ミリオンロンパ 開幕
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。一部キャラが死亡するので苦手な方はご注意。
永吉昴【超アイドル級の野球選手】
ツリ目でオレっ娘の天才野球少女。
女子中学生であるにも関わらず男子高校野球に助っ人として出場し、チームを優勝に導いた実績を持つ。
女の子らしく可愛くなるのが夢。
七尾百合子【超アイドル級の文学少女】
巷で有名な小説家『リリーナイト』その人。
読書家で、いつも本を持っていないと落ち着かない。
軽い妄想癖があり、小説のネタも妄想から得ている。
恋愛小説も書くが、男性と付き合った経験はない。
「じゃじゃーん!」
私達16人全員が見ている中で、”それ”は突如壇上に現れた。
演台に座ってこちらを見下ろしているのは、
「え…?ネコ…?」
「そう、ネコでーす!今時クマとかウサギとか時代遅れ、これからはネコの時代だよねっ!」
ネコだった。正確には、ネコ耳や尻尾が生えた、
「ヌイグルミ…だよね…?」
「ヌイグルミじゃないよ!ちゃんと『アカネ』って名前があるの!
キミたちの…この劇場の…理事長なのだッ!!
ヨロシクねッ!!」
それは場違いなほど明るい声…
それは場違いなほど能天気な振る舞い…
私の抱いていた不快感はいつの間にか、底知れない恐怖へと変わっていた。
「は?理事長?この、ネコの恰好したヘンなヌイグルミが?」
「ネコちゃん可愛いね~。こっちにおいでおいで~♪」
「桃子、くだらないジョークに付き合うほど暇じゃないんだけど。本物の理事長さんはどこ?」
「ヌイグルミじゃなくて、アカネちゃんなんですけど!
それに、ホンモノの理事長なんですけど!!」
は~やれやれ…と大仰な仕草で首を振ると、ヌイグルミは続ける。
「ん~、イマイチ反応が悪いけど…まあいいや。
ご静粛にご静粛に…えー、ではではっ!」
「起立、礼!オマエラ、おはようございます!」
「「おはようございま~すっ!!」」
「あなた達は素直過ぎ!」
流石(自称)お姉さんのこのみさん、ツッコミが早い。元気な未来ちゃんと麗花さんにつられそうだったのは内緒だ。
「これより、765プロライブ劇場への所属をお祝いする式典を執り行いたいと思います!
まず最初に、これから始まるオマエラの劇場生活について一言…。
えー、オマエラのような才能あふれるアイドル候補生は、”世界の希望”に他なりません!
そんな素晴らしい希望を保護する為、オマエラには…
”この劇場内だけ”で、共同生活を送ってもらいます!
みんな、仲良く秩序を守って暮らすようにね!」
(えっ…?)
「えー、この共同生活ですが、期限はありません。一生ここで暮らしていくのです!」
「あ、あの、今なんて…?」
「一生、ここで暮らす…?」
「あ、心配しなくても大丈夫だよ。食料はたくさんあるし、レッスン用の設備も劇場内には用意してあるから」
「そういう問題じゃないわ!どういうこと!?この劇場内だけで暮らすって…」
「そのままの意味だよ?ついでに言っておくと、外の世界からは完全にシャットアウトされてますから!
レッスンでも何でも、思う存分やりたい事をやって過ごしてね!」
(シャットアウト…って、まさか…)
「じゃあ、教室や廊下の窓を塞いでたあの鉄板は私達を閉じ込める為の…!?」
「そうなの。だから、いくら泣き喚いた所で助けなんて来ないの。
一生暮らしていくんだから、ケンカなんてしないでみんな仲良くね~」
「そんな、一生なんて…私困ります!」
「タチの悪い冗談、という訳でもなさそうですね…」
「そんなの嫌です!早く私達をここからリリースしてくださいッ!!」
「んもう、おかしな人達だなぁ。
望んでこの劇場までやってきたはずなのに、何がそんなに不満なの?」
まあでも、と前置きして、
「アカネちゃんはこうなる事態を予想して、ある特別ルールを設けておいたのですっ!!
それが『卒業』というルール!次はこのルールについて説明していきましょーう!
えー、オマエラには、劇場内での”秩序”を守った共同生活が義務付けられた訳ですが…
もしその秩序を破った場合、その人物だけは学園から出て行く事になるのです。
それが『卒業』のルールなのですっ!」
ここから出られるんだ…!と私を含めて何人かの顔が明るくなった。
その中で表情を一切変えなかった紗代子さんが、ヌイグルミに問い掛ける。
「その”秩序を破る”というのは…何を意味しているの?」
瞬間、ヌイグルミの表情がぐにゃあ、と曲がった。
笑っている。
「うぷぷ…それはね……。
『人が人を殺す事』だよ…」
「こ、殺す…ッ!?」
「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺…殺し方は問いません。
『誰かを殺した候補生だけがここから出られる…』それだけの簡単なルールだよ。
ここから脱出したいんだったら、思う存分殺し合っちゃってくださーい!」
「こ、殺し合い…?ど、どういう意味ですか?」
「殺し合いは殺し合いだよ。意味が知りたいなら辞書でも引いて…」
「そういうことを言ってるんじゃねえよ…さっきから黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって」
低い声が聞こえた。と思った瞬間、集団の中から影が飛び出してきてヌイグルミの頭を鷲掴みにした。
その影は……
「昴ちゃん!?」
「おい!いつまでもくだらねーこと言ってないで、さっさとオレ達をここから出せ!」
「キャー!理事長への暴力は規則違反だよ~ッ!?」
「んなこと知るか!言う通りにしないと、このまま中の綿を引きずり出すぞ!」
昴ちゃんがヌイグルミを片手で持ち上げ、ギリギリと締め上げていく。
ヌイグルミはしばらくバタバタと手足を動かしていたが…ふと、動きを止めた。
「………」
「おい、今度はだんまりか?」
「………」
「ヘンな機械音出してないで、何とか言えよ!!」
「危ない、投げて…ッ!」
そう言ったのは、今まで事態を静観していた志保ちゃんだった。
「え…?」
「いいから早く…ッ!」
切迫した表情で叫ぶ彼女に気圧されたのか、慌てた様子で昴ちゃんがヌイグルミを宙に放り投げる。
瞬間――――
「う、うわあッ!?」
「ば……爆発した……」
激しく耳鳴りが響く中で、誰かが呆けたようにつぶやくのが微かに聞こえた。
突然の轟音。何かが爆発する瞬間を目にしたのは…もちろん、これが初めてだった。
「もう、びっくりしたなぁ~。最近のアイドルは血の気が多くて困っちゃいますよ」
誰もが衝撃から抜け出せない中、能天気な声が館内に響く。
「わっ!新しいのが出てきた!?」
「お、お前…さっきはマジでオレを殺そうとしやがったな…」
「当たり前じゃん。そっちが先に規約違反したのが悪いんでしょ?
今のは特別に警告だけで許すけど、今後は厳しくおしおきするから気をつけてよねッ!」
「ねぇ…ひょっとして、あなたみたいなのって…まだたくさん……いるの……?」
「アカネちゃんは、劇場内の至る所に配置されております。あと監視カメラもね。
規則を破る人を発見した場合、今みたいに厳し~く処罰するから、そのつもりでね!」
「あ、アンリーズナブルです…」
「じゃあ最後に、劇場への所属祝いとしてオマエラにこれを渡しておきましょう」
そして渡されたのは、私達が普段使っているものをさらに薄くしたようなタブレットだった。
「『電子アイドル手帳』です。カッコいいでしょ?
これは劇場生活に欠かすことの出来ない必需品だから、絶対になくさないようにね!!
それと、起動時に自分の本名が表示されるから、ちゃんと確認しておいてね」
カードのように薄い表面を叩くと、765プロのロゴマークが浮かび上がり、次に自分の名前が表示された。
…確かに、ちょっとカッコいいかも。
「ちなみに、その電子アイドル手帳は完全防水で、水に沈めても壊れない優れ物!
耐久性も抜群で、10トンくらいの重さなら平気だよ!
詳しい”規則”もここに書いてあるから、各自しっかり目を通しておくよーに!」
昴ちゃんが電子手帳を踏んだり折り曲げようと頑張っているのが目に入った。
無駄にハイテクなのが、この現状にぴったり合っているように思えて不気味だ。
「ではでは、式典はこれで終了となります!!
豊かで陰惨な劇場生活をどうぞ楽しんでください!それじゃあ、まったね~!」
そう言って、ヌイグルミ――アカネは消えてしまった。
呆然とする私達だけを残して……
「今の…どういう事だと思う?」
誰もが押し黙る中、恐る恐るといった様子で紗代子さんが声を上げた。
「どう…って言われても、全然意味がわからないんですが…」
困惑した表情の百合子ちゃんが答える。
「ここで一生暮らす…とか言ってたよね」
「こ、こ、殺し合い…?冗談だよね、そんなの…?」
「くそっ、ホントに頑丈だぞこの電子手帳…全然ビクともしねえ」
場がざわめき始める中、このみさんがパンパンと手を打ち鳴らして注目を集めた。
「はいはい、みんな落ち着いて。ひとまず与えられた情報を整理してみましょう。
今の話をまとめると、私達には”2つの選択肢”が与えられた事になるわ。
1つは、みんなと共に、この劇場内で”期限のない共同生活”を送る。
そして、もう1つは…」
「生きて出る為に、”仲間の誰かを殺す”……ですね?」
リトルミズキちゃんを肩に乗せた瑞希さんが答える。
それを聞いて、みんなの中に動揺が広がった。
「こ、殺すなんて…そんな…」
「ウソよ…こんなバカげた話、ある訳ないじゃない…!」
「本当かウソかはたいした問題じゃない。問題になるのは…
この中に、そのバカげた話を本気にする人がいるかどうか、という事よ」
志保ちゃんの言葉に…私達は再び押し黙った。
押し黙ったまま…お互いの顔を見回していた。
お互いの胸の内を探ろうとする視線からは、薄っすらとした敵意まで感じ取れた。
そして…
そこで、私はアカネが提示したルールの本当の恐ろしさを知ったんだ。
『誰かを殺した候補生だけがここから出られる…』
その言葉は、私達の思考の奥深くに”恐ろしい考え”を植え付けていた。
『誰かが裏切るのでは?』という疑心暗鬼を…
こうして、私の新しい劇場生活が始まった。
でも、期待に胸を膨らませてやって来たこの劇場は…
”希望の劇場”なんかじゃなかった。
ここは……
”絶望の劇場”だったんだ。
《PROLOGUE END》
《生き残りメンバー 16人》
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