提督「風呂上りの艦娘を観察する。軽空母前編」
隼鷹「ふぃー。船だろうと人だろうと、身体洗うのは気持ちいいよなぁ」
飛鷹「それはいいけどお風呂出てすぐお酒はやめなさいよ、この前ぶっ倒れたじゃない」
隼鷹「あん時ゃ久々にいい酒飲んじゃったからでって、提督じゃーん。こんなところで何やってんの?」
飛鷹「えっ、提督?こら隼鷹前隠しなさいって!」
隼鷹「いーのいーの。アタシがいいって言ってんだから。ところでどしたの提督、入渠?」
提督「・・・・・・まあ、した方がいいのかもな」
隼鷹「だっははは。駆逐の機動性を甘く見たね」
飛鷹「むしろ、あれだけ避け続けられた提督の方がすごいと思うわよ」
提督「豆まきで負傷したのは子供の頃以来だ・・・・・・豆の硬さを思い出した」
飛鷹「むしろどうして豆まきで負傷したの?」
隼鷹「にしてもありゃファインプレーだったぜ。まさか雪風を捕虜にするとはなぁ」
提督「雪風のおかげで後半はほとんど食らわずに済んだ。雪風を背負って常に背中を向けていれば豆の方が外れるからな」
飛鷹「やっぱり本物ね・・・・・・」
隼鷹「ま、雪風も楽しそうだったし全体的に良かったじゃんか」
提督「・・・・・・まあ、な。ところで、空母組が中継代わりに飛ばしていた彩雲に艦攻を混ぜたのは誰だ?」
隼鷹「加賀じゃね?」
飛鷹「加賀、じゃない?」
提督「加賀、なのか」
隼鷹「塗装は?」
提督「偽装してあった。条約違反だ」
隼鷹「豆まきに条約も何もないけどな」
飛鷹「そう言えば加賀、提督に対して辛辣じゃない?」
提督「どうも俺の行動が気に食わんらしい」
隼鷹「ははははっ!そりゃお前、風呂上りの女の全裸ガン見しに来るような提督ぶっ飛ばしたくもなるだろーよ!」
提督「隠せばいいだろう」
隼鷹「いちいち隠しながら着替えんの、面倒じゃん」
飛鷹「話をしてなければ意外と早く終わるわよ。さ、アンタも早く着なさい」
隼鷹「へいへーい」
飛鷹「・・・・・・提督」
提督「何だ」
飛鷹「軽くでもお化粧してる子もいるし、程々にした方がいいわよ?」
提督「それを含めて全部観察する為の行動だが」
飛鷹「言うと思った。・・・・・・言った以上は、ちゃんと見たげてね。まだ傷、残ってる子がいるかも知れないから」
提督「ああ。そのつもりだ」
隼鷹「あそうだ。提督ー、この後晩酌しようぜー」
提督「俺は下戸だぞ」
隼鷹「いんだよそんなのは気にしなくっても。飛鷹も一緒に月見酒しようぜ」
飛鷹「・・・・・・そうね、たまには付き合ったげるわ」
隼鷹「お、珍しいじゃーん」
飛鷹「飲みすぎないように見とかないとね」
隼鷹「げ、そういう目的かぁ・・・・・・」
提督「俺はもう少しここにいるから、また後でな」
隼鷹「おーう。じゃー後でなー」
飛鷹「待ってるわ、提督」
飛鷹、隼鷹編 終了
鳳翔「あら、提督。こんばんは」
提督「お前はタオルを巻いているな」
鳳翔「巻いていない方がいいんですか?翔鶴さんみたいに綺麗な肌じゃありませんよ」
提督「巻いていないどころか、現状の統計では空母は隠す奴すら少ない」
鳳翔「もう、あの子たちは」
提督「・・・・・・鳳翔、背中をこちらへ向けてみろ」
鳳翔「・・・・・・」
提督「まだ傷を消していないのか」
鳳翔「消えないだけですよ。それに、この傷は戦いで負ったもの。ただでさえ少ない出撃で戦果を挙げられた証ですもの」
提督「・・・・・・」
鳳翔「名誉ですらない傷を負わされた、あの子たちの傷とは訳が違う」
提督「・・・・・・鳳翔」
鳳翔「せめて、少しでもあの子たちの痛みがわかるのならと残した傷。なのにこの傷は痛まない」
提督「それはもう、ただの痕だぞ」
鳳翔「違うんです。あの子たちの傷とは、重みが違う」
提督「・・・・・・鳳翔、お前の悪い癖だな。引き摺り過ぎる」
鳳翔「だって。誰かが覚えていてあげなくちゃ、可哀想じゃないですか・・・・・・」
提督「誰もいつまでも悪い記憶を覚えておきたいとは思わないだろう。お前が苦しむ必要はない」
鳳翔「でも、私は。助けてあげられなかったんですよ」
提督「気付けなかっただけだ」
鳳翔「気付いてあげられなかったのも罪でしょう」
提督「巧妙に隠蔽されていた事を暴くのはお前たちの仕事じゃない」
鳳翔「でも・・・・・・! ごめんなさい、熱くなってしまいました・・・・・・」
提督「構わない。身体の観察も出来た」
鳳翔「あっ、もう・・・・・・」
提督「鳳翔。終わった事だ。そろそろ流してやれ」
鳳翔「・・・・・・」
提督「俺は戻る。雲龍向けのテキストを作らねばならん」
鳳翔「・・・・・・提督」
提督「下着は盗ってないぞ」
鳳翔「違いますよ、もう。・・・・・・他の子にも、声をかけてあげてね。きっとみんな喜びます」
提督「そうか、ならそうする」
鳳翔「ええ。では、おやすみなさい」
鳳翔編 終了。
龍驤「・・・・・・ほんで、タラシ人形としてはどないするつもりなんや?」
提督「妙な名前を付けるな。俺の名前は一つだけだ」
龍驤「その名前が名前やから付けたろーとしとんのに」
提督「俺はこの名前以外を名乗る気も、名乗る事もない」
龍驤「女ったらしの癖に融通利けへんなぁ・・・・・・で、どないするん」
提督「このままここで任務を続けるだけだ」
龍驤「・・・・・・ほんまに?」
提督「・・・・・・どういう意味だ」
龍驤「別に、なんもあらへんよ。うちはなんも言わへん」
提督「・・・・・・」
龍驤「ところで、うちの身体は見んでええの?」
提督「どうせ何の変化もないんだろう」
龍驤「誰が永劫貧乳のエセ関西産まな板やねん!」
提督「・・・・・・」
龍驤「・・・・・・」
提督「エセも何もお前は関西人だろう」
龍驤「『龍驤』は関東出身やからね。キャラ付けの為にエセ装ってん」
提督「誰も出身など気にしないと思うが」
龍驤「いやいや、うちらは艦娘。艤装に込められた艦(ふね)の魂と人の意識との融合っちゅー触れ込みやし」
提督「その力の源が『信仰』である以上、広報に関する努力も欠かせない、と?」
龍驤「ま、そういうことやね。艦娘研究家のキミに講義したげるわ。・・・・・・艦の魂っちゅーのは、乗組員や艦に関わった人間の思いが生んだ存在や」
提督「日本で言うところの、付喪神。これが一番近いんだったか」
龍驤「せやな。付喪神はどっちかちゅーと妖怪に近いんやけど、日本語における言葉の一文字は重い。言霊、とも言われるアレや」
提督「つまり、実質はどうであれ神の名が付く以上、艦の魂は人類に未知の力をもたらすに値するものとなる」
龍驤「それに、艦の魂とは言え自分自身の魂と二つ持つ事になる。これは生物の定義から外れてまう。そういう生き物をなんて呼ぶか、知っとる?」
提督「神、だろう」
龍驤「その通りや。特別なものとして扱われる。そして、神である以上『信仰されなければならない』」
提督「信仰とは、単純な知名度も該当するのか?」
龍驤「せやから広報するんやで?まあ、元々が有名な艦は元々強いけど」
提督「成程、な。大和や長門の戦闘能力はそこに影響されているのか」
龍驤「だけやないで、金剛なんかは長い間活躍しとるからえらい事になっとる」
提督「・・・・・・一航戦も、また然りか?」
龍驤「・・・・・・まあ、そうやな。しかも元から最強なんて言われとったから余計やろ」
提督「お前も、一航戦だろう」
龍驤「・・・・・・うちは、ちゃうねん。鳳翔も、一航戦ではなかった」
提督「・・・・・・」
龍驤「赤城と加賀を初めて見た時、うちの中で艦の魂が反応した。その時思ったんよ、『自分たちは、一航戦の名前をこの子らに継ぐまでの間に合わせだった』」
提督「一航戦は、赤城と加賀唯一のものだと?」
龍驤「鳳翔も同じ事ゆーとった。うちらでもなく、あの五航戦姉妹でもなく。一航戦は永遠にあの子らだけのもんや」
提督「・・・・・・」
龍驤「・・・・・・あー、長風呂してもうた。キミも修復出来てんなら、はよ上がった方がええで」
提督「・・・・・・ああ、そうする」
龍驤「・・・・・・艦娘と同じ適性を持つ、男性の実験体。フォーマットは成功し晴れて提督に、か」
龍驤「闇の中に晴れも何もない癖に、何言ってんだか」
龍驤「・・・・・・のぼせてもーたかな?はよあがろ」
龍驤編 終了
提督「千歳、千代田、大鯨。否、龍鳳。この三人は他の艦種上がりの軽空母である」
提督「改装によって艦種が変わるタイプだ」
提督「正直、空母の中でも是非観察したい対象だった」
提督「俺が着任した時既に改装済だったのは残念だったが」
提督「上手く行けば改装前との変化を本人から聞けるかも知れない」
提督「そう思っていたのは甘かった」
提督「今までが順調過ぎたのだ」
提督「何だかんだでほとんどを観察する事に成功してきた」
提督「故の、慢心だった」
提督「いつも通り風呂上りを観察する前に叩きのめされた。三人がかりでだ」
提督「最後は床に敷いてあったマットで簀巻きにされ風呂へ放り込まれた」
提督「そのおかげで怪我は治ったが、おそらく今後チャンスは訪れまい」
提督「僅かな希望を捨てずにしばらくは好感度回復に努めようと思う」
提督「先人も言っている、不屈こそが我らの武器なのだ」
千歳、千代田、龍鳳編 未開始のまま終了。
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