ミリオンロンパ 非日常編1-1
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
高山紗代子【超アイドル級の委員長】
眼鏡がトレードマークの熱血優等生。努力家で曲がったことが嫌い。
一度目標を決めたら一切の妥協をせず突き進む意思の強さを持っている。
妥協を許さない彼女の信念が他人との衝突に繋がることもしばしば。
趣味はハリネズミの飼育。1日でもっとも癒される瞬間らしい。
真壁瑞希【超アイドル級の人形師】
常にポーカーフェイスを崩さない無表情系女子。実際は顔に出ないだけで感情豊か。
『リトルミズキ』という名前の自分によく似た人形を用いて行う腹話術が特技。手品やバトントワリングも得意。
基本的に敬語で話す。人形のほうが本人よりも感情表現が豊かである。
目を覚ますと、広い天井があった。
なんとなく見覚えのある広い天井…。
体を起こすと、今度は顔が見えた。
なんとなく見覚えのある顔…。
この小さい顔は、たしか…。
「可奈ちゃん!?よかった、目を覚ましたのね!」
「このみ、さん…?あれ……わたしどうして……?」
「可奈ちゃん、ずっと気絶してたのよ。それを私達がここまで運んできたの。
…まあ、無理もないと思うけどね。あんな光景を見た後じゃ…」
「あんな、光景…?」
ぼーっとしたまま周りを見渡す。
体育館だった。みんなもここに揃っている。
(みんな…?)
いや、おかしい。1人足りない。いつも笑顔でみんなを元気付けてくれるあの人が。
あんな光景…。
そうだ、私は見たんだ。
何を?
何を……
唐突に脳裏にフラッシュバックする。
広がるのは一面の赤。その中心に埋もれる人影。
くたびれたような姿勢で身じろぎもしないソレは、とても見覚えのある…。
「……ッ!!」
思い出した。
「こ、このみさんッ!未来ちゃんが、未来ちゃんが…ッ!」
「落ち着いて、わかってるから。もうみんな、わかってるから…」
諭すように私の肩を叩いて、このみさんは続ける。
「星梨花ちゃんと可奈ちゃんの悲鳴が聞こえた後、私達も部屋に向かったの。
そこに、未来ちゃんの…」
最後まで続けず、このみさんは目を伏せる。
誰もが押し黙ったまま動かない。既に諦めてしまったかのように。
「どこに行くつもり?」
走り出そうとした私を志保ちゃんが呼び止めた。
「決まってるでしょ。未来ちゃんのところだよ!」
「無駄よ」
「まだ生きてるかもしれないのに!?今すぐ脱出して病院に連れて行けばきっと…!」
「何度も言わせないで。…それに、私達全員で十分確かめたわ。春日未来は…間違いなく死んでいた」
「そんなのわからないよッ!」
志保ちゃんは肩を竦め、風花さんに視線を向ける。
後を任された風花さんはおずおずと…けれどはっきりした口調で告げた。
「ちゃんと調べる時間はなかったから絶対とは言えないけど…あの出血量だと、未来ちゃんが生きている可能性は絶望的だと思うわ」
「…ッ……」
その瞬間、ようやく私は自覚した。
未来ちゃんは死んでしまった。
もう……どこにもいない。
「…どうしてみんなここにいるの。未来ちゃんがあんなことになったのに…」
「そ・れ・は、アカネちゃんが呼んだからなんだなぁ~これが!」
いつものように、唐突にアカネが表れた。リアクションを取る余裕なんてない。
みんなの苦々しい視線を一身に受けながら、アカネは満足そうにうなずく。
「うんうん、ちゃんと集まってくれたみたいだね。それじゃあ大事な話をするからお聞き逃しのないよーに!」
「大事な話…?未来ちゃんの事以外に、大事なことが他にあるの!?」
「おやおや…今日は珍しく噛みつくじゃない。嫌なことでもあった?」
「そうか、わかった…あなたが未来ちゃんを殺したんだ!」
「ん~…どうしてそういう結論になってしまったのか。これだけ献身的にオマエラのことを考えてあげてるのに…アカネちゃんは悲しいよ」
しくしくと嘘泣きを始める。が、すぐに飽きたのか急に態度を変えた。
「結論から言うと違うよ。規則違反をされない限りは、アカネちゃんが自ら手を下すことはありません」
「そんなの、信じられないよッ!」
「うぷぷぷ。ま、別に信じなくてもいいよ。未来ちゃんを殺したのはオマエラの誰かなんだから。
それは…当の本人がよく知っているはずだけどね?」
「……!!」
私は…思わずみんなの顔を見回していた。
それは、他のみんなも同じだった。
恐怖と混乱と疑惑の入り混じった視線が、その場で何度も交差した。
誰かが人を殺した。この中の、誰かが…。
……本当に?
「…キリがないわね」
ため息と共につぶやいた。志保ちゃんだった。
「そろそろ教えてくれないかしら?私達をわざわざここに集めた理由を」
「うぷぷ、では気を取り直して。
『卒業』に関する補足ルールの説明を始めたいと思います!!」
「ほ、補足…?」
「この期に及んで何があるのよ…!」
「はいはいせーしゅくに。
”誰かを殺した者だけが卒業できる”という点は、以前説明した通りですが…。
その際に、守っていただかなければならない約束があったよね?」
「規則の7条目の項目ですね」
[自分が殺害を犯したクロだと、他の者に知られてはならない…だったわね、たしか]
「そう、ただ殺すだけじゃ駄目なの。他の候補生に知られないように殺さなければならないの!
…で、その条件がクリアできているか査定する為のシステムとして…。
殺人が起きた一定時間後に、『劇場裁判』を開く事とします!」
劇場…裁判……?
「劇場裁判は、殺人が起きた数時間後に開催されます!
劇場裁判の場では、殺人を犯した”クロ”と…
その他の候補生である”シロ”との対決が行われるのですッ!!」
「劇場裁判では”身内に潜んだクロは誰か?”を、オマエラに議論してもらいます。
その結果は、劇場裁判の最後に行われる”投票”により決定されます。
そこで、オマエラが導き出した答えが正解だった場合は…
秩序を乱したクロだけが”おしおき”となりますので、残った他のメンバーは共同生活を続けてください。
ただし…もし間違った人物をクロとしてしまった場合は…
罪を逃れたクロだけが生き残り、残ったシロ全員が”おしおき”されてしまいます。
その場合、もちろん共同生活は強制終了となります!」
「以上、これが劇場裁判のルールなのですッ!!規則にも追加しておくから確認してネ~!」
長い説明が終わった。すべての意味を理解できた人はいるのだろうか。
百合子ちゃんがおずおずと手を挙げる。
「あの…質問なんですけど、さっきから言っている”おしおき”って…?」
「あぁ…簡単に言えば、処刑ってところかな!」
「しょ、処刑……!?」
「そう、ショケイ。といってもただ殺すだけじゃありませんぞ。いろいろと趣向を凝らして、見てるほうも楽しめる一大エンターテイメントに仕上げてあるのでこうご期待!」
「ま、待ってよ!何を言ってるのか全然わかんないッ!」
「落ち着いて百合子ちゃん。要するに…犯人を当てれば犯人だけが殺される。逆にもし犯人を外せば…犯人以外の、私達全員が殺される。そういうことよ」
「グッド!さすがこのみちゃん、年長者は落ち着きが違いますな~」
「あら……私が落ち着いてるように見える?」
「んぁ…?」
次の瞬間、アカネの体が宙に浮いた。
違う、このみさんが首を締め上げているんだ…!
「怒ってるのよ私は、これでも」
「ちょっ、まっ、ギブギブ…!」
「どうせヌイグルミなんだから苦しくなんてないでしょう?
何が裁判よ、何が処刑よ…。あなたの悪ふざけに付き合うのはもううんざり、私達全員を今すぐ解放しなさい!」
呆気にとられている私達を置いて、このみさんは締め上げる手に力を込める。
「言う通りにしないと、このまま中のスピーカーを引きずり出すわ…!」
「うぷ…ぷ……意外に行動的なんですなぁ…。ところで、何か大事なことをお忘れじゃありませんか?」
「なんですって…?」
「”理事長ことアカネへの暴力を禁ずる”、規則違反だね…。
助けて、グングニルの槍ッ!!」
アカネが叫んだ瞬間、どこかから何かが飛んできた。
それが何かを見極める間もなく、このみさんはソレによって殺される――
直感的にそう思った私のそばをすり抜けて、誰かがまっすぐ走っていくのに気付いた。
「このみさん…ッ!」
瑞希さんだ。
瑞希さんが立ち尽くすこのみさんを突き飛ばした次の瞬間、さっきまで立っていた場所に次々と何かが突き刺さった。
槍だ。先端の鋭い凶器は床に何十本も突き刺さっている。いったいどこから降ってきたのか。
もしあれに貫かれていたら、このみさんは――
「このみさん、瑞希さんッ!」
このみさんは突き飛ばされて倒れた体勢のまま動かない。
近寄って呼吸を確かめていた風花さんが小さく息をつく。
「大丈夫、気絶してるだけみたい」
「瑞希さんは…?」
「私は…無事、です。しかし……」
瑞希さんが槍の刺さった中心地を見る。
目を凝らすと、大量の槍の中で小さな何かが貫かれているのが見えた。
あれは……。
「ミズキ…ちゃん…?」
瑞希さんの相棒の人形。たぶん、さっきこのみさんを庇ったときに身代わりになったんだ…。
無残に刺し貫かれ穴が開いた小さな姿は、あの槍がまぎれもなく本気で…”殺す”つもりで放たれたことを私達に理解させた。
「あらま、意外に当たらないもんだね。まあ関係ないところでなるべく死人を出したくなかったから結果オーライかな。
見せしめとしてはちょっと弱いけど、これでオマエラもわかってくれたよね?」
「…アカネちゃんは本気だよ。
逆らう候補生は…ハチの巣になったり爆発させられたり、生き埋めにされたり溶かされたり……エトセトラ。
あの人形みたいになりたくなかったら…オマエラは、劇場の規則にしっかりと従う事ッ!!」
「あ、そうそう!クロ捜しの捜査にあたって、オマエラにこれを配っておかないとね!」
恐怖、悲観、衝撃…。
さまざまな感情に支配されて動けないでいる私達に向けて、アカネは平時と変わらない調子で”ある物”を手渡した。
「これはアカネちゃんがまとめた死体に関するファイル。その名も…ザ・アカネファイル!」
「…”ジ”じゃなくて?」
「どっちでもいいの!
まぁ、結局のところオマエラは素人さんなわけだし、死体を調べるって言っても限度があるでしょうから…。
代わりに、アカネちゃんが死亡状況や死因っぽいのをまとめておいてやったの!
アカネちゃんは監視カメラで一部始終を見てたから、情報としては信用してくれていいよ!」
「じゃあ、あなたは知っているのね?春日未来を殺した犯人を…」
「モチロンですともっ!!そうじゃないと公正なジャッジを下せないでしょ?」
「そう、ジャッジは公正に下されるのね。少しだけ安心したわ」
「じゃあ、捜査頑張ってくださいね!やるしかないんだからね、やるしか!
では後ほど、劇場裁判でお会いしましょう!」
こうしてアカネは去っていった。
混乱した状況と、困惑した私達と、串刺しになったミズキちゃんの残骸を残して…。
しばらく、誰も口を開こうとしなかった。
未来ちゃんが死んでしまったことはもちろんショックだったけど、それ以上に衝撃だったのは…
私達の中に、未来ちゃんを殺した”犯人”がいるかもしれないことだ。
しかも、その人を特定しないと”他の全員”が処刑されてしまう。
互いが互いに、疑いの目を向け合っている状況…まさに最悪だった。
ただ、そんな状況の中でも”彼女”は動じた様子を見せていなかった。
「…それで、いつまでこうしているつもり?」
「志保ちゃん…?」
「いつまで、と言われても…そもそも何からすればいいのか…」
「いきなり犯人捜しをしろなんて言われてもな…」
「とにかく、やれるだけの事をやりましょう。このままだと全員処刑されるだけよ。
私はこんなところで死にたくないし、死ぬつもりもない。やりたくなくても…やるしかない」
「…そうね、その通りだわ。私だって死にたくないもの」
「わ、私だって!ちゃんとした調査なんてやったことないけど…」
「どのみち外には出られないなら…やるしかないよね」
「何が処刑よ…こんなわけのわからない理由で殺されるなんて冗談じゃない…!
犯人捜しでもなんでもやってやるわ!」
やるしかない、誰もが口々にそうつぶやいていた。自らを奮い立たせるかのように。
そうだ、私達が生き残るためにはやりたくなくてもやるしかない。
それに、私は知らなくちゃいけない。
どうして未来ちゃんが殺されたのか、殺されなきゃいけなかったのか…。
その理由を知るのは怖いけど…でも、知らなくちゃいけないんだ。
そうじゃないと、私は”彼女の死”に納得ができない。
そのためにも、やるしかない。
やるしかないんだ…!
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