第1巻 第17話 フタリデ
PM:20:00、琵琶湖沿岸たんぽぽ旅館301号室
楽 「ふー、食べた食べた。」
千棘 「私もーー、もうお腹一杯ーー。」
千棘はそう言いながら、旅館のベッドに腰掛けた。
千棘 「あ!楽、窓の外見てよ。キレー!」
千棘が指差した窓の外には夜になり月光が白々と反射して輝く琵琶湖が映っていた。
楽 「お、ホントだな。」
千棘 (やっぱりスミレさんのスパルタ教育に耐えて頑張った甲斐あったなぁ。
こんなに早く楽と楽しく本当の恋が出来るなんて、夢みたい)
楽 「さーて消灯時間までまだあるし、何して過ごす?」
千棘 「そーねぇ………」
楽 「テレビでも見るか?前観てたドラマの再放送確か今日だし………」
千棘 「あっ!ちょっと待って楽」
楽 「?」
千棘 「せっかく2人部屋になれたんだし、もっと恋人らしい夜を過ごしてみようよ。」
楽 「恋人らしい?」
千棘 「うん。」
楽 「でも恋人らしいって言っても何をすれば?」
千棘 「そうねぇ、例えば………」
10分後 ベッドの上
楽 「そんなこともあったよな〜〜」
千棘 「でしょ〜、あん時はマジで笑ったわよね〜〜」
楽と千棘は1つのベッドの上で高校時代の話をしていた。
千棘は楽と腕を組みながら。
楽 (にしてもこいつ、本当に変わったな。3年前の始めて会った頃が嘘みたいだ。)
楽 (あの頃は、膝蹴りを事故とはいえ俺にかましておいて逆ギレして殴る、そのせいで無くしたペンダントを探すのも嫌々だった………,ずっとあの頃のままだったら絶対に小野寺より好きにならなかった。)
千棘 「えへへ〜//」
千棘は楽とたわいない会話をしているだけが楽しくて仕方が無いというような満面の笑みで笑っていた。
楽 (でも、最後にこいつを選んだ。こいつと一緒なら新しい世界に行けそうだったから。
事実俺は竜からヤクザの若頭を継いで、星神なんてゆうスゴイ力持ち手に入れた。)
楽 (昔の平凡な公務員になるだけが夢だったおれじゃあ、絶対にあり得ない選択だった。)
楽 (こんなに俺に新しい世界をくれたのはこいつだ。
絶対、幸せにしてあげなきゃ。)
千棘 「ん?楽、どうしたの?」
楽 「え?あ、いや………」
千棘は楽が考え込んでいる様な表情で沈黙していたのを見て、不思議そうに尋ねた。
楽 「いや、何でも。」
楽 (そうだ。高校の時の俺は受け身すぎた。
告白も羽姉のも、橘も、小野寺のも、千棘のも、全部向こうからだった。
俺からした告白なんて一度も無い。
それだけじゃ無い。
俺は高校生活の日頃の日常から千棘や橘や鶫に流されてばっかだったな。)
楽 (俺からも………何かしてあげたい。)
楽 「千棘………」
千棘 「え?」
スッ
楽は千棘の顔の下辺りに手を差し出した
パンッ
千棘 「ひゃうっ!」
楽は千棘の顎を掌で叩いた
千棘 「ら…楽?いきなり何を……?」
千棘は右手で顎を抑えながら顔を真っ赤にして楽に尋ねた。
楽 「千棘、お前は俺を新しい世界に行かせてくれたから。」
千棘 「え?新しい世界?」
楽 「ああ。俺はお前を守れる人になりたいと心から願ったから集英組を継ぐ覚悟が出来て、星神にまでなれた。」
千棘 「ーーーーー!!」
楽 「いや、何もそれだけじゃ無い。
凡矢理高校時代から鶫や橘、羽姉に会えたのも、ただヤグザの二代目である事を憂いていた頃の中学までの俺だったら絶対にあり得なかった。」
楽 「ありがとう千棘、俺をこんな世界に連れて来てくれて。」
千棘 「楽……………」
楽 「だからまだ本当の恋愛なんて1ヶ月目だからこんくらいしか出来ないけど。
俺もお前をドキドキさせてあげたかった。」
千棘 「………………………」
楽 「あ!でもやっぱり嫌だったか?
そうだよな………あんな所いきなり触られたら……」
千棘 「ううん……そんな事無いよ。
初めはビックリしちゃったけど、スッゴく気持ち良かった。」
楽 「ーーー!!ホントか?良かったあ〜………」
チュッ
楽 「えっ!?」
楽の左頬には、先月の始めての本当の恋人としてのデートで右頬に走ったのと同じ柔らかい鳥の羽の様な感覚が走った。
千棘 「えへへ…//左にも出来た。これで両方だね。」
楽 ポカーンΣ(゚д゚lll)………………
左頬にキスされた。4〜5秒後に楽は気付いた。
千棘 「私もだよ。一年の頃のワガママだった私を少しずつ変えてくれて、
沢山友達が出来る様にしてくれた…
ニセモノの恋でも楽しい2年半をくれた…
そして最後に、本当の恋人になってくれた…
これはそれの、感謝の印。」
ニコッ
今日、俺たちの本当の恋は少しだけ進んだ。
第17話 完
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