提督「寝起きの艦娘を観察する。重巡前編」
提督「空母組の風呂上がり観察終了から数日」
提督「結果としては、大体成功と言っていい」
提督「失敗した艦娘についてはまた方法を講じるとして、この成功は俺に大きな進歩を与えた」
提督「祥鳳、龍鳳による俺のサポート計画も順調、との事だ」
提督「軽快かつ理想的に、俺の計画は進んでいる」
提督「そう、この充実が俺に慢心を与えたのだ」
提督「風呂前で許可を取ろうと声をかけ続けた結果、ある日突然私室に拘束された」
提督「つまり、クーデターだ」
提督「見張りも交代で常時ドアの前に詰めていた、窓の施錠も完璧だ」
提督「仕事さえさせないのは大した判断だ。どうやら龍鳳以外に提督適性の高い奴がいたのだろう」
提督「排泄回数制限の為に食事まで調整された日には流石にやり過ぎたかと反省したものだ」
提督「しかし、収穫もあった」
提督「食事時には見張りとは別に監視がついた。その時、俺は監視の艦娘を取り込む事に成功した」
提督「内通者を得たのだ。次なる観察の、な」
提督「拘束を解かれて数日。俺は内通者からの連絡を受け取った」
提督「では、観察を始めよう」
青葉「ようこそいらっしゃいました、司令官」
提督「協力に感謝する、青葉」
青葉「ふふふふ。いやぁ全く、あなたは悪魔のようなお方ですねぇ」
提督「何がだ?」
青葉「これからあなたが見ようとしているのはよりにもよって女性の寝起きですよ?」
提督「俺は知識として研究、収集したいだけだ。別にやましい事をする訳ではない」
青葉「・・・・・・お風呂へ乗り込んだ人が言う事が違います。青葉はあなたについて行きますよ」
提督「先導を頼んだんだがな」
青葉「言葉の綾ですよ、と。ここです。最初の目標、私たち青葉型の私室」
提督「古鷹型の二人が泊まりに来ているとの話だが」
青葉「ええ、きちんと仕込みはしておきました。と言うか、部屋が隣なので普段から行き来は多いんですけどね」
提督「ふむ。あくまで自然に招く事の出来る好条件を普段から作っている訳か」
青葉「いや、そこまで計算してたら青葉クズですよ・・・・・・」
提督「では、突入する」
青葉「りょうかい、続きます」
提督「豆電球は点けて寝る派か」
青葉「はい。実はきぬちゃんがまっくら駄目なんです」
提督「興味深い話だな」
青葉「逆に古鷹さんと加古さんはタフです。電気ぴっかぴかでも寝られます」
提督「青葉は?」
青葉「青葉は普通ですね。まっくらでも豆電球でも」
提督「ワレアオバ?」
青葉「われあおば」
提督「お前も豆電球派だな」
青葉「はい、くらいのはトラウマです」
提督「艦の記憶、か」
青葉「どちらかと言えば、魂の方なんでしょうね・・・・・・小さい頃にお化け屋敷に入りまして」
提督「ふむ」
青葉「まっくらな中を歩いてる時に明かりが見えたんですよ」
提督「ほう」
青葉「明かりを持ってたのおばけでした」
提督「成程」
青葉「・・・・・・やっぱり、転生の影響なんですかね?」
提督「それはまだ研究中だ」
青葉「ですよねぇ・・・・・・」
提督「・・・・・・さて」
青葉「もう起きますかね?」
提督「いや」
青葉「では何故?」
提督「ついでだ、寝姿もチェックしておこう」
青葉「司令官・・・・・・あなたって人は・・・・・・」
提督「カーペットの上に雑魚寝、か」
青葉「ベッドじゃスペース足りませんからね」
提督「申請すれば大きいベッドも手配できるが」
青葉「いやいや、そこまで贅沢言う気はありませんよ。それに、これはこれで楽しいんですから」
提督「そうか。ところで」
青葉「はい」
提督「これは衣笠か」
青葉「はい、そうですね。この毛布の玉はきぬちゃんです」
提督「暗いのが駄目なのに頭から毛布を被って丸まっているとは」
青葉「その辺は青葉にもよくわかりません」
提督「その横・・・・・・これは、加古か」
青葉「ええ、ですね。加古さんは調子が良いとまるで死んだように手を組んで一切身動ぎせずに寝てます」
提督「そういう意味で死んだように、か・・・・・・」
青葉「最後は、古鷹さんですね」
提督「古鷹は真ん中の二人の方を向いて寝ているな」
青葉「青葉がもう片方の端っこで、同じように真ん中向いて寝てました」
提督「起きた時の話か」
青葉「いえ、今日の為に仕込んだカメラの試験がてら」
提督「有能だな」
青葉「それほどでも」
提督「では、一旦撤退する」
青葉「洗面所へ撤退後、いよいよ本命の寝起き観察ですね」
提督「ところで、青葉」
青葉「はい?」
提督「寝起きを観察するに当たり、お前にメリットはあるのか?」
青葉「・・・・・・ああ、何で青葉が司令官の手引きをしたか、という話ですね」
提督「そうなる」
青葉「別に理由なんてありませんよ?」
提督「・・・・・・そうか」
青葉「強いて言えば面白そうだから、ですね」
提督「俺と同じように拘束されるかも知れないぞ」
青葉「まあ、それはそれで?」
提督「・・・・・・いい度胸をしている。ならば共に来い、青葉」
青葉「りょうかい、指揮下に入ります」
衣笠「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・」
加古「・・・・・・朝だ」
衣笠「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・」
加古「・・・・・・あれ?」
衣笠「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・」
加古「・・・・・・まあ、いっか」
衣笠「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・」
加古「くぁぁ・・・・・・あ?」
衣笠「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・んん」
加古「青葉と、誰かいる?」
提督「・・・・・・ドアの向こうから気付くか」
加古「お、提督じゃん。こんな朝からどしたの」
提督「今日は寝起きの観察に来た」
加古「ははは、それ観察してどーするんだよ」
提督「俺が知識として収集したいだけだ。いつだってそれだけだ」
加古「潔いねぇ」
青葉「そんな司令官だからこそ青葉もついていこうと思った訳です」
加古「あー、やっぱり青葉かぁ。いつも起きるの二番なのにいない訳だよ」
古鷹「はぁ・・・・・・おはよう、加、こ・・・・・・」
加古「よっ。遅いかもだけど今はやめといた方、が・・・・・・あーあ、毛布に逆戻りだ」
提督「古鷹は寝癖がつきやすいのか」
青葉「ですね。すぐ直るんですけど」
加古「あたしなんてたまに放置するけど誰も気付かないしなー」
提督「それは直せ」
古鷹「なんでていとくがぁぁぁ・・・・・・」
衣笠「・・・・・・ん、なにどしたの・・・・・・」
古鷹「あっ、だめ衣笠今行ったらっ」
加古「おはよう衣笠」
青葉「おはようきぬちゃん」
提督「おはよう衣笠」
衣笠「おひゃお・・・・・・・くぁぁ」
古鷹「あ、ああ・・・・・・衣笠、寝ぼけてるっ・・・・・・!」
提督「全く、戦時とは無情なものだな」
青葉「ええ、まったくです」
加古「はははは」
古鷹「笑い事じゃないのに・・・・・・」
提督「古鷹」
古鷹「はい?」
提督「楽しいか」
古鷹「・・・・・・はい。ここにいられて良かったと思います」
提督「そうか」
加古「すげぇ衣笠二度寝始めやがったよ提督!」
提督「ほう」
青葉「・・・・・・」
古鷹「青葉、知ってたんだね」
青葉「・・・・・・青葉は、何も知りませんよ」
古鷹「・・・・・・」
青葉「何も知りたくなんて、ありませんでした」
古鷹「目を背ける事はできるよ。でも、青葉はちゃんと見てくれたんだね」
青葉「・・・・・・古鷹さん」
古鷹「なに?」
青葉「ごめんなさい。司令官を使って、青葉は」
古鷹「青葉」
青葉「・・・・・・」
古鷹「・・・・・・そろそろ衣笠を、助けてあげよっか」
青葉「・・・・・・です、ね。そろそろ起こしてあげないと、後で部屋から出てこなくなりますから」
提督「古鷹型、青葉型の観察成功」
提督「悪くない戦果だ。特に衣笠、彼女は意外性に満ち溢れている」
提督「これが艦娘の持つ可能性を示唆しているのだとすれば、うむ」
提督「・・・・・・いや」
提督「関係ないとは、言い切れない」
提督「研究はまだこれからも続く」
青葉型、古鷹型編 終了
提督「古鷹型、青葉型の寝起き観察終了後」
提督「今度こそ目を覚ました衣笠はやはり俺の事を覚えていなかった」
提督「そのまま三人には口封じをした。古鷹は最後まで抵抗したが」
提督「加古と青葉の説得に折れた。それに、元々そこまで抵抗感はなかったのではないかと思う」
提督「きっと彼女もあの時間を楽しんでいた」
提督「汚れなら落ちる」
提督「汚れたそれを捨てるのではなく落とす事を選んだ彼女ならば、今を楽しむ事もできるだろうから」
提督「なら、それを切り捨てた者は?」
利根「待っておったぞ、提督よ」
提督「ああ、待たせたな」
利根「しかし、よくこの話に乗る気になったのう?」
提督「お前も乗ると思って持ちかけてきたのだろう」
利根「当然、その通りじゃ。乗ると思っておった」
提督「筑摩の寝起きドッキリ、か」
利根「うむ!」
提督「俺は観察ができればいいのだが」
利根「筑摩を相手にそのような低い志ではいかんぞ?何せあれは儂の妹、一筋縄ではないでな」
提督「最近は練度も上がってきたからな。次の作戦、出番があれば積極的に起用させてもらう」
利根「儂も忘れるでないぞ。改二は伊達ではない!」
提督「当然だ。で、ここだな」
利根「うむ、利根型私室である」
提督「・・・・・・ふむ」
利根「どうした提督、怖気づいたか?」
提督「いや、これだけ広いのに与えられるのは二人一組の部屋ばかりなのだろうな、と」
利根「決まっておる。これからも増える仲間の為よ」
提督「ほう?」
利根「儂らにはもっと多くの仲間がおった。そやつらをみな詰めて海外の連中もみんな集めるとなればこれくらいで足りるかどうか、という具合であろうな」
提督「成程、まだ賑やかになる、と」
利根「当然じゃ!儂らは戦い、未来を生きる為に生まれたのじゃから」
提督「・・・・・・成程」
利根「では突入するぞ!付き従え!」
提督「俺が従う方なのか・・・・・・ん?」
利根「どうした提督。あっ、これ儂より先に突入するでは『あああああああああああ!!!』
提督「・・・・・・」
利根「筑摩・・・・・・筑摩か!?筑摩ーっ!」
提督「・・・・・・」
利根「筑摩!ええい目を覚ませ筑摩!それは夢じゃ!!」
提督「利根」
利根「筑摩、お前が苦しむ事などないのじゃからはよう起きろ!筑摩ッ!!」
提督「利根」
利根「なんじゃ提督こんな時に!筑摩を起こすのに手を貸せ!」
提督「お前、わざとだな」
利根「筑摩、筑摩ぁ!!」
提督「わざと俺を呼び寄せたな」
利根「筑っ・・・・・・」
提督「俺がお前を黙らせた時のように、筑摩を黙らせて欲しかったんだろう」
利根「・・・・・・」
提督「うなされているのは知っていた、いや。わかっていたんだな」
利根「・・・・・・」
提督「毎晩だろう。悪夢を見るのは」
利根「・・・・・・ああ」
提督「だからお前は俺を使おうとした。そうだな」
利根「・・・・・・そうじゃ。でも、それの何が悪い」
提督「俺が使えるから、この悪夢への対処法を知っているからだな」
利根「ああ。儂はそれで開放された。なら、筑摩とて開放されてもいいはずじゃ」
提督「違うな」
利根「何が違う。毎夜喉を潰す程に叫び苦しみ続けるのがいい事だとでも言うか」
提督「違う。筑摩は自分でこうなる事を選んだからだ。毎夜喉を潰してでも、それでも彼女は先に進もうとしている」
利根「だから放置するのか?今もこんなに苦しんでいるというのにか」
提督「お前のように記憶を切り捨てる事で痛みから逃げるよりはマシだと彼女は判断しただけの事だ。そして、俺はそれを尊重する」
利根「違う!筑摩は、そんな事言わん!」
提督「言わないだろうな。例えお前が『うるさくて眠れず疲れたから』俺を呼んだと知ったとしても」
利根「・・・・・・貴様ァ!!」
提督「・・・・・・艤装無しの近接格闘は、まるでなっていないな。こんなにも拳が軽い」
利根「貴様に何がわかるんじゃ!!筑摩は、筑摩はなッ!!」
提督「筑摩を理由にできるのか?その妹を切り捨てたお前が」
利根「ぐっ・・・・・・がああああああ、ぐぅ・・・・・・!!」
提督「・・・・・・退け」
利根「ぐぅぅ・・・・・・うっ、ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・」
提督「・・・・・・緊急通信。重巡寮まで担架を。後はわかるだろう」
利根「儂は・・・・・・どうすればよかったと言うのだッ!!」
提督「喉からだろうな、出血と脱水。ああ、鎮静剤だけでは足りん。麻酔も使え」
利根「儂らは、戦う為に生まれたのに!!なのに、なんであんな・・・・・・」
提督「利根」
利根「・・・・・・」
提督「その記憶(いたみ)を切り捨てたお前がそれを口にするな」
利根「・・・・・・」
提督「その後到着した明石と妖精により筑摩は鎮静、搬送された」
提督「利根もそれに従い付き添った」
提督「観察も何もない、今回は機が悪かった」
提督「また、日を改めるとしよう」
利根型編 終了 重巡前編 終了 続
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