「江風が家出した」
主人公(一般人)が購入したばかりの家の玄関で、女の子(江風)と出会い・・・
参考までにキャラ紹介。
主人公:どこにでもいる普通の人間。 新しく家を購入し大家から鍵を貰い玄関まで
行った所で女の子(江風)に出会う。
江風:白露型の艦娘、本人は「家出してきた」と言うが・・・
のんびり更新していきます。
「おはよう、早いな。」
いつもと変わらぬ朝、主人公が目覚ましで起きてリビングに向かうと、
「兄さんが遅いんだよ、ほらさっさと朝飯作ってくれよ!」
「はいはい、全くお前は妹のくせに人使いが荒いなぁ。」
主人公は呆れつつも、自分と妹用の朝ごはんを作る。
「・・・この家を買ってもう数年経つなぁ。」
主人公は昔を思い出した。
・・・・・・
・・・
・
「遂に、遂に! 家を買ったぞ!!」
目の前にそびえ立つ1軒屋を見て叫ぶ主人公。
貯金を全額使って、ローン無しの1軒屋を購入! 大家から鍵を渡されて歓喜の声を上げた。
「今までは賃貸のボロ屋で住んでいたんだけど、そろそろ自分の家が欲しくて頑張って貯金して・・・よく頑張ったなオレは~。」
後は鍵を使って家に入るだけ・・・のはずだった。
「? おや?」
先ほどまでは何も異変は無かったのだが、大家から鍵を渡され扉に向かうとさっきと違う光景が・・・
「・・・・・・」
そこには、扉の下で服がボロボロでうずくまる1人の女の子の姿が、
「?」
主人公に気付いたのか、睨む女の子。
「・・・・・・」
「何だ君は? さっさとどきなさい!」と言いたかったが、服がボロボロで体には無数の傷があり、「乱暴(強姦)された女子高生?」
と勘違いしたのか、
「大丈夫? 何なら今から警察に連絡してあげるよ?」
主人公は意外にも冷静、警察に事情を話して家に帰らせようとしたようだ。
「・・・・・・」
相変わらずじっと睨む女の子、
「何さ、黙っていてもわからないだろう?」
主人公の言葉に、
「・・・家に。」
「? 家に何だって?」
「家に・・・家に入りたい。」
女の子はぼそっと呟いた。
「やれやれ、せっかくの新居なのに・・・」と放っておけなかったのか仕方がなく家にいれた主人公。
ここから主人公と女の子の奇妙な生活が始まるのだった。
・・・・・・
女の子は家に入るなり、買ったばかりのソファに寝そべった。
「こら! 家に入っていきなり何をやっているんだ!」
流石の主人公も女の子の行動に怒り心頭だ。
「別にいいじゃんかぁ! 減るもんじゃないし!!」
先ほどの態度とは違って急に偉そうになり、
「あんた、いいやつだな。 態度見てわかったよ。」
「・・・・・・」
「気に入った、あたしはしばらくここで住むからさ、よろしくな!」
「!? なっ!? ちょっと待て!」
「何だよ、細かいことは気にすんなって! 同居人が1人増えただけだろ、何をそんなに驚いているんだよ!」
主人公の慌てぶりに呆れつつ、勝手にソファの上で寝てしまった。
「何だよこいつ、遠慮なく上がってその上、買ったばかりのソファに堂々と寝やがって・・・」
主人公は「やれやれ」と思いつつ、
「おい! 寝るな! 服がボロボロじゃないか! そんな汚い服でソファになんか寝るんじゃない!!」
そう言って起こそうとするが、
zzz~ zzz~ zzz~
揺するが全く起きようとしない。
「全く。」と思いつつ主人公は毛布を掛け、自分の寝室へと入って行った。
「・・・・・・」
寝ていたはずの彼女がゆっくりと目を開け、主人公を見つめていた。
・・・・・・
翌日、
「おい、起きろよ! 兄ちゃん!!」
突然の女性の叫び声に、主人公は目覚める。
「・・・何だよ、もっと寝かせてくれよ。」
寝起きが悪く、不機嫌に目覚める。
「う~ん・・・ってお前! 何で裸なんだよ!?」
局部はタオルで隠しているが、はだけたら全裸である。
「うん? ああ、さっき風呂入ったから今この状態。」
「お前、勝手にソファで寝て、今度は勝手に風呂に入ったのか?」
「仕方ねぇじゃん! 昨日風呂入ってなかったし・・・女ってのは毎日風呂に入りたいもんなんだよ!」
「・・・・・・」
「・・・それでさぁ、服がボロボロで替えが欲しいんだよね。 兄ちゃんの男用でいいから服貸してくれない?」
「・・・・・・」
「何だよこいつは!」と思いつつ、その恰好で家の中を歩き回られては困るので、
「ほらよ、早く服を着ろ。」
嫌々、彼女に自分用の服を貸した。
「おお! ありがとな! 兄ちゃんはやっぱりいいやつだな!」
と、その場でタオルを取って着始める。
「お前! 風呂場で着替えろよ!」
流石の主人公も女の裸に抵抗があるのか、手で視界を遮る。
「ああ? 別にいいよ。 あたしの体なんて見ても興奮しないだろ!」
と、その場で着替え続ける彼女。
・・・・・・
「おお~、サイズもぴったりで見た目も悪くない! きひひ~♪」
「・・・・・・」
やっと大人しくなったか、と思いきや。
「兄ちゃん腹減った! 何か作ってくれよ!!」
今度は食事を要求してきた。
「はぁ!? お前はどこまで偉そうなんだよ!」
主人公も流石に堪忍袋の緒が切れかかる。
「腹が減ったんだよ! あたしは作れねぇからさ・・・何でもいいから! おにぎりでもアイスでもプリンでもいいから、
何でもいいからあたしに恵んでくれよ!!」
「・・・・・・」
食べ物の要求が少し貧相に聞こえつつも、
「分かったよ、恵んでやるから大人しくしてろ。」
「わ~い♪」
彼女は椅子に大人しく座る。
「1つ聞きたいんだが。」
「うん? 何?」
「名前は何て言うんだ? 「お前」って言うのもなんだからさぁ。」
「あたし? あたしは江風。 か・わ・か・ぜだよ!」
「江風・・・」
「ほら、早く飯くれよ! 腹が減ったよぉ~!」
「はぁ~。」
結局江風のペースに付き合わされる主人公であった。
・・・・・・
「ぷはぁ~、食った食った。」
満腹で満足して、
「よぉ~し! もっかい寝るかな~!」
と、またもソファの上に寝そべる彼女。
「お前なぁ。」
最早、怒りを通り越して呆れかえる主人公。
「何だよ、腹も膨れたし後は寝るだけ。 他に何をしろって言うんだよ?」
「・・・・・・」
「あっ、もしかして「世話してやってるんだから何か恩返ししろ!」って思ってる? そうだなぁ~・・・」
勝手に考え込む江風に、
「勝手にしろ、オレは今から部屋で仕事するから邪魔しないでくれ。」
そう言って、主人公は部屋に入って行った。
「何だよ、特に用もないなら話しかけるなっての。」
またソファで寝てしまった江風である。
・・・・・・
・・・
・
(ここは江風の夢の中)
「姉貴、どこにいるんだよ?」
辺りを見回すが、「姉貴」と呼ぶ人間はどこを探してもいない。
「姉貴・・・海風の姉貴・・・時雨の姉貴ぃ!」
どれだけ叫んでも見つからず、
「江風1人はもう嫌だ、嫌だよぉ。」
その場でうずくまる。
「もう1人は嫌だ! もう嫌だぁぁぁぁっ!!!!」
・・・・・・
・・・
・
(ここから現代)
「おい、どうしたしっかりしろ!」
「ううっ・・・はっ!!」
江風は目を覚ました。
「ずっとうなされていたんだ、一体どうしたんだよ?」
「・・・・・・」
「怖い夢でも見たのか?」
「・・・いや、何でもないよ。」
江風は立ち上がると洗面所へと行き、顔を洗った。
「またあの夢か・・・」
見たくないと何度も思っていた夢、しかし未練があるのか無意識に夢の中で見てしまう。
「もう姉貴たちはいないんだからさ、いつまでも気にしていても仕方がないだろう。」
と、自分の心に言い聞かせた。
・・・・・・
「ちょっと出かけて来るわ。」
江風が簡単な荷物を持って出かける準備をする。
「夕方までには帰ってくるからさ、夕飯作っといてな♪」
そう言って、江風は外出した。
「・・・・・・」
「いや、もう帰ってこなくていいんだけど。」と思った主人公。
・・・・・・
夕方、
江風がまた戻って来て、
「? どうした、元気がないな?」
朝と違って今は下を向いて落ち込んでいた。
「江風、 江風!!」
「!? な、何だよ兄ちゃん。」
「何かあったのか? 凄く落ち込んでいるけど?」
「何でもないよ、少し疲れただけだって。」
主人公に訳も話さず、
「今日はもう寝る、夕飯は明日の朝食べるから置いておいて。」
と、ソファに寝そべってそのまま寝てしまった。
「・・・・・・」
主人公は江風を見つめていた。
深夜、
主人公がトイレに行く際に、リビングで物音がしてそっと覗くと・・・
「ううっ、ひっく・・・うあああ~。」
泣いているのだろうか? その声が永遠に続き、
「外出先で何かあったのかな?」
と、思いそっとしておいた主人公であった。
・・・・・・
翌日、
「おはよう、兄ちゃん! 江風腹減ったよぉ!」
昨日の態度とは打って変わって相変わらずの態度の江風。
「はいはい、少し待ってろよ。」
最近ではこの生活に慣れてきて、嫌とは思わなくなっていた(もしくは嫌を通り越して諦めた)。
「江風は家に帰らなくてもいいのか?」
ここに住んでいるということは主人公は江風が「家出」したと思っていたが、
「うん、でもあんな家での生活なんかもうまっぴらごめんだよ!」
「・・・・・・」
「当分この家から出るつもりはないな。」と諦めつつ、調理を続ける。
・・・・・・
「ご馳走様~♪ ああ、食った食った♪」
腹を押さえて満足げの江風。
「食ったし、また寝っかな。」
そう言って、お決まりのソファの上で寝そべり・・・寝てしまう。
「やれやれ。」
いつもの事なので、気づかずに慣れてしまった主人公。
「まぁ、態度は悪いけど・・・」
江風は態度こそデカいが、それ以外の事に関しては意外に律儀な一面があり、主人公も最初は嫌々家に入れたが、
今では江風を本当の妹のように接していた。
「でも、いつまでもここにいるわけには行かないよな。」
江風が外出した場所、それが気になり、
「本当は家に帰ったけど両親と揉めてここに戻って来たとか・・・なら江風が今度外出したら、ついて行ってみるか。」
主人公はそう決心した。
・・・・・・
「それじゃあ兄ちゃん、江風ちょっと出るわ。」
お決まりの外出、江風は簡単な荷物だけ持って外に出た。
「・・・・・・」
江風の外出は決まって同じ曜日、何かあるのだろうか?
主人公は気づかれないように、江風の後にそっとついて行った。
・・・・・・
江風が向かった場所、そこは・・・
「? 病院?」
そこは家ではなく病院。
「・・・・・・」
訳が分からず、主人公は病院に入った。
「誰か入院しているのか? 江風の親? もしくは親類?」
考えつつ廊下を歩いて行くと、
「・・・・・・」
部屋で入院している名前に目が行った。
305号室 海風
「・・・・・・」
江風もそうだが、名前に「季節語」が入っているのは今どき珍しい。
「・・・・・・」
扉をゆっくり開けると、
「姉貴! あたしだよ、江風だよ! わかるかい?」
江風の声がして咄嗟に扉を閉めた。
「・・・・・・」
その場に居づらくなって主人公は病院から去った。
・・・・・・
「こら、そこの君! 部外者が勝手に入ることは禁止されているぞ!」
門番に注意され、謝る主人公。
後で知ったが、ここは一般人が入る病院と違って”艦娘療養所”と記されていた。
当然ながら、主人公は”艦娘”のことは知らず「何かの特別な障害施設」程度にしか思わなかった。
家に帰って、主人公は考える。
「姉貴って言ってたな。 つまりあの病院に江風のお姉さんが入院してるってこと?」
少し扉を開いた僅かな隙間でしか確認できなかったが、江風の側に青髪の女性がいた。
「容体が悪いのだろうか、もしくは「手遅れ」と言われて江風は泣いていたのかな?」
考えるが、所詮主人公の想像、事情は江風にしか知らない。
「聞きにくいけど、江風に聞いてみるか。」
そう思って、江風の帰りを待つ主人公。
・・・・・・
「ただいま~。」
江風がいつもの態度で戻って来た。
「おかえり、夕飯作っておいたぞ。」
「おお~! 兄ちゃんは気が利くなぁ~♪ ちょうど江風もお腹空いてたんだ♪」
江風は手も洗わずに、椅子に座り夕飯に食べ始める。
「あのさ、江風?」
「? どうした兄ちゃん?」
夕飯を頬張りつつ、主人公の顔を見る江風に、
「悪気はなかったけど、実はさ・・・」
主人公は今日の出来事を話した。
・・・・・・
「そう、病院に来たんだ。」
怒ると思っていたが、むしろ下を向き元気をなくしていた。
「お姉さんが入院してるのか? 江風の声がした部屋を覗いたら、顔は見えなかったが青い髪の女性がいるのが見えたけど?」
「・・・・・・」
江風はしばらく沈黙した後、
「そう、あの人は海風、あたしの姉貴なんだ。」
「海風・・・」
確かに、部屋番号の下に”海風”と書いてあった。
「そのお姉さんがどうしたんだ? 重体か? もしくは重病なのか?」
「いや、そんなんじゃないよ。」
そう言いつつも、江風の瞳から涙が溢れる。
「でも、入院してるんだろう? お前だって泣いているじゃないか。 どこが悪いんだ?」
「だから、病気でも障害があるわけでもないんだって!!」
江風が叫んだ。
「・・・・・・」
「はっ・・・ごめん兄ちゃん。」
江風は謝り、そのままいつものソファに寝そべった。
「・・・・・・」
主人公は江風を見つめていた。
・・・・・・
今日主人公は図書館で仕事をしていた、
仕事上、専門用語が多く図書館で仕事をする方が都合がいい。
「・・・・・・」
江風は相変わらずソファで寝込んだまま、主人公は何か力になりたいと思っていたが・・・
「・・・・・・」
姉妹の問題に主人公が口を挟むわけにもいかず、結局見守ることしかできなかった。
「? これは?」
それは本当に偶然だった。
仕事(設計図作成)に持ち出していた本の中に、船の設計図が載っており、たまたま適当なページが開いていて、その中に・・・
「!? 駆逐艦海風に江風!?」
そこに載っていたのは、実際に存在した駆逐艦の設計図と名前・・・そして主人公は気づいた。
「・・・そうか、江風と海風は、”艦娘”だったのか。」
主人公はラジオの情報で艦娘の存在は知っていたが、実際に彼女たちを見たことはなかった。
初めて江風と出会ったとき、当然ながら艦娘と気づくはずがなく、
「つまり、海風がいた病院は艦娘専用の病院だったのか。」
あの時、門番に「部外者が入ることは禁止」と言われた意味がようやく分かった。
「・・・・・・」
主人公は艦娘に関する資料を集めた。
「・・・・・・」
本に書いてあった艦娘の情報を主人公はひたすら読んでいた。
・・・・・・
「ただいま~。」
主人公が帰っても江風はソファから起きようとしない。
「江風。」
主人公が呼ぶが、
「・・・・・・」
起きてはいるが、反応がない。
「江風、お前は艦娘だったんだな。」
「!」
艦娘と言われて、江風は主人公の方に振り向いた。
「聞かせてくれないか? 海風はどうしてあの病院にいるんだ?」
「・・・・・・」
「お姉さんは病気でも障害でもないのに、どうしてそんなに悲しむんだ?」
「・・・・・・」
江風はしばらくして、
「海風の姉貴は・・・もうすぐ解体されるんだ。」
「? 解体?」
主人公は”解体”と言う意味が分からなかった。
※艦娘が解体されると普通の女性になるが、鎮守府での生活や戦っていた記憶が全て無くなる。
江風は泣きながらに説明をした。
・・・・・・
江風を含めた姉妹艦は全部で10人いるが、江風と海風を除いた8人は既に解体されていた。
しかし、戦闘不能や、戦績不良による原因で解体になったわけではない。
”全員提督から指輪を渡され、新たな生活をするために解体を選んだ” のだ。
最初は「おめでとうな、姉貴!」と喜んでいたのが、1人、また1人と自分の姉妹が次々とケッコンのため解体
されていく中で、江風はいつしか”寂しさ”を感じるようになった。
海風はそんな江風をずっと支えていたが・・・海風も遂に”大切な人”を見つけたため、解体の道を選んだのである。
「本当は姉貴たちが幸せになって嬉しいけど。」
江風は力なく説明して行き、
「解体したら、それまで一緒に過ごしていた記憶や、姉妹だった記憶が全部無くなるんだって。」
「・・・・・・」
「白露の姉貴も・・・時雨の姉貴・・・そして山風だって・・・皆、江風の事を覚えていなくて・・・ううっ。」
江風の瞳から涙が絶えない。
「そして、海風の姉貴も「江風を残してごめんね、 江風も早く大切な人を見つけてね。」と言ったっきり・・・」
そこまで言い終えると、江風は号泣してしまった。
「江風。」
主人公は江風を見ている事しかできなかった。
・・・・・・
数日後、
江風宛てに手紙が届き、
”駆逐艦海風は〇〇提督と結ばれ、新たな生活のため、”解体”が完了しました。”
その知らせを見た瞬間、江風は手紙を握りしめて地面にうずくまっていた。
・・・・・・
「姉貴・・・姉貴・・・姉貴・・・」
ソファでずっと「姉貴」と呟きながら寝そべっている江風。
残っているのは江風1人だけ、彼女は今、完全に”孤独”を味わっていた。
「・・・・・・」
主人公は江風を見つめていた。
「姉貴・・・姉貴・・・姉貴・・・」
生きる気力が無いのだろうか、既に諦めた表情でひたすら「姉貴」と連呼している江風を見て、
「おい、江風! いい加減にしろよ!」
主人公が怒りだし、
「いつまでそんな態度でいるんだよ! いつものように偉そうで、遠慮のない態度はどうした?」
「・・・・・・」
江風は無言のままだ。
「確かにお姉さんたちがいなくなって寂しいのは分かる、でも死んだわけじゃないんだろう?
休みの日に会いに行くことだってできるんだろう?」
「・・・・・・」
「前を見ろ! いつまでも下を向いていないで、前を見ろ、前を!!」
「・・・兄ちゃんにはわからないよ、今のあたしの気持ちなんて。」
「何だって?」
「もうあたしには、生きる理由がないんだよ。 姉貴たちがいなくなって、あたしはこれからどう生きていけばいいんだよ。」
落ち込む江風に、
「だったらオレとこれからも一緒に生活しよう! お前を正式に妹として戸籍を登録しよう!」
突然の一言、
「な、何を言ってるんだよ兄ちゃん!?」
江風は驚いて、
「オレの妹として認定されたらこれからずっとオレと江風は兄妹になれる、そうすれば寂しくなくなるだろ?」
「・・・・・・」
兄妹になれば寂しくなくなる、そう思って提案したが、
「無理だよ、兄ちゃんと兄妹だなんて。」
江風は拒否する。
「何故?」
「あたしは艦娘、兄ちゃんは人間、だから本当の兄妹になれるわけがない!」
「関係ないだろう! 艦娘も人間も、種族なんか。」
「無理なものは無理だって!! どうせあたしは独りぼっちなんだよ!!」
江風は泣き叫んで家から出て行ってしまう。
「江風!! おい、江風!!」
外に出て辺りを探すが・・・江風の姿は見つからず、
「江風・・・」
主人公はその場で佇んでいた。
・・・・・・
・・・
・
あれ以降、江風の姿は見ていない。
「・・・・・・」
恐らく本来いる場所(鎮守府)に戻ったのかもしれない。
だが、あんな気持ちで艦娘としての役目が成り立つのだろうか?
「・・・・・・」
そんなこと言っても仕方がない、か。
江風が無事でいて普通の生活をしていればいい、それでいいじゃないか。
主人公はそう願った。
・・・・・・
・・・
・
「おい、江風! お前正気か!?」
鎮守府で提督と江風が言い争っている。
「江風! これは命令だ! 今すぐ艤装を外して執務室に戻れ!!」
提督は江風に命令するが、
「あたしにはもう守るものなんてない、姉貴もいない、希望もない・・・もう何も無いんだよぉ!!!!」
江風は叫ぶと単身で海上を進んでいった。
・・・・・・
それから数日後の事である、
主人公は気晴らしに砂浜を歩いていた、
「? 何だ?」
目の前に見える異様な光景・・・主人公は走って行き、
「!? 江風!?」
浅瀬で倒れていた江風・・・服はボロボロに破れ、装備していた武器や艤装は完全に破壊されていた。
「・・・・・・」
主人公は脈を診ると、
「! まだ脈がある! 江風はまだ生きている!!」
すぐさま主人公は近くの鎮守府に連絡し、助けを呼んだ。
・・・・・・
数分後、
救急隊員が到着、担架で江風を運んでいった。
「江風。」
主人公はただ江風の無事を祈るしかなかった。
翌日、
主人公は江風が搬送された病院に向かう、当然ながらまた門番に呼び止められたが「江風を助けた者だ。」と伝えたところ、
「申し訳ありませんでした。」と謝り、入ることを許可してもらえた。
「・・・・・・」
主人公は江風がいる部屋を探し、入るが・・・
「・・・・・・」
ただ動かず、一点を凝視した江風の姿があった。
医師の話によると、江風は心身のショックか、戦闘での被弾によってか記憶を失っているとのこと。
普通の生活は出来るが、記憶障害があり支障をきたす可能性があると言う。
最も、鎮守府側は「勝手に出撃した艦娘など必要ない」と言い、彼女は捨てられた存在だった。
お姉さんはいなくなり、居場所すらなくなった江風。
そんな時、主人公は言った、「オレが江風を引き取ります!」と。
本来一般人が艦娘と生活することは禁止されているが、提督が捨てたことにより制限が無効になり、共同生活が許可された。
・・・・・・
・・・
・
家に着いて、
「今日からこの家が君の家だからね、オレの事は「兄」として思ってくれればいいから。」
「・・・うん、わかった。 兄さん!」
そして2人の生活がまた戻ったのである。
・・・・・・
・・・
・
(ここから現実)
「あれから数年経ったか・・・早いもんだな。」
主人公は過去の出来事を思い返していた。
「どうしたのさ、兄さん? そんなに思い詰めてさぁ?」
朝食を食べていた江風に質問されて、
「いや別に。 時間が経つのが速いなぁ~って思ってただけさ。」
「何だよ、それ? 兄さんはおかしなことを言うなぁ。」
江風は呆れつつ、朝食を食べ続ける。
「・・・・・・」
江風は今でもオレと生活している、
医師から記憶障害の心配があったが、生活は普通にできて全く問題はなかった。
家での生活に慣れてきたのか、江風は昔と同じ偉そうな態度(それでも控えめにはなっている)でオレに接してくる。
普段は偉そうだが、それ以外は協力的で家事やら仕事を2人で分担して行っている。
後1つ、これはオレの視点での話だけど・・・
最近江風を「妹」としてではなく、「女」として見るようになった。
最初は「妹」のつもりで接していたけど、風呂上がりのあのすらっとしたスタイル、長髪が胴体まで下がるあの姿を見たら、
いつの間にかオレは「妹」としてではなく「女」として思ってしまっていた。
昔、江風が風呂上がりに着替えを渡してその場で着替えた際に、オレは視界を遮ったが、
「別にいいよ、あたしの体なんか見ても興奮しないだろ?」
本人はそう言っていたが、はっきり言うと江風はその辺のモデルに匹敵するくらいの美人だとオレは思う。
当然その話は江風には話していないけどね・・・
「兄さん、何言ってんの? 変態かい?」
って言われて、笑われるだろうね。
「・・・・・・」
まぁいいか、江風はオレの妹、そして江風もオレの事を「兄」として慕ってくれている。
別に兄妹の関係でいいじゃないか、初めて会った時はこうなるなんて予想もつかなかったけど・・・
「これからも江風と一緒に生活していけばいい。」 と主人公は決意した。
・・・・・・
・・・
・
ある日の事、
「兄さん、少し出かけて来るね。」
珍しく江風は1人で外出した。
いつもならオレと一緒に外出するのだが、今日に限って江風が1人で出かけてしまった。
「・・・・・・」
オレの知らない間に友達とかできたのかな?
まぁ、それならいいことだな、何も話し相手がオレだけではつまらないはずだし、
江風も徐々に家だけでなく、外の環境にも慣れれば彼女の視野がどんどん広がって行く。
それはむしろいい事だよな。
・・・・・・
「ただいま~。」
江風が荷物を持って帰って来た。
「おかえり~、 どうしたその荷物、買い物にでも行ってきたのか?」
「うん、どうしても欲しいものがあったから。」
「欲しい物? オレに言ってくれれば買って来たのに。」
「自分で買わないと意味がないからさ、気にしないで兄さん。」
そう言って、江風は荷物を持って自分の部屋へと戻った。
・・・・・・
主人公も自分の部屋に戻って、
「・・・・・・」
主人公は何やら考え事をしていた、
「・・・・・・」
机の引き出しを何度も開けては、ため息の繰り返し・・・
「・・・・・・」
主人公が悩んでいたのは、引き出しにしまっておいた「指輪」。
「買っては見たけど、いざ告白となると恥ずかしいよな。」
主人公はプロポーズをするために買ったようだ。
「断られるかもしれない、でもオレは自分の気持ちを伝えたい、 「君の事が好きだ」って。」
それから考えた末、
「よし、決心がついた。 後は「当たって砕けろ」だ!」
主人公は部屋から出て行った。
・・・・・・
「江風、ちょっといいか?」
向かった先は江風の部屋、
「あ、兄さん。 どうかした?」
扉を開けて、江風が出て来る。
「江風に大事な話がある。」
「大事な話? そう・・・」
江風は少し考え、
「実はあたしも、兄さんに話したいことがあるんだ。」
「そうなの? 何だ、お互い大事な話があったのか。」
緊張が解れたのか、ほっとする主人公。
「それじゃあ、オレの部屋で話そうか。」
主人公は江風を連れて、自分の部屋に入った。
・・・・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人はお互いの顔を見つめては顔をそらして、中々話すまでに行かない。
「・・・オレから話そう。」
主人公が先に口が開き、江風に言おうとしたが、
「待って、あたしから先に言ってもいい?」
「・・・分かった、それで? 大事な話って?」
「・・・・・・」
江風は少し沈黙した後、口を開いた。
「兄さん、今まで隠しててごめん!」
突然謝る江風、
「えっ、一体どうしたんだよ江風?」
訳が分からず困惑する主人公、
「あたしは・・・本当は。」
江風は今まで隠していた事実を打ち明けた。
「記憶が戻っていたんだ。」
「えっ?」
驚きの一言だった。
「いつから?」
「・・・兄さんがあたしを引き取ってくれたすぐ後に。」
「どうして、今まで言わなかったんだ?」
「・・・あの時。」
「・・・・・・」
「兄さんはあたしの事を本当の妹のように大事にしてくれた、それなのにあたしは姉貴がいなくなったことで苛立ち、
兄さんに八つ当たりして出て行ってしまった・・・その後家に帰ろうとしたけど、今更「ごめんなさい」なんか言えなくて。」
「・・・・・・」
「ヤケになったあたしは単身で海に出て、被弾して浅瀬に流れ着いた・・・その時点であたしの記憶は曖昧になっていた。」
「・・・・・・」
「でも、兄さんがあたしを助けてくれたよね? あの時、感じた兄さんの温もり・兄さんの声・・・忘れるはずがないよ。」
「・・・・・・」
「一緒に過ごしてきた記憶は残っていた、引き取られた後に江風の記憶が全部戻ったけど・・・
あんな別れ方をしたから「記憶が戻った」と素直に言えなかった、兄さんに嫌われたくなかったんだよ。」
「・・・・・・」
「ごめんなさい、隠す気はなかったんだよ。 本当にごめんなさい。」
何度も謝る江風に、
「いいよ、あの時は江風も気持ちが切迫していたし、オレももっと江風の気持ちになって接すればよかったんだ。」
「・・・・・・」
「でも良かった、記憶が失っていなくて。」
主人公はほっとしていた。
「・・・それで、兄さんの大事な話って?」
江風が聞くと、
「ああ、オレの大事な話は・・・」
そう言って、ポケットからある物を出して、江風に見せる。
「これは・・・指輪?」
江風が首を傾げる。
「オレと結婚してくれ江風!」
主人公の言葉に江風は驚く。
「えっ!? 江風と!? 何で!?」
突然のプロポーズに驚きを隠せない江風、
「今まで江風の事を妹として接していたけど、ずっと生活している中で君の事を「妹」ではなく、「1人の女」として
見るようになってしまった。」
「・・・・・・」
「江風は自分で「魅力なんてないから」と言っていたけど、そんなことはない! 江風は十分魅力があって
美人だし、一緒に生活していてオレは江風の事を好きになった。」
「・・・・・・」
「改めて聞くけど、オレと結婚してくれないか? お前の事が好きだ、江風!」
「・・・・・・」
しばらく沈黙が続き、
「あ、あたしでいいのかよ?」
江風が口を開き、
「兄さんが思っているほど、女らしくもないし・・・胸だってないし・・・態度だって大きいし・・・本当にあたしでいいの?」
江風は顔を赤くしながら主人公に尋ねる。
「ああ、江風が好きだ。 これからも一緒に生活して行きたい! 結婚しよう、江風!!」
そう言って、江風の指に指輪を通した。
「・・・・・・」
江風は通した指輪を見て、
「そうか、姉貴たちもこんなに嬉しい気持ちだったんだなぁ。」
江風が瞳から涙を流す。
「大切な人から指輪を貰って・・・温かい気持ちが溢れてくる感じ・・・姉貴たちは幸せな笑顔だった。」
「・・・・・・」
「それなのにどうして江風は気づかなかったんだろう、どうして自分の事しか考えずに
姉貴たちの幸せを素直に喜ばなかったんだろう・・・」
堪えきれなくなった江風は号泣して、
「うううっ・・・ひっく・・・ううう。」
「・・・江風。」
主人公は江風を強く抱きしめ、それに合わせて江風も主人公を強く抱きしめた。
・・・・・・
・・・
・
その後2人は結婚、
同じ家で幸せに生活している。
江風は相変わらず主人公の事を「兄さん」と呼んでいる。
どうやら主人公は名前で呼ばれたくない(恥ずかしい)ようで、敢えて「兄さん」と呼んでもらっているようだ。
解体したお姉さんたちとは度々会いに行っているようだ、
江風はその度に「幸せそうで良かった。」と笑顔で答えていた。
・・・・・・
ある日の事、
「あの、すいません!」
「?」
主人公が振り向くと、
「君は確か・・・海風だったっけ?」
そこにいたのは、幸せのために自ら解体を選んだ海風の姿が・・・
「相談があります、聞いていただけませんか?」
海風は主人公にある相談を持ち掛けた。
・・・・・・
「どうしたのさ、兄さん?」
主人公は江風の手を引っ張って、ある場所へ連れて行く。
「江風にちょっとサプライズをしたくてな。」
「サプライズ? いつの間にそんなこと考えていたのさ?」
「それは内緒、江風が喜ぶと思って密かに計画していたんだ。」
主人公は「行けばわかるさ。」と言って、江風を連れて歩いて行った。
・・・・・・
着いた場所は、喫茶店。
「・・・喫茶店? ここに何があるのさ?」
江風が尋ねると、
「中に入ればわかる、オレは先に家に帰っているから楽しんで来い。」
そう言って、主人公は先に帰宅していった。
「・・・・・・」
訳が分からず、江風は喫茶店の中に入って行った。
「遅いですよ、江風!」
「!? ど、どうして!?」
江風は驚く、それもそのはず。
「まぁまぁ、今日は主役が江風なんだからさぁ。」
「そうよ、今日は江風の結婚祝いにあたしたちが集まったんだからね!」
「・・・そうですね、ほら江風、早く席について。」
江風の目の前には、白露に時雨、そして海風と白露型の全員が待っていたのだ。
「江風、ほら・・・早く椅子に座ったら?」
山風が椅子に座るように催促する。
「う、うん・・・わかった。」
江風が椅子に座り、
「それじゃあ、少し遅れたけど江風の結婚祝いを始めましょう!」
と、長女の白露が皆に号令をかけた。
・・・・・・
「・・・・・・」
江風は複雑な気持ちだった。
確かに、白露型の姉妹全員が集まることなんて滅多にないし、お姉さんたちが自分の結婚を祝ってくれる
ことはとても嬉しかった・・・でも、
「・・・・・・」
お姉さんたちは”解体”した身、結婚後何度かお姉さんたちと会っているが、その度に「海風さん」 「時雨さん」と呼び、
「姉貴(お姉さん)」と呼べなかった。
「? 江風、何そんなに悲しい顔をしているんですか? 今日の主役は江風なんですよ!」
隣で海風が声を掛ける、
「・・・うん、ありがとう。 海風さんにそれに、時雨さんや夕立さんも。」
お姉さんたちが「江風」と言うのは、あらかじめ主人公がそう呼ぶように頼んだのかもしれない。
逆に頼まれて「江風」と呼ばれるのは本人にとってとても辛かった。
「兄さん・・・あんまりだよ。」
主人公(兄さん)にサプライズと言われて、来た結果がこれ・・・これでは楽しいどころか・・・悲しい。
「・・・・・・」
そんな江風をよそに、皆が驚きの言葉を発した。
「江風、覚えてる? 遠征後にアイス持ったまま転んで顔全体にアイスが付いた時の事。
あれは僕と夕立は思わず吹いたよ!」
「!? えっ!?」
「そう言えば、山風にくっつき過ぎて思わず山風のスカートを引っ張ったらズルっと下がって・・・山風が
泣いちゃって、その後海風に叱られていたこともあったっけ。」
「・・・・・・」
「私たちの事を「姉貴」と言っている割には偉そうで、どっちが本当に「姉」かわからないわよね。」
「・・・ちょっと待って! どうしてそんなこと知っているのさ?」
江風が鎮守府でやらかした失敗談、それを言われて江風は戸惑う。
「あれ、まさか江風・・・まだ気づいていない?」
白露たちが「多分」 「恐らく」と言い合い、終いには笑う始末。
「・・・・・・」
江風は今の状況を理解出来ていない。
「江風、実はね。」
隣にいた海風が説明した。
「私たち、記憶を失っていないのよ。」
「!?」
その言葉に江風は驚く。
「何で!? だって皆”解体”したんだろ? それなのにどうして!?」
江風は驚きを隠せない、
「確かに、”解体”したけど・・・流石に姉妹たちの事を忘れるなんて出来ないからね、提督に
「姉妹の思い出だけは消したくない」と頼んだんだ。」
「・・・・・・」
「私も・・・「江風の事が心配だから、記憶を消さないで欲しい」と提督に頼んだの。」
「だったら何で・・・何であの時姉貴たちは「江風を覚えていない」って言ったんだよ!?」
解体後に江風はお姉さんたちの様子を見に行っていた、でも「覚えていない」と言われてショックを受けていた。
「提督に口止めされてたんだ、「お前は解体した身、辛いと思うが姉妹に会っても「他人」と割り切ること」って。」
「・・・・・・」
「僕も、そして白露も夕立も海風だって皆同じ、結果江風を突き放す形になってしまって・・・本当にごめん。」
「・・・・・・」
「江風、本当にごめんなさい。」
「・・・・・・」
江風は少し沈黙していたが、
「本当に、本当に姉貴たちは・・・「記憶を失っていない」んだね?」
「・・・はい、それは本当ですよ。」
海風が答えて、
「そっか・・・良かった。」
安心したと同時に江風の瞳から大粒の涙が溢れて、
「辛かった・・・ううっ、江風はさぁ、姉貴たちの記憶が失ったと思っていたから寂しくて・・・うぐっ、
ずっと独りぼっちなんだと思ってたから・・・本当に辛かったんだよぉ!!」
堪えきれず江風は号泣した。
「大丈夫、もう江風は1人じゃない。 私たちとそして江風の旦那さんがいるんですから。」
海風に慰められて江風は顔を上げる。
「ほら、江風。 せっかくの結婚祝いなんだから! そんな泣いてないで、皆で楽しもう!!」
「・・・うん。」
江風は泣き止み、
「姉貴たち、今日はありがとう!! じゃあ江風の結婚祝い、再開しよう!! 乾杯!!」
江風の言葉で、結婚祝いは盛大に盛り上がった。
・・・・・・
・・・
・
お姉たちと別れて家に帰り、
「おかえり~、どうだった?」
主人公が気づいて江風を迎える。
「・・・兄さん。」
「ん?」
「ありがとう、とても楽しかったよ。」
「そうか、それは良かった。」
主人公が考えたサプライズは成功したようだ。
「・・・でも、どうして姉貴たちが「記憶を失っていない」って知ってたの?」
「ああ、それはな。」
主人公は説明して行く。
「オレたちが結婚式を挙げた時に、偶然海風がその場にいたようでな・・・」
・・・・・・
・・・
・
結婚してから1週間後の事、
「あの、すいません!」
「?」
主人公が振り向くと、
「君は確か・・・海風だったっけ?」
「はい・・・いきなりで申し訳ありませんが相談があります、聞いていただけませんか?」
「・・・・・・」
主人公は海風の話を聞くことにした。
「江風は結婚したのですね?」
「うん、オレが江風にプロポーズしてあの子は受け入れてくれたよ。」
「そうですか、良かった。」
海風はほっとした。
「・・・・・・」
主人公は海風の態度に違和感を感じていた、江風の話では「姉貴たちは解体後「江風」の事を覚えていない」と話していた。
その海風が自分の口から「江風」と言った・・・それはつまり、
「もしかして、「記憶を失っていない」の?」
主人公は率直に聞いてみた、すると。
「はい、私は・・・そして他の皆も、記憶は残ったままです。」
海風から発せられた衝撃の事実、
「でも、どうして江風に「忘れた振り」なんかしたんだ?」
「・・・提督に口止めされていたからです。」
海風は今まで言えなかった理由を主人公に話す。
「解体前に「江風や姉妹と過ごした思い出だけは消さないでください!」とお願いして、提督から「ある条件」を飲むことで
記憶を残してもらいました。」
「・・・ある条件?」
「提督から言われた言葉は「お前は解体した身、今後鎮守府の者とは一切関わらない事、それが例え「姉妹」であっても。」と。
「・・・・・・」
「記憶は消されませんでした、その代わり江風には「覚えていない」と言うように指示されました。」
「・・・そうだったのか。」
「白露さんも時雨さんも皆、記憶を残す代わりに「姉妹たちの事を忘れる」ように言われていたんです。」
「でも、江風以外は結婚して解体したため、また再開するようになり、皆で会っていたんだね?」
「はい、皆が記憶が残ったままと分かった時は嬉しかったです、でも江風だけはまだ結婚していなくて、
その後どうなっているのか気になって・・・そうしたらあなたと一緒に結婚式を挙げている所を見て・・・」
「なるほどね。」
「あの、江風は解体したんですか?」
海風は江風は解体したと思っていたようだ、
「いや、まだ艦娘のままだよ。」
「!? そうなんですか!?」
海風は驚く、
「まぁ、説明すれば長くなるけど・・・」
主人公は江風が今に至るまでの経緯を話した。
・・・・・・
「そうだったんですか、あの子には寂しい思いをしてしまいました。」
「江風に会ったら? そして本当のことを言った方がいい。」
主人公は話すように言うが、
「でも、江風は許してくれるでしょうか? 私・・・いえ、私たちの事を。」
海風は何も言えず下を向く。
「・・・・・・」
主人公は少し考えて、
「お姉さんたち全員が集まることは出来る?」
「? はい、来週の〇日の夕方に皆で集まる予定ですが?」
「そうか・・・じゃあ江風を連れて行くから、皆で会ってくれないか?」
「!? 江風を、ですか!?」
「そう、オレにちょっとした考えがあるんだ・・・どうかな?」
「・・・・・・」
海風は悩んだ末に、
「わかりました、旦那さんの考えを聞かせてください。」
そう言って、主人公は海風に説明し、来週に「江風の結婚サプライズ」となったのである。
・・・・・・
・・・
・
「海風の姉貴・・・」
江風はお姉さんの名を呟く、
「お姉さんたちは片時も「江風の事を忘れた事は無い」って言ってた。」
「・・・・・・」
「江風は幸せ者じゃないか、いいお姉さんたちを持って。」
「・・・・・・」
「これでもう江風は独りぼっちじゃない、良かったな江風!」
「・・・うん。」
江風は改めて笑顔で振る舞った。
・・・・・・
その後、江風は1か月に数回、お姉さんたちとお茶会を開いていた。
結婚生活での愚痴、楽しかったことや世間話等を皆で話して楽しんでいた。
元気になった江風は、その後仕事を見つけて働いている、客から「看板娘」として人気だとか。
・・・・・・
「ふあ~あ、眠い・・・そろそろ寝ようかな。」
江風は寝る準備を済ませて、寝室に向かう。
「・・・・・・」
主人公(兄さん)の部屋の明かりがついていて、江風は部屋に入る。
「兄さん先寝るね。」
「ああ、おやすみ。」
「兄さんはまだ寝ないの、もうすぐ深夜になるよ?」
時計を見ると、あと30分ほどで深夜になる。
「後少し、この図面作成だけ終わらせたいから。」
「わかった、じゃあおやすみ。」
江風は挨拶だけして寝室に入った。
「・・・・・・」
あれから2時間が経過して、
「あ~! やっと終わった。」
設計図作成を終えて主人公は伸びをする。
「終わった兄さん?」
江風が部屋に入って来て、
「何だ、まだ起きてたのか?」
「お手洗い、そして覗いたら兄さんが伸びをしていた。」
「そうか。」
江風は主人公の隣に座って、
「じゃあ寝室へ行こうよ。」
「そうだな・・・やれやれ、もう深夜3時か・・・ふあ~あ・・・」
ずっと徹夜だったのか、事もあろうに主人公はその場で寝てしまう。
「!? ちょっと兄さん!?」
江風は揺らすが、主人公は爆睡していた。
「・・・・・・」
江風は「やれやれ」と思いつつ、
「江風が連れて行ってやるよ・・・くぅ~兄さんは重いなぁ~。」
江風は主人公を寝室へと運び、布団を掛けてあげた。
「・・・兄さん。」
江風は寝ている主人公を見つめ、
「本当に・・・ありがとう!」
そう言って江風も一緒に就寝した。
「江風が家出した」 終
続きを切望
”駆逐艦海風は〇〇提督と結ばれ、新たな生活のため”解体”が完了されたし”
文法的に意味わからないことになってます。江風にこの手紙が来たということは、江風が解体担当官?(ってことはないですよね)その場合でも、「”解体”『を』完了されたし」になるはずですし…。
実際は、姉妹艦に通達のための文書が送られてきたということですよね?「し」はタイプミスということでしょうか?
細かいところすみません。少し気になってしまいました。
他にも、何か所か文法的に誤っているのではないかと思われる部分がありましたので、訂正をお勧めいたします。
ありがとうございます、訂正いたします♪
確かに、”解体が完了されたし”では誰かに指示されている言葉ですね。
実際は”解体が完了しました”です。
間違いを指摘いただきありがとうございます♪
他にもおかしい文面見つけたら(自分でも確認します)教えてください。
細部まで読んで頂き感謝です♪
”新たな生活のため、”解体”が完了しました。”と直します。