ミリオンロンパ (非)日常編1-4
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。死ネタ注意。
望月杏奈【超アイドル級のゲーマー】
肩書き通り、超が付くほどのゲーマー。あらゆるゲームを網羅しているらしい。
ゲーム漬けの生活を送っているためか常に眠そうにしている。
聞き取りづらいほど小声で、しかも途切れがちに話す。趣味のことになると途端に饒舌になる。
馬場このみ【超アイドル級のセクシー】
セクシーが歩いていると言われるほどのセクシー美女。
自称ではなく、きちんとコンテストなどで入賞した経験もある…らしい。
疑問は付きまとうが、中身は年齢相応の頼れるお姉さん。
その見た目に反した行動力と人生経験から来る知識量は候補生メンバー随一。
劇場生活4日目。
日に日に疲労感を増していく体を動かして食堂に向かうと、そこには意外な人(?)物が待ち受けていた。
「オマエラ、おはようございます!」
「アカネ…?どうしてここに?」
「オマエラがいつまで経っても殺し合わないからジャン!もう4日も経ったんだヨ!?光陰矢の如しってことわざ知らないノ!?」
「それとこれと何の関係があるのよ…」
「”光陰矢の如し”って?」
「月日が過ぎるのはとっても早いから、有意義な時間を過ごしましょうってことですよ、未来さん」
「星梨花でも知ってるのに…」
「なんか視線が痛い!?」
えーゴホゴホ、とわざとらしく咳払いするアカネ。
「毎日毎日同じことの繰り返しで、アカネちゃん的にちょっと退屈なのです。
で、少し考えてみたわけだよ。場所も人も環境も、ミステリー要素は揃ってるのにどうして殺人は起きないのか…。
そしてアカネちゃんは閃きました、今のオマエラに足りないものをね!」
「足りないもの…?」
「…ずばり、”動機”だよ!
うぷぷ、だったら簡単!アカネちゃんがオマエラに動機を与えればいいだけだもんね!」
動機を、与える…?
「ま、そんなわけなので、朝ごはん食べ終わったら全員で視聴覚室に集合ね!
面白いものが見られると思うよ……うぷぷぷぷ」
意味深な言葉を残してアカネは消えた。
朝食後、私達は全員で話し合った末、視聴覚室に向かうことにした。
ワナの可能性も疑ったけど、このまま出口を探し続けるだけじゃ何も進展しないと思ったから…。
そして視聴覚室。
でかでかとしたモニターが部屋の奥、学校なら黒板が置いてある位置にはめ込まれている。
一つひとつの席にもモニターと映像再生機器がセットになったような機械が設置されていて、DVDなんかが再生できそうだ。
ここも複数のグループが散々調査したけど目新しいものは発見できなかったらしい。
「おそーいッ!アイドルなんだからキビキビ動かないとダメっしょ!?スケジュール間に合わないよ!」
ぞろぞろと現れた私達に向かってアカネが怒鳴った。変なところで常識的だった。
全員が室内に入ったのを確認し、いの一番に紗代子さんが問い掛ける。
「それで、私達をここに集めた目的は何?」
「無理やり連れてきたんだから、当然それなりの用事があるんだよね?」
全員で、と言われていたので桃子ちゃんも(半ば無理やり)付いてきてもらっていた。おかげで不機嫌そうだ。
「まあまあご静粛に。オマエラに集まってもらったのは、”ある映像”を見せたかったからなんだ」
「映像?」
「そこのダンボールにDVD入ってるっしょ?自分の名前がラベルされてる物を持って行ってね~」
「前来たときは無かったのに、いつの間に…」
このみさんが呆れ顔でダンボールの中からDVDを取り出して皆に配っていく。
「DVDはどの席でも再生できるから、受け取った人からじゃんじゃん見てってね~。
そこに何が映ってるのかは見てのお楽しみ…うぷぷぷ」
私も自分の名前がラベルされたDVDを受け取って、適当に空いた席に座った。
この中に何が入っているのか。
アカネのことだから絶対にろくなものじゃないと思う。でも、ここまで来たら確認しないわけにはいかなかった。
不安な思いを抱えつつも、思い切ってDVDを再生デッキに入れる。
そこには……
(……あっ!)
そこには、私の家族が映っていた。
思わず涙が滲みそうになる。数日会っていないだけなのに、もう何年も会っていないように感じた。
内容は普通の応援メッセージのようだった。お父さんもお母さんも当たり障りのないことを言っている。ただそれだけのことがひどく嬉しかった。
(あはは、けるちゃんも応援してくれてる)
懐かしい家族の姿を見て、会いたいなぁ、と思った矢先。
「……ッ!?」
一瞬映像が乱れた、次の瞬間。
画面は滅茶苦茶に壊された部屋を映していた。
今度は声も出なかった。あまりの光景にかえって現実味がない。
何があったのか、家族はどこに消えたのか。そんな疑問に答えるようにモニターから流れる声…。
『矢吹可奈ちゃんを応援していたご家族の皆さん。どうやら、そのご家族の身に何かあったようですね?
では、ここで問題です!このご家族の身に何があったのでしょうかっ!?』
『正解発表は”卒業”の後で!』
大きく強調された文字が映し出され、そのまま映像は止まった。再生が終わったのだ。
「なに…これ…」
震えた声が喉の奥から漏れた。驚きと不安と、怒りと…いろんな感情が爆発して叫びたくなる衝動に駆られた。
あの映像は何なのか。お父さんとお母さん、けるちゃんはどうなったのか。
「いやああああぁぁぁぁああああああ!!」
「な、なんですかこれっ!?なんなんですかああああ!?」
「おい、ふざけんなッ!どういう意味だよこの映像はッ!?」
あちこちから悲鳴が聞こえる。どれが誰の声なのかもわからない。
「うぷぷぷ!それじゃ、アカネちゃんはそろそろ退散しようかな。まったね~♪」
「あっ、待って…!」
満足げな表情でアカネは去った。
後には混乱するばかりの私達だけが残った。
「皆、落ち着いて!大丈夫だよ、こんなの本当のはずがないもん!」
明るい声で皆を落ち着けようとする未来ちゃん。その表情はいつもより元気がない。
険のある声が方々から響く。
「大丈夫ですって…?どうして断言できるの?」
「さっきの映像が本物じゃないって証拠は?」
「証拠は…ないけど、でも絶対、ぜーったいありえないよ!」
「証拠がないなら黙っててよ!綺麗事なんて聞きたくないわ!」
「綺麗事なんて、そんなつもりじゃ…」
悲しげに俯く未来ちゃんを見て、ようやく悟った。
さっきの映像が本物かどうか確かめるには、外に出るしかない。けれど、外に出るためには…。
アカネが私達に与えた”動機”は、私達に想像以上の影響を与えていった。
「乙女よ大志を抱け~♪夢見て素敵になれ~♪」
誰もいない廊下に私の歌が小さく響く。
志保ちゃんに忠告されてからもなんとなく続けてしまって、すっかり日課になった廊下での独唱。
けれど、今日はあまり気分が乗らない。
「……ハァ」
DVDの映像を見せられた、翌日の夜。
結局昨日は誰も調査を行わず、気持ちを落ち着けるために各々好きに時間を過ごした。
今日になってやる気のある人や元気のある人が集まって調査を続けていたけど進展はナシ。その調査自体も身が入っていないように感じた。
「あれ、歌うの止めちゃったの?もっと可奈ちゃんの歌聞いていたかったんだけどな~」
薄暗い廊下に声が響いて、思わず体が跳ねた。まさか聞いていた人がいたなんて。
声の持ち主は私の所まで歩み寄ってきて、朗らかな笑顔を見せた。
「未来ちゃん…?珍しいね、こんな所で会うなんて。もう結構遅い時間なのに」
今は9時半、あと30分もしないうちに夜時間になる。
夜時間に出歩かないルールを取り決めてからというもの、夜時間間近になって動き回る人は少なくなっていたが昨日と今日はそれが特に顕著だった。
皆できれば誰とも会いたくないんだろう。本音を言えば、私も人と会うのが少しだけ怖かった。
「さっきまで部屋で考え事してたんだけどね~。落ち着かなくなって散歩してたんだ。
でも可奈ちゃんがこの時間帯に歌ってるのは知ってたよ?たまに廊下に出ると歌声が聞こえてきたから」
「そ、そうなんだ…」
志保ちゃんも言っていたけど、やっぱりバレバレなんだ…。なんだか無性に恥ずかしかった。
別に秘密にしているわけじゃないけど、他人を意識して歌っているわけじゃないからなんとなく顔に熱を感じてしまう。
「本当に歌うのが好きなんだね。…でも、今日はそんな気分じゃない?」
「…うん。何をしていても、ふと気付いたらあの映像の事を考えちゃって」
「そっか…」
「未来ちゃんは平気なの?」
「あはは、そういうわけじゃないよ。でもここからじゃ外の事は確かめようがないから。
今私たちがするべき事は、出口を探して脱出する事だと思う。皆の無事を確認するのはそれからだよ」
まっすぐな瞳を見ていて、思わず零れた。
「すごいね、未来ちゃんって」
「そ、そんなことないよ~。私はただ、みんなに笑顔でいてほしいだけだから」
照れ笑いを浮かべる未来ちゃん。
そういえば、とふいに思ったことを口にする。
「よかったら聞いてもいい?未来ちゃんがどうしてアイドルになりたいのか」
「笑顔が好きだから!」
即答だった。しかも満面の笑みで。
「…それだけ?」
「でへへ、単純でしょ?でも本当にそれだけなんだ。いろんな人の笑顔を見るのが好きなの。
アイドルがステージに上がって踊ったり歌ったり、笑いかけたりするとみんなも笑顔になってくれる…。
そんな、誰にでも笑顔を与えられる存在に私もなりたいんだ!」
「…やっぱり、未来ちゃんってすごいよ」
「そ、そうかな?なんだか恥ずかしくなってきたかも~…」
本当にすごいと思った。この状況でも、彼女は目的を見失っていない。
自分のことばかり、帰ることばかり考えていた自分が恥ずかしくなるくらい、未来ちゃんの言葉は輝いて見えた。
「未来ちゃんなら絶対素敵なアイドルになれると思う!私も応援するね!」
「ありがとう!でも私だけじゃないよ?みんなで脱出して、一緒にアイドルになろう!
それで、世界中の人に笑顔を届けて、世界を幸せにするんだ!それが私の夢!」
未来ちゃんの語る夢は途方もないことのはずなのに、その笑顔を見ていると本当に叶えてしまえるような気持ちになってくる。
不思議な気持ちだった。まるで笑顔の魔法をかけられたような、暖かくて優しい気持ち。
「そういえば、可奈ちゃんはどうしてアイドルになりたいの?」
「私は…ある人に憧れて、アイドルになりたいと思ったんだ。
テレビに映るその人はいつも輝いていて、私もあんなふうにキラキラした存在になりたいなって…」
「そっかそっか!可奈ちゃんならきっとなれるよ、キラキラしたアイドルに!」
「えへ、ありがとう!よしっ、明日からも調査がんばるぞー!」
「おー!」
高らかにハイタッチして、2人でしばらく笑いあった。
誰もいない廊下に響くその声は、薄暗がりの世界すら明るく照らしていく気がした。
「じゃあ可奈ちゃん、私そろそろ行くね。おやすみ~!」
「おやすみ未来ちゃん、また明日!」
ぶんぶんと元気よく手を振って未来ちゃんは来た道を戻っていった。
私も部屋に戻って、シャワーを浴びてからベッドに潜り込む。
未来ちゃんの描いた「未来」が実現したらどれだけ素敵だろうと考えながら。
(そのうち、ほかの皆のアイドルを目指した理由も聞いてみたいな…)
その日は夜のアナウンスを聞く前にいつの間にか眠っていた。
本当に久しぶりによく眠れた気がする。それだけリラックスしていたという事かもしれない。
大丈夫、きっと脱出できる。私達全員で協力すれば、絶対に出口は見つかる…。
未来ちゃんとの会話を思い出しながら、私はそう信じていた。
そう、信じようとしていた。
この日の夜に起こっていた事を知るまでは。
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