なぎさ 「私たち、取材されちゃったよ」
快進撃を続ける「ラジオ アクアマリン」。遂に地元テレビ局の目に留まり、初テレビ取材を受けることになる。創設メンバー4人がインタビューを受けるが、そこには驚きの連続が…
2018年4月13日。
「きみの声をとどけたい」が一応のサードラン=最終劇場興行を終えたその日であります。2018年1月からのトリウッドでは実に3か月(4/8最終)、後を追う形で京都・出町座での上映がラストとなりました。
この作品が、「2017年、もっと評価されるべきアニメーション映画」のダントツ一位になったことは知っていましたが、そう言った告知があっても観客動員は、結局20~30万人くらいだろうと思ってます(正確な数値はわからない)。
それでも見た人たちの中に強烈な印象を植え付けた映画であることも事実。圧倒的な告知・宣伝戦略の失敗がここまでの名作を埋もれさせるという悪い意味でのお手本になってしまいました。
ラジオを復活させたなぎさたちの軌跡は、遂にテレビに取材されるまでに…というのが今回の起稿のきっかけです。GW前の4月あたりに取材した体になっていますが、一応、そのタイミングで3年生は引退する、という段取りにしています。
矢沢親子の登場も楽しみなところですね。
2018.4.10 作成開始
2018.5.4 第一版 公開・上梓(9,538字)
2024.5.2 6年ぶりに一部改良。三点リーダーや一部文言の見直し。9,574字。
キャスター男 「続きましては、地域の話題を巡る、神奈中なう。神奈川中央テレビの放送エリア界隈のホットで旬な話題をお届けするコーナーです」
キャスター女 「さて、今日はどのあたりを探訪してこられたのでしょうか」
キャスター男 「今回は、鎌倉の日ノ坂地区。女子高校生がメインDJをしている地域FMをメインに取材してきました」
キャスター女 「私たちと同業ですけど、どんな感じでしたか?」
キャスター男 「それが稼業でない人たちですから、自由に、それでいてきっちり規律は守って放送している感じが印象深かったですねぇ」
キャスター女 「そうですか。むしろ私たちが教わる部分もあったりするかもしれませんね」
キャスター男 「それは内容を見てからということで。それでは神奈中なう、スタートです」
---VTR---
キャスター男・青木 「今日は、ここ、江の島を本拠地に、地域FMで頑張っている高校生がいるというので、訪ねてみることにしました。いやあ、それにしても海も空気もきれいですねぇ」
青木 「(Vを見ながら)その日はちょうど日曜日ということもあって、観光客の方でごった返していました」
キャスター女・三上 「でも日曜に取材なんて……」
青木 「日曜日は高校生たちが全員出てくれるっていうことでそこに設定したんですよ」
三上 「あ、なるほど」
VTR上では、江の島を背に、日ノ坂海岸駅を目指していく青木を後ろから撮る映像。
近くの商店に取材する青木。
青木 「地域FMの評判っていかがですか?」
店主 「私たちって実は後発組なんですけど」
青木 「コウハツ?どういうことですか」
店主 「もともと日ノ坂商店街くらいしか聞こえてこなかった電波なんで、ぼくらはお願いして、トランスミッターを増設して聴けるようになった口なんですよ」
青木 「ああ、それだけ地元の方々に愛されていると……」
店主 「最初は高校生の道楽か趣味くらいにしか見てなかったんだけど、みんな真面目なんだよね。11月にスタジオ再建してからあっという間に人気FMになっちゃった。FMが聞けるエリアに確実に人が動き始めたとわかって、急遽商店会がお願いに行ったって経緯があるんですよ」
青木 「今はどんな感じですか?」
店主 「FM自体のタイムスケジュールは急に変更したりするけど、流れている間は例えば宣伝なんかもしてくれるし、なによりDJたちのおしゃべりがたまらなく初々しい。そりゃあ、人気も出るってもんですよ」
青木 「(Vを見ながら)ますます期待が高まってきます。電車の踏切を越え、少し行くと、蛙口寺さんが見えてきます」
蛙口寺門前で青木を待ち構えるDJたち。
青木 「あ?あなたたちが『ラジオアクアマリン』の……」
なぎさ雫かえで夕 「「「「はぁぃ、そうでぇーす」」」」
青木 「(Vにかぶせるように)お寺の門の前で待っていてくれたのは4人の高校生。みんなびっくりするくらい個性的です」
画面では、下からなめるように上に向かって映像が流れる。向かって左からなぎさ、雫、かえで、夕の順番だ。
青木 「あ、話に聞いたんだけど、テレビの取材って初めてだとか……」
なぎさ 「はいぃ、そうなんですよぉ」
かえで 「これでオレたちも有名人だなって昨日も話していたんですよ」
夕 「ちょっと遅かったんじゃない、なんて思ったりもしてましたけどね」
雫 「で、でもテレビに映るなんて……夢のよう!」
青木 「それでは、この後スタジオでじっくりとお話を伺いましょう」
5人が背中を向けて、境内の中に入っていく。もう一台のカメラが境内からスタジオのある離れに入っていく様子をとらえる。
青木 「お寺の中にスタジオがあるとは、変わってますねぇ」
なぎさ 「はい。住職さんの計らいでやらせてもらってます」
夕 「今年あたりには、海の見えるスタジオで放送もしたいと考えてますわ」
青木 「ほう、それは洒落てますねぇ」
5人、アクアマリンスタジオに入る。
11月に仮設的に作ったスタジオだったが、4月になるまでにところどころ改良されていた。一番の改修箇所は防音設備の増強だった。特に窓の隙間や扉の立て付けなど、大掛かりではない工事もお寺の資金で賄われた。廊下に扉一枚つけただけで静粛性が上がるとは意外だった。
もちろん、すでに撮影の機材や照明は持ち込まれてスタンバイされている。
青木 「いやぁ、これがスタジオ、ですかぁ……」
かえで 「和室がスタジオって、見たことないでしょ?」
青木 「だいたい、靴脱いでなんて、初めての体験ですよ。いやぁ、斬新だなぁ」
なぎさ 「で、私たちが話す場所はここです」
青木 「和室だから、座椅子、かぁ……これもスタジオっぽくなかったりするけどなあ」
夕 「おもしろいでしょ?」
青木 「ええ、ええ。これはすごいわ……」
感心する青木を含めて5人が座る。机は取り払われ、インタビュアー・青木が向かって左手に、DJたちが横一列に並ぶ。並びは出迎え時と同一。
青木 「それでは改めまして、ラジオ・アクアマリンのスタジオからお届けしたいと思います。順に自己紹介をお願いします」
なぎさ 「名前は行合なぎさ。日ノ坂高校3年生になりました。ラクロス部で副将やってます。よろしくお願いします」
雫 「土橋雫っていいます。今年から3年生になりました。なぎさとかえで、夕ちゃんとは幼馴染です。シズクは漢字です。よろしく」
かえで 「龍ノ口かえでって言います。日ノ坂高校のラクロス部でキャプテンやってます。かえではひらがな3文字です。よろしくおねがいしまぁす」
夕 「浜須賀夕と申します。この中では一番キャリアの浅いDJを担当しています。鶴ケ岡女子の3年生です。よろしくお願いいたします」
青木 「さすがだてにおしゃべりしていないですね。キレイに滑舌も取れてますし、何より聞き取りやすい。いやあ、感心しました」
青木 「第一印象は、はっきり言って普通の高校生。でもしゃべっていくうちに彼女たちの凄さがわかってくるようになったんですね」
三上 「それは意外ですね」
青木 「今でこそ大人気のラジオアクアマリンですが、そもそものきっかけはどういったことなんでしょう?」
なぎさ 「その昔に、喫茶店だった場所にラジオブースが作られていて、そこを勝手に使ってしまったのがきっかけなんです」
青木 「勝手に、ですか……それは、なぎささんが?」
なぎさ 「はい。雨宿りしていた軒先が、営業しなくなった喫茶「アクアマリン」の入り口だったんです」
青木 「ということは、そこの存在そのものを知らなければ、ここまでにはなっていないってことですよね」
なぎさ 「そうなりますね。ラジオ自体、しゃべることもそんなに好きなほうではなかったですし……」
かえで 「そうかなあ、結構ノリノリだったぜ、特に最初のころは」
雫 「わかるわかるぅ~~」
青木 「そうは言っても、営業していない場所で、誰の許可もなく電波を出し続けるわけにはいかないわけで……」
なぎさ 「そうなんです。で、調べていくうちに、元オーナーの家族と知り合いになって、ラジオを続けて行こうということになったんです」
青木 「なあるほど。きっかけはそんなところだったんですね」
青木 「で。夕さんは、DJ歴が一番浅いとお聞きしましたが……」
夕 「はい。実は、ここにスタジオができた時からDJを担当させていただいてますわ」
青木 「そう言えば、自己紹介の時にほかのお三方とは学校も違っていたような……」
かえで 「まあ、鶴ケ岡女子はお嬢様学校だからな。うちみたいな男女共学とは違うわけで」
雫 「まあまあ」
なぎさ 「夕ちゃんが来てくれたおかげで品格も上がったような気がします」
青木 「そうなんですね。でも、最初は喫茶アクアマリンという場所だったはずですけど」
なぎさ 「それは、持ち主だった紫音ちゃん……あ、矢沢さんのおうちだったんだけど、今は取り壊されてありません」
夕 「跡地には、おじい様の会社がコンビニを経営していますわ」
かえで 「ああ。でもいい場所にあるから結構お客さんも入ってるしな」
青木 「ということは、このスタジオは二代目なんですね」
なぎさ 「はい。蛙口寺の住職さんが空いているスペースをスタジオにしていいっていうことで放送させていただいているのが現在です」
夕 「コンビニの二階のスペースで再度放送するって言うのが私たちの目標でもありますの」
雫 「そうなったらうれしいなぁ」
青木 「でも、皆さん3年生だし、毎日のように出演するのって難しいんじゃないですか?受験とか……」
なぎさ 「そうなんですよぉ。で、でも、やっぱりラジオ始めた以上は穴、開けられないし……」
雫 「私は、自分のレシピを発表できるからそれはそれでいいけど」
かえで 「キャプテンって立場だから、あんまり抜けるわけにもいかないし、バイトもあるし……」
夕 「わたくしも、それほど出演できていませんけど、何とかやらさせてもらってますわ」
青木 「皆さんもいずれはご卒業されると思うんですが、これからのラジオについてはどうお考えですか?」
なぎさ 「今一応、創設メンバー以外に、日ノ坂高校の放送部が全面協力してくれてますし、日ノ坂商店街の皆さんも番組作りに参加いただいてます。私たちがいなくなっても別段困ることにはならないって思ってます」
かえで 「何しろ、ラジオがきっかけで観光客も増えたって聞いたし、このスタジオだって放送するときには見学者がひっきりなしだもんね」
雫 「そう考えると、恩師ともいえるあやめさんや乙葉さんの卒業は大きいなぁ」
夕 「本当に残念でしたわ」
青木 「それってどういう……」
なぎさ 「私たちより一年先輩の方が、このラジオの基礎を作り上げてくれたんです。彼女が精力的に動いてくれたからここまでのものになったって思ってますし」
かえで 「乙葉さんは、プロ歌手にデビューしちゃって、もう俺たちの手の届かないところに行っちゃったって感じだし」
雫 「ああ、またあやめさんに怒られたいなぁ」
かえで 「俺はちょっといけ好かなかったけどな。ラジオに対する真剣な態度は、俺も見習うところもあったりしたしな」
夕 「ちゃんと正鵠を射ているところがあやめさんらしかったですわ」
青木 「そうなんですね。そんな恩人にもう一度、逢いたいって思いません?」
なぎさ 「えっ?」
雫 「もしかして……」
かえで 「ま、マジかよ?」
青木 「お待たせしましたぁ、どうぞお入りくださいっ」
引き戸が開き、あやめと乙葉が入ってくる。
一同、驚きの表情を見せる。雫は二人を見るや、感極まって泣いてしまっている。
あやめ 「藍色仮面、ただいま参上、ですっ!(メガネクイッ)」
乙葉 「懐かしいですねぇ、お久しぶりですぅ」
なぎさ (ぐずりながら)「あやめさん、乙葉さんっ!」
かえで 「あー、びっくりしたよぅ、お久しぶりです」
雫 「……」(言葉にならない)
夕 「おかえりなさい」
青木 「(一同が再会を喜ぶ光景のVを見ながら)これで全員ではないんですね」
三上 「え?まだいらっしゃるのですか?」
青木 「さて、6人がそろったわけですが、これで全員、ではないですよね?」
なぎさ 「え、あ、ハイ、あと紫音ちゃんが……」
かえで 「ちょ、ちょっと待ってくれよ、まさか彼女まで呼んだとか?」
あやめ 「え?それは私たちも聞いていませんでしてよ」
青木 「ラジオアクアマリンを語る上で必要不可欠なこのお二人にご登場いただきましょう」
かえで 「フ、二人だってぇ?!」
雫 「ま、まさか……」
青木 「はい。矢沢紫音さんと朱音さんです。どうぞお入りくださいっ」
促されて矢沢親子が入って来る。昏睡状態から目覚めて半年以上たち、今では車いすの補助どころか、杖すらいらなくなるほど筋力も回復。もちろん、しゃべることもできる。紫音はと言うと、母のことに気を使わなくてよくなったこともあったのか、やや派手めな化粧で、日ノ坂にいた時とは印象がガラッと変わっている。
スタジオに入った彼女を迎え入れて、あの蛙口寺での最後のステージが思い起こされたメンバーたちは涙、涙に明け暮れる。かくして、メンバー7人と朱音という8人が一堂に会するインタビューになった。
青木 「いやあ、一気に賑やかになりましたねぇ。しかし、さすがに8人と私、それにスタッフもいるからここでは手狭ですよね……」
パイプいすが用意されて、そこに現役DJが座り、座椅子にはゲスト的な立ち位置の4人が座る。そもそもゲストを呼ぶようなスタイルのスタジオではないので、手狭というより、もうパンク状態である。
なぎさ 「でも、私たちの記憶の一部が甦ったみたいで、すごくうれしいです」
雫 「何より、紫音ちゃんに会えたのが……」(まだぐずっている)
かえで 「オレ、朱音さんに逢ってみたいってずっと思ってたから、ほんとびっくりしましたよ」
青木 「では改めて、4人の自己紹介とまいりましょうか」
あやめ 「わたくしが、中原あやめ。相模文化大学の一年生です。いずれは業界デビューしたいと思ってまぁす」
かえで 「お、まだその夢は捨ててませんな」
あやめ (メガネクイッ)「あったり前でしょうが」
乙葉 「琵琶小路乙葉です。いや、O-TO-haって言った方が通りがいいかもですね。この度、メジャーデビューも果たしました。よろしくぅ」
紫音 「あ、わっ私は、矢沢紫音です。ここにいる6人とラジオやってました。久しぶりの再会でドキドキしっぱなしです」
朱音 「私が紫音の母で、ラジオアクアマリンでDJをしていた矢沢朱音と申します。事故で放送できなくなってからというもの、どうなっていたのかはよく知らなかったのですが、娘の紫音はじめ、皆さんがこのラジオを復活させたって聞いて、本当にびっくりしていました。しかも、蛙口寺さんの境内で仮設じゃなく、本格的に放送しているって聞かされたときは、どんな感じになっているのか気になって仕方ありませんでした。今日はいろいろとお話も聞けそうですので楽しみにしています」
青木 「全員がそろったわけですが、初代のスタジオがどうして無くなってここに至ったのかって、説明していただけませんか?」
紫音 「もともとは、喫茶アクアマリンの一角をラジオブースにして、そこからお母さんが一人でいろいろしゃべっていたのがきっかけなんです。おじいちゃん……事故で亡くなったんですけど、クラシックが大好きで、ことあるごとにレコードとかCDとか、買っていたのをかけたりして昼下がりから放送していたみたいです」
青木 「なるほど」
紫音 「事故で昏睡状態にあったお母さんをここ・日ノ坂の病院からおばあちゃんの実家近くの病院に転院させることになったのが去年の8月の終わり。それまでに喫茶店は売りに出していたんだけど、最後の夏くらいはラジオを聞かせてあげたいなって、始めたのがきっかけです」
なぎさ 「そうだったね。でも、開口一番だったのは私なんだけど……(テレ)」
紫音 「ああ、そうだったわね。そう言えば、鍵って開いてたの?」
なぎさ 「うん。扉引いたら開いちゃったから……それでお邪魔したってわけで……(苦笑い)」
紫音 「初めてなぎさの声聞いたときは、本当に腹が立ったって言うか、なんで放送しているの?って感じたわ」
なぎさ 「まだ怒ってる?」
紫音 「それもだけど、どうしてなぎさの声が聞こえてくるんだろうなって。カフとかもなぜか上がっていたわけだし……」
なぎさ 「うん。私、レコードプレイヤーと主電源以外は触ってないからね。声が聞こえたのって、ほんとに偶然だったのかなぁ……」
青木 「まあ、いろいろあってアクアマリンが復活したわけですけど、ここまでだと、なぎささんと紫音さんだけですよね?」
なぎさ 「で、幼馴染で、高校も同じの二人にも加わってもらってまずは4人で始めたんです。あやめさんと乙葉さんは……」
あやめ 「はぁい。私が華麗に登場するのは7月末のこと。その足で、学校の終わった乙葉チンにここに来てもらって音楽の重要性を熱く語ったのを昨日のように思い出しますわ」
乙葉 「あやめに言われるままにここに来たのはいいんだけど、「ジングル作って」って無茶ぶりするんですから」
あやめ 「そうだったわね。でもあっという間に作れるんだから、乙葉チンはすごいですぅ」
かえで 「で、そこからオレたちの曲を作って放送しないかって話になって……」
乙葉 「エエ。一曲作らせてもらったわね。一度しか放送できなかったけど」
なぎさ 「でも、あの曲に乗っかったコトダマが朱音さんを眠りから覚まさせたのかも、しれないしね(思い出したのか、少し瞳が潤む)」
紫音 「私も、実際コトダマって信じてなかったけど、あの日お母さんに届いたコトダマたちを見たら、「本気のコトバは、本気のネガイはいつか現実になるんだ」って思い知らされました。以来、私も嫌な思いは抱えず、なんでも意思表示するようになっていったんです」
かえで 「あの場面、オレも感動したなぁ。夕とのわだかまりもなくなった記念すべき日だし……」
夕 「あら、私は今でもかえでが一番のライバルでしてよ」
かえで 「そんなこと言ってぇ。今年の日ノ坂女子ラクロス部は一味違うから覚悟しとけよな」
夕 「いつでも受けて立ちますわ」
かえで 「うんうん。そうこなくっちゃぁ」
青木 「今視聴者の方々は、台本通りに進行していると思っておいででしょうけど、これって、皆さん、アドリブでお話しされてますのでね。いやはや。凄いことです」
かくしてしばらく歓談の時が流れる。
青木 「さて、今回皆さんに集まってもらったのは、ほかでもありません。その名曲をここでご披露いただきたいと思って、集まっていただいたわけですけど……」
なぎさ 「まあ、確かにあれからみんなが集まったのなんて、一度もないし」
乙葉 「私はもう一度、歌いたいなあって、ずぅっと思ってましたよ」
かえで 「お、それって乙葉の……」
雫 「コトダマってことなのかしら?」
あやめ 「さすが乙葉チンですねぇ。プロになっても初心を忘れてないところがますますファンになりそうです」
夕 「私も、この曲歌ってみたいなあと思っていましたわ」
紫音 「でも、私、この曲聞くと、お母さんが目覚めるシーンが思い出されて……」
朱音 「そんな名曲だったとは。私は聞くだけになりそうですけど……」
青木 「では、ちょっと移動しましょうか」
青木 「私たちはスタジオから出て、蛙口寺の境内に向かいます」
そこには2017年8月31日の最終放送回同様にしつらえられたステージ。見つけるなり、一同は歓喜の声を上げる。
青木 「いかがですか?」
なぎさ 「すごぉい、あの日みたいだぁ」
かえで 「そうだったよなあ。あの日町の人たち200人くらいここに来てくれたもんなぁ」
雫 「なんか、よみがえってくるんだけど……(泣き)」
乙葉 「私、あのシーンを今でも鮮明に覚えてるの」
夕 「それって、コトダマが一斉に湧き立った……」
あやめ 「そんなことって、って思ってましたけど、あれを見てからというもの、私も言葉には気を付けてますのよ」
紫音 「私のコトダマだけでなく、町の人たちのコトダマもお母さんを気付かせてくれたんだと思うの」
朱音 「あの時のことってぼんやりだけど、覚えてるのね。なんか、凄くいっぱいの人に呼び掛けられてるように感じたの。それも10人とか20人とかではなく。その中に紫音の姿が見えたのね」
なぎさ 「そうなんですか……」
朱音 「で、私の記憶の中では、紫音ってまだ4歳くらいなんだけど、「ママッママッ」て言っているように感じたのね。あ、起きなきゃって思ったのがその時だったの」
かえで 「紫音の呼びかけも、まんざら足りなかったってわけじゃなかったんだな」
夕 「言葉って偉大だなってその時私も感じましたわ」
青木 「今日は、思う存分歌っていただきたいと思ったので、こちらの方も用意しました」
合図とともに、日ノ坂町民が一斉に飛び出してくる。ワーという歓声。
青木 「というわけで、日ノ坂町民の皆さんにも聞いていただきたいと思いまぁーす」
その掛け声で一斉に割れんばかりの拍手。それぞれが立ち位置と思しき場所に散っていく。
乙葉のキーボードのピアノソロが序章を奏でる。「こーころのぉ」なぎさの歌い出しで幕を開けた「Wishes Come True」の演奏。あの時を思い出しているのか、観客の町民の中にも、涙ぐむ人たちが出始める。
当初はメンバーに入っていなかった夕も加わり、ハーモニーが紡がれる。紫音がメインとなるパートも滞りなく歌われた。
「確かめよーぅ Wishes Come True~~~~」
半年以上歌唱機会がなかったはずなのに、一切のミスもなくきっちりと歌い上げる7人。傍らでは朱音が、顔中涙まみれにして聞き入っている。
演奏が終わり、境内にまた再び鳴りやまない大きな拍手が巻き起こる。それを映像で引きながら俯瞰するところでVTRは幕を閉じる。
青木 「今回は、DJの現役高校生を驚かせようとした企画の方に力が入っちゃって、実際のラジオの話はあんまりでしたかねぇ」
三上 「そうも感じましたが、どうしてなんですか?」
青木 「今回登場していただいたDJ経験者って、現在はほぼしゃべってないそうなんですね」
三上 「ああ、高校3年生、でしたもんね……」
青木 「そうなんですね。このGWまでは回数減らしてでも出てくるみたいには言っておられましたけど、引退するってことは確定だし、すでに創設者メンバーの3人は関われなくなってますしね」
三上 「さすがにプロの歌手ともなるとギャラ発生しちゃいますしね」
青木 「でもわかったこともあるんですね。それって我々にも通じるところだと感じました」
三上 「どういったところですか?」
青木 「VTRの中でも時々「コトダマ」って言うキーワードを何度も聞いたかと思うんですよね」
三上 「漢字で言うと、言葉の霊、言霊ってやつですよね」
青木 「言葉には魂が宿っている、って言うのは、DJなぎささんの口癖らしいんですが、朱音さんを起き上がらせたのもこのコトダマではないか、とみんなは思っているようなんですね」
三上 「ふんふん」
青木 「思いを載せた言葉で、その思いが現実のものになる。悪く言えば自分に帰ってくる。これに気を付けて放送しているから、皆さんにDJたちのコトダマがすんなり受け入れられたんだと思うんですよ」
三上 「耳に痛い、というか、本職でもない人たちに教えられるとは…ちょっと身につまされるものがありますね」
青木 「この夏には、もともとあった「アクアマリン」の跡地で曜日限定ながら出張ラジオをやるとか。まだまだ進化を遂げようとしている地域FMの凄さに感服いたしました。これからもいい放送を続けて行ってもらいたいものです」
三上 「以上、神奈中なう、のコーナーでした」
【終】
読了、ありがとうございました。
もうすでに「ラジオ局がある日ノ坂」という設定しか頭にありませんので、今いきなりこの作品から入ってこられた方はちんぷんかんぷんだと思います。でも、この作品がひと夏の想い出で終わらなかった後日談、と考えていただけるとかなり理解は進むんじゃないかと思います。
進学/就職/留学、とみんなの進む場所は違うはずですが、今後はどうやって物語を構築しようか、は考え中です。
このSSへのコメント