提督「風呂上りの艦娘を観察する。軽空母後編」
提督「千歳、千代田、龍鳳の三人に簀巻きにされた数日後」
提督「そろそろほとぼりも冷めた頃だろうと向かった風呂には『提督立ち入り禁止』の看板が立っていた」
提督「やはり、風呂に入っている間に脱衣所へ侵入するのが駄目だったのだろう」
提督「あの温厚な龍鳳が率先して俺を簀巻きにしたのだからおそらく間違いない」
提督「風呂上りのリラックスしたところへ能面顔の俺が現れれば驚くに決まっている」
提督「迂闊だったな」
提督「そういう事だ」
祥鳳「それで、先に入ろうとする子に声をかけた上で入ろう、と?」
提督「ああ、これなら驚く事もない。いるのはわかっているんだからな」
祥鳳「提督・・・・・・」
提督「なんだ」
祥鳳「私たちは人です。艦娘である前に」
提督「当然だな」
祥鳳「人間の、女性とは基本的に脱衣所に侵入されたり裸を見られる事に対して気分を害する生き物です」
提督「観察でも駄目だと思うか」
祥鳳「ダメだと思います」
提督「そうか・・・・・・」
祥鳳「そういう訳で、諦めてください。駆逐の子たちの裸を見て憲兵さんに連れて行かれる前に」
提督「・・・・・・ふむ」
祥鳳「わかってもらえましたか?」
提督「わかった」
祥鳳「それなら良かったです!」
提督「健康診断の頻度を増やしてそのデータを引用する」
祥鳳「・・・・・」
提督「多少面倒だろうが、妖精の技術が未知数である以上細かなチェックはあっても困らないだろう。いい考えだ」
祥鳳「・・・・・・まあ、それくらいなら?」
提督「そうか」
瑞鳳「ところで提督、明日はお休みだよね?」
提督「ああ」
瑞鳳「じゃあ、鳳翔さんのお料理教室に来てくれる?」
提督「今回は何焼きだ?」
瑞鳳「・・・・・・私に振るネタでそれは、卵焼きしかなくない?」
提督「・・・・・・すまん。今何かに誘導されたようだ」
瑞鳳「誘導したの提督だよ・・・・・・じゃ、また明日ねっ」
提督「ああ、また明日」
祥鳳「そういえば、提督はここから離れられないんですよね」
提督「ああ。提督として着任した時より敷地内からは基本的に出られない。休日も有事に備える必要がある」
祥鳳「確かに、そうですよね・・・・・・」
提督「どうした?」
祥鳳「いえ、私たちはお休みをもらえるのに、提督はお休みがないようなものでしょう?」
提督「むしろ、提督としては正しい事だと思うが。外へ行ったところで別に面白くもない」
祥鳳「そんなことないです!提督だって、人間じゃないですか。お休みがないと・・・・・・疲れちゃいます」
提督「確かに、基本的にはそうなんだろう。だが俺はそういう風にできている。問題ではない」
祥鳳「・・・・・・よし」
提督「よし?」
祥鳳「提督を休ませてあげる為に、提督適性持ちの子に手伝ってもらいます!」
提督「ほう」
祥鳳「これだけたくさんいるんだもの、適性検査で提督適性が出た子も必ずいるはず!」
提督「まあ、いるだろうな」
祥鳳「そうと決まれば今から行ってきます!お風呂には入っちゃダメですからねーっ!」
提督「・・・・・・行ってしまった」
提督「・・・・・・まあ、祥鳳は出撃時には露出が多くなる。ある程度の観察は可能だ」
提督「瑞鳳は、どうすべきか」
提督「・・・・・・」
千歳「・・・・・・」
千代田「・・・・・・」
提督「む、お前たちも風呂か」
千歳「提督・・・・・・」
千代田「まだ、懲りてないんですか?」
提督「さっき祥鳳に止められた。入りはせん」
千歳「そうですか」
提督「信用してはもらえんか」
千代田「当たり前じゃない!お姉は先に入って!私が提督を見張ってるから!」
提督「そう来るか」
祥鳳、瑞鳳編 終了
千代田「大体提督はね、本気が過ぎるの」
提督「何事にも本気で取り組むのはいい事だと聞いたが」
千代田「それが過ぎるって言ってるの。艦娘の研究だからって普通お風呂にまで入らないから」
提督「一番手軽で効率的な方法だと思ったんだが」
千代田「屁理屈言わない。最良が最善とは限らないのよ」
提督「ふむ」
千代田「まあ確かに?千歳お姉キレイだし?年頃の男としては是が非でも、と思う事もあるかも知れない」
提督「いや、容姿はともかく」
千代田「でもね提督、世の中には例えどれだけお金や地位があっても手が届かないものもあるのよ・・・・・・」
提督「いや、金や地位の問題ではなく」
千代田「そう、千歳お姉はね。彼氏がいるのよ!歳下なのにめちゃくちゃ丁寧で爽やかなイケメンがっ!」
提督「・・・・・・ほう?」
千代田「休みの度に会ってデートに行くんだけど絶対気取った店に行かないの。ブラックカード持ってる金持ちがよ?」
提督「金と地位の問題らしきものが浮上したが」
千代田「千歳お姉には内緒で私にだけ言ったんだけどね、ブラックカードの事は。でもお姉気付いてるの。財布開く時に毎回見えてるから」
提督「話を聞く限り、千代田とも仲が良さそうだな」
千代田「そう。私とお姉の休みが重なった時は私も一緒に出かけるから。確実に私を懐柔しに来てるわ・・・・・・でもね、私は懐柔されたりしない!」
提督「単に良く出来た男、では駄目なのか?」
千代田「歳下で金持ちでイケメンで爽やかで丁寧で天然で料理できて車の運転上手くてでも何故かエスカレーター乗るの下手なのよ?設定盛り過ぎじゃない?」
提督「むしろお前はその男のスパイなんじゃないか?」
千代田「認めてない訳じゃないの、でも、やっぱり妹としては複雑なのよ・・・・・・」
提督「肉親としては、か・・・・・・」
千代田「だってあいつ、童て」
千歳「千代田ー、上がったわよー。あら、提督とお話?」
千代田「お姉!やっぱりあいつやめといた方がいい!」
千歳「え?」
千代田「だってお姉とあいつじゃどう考えても初夜なのにどろどろねちゃねちゃ朝までぶっ通しみたいなエロティック過ぎる展開にヒギュッ」
千歳「・・・・・・ふう」
提督「見事な送り襟絞めだ。一瞬で落としたか」
千歳「全く、千代田はすぐ熱くなるんだから」
提督「だからと言って妹を絞め落とすのはどうかと思うが」
千歳「父親が柔道をやってたんです。『話の出来ない相手はとりあえず落とせ』と教わりました」
提督「千代田、起きろ千代田。姉に没交渉扱いされてるぞ」
千代田「う、うぅん・・・・・・あ、お姉上がった?」
千歳「うん。千代田も早く入ってきなさい」
千代田「ん、何か微妙に気分悪いけどそうする・・・・・・」
千歳「・・・・・・さて、提督?」
提督「わかっている。観察は断念しよう」
千歳「口だけだと、もしかしたらって事があるかも知れませんよね?」
提督「・・・・・・俺は下戸なんだが」
千歳「明日はお休みなんでしょう?ちょっとくらい、付き合ってくださいよ」
提督「・・・・・・まあ、たまにはいいか」
千歳「やった。じゃあお礼に秘密の話、教えてあげます」
提督「秘密?」
千歳「千代田の彼氏の話、ですよ」
提督「(・・・・・・これはもしや、ループか?)」
千歳、千代田編 終了
提督「空母組から始めたこの全身観察」
提督「一部を除きほとんどの観察に成功した」
提督「これは大きな成果と言える」
提督「同時に、今回の反省点なども考慮して他の艦種の観察に挑もうと思う」
提督「しかしやはり駆逐だけはやめておくべきだろうか」
提督「現在隣で提督業務についての資料をまとめている龍鳳の視線が一層強くなりつつある」
提督「どうやら祥鳳の計画に賛同してくれたようだが、正直龍鳳が提督候補だったというのは驚いた」
提督「俺としては陸奥辺りは、と思ったが」
提督「ふむ」
龍鳳「・・・・・・提督?今回の事、あくまで空母の皆さんが大人だったから軽く流してもらえました」
提督「一部について大人という言葉の定義が気になるのだが」
龍鳳「話、続けますね?」
提督「ああ」
龍鳳「でも、本当は軽く流せない人の方が多いんです」
提督「確かに、裸を見られるというのはきっと致命的だろうな」
龍鳳「わかってるのにやったんですか?」
提督「お前に簀巻きにされて、わざわざタオルをつなげてまで縛られた上風呂へ放り込まれた時にな」
龍鳳「うっ・・・・・・」
提督「大して深くない風呂の底に頭をぶつけた時に思った、成程これは致命的だと」
龍鳳「・・・・・・流石に、やりすぎたと思ってます」
提督「いや、お前は当然の行為を実行してみせた。誇ってもいい」
龍鳳「いいえ、私は」
提督「お前が俺に教えてくれたのだ、女は例え事情があろうとも裸を見られたら相手を物理的に抹殺する覚悟を持たねばならない」
龍鳳「あの、提督」
提督「済まなかったな、俺はお前たちの命を預かる身でありながら常識の無い男だった」
龍鳳「提督?」
提督「またお前たちに対する理解の浅さを思い知った。今後は一層、お前たちを理解する努力を重ねる事を約束しよう」
龍鳳「は、はい」
提督「差し当たってお前たちの観察を続けるにあたっての注意点について聞きたいのだが」
龍鳳「はい!なんでもどうぞ!」
龍驤「・・・・・・」
龍驤「いや、キミ騙されてんで龍鳳」
龍驤「その男観察続ける言うてるよ?」
龍鳳編 軽空母編 空母編 全編終了
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