電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです4 祝☆沖ノ島海域突破!
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2話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2672
3話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2679
4話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2734
5話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2808
6話前編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2948
6話中編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2975
6話後編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2977
これは私の鎮守府で起こったことを参考にした、あくまでもフィクションです。ブラックな内容ですので、苦手な方は閲覧を控えてください。
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http://sstokosokuho.com/ss/read/2679の続編です。未読の方はそちらをお先に。
扶桑「こほん、それでは・・・・・・皆さん! 沖ノ島海域突破、おめでとうございまーす!」
隼鷹「ひゃっはー! おめでとーう!」
山城「ついにやりましたね、お姉さま!」
金剛「Congratulations! ようやく次の海域に進めるデース!」
電「なのでーす!」
赤城「ふふ。皆さん、本当にお疲れ様です」
ついに、ついにやりました。1ヶ月以上も足止めを食らっていた、沖ノ島海域を突破しました。
提督さんも有頂天になり、開発、建造の予定をすべて中止し、資源倉庫と酒保を開放して無礼講が言い渡されました。
今は嬉々として執務室にて次の攻略作戦の計画を練っています。あんなに嬉しそうな提督さんは、久しぶりに見ました。
扶桑「終わってみればあっさりだったわね。私達、いつの間にこんなに強くなっていたのかしら」
山城「私も自分でびっくりしてしまいました。戦艦も弾着観測射撃で一撃だなんて」
隼鷹「いやーみんなスゴイわ。あたしなんて足引っ張ってばっかりでさー」
金剛「Non! 隼鷹もばっちりサポートしてくれましたねー!」
伊勢「あ、あの・・・・・・」
扶桑「そうよ。あなたがいなかったら、沖ノ島海域は突破できなかったと思うわ」
隼鷹「そう言ってくれるとうれしいねー! でも実際、火力的に限界来てない、あたし?」
山城「そんなことないですよ。隼鷹さんはできる範囲でしっかり仕事してくれてると思います」
金剛「そうネ! 駆逐艦にばっかり主砲ぶっ放してる扶桑よりはるかにマシネ!」
扶桑「・・・・・・なんですって?」
実を言うと、今日はハッピーラッキー艦隊の皆さんには挨拶だけして、駆逐艦の広場にいる霞ちゃんに会いに行こうと思っていました。
けれど、私がここを離れられない理由が2つほどあります。
金剛「まあ気持ちはわからないでもないデース! 扶桑は主砲の火力以外何一つ取り柄がないからネー!」
金剛「もし固い戦艦に攻撃が通らなかったら、その唯一の取り柄も失ってただのオンボロ船になってしまいマース!」
扶桑「言うじゃない。海域でわざと大破しまくって艦隊の信用を下げたのはどこのどなた・・・・・・」
電「で、でも扶桑さんの主砲って本当にすごいですよね! 射程も長くて威力も高いなんて、 私、憧れちゃうのです!」
扶桑「あ、あらそう? ありがとう。私、本当にそれだけが取り柄だから・・・・・・」
電「金剛さんも戦艦なのに足が速くてかっこいいのです! 駆逐艦の私より速かったりするかもです!」
金剛「Oh! 電ちゃんは謙遜しすぎデース! たとえ高速戦艦の私でも、駆逐艦の電ちゃんには敵わないデース!」
隼鷹「はっはー電ちゃんは褒め上手だねぇ。ねえ、あたしのことも褒めてみてよ?」
電「えっと、隼鷹さんは艦載機の運用がすごく上手です! 正規空母の赤城さんにも負けないくらいだと思うのです!」
赤城「そうですね。隼鷹さんを見てると、私もまだまだだなって思います」
隼鷹「へっへーそんなに褒めたって何も出ないよ? 電ちゃん、このお菓子食べなよ」
電「あ、ありがとうなのです」
褒めたら何か出てきたのです。
赤城「私には?」
隼鷹「えーと、あたしのボーキサイト分けてあげる」
赤城「ありがとうございます。いただきます」
隼鷹さんが分けるまでもなく、赤城さんはひたすらに資源を咀嚼していきます。
この膨大な資源の消失を食い止めるのが私の役目・・・・・・ではありません。
空っぽになった資源庫を目にして呆然とする明日の提督さんが目に浮かびますが、私に赤城さんを止めることなんで出来っこないのです。
赤城さんがいる以上、これは当然の結果なのです。明日から鎮守府は資源不足の日々がやってくるでしょう。
あ、それはいつものことでした。
隼鷹「ほらほら~食べてばっかりいないでお酒も飲みなよ~ささグイっとグイっと」
赤城「あ、私お酒はあまり・・・・・・むぐっ」
隼鷹「そう言わずにどんどん飲んじゃいないよ! 酒保開放なんてこの先二度とないかもよ?」
扶桑「あらあら隼鷹さん、無理に飲ませたらダメよ?」
隼鷹「いーじゃん無礼講なんだし! ほら扶桑も飲んで飲んで」
扶桑「しょうがないわね・・・・・・ぐびぐび」
山城「さすがお姉さま! いい飲みっぷりです!」
金剛「Fuck! 私も負けてられないネ! 隼鷹、そこのウイスキーを寄越すデース!」
隼鷹「お、すげえ! ウイスキーのラッパ飲みだー!」
金剛「ハッハー! そこのBitch Sistersには真似できない芸当ですネー!」
山城「なんですって! 見ててくださいお姉さま、これが山城の本気です!」
隼鷹「おーっと、こっちは焼酎の一升瓶を一気飲みだー! こいつは面白くなってきたぜ!」
隼鷹「あたしも負けてられないね! 赤城、そのスコッチを取ってくれ!」
赤城「すこっち? お酒が回ってて目が・・・・・・これですか?」
隼鷹「そうそう、こいつがあれば戦艦もイチコロ・・・・・・ってこれ61cm酸素魚雷じゃーん!」
扶桑「あははは! 赤城さん、それどこから持ってきたのよ~!」
赤城「さあ・・・・・・? なんでしょうこれ、美味しいんでしょうか」
隼鷹「美味しくはないって! しかも、あたし軽空母だから装備もできないじゃん! 電ちゃん、装備しとく?」
電「い、いえ。大丈夫です」
金剛「あー! 扶桑、お前戦艦のくせに何で2連装魚雷装備してるネ! そいつを私に寄越すデース!」
扶桑「きゃあっ! どこ触ってるんですか、金剛さん!」
金剛「大きくて柔らかい上に張りのある魚雷デース! こいつで提督を垂らしこんだんデスネ!」
山城「金剛さん、ずるい! 私もお姉さまの魚雷に触りたいです!」
扶桑「山城まで何言ってるの!? あなたには自分の魚雷があるでしょ!」
隼鷹「マジで? 山城ちゃんの魚雷はどんな感じかな~?」
山城「ひゃん!? ちょっと隼鷹さん、ダメ・・・・・・服の中に手を忍ばせないでください!」
隼鷹「お、すげえ! 超やわらけえ! さすが戦艦だ、深海棲艦もイチコロだぜ!」
赤城「ああ、気持ち悪い・・・・・・酔覚ましに何か食べたい・・・・・・あ、こんなところに肉まんがあるじゃないですか」
隼鷹「わお! 赤城、不意打ちとはやるね!」
赤城「あ、この肉まん、すごく大きくて身もぎっしり詰まってる・・・・・・一口いいですか?」
隼鷹「ストップストップ! それ肉まんじゃなくてあたしの魚雷だから! 歯を立てたら爆発するよ! あたしが!」
金剛「Shit! どいつもこいつも私より立派な魚雷持ってやがりマース! こんな魚雷、もいでやるデース!」
扶桑「ああんっ、金剛さん、痛いわ! も、もっと優しくして・・・・・・」
山城「ああっ、お姉さま! 金剛さん、早く替わってください! 次は私ですよ!」
・・・・・・私は巻き込まれないように、そっと皆さんから距離を取りました。
扶桑さん、山城さんの2人と、金剛さんはこういう席でも何かにつけてケンカを始めようとしてしまいます。
だけど、今はみんな気分がいいので、ちょっと矛先を変えてあげれば、争いは生まれずに済みます。
その矛先を変える役目が、私がこの場に残った1つ目の理由でした。
その役目はもう必要ないみたいです。皆さん、お酒がいい感じに回ってきたみたいですし。
手に負えなくなってきた、という面もあります。皆さん、赤ら顔で脱いだりもつれ合ったりと大変なことになってます。
オトナの人はお酒を飲むと、どうしてこういう風になってしまうのでしょうか。
私は大人になったら、なるべくお酒は飲まないようにするのです。
さて・・・・・・それでは、2つ目の問題をなんとかしたいと思います。
私は賑やかな宴会の席から少しだけ離れて、そこでひとり杯を傾ける彼女のそばに座りました。
電「あの・・・・・・沖ノ島海域、突破おめでとうなのです」
伊勢「あ・・・・・・う、うん。おめでとう」
伊勢さんの杯と、ミルクの注がれた私のコップがカチンと音を立てます。
私に声をかけられて、伊勢さんはひどく戸惑っているみたいでした。まるで、人に話しかけられるのがずいぶん久しぶりであるかのように。
伊勢「・・・・・・私といても楽しくないでしょ。向こうに行きなよ」
電「でも、一言伝えたいことがあるのです」
伊勢「え・・・・・・何?」
電「その、沖ノ島海域を突破できたのは、伊勢さんのおかげだと思うのです」
電「敵の主力艦隊との戦闘のとき、開幕航空戦で重巡をクリティカルで轟沈させたのは伊勢さんの艦載機でした」
伊勢「あ・・・・・・見ててくれたんだ」
電「はい。砲戦でも、伊勢さんの主砲で2隻も戦艦を沈めていました。だからMVPも取ったのです」
伊勢「あ、はは・・・・・・嬉しいな。私がMVP取ったなんて、誰も気づいてないと思ってたわ」
電「そんなことはないのです。私はしっかり見てました。伊勢さんが誰よりも真面目に戦っているところをです」
伊勢「あ・・・・・・ありがとう。ありがとう・・・・・・そんな風に言われるの、ずいぶん久しぶりだよ」
伊勢さんは、艦隊で完全に孤立しています。着任当初からの扶桑さん、山城さんとの確執は変わらぬままです。
着任した当初の金剛さんは、伊勢さんを自分サイドに引き入れて扶桑さんたちと対抗しようとしていた時期もありました。
ですが、伊勢さんの人柄を見て「組む価値なし」と見たらしく、すぐに伊勢さんを相手にしなくなりました。
伊勢「私、けっこう張り切ったんだよね。索敵機も空母の2人に負けないくらいしっかり飛ばしてさ」
伊勢「それで砲戦が始まったら、相手をよく狙ってバーンって撃って、いい感じに当たったの」
電「そ、そうですね。すごいです」
伊勢「だよね? 轟沈する戦艦を見てさ、よっしゃって思ったの。やっぱり私はすごいんだなあって」
隼鷹さんは誰とでも話しますが、どちらかと言えば話してて楽しい人と話します。
人と話さない期間が長引いた伊勢さんは、会話の受け答えが下手になり、話を求められればオチもヤマもない話をするようになりました。
そのため、「話してもつまらない」と判断され、隼鷹さんにさえほとんど話しかけられなくなってしまいます。
赤城さんは食べること以外に最初から興味を持っていません。伊勢さんが自分の補給資源を差し出せば相手にしてくれるでしょうが・・・・・・
結果として、伊勢さんは艦隊の中で誰にも話しかけられない、むしろ何となく話しかけてはいけない感じの人になってしまいました。
実は最初に乾杯したときまで、伊勢さんは近くに座っていました。
扶桑さんの乾杯の音頭に合わせるタイミングを失い、話にも入って行けず、伊勢さんはひっそりとその場から離れていきました。
その1人で飲んでいる姿があまりにもかわいそうで、かわいそうで・・・・・・とても放ってはおけませんでした。
伊勢「・・・・・・はあ。でも、こういうのは辛いな。みんなと全然うまく打ち解けられなくて・・・・・・」
電「その・・・・・・きっと、頑張っていれば皆さんも認めてくれると思うのです」
伊勢「そうかな? 今もけっこう頑張ってるつもりなんだけどね」
電「あ・・・・・・ごめんなさいなのです」
伊勢「いいのよ、謝らなくったって。電ちゃんが悪いわけじゃないんだし」
伊勢「やっぱり・・・・・・日向がいないと私はダメなのかな」
電「日向さん・・・・・・伊勢さんの姉妹艦ですね?」
伊勢「うん。日向が来れば、戦艦だからきっと艦隊に組み込まれるでしょ?」
伊勢「そしたら、あの子とまた一緒に戦えるじゃない。その日が来るまで、私、頑張ろうと思うの」
電「そ・・・・・・そうなんですか」
どうでしょう。本当にその日は来るんでしょか。
提督さんのドロップ運の悪さはもちろんですが、それより根本的な問題があるのです。
とても言えません。提督さんが、実は伊勢さんを艦隊から外したがっているだなんて。
伊勢さんが初めて大破したとき、提督さんはその姿を見てひどく驚きました。
提督「なんか・・・・・・えらい地味だな」
そのときすでに着任していた戦艦の扶桑さんと山城さんは、大破するとすごいです。ここまでするのかと思うほどです。
ほかの戦艦を知らなかった提督さんは、そのお2人のせいで変な先入観を抱いてしまいました。
戦艦クラスの艦娘は、大破するとみんなこういう感じなんだ、と。
その後に伊勢さんの大破姿です。服が少し破れて黒インナーが覗いているだけのその姿に、提督さんは大きく落胆しました。
更にその後、金剛さんが来ました。提督さんの好みとは少し違うそうですが、その大破姿は扶桑さん、山城さんに劣らないものです。
提督「別にこれが目的じゃないけど、なんかアレだな・・・・・・伊勢だけ地味すぎて浮いてるな」
仮にもし新しい戦艦の人が着任したら、普通に考えて隼鷹さんが艦隊から外れるはずです。
扶桑さん、山城さん、伊勢さんは航空戦艦なので、今のハッピーラッキー艦隊は航空戦力が勝ちすぎています。
ここは砲戦の火力を高めるために、そろそろ戦艦相手に攻撃が通らなくなってきた隼鷹さんを一旦外す、というのがセオリーだと思います。
ですが、提督さんの思惑を考えると・・・・・・仮に日向さんが来たとき、火力に乏しいとはいえ愛着のある隼鷹さんを外すでしょうか。
私はもっと悪い未来が来るような気さえします。例えば日向さんではない戦艦の誰かが先に着任したら、という未来です。
そのとき、艦隊から外されるのは隼鷹さんか・・・・・・それとも、伊勢さんか。確率は2分の1だと思うのです。
伊勢「早く日向に会いたいなあ。日向さえ来てくれたら、全部上手く行くような気がするのに」
電「どんな人なんですか? 日向さんって」
私は気安い気持ちで、決して聞いてはならなかったことを聞いてしまいました。
伊勢「日向はね、ちょっとドジなところもあるけど、すごい子なのよ!」
伊勢さんは今までにないくらい明るい声で言いました。その顔は花の咲くような笑顔です。
伊勢「日向は私の妹なんだけど、起工日がほんの数日しか違わないから、歳は一緒なの。ほとんど双子みたいなものね」
伊勢「だから性能もほとんど一緒なの。違いは日向のほうが少しだけ足が速いくらいかな」
伊勢「その頃の日本って、まだ戦艦建造の技術が発達してなくて、なかなか世界水準を満たす戦艦が作れなかったの」
伊勢「私と日向は、初めて世界水準を満たした国産戦艦って言われたのよ」
伊勢さんは私の相づちも待たず、矢継ぎ早にしゃべります。
ときどき伊勢さんはこうなります。溜まったものが溢れて吹き上がるように、誰彼構わず話したいことを延々と話すのです。
これも伊勢さんが誰からも話しかけられなくなった原因のひとつです。
話しているうちに、ずっと曇ったままだった伊勢さんの瞳がキラキラと輝き出します。その眼差しは私を見ているようで、その実、どこも見ていません。
私はその瞳から目を逸らしたい衝動を堪えながら、辛抱強く彼女の話に耳を傾けます。
伊勢「日向がドジっていうのはね、あの子、爆発事故を起こしてるのよ。それも3回も」
伊勢「砲塔爆発が2回と、弾薬庫火災が1回ね。どれも沈んだっておかしくない大事故だったのよ」
伊勢「だけどあの子、そんなことがあった後もピンピンしてるのよ。日向は私と比べてすごく運がいいの」
伊勢「でも爆発した砲塔はさすがに修理できなくてね、機銃とか電探を代わりに取り付けてたの」
伊勢「そしたらその頃に、戦艦に飛行甲板を取り付けて航空戦艦にしようって話が出てね」
伊勢「ちょうど日向の五番砲塔がその事故でなくなったから、改装の手間が省けるってことで、私と日向の改装が決まったの!」
伊勢「後部の装備を取っ払っちゃって、代わりにカタパルトを取り付けて、とうとう世界初、航空戦艦の完成ってわけ!」
伊勢「それから私たち、2人とも小沢艦隊に配属されて・・・・・・」
電「あ、あの。伊勢さん・・・・・・」
夢中で話し続ける伊勢さんの瞳からは、いつの間にか、大粒の涙がこぼれ始めていました。
まるで壊れた蛇口のように、その瞳からは次々と雫が溢れていきます。
伊勢さんは私に言われて、初めて自分が泣いていることに気づいたようです。戸惑いながら、指先でそっと涙を拭います。
伊勢「あ、あれ? おかしいな、調子悪いのかな、私・・・・・・」
電「伊勢さん・・・・・・きっと、お酒が回ったせいなのです。もう休んだほうが・・・・・・」
伊勢「待って」
伊勢さんの顔から笑顔が掻き消えて、追いすがるように私の服の裾を掴みました。
その表情は張り詰めていて、まるで助けを求めているようです。
伊勢「待って。もう少しだけ話を聞いてよ。お願いだから・・・・・・」
電「は、はい。でも無理しないでください・・・・・・」
伊勢「・・・・・・ありがと。どこまで話したっけ? 私達が航空戦艦に改装されたところまでだったよね」
伊勢さんはぱあっと笑って、再び楽しそうに話し始めます。その瞳からは、相変わらず涙をこぼし続けています。
笑顔のまま涙を流すその姿は、まるで壊れた人形のようでした。
伊勢「そう、その後小沢艦隊ってところに配属されて、捷一号作戦に参加したの」
伊勢「だけど艦載機の生産が遅れちゃっててさ。私と日向に回してもらえる艦載機がどうしてもなかったみたいなの」
伊勢「だから結局、艦載機なしで作戦に参加することになっちゃって。あれはがっかりしたなあ」
伊勢「でも日向と一緒に戦えるのはすごく嬉しかったの。艦載機がなくたって私・・・・・・たち、は・・・・・・」
とうとう、伊勢さんの声に嗚咽が交じるようになりました。
自分が泣いていることを再び忘れてしまったように、伊勢さんは涙を拭うことすらしません。
しゃくりあげて、息を詰まらせながら、それでも伊勢さんは必死になって話を続けようとします。
伊勢「それで・・・・・・ぐすっ、それでね。その戦いの後もちゃ、ちゃんと生き延びて・・・・・・」
伊勢「それからは別々になることもあったけど・・・・・・今度は北号作戦で、また一緒になれて・・・・・・」
電「い、伊勢さん。もう無理しないで・・・・・・」
伊勢「そう、北号作戦の前に悲しいことがあって・・・・・・結局、飛行甲板が取り外されちゃったの」
伊勢「とうとう艦載機は訓練でしか運用できなかったわ。私も日向も、すごく、すごく残念で・・・・・・」
伊勢「それで、北号作戦で、一緒の任務に着いて・・・・・・それから、それからずっと、日向と一緒だったの」
伊勢「呉港にいたとき、空爆があって・・・・・・私も日向も爆撃されて、沈んで・・・・・・」
伊勢「そう、ずっと日向と一緒だったの。同じ海を戦って、同じ港で沈んだのよ。最後まで・・・・・・ずっと一緒だったの」
伊勢「あの子は妹なのに、私より全然しっかりしてて、何でも上手くやれるの。私は1人だとダメ、何をやっても全然上手く行かないわ」
伊勢「だから、日向はずっと私と一緒にいてくれたのに・・・・・・ねえ、電ちゃん。日向はどこにいるの?」
もう、伊勢さんは笑っていません。目を真っ赤に腫らせて、ぼろぼろと溢れる涙は相変わらずです。
迷子の子供のような表情で、伊勢さんは私を見つめます。その瞳にとうとう耐え切れなくなって、私はたまらず目を伏せました。
電「日向さんは・・・・・・まだ未着任なのです」
伊勢「いつ着任するの? もうすぐ? すぐこっちに来るよね」
電「・・・・・・わからない、です。でも、きっとすぐ日向さんは・・・・・・」
伊勢「日向は今、どこにいるの?」
電「・・・・・・わからないのです」
伊勢「いいこと思いついたわ。日向がここにいないなら、私から会いに行けばいいじゃない。ねえ、日向はどこ?」
電「あの、伊勢さん・・・・・・もう休みましょう。きっと伊勢さんは疲れているのです」
伊勢「嫌よ。私、日向と一緒じゃなきゃ眠れないの。ねえ、日向がどこにいるか教えてよ。私、会いに行くから」
電「あ、あの・・・・・・」
伊勢さんがどんな顔をしているのか、怖くて見ることができません。彼女が泣いていることだけはわかりました。
伊勢「それとも、待ってたほうがいいのかな? 日向なら、私を見つけてくれるかしら・・・・・・?」
電「そ、そうです。日向さんなら、きっと伊勢さんを見つけてくれるのです。日向さんならきっと・・・・・・」
伊勢「そう、そうだよね。早く来てくれないかなあ、日向。私・・・・・・私、寂しいよ」
伊勢「お願い、早く私を見つけてよ、日向。日向・・・・・・あっ、うぁあああっ・・・・・・っ!」
とうとう伊勢さんは顔を両手に埋めて、泣きじゃくり始めてしまいました。
私はその肩に手を差し伸べようとして、少し考えてから、触れることをやめます。
伊勢さんが今、手を差し伸べてほしいと思っているのは私ではないのです。
艦隊の他の人達が楽しそうに笑う声が聞こえます。そんなに離れていないのに、その声がひどく遠くに聞こえました。
伊勢「日向、助けてよ・・・・・・私、もう無理だよ。日向がいないと何もできない・・・・・・うぁあああっ・・・・・・!」
伊勢さんは私がいることなんて忘れてしまったみたいに、子供にように泣きました。
私にも、雷ちゃんという姉妹艦がいて、彼女もまた未着任です。確かに寂しいけれど、泣いてしまうほどではありません。
艦隊の皆さんにもよくしてもらっていますし、霞ちゃんも友達になってくれました。
だけど、伊勢さんはたった1人です。もしも私に、扶桑さんたちに構わず伊勢さんを助ける勇気さえあったら・・・・・・
そんなことを思っても、すでに手遅れなのです。伊勢さんはもう、こんなにも追い詰められてしまいました。
電「伊勢さん・・・・・・大丈夫、大丈夫なのです。日向さんはきっとすぐ来ますから・・・・・・」
伊勢「うっ、うぅううっ・・・・・・日向、日向・・・・・・」
もう、私の声も届きません。
沖ノ島海域は突破できました。この海に平和が戻るのも、そう遠くない未来なのかもしれません。
けれど、私達の平和は・・・・・・伊勢さんの心に、平穏が訪れるのは一体いつになるのでしょうか。
私には何ができるのでしょうか。考えているうちに日は暮れて、夕日が泣いている伊勢さんに影を落とします。
答えは出ず、立ち去ることもできないまま、伊勢さんは泣き止まないまま、静かに下りる夜の帳が、宴会の終わりを告げていきました。
どうか、どうかお願いです。明日からの日々が、伊勢さんにとって少しでも平穏なものでありますように・・・・・・
続く
2-4突破おめでとうなのです
毎回泣きそうになる(。・ω・。)