2017-02-19 17:17:22 更新

概要

今回は艦娘達ではなく、艦載機の方へと眼を向けてみました。それとアルペジオ方式の艦これとなっていますので、ご注意下さい。

それと『達』と『たち』の違いは気にしないでね

やっぱり展開が急すぎるかな...アニメとかの絵を使っての表現だったらもうちょっと上手く表現出来るんですけどね


前書き

補足 主人公名 澄代 巫霊
姉の名前 澄代 彼方
「→肉声
『→無線からの声

世界観の説明

2013年 8月 15日

突如世界中で現れた深海棲艦。当初、戦う術を失った世界各国は、観賞用として作られたかつての兵器を使わざるを得なくなった。

それが幸いしたのか、かつての兵器の戦車や軍艦ならばダメージを与えられることを発見。兵器を量産するが、今度は人員の不足の問題が発覚。

研究に研究を重ね、遂に女性の意識を軍艦と連動させることができる艤装を発明。これにより陸で戦える男性が増え、圧倒的に陸戦部隊やパイロットの人数がふえた。

そして、深海棲艦が発生して15年、泥沼化した人類と深海棲艦の戦争は未だ終わらず、打開策は見出だせないままでいた。


次回の更新から大陸攻略編へと入ります


空を翔び 地へ墜ちる



『操縦不能!操縦不能!墜落...!!』



一機、また一機と落とされていく。空は味方の戦闘機と敵の戦闘機が入り乱れ、徐々に劣勢になり始める。無線にあちこちから、『墜落』という言葉か連なり、遂には自機も被弾し火を吹き始める。



「そんな...!エンジンが...!お願い、動いて!動いてよ!!」



正面から敵機が近づいてくる。少女は死を覚悟し、目を瞑る。



「神様...!!助けて...!!」



少女の意識は途絶えた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


空に憧れる少女


「!?墜ちる!!」ガバッ!!



目が覚めると、いつもの自分の部屋のベッドに居た。身体中汗まみれで、息も荒々しかった。



「ふぅ......夢かぁ......良かったぁ......」



姉「あら、何が良かったのかしら?」ニコニコ



いつもは違う部屋で寝ているはずの姉が、何故か自分の部屋に居た。



「お姉ちゃん...?何で私の部屋にいるの?」



姉「時計見てみなさい」



「え?......!?」



手に取った時計には午前7時半を指していた。



「ちょっ...は!?何でアラームがなってないの!?」



姉「いや、何でってこれ、アラームの針が9時になってるわよ」



「まずいまずいまずい!!8時半から面接なのに!!」



すぐにベッドから飛び起き、急いで寝間着を脱ぎ始める。



姉「あんた、すごい汗ね。シャワー浴びてきたら?流石にそれで面接受けるのはどうかと思うわよ」



「そんな時間が無いんだって!!一時間で服装も整えないといけないのに!!」



姉「ならちょっと待ってなさい。せめて濡らしたタオルで拭いてあげる」



姉が部屋から出ていき、30秒した頃にまた自分の部屋に入ってくる。



姉「ほら、腕上げて」フキフキ



「お姉ちゃん...流石の私も一人で出来るよ...」



姉「良いのよ。これが最後の面倒を見る機械かもしれないから」フキフキ



「く、くすぐったいってば」



姉「これで良し、ほらさっさと着替えないと間に合わないわよ」



姉が自分の体を拭き終わると、すぐに正装に着替え、荷物をまとめる。



姉「まとめ終わったら、1階に降りてらっしゃい。もう朝食を作ってあるわよ」



「分かった!」



筆箱、携帯、その他の生活用品を鞄に入れる。



「急がないと!」タッタッタッタッ



階段を駆け足で降り、リビングに飛び込む。



「朝ご飯どれ!?」



姉「そのテーブルに置いてあるわよ」



姉が指差す方を見ると、焼いたパンの上にベーコンと目玉焼きを置いたいつもの朝食があった。



「いただきます!!」



横にあった牛乳を使って、口のなかで頬張ったパンを胃のなかに押し込む。何回か、喉に詰まりそうになったが、牛乳を何度も飲むことで何とかした。



姉「そんなに、急いで喉に詰まったら病院行きよ?」



姉の忠告も無視し、パンを胃に流し込む。こんなに急いで朝食を胃に入れたのは始めてだった。



「んくっ...ぷはぁ!ごちそうさまでした!!」



朝食を食べ終えると、洗面台へ行き口を濯いで歯ブラシで歯を磨く。いつもなら、テレビを見ながら5分は歯を磨くのだが、もちろんそんな余裕がないので1分で歯磨きを終わらせた。



「うわぁ!寝癖が!!」



姉「もう朝からホントに慌ただしいわね...ほら、私が寝癖を治して、髪を結んであげるから早く座りなさい」



イスに腰掛けると、姉が長い自分の髪を専用のゴムでポニーテールに結ぶ。



姉「よし、これでいいわよ」



「ありがと!荷物は...良し!服装も良し!髪の毛も良し!行ってきます!!!」ガチャッ! タッタッタッタッ



玄関の扉を開け、全力ダッシュで駅に向かう。



姉「ふぅ...最後まで慌ただしかったわね...でも...面接に受かれば、今日からあの子も軍人かぁ...なってほしいというかなんというか...」



走っていく背中を玄関から見届け、なってほしいという期待の感情となってほしくないという感情が混ざり合い、よく分からない感情が心の中に渦巻いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~50分後~~


「ふぅ...何とか3分前に会場に入れたぁ...」



会場の中には、他の参加者達も居り皆が皆、各々の思いを胸に秘め、この会場に来ていた。



「凄い人の数...しかもほとんど男の人ばっかり...やっぱり女性って少ないのかな...?」



用意されているパイプイスに座り、体を縮こまらせていた。



「どうしよ...何を聞かれるのかな...」



「ねぇ、君」



「ひゃ、ひゃい!!」



突然の出来事に、声が裏返ってしまい、かなり恥ずかしい思いをした。声をかけてきた当の本人も、苦笑いをしている。



「えっと...君も参加者だよね。艦娘と役員、どっちに志願するの?」



「へ?艦娘?」



「もしかして君、知らなかったの?この会場では艦娘か役員のどちらかに志願できるんだよ。まぁ、男性ばっかりだしほとんどが役員だと思うけど、僕は艦娘に志願するつもりなんだ。...ってあれ?」



そこには、もう彼女の姿がなく、女性は一人この場所に立ち尽くしていた。



「...早いなぁ...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あのっ!すみません!!」



役員「ん?君は参加者かい?こんな所でどうしたんだ?」



「この会場ではパイロットの志願は出来ますか!?」グイッ



体を近づけ、役員を問い詰める。



役員「もしかして君は、パイロットに志願したいのかい?君は女性のようだが...」



「出来るんですか!?」



役員「この会場は艦娘と役員の志願者が集まる所だし、パイロットとなると他の会場のはずなんだが......ちょっとついてきてくれるか?」



「はいっ!!」



役員は少し困ったような表情で、彼女をとある人の所へ連れていく。



役員「今まで女性のパイロットなんていないからなぁ...あの人も良いと言うかどうか...」



「あの人とは...?」



役員「この鎮守府の提督だよ。こうなったら聞いてみるか」



立派な部屋まで来ると、少し扉の前で待ってるように言われる。



「まさか会場を間違えるなんて...」



少し泣きそうになり、必死に涙をこらえる。少し待っていると



「入ってくれ」



低く、怖そうな雰囲気の声が聞こえてきた。



「しっ、失礼します!!」



意外と重い扉を開け、中へと入る。



提督「私がこの鎮守府の提督だ。君か、会場を間違えた愚か者は」



「も、申し訳ありません!!」



提督「本当ならすぐに追い出すところだが...ここに来た度胸を認めてやる」



「へ...?」



提督「そこのお前、加賀を呼んでこい」



役員「はい、分かりました」



役員が部屋から出ていき、提督と少女の二人きりとなった。気まずい空気が流れ、少しの間沈黙が続いた。



提督「おい、お前」



「は、はい!何でしょうか!」



提督「お前はパイロットになりたいのだったな?」



「そうです!」



提督「ならば、1つだけ言っておいてやる。今回、志願者を募った中で艦載機に乗るパイロットは一番過酷なものだ。何故かわかるか?」



「え、えっと...その...」



提督「空戦では、己の腕だけが頼りとなる。敵機との交戦中に仲間などあてにならん。なぜなら仲間も敵機と交戦しているからな」



「は、はぁ......」



提督「それに艦載機のやることは3つある。1つ目は味方艦隊を守ることだ。敵攻撃機に沈められるなどもってのほかだ。2つめは味方爆撃機と攻撃機を護ることだ。まぁ、爆撃機か攻撃機に乗るのならば2つめは無視しろ」



「いえ!私は護衛機に乗りたいです!」



提督「そうか、なら2つめは厳守だ。それと3つ目、とても大切なことだ」



「それはいったい...?」



提督「3つ目を言う前に、お前の意気込みを聞かせてほしい」



「えっと...家族に危険が及ばないようにし、生きて家族の元に帰ることです!」



少女は怒られることを覚悟で、思っていたことを言い目を瞑る。



提督「それを聞けて良かった」



少女は驚いた。軍では生きて帰りたいなんて弱腰の言葉を言うと、殴られたりすると思っていたからだ。



「良かった...とは...?」



提督「3つ目はな、生きて帰ってくることだ。志願者の中には、『死んでも家族を守る』と言うバカがいる。おそらく、今回募った志願者の中にもそう言った者が居るだろう。そんなことを言った奴は、絶対に合格にさせないようにしている」



「私は...死にたくありません...姉に心配はかけたくありませんし...」



提督「ははは、姉が居るのか。姉思いの奴だ」



「え、あ、ありがとうございます...?」



提督「おっと、お前と話していると話が弾んでしまう。それに、あいつらも来たようだ。加賀、入れ」



加賀「失礼します」ガチャッ!



髪型をサイドポニーにしており、ほんのりと化粧された頬が美しくツヤを出している。



「(わぁ...綺麗なひと...)」



加賀「?提督、この子は?」



提督「艦載機のパイロットに志願した子だ」



加賀「この子がですか?」ジー



「.........」プルプル



加賀「こんな子までパイロットに志願するなんて...」



提督「その子が望んだことだ。好きにさせてやれ」



加賀「...分かりました」



「えっと...私は...?」



提督「合格にしてやる。家族に報告して来ると良い。そして明日の9時に鎮守府の正門に集合するように」



「わぁ...!ありがとうございます!!」タッタッタッタッ



少女は急いで部屋を出ていく。いつもよりも体が軽く感じた。



加賀「あんな子が...志願してしまうような時代だなんて...」



提督「まぁ...今は人手が足りないからな...しょうがないさ...だが、死にに行くような奴は、今後も一切合格にはさせない」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


気がつけば、いつの間にか家の玄関の前に居た。



「ただいま!!!」



姉「あら、お帰りなさい。結果は...って、その笑顔じゃ合格したようね」



「うん!これでお姉ちゃんを守ることが出来るよ!!」



姉「あらあら、頼もしい妹だこと」



「それじゃ、部屋で荷物をまとめてくるね!!」



物凄い速さで、2階へと駆け上がっていく。



姉「はぁ...母と父、そして妹も軍に行くのかぁ...皆軍に行っちゃうのね...」



机に置いたお酒を少しずつ、口に含んでいく。



姉「それに対して私は......怖さから逃げた臆病者かぁ...」



「お姉ちゃん!!」ギュッ!!



後ろから、思いっきり姉を抱きしめる。



姉「うひゃあ!?もう!後ろから急に抱きつかないでって!」



「えへへ♪良い匂い♪」



姉「ご機嫌ね。それもそうか、念願のパイロットだもんね」ナデナデ



「明日から軍人だよぉ♪お姉ちゃんを守れるよぉ♪」スリスリ



頬を姉の頬にスリスリする。やわらかくて気持ち良かったのだろう。スリスリし始めて10分経ったがいまだに止めていなかった。



姉「ねぇ...もう良いでしょ?」



「はっ!ご、ごめん!」



姉「巫霊ってさ、怖くないの?パイロットになるのをさ」



突然の姉の質問に、すぐには答えられずに居た。



「えっと...」



姉「...答えられないのに、軍に入ったの?」



「その...怖くないって言ったら嘘にはなるけど...入らないと後悔する気がして...」



姉「それが理由?」



「それと...空に憧れたからでいいかな...?」



姉「ふふっ...巫霊らしいわね...」



そう言うと、姉は立ち上がり、キッチンへと向かっていく。



姉「さてと、今から晩ごはんを作るわ。少し待っててね」



「うんっ!!」



それから数十分後、スパイスのきいたカレーの匂いが、リビング全体に広がる。



姉「ほら、今日の晩ごはんはカレーよ。これが、貴女の我が家での最期の晩餐かしら?」



「もぅ!そんな不吉なこと言わないでよ!」



姉「あはは、ごめんごめん。それじゃ食べましょうか♪」



「手を合わせて!」



「「いただきます!!」」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


提督「これに志願者達の名前がすべて書いてあるのだな?」



加賀「ええ、そのはずです」



提督「なるほど...艦娘が5人、パイロットが563人、役人が785人、合わせて1353人か...」



加賀「前回の志願者総数よりも、115人増えましたが、それでも総合的に見て、まだ人手が足りません」



提督「しょうがないさ、好き好んで軍に入ってくる奴はそんなにいない。それに、最近は深海棲艦との戦闘も日に日に激しさを増すばかりだ」



加賀「それもそうなのですが...」



提督「もしや、朝のあの子のことが気になっているのか?」



加賀「ええ...まあ... 」



提督「ふむ...そんなに心配か?」



加賀「心配にもなりますよ...どう見ても未成年だったではないですか...それに役員じゃなくて、一番死の可能性が高いパイロットだなんて...」



提督「彼女自身も、パイロットになりたがっていた。家族に強制にパイロットにさせられているようには見えなかった」



加賀「ですが...」



提督「これ以上はこちらがどうこう言える立場ではない。後は彼女が決めることだ」



加賀「...分かりました。ですが1つだけ私のお願いを聞いてはもらえませんでしょうか」



加賀はいつもよりも真剣な表情で、提督にお願いをする。



提督「なんだ?」



加賀「彼女は、一航戦のこの私、加賀に載せてはもらえませんか?」



提督「...それが加賀の願いか?」



加賀「はい、その通りです」



提督「分かった。こちらで手配しよう。何か考えがあるだろうからな」



加賀「ありがとうございます」



加賀の声は、いつもよりも高くなっているような気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~翌日~~


「それじゃ、お姉ちゃん!行ってきます!!」



姉「ええ、行ってらっしゃい。向こうでも元気にしてるのよ?」



「はーい!!」タッタッタッタッ



巫霊は、旅行用の大きなカバンに寝間着、歯ブラシ、雑誌、その他もろもろの生活用品を、全て詰め込み、鎮守府へと向かっていった。



姉「......無事に帰ってきてね......」



姉 彼方の後ろ姿は、寂しげで小さく見えたのに対して、妹 巫霊の後ろ姿は、勇ましくて大きく見えたと言う。



家を出て、50分ほど経った頃、もう鎮守府についていた。正門にはもう1000人ほどの志願者が集まっており、皆が皆意気揚々だった。



「遂に今日から私もパイロット...!」



あまりの感激に、その場で跳び跳ねそうになったが、それをすると周りから白い目で見られるので、必死にこらえた。



「ねぇ、君」



「はい!って貴女は昨日の...」



前には昨日会場で会った、可愛らしい少女が居た。



「覚えてくれてたんだね♪嬉しいよ♪」



「そういえば、名前を聞いていなかったような...」




「大丈夫さ、前の古い名前とは変わって、この鎮守府で新しい名前をもらうんだからね」



「そうですか...ん?ということは貴女、艦娘になるんですか?」



「うん、そうだよ♪まだ、なんの艦になるかは分からないけどね」



「そうですか...」



「ねぇ、君は何に志願したの?」



「わ、私ですか?私はパイロットに志願しました」



「えっ!?パイロットに!?」



「えっと...何かいけなかったでしょうか?」



「ううん、そうじゃないんだけと...女性がパイロットになるなんて始めて聞いたからさ...」



「確かに私も女性のパイロットにを見たことがないような...?」



そんな歓談をしていると、一人の男が台へと上がり、全員に号令をかける。



教官「全員!整列!!」



縦10列、横130列に並ぶ。余った53人は、縦5列になって並んだ。



教官「これより!提督よりお言葉をもらう!心して聞くように!!」



教官は台から降り、代わりに巫霊が昨日会った提督が出てきた。



提督「志願した諸君、まずは合格おめでとう。この中で目的があって志願した者が大勢だろう」



提督「だが、君達が選んだこの道は、辛いものとなるだろう。生きるか死ぬかの戦場だ。特にパイロットに志願した諸君はこのことを胸に刻んでほしい。私からは以上だ」



提督が台から降りていく。また教官が台に登る。



教官「これより、一人一人番号と名前を呼んでいく!呼ばれたものは、大きな声で返事をするように!」



一人一人名前が呼ばれていく。それから、10分ほどだった頃、遂に巫霊の名前も呼ばれた。



教官「番号432番、澄代 巫霊!」



「はい!!」



教官「今すぐこちらへと来い!」



何故か、巫霊だけが前まで来るように言われてしまい、辺りがざわついた。



「えっ...?」



教官「早くしろ!」



「は、はい!分かりました!!」



列から外れただ一人、教官の前に出る。



教官「貴様は今すぐあの建物に向かえ、良いな?」



「わ、分かりました...」



すぐに指を指された建物に向かう。レンガ造りの大きな建物であり、鉄製の扉で閉めきられていた。



「えっと...この中に入れば良いのかな...」ググッ



扉を開き中へと入ると、空母や戦艦の設計図やそのための工具がたくさんあった。



加賀「来ましたね」



中には加賀が居た。



「貴女は昨日の...」



加賀「加賀よ。貴女に1つ聞きたいことがあるの」



「何ですか?」



加賀「貴女、今から志願を取り止めるつもりはないかしら」



あまりの突然の言葉に、巫霊の表情は強張る。



「......何でですか?」



加賀「これは貴女の為に言ってるの。見たところ15歳辺りよね?」



「...16歳です...」



加賀「まだ未成年じゃない。軍になんて来なくても良かったのに...」



「空が好きなんです。それに、私頭悪いから受験に落ちちゃって...」



加賀「それでも、まだ他にあったでしょうに...」



「良いんです。後悔なんてしてませんし...」



加賀「...どうしても辞めるつもりないのね?」



「はい、その通りです」



加賀「はぁ...分かりました。もう止めません、戻って良いわ」



「分かりました...失礼します...」



巫霊が建物から出ていき、加賀が一人だけになった。



加賀「......こんなに人を心配したのは初めて...」



加賀の表情は暗く、うつむいていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建物から出た後、場所に戻っていくと、志願者達の姿はなく、教官がただ一人立っていた。



教官「来たか」



「あの...他の皆は...?」



教官「既に宿舎へと向かった。ついてこい、案内してやる」



「あ、ありがとうございます!」



教官の後ろをついていき、5分ほど歩いた。



教官「貴様はパイロットだったな。ここが、パイロットの宿舎だ。ここから見て、左手にあるのが役員の宿舎、右手にあるのが艦娘の宿舎だ」



「分かりました」



教官「それと、貴様の部屋は4○4号室だ。間違えるんしゃないぞ」



「はい!それでは失礼します!」



宿舎の扉を開け、中へと入っていく。すぐ目の前に階段があり、その前の通路は左右の部屋へと続いていく。巫霊が自室まで行くには、階段で4階まで上がる必要があるのだ。



「この階段の横にある大きな扉が食堂で...トイレが各階にあって...あっ...女子トイレってあるのかな...?」



そんなことを考えながら、一段また一段と階段を上っていく。



『おい、女が居るぞ?』



『間違えたのか?』



階段や階段の踊り場に居る男性達に不審に思われる。巫霊からしたら、かなり恥ずかしいことであった。



「うぅ...見られてる...」



自室のある4階まで他人に見られながらも辿り着くことができた。



「えっと...404...404...あった!」



扉に404と書いてある掛札があった。中にはベッドが6つ、三段ベッドが2つあり、ロッカーも6つあった。



「これが私の部屋...寮のみたいだけど、私以外誰もいない...寂しいなぁ...」



三段ベッドの一番上を陣取り、カバンを引き上げ、中身をだす。



「いやぁ...雑誌持ってきといて良かったぁ。それに、これが下着の替えで...」



忘れたものがないか、入念に確認する。5分ぐらい経った頃、部屋の扉がノックされる。



「はい、どなたですか?」



赤城「赤城といいます。少しお話がありまして」



「分かりました。すぐ開けますね」



赤城「お願いします」



部屋の扉を開け、赤城を中に招き入れる。



「すみません、椅子はなくて...ベッドに座ることになりますが...」



赤城「大丈夫ですよ。そんな長話にはなりませんから」



空いているベッドに2人が座り、話を始める。



赤城「この度は一航戦に配属、おめでとうございます」



「へ?」



突然のことに目が点になる。



赤城「あら?まだ聞いてなかったんですか?加賀さんに載ることになったんですよ♪」



「そんなの聞いてませんけど...」



赤城「伝えられるのはまだでしたっけ...?まあ良いです。前の海戦で大勢のパイロットが亡くなってしまったので、実戦を通しての訓練となりますが...」



「そうですか...」



赤城「おそらく、この後提督から招集がかかると思いますので」



「分かりました。ありがとうございます」



赤城「あ、私が口に出したのは黙っていてくださいね?」



「了解です」



談笑をしているとチャイムがなり、提督からの招集がかかる。



提督『いまから、新人達の為の講習を始める。艦娘は会議室へ、役人は食堂へ、パイロットは港へ向かえ。以上』



「あ、招集がかかりました。行ってきますね」



赤城「ええ、行ってらっしゃい♪」



駆け足で部屋を飛び出していき、港へと向かっていく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


教官「全員揃ったな」



新人パイロット達が全員並び、その中には巫霊の姿があった。熟練パイロット達は、教官の横で並んでいた。



教官「今日からお前達の教導を任せられた者だ。よろしく頼む」



「「「よろしくお願いします!!」」」



教官「良い返事だ。さて、次に私の横に居る彼らは、数々の海戦を生き抜いてきた強者達だ。暇な時にアドバイスをもらうと良い」



教官「さてと、これからパイロット専用の服を配る。1人2着だ。1列に並べ」



指示通りに5列に並び、5人ずつパイロット服を貰う。



蒼龍「あっ、今回も結構来てるねぇ~」



教官「これは蒼龍殿、こんにちは」



蒼龍「こんにちは~」



教官「今日は飛龍殿とご一緒ではないのですか?」



蒼龍「何か飛龍寝坊しちゃってさぁ、今ごろ提督に叱られてるんじゃないかなぁ?」



教官「そうでしたか。こちらもそろそろ配り終わりそうですね。今日は蒼龍殿に乗せてもらえるのですか?」



蒼龍「ううん。鳳翔先生が乗せるんだって」



教官「なるほど、鳳翔殿が。それなら蒼龍殿も手伝ってはくれませんか?」



蒼龍「私は暇してるし良いよ♪」



2人暫く談笑をしていると、服を配っていた副官が配り終わったことを伝えに来た。



副官「教官、配り終わりました」



教官「ああ、ありがとう。それでは蒼龍殿。そちらの準備よろしくお願いします」



蒼龍「了解、またね~」フリフリ



蒼龍が手を振り、教官を見送る。



教官「全員に配られたな。今すぐここで着替えろ...と言いたいところだが、1人女性が居るな。澄代、そこの倉庫で着替えてこい」



「あ、はい!」タッタッタッ



駆け足で倉庫に駆け込んでいく。



教官「お前達は今すぐそこで着替えろ。見せて恥ずかしい物など、野郎の中で無いだろ」



全員が初めて着るパイロット服に、かなり戸惑っていた。50秒ほどで全員が着ることができた。



教官「少し時間はかかったが良いだろう。おい、澄代を呼んでこい」



副官「分かりました」



巫霊を呼びに倉庫に向かう。



副官「着替え終わったか?」



「あ、はい!今着替え終わりました!」



副官「よし、ならば出てこい」



パイロット服をきた巫霊が、倉庫から出てきて列に並び直す。



教官「よし、丁度鳳翔殿と蒼龍殿の準備も終わったようだ。今からあの2隻の空母に乗り込む。少し沖へと出るから船酔いをするなよ」



新人パイロット達も、熟練パイロット達も、皆二手に別れて、空母へと乗り込んでいく。彼らには初めての体験で少し浮かれている者も居た。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


教官「基本的に、船内は自由にして良い。だが、すぐに出撃出来るよう準備をしておけ。それと...」



鳳翔「ふふっ、精が出ますね♪」



長い髪を後ろでくくり、少し声の高い女性がやって来た。



教官「これは、鳳翔殿」



鳳翔「新人さん達が訓練をするということで、応援にしました。そうだ、ついでに自己紹介もさせてくださいね」



1歩前へでて、自己紹介を始める。



鳳翔「私は航空母艦、鳳翔です。以後、よろしくお願いします」



彼女の清楚な姿と行動に、皆の目がくぎづけになっていた。



教官「今回は、鳳翔殿の力を借りてこの訓練をしている。感謝の気持ちを忘れないように!」



「「「ありがとうございます!!」」」



鳳翔「元気が良いですね♪それでは、私は操舵の方に集中しますね♪」



教官「分かりました。後のことはお任せください」



そう言うと、鳳翔は飛行甲板から中へと入っていってしました。



教官「それではこれより、実際の艦載機に乗って貰う。甲板に出す艦載機は3種類。戦闘機、爆撃機、雷撃機だ」



飛行甲板の真ん中から、1つずつ艦載機が出されていく。船の行動は全て鳳翔1人でやっているので、人手がほとんど要らない。しいて言えば、発艦と着艦である。艦娘の船には、妖精が棲んでいると言われており、爆弾や魚雷の再装填も、いつのまにか終わっている。ただ、中には人がたくさんは入れるため、ほとんどがパイロット達や、双眼鏡を使っての見張り要員しか居ない。



教官「一番最初に出てきた戦闘機は、零式艦上戦闘機、通称『ゼロ戦』だ。二番目に出てきたのは、九九式艦上爆撃機。そして最後が、九七式艦上攻撃機だ」



教官「それぞれ希望するところに別れろ。まずはそこからだ」



2つに別れた者達が、今度は3つに別れた。巫霊は当然戦闘機へと向かったのだが、一番人数が少なかった。



副官「戦闘機は私が教えることになっています。ちゃんと話を聞くようにお願いします」



副官「さて、この『ゼロ戦』ですが、非常に装甲が薄くなっております。それゆえに、流れ弾で撃墜させられるということが、多々あります」



副官「しかし、防御を捨てた代わりに、旋回性能、速度共に優れた物となっていますので、巴戦では非常に優位に立てます」



全員が持ってきたメモに、話の要点を全て書いていた。



副官「次は操縦席の説明、と言いたいところですが、実際に見てもらった方が分かりやすいかと思いますので、誰か1人が操縦席に乗ってみませんか?」



「はい!乗りたいです!」



すぐに巫霊が手を挙げた。



副官「良い心意気です。では、翼からコックピットへと登ってきてください」



言われた通りに、『ゼロ戦』のコックピットへと登り、中の座席に座る。



副官「皆さんもよく聞いておくように」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それから20分、コックピット内の説明が終わり、丁度他の機体の説明も終わっていた。



教官「それぞれ説明が終わったな。コノ後は...そうだな...」



「はい!少し発言よろしいですか?」



教官「澄代か、なんだ?」



「今日は模擬空戦しないんですか?」



教官「なるほど...その手があったか。そうだな、澄代の提案により、模擬空戦を行うことにする。だが、その前に発艦と着艦の仕方だけ、見て貰うとしよう」



熟練A「ようやく俺の出番か?」



教官「ああ、頼んだ」



熟練A「待ちくたびれたぜ。良いか、新入りども!瞬きせずに、ちゃんと見てろよ!」



ゼロ戦に乗り込み、エンジンをかける。



熟練A「エンジンは良好だな。そんじゃ、いくぞ!」



機体が動きスピードにのって、そのまま発艦していく。



「「「おおーー!!」」」



新人達から歓声があがる。初めて見る発艦に、感動していた。



教官「次は着艦だ。発艦よりも遥かに難しい。見逃すなよ」



1度機体が空母から離れ、後方へと回る。そして、速度を落としていき、後輪から甲板に着艦する。



教官「このように、甲板にあるこのネットに後輪を引っ掛けることによって、機体を完全に止める。これが基本的な着艦の仕方だ。慣れれば、このネットに引っ掛けることなく着艦出来るようにもなる。まだお前達には要らない技術だがな」



熟練A「よっと、どんなもんだ」



教官「初歩的な着艦をしてくれて助かった」



熟練A「新入りどもにはあの着艦の仕方で何とかなるだろうからな」



熟練B「こっちの出番はまだか?」



教官「少し待ってくれ。お前には艦攻の見本をしてほしい」



熟練B「なるほど、了解した」



教官「さて、次は発艦と着艦訓練をしよう。模擬空戦をしようにも発着艦が出来ないとしょうがないからな」



教官「誰からやる。誰も手を挙げなかったらこちらから指名する」



少し新人達はざわつき始める。失敗すれば、命に関わることだからだ。



「はいっ!やります!!」



教官「ほう、澄代か。熱心なのは良いことだ。先程、こいつが見せたようにやって見せてくれ」



「分かりました!」



ゼロ戦に乗り込み、エンジンをかける。先程同じように、エンジンの良い音が響く。



「これが車で言うアクセルで、これがブレーキ...よし!発艦します!」



機体が動き始める。じょしょに速くなり、機体の車輪の回る音が聞こえなくなる。



「よし、それで操縦桿を引いて...!」ググッ



機体が上に向き、高度が上がる。



「これで、発艦は完了!次は着艦!」



操縦桿を傾け、180度旋回する。



「落ち着いて...焦らずに...見たように...」



空母から100メートルほど離れたところで、再び180度旋回し、ゆっくりと速度を落とす。



「...撫でるように...」



甲板に着艦し、綺麗に止まる。それは、とても鮮やかなものであり、初心者とは思えないものだった。



「...ふう、良かったぁ...♪」



操縦席で一息つく。気を張っていたためか、物凄い脱力感に教われる。



教官「良い着艦だ。将来有望だな」



熟練A「嬢ちゃん、やるじゃねえか!」



「あ、ありがとうございます」



巫霊の成功に、新人の皆が勢いづいたのだろう。次々とてが上がり、発着艦に挑戦する。



鳳翔「素晴らしい。着艦でしたよ♪」



「あ、鳳翔さん。船の方は大丈夫なんですか?」



鳳翔「ええ、停止しているだけなら問題はありません♪」



「そうですか」



鳳翔「パイロットは着艦が上手かどうかで、力量が分かると言われています。着艦が最も難しいですからね♪」



「は、はぁ...」



鳳翔「どこかで習ったのですか?」



「いえ、パイロットになるために、ゼロ戦の飛んでる映像とか、空母からの発着艦の映像を何回も見てイメージとかしてました」



鳳翔「熱心ですね。良いことです♪」



「ただ...」



鳳翔「どうしました?」



「旋回時の体にかかる負荷があんなにきついとは思わなくて...ある程度体は鍛えていたんですが...」



鳳翔「私は艦娘なので、その事には詳しくないのですが...とある人から聞いた話だと、相当負荷がかかるそうですね」



2人が話していると、巫霊の回りに発着艦をした新人達が集まり、着艦の仕方を聞いてくる。



「うわっ!?押さないで下さい~!」



鳳翔「あらあら、人気者ですね♪」



教官「お前達、時間までなら何回でも訓練出来る。アドバイスは貰えと言ったが、せめて何回も挑戦してから聞きにいけ」



ぞろぞろと教官の所へ戻っていき、再び発着艦の訓練を始める。ゼロ戦を追加でもう一機訓練に使う。



「ふぅ...助かったぁ...」



鳳翔「上手な人は大変ですね♪」



鳳翔はいつまでもニコニコしており、笑顔が絶えることはなかった。



鳳翔「あら、提督から無線が入ってきました。少し失礼しますね」



「分かりました」



鳳翔はまた船の中に入っていく。



「さてと...私ももう1回させてもらおっと」



巫霊も再び教官の所へ戻り、訓練を再開する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鳳翔「提督、どうされました」



提督『訓練の状況を聞こうと思ってな。新人達の様子はどうだ?』



鳳翔「着艦がやはり厳しいですね。何名か失敗しています」



提督『そうか、着艦が出来なければ発艦させることが出来ないからな』



鳳翔「ですが、1人すぐに艦載機を乗りこなした子が」



提督『誰だ?』



鳳翔「澄代 巫霊さんです。あの子なら、すぐに戦力になるかと」



提督『あの子か...あのような若い子がすぐに戦力になるなんてな...皮肉なものだ』



鳳翔「いえ、あんな子だからこそ、戦力に向いているのかも知れません」



提督『どういうことだ?』



鳳翔「まだ若いからこそ、必死に生きようとして戦う。むしろ死亡率は下がるかと」



提督『なるほど...だが、俺としては少し悲しい...』



鳳翔「そうですか...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~5時間後~~


日は沈み始め、夕焼けが綺麗になり始める頃、訓練が終わる。夜の明かりの無い空では、飛行に危険が伴うからだ。



教官「今日の訓練はここまでだ。寮に戻ったら風呂に入ることだ。それとその服は替えと日替わりで着ることだ。生地をならして柔らかくするんだ。今日来たその服は籠の中に入れておけ。風呂から出れば替えが用意されている。それでは解散!」



全員、寮へと戻り、各々の自分の部屋へと戻っていく。



「教官!私はどの風呂に入ればいいですか!」



教官「お前か...少し待ってろ」



教官は空母の中に入っていき、数分後鳳翔を連れてきて出てきた。



教官「鳳翔殿、澄代を入渠部屋へと連れていってもらってもよろしいですか?」



鳳翔「なるほど、分かりました♪流石に男風呂に入れさせる訳にはいきませんからね♪」



鳳翔が巫霊の方へと歩いていき、手を差し出す。



鳳翔「それでは巫霊さん。行きましょうか♪」



「は、はい!」



手を握り、鳳翔が歩いていく方向についていく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


提督「ふぅ...」



椅子に座り、一息つく。山積みだった書類をほとんど終わらせ、今までの疲れがどっと来る。



加賀「お疲れさまです」



お盆に乗せたお茶を机におき、1歩後ろへ下がる。



提督「加賀か...今日はやけに書類が多かった」


加賀「新人の内容や新しく装備を配分しますからね。それと提督、あの子は...」



提督「あの子...ああ、澄代か。パイロットとしての操縦は優秀、即戦力として活躍出来るそうだ」



加賀「そうですか...いつから私の船に?」



提督「明後日だ。戦闘内容の訓練をしたらすぐに配属となる。大本営としても、1人でも戦力がほしいだろうからな」



加賀「分かりました...明後日ですね」



加賀は扉から出ていき、執務室には提督ただ1人だけになる。



提督「加賀があそこまで不安そうな顔を見るのは初めてだ...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鳳翔「お風呂はこちらですよ♪」



寮から少し離れた、大きな建物の中にあるお風呂場へと連れてこられる。中には、既に何人か女性が入っており、体を洗っていたり、お湯の中に体を浸けゆっくりとやすんでいた。



鳳翔「他の艦娘の娘たちも居ますが、気にしないで体を休めて下さい♪」



「あ、ありがとうございます!」



鳳翔「あ、服は籠の中に入れてくれればこちらが洗っておきますので♪」



鳳翔他の籠の中にある服を、別の籠に入れどこかに持っていってしまった。



「さてと...早くお風呂に入ろっと」



巫霊は服と下着を脱ぎ、タオルを持ってシャワーの前に座る。



「早く体を洗わないと...」



タオルを濡らしソープで泡立たせ、体を磨く。



??「あら?見ない顔ね。新しく入った子?」



「あ、えっと、誰ですか?」



瑞鶴「私は五航戦の瑞鶴よ。貴女は?」



「私は澄代 巫霊って言います。一航戦の加賀さんに配属することになって...」



瑞鶴「は!?ってことはパイロット!?貴女が!?」



何人かが巫霊達の方へと近づいてきて、少しザワザワし始める。



「こ、声が大きいです」



瑞鶴「いや...まさか君の様な女の子がパイロットだなんて...」



加賀「うるさいわよ、五航戦」



瑞鶴「うげ、出た無愛想な一航戦...」



加賀がお風呂場に現れた途端、瑞鶴が露骨に嫌な顔をした。



「えっと...仲が悪いんですか?」



加賀「そんなことより、澄代さん。明後日から私の艦に乗ってもらいます。明々後日には海戦に参加していただきます...死なないで下さいね」



瑞鶴「ちょっと待ってよ!こんな子に戦闘させる気!?」



加賀「上からの命令よ。私にはどうすることも出来ない」



瑞鶴「あんたも提督さんも落ちぶれたわね!」



加賀「...頭にきました...」



2人の仲はだんだんと悪くなっていく。まさに一触即発状態である。



「瑞鶴さん、私は大丈夫です。死ぬ覚悟で戦うなんて全くありませんから」



瑞鶴「それでも...」



加賀「分かってあげなさい。彼女の思いは誰にも止められません」



瑞鶴「どうしてあんたがそれを言うのよ!」



加賀「私も説得しようとしたからよ!」



突然の加賀の怒号に瑞鶴の目が点になる。辺りの空気も凍りつき、気まずい空気になる。



加賀「...とにかく、これ以上その事に関しては口を出さないこと。良いわね?」



瑞鶴「...分かった...」



周りの皆も加賀の言葉に頷く。



加賀「...ごめんなさいね。こんなところを見せてしまって。お詫びとして背中を洗ってあげるわ」



巫霊の泡立てたタオルを強引に奪い取り、巫霊の背中を磨く。



「あ、ありがとうございます...」



加賀「でもね、こうやって貴女を心配するのも分かってほしいの」



加賀が1つ、話を始めた。



加賀「私達艦娘わね、空母や戦艦などの軍艦を操るの。それはわかるわね?」



「はい、深海棲艦に対抗出来る唯一の存在だとか」



加賀「ええ、その通り。そして、その艦娘の中にも貴女と同じ年齢ぐらいの子が居るわ」



「それなら、私よりもその子達を心配した方が...」



加賀「確かにあの子達も心配よ。でも、艦娘よりも一番パイロットが捨て駒の様に扱われるの」



「へ...?」



加賀「艦娘は数が多くないから、比較的大切に扱われるわ。貴女の教官も鳳翔さんや蒼龍に敬語だったでしょう?」



「確かに...」



加賀「提督はなるべく死人が出ないようにはしているけど、それでも1度海戦が起きれば、必ず何十人かは犠牲になるの」



「犠牲に...」



加賀「空戦中に流れ弾で撃ち抜かれて死んでしまう者、操縦桿が壊れてそのまま海に墜ちて死ぬ者、燃料を撃たれて炎上しそのまま焼け死ぬ者、特に多いのが艦攻や艦爆で敵の攻撃を避けきれずに火を噴いて墜落して死ぬ者。他にもいろいろな死に方があるわ」



「......それでも、それでも私は家族を護るためにパイロットになったんです」



加賀「分かってる。だから、わざわざ提督に言って、私の艦に乗ってもらうことにしたの」



「加賀さんが?」



加賀「ええ、あの人達なら面倒見が良くて、貴女をちゃんと守ってくれるから。それに、貴女自身も優秀だそうですからね」



「あ、あはは...」



加賀「っと、長話をしたわね。背中流してあげるわ」



シャワーで巫霊の体に付いた泡を全て洗い流す。ついでに頭も洗い、長い髪の毛によりかなり手間取ってしまった。



加賀「髪が長いわね。切ってはどう?」



「いえ、今のこのままの方が良いんです」



加賀「そう、貴女が良いなら私も何も言わないわ」



「明明後日に実戦か...明日の内に戦闘技術を身につけないと...」



加賀「早く体をお湯につけて、ゆっくりと体を休めなさい」



「え?あ、はい」



加賀に勧められるがままに、巫霊はお湯につける。



「ふわぁ...疲れがとれます...♪」



加賀「ここは艦隊戦で傷付き、疲れた体を癒す場所。どんな状態でも、気が休まるわ」



「加賀さんも今日出撃したんですか?」



加賀「ええ、南方海域へと出撃したわ」



「どうでしたか?」



加賀「敵主力を撃滅することができなかった。そして、大勢の犠牲者を出してしまった...作戦は失敗だったわ」



少し、加賀の声が小さく落ち込んだように聞こえた巫霊は、すぐに加賀に謝った。



「ご、ごめんなさい」



加賀「いえ、貴女は関係無いわ。謝らないで」



加賀はそう言ったが、巫霊の顔を以前暗かった。その横から、陽気な女性の声が巫霊の耳に響いてくる。



??「見ない顔だね。新入りかな?」



加賀「鈴谷さん。新しい子ですが、艦娘ではありません」



鈴谷「違うの?なら新しい役員の子?」



加賀「役員でもありません。パイロットです」



鈴谷「へぇ...そうなんだ」



鈴谷は瑞鶴とは違い、あまり驚いてはいなかった。



加賀「驚かないの?」



鈴谷「驚くと言うよりは...こんな子が戦いに参加するって思うと、なんかモヤモヤするんだよねぇ」



加賀「皆、同じようなことを言うわ。でも、この子がやると言っているのだから、邪魔はしないであげてね」



鈴谷「分かってるよ。流石の鈴谷も他人の決定に口出しするつもりはないよ。そんなことよりも...♪」



ゆっくりと鈴谷が巫霊にへと近づいてくる。



「な、何ですか?」



鈴谷「それっ!」モニュッ!



「ひゃっ!?」



鈴谷が巫霊の胸を揉んで大きさを確かめる。揉み終わった鈴谷の顔は、とてもニヤニヤしていた。



鈴谷「大きさとしては...熊野と同じくらいかなぁ♪」



「もぅ!」



巫霊の顔はリンゴのように赤くなっており、とても恥ずかしそうだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


迫る戦闘



~~翌日 演習海域にて~~



教官「澄代、今日は明日に向けての戦闘訓練だ。練習相手にこいつを連れてきた」



熟練A「よっ、今日はよろしくな」



巫霊「あ、よろしくお願いします!」



空母の甲板には2機のゼロ戦と巫霊、教官達だけしか居なかった。



熟練A「今日はお前と一対一で鍛えてやるからな」



教官「そう言うことだ。最初に少しの飛行訓練だ。それから模擬戦闘に移る」



巫霊「了解です!」



巫霊は素早くゼロ戦に乗り込み、エンジンをかけた。



熟練A『おーい、聞こえるかー?』



巫霊の頭の辺りから声が聞こえる。



巫霊「へっ!?ど、どこから話してるんですか!?」



熟練A『何か言ってるが、声が遠いな。横を見てみろ。無線があるだろ?」



巫霊「無線?え、え~と...」



機体の内部の座席のすぐ横に、黒い四角の機械があった。それを手に取り、話しかける。



巫霊「これですか?」



熟練A『おお、分かったみてぇだな。そっちの準備は大丈夫か?』



巫霊「は、はい!エンジン良好、機体も良好です!」



熟練A『よっしゃ!んじゃ、発艦するぞ!』



相手の機体が動き始め、そのままスピードに乗り、甲板から飛び立っていく。



巫霊「私も!」



巫霊も相手に続き、甲板から飛び立つ。飛び立った後も機体は安定し、高度を上げていく。



熟練A『発艦出来た様だな!よし、なら次は旋回だ!操縦桿を右に倒して機体が横になったら引いてみろ!』



巫霊「右に倒してから引く...」ググッ!



指示通りに操縦桿を操作すると、ゼロ戦は右旋回を始める。



熟練A『よし、なら次は左旋回だ!さっきと逆にやってみろ!』



「さっきと逆に... 」



操縦桿を右から左に傾けてから同じ様に引く。機体が海面に対して垂直になり、そのまま左方向へと向かう。



熟練A『よし、その調子だ!なら次は射撃だ!俺がお前の機体の前で蛇行するから、偏差射撃を使って俺の機体にペイント弾を当ててみろ』



巫霊の機体のまえで、ジグザグに蛇行し、距離は二三十メートル程だ。



「へ、偏差射撃?えっと...え~と...」



熟練A『どうした?弾詰まりでも起こしたか?』



「その...偏差射撃とはなんですか?」



熟練A『まだ習ってなかったか?そうだな...簡単に言えば、敵機の少し前を狙って撃つことだ。弾着には少しかかるからな』



「なるほど...」



熟練A『偏差射撃について理解したか?』



「はい!」



熟練A『なら、俺の機体にペイント弾を当ててみろ。目標は...そうだな、四五発だな。当てられるまで終わらんぞ?』



「はい!」



巫霊は前の機体に狙いを定める。射撃ボタンに指を置き、いつでも撃てるようにする。



「少し前を...今だ!」



ペイント弾が発射される。が、全て機体のすぐ横を通り抜けていき、一発も当たることはなかった。



熟練A『少し遅かったな。もう少し早めに撃ってみろ。当たるはずだぞ』



「さっきよりも少し早めに...そこ!」



二回目に発射されたペイント弾は、機体の尾の部分と右翼と左翼の部分に一発と二発ずつ当たった。



熟練A『よし、上々だな。なら次は巴戦だ』



「巴戦?」



熟練A『そうか...新人の本格的な戦力への編入はまだ先だったな。なら、習っていないのもしかたないな。いいか?巴戦と言うのはだな、いかに高度な旋回技術で敵機の後ろをとり、敵機をおとせるか。そして、敵機からの追撃を振り切り、反撃が出来るか。そういうものだ』



「な、なるほど...」



熟練A『俺が今から旋回をしてお前の視界から逃れようとするから、お前は絶対に俺を視界に必ず入れていけ分かったな?』



「りょ、了解...善処します...」



熟練A『因みに急旋回はブレーキを使って旋回する。ならいくぞ!』



前の機体が急上昇を始め、巫霊が機体を正面に捉えようとする。が、今度は急に向きを変え、海面の方向へ向く。それについていこうとするが



「ぐっ...!」



巫霊の体に物凄い負荷がかかる。体が強い力で何かに押し付けられている様な感じがする。



何とか急旋回を終え、飛びそうに意識をはっきりとさせるが既にそこに機体はなかった。



「えっ...?ど、何処に...」



熟練A『後ろを見てみろ』



言われたままその後ろを向くと、先程まで巫霊の前を飛んでいたはずの機体が前にあった。



「え?」



熟練A『初の急旋回はどうだった?』



「えっと...意識が飛びそうでした...」



熟練A『だろうな。逃げるのが簡単だった』



「すみません...」



熟練A『この負荷に耐えるには体を鍛えるのと慣れるしかない』



「私、もう一回したいです!」



熟練A『そうか、なら燃料が尽きるまで特訓するとしよう』



「はい!」



二人は燃料が切れるギリギリまで訓練をした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ありがとうございました!」



二人はあれから五時間、機体の燃料はほとんど尽き、高かったはずの日は傾いていた。



熟練A「おう!お前は筋は良いからな!あとは、体を鍛えてGに耐えられるようにしないとな!」



「はい!体を鍛えます!それでは!」



巫霊はその場から走り去って、寮とは違う方向へと向かう。



熟練A「あっちは確かジムだったな...気が早いことで...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「失礼しまーす...」



扉を開けると、たくさんのトレーニング器具が置いてあったが、誰も居なかった。



「使って良いのかな?なら遠慮なく...少しずつ...」



んなことを言っていたが、カウンターに置いてある篭にあるプロテインや専用の飲料水を飲んだりして、筋トレをしていたら時間を完全に忘れていた。



熟練A「おーい!澄代、居るか~?」



「.........」



熟練A「一心不乱に筋トレしてやがる...おーい!返事しろー!」トントン



「...へ?」



ずっと虚空を見ていた目は、呼びかけによりようやくこちらを向く。



「っ!?痛い痛い!」



急激な筋トレをしていたため、強烈な筋肉痛が巫霊を襲う。



熟練A「そら、そんなに筋トレしたら筋肉痛になるわ...」ボソッ



「いたたたたたたたた...」ズキズキ



熟練A「全く...ほら、おぶってやるから背中に乗れ。それぐらいできるだろ?」



「はいぃ...」



ゆっくりと背中に寄りかかり、背負い上げられる。



熟練A「お前、やたら軽いな。ちゃんとメシ食ってたか?」



「食べてますよ...いたた...」



熟練A「本当か?なら、もっと食え。その体じゃ持たんぞ?」



「善処します...」



背負われたまま巫霊の部屋へ運ばれていく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~翌日~~


提督「今日は沖の島海域の哨戒任務に戦艦1隻 空母1隻 軽空母1隻 軽巡 1隻 駆逐2隻だ。最近、頻繁に深海棲艦の目撃情報が我が鎮守府にやって来る。そこで、君達には偵察と哨戒をしてほしい。もし敵艦隊と遭遇した場合、1隻も逃がすな。以上だ、皆の健闘を祈る」



提督の言葉が終わると、全員がそれぞれの艦へ乗り込んでいく。その中には巫霊の姿もあった。



「(初の実戦...哨戒とはいえ気を引き締めないと...)」



大きなラッパの音の後、全艦が港から出発する。出撃しない艦娘と鎮守府の役員は、それぞれ帽子やハンカチを持って見送る。その様子を甲板から見た巫霊は目の奥が熱くなった。



「(うぅ...泣きそうです...)」



溢れそうになった涙を何とかこらえ、鎮守府に背を向ける。



男「やぁ、少しいいかな?」



黒板の近くまで行くと、一人の男性が声をかけてきた。



「私ですか?」



男「うん、立ち話もなんだし甲板の端で座ろうか」



甲板の端まで行くと、足を海の方へ放り投げて座る。



男「君って女性だよね。何でパイロットになろうとしたの?」



「空に憧れたのとパイロットになりたかったからです。皆さんからしたらしょうもない理由かもしれませんが...」



男「ううん、確かに軍人としてはダメかも知れないけど、一人の人間としてはちゃんとした理由だと思うよ」



「そ、そうですかね///」



二人の話は三時間も続き、気がつけば沖の島近海まで来ていた。そこから少しすると、一機の戦闘機ではない機体が飛び立っていきスピーカーから加賀から声がかかる。



加賀『ただいまより沖の島海域へと突入します。偵察機の彩雲が敵艦を見つけ次第、全機出撃出来るよう準備お願いします』



男「そろそろ、準備しないとね」



「はい、それでは準備しましょうか」



男「じゃ、先に行っててよ。もう少しここに居たいからさ」



「そうですか?では、先に行ってますね」



巫霊は立ち上がり、甲板へと出てくる自分の機体へと向かう。



「(やっぱり、自分の機体を見てると安心します...)」



翼からコックピットへと乗り込むと、操縦席に座り深呼吸をする。



「ふぅ...操縦席がここまで落ち着くとは...」



なぜか、実家に居るような気分になった。



加賀『偵察機より報告。11時方向に敵艦隊を発見。全機発艦開始して下さい』



艦載機がエンジンの唸りを轟かせ始め、甲板から発艦していく。発艦した艦載機は100近くあり、その中には巫霊の機体もある。



加賀「...皆飛び立っていきましたか」



提督『加賀、状況を教えてくれ』



加賀「先程艦載機が全て発艦していきました」



提督『そうか、皆の幸運を祈ろう』



加賀「...はい」



加賀は艦橋から飛び立っていく艦載機を見送る。そんな時、巫霊は既に高い大空の中に居た。



「...これがいつもテレビで見てた空...こんなに綺麗だったんだ...!」



初めて見た憧れの大空の景色に感激する。



『こちら隊長機。全航空機、前方に敵艦隊発見。艦爆隊を先行、雷撃機がその後に続き、護衛機は攻撃を援護せよ。以上』



無線から命令が下される。



「ここから見る限り、敵艦隊に空母の姿は無し。あまり仕事は無さそうかな」



敵艦隊に近付いていくと、雷撃機が高度を下げ、艦爆隊が爆撃を始める。



「辺りに敵機の影は無し。後は艦爆隊と攻撃隊の独壇場だね......っ!?」



大きな水柱が立ち爆炎と爆音が立ち込める。その中には火を吹いた艦爆隊や攻撃隊もあった。攻撃が終わり、生き残った艦爆隊と攻撃隊は帰還を始め、護衛機は何処から敵機が来ても良いように対空砲が当たらない所まで高度を上げ、上空で旋回する。



「......このまま何もなければ...ん?」



何か遠くの方にあるのを見つける。



「あれは...島?というよりは大陸...?」



遠目でもかなり大きいのが分かる。そして、それがかなり長い地平線を作り出しているのも。



「地図を見ても方向的には何も無いはず...隊長に報告してみるかな。隊長、聞こえますか?」



『こちら隊長機。何番機からだ』



無線が繋がり、精一杯声を落ち着かせて話す。



「八番機の澄代です。ここから東の方向に大きな大陸がありますが、そちらでも確認できますか?」



『東か?少し待てこちらでも確認する』



無線が切られ機体の中はエンジンの音が響く。



『確認した。確かにあの方向にはあのような大陸は無いな。こちらから報告しておこう』



「ありがとうございます」



報告を終えると無線を切られ、再びエンジンの音だけが響く。



「ふぅ...それにしてもあの大陸。中国大陸でもないし...なんだろう...」



疑問を残しながらも上空で警戒をする。今後、その大陸で大きな大戦が起きるとは知らずに...


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それから九時間、敵艦隊を撃滅した味方艦隊は更に奥へ進む。巫霊が配属している隊の隊長は空母へ帰ってくるなり艦橋に配置されている無線を使い、誰かに無線を送っていた。



「もう日が暮れてきた。水平線に沈む夕陽...初めて見た...」



先程の戦闘により、十一機の未帰還機が出た。敵戦闘機は無かったのだが敵艦隊からの激しい対空砲火により、火を吹いて墜ちていった。



上空で見ていた巫霊は初めて人の死を見てしまい、少しばかり気が滅入っていた。



隊員A「なあ、君」



「?私ですか?」



隊員A「そう、さっきから何を見てるのか気になってな。何を見てるんだ?」



「水平線に沈む夕陽を見ています。こんな綺麗な海に何人も沈んでいったと思うと...気が滅入ってしまって...あはは...ダメですよね、私」



隊員A「いや、人の死を悲しむことが出来るのはまだちゃんとした感情があるからだ。どうしてもこんな戦いをしてると人の死なんてどうでも良くなってしまうからな」



「あなたも気が滅入ったりしないんですか?」



隊員A「俺か?俺は...そうだな...確かに隣の奴が火を吹いて墜ちていく所を隣で見たが何とも思わなくなってしまったな...」



「そうですか...」



隊員A「悲しんでる暇がないんだ。もしそこで悲しんでたら俺が殺される。俺もまだ三十路だ。まだまだ人生を謳歌したいのさ」



「ならばなぜ軍隊に?」



隊員A「かなり深い所まで聞いてくるな」



「あ、ごめんなさい...」



隊員A「いや、いいさ。理由はある。家族の為だ。君は覚えてるか?10年前の事を」



「10年前...?えぇと...」



隊員A「大湊鎮守府が深海棲艦の攻撃を受け、機能停止。そして、爆撃と砲撃が民間人の居住エリアまで届き、民間人に500人もの犠牲者が出た。そこで俺は決めたのさ。軍隊に入って俺の手で深海棲艦から家族を守ってやるってな」



「私も...お姉ちゃんを守るために軍に志願しました。最初は親戚に反対されたんですが、お姉ちゃんが、巫霊の好きにさせたら良いと言って認めてくれたんです。お姉ちゃんには小さい頃からお世話になっていたし、何か恩返しがしたかったんです」



隊員A「なるほどな。なら、志は互いに一緒って訳だ。これからも頑張っていこうぜ、大切な人を守るためにな」



隊員は巫霊に向けて笑顔を見せた。それにつられて巫霊も笑顔になり、再びほとんど水平線に沈んだ夕陽を見据える。



「(お姉ちゃん。私は迷ったり挫けそうになったりするかも知れないけれど...絶対に負けない)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~沖ノ島海域 中間部~~



前戦闘から3日、敵艦隊との遭遇が全く無く、被害もほとんど無しのままかなり進んできた。



「出航してから3日...こんな感じで何も無かったら良いのになぁ...」



隊長「八番機の澄代、少し話がある。ついてこい」



「?分かりました」



指示通り、隊長の後ろをついていくと、船内の一室につれてこられた。



「話ってなんですか?」



隊長「3日前に報告した大陸について、鎮守府から返事が帰ってきた」



「何か分かりましたか?」



隊長「いや、大陸があることしかまだ分からない。それにあの大陸がどこから出てきたのかさえ分からない。当分は、あの大陸の調査が始まると思う」



「そうですか」



ウイーン!ウイーン!



大きなサイレンが突如、艦内に響く。そのあと、スピーカーから加賀の声が巫霊達の耳に入る。



加賀『現時刻 13:36より、艦隊は鎮守府へと方向転換。直ちに帰還します。警戒の為に全パイロットは準備出来次第発艦を始めてください 』



隊長「澄代、また後で話そう」



「分かりました」



2人は会話を終えると走って自分の機体へ戻る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


深海からの来訪者



~~鎮守府 執務室~~



提督「ふむ...これが新たに発見された大陸か...」



提督は1枚の写真を持って、首をかしげる。



提督「これは衛星写真か?」



役員「はい、現在出撃中の艦隊からの報告が来た後、太平洋を衛星写真で見るとこの間まで無かった大陸がどこからともなく現れています」



提督「なるほど...これを拡大した写真はあるか?」



役員「はい、むしろこの写真が本命です」



役員からの言葉を聞いた提督は、かなり表情が厳しくなる。そして、すぐにその表情は驚愕にへと変化する。



提督「これは...!」 



拡大された衛星写真には、レンガの建物や高くそびえ立った塔なとがたくさんあった。それて、軍港などにはいつも見る深海棲艦の空母なとがたくさんある。



提督「...まさか今まで深海に居た奴らが海上に現れたというのか」



役員「おそらく。既に出撃中の艦隊には帰還命令を出しています」



提督「分かった。帰還したら、全員を広場へと呼んでほしい」



役員「分かりました。それともう1つお話があります」



提督「まだあるのか?」



役員「今日、日本時刻 05:21 に世界各国で突如、正体不明の軍による侵略が起きた様ですが、三時間程で撃滅出来た様です」



提督「...全てあの大陸が出現してから起きたことか?」



役員「はい、その通りです」



提督「...ということは...全てはあの大陸が元凶か」



役員「そう考えてもよろしいかと。そして、上層部は陸海合同の大規模作戦を検討中とのことです」



提督「分かった。また、新しいことが分かったら教えてほしい」



役員「了解しました。それでは」



書類を持って役員が執務室から出ていく。提督は役員が出ていった後、提督大きなため息をついた。



提督「ふぅ...陸海合同か...一筋縄ではいかんだろうな」



提督は、もう陸軍との衝突を見据えていた。今まで、陸軍と海軍が仲良く合同作戦をしたことが無い。口論になることは目に見えていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~3日後~~


沖ノ島海域から帰還した巫霊達は、すぐさま広場へと召集がかかった。着いたときには、既に提督が台へと登っている。全員が並び終えるとハンドスピーカーを使って話を始める。



提督「出撃中により君達には伝えられいなかったことを今から伝える。3日前の日本時刻、05:21に全世界で深海棲艦と思われる軍が侵略を始めた。幸い数は少なく三時間程で撃滅されたが、今後数が増えていくのは目に見えているだろう。そこで、上層部は大規模な陸軍との合同作戦を検討している。恐らく、世界中の軍が集まった多国籍軍になると思う。1ヶ月の間には、作戦の詳細を知らされるだろう。そこで、これからは哨戒以外の出撃を無くす。 来るべき作戦の日のために体を鍛え、そして休めてほしい。私からは以上だ。質問はあるか?......無いようだな。それでは、各自自由に解散してくれ」



話が終わると全員が散り散りとなって、風呂場へと向かう。皆が皆、それぞれの思いを抱いて、歩いていく。



「陸軍との合同作戦をかぁ...海軍と陸軍は仲が悪いって聞いたけど...大丈夫かな?まぁ...ただのパイロットの私が考えることじゃ無いかなぁ...」



加賀「いえ、貴女達パイロットにも関係のあることよ」ヒョコッ



「うわぁ!?」



風呂場への道の途中、突然巫霊の後ろから加賀が現れる。



「驚かせないで下さいよぉ~...」



加賀「驚かせたつもりは無いのだけれど...まぁ、良いわ。今からお風呂にへと向かうのでしょう?」



「はい、空母の中にもシャワーはありましたがやっぱり湯槽に浸かっている方が体も温まりますし...」



加賀「私もお風呂に向かうから一緒に行きましょう」



加賀の急な提案で、巫霊の目は点になる。



「え?...い、良いですけど...私とですか?私よりも瑞鶴さんとかと一緒に入った方が...」



加賀「いいえ、あの子はまだまだ未熟者です。艦隊行動などをもっとしてもらわないと...」



瑞鶴「それは聞き捨てならないわね」



腕を組み、眉をピクピクさせて2人の前に瑞鶴が立っていた。



加賀「...現れたわね、五航戦」



瑞鶴「ええ、一航戦の無愛想な方に何か言われた様な気がしたからね」



加賀「頭に来ました」



双方にらみ合い、まさに一触即発の状態だった。



「あわわわ、お二人とも!喧嘩するのは止めてください!」



慌てて巫霊が2人の間に割って入る。



加賀「そうです、こんなことをしている暇はありません。お風呂に向かわないと」



瑞鶴「奇遇ね、私もお風呂に向かっている途中だったのよ」



加賀「」イラッ



「もう、早くお風呂に向かいましょうよ~!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~何度目かの演習~~


「よろしくお願いします!」



今日は新人パイロットを含めた、大規模な演習となり皆の練度向上を目的としていた。巫霊は新人側として参加し、頼りにされていた。



提督「今日は私が審判をする。今日の演習が新人パイロット達にとって良いものとなることを望む」



提督の挨拶が終わると、全員が機体に乗り込む。新人達は今後渡される機体に乗り込み、巫霊達は自分の機体に乗り込む。いつも通り、巫霊は八番機だった。



全員が機体に乗り込んだ頃を見計らい、提督の隣に居る副官が前に出てくる。



副官「全機発進、互いの検討を祈ります」



副官の号令の元、全ての機体が空へ飛び立つ。



隊長『全機、今日の演習は八番機が敵になっている。気を抜くな』



二番機『了解』



新人達のチームは、先日のテストで学力が1位だったものが隊長機となっていた。



新人隊長『え、えっと...』



新人二番機『隊長、よろしく頼むぞ』



新人隊長『あ、ああ...』



新人なだけあって、完全に緊張しているのが分かった。



「(...大丈夫かなぁ...)」



新人チームの機体数は二百機、対する既存チームは五十機と、四倍もの機体数のハンデがあった。



提督『全機、撃墜の基準は五発着弾とする。新人達は、今までの訓練や口座を思いだし、見事彼らを撃墜してみせてくれ。以上だ』



提督から無線が切れると、新人隊長が皆の士気を上げようと盛り上げるつもりで話始める。



新人隊長『み、皆、今日は皆で先輩方に目にもの見せてやろうじゃないか!それに...』



その後も話は続いたが、巫霊は完全に呆れていた。



「(声が震えてるし...まぁ、私も同じ同僚だから何も言わないけどね。ここで否定的なことを言うと敵対視されかねないし...てか、向こうの機体との距離を言っとかないと)」



「隊長、敵機との距離残り1kmを切りました。指示を」 



新人隊長『お、おう、各機散開!こっちは向こうの四倍もの数だ!一機に四機ついて戦闘するように!』



「よし、やっていこう!」



最初の接敵が始まると、新人達は一斉に射撃を始める。しかし、所詮は盲撃ちの様なもの。ほとんど当たることはなかった。



「さてと、勝てるか...!」



巫霊は機体を速度をあげ一気に翻し、最後尾の機体の後ろにつく。だか、すぐには撃たなかった。



「...旋回しないか。しょうがない」



機体を反転させ、高度を落とし再び機体を反転させる。そのまま掬い上げる様にして敵機に迫る。少し先を撃つとペイント弾は全て命中する。



「よしよし、次々ぃ~」



九番機『隊長!すみません、やられました!』



隊長『分かった。後は任せろ。全機、目標を後ろに飛んでる澄代に変更しろ』



『『『了解!!』』』



七機が一斉に澄代機へと目標転換する。螺旋状に飛行して追撃を振りきろうとする。



「うわぁ...隊長~!こちら八番機です!助けて~!」



新人隊長『ちょ、ちょっと待て...今考えてる...』



「(この辺りで言い渡された司令でもこなしてみるかな...)」


~~演習開始 二時間前~~


隊長「澄代、少し良いか?」



「?何ですか?」



隊長「そちらのチームで仮の隊長に、出来たらテストをしてもらいたい」



「テストですか?」



隊長「もし、お前が危険な状態になったら一度助けを呼び掛けてみろ。どう判断したかを後で報告してほしい」



「危険な状態になったらですね。わかりました」


~~現在~~


「(まぁ、逃げるなら楽だし...むしろここは切り捨てた方が隊長としてはいい判断だね)」



新人隊長『どうすれば...っ!?うわぁ!?』



悲鳴が聞こえる。恐らくペイント弾が五発以上被弾したのだろう。



「あっちゃ~...やられちゃったか...」



新人二番機『隊長機がやられた!』



「落ち着いてください。こちら八番機、二番機は隊長機となって指示をお願いします」



新人二番機『はぁ!?んなこと言われても俺は...うわぁ!!』



連絡がとれなくなる。また撃墜判定をくらったのだろう。



「もうだめかぁ~...さっさと離脱したいんだけど...」



気がつけば残っている機体数は、巫霊を含めて

たった五機となっていた。



「まだ開始してから二十分なんだけど...」



巫霊は早く離脱したかったが、それを彼女のプライドが許さなかった。



「せめてもう一機位おとしたいよ、ね!!」



一気に操縦桿を引き、急旋回をする。一機とヘッドオンになったが、ギリギリの所で避ける。



「そこだぁ!!」



他の機体を狙っている敵機を見つけて、射撃する。それと同時に機体の右翼に被弾する。



「あっちゃ~やられたかぁ~、向こうの機体は...」



ちょうど五発、コックピットの所にペイント弾が当たっていた。



「よーし、んじゃ戻りますかね~」



被弾した機体を戻らせる。


~~演習終了 帰投後~~


提督「諸君、演習お疲れであった。新人は己の腕を確かめることができたと思う。今日の反省をして、今後にいかすように!以上!」



皆が解散すると、巫霊の元に隊長が、やって来る。



隊長「澄代、どうだった?」



「皆さん強すぎます...逃げるのが精一杯ですよ...」



隊長「むしろあそこまで逃げれるのなら、上出来だ。それと、そっちの隊長はどうだった?」



「ああ、確かにやりましたが、指示を言う前に撃墜判定をもらってました」



隊長「前に出過ぎたのだろう。その辺りも指導しなければいけないな」



「そうですね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


未知なる大地へ進む刻



大規模な陸海合同作戦を予告されてから1ヶ月近く経ったある日、全鎮守府にそして全陸軍基地に大きなサイレンが鳴り響く。それを合図に海軍と陸軍に所属する全ての人間が元帥の言葉に耳を傾ける。



元帥『諸君、遂にこの日がやって来た。この1ヶ月の間に、突如現れたかの大陸を衛星などを使って調査し、ようやく少しだが正体が分かった。かの大陸には深海棲艦の基地や補給所、要塞そして陸上型の深海棲艦が何千師団もの規模が蔓延っている。それを我々は各国の力も借り、確実に撃滅する!確かにかの大陸での戦いは今までよりも激しく、そして今までよりも長期的な戦いとなるかもしれない。だが!我らの国土にいる家族の為、皆の力を貸してほしい!』



「「「「オオォーー!!!」」」」



皆の雄叫びがどの鎮守府、基地で響き渡る。



元帥『作戦開始時刻は、早朝の03:00。全戦力を投入する!我々の、日本人の誇りと強さを奴らに示してやるのだ!!』



皆の士気が、元帥の言葉によって最高潮になる。中には興奮で顔が紅くなっている者も居た。



「遂に明日...この1ヶ月の筋トレと飛行練習の成果を見せるとき!」



既に彼女の体はこの1ヶ月でかなり鍛えられ、機体の制御もかなり上手くなっている。



「といっても...私はまだ新兵だし。前線に送られるのはもっと後かなぁ...」



隊長「お前は何を言っている」



「隊長?私はまだパイロットになって1ヶ月ですよ?簡単に言えば新兵ですよ?」



隊長「なんだ?聞いてないのか?お前はもう大尉だぞ?」



「......はっ!?大尉!?何でですか!?」



隊長「あの大陸を見つけた功績とずば抜けた飛行能力だな」



「えぇぇぇ......」



巫霊は腰を抜かしてその場にへたりこむ。



隊長「大丈夫か?」



「大丈夫じゃないですよ...新兵ですよ?大尉だなんてそんな...」



副官「それについては私から説明させてもらいます」



二人の後ろから、いつも提督の側で書類を持っている男性が現れた。巫霊が近くで見たのは、試験当日の執務室以来であった。



「あなたは...」



副官「お久しぶりです。それでは説明させて頂きます」



副官が一つの書類を巫霊に渡すと、話を始める。



副官「この度、澄代 巫霊さんが大尉に選ばれた理由は二つあります。まずは一つ目、減りつつあるパイロット、特に深刻なのは隊長格のパイロットの減少です。そこで上層部は新たに入隊した新人パイロットから、特に成績が良かった者を大尉とし、隊長格を増やすのが目的です。もちろん、貴女以外の新人パイロットの中にも大尉となった者はいます」



「ほへ~...そんなに深刻なんですか...」



隊長「北に送られたり、南に送られたり、指導する教官役も必要だからな。どうしても、人が足りなくなるからな」



巫霊と隊長は頷き、納得していた。



副官「そして二つ目、現在泥沼化している戦争終結のため、とうとう戦地に女性が送られることとなります」



「?それと、私にどのような関連性が?」



副官「貴女は、女性としてパイロットとなり、そして成績優秀で大尉になりました。上層部はこの事を国中に広め、女性の憧れの的にし、募集人数をもっと増やすつもりです」



「...えっ...?」



巫霊は絶句した。開いた口がふさがらない、とはこの事を言うのだと思った。



隊長「...なるほど、戦地に女性を派遣し今までよりも戦力を増やそうって魂胆か」



「...私のせいで他の人を巻き込んでしまったのですか...?」



副官「いえ、あくまで志願制であり、強制ではありません。が...やはり女性の志願者は増えるかと」



隊長「気にするな、澄代。軍では戦地ではほとんど自己責任、つまり、志願したのなら死んでも自己責任だ。お前が背負う必要はない」



「そうですけど...」



うじうじした態度に、隊長は大きなため息をつく。



隊長「はぁ...あのな、男だろうが女だろうが軍に入れば、大抵は平等だ。そんなことよりも、今は明日の大規模合同作戦が大切だろ。うじうじしている暇があるなら、明日に備えて早めに寝るとか、体を鍛えるとか出来ることがあるだろ?」



「...それもそうですね」



巫霊の顔が、いつもの表情に戻り始める。



「分かりました。それでは、私はトレーニングルームで筋トレしてきます」



巫霊はおじぎ草をして、二人の元を離れていく。ある程度、離れたのを確認すると、二人は会話を再開する。



隊長「...やれやれ、あいつはどう見ても十五歳から十六歳だ。本当なら高校に入り、友達と弁当を食べたりしている年のはず」



副官「彼女にも、彼女なりの目的があるはずです。それを無下にする権利は私達にはありません」



隊長「それはそうなんだがなぁ...それに、あいつの顔、どこかで来たことのあるような気がするんだ」



副官「何ですか?貴方はもしや、ロリコンだったのですか?憲兵に突き出しますよ?」



隊長「んなわけあるか!まぁいい、遂に明日だ。そっちは書類との戦い、こっちは深海棲艦との戦いか。共に頑張ろうじゃねえか」



副官「ええ、出来れば始末書を書かないようにしてくださいね」



隊長「はっはっは!そりゃどうだろうな!」



二人の談笑は、後二十分も続いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「失礼しまーす...」



この間と同様、今の時間帯は誰も使用せず、ガランとしていた。



「まずは腕立て伏せから...」



そう言うと、特殊な器具を使い、五十㎏の重りの乗せて腕立て伏せを始める。最初は、十kgを背負い一回しただけで、腕がプルプルと震えてギブアップしていたが、じょじょに慣れ、今では五十㎏と六十kg程度の重りなら、背負っても普通に腕立て伏せが出来るようになった。



「31......32......33......34......35...」



彼女の体には脂肪がほぼ無く、筋肉が増え、女の子らしい体では無くなっていた。



「44......45......46...」



巫霊の数字を数える声だけが、響いていた。



「50...っと次は腹筋かな。今の時間は...午後5時か、うん、夕食まで後2時間半あるから3セットしようかな」



足に重りを着け動けなくし、上半身を足につける。これも背中に50キロの重りを着ける。もはや筋トレが日常生活の一部となっている彼女からしたら簡単な物だった。



「筋トレが終わったら、夕食食べてからお風呂かな」



その後、彼女の筋トレは2時間近く行われていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


隊長「おい澄代、居るか?」



隊長が扉から入ってくる。いつものパイロット服ではなく、タンクトップとズボンだった。



「あ、隊長。もうご飯ですか?」



隊長「ああ、今すぐそのバーベルを置いて食べに来い。倒れるぞ」



「了解です」



持ち上げていたバーベルを指定の場所に置く。



「ふぅ...汗がすごいです...」フキフキ



隊長「さっさと行くぞ。食堂が閉まる」



「了解です」



二人は急ぎ足でトレーニングルームから出ていき、食堂へ向かう。



「あの、隊長。今の私って女の子っぽいですか?」



隊長「突然どうした?」



「いやぁ...軍人とはいえ私も一応女ですし...」



隊長「知らん、そもそも誰かを綺麗だとか好きだとか思ったことがない」



「そうですかぁ~...」



その後も少し話ながら食堂に向かう。



間宮「いらっしゃいませ、何にしますか?」



隊長「俺はいつもの定食で、澄代はどうする?」



「私は...この鮭定食にします」



間宮「分かりました。少しお待ちくださいね♪」



そう言うと間宮は奥の方へ入っていく。



「間宮さんっていつからこの食堂に居るんですか?」



隊長「さぁな、俺がこの基地に来たときにはもう居たから、もう20年前以上だな」



「へぇ~...」



それから5分、両手にお盆を持ち、間宮が二人の元にやって来る。



間宮「お待たせしました♪」



頼んだものが二人の机に置かれる。礼をすると食べ始める。



隊長「さてと、澄代。明日の作戦のことを今から話す。食べながら聞いてほしい」



「ふぁい?」モグモグ



隊長「お前、遠慮がないな...まあいい。明日港から出撃後、指定の地点に到達。その間敵艦隊を発見すれば甲板から発艦し戦闘、そのまま飛行したまま目的地まで向かう。そこまで向かえば1度着艦して補給を終わらせる。良いか?」



巫霊は口に食べ物を含みながら頷く。その姿は、幼い子供の様だった。



隊長「はぁ...俺はお前の将来が心配だよ...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~作戦実行10分前~~


遂に出港まで10分となり、皆体が震えていた。



「はぁ...はぁ...!」



手を胸に当てるといつもよりも大きく、鼓動が鳴っている。



加賀「緊張していますか?」



「あ、加賀さん...はい、緊張しすぎて少しお腹が痛くなってきました...加賀さんは緊張していないんですか?」



加賀「ふふっ...実は私も緊張しています。今までの作戦よりも心臓が早く動いて、動いてもないのに息が荒くなりそうです」



「なのに表情には出ないんですね」



加賀「生まれつきです」



しばらく経つと、チャイムがなり威厳のある声が聞こえてくる。



提督『さて諸君、遂にこの日が来た。我々海軍は、かの大陸の周辺海域を確保する。今作戦は各国と合同作戦だ。作戦名を『海一統作戦』とする。奴らに支配された海を解放し、再び取り戻すのだ!』



「おおーー!!」



全員が走ってそれぞれの所属する空母に向かう。パイロットも艦娘も関係無く、全員が入り乱れている。



私の体も赤く熱を発し、いつもよりもとても暑く感じた。全員が乗り込むと、すぐに出港を始める。いつもの出撃ラッパも今回はなぜか甲高く聞こえ、耳の中にラッパの響きがずっと響いている。



加賀『一航戦『加賀』出撃します』



遂に加賀も準備が完了し、錨をあげ出港する。現在着任しているほとんどの艦娘が出港し、遠目でもよくわかるほどの大艦隊を作り出していた。



加賀『これより、合流海域へと向かい友軍艦隊と合流します。偵察機は直ちに発艦、周囲の警戒と友軍艦隊の居場所をお願いします』



彩雲パイロット「合点だ!」



一機の艦上偵察機がすぐに飛び立っていく。私は甲板の上に立ち、どこまでも続いている水平線を眺める。



「はぁ...あの水平線の向こうには深海棲艦がワラワラと...」



甲板の端に行き、足を外に放り出して座る。



「お姉ちゃん...どうしてるかなぁ~...」



??「何だ?家族がいるのか?」



「はい、お母さんとお父さんは私が小さい頃に死んじゃったらしいのですが...」



??「そりゃあ災難だなぁ」



「はい...って、何者ですか!?」



辺りを見回すが、いつものパイロット達以外誰も居なかった。



??「下だ、下を見ろって」



「下...?...!?」ギョッ!?



下を見ると、ちょこんと小さな人がいた。いや、いや人と言うよりはふっくらとした妖精といった方が良いだろう。



「よ、妖精...?」



妖精「おう!それにしても、一般人で俺達が見えるなんて、意外と艦娘に向いてるんじゃねえか?」



「い、いえ、私は空に憧れてパイロットになりましたから...」



妖精「まぁ、それは人それぞれだからな」



「そう言えば、妖精さんってどうやって生まれたんですか?」



妖精「それを艦娘にもよく聞かれるんだけどよ。全然分からなくてさぁ~」



「分からないんですか?」



妖精「俺達も気がついたらこんな体になってたんだよ。いやぁ~不思議だねぇ~」



「あ、あはは...」



そんな雑談を妖精としていると、突然妖精の表情が険しくなってくる。



「?どうしたんですか、そんな険しい顔をして?」



妖精「そろそろ敵艦隊を偵察機が見つける頃だな。じゃあな嬢ちゃん。簡単に死ぬんじゃねえぞ!」



「はい!頑張ります!」



妖精は話を終えると、姿を消してしまう。



「...そう言えば、女性ぽかったけど何で一人称が『俺』なんだろう...?」



加賀『偵察機が敵艦隊を発見。30分後に他国の海軍と合流するため、パイロットはただちに発艦。敵艦隊を撃滅してください』



妖精の言った通り、偵察機からの報告がやって来た。



「よし...!」



機体のエンジンをかけて、飛行甲板から飛び立つ。上空にあがると隊長の編隊に入る。



隊長『全機居るな?今回は輸送艦が主役だ。絶対に一機も敵機を逃すなよ、良いな!』



だんだんと米粒の様な大きさの敵艦載機が近づいてくる。



隊長『よし!全機突っ込め!!』



護衛機が敵艦載機と空戦を始める。味方と敵が入り乱れ、空が混沌と化す。



機銃が飛び交い、流れ弾が敵味方関係なく命中する。



「すごい数です!」



隊長『怯むな!何としてもここで全て落とせ!』



巫霊は旋回し、何度も敵機の後ろにつく。その巫霊の後ろに別の敵機がついてくる。



秋月『戦闘機の皆さん!現在こちらの高射砲の射程内に入りました!ただ今より砲撃を開始しますので巻き込まれないように気を付けて下さい!』



隊長『聞いたか!8時方向から砲弾が飛んでくるぞ!全員、ちゃんと避けろよ!』



「そんな無茶な!」



そういっている間にも高射砲の砲弾が飛んでくる。離脱しようとする零戦の後ろに敵戦闘機がくっついてくるが、機銃を撃たれる前に墜ちていく。



隊長『ヒュー!最高じゃねえか!全機残った敵を食っちまえ!』



航空隊がほぼ全滅し、僅かに残った敵も零戦の無慈悲な追撃が襲う。海上では、戦艦からの砲撃が行き交い、大きな水柱がたっていた。



「こちらの八番機!空母加賀へ、爆撃隊と雷撃隊の発艦を要請します!」



加賀『こちら空母加賀。ただ今より爆撃隊、雷撃隊を発艦させます』



遠くでは輸送艦が2列に並んでこうこうしている。その周りを取り囲むかのように駆逐艦が対空警戒を行っていた。



偵察機『こちら偵察機。現地点から北東二○○○に空母2、軽空母2、駆逐艦2の航空打撃部隊を発見。現在発艦中、対処必要と認む』



隊長『こちら第一航空隊了解、直ちに対処に向かう。聞いたかお前ら!次は獲物が大量だ!全部食ってやれ!』



敵航空隊に対処するため、第一航空隊は進路を北東に変える。その時、遠くの方から見知らぬ艦載機が飛んでくる。



「隊長、遠くに初めて見る艦載機がこちらに近づいてきます。あれはなんですか?深海棲艦ではないようですが...」



隊長『?ああ、やっと来やがったか。10分の遅刻だ』



グラーフ『あー、あー、聞こえるだろうか?こちらはドイツ海軍所属のGraf Zeppelinだ。予定の時間より少し遅れてしまった。この失態は我が航空隊が払拭してくれるだろう』



無線から凛々しい女性の声が聞こえてくる。加賀とは違った、正に空母の艦娘と思わせるようだと巫霊は思った。



ドイツ隊長『ということだ。これからは俺達も航空戦に参加する。お前ら!我々ドイツ人の意地を見せてやれ!!』



「あはは...隊長になると皆さんは、勇ましくなるんですかね...?」



隊長『さぁな、だが指揮をするにはこれぐらいの方が良いんだよ』



二番機『隊長、我々も彼らに続きますか?』



隊長『そうだな、俺達も日本人としての意地を見せてやるか!!』



三番機『了解!!』



今度はドイツのFW190Tも混ざっての空戦が繰り広げられる。流石はドイツといったところであろう。20㎜機関銃の威力は強力であり、そして高い練度と相まって抜群の性能を発揮していた。



零戦部隊も負けてはいない。深海棲艦を相手にするのが生業としている彼らは、意地でも譲れないところがあった。



「ひゃあぁ!」



流れ弾が巫霊の機体に命中、幸い大した損傷は無かったが、それだけ機銃が飛び交っているということだろう。



零戦の弱点は装甲、流れ弾が1発でも当たれば機体から火を吹くかもしれない。そんな不安と戦いながら空戦を行う。それなのに彼女の口からは



「楽しい...!!」



命懸けのスリルを楽しんでいるのか、敵機を撃ち落とすことを楽しんでいるのか。誰も分からないし彼女自身も分かっていない。



恐怖から解き放たれた彼女は、今までよりも鋭い機動を見せる。零戦で行うにはとても危険な飛行も易々とこなしていく。



ドイツ隊長『あー、あー、一機大暴れしている零戦が居るが、中に乗っている人はどんな人だろうか。是非とも着陸したら会いたい』



隊長『ん?ああ、あれに乗ってるのは少女だよ。1度会ってみるか?パイロットになってからまだ日が浅いがな』



ドイツ隊長『何?少女?日本では少女も兵士にするのか?』



隊長『いや、なったとしてもせいぜい役員しか志願しなかったんだがな...』



ドイツ隊長『あくまで彼女の意思と?』



隊長『その通りだよ。加賀とかその辺りの艦娘が説得したとは思うんだが...』



ドイツ隊長『そこまであの零戦に乗っている少女の意志は固いのか。ますます会ってみたい』



隊長『ああ、降りたら会ってみろ。面白い奴だ』



気持ちが昂る。操っている零戦が自分の体のように動く。ただ今は、目の前を飛んでいる敵機を撃ち落とす。それだけを考える。一気に機体を翻して後方を飛んでいる爆撃機を落とす。



「敵機撃墜!隊長、次の目標は!?」


後書き

ドッグファイトは表現がクッソ難しい...
少し更新が遅くなるかもです...

ちなみに、大陸の大きさは地球の南半球のほとんどを埋め尽くす大きさです。


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2016-05-15 17:17:45

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2016-04-09 13:11:15

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1: SS好きの名無しさん 2016-01-01 23:28:22 ID: R6t7SLz6

オールユーニードイズキルな予感…!!

2: SS好きの名無しさん 2016-01-05 21:16:25 ID: wL42-lK0

カッコいいですね!巫霊ちゃんの活躍や、艦娘との関わり方期待しています‼
これからも頑張って下さい!
By万屋頼

3: 仁村 伊織 2016-01-24 18:03:36 ID: IMeEC55Q

うわお目のつけるところが違いますね!まさかパイロットに目を向けるなんて。  話の続き期待しています。

4: 金属製の餅 2016-03-14 23:18:59 ID: 1Wyq3GPJ

やはり空から見た艦これは格好いいですね!
更新を応援しています!


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1: SS好きの名無しさん 2016-01-02 09:01:45 ID: YWdWzdst

最近、自衛隊で初めてパイロットに女性を起用したとかなんとか言ってたのを思い出した


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