間かかりそうだし、他の場所を先に調べてきたら?」
「うん、そうするよ。志保ちゃんは?」
「私はしばらくこの部屋にいるわ。少し気になることがあるから」
気になること…?
この部屋はだいたい調べ尽くしたと思うけど、まだ何かあるんだろうか。
(…考えても仕方ない。とにかく証拠を集めなきゃ)
「何か分かったら一応教えてあげる。ただし、そっちの情報と交換でね」
「え、いいの?」
「フェアじゃないからね。どうでもいい内容だったらこっちも情報は渡さないから、そのつもりで」
「うん、わかった!」
「…ま、せいぜい頑張って。あまり期待してないけど」
そう言うなり、志保ちゃんは私を完全に無視して部屋の中を調べ始めた。
これ以上は相手しない、ということだろう。
(よしっ)
言い方は厳しかったけど、なんだか応援されたような気持ちになった。
次は厨房に行ってみよう。食堂に誰かいればついでに話を聞けるかもしれない。
小さく手を振るロコちゃんに見送られながら、幾分高揚した足取りで未来ちゃんの部屋を後にした。
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