第1巻 第9話 ウイジン
鶫と蒼也に連れられ、楽と千棘は凡矢理市内の休日で人気の無い路地に来ていた。
楽 「なー、つぐみ。これからどうするんだ?」
鶫 「一条楽、まずは貴様の星匣を出せ。」
楽 「あ?これかぁ?そういやあ、昨日家でレオンが吸い込まれてからは一度も触ってなかったよな」
千棘 「あれからも、パーティーに行ったり、部屋で2人で暮らし始めたり色々あったからねぇ。」
楽は自分のオレンジ色の星匣を出した。
鶫 「それに向かって、貴様の星獣の名を呼んでみろ。」
楽 「ああ?こうか?「レオン!」」
すると楽の星匣はオレンジ色に輝き出し、たちまちレオンが出て来た。
レオン 「ふー、やっと出て来れた。
楽、ボクをずっと星匣に封じたままにしておかないでよ〜。」
楽 「何か、1日ぶりにだけなのにスゲー久しぶりに感じるな。」
千棘 「昨日は他にも色々あったもんねぇ。」
鶫 「一条楽、星匣を見てみろ。」
楽 「え?星匣を?ん?何か青く光ってる!」
鶫 「ちょうどいいな………今日の夜は水星が近くなるから、初心者星神のトレーニングに最適な低級の水星属性の星獣が出ると踏んでいたが……」
楽 「は?どういう事だよそれ?」
鶫 「星匣には、星獣のサーチ機能がある。
その属性毎に違う色があり、青く光ったってことは水星属性の星獣が貴様の半径1km以内にいるという事だ。」
楽 「属性?星獣にそんなのがあるのか?」
鶫 「ああ。太陽系の9惑星に太陽と月を含めた11の属性がな。
火星、水星、木星、金星、土星、天王星、海王星、冥王星、地球
そして太陽と月の11属性だ。」
楽 「そんなにあるのか……」
鶫 「ちなみに貴様のレオンは太陽属性、
私のは土星属性、蒼也のは海王星属性だ。」
鶫 「ちなみに、ヤクザやギャングのボスや組長の血筋は多くは太陽属性と地球属性だ。
この2つの属性は色々と他の属性に比べてメリットが多くてな………
マフィアの血筋以外では珍しい。」
千棘 「へぇ〜、楽あんたすごいじゃん!」
楽 「そうなのか?親父(オヤジ)が組長って事以外自分はフツーだと思ってたんだが………」
鶫 「まあ、後は実戦でやった方が早い。
ム?来たぞ一条楽!」
楽 「え?」
ドンッ!
千棘 「キャア!」
楽達の背後から、何か鞭のようなモノが打たれた。
蒼也 「こいつは……」
鶫 「また、結構な大物が出たな。」
? 「シャアー」
楽 「なんだあコイツ………コレも星獣なのか?」
青い光を纏った全長5〜6mはある蛇が、楽の前に立っていた。
鱗はヤイバのよう。
しかしその瞳は、獣と言うよりは意志を持ち言葉を話す人間のモノのようにハッキリと自我があるような雰囲気だった。
鶫 「コイツは、水星ウミヘビだな。」
楽 「水星ウミヘビ?」
鶫 「ああ、人間の感情のうち、「嫉妬」の感情がその感情に相性のいい水星の光を受けて、蛇型の星獣になったものだ。」
蒼也 「まあ、水星属性ではメジャーな野生の星獣の1匹だね。」
楽 「ちょっと待ってくれよつぐみ!ソレは分かったけど、俺こんなのとどうやって戦えばいいんだよ?レオンよりずっと大きいぞ?」
水星ウミヘビ シュンッ
楽 「うわっ!」
千棘 「キャッ!」
鶫 「くっ!」
水星ウミヘビはその長い尾を、再びムチの様に振るった。
楽 「つぐみ!」
鶫 「言われなくても、今から説明する。
星匣から星札を出すんだ。」
楽 「星札?」
鶫 「星獣の力を借りる為のカード状のものだ。」
楽 「あっ!コレかぁ?」
楽は自分の星匣の中から、5枚のカード状のものを取り出した。
楽 「コレ、どう使うんだぁ?」
鶫 「星匣の保存所から発動所に入れるんだ。」
楽 「発動所?あ、この薄いカード1枚分の入り口かぁ?」
カシャンッ
楽は発動所に剣と書かれた札を入れた。
「剣(ツルギ)の札(フダ)」
シュンッ
楽が星札を入れると同時に、レオンと同じオレンジ色の光を帯びた日本刀が出て来た。
楽 「何だコレ?日本刀?」
鶫 「一条楽!その剣の札で水星ウミヘビを切りつけろ!」
楽 「えぇ?」
水星ウミヘビ 「シャーーー!!」
楽 「え?わわっ!」
楽は鶫に言われるがままと、とっさの反射神経から水星ウミヘビを切った
ザンッ
水星ウミヘビ 「ギシャァ〜〜」
楽 「ええ?」
水星ウミヘビは楽に切りつけられ怯み、傷口からは青いエネルギーが血の様に流れ出ている。
楽 「効いてる………」
蒼也 「へぇ〜、あんな素人の太刀筋であの切れ味、それも星神覚醒直後の初戦で。
流石太陽属性。」
水星ウミヘビ 「シャアーーー!」
楽 「わわっ」
水星ウミヘビは痛みに耐えながら、楽に牙を向けて来た。
千棘 「楽、危ない!」
千棘は楽が襲われると思い、水星ウミヘビに蹴りを放った
鶫 「いけませんお嬢!星獣に星神以外が挑んでも………」
千棘 「え?」
水星ウミヘビ 「ザンッ」
千棘 「キャァッ!」
楽 「千棘!」
千棘は水星ウミヘビの尾の鞭打ちを足にくらい、倒れてしまった。
鶫 「蒼也、お嬢を頼む!」
蒼也 「了解、黒虎(ブラックタイガー)」
鶫 「一条楽、終(ツイ)の札(フダ)で一気に決めろ!」
楽 「あ?終の札?コレか?」
楽は星匣の保存所から「終」と書かれた火車ぐるまの様な絵の札を取り出した。
「終(ツイ)の札(フダ)」
レオン 「ガォーンッ!」
シュルルルル…………
楽 「わっ!何だ?」
終の札を発動所に入れると、レオンが楽の体に纏わりつき、太陽色の光を回って楽ごと縦回転しだした。
水星ウミヘビ 「シャーーー!」
ギュルルルルルルル
巨大なオレンジ色の回転した車輪となった楽とレオンは、水星ウミヘビに向かっていく。
バガァン!
水星ウミヘビ 「ギャアアアアァッ」
水星ウミヘビはその車輪に胴体を真っ二つにされ、青い光となり消えた。
キュウンッ
水星ウミヘビの残骸の青い光が纏まり、一つの玉になった。
レオン 「ガォッ」
レオンはその青い光の玉を喰らった。
鶫 「やはり集英組の組長の息子で太陽属性……初戦で私たちの助けを借りずに水星ウミヘビを倒せれば上出来だ。」
鶫 「蒼也、お嬢と一条楽を頼むぞ。」
蒼也 「了解、後は俺に任せてよ黒虎(ブラックタイガー)」
千棘 「うーーーん………」
楽 「zzz………」
千棘は水星ウミヘビにやられた足の痛みでまだ意識朦朧とし、楽は星神の力の初使用の反動から来る疲労で眠ってしまっていた。
第9話 完
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