手を離さないで
今回は現実っぽい世界での青年君と山風ちゃんのお話です
初めましての方は初めまして! クソ文才たくちゃんでございます!
艦娘のキャラ崩壊注意です!
青年「ごちそうさまでした」
ぱちんと手を打ち合わせ、食器を片付ける
時刻はまだ七時、出社には余裕あり
テレビをつけると、いつも通りの他愛ないニュースが流れる
議員の不倫がどうの
艦娘の補助金がなんの
青年「…正直、どうでもいいしな」
そういうと青年はテレビを消し、歯を磨き、着替え、出社の用意をする
ラインが一件、よくつるんでいる幼馴染からだった
また今度遊ばないかという内容だ
それに適当に返事をし、スマホをしまう
青年「うーん、ちょっと早い気もするけど…」
青年「ま、途中でコーヒーでも買って、ゆっくりと行くのも悪くないだろ」
青年「じゃ、行ってきまーす といっても誰もいなけど」ハハハ
外は今日も暑い
流石は日本、もう九月も半ばだというのに少し歩くだけでもう汗が流れてくる
青年「あっつ…」
青年「マジでこれどうなるんだよ…日本………」
信号待ち
この辺りは大通りが近く、車の量も多い
そのせいかこの信号は赤が長いことで有名だった
・・・ふと横を見ると、少し小さい中学生か高校生くらいの女の子がいた
青年(緑色の髪…珍しいな)
青年(ていうかそれよりも暑くないのかな…あの毛量…)
あまり見ていると変人扱いされかねないので、すぐに顔を前に向けて信号が青になるのを待つ
そうして少しすると、信号が青になった
さて歩き出そう、そう足を踏み出そうとした瞬間…
女の子「…」フラッ
突然、となりにいた女の子が倒れる
青年「…っ!!」
反射的に体が動き、なんとか体が地面にぶつかる前にその体を支えることができた
青年「ふぅ…よかった」
じっとその子を見つめるが、どうやら意識を失っているようだった
青年「…しゃーない」
そういうと、青年はすぐにスマホを取り出し、119番を押した
…ふと目を覚ますと、頭の上にひんやりとした何かが乗っかっていることに気が付いた
どうやら濡れタオルらしい
すると、見知らぬ顔がこちらをのぞき込んでいた
青年「あ、よかった目、覚めたんだ」
驚きと恐怖で反射的に逃げ出そうとするが、体は思うように動いてくれなかった
青年「あぁダメだよ、君さっき倒れたんだから」
女の子「倒…れた?」
青年「そ、僕の前でふらっとね」
瞬時に、何があったのかを思い出す
私は信号待ちをしていた…だけれど突然フラッとして…
青年「まぁいわゆる熱中症だろうね」
女の子「このタオルは…あなたが…?」
青年「うん でも応急処置だから」
青年「もうすぐ救急車が来てくれるはずだから」
そう聞いた途端、体を起こそうとする
青年「おっと、ダメだってば…!」
女の子「やだ…! 学校、行きたい…!」
女の子「私なら…大丈夫だから…!」
青年「ダメだってー、こんな状態じゃ」
女の子「…お金…かかる…」
青年「大丈夫、かからないから!」
そうしていると救急車の音が聞こえる
どうにか体を動かそうとするが、やはりだめだった
そうして私は、担架に乗せられ、そのまま救急車で運ばれた
男の人は、病院までついてきてくれて、事情を説明していた
どうにか感謝を伝えようとしたのだが、それが終わると男の人はすぐに出て行ってしまった
青年「申ーーし訳ございません!!」
会社に着くと、まずは平謝りから始める
部長「あーいいのいいの、事情は聞いてるから」
部長「なんでもかわいこちゃんの命を救ったんだって? やるじゃん」
部長は典型的な『オヤジ』な感じで、こちらをいじる
部長「ここらは至急の仕事もないから、そこまで謝らなくてもいいよ」
青年「ありがとうございます!」
またも必死に頭を下げた …もう何回目だろう
青年「ふぅー」
同僚1「おう、重役出勤じゃねぇか」ハハハ
青年「そんな風に言うなよ~… 結構大変だったんだぜ?」
同僚2「でも優しいよね、私だったら救急車呼んでそのまま行っちゃうかな」
同僚1「ふっ、そんなだから彼氏ができないんだよ同僚2くん」
同僚2「わっ、私だって彼氏くらいいたことありゃー!!」
同僚1「ほんとかー? まだ田舎臭いのが抜けてねぇぞ~?」ニヤニヤ
青年「うちは今日も平和だな~」
そんなこんなで仕事が終わる
そもそもそんなに仕事がないのか、部長も定時で帰っていいというので、ありがたく退社させてもらう
青年「あっつ… 六時だしそりゃそうか………」
まだ空は明るく、夕焼けと薄い雲が少し幻想的だ
大勢の人がいる電車に乗り、最寄りの駅で降り、道を歩く
そうして少し歩くと、例の交差点に着く
今回は運よく青信号、このまま渡ろうとした、その時だった
女性「申し訳ありません…」
少女…というには大人びて、しかし大人の女性とも言えないくらいの人が、声をかけてきた
髪はとても美しい銀色、それを足の辺りまでの三つ編みにしている
青年「はい? なんでしょうか?」
女性「あの…今日の朝にですね…」
女性「この子を助けてくれた方でしょうか…?」
そういうと、後ろからゆっくりと女の子が出てきた
緑髪のもさもさ毛、間違いなく朝に会った子だった
青年「あぁ、はい そうですが」
女性「あぁ! やっぱりそうでしたか!」
女性「今日は本当にありがとうございました!!」
女性「ほら山風も…」
そう女性が小声で言うと、山風と呼ばれた女の子も慌てて頭を下げる
女の子「あああ、ありがとう…ございます…!」
青年「いいんですよ、そんなにかしこまらなくて…!」
女性「いえ…この子色々と弱い子なので… 本当に死んでいたかもしれません…」
本当に心配だった、という風に女性は言う
女性「…あの、お時間って大丈夫でしょうか…?」
女性「よろしければお礼など含めて、ここら辺の喫茶店でも…」
青年「時間は…えぇ、全然大丈夫です」
断ったらなにか悪いような気がしたので、素直に受け入れることにした
マスター「いらっしゃいませ」
カランカランというベルの音と共に、喫茶店に入る
マスター「おぉ海風ちゃん、久しぶりだね」
女性「はい、マスター ご無沙汰しております」
マスター「山風ちゃんもこんにちは」
女の子「こ、こんにちは…」
マスター「で?そこの彼は彼氏かなにか? 変な奴ならぶっ飛ばすけど」
喫茶店のマスターとは思ぬほどの威圧感で、こちらに微笑んでくる
青年(この人…何者…!?)
女性「ち、違うんです、今日山風がですね…」
ざっくりと、女性が事情を説明する
マスター「んー、なるほどね 山風ちゃんの命の恩人てわけね」
マスター「ごめんなさい、このしがない喫茶店のマスターをやっている者です」
マスター「よろしく」
握手をすると、顔を近づけて小声でこう言われた
マスター「私にとって孫同然のあの子たちに変な気起こしたら………わかってるね?」ボソボソ
青年(こえーーーーーーーーーーー!?!?)
席に座り、注文をして一息つくと、女性が口を開いた
女性「本当に…ありがとうございました!」
女の子「ありがとうございました!」
青年「い、いえ…だからそんなにかしこまらなくても…」
女性「いえ、本当に…この子は本当に弱い子なので…」
女性「えっととりあえず…初めまして、海風と申します」
女の子「や、山風っていいます、よろしくお願いします…」
青年「あ、私はこういうもので…」
名刺を二枚、二人に渡す
海風「あ、ありがとうございます」
青年「…そのお名前…もしかして………」
海風「あ、はい… 艦娘って奴です」
海風「とはいっても、私もろくに実戦経験なんて無いですし、この子なんか実戦参加もしていないんです」
海風「深海棲艦との戦争が終わって、練度の低い人たちはみんな退役になりましたから」
青年「なるほど、その影響で海風さんと…山風ちゃんも」
海風「あ、私たちのことは海風、山風で構いませんので…」
青年「いえいえ、一応礼儀なので」
海風「そうですか」
青年「山風ちゃんはその…大丈夫ですか?」
海風「えぇ、お陰様で」
海風「軽い脱水症状と熱中症… あれだけお水を飲んでって言ってるのに…」
山風「うぅ…」
海風「…えぇっとそれでですね」
海風「少しばかり身の上話をよろしいでしょうか?」
青年「えぇ」
海風「…最近、退役艦娘への助成金が削られたというのはご存知でしょうか」
そういえばテレビで連日やっている気がする 艦娘の生活はどうの、こうの
海風「それ以前にも、そういうことがあってですね」
海風「年々、そういったお金は減少しているんです」
海風「本格的に働ける世代の方たちはいいんでしょうけど…」
海風「私たち…特にこの子みたいな高校生くらいの子には死活問題なんです」
海風「なんとか私が働いて、どうにかしている状況で…」
海風「でもこの子、生まれつき体が弱くて」
青年「少し失礼かもですけど、艦娘にもそういうことあるんですね」
海風「えぇ、まぁエラーのようなものではあります」
海風「それで…社会の人たちより少し下くらいではあるんですけど…」
海風「あまり豪華な食事を採らせてあげることもできなくて…」
青年「…それで、倒れてしまったわけですね」
海風「はい…情けない話です」
となりで黙って話を聞いていた山風ちゃんも、少し俯き、申し訳なさそうだ
青年「いえ…この暑さはいたって健康体な私でもダウンしそうになりますから…」
しばらく沈黙が続く コーヒーもほとんど無くなっていた
青年「…初対面の人間が言うのもどうかとは思うんですが…」
海風「はい」
青年「…山風ちゃん、何が好き?」
山風「えっ…?」
青年「…食べ物なら何でもいいよ」
山風「…オムライス…」
青年「ん、わかった!!」
青年「マスター、お会計いいですか?」
海風「え、ちょ…」
青年「あぁ、お代なら私が払うので」
海風「い、いえそんな…」
青年「あ、カードいけます? じゃあおなしゃす」
海風「あ、あの…」
青年「ご馳走さまでしたーー!」
マスター「はい、ありがとうございました」
海風「………」 山風「………」
唖然としたままの二人に対して、マスターが言う
マスター「お客様はもう少しお待ちください」
二十分後、青年がスーパーの袋を持って喫茶店に帰って来た
青年「はぁ…はぁ…! さぁ海風さん山風ちゃん、行きましょうか!!」
海風「…えぇっと、どこへ…?」
そこから徒歩十分ほど
あるアパートの一室に二人はいた
青年「すみませんね、狭いし汚くて …あぁ、ソファに適当にかけてテレビでも見ていてください」
青年「ニ十分後くらいで終わりますからねーっと…」
海風「…あ、あの…なにを…?」
青年「いえ、山風ちゃんがオムライスが好きだというので、健康に気を使ったオムライスをご馳走しよう…と…」
青年「…」
ここにきて、ようやく青年は落ち着いた思考を取り戻した
青年(あれ…やばくね?)
そう、自分より小さな女の子を二人、目的はどうあれ自分の家に連れ込んだ
脳裏に喫茶店のマスターが思い浮かんだ
青年「あ、ち、違うんです!? 普通に、ただ単純に!!!」
山風「…本当に、ありがとうございます」
青年「え…?」
てっきりド警戒されていると思ったので、驚く
山風「…私がオムライス好きだって言ったから…だよね?」
青年「う、うん…」
山風「海風姉、この人、嘘は言ってない」
青年「ほ、本当ですよ!?」
海風「…わかりました、お言葉に甘えさせていただきます」
ほっと胸をなでおろす
青年「よかったです んじゃ、テレビでも見てくつろいでいてください」
青年「…お待たせしました! オムライスです!」
コトッという音と共に二人分のオムライスを置く
海風「えと…あなたは…?」
青年「あぁ気にしないでください! 後で適当に余ったのを食べますから」
ちらりと山風ちゃんを見ると、眼を輝かせていた
山風「…いいの!? これ、食べてもいいの!?」
青年「おうともよ、たーんとお食べ」
山風「わーい!! いただきます!」
そういうとともに、ケチャップをかけパクパクと食べ始める
今までの様子からは想像もできないほど嬉しそうに食べていた
…見ているこっちも、幸せになってくる
海風「…」パクパク
対する海風は、上品に少しずつ食べていく
数分後には、お皿は見事に空になっていた
山風「おわかり!!」
海風「山風…!」
山風「あ…」
青年「いえいえ、たっぷりと作っていますから全然大丈夫ですよ」
青年「卵だけ用意するんで、ちょっと待っててね 海風さんは?」
海風「…いえ私は…」
青年「いいんですよ、遠慮しなくて」
海風「……な、ならお言葉に甘えて…」
少し恥ずかしそうに答える
そんなこんなでもう九時だった
流石にこれ以上家にとどめておくのもどうかと思ったので、交差点まで送ることにする
すると、海風さんのケータイが鳴った
海風「あ、ごめんなさい 失礼します」
遠くに行き、話を始めた 内容は詳しくは聞こえない
不意に、よこから袖を引っ張られたので、横を見ると山風ちゃんがこちらに話しかけてきた
山風「…あのっ……あの…」
青年「ん? どうしたんだい?」
山風「あのねっ、オムライス、美味しかった…ありが…とう」
青年「ん! そういってもらえるとこっちも嬉しいよ」
山風「それでね…? その…また…」
山風「また…来ても…いい?」
何とか声にできたという風にこちらに言ってきた
少し、涙目になっている
青年「…うん、もちろん」
しゃがみ込み、安心させるために頭を撫でる
山風「ん…!」
青年「でも海風お姉ちゃんにキチンと確認してから来るんだよ?」
青年「俺もあんまり家にもいないからな」
そうして少し喋っていると、海風さんが戻ってきた
海風「お待たせしました …あら? どうしたの山風」
山風「あのねあのね、またオムライス食べに来てもいいって!」
海風「あら… 本当に何から何までありがとうございます」
またもや深々と頭を下げる
青年「いえいえ、お気になさらず」
青年「前々に言ってくだされば、キチンと用意しますから」
そうして歩くこと十分ほど、あの交差点に着いた
青年「それじゃあ、お気を付けて!」
海風「はい、本当に今日はありがとうございました!」
山風「ありがとうございました!」
山風ちゃんが朝ここで会った時よりも元気そうで、安心する
信号が青になると二人は離れていった
その後ろ姿が見えなくなるまで、手を振り続けた
それから、山風ちゃんとはよく会うようになった
あの交差点で、大体七時四十分くらいに
実は山風ちゃんの学校は近いので、そこまで早く出る必要はないらしい
でも俺に会えるようにって早く出ているんだ、と海風さんからこっそりと教えてもらった
今日も、いつも通りの時間に山風ちゃんは信号にいた
青年「おはよう、山風ちゃん」
山風「おは…よう お兄ちゃん」
なんだかんだでかなり懐かれたらしく、『お兄ちゃん』と呼ばれるようになっていた
青年「今日の学校はどんな教科?」
山風「今日は一限が体育でね、二限が…」
山風ちゃんは俺が駅に着くまで、横にくっついて歩いてきて、それまでに学校の話などをする
そうして駅に着くと別れ、俺は電車に乗って会社へ、山風ちゃんは学校へ向かうのが習慣化している
そんな感じで一か月が過ぎたころ、海風さんから一件のメッセージが届いた
『海風:山風がまたお家にお伺いしたいと言い出しまして…』
『海風:本当に申し訳ないのですが、山風がどうしてもというので、今度お伺いしてもよろしいでしょうか』
『海風:お手伝いもさせますので…』
とのことだった
別に断る理由もないし、用事も特になかったので快くOKをした
そうして当日
並木通りの葉も彩りを深め、それに感嘆しながら歩いていると
学校帰りらしい山風ちゃんと海風さんが、あの交差点で待っていた
青年「あぁごめんなさい、ちょっと電車が遅れちゃって」
海風「いえ、私たちも今来たところですので」
青年「そう?ならよかったです それじゃあ買い物行きますか」
山風「何買うの?」
青年「んー、山風ちゃん今日は何が食べたい?」
山風「前とおんなじオムライス!!」
青年「あはは…好きだね」
山風「うん! お兄ちゃんの作ったオムライス、物凄く美味しかったもん!!」
スーパーに着くと、時間も時間なので大勢の買い物客がいた
俺と同じような仕事帰りのサラリーマンや夕飯のための惣菜を選んでいる主婦など
そう考えると、今の俺は何だ?
…若奥様といとこを連れて買い物をするサラリーマン…
ふとその構図を頭に浮かべ、何となく悪い気がしすぐに振り払う
海風「? どうしました?」
青年「あ、いいいえ!! なんでもないっすよ! はい!」
自然と早口になる …余計怪しまれるのではないか
青年「そ、そう! それじゃあ俺食材買ってきますので!」
青年「そちらも適当にお買い物を…」
そういって駆けだそうとした瞬間、山風ちゃんがワイシャツの裾を掴んでいった
山風「一緒に買い物、しよ?」ウワメヅカイ
はい禁止兵器
こんなことを言われたらそうしない理由なんてあるだろうか、いやない(反語)
青年「わかったよ、いこっか」
山風「うん!」
海風「あらあら ふふ」
青年「さ、前と同じで狭いけど入って入ってー」
海風「お邪魔します」
山風「お邪魔します!」
青年「前と同じくテレビでも見て…」
すると、山風ちゃんは髪をまとめ、エプロンをつけ始めた
青年「ど、どしたの山風ちゃん?」
山風「私お兄ちゃんのお手伝いしたい!」フンス!
まぁ山風ちゃんもそれなりの歳だ、料理くらいはできる…
…の、か………?
いやだってどう見ても料理は海風さんに任せてそうじゃん
どう見ても料理得意には見えないじゃん
山風「…だめ?」
まぁ包丁さえ持たせなければ危ないこともないしいいだろう
青年「ん、じゃあお兄ちゃんの指示に従って…」
青年「なん、だと………?」
数分後、俺の予想は見事に外れることになる
山風ちゃんは野菜をキッチリと切り分け、ご飯を混ぜ
卵を混ぜ、フライパンに引き、そして包んだ
…つまる所ほとんど一人でやってしまったのだ
青年「…」
唖然とする俺を見て、海風さんが笑いながら言う
海風「山風、実は学校で料理研究会に入っているんですよ」
青年「…な、なるほどそれで…」
どうりで動きが素人からは程遠いわけだ
三人「「「いただきます」」」
結局、山風ちゃんが料理はほとんど作ってしまった
青年(…ていうか、俺が作ったのより数段出来がいいんですけど…)
オムライスを咀嚼しながら、少し落胆する
山風「どうしたの、お兄ちゃん?」
青年「い、いや…あまりにもおいしくてね…」
青年「逆に俺の数年間の一人暮らしは一体何だったのかと…」
海風「あはは、当たり前ですよ、私が小さい時から料理を教えてますからね」
今度は海風さんが自慢げに語る
その様子は海風さんには珍しく年相応の女の子と言った感じだ
青年「…あれ? ってことはこの中で一番料理できないのって………」
…少し、いや結構落ち込む なんせ料理には自信があったから…
山風「あぅ、お兄ちゃんごめんね?」
青年「い、いや別に山風ちゃんが悪いわけじゃないから…」
そうして、テレビを見て談笑をしていると、時間はあっという間に過ぎた
いつもの交差点で別れ、また二人が見えなくなるまで見送った
家に戻ると、どうしてか部屋がとても広く感じる
今までは一人で、何も感じることなく住んでいた部屋が、急に物寂しく感じた
…ケータイが振動した、見てみると母からのラインだった
久々に幼馴染の家族と一緒に飯を、どうの
青年「…そういえばちょっと前にそんなことを言ってたな」
青年「はぁ………」
適当に返事をし、ベットに寝転ぶ
やはり、一人の寂しさが消えることはなかった
それを消すように、急いで寝ることにした
同僚2「ねー…青年くんさー…」
青年「な、なんだよ…?」
翌日、いつも通りに会社に出勤すると、いきなり同僚がジト目でこっちを見てきた
同僚2「…彼女さん、できたの?」
青年「……へ?」
同僚1「ははーん、とぼけてもムダだぞ、俺たちには証拠があるんだ」
そういって見せられたのは、この間交差点で海風さんたちと待ち合わせた時の写真だった
青年「こんなんどこで…」
同僚1「最近様子が変…っていうか幸せそうだったからつけてみたんだ」
同僚1「そしたら驚いた! まさかこんな小さな子とねぇ~…」
同僚1「……援交?」
青年「違うわクソ野郎」
同僚2「ムキになる辺り怪しい………」
青年「はぁー… わかったよ、説明するよ」
かくかくしかじか、まるまるうまうま
同僚1&2「「なーーーんだ、そんなことか!!」」
同僚1「つまんねぇの!」 同僚2「よかったー」
同僚1&2「「え??」」
青年「……」
部長「おはよう、なんだか盛り上がってるね」
青年「あ、部長 おはようございます」
同僚1「おはようございます、部長 実はですねこいつがー…」
部長「へぇ、艦娘とねぇ」
同僚2「……そういえば部長の奥さんも艦娘でいらっしゃって…あ」
部長「そーーなんだよ!! 聞いて聞いて!! 昨日もさーー!!」
いつもは少し遅いくらいの部長の喋りが、急に速くなる
…部長名物、奥さん自慢だ
同僚1「おいバカ!」コソコソ
青年「何やってくれてんだてめぇ!!」コソコソ
同僚2「ひ、ひぃー、ごめんてー!」
部長の話は、仕事に取り掛かる時間ギリギリまで続いた
昼休憩の時間になった
青年「んっ………ふぅー」
ぐっと伸びをし、休憩に入ろうとした時…
部長「ちょっといいかな?青年君」
青年「え、あはい」
後ろで二人がひそひそと話をしているが、まぁ気にしないでおこう
外に置かれた喫煙スペース、俺はそこに連れられた
青年「えっと、なにか用でしょうか? やらかしたり?」
部長「いや、ね 艦娘と親しくなったって、言ってたね」
青年「そうですが…それが何か?」
部長「確か…海風と山風と言ったか」
青年「……ど、どうして名前…」
部長「妻から軍役時代の写真や名前を見せられるものでね」
部長「といっても、君の知っている彼女達とは、恐らく別人だが」
青年「それは…つまり…?」
部長「あぁ、思わせぶりに言ってごめんね 艦娘には同じ名前で沢山の人がいるからね」
部長「まぁ要するに同じ名前、顔の別人がいっぱいいるのさ」
青年「そういうことっすか」
部長「……で、ここからが本題」
部長の声が、少し強張る
部長「…まぁ、君のことだし大丈夫だとは思うんだが」
部長「艦娘ってのは、往々にして特殊な効果を持っているんだ」
青年「それは…戦闘、とかではなく?」
部長「あぁ、彼女たちが意図しなくとも発動してしまう…というか、生まれ持った才能と言った方がいいのか」
部長「科学的に解析されたわけではないんだがね」
部長「…どうも所謂フェロモン…的なものを持っているという話だ」
青年「フェロモン…? そんな気は…」
部長「うーん、難しいな」
部長「性的とかそういうことじゃなく、なんとなく心惹かれるというか、放っておけないというか」
…ある、思い当たる節がありすぎる
青年「あぁ、なるほど」
部長「わかってくれたか」
部長「かく言う私も恐らく………やられたんだろうな」
少し照れながら言う
青年「…でも別に何の問題もないですよね?」
青年「いやほら、そのフェロモン的なもので部長はいい奥さんもらえたわけだし」
部長「私はね、いい人に会えたのさ」
部長「その効果を悪用せず、ただ私に尽くしてくれるような素晴らしい艦娘にね」
部長「…ただ全員が全員そうじゃないらしい」
青年「…?」
部長「最近、艦娘による詐欺が社会現象になっているの、知ってるかい?」
青年「…え?」
部長「艦娘への助成金カット、それによる煽りを受けての財政難」
部長「…生活に困ったらやることなんか人間と一緒だ」
青年「…」
部長「特にお年寄りの被害が相当らしいよ」
青年「…そう、なんですね」
ニュースを見るといっても、トップニュースを見たりするくらいだから、知らなかった
部長「…君が会っている艦娘に限ってそんなことはないと思うが…」
部長「一応、気をつけてもらいたいな、と思ってね」
青年「…なるほどです、ありがとうございます」
部長「ん」
青年「ただ、私の家にはそんなに金目の物はないですから」ハハ
部長「遠回しに給料上げろって?」
青年「いやそういうわけじゃないですよほんとですよ」
部長「…ま、戻っていいよ ごめんね、時間取らせちゃって」
青年「いえいえ それでは失礼します」
頭を下げ、昼食を食べるために中に戻る
部長「…ん?」
携帯が鳴るので、反射的に取り出す
するとそこには、彼の妻である龍鳳からのラインが大量に来ていた
部長「ははは、またか」
文面はいつも通り、さぼっていないかとか寝てないかとか
他の女と会っていないか
とか
部長「大丈夫だよ…っと」
少しスマホ慣れしていないような手つきで返信をする
すぐに既読が付き、ならよかったです、と返ってくる
部長(彼にはああいったが、まぁ大丈夫だろう)
部長(艦娘も悪い子ばかりじゃないだろうし)
部長(…まぁ、うちの妻は少しばかり独占欲が強い気がするがね)ハハハ
そういうとケータイをしまい、彼も昼食を取りに戻っていった
紅葉した葉もかなり落ちてしまった頃
いつものように帰りの電車に乗っていると、海風さんからラインがあった
…部長の話を思い出し、何となく警戒してしまう
文言は、『今度外せない用事があるので山風を預かってもらえないでしょうか』とのことだった
今回ばかりは、二つ返事で了解、とはいかない
とりあえずは、私でいいんですか、と尋ねる
そもそも一応成人男性である俺の家に、未成年の山風ちゃんを預けること自体いいものなのか
少しして『構いませんよ』と帰ってくる
『変なことをする人でないのは、私や山風がよくわかっていますから』
マスターさんとかはどうなんですか、と尋ねる
『マスターさんは夜にも仕事をしているので、お邪魔になるかと思いまして…』
『あ、ち、しがうんです! 別に青年さんがおひまだとかそういうことじゃなくって…!』
随分慌てたのか、打ち間違えをするほどだった
…流石にここまで言われてしまうと断るのも不自然というものだ
わかりました、と返す
『よかったです! 本当にありがとうございます!!』、そう返って来た
それからまた数日が過ぎ、山風ちゃんが泊まりに来る日になった
山風「えっと…今日はよろしくお願い…します」
インターホンが鳴り外に出ると、制服姿の山風ちゃんがいた
青年「あぁ、入って入って」
山風「お邪魔します」
青年「どうする? 先にお風呂?ご飯?」
山風「ど、どっちでもいいよ…です」
…なぜか緊張してる、海風さんがいないからか
青年「じゃあ先にお風呂に入ってて、その間にご飯用意するから」
山風「うん…」
山風ちゃんがお風呂に入ったので、夕飯の用意をする
この日のために色々と用意したのだ
青年(なるべく山風ちゃんが出るまでに用意を済ませたい…サプライズだし)
山風「…な、なに………これ………!!」
今までにないくらい山風ちゃんの目が輝く
青年(それはそうだ、俺だってこんな食事あんま食わない)
出費は結構したが、まぁ山風ちゃんの笑顔のためなら安………安いものだ(強がり)
山風「お、お兄ちゃん、これ食べていいの!?」
喜びからか、リボンがぴょこぴょこと動く 可愛い
青年「あぁ、まず手を洗ってな」
山風「うん!!」
…やはり山風ちゃんの食欲は凄まじかった
目の前にあったはずの肉はどこへやら、ぺろりと平らげてしまった
俺が驚く様子を見て、少し申し訳なさそうに山風ちゃんは言う
山風「私…艦娘だから食べる量が多くって………」
青年「いやいや、一杯食べるといい 育ち盛りにそんなこと気にしてたらダメだからな」
青年「お肉のおかわりはないけど、それ以外はあるから」
実は事前に海風さんから話を聞いていたので、大量に作ってはいたのだ
山風「うん…! ありがとう、お兄ちゃん!」
そうしてご飯を食べ終わり、食器を片付け
テレビを見たり一緒にゲームをしたりしていると、もう十二時になっていた
俺はいいが、山風ちゃんは寝なければいけない
しかし残念なことに、一人暮らしの俺に布団は二つはない
よって自動的に俺が床で寝ることになる
青年「じゃあ、山風ちゃんは俺のベットで…」
そういった瞬間、山風ちゃんが後ろから抱き着いてきた
青年「っ!? ど、どうしたの山風ちゃん」
流石にいきなりのことで、驚いてしまう
山風「…一緒に、寝たい」
青年「あー…」
海風さんから、誰かと一緒に寝る癖がある、とは聞いた
ただ流石に…
山風「お兄ちゃん…!」ウルウル
…だからそれは卑怯だって言ってるじゃん
流石に向かい合って寝るのは、ということで、背中を向けあって寝ることにした
ただ…
青年(寝にくい………)
青年(やっぱり緊張するというか、何というか…)
山風「…お兄ちゃん」
それは山風ちゃんも同じようだった
青年「あ、山風ちゃんも寝れないか」
山風「うん」
青年「じゃあちょっと話でもしよっか」
青年「そうすればじきに眠たくなってくると思うし」
山風「うん」
そうして俺たちは話を始めた
些細な事ばっかりだが、楽しいものだ
青年「…そういえばさ」
青年「どうして海風さん、今日山風ちゃんを預けたんだろうね」
山風「…」
山風ちゃんからの返答がない
青年「…山風ちゃん?」
…まさか、本当に部長が言ってた…
山風「…あんまり言うなって言われてるんだけどね」
山風「…うち、すごく貧乏なの」
…それは何となく察していた
山風「…だから、海風姉はいっつも働きづめで…」
山風「今日もお仕事が外せなくってって、言ってた」
山風「だから…だと思う」
青年「…そっか」
青年「山風ちゃん」
山風「なぁに?」
青年「困ったことがあったら、言ってね」
青年「すぐに飛んでいくから」
青年「俺、ただの中小企業のサラリーマンだけどさ」
青年「できることはしたいから」
山風「うん、ありが…とう…」
気になってちらりと山風ちゃんを見ると、すやすやと寝息を立てていた
青年「おやすみ」
時計のアラームが鳴る
なんだか今日は寝起きがものすごくスッキリとしている
さて、起きるか そう思った時に、あることに気が付く
青年「え…?」
隣にいるはずの山風ちゃんがいない
青年(夜には確実にいたのに…)
青年(まさか…)
『部長「最近、艦娘による詐欺が社会現象になっているんだ」』
青年(いやそんなはずがない…! 山風ちゃんに至って…!)
焦りをかき消すように寝室から飛び出ると…
山風「あ、おはようお兄ちゃん!」
…エプロン姿で台所に立つ山風ちゃんがいた
山風「…どうしたの、そんなに怖い顔して?」
青年「い、いや何でもないよ、ごめんね」
心の中で、大きく安堵のため息をつく
青年「そ、それよりご飯作ってくれてるの?」
山風「うん! 朝ごはんと、お弁当用!」
青年「そんなにおかずあった?」
山風「あ…ごめんなさい 勝手に冷蔵庫開けちゃって…」
青年「いや、それは大丈夫だよ」
山風「おかずは…あるもので勝手に作りました…はい」
青年「お、王道にハムエッグだね」
山風「うん…お昼は、玉子焼きとか、ポテトサラダとか、鮭とか…」
青年「いいねぇ、健康的」
山風「もうすぐできるから…待ってて」
青年「はーい、机の上用意して待ってまーす」
青年&山風「「いただきます」」
青年「ハムッ…ムッ…うん、おいしい!!」
山風「本当? よかった」
青年「いやー本当に山風ちゃん料理上手いね」
山風「ほ、褒めても何も出ない…よ?」
青年「お世辞じゃなくて、いいお嫁さんになるよ」
山風「おっ…お嫁さん…」
顔が真っ赤になる山風ちゃん、なんだか新鮮だ
山風「お兄ちゃんのお嫁さん…フフフ…!」ニヤニヤ
そうして食べ終わり、しばらくテレビなどを見てゴロゴロし
時間になると二人一緒に家を出て、いつもの交差点で別れた
青年「部長のお話、やっぱ心配いりませんでした」
部長「お、そうかい よかったよかった」
…会社、昼休憩の時間に、一応報告だけはしておく
部長「まぁ青年君いい子だからね、そういう人に周りには自然といい子が集まるのかもね」
青年「…俺そんないい奴っすかね?」
部長「絵に描いたような『普通にいい子』だよ」ハハハ
青年「光栄っす」
すると部長の携帯が鳴る
部長「っと、いつものだ」
部長「はいはい、わかってますよっと」
青年「…奥さんですか?」
部長「あぁ、この時間には必ずラインがぶっ飛んでくるんだ」
部長「心配性というか何というかね」
青年「いいじゃないっすかー愛されててー」
部長「まぁねぇ~ 惚れた弱みさね」
部長「君も早くそういう人を見つけなさいな」
青年「一応、来月に幼馴染と会うんですけどね」
部長「へぇ、彼女だったり?」
青年「まーー…どうなんすかね」
青年「昔から結構仲は良くて、今も頻繁には会ってますけど…」
部長「なるほど、まぁ楽しんできなよ、結婚も視野に入れてさ」
青年「まぁ、はい」
当日…
青年(なんだよお袋、軽い飲みだからって言ってたのに…)
お袋はバッチリとメイクし、親父もスーツをビシッと決めていた
精々久々の家族同士の場としか聞かされていなかったのだ
青年(…いやまぁ俺も恥ずかしくない格好では来たけどさぁ)
そうこうしていると、前から俺たちと同じ格好をした家族が来た
幼馴染「おいっすー」
幼馴染だ、いつも通りゆるーい感じだ
青年「あい、おひさーー」
母「こら! キチンと挨拶しなさい、久々なんだから!」
青年「…お久しぶりですーーー」
幼馴染父「はっはっは、お変わりないようで!」
父「あぁこれはこれは、お久しぶりですな!」
早速恒例のペコペコ合戦が始まる
幼馴染「元気してたかー、おいー」
幼馴染が肩を組んでくる、そして胸が当たる
やめんかいい歳なんだから
青年「まぁボチボチさ、お前は?」
その手を払いながら、とりあえず社交辞令的なことを聞いてみる
幼馴染「アタシか? アタシは大変なんだよ~上司のおっさんがさ~!」
青年「はいはい」
とある居酒屋
時間はもうてっぺんを過ぎていて、このままでは終電を逃すだろう
だがどちらの家族も久々で話が尽きないのか、帰る気配は全くない
青年(…こりゃハシゴとかになっちゃうか ま、明日休みだしいいけど)
ごくごくと酒を飲み、もう一杯頼もうとしたときだった
青年「ん?」
携帯が鳴る、何事かと見てみると、海風さんからだった
青年(なんだろう…?)
そう思い、メッセージを読もうとしたが…
幼馴染「親父さーん!こいつ酒の席で一人でスマホいじろうとしてましたー!」
酔っ払った幼馴染がちょっかいをかけてきた
父「なにー!けしからん! すぐにやめなさーい!」
面倒くさーい酔っ払いに絡まれるのもなんなので携帯をしまうことにする
青年「あいーすんませんしたーー!!」
用件が気になったが、まぁ明日返信しても文句は言われないだろう
半分ほど酔っ払った頭で、そう考える
幼馴染「でよーでよー、聞いてくれよー!」
青年「はいはい聞くから抱きつくなって~」
そうして、夜は深くなっていった
時刻は三時、タクシーを使って自宅のアパートの前に着いた
流石に眠い、そう思いながら鍵を探していると、ふと海風さんからのメッセージを思い出した
青年「あー、そういえばどんなメールだろ…」
青年「どれどれ…」
ボーっとしながら、ロックを解除し、ラインを開くと、そこには一件だけメッセージが入っていた
『びょういんに、来て』
…メッセージはそれだけだった
青年「…山風…ちゃん…!?」
しかし、俺にはわかってしまった
なにかが、起きていることが
本来起きてはならない、何かが
急いでまたタクシーを呼ぶ
数分後、タクシーが来た、どうやら先程のタクシーと一緒のものらしかった
運転手「おや、先ほどの! お忘れ物ですか?」
青年「いえそうではないんですが… この辺で一番近い病院に向かってください!」
運転手「はい、了解しました」
どこの病院なのかはわからない、だが近場のはずだ
もし違っても事情を話せば教えてくれるはずだ
そう思い、まだかまだかと考えていると、すぐに病院に着いた
運転手さんが、何かを察してかなりスピードを出してくれたようだった
青年「すみません!ありがとうございました!! おつり要らないので、それでは!!」
そういって飛び降り、急いで病院の入り口へと向かう
薄暗いエントランスで、あたりを見回す
するとそこの隅っこで毛布にくるまっている山風ちゃんがいた
青年「あぁ良かった!! ごめん山風ちゃん…」
そういい終わるのとほぼ同時に山風ちゃんが口を開いた
山風「…嘘つき!!」
青年「…え…?」
山風「お兄ちゃん、困ったことがあったらすぐに来てくれるって言った!!」
山風「でも来てくれなかった…!!」
用事があったとか、病院の場所がわからなかったとかいう言い訳は意味がない
何事かと聞こうとした時、後ろから声が聞こえた
看護師「あぁ! 保護者の方ですか!?」
青年「あぁいや、私は…山風「はい!」
俺の声を遮るように、山風ちゃんが答える
看護師「よかった、状況を説明するのでこちらへ」
通されたのは、診察室だった
看護師「お連れしました」
医者「おぉ、ありがとう」
医者「この子の保護者の方ですね」
青年「まぁ…はい」
…ここでいいえと言っても面倒なだけだ、ここは嘘でもはいと言っておくのが吉だろう
医者「…何があったかはご存知で?」
青年「申し訳ないです、わかりません」
医者「いえいえ ではご説明します」
医者「海風さんが事故に遭われました」
青年「…え?」
海風さんが…?
医者「車とぶつかりましてね」
青年「い、命の方は!?」
医者「ご安心ください、ひとまず命に別条はありません」
青年「よ、よかった…」
ほっと胸をなでおろす
医者「かなり怪我自体は酷いですが、艦娘であることが幸いしましたし、当たり所もよかったですね」
医者「怪我が怪我なので目を覚ますのにはもう少し時間が必要でしょうが」
青年「そうですか …それで、状況は?」
医者「車の方の運転手さんによると、急に飛び出してきたとか」
医者「ただ目撃者の証言によれば倒れるようだったと聞いていますし」
医者「それに海風さんの状態を見るに過労による失神ですね」
青年「過労…やっぱり…」
出会ってからの海風さんを思い出すと、どれも少し疲れたような表情をしていた
どうしてもっと気付けなかったのか、自責の念があふれてくる
医者「とりあえず海風さんの方に行きましょうか」
青年「はい」
そういって俺たちは、海風さんの病室へと向かった
色々と説明を受け、いったん帰っていいと医者に言われた
外に出ると、冬の朝の寒さが一気に襲い掛かった
となりには山風ちゃん、先ほどからずっと無言のままだ
気分を少しでも明るくしようと何か話しかけようとしたとき、山風ちゃんが口を開いた
山風「お兄ちゃん」
その目には少し涙が浮かんでいた
山風「…ばか!」
山風「ばかばかばかばかばか!!」
小さな腕で、こちらをなんども叩いてくる
…それを止める権利は、俺にはない
山風「すぐ来てくれるって言ったのに…!」
山風「飛んできてくれるって言ったのに…!」
山風「お兄ちゃんの嘘つき…!!」
山風「うえぇぇええええぇぇぇええん!!」
我慢していた涙が、一気にあふれたようだった
青年「ごめん…ごめんね………」
山風「お兄ちゃんしかいないの…お兄ちゃんだけなの…!」
山風「だから見捨てないでよ…」
青年「うん…」
俺に出来ることは、ただ頷いて体に抱きついた山風ちゃんの頭を撫でるだけだった
海風「本当にご迷惑をお掛けしました…」
海風さんがベッドから必死に謝ってきた
海風「山風の面倒を見てもらっているみたいで」
青年「いえいえ! とんでもないです!」
青年「それよりも海風さんはしっかり休むこと!いいですね!」
海風「でも私が働かないと…」
青年「…金銭的には、サポートしますから」
青年「だから海風さんも倒れるまで働く必要はないですから、しっかり休んでください…」
海風「…どうもありがとうございます」
青年「?」
海風「あなたには本当に何から何までお世話になって…本当に…!」
俯いてそう言った海風さんの目から、涙が一粒落ちた
青年「…俺は何にもしてませんよ」
青年「だから顔をあげてください、せっかくの美人さんが台無しですよ」フフ
海風「すみません…ありがとうございます…」
微笑みながら、涙を拭く そのしぐさは一層海風さんの大人さを強調した
山風「むー…」
すると横で、山風ちゃんが膨れっ面をしていた
青年「あぁごめんごめん、お姉ちゃん独占しちゃって」
山風「海風姉ーーー!」ダッ
海風「はいはい、まだ体治ってないから強く抱きつかないでね」
山風「うん!」
それから一時間ほど話をしていると、山風ちゃんがある提案をした
山風「今度のクリスマスイブ、何かしたい!!」
海風「…山風、私たちにはお金が…」
山風「あ…」
…場の空気が固まってしまう
どうにかしなければ、そう思い、あることを思い出す
青年「…あ」
山風「? どうしたの?」
青年「いや、確か俺クリスマスイブ、予定入っていたなって…」
そう、あの幼馴染と約束してしまったのだ
あの時は海風さんの件があってすぐで、心ここにあらずと言った感じで適当に返事をしてしまった
まさかこんなことになろうとは
山風「……お仕事?」
青年「え、うん…そうだよ」
…流石に女とどっかへ行くとは言えない
山風「…お仕事なら仕方ないね」
少し疑いながらも、わかってくれたようだった
青年「本当にすみません」
青年「じゃあ俺はそろそろ失礼しますね、では!」
山風「うん、じゃあねお兄ちゃん」
時は過ぎ、あっという間に十二月二十五日となった
幼馴染「ごっめーん、お待たせ-」
青年「おせぇよ」
幼馴染「そこは『ううん、俺も今来たところさ』キリッってやるとこだろ」
青年「どうしてお前にそんなことをしなきゃいけないのか、理解に苦しむね」
幼馴染「ったく可愛げがないなー」
青年「さて行くぞ、一応イブだからな」
幼馴染「うん」
それから俺たちは、まぁそれなりに楽しんだ
映画見て飯食って歩いて…
幼馴染「結局さ、私たちってどういう関係なのかな」
青年「……」
幼馴染「昔からつるんできたけど、ほら私らもいい歳じゃん」
青年「そうだな」
幼馴染「…あのさ」
幼馴染「私は…好きだぜ?」
青年「……え?」
あまりに急なことで聞き返してしまった まさか告白されるとは思わなかった
幼馴染「だ、だから! 私は別にお前のこと嫌いじゃないからさ…」
幼馴染「け、結婚とか言わないけどさ…その、付き合うくらいは…」
珍しく恥じらいながら、幼馴染が言う
別にいいけど、そう答えようとした瞬間
山風『お兄ちゃんしかいないの…お兄ちゃんだけなの…!』
山風『だから見捨てないでよ…』
…脳裏に突然、山風ちゃんのことが思い浮かんだ
青年「…ごめん」
幼馴染「…え?」
青年「いや、今すぐってわけには、いかないや」
幼馴染「あ、う、うん…そうだよな、うん………」
青年「ごめん」
幼馴染「そ、そうだなうん! 私も唐突過ぎたよ」
青年「…」
幼馴染「…」
幼馴染「…じゃ、じゃあそろそろ遅いし解散にするかな!」
青年「あ、あぁ、そうだな…」
幼馴染「じゃあ、また今度…!」
そういって逃げるように帰る幼馴染の目には、涙が浮かんでいたような気がした
…正直な話、別に何の問題もなかった
ただ山風ちゃんのことが思い出されて、うんと言えなかったのだ
青年「…悪いことしたな、ホント」
近くのベンチに座り俯きながらそんなことをつぶやくと…
山風「お兄ちゃんなら私たちを選んでくれると思ったよ!」
青年「えっ!?」
驚いて顔をあげると、そこには確かに山風ちゃんがいた
だがどうして?なんで山風ちゃんがこんなところに?
山風「…私、怪しいって思ったんだよね」
山風「お兄ちゃん、クリスマスイブの予定聞いた時、すごく歯切れ悪かったから」
山風「何かあるなって思ったら、女の人と会ってるんだもん」
青年「い、いや山風ちゃん、あれは…!」
山風「うん、わかってるよお兄ちゃん」
山風「お兄ちゃんはあんな女には、騙されないもんね!」
ニコニコとしながら、山風ちゃんは言った
『あんな女』、と
青年「ち、違うんだよ山風ちゃん…アイツは…」
山風「…何が違うの…?」
青年「や、山風ちゃん…?」
山風「ねぇお兄ちゃん…教えて?」
少しずつ、少しずつ山風ちゃんが近づいてくる
青年「山風ちゃん…! ここじゃなんだから…」
周りの人の目も、段々と怪しい者を見るようになっている
ここは落ち着いて話をするためにも、一旦静かな場所へ行くのがいいだろう
山風「うん、わかったよお兄ちゃん」
あの信号の近くの公園…
日が変わりそうな時間なので、当然人はいなかった
ここでなら落ち着いて話ができるだろう
山風「…それで…あの女は何なの…?」
…これ以上隠すことにメリットもない
青年「…幼馴染だよ」
青年「…今度彼女になる予定の」
そういうと、山風ちゃんの顔から一切の笑顔が消えた
山風「彼…女………?」
青年「あぁ」
山風「……」
青年「あ、別に彼女ができたからって山風ちゃんたちと関りが無くなるわけじゃないよ!?」
言い訳のように付け加えるが…
山風「嘘…絶対嘘だ…」
山風「お兄ちゃんまた嘘つこうとしてる…!!」
青年「ほ、本当だよ…!」
山風「嘘だ嘘だ嘘だ…!」
山風「またそうやって私たちを見捨てるんだ…!」
山風「お兄ちゃんに見捨てられたら…私たちはまた二人ぼっち…」
青年「…ごめん」
山風「…え?」
青年「山風ちゃんたちとは、これからもいい関係でいたい」
青年「…でも俺もいい歳だ、そろそろ色々と考えなきゃいけない」
青年「…本当に、ごめん」
山風「…お兄ちゃんしか、いないんだよ?」
山風「お兄ちゃんが私たちを見捨てたら、私たち生きていけないの」
山風「それでも見捨てるの?」
山風「あの女を取るの…?」
ギュっと、山風ちゃんが力強く俺の袖を掴む
山風「お兄…ちゃん…?」
山風ちゃんが、こちらを呼ぶ
涙を流しながら
…やめてくれ
口をつぐみながら
…やめてくれ山風ちゃん
上目遣いで
…お願いだ、そんなことをされたら俺は
山風「お兄ちゃん…」
甘えるように
瞬間、俺は山風ちゃんを抱きしめていた
山風「…よかった」
山風「お兄ちゃんは私たちを選んでくれるんだね」
完全に無意識に、体が動いた
この子を見捨てることを、本能が拒否したように
山風「信じてたよ、お兄ちゃん」
山風ちゃんが頬ずりをする
柔らかい、いい匂いがする
…この先なんてどうでもいい
ただこの子の傍にいられれば
この子を守れれば
この子を幸せにできれば
青年「…もう、それだけでいいんだ…」
山風「うん、ありがとう」
山風「手を、離さないでね」
山風「…大好きだよ、お兄ちゃん」ハイライトオフ
おしまい
コメントもらうと作者が喜びます
どんな話になるか楽しみです。
あれ、シリアスタグが…
気のせいかな?
1さん、コメントありがとうございます!
お楽しみに、です!
キチンとあります『シリアス』ですw
まぁバッドエンドではないので心配しないでね★
初コメ失礼します。
上のコメント見て安心しました…ハッピーエンド期待してますね!٩( 'ω' )و
ライブドアニュース(9月8日(土))
海上自衛隊、護衛艦『かが』に中国海軍フリゲート艦2隻が接近
加賀『流石に気分が高揚します。』
3さん、コメントありがとうございます!
バッドエンドじゃないとは言ったけどハッピーエンドとは言ってない、
つまり・・・(ゲス顔
4さん
ちょっとなんでここに書き込んだのかよくわからないコメですね・・・
初コメ失礼します。
山風キャワイイ。海風キャワイイ。マスターコワイ……
こんな平和な感じがいつまでも続くと願っています。
タグなんてのは有るようで無いような物なので( ͡° ͜ʖ ͡°)
6さん、コメントありがとうございます!
山風ちゃんたちの可愛さは異常、はっきりわかんだね!
まぁ割と平和に終わると思いますよー(ニコニコ
この幸せな空間に江風か乱入してきたりはしないですよね?
8さん、コメントありがとうございます!
あ・・・
そういう展開もあったーー!!
むしろそうしとけばもっとドロドロになったーー!!
あーーーーーーーーーーーーー!!!!!
読売新聞(9月28日(金))7面
💀韓◆国💀
文大統領、国連総会で『慰安婦問題』に基づき日本🇯🇵🎌🗾を非難する演説実施
これは『慰安婦問題』で相互に非難応酬する事の自粛を約した『慰安婦問題における日韓合意』の明確な違反であり、💀韓◆国💀は『慰安婦問題』を蒸し返す事を国家として宣言した。と、思料
加賀『頭に来ました。』
10さん
あの、意図が全く分からないですしやめていただけませんかね・・・?
そういうお話はここでするべきじゃないと思いますし
平成30年『防衛白書』
💀韓◆国💀
19年連続で『軍拡』実施
極めて危険な『兆候』
特に『海軍・空軍』の『軍拡』が顕著である。
かが『流石に気分が高揚します。』
更新ありがとうございます。自分の幸せゲージが1貯まりました。
10,12は他の人のところにも良く出没しては意味不明なことを書き込んでるので、主が無視できるなら無視した方が良いですよ。時間的にも精神的にも
長文失礼しました。
ライブドアニュース(10月8日(月))
💀韓◆国🇰🇷💀
外相が日本🇯🇵🎌🗾河野外相に『慰安婦財団』の『解散』を正式に通達
これは💀韓◆国🇰🇷💀による『慰安婦問題を巡る日韓合意』の事実上の『破棄』通達である。
加賀『頭に来ました。』
日本🇯🇵🎌🗾にとって最悪の結論
💀韓◆国◆🇰🇷💀と北.朝.鮮🇰🇵が日本🇯🇵🎌🗾を『共通の敵』として『軍事同盟(秘密同盟)』を結び、日本🇯🇵🎌🗾と対峙してくる可能性が高くなってきた。
日本🇯🇵🎌🗾は『安全保障・防衛』を再構築する必要がある。
要するに『💀韓◆国◆🇰🇷💀』『も』『敵』である。
加賀『流石に気分が高揚します。』
↑謎ニュースやめて
13さん、コメントありがとうございます!
物語も佳境・・・ 応援してくれるとうれしいです!
それと13さんの言う通りですね、無視していきます
ご提言ありがとうございます
16さんもありがとうございます
読者様も無視していただいて結構ですよ~
艦娘が人間社会で幸せに生きてる姿って不思議と思い浮かばない。
白露姉妹もスマホとか牛丼とかとコラボしてる筈なのに
18さん、コメントありがとうございます!
わかる
あれですかね、結局兵器ってことなんですかね
終わらないでくれーーー
20さん、コメントありがとうございます!
残念ながら工事完了です・・・
4.10.12.14.15へ
いや草生えるはてか、生え散らかすわw
つまるところ何が言いたいんだよwてか地味に加賀さんを入れるなw