2016-06-11 20:31:45 更新

概要

ただ皆を守りたいが為に、己の身を犠牲にした哀れな娘。
それは決して善行とは言えず、ただの愚かなことである。


前書き

「→普通の会話

『→無線を通しての会話


皆の為に...



朝潮「.........」



今日もまた、彼女はたった1人で出撃していた。己の腕を磨くために、海にでては深海棲艦と戦い、そして他人との関係を断っていた。



朝潮「こんなんじゃダメだ......もっと...もっと強くならないと...」



戦艦を沈めようが、空母を沈めようが、姫級や鬼級を沈めようが、朝潮は満足できなかった。



朝潮「敵......敵は......」



皆に怪我をしてほしくなかった。人が傷付き、悲しむ姿だけは絶対に見たくなかった。

そして、同時に怖くもあった。このままじゃ自分が自分でなくってしまうなような感じは今までに何回もしたから。それでも、恐怖を抑え込み、ただひたすら戦い続けた。



朝潮「見つけた...」



彼女の顔にはほとんど生気がなかった。目には光がなく、他人からの呼び掛けには応答すらしなかった。唯一、マトモに会話をする姉妹艦の中にも、彼女のことを良しとするものはいなかった。



朝潮「もっと速く...もっと強く...」



遭遇した深海棲艦は、1隻も残らず沈められていく。砲が火を吹いても、朝潮には当たりもしない。



朝潮「帰ろう...敵が居なくなったから...」



朝潮は三時間かけ、所属の鎮守府に帰艦した。しかし、出迎えてくれる者は誰もおらず、たった1人での帰艦となった。陸に上がっても、誰とも目を合わさず、誰とも話さず、ひたすら下を向いて、自分の部屋へと向かう。



朝潮「......」ガチャッ



朝潮型の部屋の扉を開けると、いつものように満潮達が部屋でくつろいでいた。



満潮「朝潮姉...おかえり...」



朝潮「......」



朝潮は上から二段目の自分のベッドに入り、カーテンを閉める。他の朝潮型の子達と話すことはなかった。



満潮「はぁ......」



霞「しけた顔してるわね」



満潮「いつもあんな顔で帰ってこられたら、 こんな顔になるわよ...」



霞「ほんと、バカみたい」



大潮「早く朝潮姉の笑顔を見てみたいです...」



霰「朝潮姉...いつも泣きそうな顔してる...」



満潮「そういや、いつからあんな力を求めるだけの朝潮姉になったんだっけ?」



大潮「半年前です。3月28日...」



満潮「ああ......あの日ね...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~半年前 3月28日~~



提督『進軍!!』



敵主力を撃滅し、残すは敵残存艦隊を殲滅するだけという、勝ち戦であった。当時の秘書艦は朝潮であり、最前線の指揮をとっていた。



朝潮「全艦隊進軍、輪形陣で空母に被害を出さない様に!」



全員が朝潮の指揮通り輪形陣になる。当時の朝潮をとても明るく協調性を大事にしていた。周りの艦娘達は彼女を信頼しており、同時に尊敬していた。



朝潮「前方、距離一五六六、戦艦2 雷巡1 軽巡2 駆逐1! 空母の皆さん!艦載機を発艦して下さい!」



空母から艦載機が発艦され、爆撃機と攻撃機、護衛機の零戦が飛び立っていく。



その後もテキパキと指示を出し、完璧な戦闘となっている。



朝潮「満潮!貴女の艦隊を東へ!風上を抑えにいって下さい!」



満潮「了解!」



全艦隊が敵の残存戦力を包むように行動を始める。



朝潮「各艦隊、敵艦隊殲滅後に点呼よろしくお願いします!戦闘開始!」



艦娘達から深海棲艦に十字砲火が始まり、爆発音と水柱の立つ音がかき混ざる。深海棲艦からの砲弾が飛んでくるが、狙いが定まっておらず全て何もない海面へ落ちる。



満潮『朝潮姉!敵艦隊抵抗微弱!このまま行けるわ!』



無線から満潮の声が聞いてくる。朝潮は満潮の声を聞くと更なる命令を下した。



朝潮「よし、全艦突撃!深海棲艦を残さずに沈めて下さい!」



「「「『『『おおーーー!!!』』』」」」



誰もが勝利を確信していた。誰もが勝利を願っていた。そして、誰もが浮かれていた。



『キャーー!!?』



無線から大きな爆発音と共に悲鳴が聞こえてくる。



朝潮「!?何が起きたのですか!?報告を!!」



吹雪『こ、こちら後方支援艦隊旗艦、吹雪です!二方向より敵艦隊が突如出現!退路を絶たれました!』



満潮『朝潮姉!こっちの第二艦隊も三方向から狙われてる!どうするの!?』



朝潮「まさかさっきの残存戦力は囮!?そんな...!」



各場所で戦闘が起きていた。



満潮『朝潮姉!!』



朝潮「分かってる!!全艦隊、それぞれの判断で敵の包囲を突破し、鎮守府へと帰還して下さい!」



先程まで彼女達は包囲殲滅する側だったのだが、今は殲滅される側になってしまった。敵艦の総数はかなり多く、この包囲を突破するのは容易ではない。



かつて、いったい誰が言ったのであろう。『圧倒的な物量差には圧倒的な練度で立ち向かうしかない』と。確かに彼女達の練度は高かった。しかし、それを補うかの様に深海棲艦は数で攻めてくる。



朝潮「こんな数...!」



吹雪『こちら後方支援艦隊!二隻大破しました!もう戦闘続行不可能です!!ご命令を!』



満潮『こっちも三隻やられた!』



次々の大破した艦の報告が来る。それを聞いていく内に朝潮は精神的にやられていく。



朝潮「こんなはずじゃ...!」



朝潮の頭の中でいろいろなものが掻き回される。どれだけ最善策を練ろうとしても、雑念が全てそれを邪魔する。



朝潮「どうすれば...どうすれば...!」



提督『全員聞け!今から1つの策を出す!』



提督からの無線が全員の耳に入る。



朝潮「し...司令官...?」



提督『全艦隊、鎮守府へと下がりながら集結しろ!それと戦艦と空母を後方へと下がらせろ!相手の射程外から攻撃させるんだ!それから駆逐艦と軽巡は新たな艦隊を作り、複縦陣で護衛をしろ!全艦、後方をとられないように!敵艦に対して斜め45度を保て!丁字不利だけは絶対に避けるんだ!』



提督からの指示により、退却しながら陣形を整えていく。お互いが援護し合えるように、2列に別れて全速力で逃げる。



無線からは断末魔が絶え間無く続く、いくら隊列を整えたからといって、数的不利は変わらず前衛の駆逐艦と軽巡がどんどんやられる。



『いや...死にたく...!ギャアアアアアアアア!』



満潮『航行不能の艦は捨てなさい!みんな死ぬわよ!?』



『で、でも...!!」



『見棄てないでぇぇ!助けてぇぇぇぇ!!』



朝潮「あ......ああ......」



吹雪『朝潮さん!列から離れています!!速度を上げてください!!』



朝潮の心の中が絶望で埋め尽くされていた。



朝潮「私のせいで......私のせいで......」ガタガタガタガタ



遂にはその場にうずくまる。



霞「もう!なにしてんのよ!!」



朝潮「私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ」



霞「満潮!聞こえてるでしょ!!さっさとこっちに来て!このポンコツな姉を連れていくわよ!ただでさえ艦隊から離れてるんだから!」



満潮『今からそっちに行くわ!ちょっと待ってて!」



霞は朝潮を背中から羽交い締めの様な抱え方をして、空いている右手で砲撃をする。



霞「ったくもう!朝潮姉も撃ちなさいよ!死ぬつもりなの!?」



朝潮「......」



うつむいたままで朝潮は返事をしなかった。



満潮「霞!」



霞「おっそいわよ!」



満潮「うっさいわね!こっちだって深海棲艦と交戦してたの!簡単に言わないで!それよりも早く朝潮姉を運ぶわよ!」



2人で両肩を持ち、艤装の推力で朝潮を無理矢理連れていく。



霞「もう!自分で動きなさいよ!全然進まないわ!」



満潮「援護するから先にいって!このままじゃ生き残れない」



霞「バカ言ってんじゃないわよ!どこいくつもりよ!」



満潮「誰か囮にならないと助からないでしょ!?やるしかないのよ!」



そう言う満潮の手と足は震えていた。息も荒く

、目も半泣きになっていた。



霞「もう!しょうがないわね!」ポイッ



満潮「ちょ、ちょっと!?」



霞は朝潮を満潮に渡し、転進し始める。



霞「覚えておきなさい。こういうのは私の役目よ。さっさと連れていって。邪魔だから」



満潮「あんた...」



霞「私はビビりなあんたと違って、度胸があるの。こんなの怖いわけないじゃない」



満潮「...ごめん」



満潮は朝潮を引き連れて、鎮守府に向かう。霞は主砲を手に持ち、深海棲艦を見据える。



霞「さぁかかってきなさい、化け物ども。ここを通りたければ私を倒すことね!」



最大戦速で深海棲艦の群れに単艦で突っ込む。



満潮「はぁ...!はぁ...!」



満潮は朝潮を曳航している内に、仲間とはぐれてしまった。辺りを見回しても、海しかなかった。



満潮「羅針盤は壊れたし...これじゃあ鎮守府に帰れない...」



満潮「ううん!絶対に戻れる。気が滅入るから戻れなくなるのよ...さっさと何か灯台とかの目印を見つけないと...!」



チャプ...



満潮「何...?敵...?」



音がした方へ振り返るが、何もおらずただ波が揺らめいてるだけだった。



満潮「幻聴...?聞き間違え...?やっぱり疲れてるのかな...」



パシュッ



満潮「...!雷跡!」



咄嗟に躱したことで、2人とも無事だったが海中に何が居るかをわかってしまった。



満潮「潜水艦!?今は爆雷持ってないのに...!!」



周りから多数の雷跡がやって来る。何とか避け続けるが、朝潮を曳航しているため機動力が低くなっていた。



満潮「しまっ」



背後から近付いてきた魚雷に気付かず、何メートルも上に吹き飛ばされる。



満潮「そ...んな...朝潮...姉...」



満潮と朝潮の体が海に叩きつけられ、沈み始める。3メートル離れたところには、朝潮が居て満潮と同じ様に体が海に沈み始める。



満潮「ごめん...なさ...い...」



1分後には、完全に2人の体が海に沈んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朝潮「......」



体が冷たい。重い。眠たい。目蓋を開けようとしても、私の言う通りにしてくれない。



朝潮「......」コポォ...



体の中に冷たい海水が入ってくる。私の体が何かに食べられてるみたいに、体の感覚が段々と消えていく。



『朝潮姉!起きてよ!起きてってば!』



朝潮「...私を...呼んでる...?」



そう...私は朝潮型駆逐艦の朝潮...皆の為なら私は私でなくなっても構わない...そう決めたの



朝潮「皆を守りたい...私の願いはそれだけ...そうそれだけなの...その為なら私は...深海棲艦にだってなってやる...!」



朝潮の体が再び海面に浮上し始める。満潮の体を持ち、海面に出た。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


霞「ったく!いったいどんだけ居るのよ!鬱陶しいのよ!」



数々の砲弾と魚雷を避ける。霞の放つ砲弾は命中こそするものの、重巡以上の深海棲艦にはダメージを効果的に与えることが出来ない。こちらも魚雷を放つが、前衛の駆逐艦が全て戦艦の代わりに魚雷を受ける。



霞「しつこいのよ!さっさとこの海域から出ていきなさい!」



最大戦速で回避し続けていた為か、艤装が火を吹き始める。



霞「!?こんなときに!避けないといけないのに!」



停止した霞に砲弾が集中してとんでくる。



霞「はぁ...私もここまでかしら...最後に朝潮姉に...」










「会いたかったな...」










ドォーーン!!



無数の砲弾が霞に炸裂する。爆炎が霞を包み込み、黒煙が天高くたちのぼる。



霞「......?」



数分経っても衝撃が来ない。来てほしくはなかったが、それでも来ることが当たり前だから。



私の前に誰か立っている。薄く開けた目に写ったのは霞達と同じぐらいの少女がいた。腕はひび割れ手は皮膚が完全に剥がれ、紅い筋が腕に伸びていた。霞はその少女を何度も見たことがあった。



霞「朝潮姉...?」



朝潮?「...満潮をお願い」



満潮の体が霞に渡される。満潮の顔は、海水でベトベトしており服もびしょびしょだった。



満潮「けほっ......けほっ......」



霞「ほら!目を開けなさい!まだくたばってないでしょ!」



満潮「朝潮姉は...?」



霞「あそこで戦ってるわ。たった一人でね...」



満潮「そんな...!助けなきゃ...!」



霞「どうやって助けるのよ」



満潮「そんなの私達の艤装で...!」



霞「私は弾薬0に艤装が故障して動けない。あんたは主砲をどっかに無くしてきてるじゃない」



満潮「...っ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朝潮「沈め...!」



主砲の砲弾が重巡リ級の体を貫く。駆逐艦の主砲とは思えない火力を誇っていた。次々と朝潮の主砲に撃ち抜かれ沈んでいく。戦艦なら3発、空母なら2発、それ以外は全て1発当てるだけで沈んでいく。



戦艦棲姫「チィ...!」ギロッ



朝潮「見つけた...戦艦棲姫...!」



おぞましい眼が朝潮を睨み続ける。駆逐艦なら、その眼に圧倒され動けなくなってしまうほどの恐ろしさだが、朝潮はそれをものともせず全速力で戦艦棲姫の懐へと潜り込む。



朝潮「さっさと...居なくなれ...!!」



酸素魚雷を手に持ち、戦艦棲姫の大きな艤装の中にねじ込む。すごく強い力で振りほどかれ前方へ飛ばされるが、着水してから酸素魚雷をねじ込んだ辺りを主砲で撃ち抜くと、大きな爆発が起こり艤装は木っ端微塵になっていた。



戦艦棲姫「オノレ...!」



本体は何とか無事だったが、艤装がない以上深海棲艦もただの人間同様貧弱だった。



朝潮「ふふふフフ...♪」ガシッ!



戦艦棲姫の首を持ち、そのまま上へあげる。何とか力づくで手を引き剥がそうとするが、力及ばすそのまま持ち上げられる。



戦艦棲姫「グッ...!ハナセ...!」



グチャッ!



戦艦棲姫「...エッ...?」



辺りに不快な音が響く。



朝潮「ウフフ...♪」グチャァ!



戦艦棲姫の臓物が朝潮の手によって引きちぎられ、そのまま外にへと引き出される。あまりの激痛に戦艦棲姫は悲鳴を上げることなく気絶し絶命した。



朝潮「美味しい...美味しいワ...♪」クチャックチャッ



引き出した臓物を今度は自分の口の中にへと入れ、美味しそうに頬張る。



朝潮「はぁ~...♪たまらないデス...♪」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


満潮「あ...朝潮...姉...?」



霞「満潮、私を曳航して。このまま後退するわよ」



満潮「はぁ!?あんた何いってんの!?朝潮姉をほっておいて撤退なんて...!」



霞「...あれを見てもまた『朝潮』だと言い続けるの?」



満潮「...えっ...?」



目は紅く妖しく光り、夕方の海の中で不気味に揺らめいていた。皮膚のひびはますます広がり既に顔の右半分がひび割れていた。




朝潮「ウフフ...アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」



満潮「違う...朝潮姉はそんな笑い方をしない...!違う違う!!」



霞「分かったでしょ?ほら、私達は生きてる仲間を探しに行くわよ。さっさと曳航して」



満潮「......」ガチャッ



満潮の艤装からロープを引っ張り、霞の艤装に取りつける。ゆっくりとだが、引きずる様にして後退していく。


このSSへの評価

1件評価されています


2018-06-19 19:41:38

このSSへの応援

4件応援されています


みかん5858さんから
2019-05-28 15:12:42

2018-06-19 19:41:38

SS好きの名無しさんから
2016-01-29 18:18:43

SS好きの名無しさんから
2016-01-28 19:30:11

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-01-28 19:30:22 ID: REiuDsRn

ワイは好きやぞ

2: SS好きの名無しさん 2016-01-29 14:43:11 ID: 5RNV6cnZ

これからに期待


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください