提督代行(元寺男)「退役の修羅場」前編
以前書いた寺男(元提督)「後の修羅場」のさらに後の話です。よろしければお付き合い願います。
概要にあるとおり、この作品は寺男(元提督)「後の修羅場」の続きとなっておりますので、未読の方はそちらを先にご覧下さい。
????「はい…はい…わかりました、お大事にと伝えて下さい。では」
ガチャン!
????「ハア……」
受話器を置いて日の暮れかかった海を窓から眺める。
ミャア!ミャア!
カーン!カーン!
工廠の作業音と海猫の鳴き声が耳に心地よく響く。
軍服を窓から射し込む夕陽が真っ赤に染め上げ、浅黒く日焼けした逞しい顔つきと体躯は正に一昔前の『海の男』といった佇まいである。しかし、その表情は決して明るくはない。
提督代行(しばらく前までは、寺で鐘をついて眺めていた夕陽を…また鎮守府でみるようになってどれくらいたったでしょうか?)
かつて不本意な形で去ることになったこの戸利合(とりあい)鎮守府で、艦娘がらみのトラブルの為に現提督が指揮を取れなくなり、帰ってくるまで鎮守府の運営を代行としてこなす日々になり、月日が流れた。
実は正直そんなにかからずに現提督が復帰して自分はさっさと寺男に戻って穏やかな日々を過ごせると思っていたが、現提督の身体は元々のストレスからくる不摂生による内臓へのダメージで思ったよりボロボロで、復帰はまだまだ時間がかかりそうだと先ほどの電話で吹雪は語っていた。だが…
提督代行(正直もう…)
この鎮守府は前線からは少し離れた場所で、なおかつしばらく前の大規模作戦がかなりの打撃になったらしく、制海権のほぼ全てを取り戻し、後は残党の掃討のみの状態…つまり
提督代行(やる事が無いんですよね…この鎮守府)
今はまだ何が起こるか解らないからいざという時の為にあるが、いずれは予算縮小の為に解散させられる事は明らかだった。
提督代行(終結となって、リストラされるよりは退職して住職様に願いでて出家して、あの寺で静かに暮らしたい。そんな気持ちでいっぱいなのですが…)
フアイト!フアイト!フアイト!フアイト!……
ふと下を見ると体操服で訓練の〆のランニングをしている艦娘の姿が目にうつる。
皆いつでも戦えるように日々訓練に明け暮れてはいるが、今の状態では戦果を挙げようにも敵が居ないのだから挙げようがない。
提督代行(なるべく早く彼女達に戦い以外の道を示して、それぞれの道を歩んで欲しいのですが……)
だが、願いとはうらはらに時間ばかりが過ぎていき、今に至る。
コンコンコン!
提督代行「入りなさい」
ガチャ!
??「失礼します」
提督代行「おや、大淀。今日の分の仕事はもう終わってますよ?忘れ物ですか?」
大淀「ええ…」
ギュッ!
提督代行「お、大淀!?」
大淀「これを忘れてました///」
ギュウウウウウウ!
提督代行「お、大淀!ちょっと待って!(ま、真正面から抱きつかれてるから、2つのふくらみが!!)」
大淀「んん///」
スーーーーーーーーーーッ
クンカクンカ
大淀「この匂い…落ち着きます///この為に日々働いているようなものです///」
スリスリ
大淀(こうやって私の匂いをつければさらに良い匂いに///ああ!たまりません!)
提督代行「いや、人の匂いを仕事後のビールみたいに言わないで下さいよ!というか離れなさい!誰かに見られたら…」
ガチャ!
長門「失礼する」
提督代行/(^o^)\オワタ!
長門「ああ、そのままで結構。気にしないでくれ」
提督代行「な、長門でしたか…(た、助かった…)ほら大淀、離れなさい」
大淀「…はい。長門さん、お疲れ様です。」
長門「ああ、お疲れ様。ところで…代行殿」
提督代行「はい?なんでしょう?」
長門「……『現提督はいつ復帰なさるのだ?』」
---この鎮守府には現提督を慕う派と提督代行を慕う派があり、両派の筆頭たる長門と大淀が抑えているため、争いこそ無いが、微妙な空気が漂っている。
提督代行「その事なんですが…」
長門「代行殿、貴方にはあのバカどもを制し、心壊れた子達を献身的に癒し、鎮守府を救ってもらった恩がある。だからこそ我々は我慢できている。しかし、それにも限界がある」
提督代行「わかっています。私としても1日も早い復帰を望んではいるのですが、いかんせん本人が電話に出られないくらい衰弱していると吹雪から連絡がありましてね。私ができる事は全力でこなしますから…」
長門「チッ!あの芝生芋、介護を理由にちゃっかり提督についていくとは…この長門、一生の不覚だ」
提督代行(不謹慎ですけど何となく似合いの呼び名ですね…)
大淀「ところで長門さん?」
長門「?何だ?」
大淀<●><●>「『提督代行殿』とお呼びするように言ってあるはずですが、アルツハイマーですか?」
長門<●><●>「たとえ代行殿と言えど私が提督とお呼びする方はあの方だけだ。貴様こそ健忘症か?」
<●><●>ゴゴゴゴゴ……
<●><●>ゴゴゴゴゴ……
提督代行「ハイハイハイハイ!両者ともストップ!ストップですよ!」
大淀「提督…」
提督代行「大淀、私はあくまでも代行。その事実は変わりませんし、呼び方は気にしていません。それに長門の立場と貴女の立場が逆だったらと考えてごらんなさい?気持ちは解るはずでしょう?」
大淀「それは…そうですけど…」
長門「フン!」
提督代行「それと長門、戦艦たる貴女が易々と挑発にのるものではありません。ビッグセブンたる貴女が容易く引っかかるようでは仲間の命を預かる立場とは言えませんよ」
長門「ウグッ!」
提督代行「焦る気持ちはわかります。ですが、『冷静に、常に冷静に勤めよ』です。わかったらお互いに謝りなさい」
大淀「長門さん…ごめんなさい」
長門「いや、私もムキになって…すまなかった」
提督代行(……長門程の人物がピリピリしているのだから、下はもっと制御が効かない寸前かもしれませんね。何かしら手をうたなければなりません。)
提督代行「…!そうだ、ちょうどいい」
大淀&長門「「?」」
提督代行「二人に相談があるんですが、いいですか?」
---
大淀「……なるほど、少人数づつで提督のお見舞いに行かせてガス抜きを、という訳ですか」
提督代行「幸い戦況は大分良いですし、余程の事がなければ当面は暇ですから…」
長門(・0・)ポカーン
提督代行「ど、どうしました?長門?何か問題でも?」
長門「え?あ、いや、実は私もその事を提案しに…」
提督代行「ならば『善は急げ』です、長門は行く子達の組分けを、大淀はスケジュールの調整をお願いします。なるべく時間に余裕を持たせて長く一緒に居られるように配慮を忘れないで下さい?」
大淀&長門「「了解!」」
提督代行「では、私は工廠に行ってきますから、後をお願いしますね」
大淀「はい!おまかせ下さい!」
提督代行「頼みましたよ、では」
ガチャ、バタン!
長門(この提案を受け入れてくれなければ暴動が起こると脅すつもりだったが…要らぬ心配だったな。提督としての伸び代は現提督に及ばぬとはいえ、歴戦の古強者(ふるつわもの)の勘の良さは伊達ではないか)
大淀<❤️><❤️>(ああ!!やはりこの大淀が一生を捧げるだけの価値ある方です!自分を良く思わない者の為にまで配慮をなさるなんて!素晴らしいです!)
---工廠
提督代行「明石?いますか?」
明石「はーい、いますよ~!」
提督代行「頼んでいた物ができたと聞いたので、来ましたよ」
明石「はい、こちらの…」
明石「マルチトレーニングセットですね!」
提督代行「おお!これはすごいですね!流石妖精さん謹製!」
明石「でもよろしいんですか?こんな業務外の物を作らせて?」
提督代行「なあに、トレーニングルームに置いて皆で活用すれば『施設の充実化』とでも言っておけば文句は出ないですし、たまには妖精さん達にも違うものを作らせて刺激になってくれれば、と思いましてね」
妖精『オモシロカッター!』
提督代行「アハハハハ!なら今度は違うものも企画してみましょう」
妖精『ヤッター!』
明石「何というか…現提督も代行殿も、よその鎮守府の方とは大分違いますね」
提督代行「そうですかね?自分では普通だと思うんですけどね?」
明石「…私は貴方や現提督の鎮守府の前にもいくつか鎮守府を巡ってきましたが、ここまで私達に気を使って下さる提督は…あまり居なかったものでして…」
提督代行「現提督はわかりませんが、私の場合は同期がやっている事を真似してるだけですよ」
明石「確か以前ウチが他所の鎮守府の提督を救出した時に頼んできたって言う…」
提督代行「アイツは多くの仲間を助けてきた優秀な男でしてね。『確かに艦娘は人間であり、兵器である。だがそれ以上に戦友だ。戦友をないがしろにして勝てる戦(いくさ)があるか!』とブラック鎮守府の話を聞くたびに吼えてましたよ。もっともそのせいで一部の上からの評判が悪くて出世レースからは脱落してますがね。本人は『現場に居られるならいいや!』って笑ってましたよ」
明石「良い人ほど出世から遠ざかるなんて…」
提督代行「まぁ、元々出世には興味ないようでしたからいいみたいですけどね(アハハハ…)」
ガチャン!バタン!
テメー!ナンダコラー!
ワーワー!キャーキャー!
明石「何!?喧嘩!?」
提督代行「やれやれ…とうとうですか…」
ダッ!
明石「あっ!提督代行!危ないですよ!」
提督代行「私でなきゃ止まんないでしょ『あの人達』は!」
---
天龍「もういっぺん言ってみろ!摩耶!」
摩耶「何度でも言ってやる!私らの提督は現提督だけだ!代行なんてお呼びじゃねーんだよ!」
天龍「なんだとコラ!」
利根「寝言は布団に寝て夢の中で言うものじゃぞ?摩耶」
鈴谷「言うじゃん利根っち~。でも事実でしょ?あの代行さんは現提督が帰ってくれば辞めちゃうんだから、アンタ達が身の振り方決めた方が早いじゃん?」
利根<●><●>ほほう…良く吠える口じゃのう」
武蔵<●><●>ゴゴゴゴゴ……
霧島<●><●>ゴゴゴゴゴ……
提督代行(武蔵と霧島の間の空気が歪んで見えますね)
提督代行「コラ!何を騒いでいるんですか!?工廠で騒ぎを起こすなとあれほど言ってあるはずですよ!」
天龍「て、提督…代行」
摩耶「チッ!タイミングの悪い時に」
利根「我輩達は悪くないぞ?この者らが口々に提督の事を」
鈴谷「この人代行でしょ?提督とは違うじゃん!」
武蔵<●><●>「我々もあまり騒ぎたくはないが…この事については譲れないのでな」
霧島<○><○>「………」ゴゴゴ……
提督代行(あれ?霧島って殺意の波○習得してましたっけ?)
提督代行「とにかくまずは状況を説明して下さい。話はそれからです」
---
提督代行「なるほど…現提督が居ないストレスでイライラしていた摩耶に天龍がちょっかい出して売り言葉に買い言葉、と…(ハア)」
天龍「だ、だって提督。アイツ…」
提督代行<●><●>「『提督と呼ぶ時は代行』とつけるように言ってあるはずですよ?天龍…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
天龍「て、提督…代行…」
提督代行「よろしい」
天龍「居なくて寂しいのは解るけどよ、いつまでもイライラグジグジされてちゃたまんねーんだよ!いつもなら軽く流すような冗談にまでマジギレしやがってよ!」
摩耶「わかってンなら刺激すんじゃねーよ!っつーかお前らだってコイツが辞めて山奥帰ったらこんな風になるんだろうからその前に一緒にさっさと退役すりゃいいだろうが!」
武蔵「あっ…」
鈴谷「ちょっと摩耶!マズイっ…」
摩耶「アアン?何が…」
天龍<●>「おい…」
利根<●><●>「誰に向かって『コイツ』呼ばわりしとるんじゃ?貴様は…」
霧島<○><○>「現提督の代行とはいえ、御前でコイツ呼ばわりとは…上官に対する態度がなっていませんね。付きっきりで『指導』してあげましょうか?」
摩耶「あ、ああ…(ガクガク!)」
提督代行(ま、マズい!このままでは乱闘になりかねない!早く処分を下さねばなりません!)
提督代行<●><●>「総員、気をつけ!」
一同『は、ハッ!』
提督代行「争いの内容は理解しました、まずは天龍、軽口は慎むように言ってあったはずです」
天龍「は…はぃ…」
提督代行「しかも鎮守府内がピリピリしている今とあればなおのこと注意が必要なはずなのは自明の理です。よって貴女には罰としてグラウンド40週を命じます。何か異議申し立てはありますか?」
天龍「い、いえ…」
摩耶「ケッ!いい気味だ!」
提督代行「それと摩耶、気持ちは理解しますが、貴女も軽々しく軽口に乗るだけならまだしも取っ組み合いになったのはいただけません。そんな事では下の者に示しがつきません。よって貴女にはグラウンド30週を命じます。何か異議申し立てはありますか?」
摩耶「ウッ、い、いえ…ありません…」
提督代行「よろしい。後、利根、鈴谷、霧島、武蔵の4名は止めなかった事に対する責任としてグラウンド20週を命じます。何か異議申し立てはありますか?」
四人『あ、ありません…』
提督代行「ではただちにグラウンド走にかかりなさい。夕食が間に合わなかった場合は私に言いなさい。執務室の非常食(カップ麺その他)をあげましょう。わかったら…作業かかれ!」
一同『ハッ!』
ビシッ!ダダダダダダ…
提督代行「ふぅ…」
明石「お、終わりました…か?」
提督代行「ええ。すみませんね、騒がしくしてしまって」
明石「いえ、それはいいんですけど…いいんですか?」
提督代行「?…ああ、両者共に罰を与えた事ですか?騒ぐなという場所で騒いだのだから当然でしょう?」
提督代行「それに彼女達も歴戦の勇士です。『功あらば賞し、罪あらば裁く、これ良軍の証なり』その位は頭では理解しているでしょうし、始末書まで追加されてないんだからまだお得な方ですよ」
明石「そ、そうですか…」
提督代行「さて、マルチトレーニングセットは後日で構いませんからトレーニングルームに運んでおいて下さいね」
明石「了解しました!」
提督代行「では、私はこれで」
スタスタスタ……
明石(………あの迫力。やはり大戦初期、海域まで同行し現場で直接指示を出していた世代は並みじゃありませんね。申し訳ないけどその点は執務室からしか指示を出してなかった現提督とは胆力が違いますね…)
---波止場
夜、珍しく穏やかな海風に吹かれながら提督代行は1人酒を嗜んでいた。
執務室の酒は現提督の私物であり使えないし、自室で飲むのは味気無い。
ちょうど看板が照明無しでも解る位月が明るく、海も穏やかとくれば月を相手に一杯もやぶさかではない。
トクトクトク……
グイッ!グビッ!グビッ!グビッ!
提督代行「プアっ!」
久しぶりの酒で喉を潤す。
元々あまり飲まないし、寺にいた頃はなおさら、そして提督代行として忙しい日々の為に機会がなかった為だが、トラブルが重なった日の夜、流石に飲みたかった。そして
提督代行「一体いつまで…ここ(鎮守府)にいればよいのでしょうか?」
ポツリと一言もれる。
回復の兆しのない現提督、艦娘同士のいさかいの増加、いつ訪れるとも解らない解散命令、それらの全てが提督代行に重くのし掛かる。そしてそれらが提督代行に酒という一時的な現実逃避を選ばせた。
グビッ!グビッ!
提督代行「月はあんなに綺麗なのに
心は晴れない」
提督代行「まるで」
○○「籠の中の鳥、というところでしょうか?」
提督代行「早霜…」
早霜「こんばんは、司令官。良い月夜ですね」
制服であるにも関わらず、月に照らされたその姿はまるでスポットライトをあびる役者のようにきらめき、その片方しか伺う事のできない瞳は怪しげな力を秘めていた。
提督代行「どうしたんですか?まだ早いとはいえ、もうすぐ消灯時間ですよ?」
早霜「フフフ…お月様の見事な姿に見惚れていたらいつの間にかここに」
提督代行「正直に言うなら一杯差し上げますが?」
早霜「あら、正直に言いましたが何か変わったところでも?」
提督代行「喰えない人ですね…」
早霜「あら?楽に食べられるような女の子がお望みですか?でしたらより取りみどりでしょう?」
提督代行「全く…」
早霜「フフフ…一杯いただけたら、ここで飲んでいるのは皆に黙っていてあげますよ?」
提督代行「ここは数少ない1人になれる場所ですからね。まわりにバラされて騒がしくされたらたまりません」
トクトクトク……
提督代行「どうぞ」
早霜「では、今宵の月に…乾杯♪」
クイッ!
クピ、クピ、クピ、クピ、クピ…
早霜「ふぅ///良いお酒ですね♪」
提督代行「貴女も良い飲みっぷりですね」
---未成年に酒はどうなんだ?と言われそうだが、艦娘は退役してから初めて人間の法律が適用になるため、鎮守府内での飲酒は基本的に提督の裁量に任されている。
提督代行「ツマミは適当に取って下さいね」
早霜「ありがとうございます。あと…」
提督代行「ん?」
早霜「間接キス…しちゃいましたね、私達」
提督代行「ああ、そうですね」
早霜「ハア。何だかつれない返事ですね。つまらないです」
提督代行「つまらないなら月でも眺めて何かひねってみなさい。暇潰しにはなりますよ?」
早霜「…では」
早霜「海夜月(うみよづき) 我が心根を照らせども 白海月(しろうみつき)は 照らさざりけり」
提督代行「……海で見る夜の月は私の心を照らしてくれるが、白海月…海月(クラゲ)は私の心を照らしてくれない(解ってくれない)。この場合、白いクラゲは私ですかね?」
早霜「さあ?即興ですし、酔いにまかせて出たので解りかねます」
提督代行「やれやれ…」
トクトクトク……グビッ!
提督代行「ふぅ…」
早霜「ため息は幸運を逃がしてしまいますよ?」
提督代行「ため息の原因は解っているでしょう?」
早霜「まぁ、それなりには」
クピ、クピ、クピ…
提督代行「私としては早く寺に帰りたいところですよ」
早霜「あらあら、よろしいんですか?提督代行ともあろうお方が艦娘に簡単に愚痴を吐くなんて…」
提督代行「貴女ならそうそう他言する事は無いでしょうからね。それに私も酔いに任せた戯言ですよ」
早霜「あらあら、信頼して下さっているのですね、司令官♪」
提督代行(時々何を考えているか解りかねるところを除けば、ですがね。言えないですけど)
早霜「ところで司令官、一つやってみたい事があるので付き合っていただけます?」
提督代行「私でよければ付き合いましょう。で、何を?」
早霜「これです」
提督代行「?花札?貴女散々やってるでしょう?それに、正月に夕雲型の皆のお年玉をこいこいで巻き上げて夕雲に『やり過ぎだ』って怒られてまだ足りないんですか?夕雲から『誘われても断って下さい』って言われて知ってるんですからね」
早霜「あらやだ、姉さんたら…口が軽いんだから」
提督代行「まぁ、今は持ち合わせが無いし止められてるけど、賭け無しでよければこいこい位なら付き合いましょう」
早霜「いえ、勝負したい訳ではなくて…」
早霜「私が考案した『花札占い』をやってみませんか?」
提督代行「花札占い?」
早霜「正確には運試しですけど。やってみませんか?」
提督代行「しかし、軍人が占いなどという不確実なものに…」
早霜「ええ、もちろん頼りきる等は論外ですが、先ほど言ったように運試しですから気にされる必要はありません、遊びですよ、遊び」
提督代行「まぁ…それなら」
早霜「では、やってみましょう」
提督代行「じゃあ酒とツマミを片付けて…」
簡易式のテーブルの上には何もなくなった。
早霜はケースから札を出すと中央に置いて提督代行と向かい合う形になった。
早霜「では。まずは置いた札の上に手を置いて、占って欲しい事を強く念じて下さい」
提督代行「は、はい」
ピトッ!
提督代行「は、早霜!?な、何故私の手の上に貴女の手を!(あ、暖かくて柔らかい手の感触!とても艤装を扱っている手には思えません!)」
早霜「意識を集中させて、私も一緒に当たるように念じていますから」
提督代行「は、はい…(では、これから先、私の運命を示して下さい、お願いします!)」
早霜「………」
約30秒ほど手を重ねて念じ
早霜「はい、では次に…」
早霜は山札を大体3分割してその内の真ん中に置いた札を半回転させてからまた一つに戻し
早霜「では、年齢の数だけ札をシャッフルして下さい」
と提督代行に札を全て渡す。
タシッ、タシッ、タシッ、タシッ、タシッ…
波音に紛れて札をまぜる音が風にのる。
提督代行「…はい、やりましたよ」
早霜「ではそれをテーブルの中央にまた置いて下さい」
札を中央に置くと、早霜は山札を中心にして一枚づつ上から引き、それを山札のまわりに東西南北の形になるように4枚配置した。
提督代行(この形は確か…タロット占いのやり方に似てるような気がしますね。名前は忘れましたが)
早霜「今配置したこの札を時計まわりにめくり、最後に山札を一枚めくれば貴方の念じた事の結果が解りますよ。フフフフ…」
早霜「さて、花札には役がありますよね?これからめくる5枚で役ができていたら運は良いという事です。逆に役が出来なくても札の位置、札の内容で判別しますからね」
提督代行「となると…最高に運が良いというのは五光(松、桜、ススキ、柳、桐の最高点の札が揃った役の事)ですか…」
早霜「そうですね。ではさっそく見てみましょうか」
早霜が一枚づつめくる
提督代行「早霜、これは…」
早霜「…何とも、まぁ…」
それはまさしく五光だった。しかし…
提督代行「本来なら松、桜、ススキ、柳、桐の順番のはずが桜と桐が逆で、松と桐の札が私から見て逆さまになっていますね。役自体はできてますが、これは…」
早霜「…まず松が逆さまの札の場合、書かれている鶴が逆さまで、本来縁起の良いはずのものが逆になり、悪い事が起こる。逆さまの桐の札は、松の結果を受けてそれがさらに強くなるという事」
早霜「でも最後に桜が正位置で来たという事は桜咲く、つまり報われるという意味になります」
早霜「結論を言えば、これから先、大きなトラブルが発生し、ピンチに陥るけど、最後は大丈夫という事。そして五光が出た事により当たる確率はだいぶ、いえ、かなり高いという事になります」
提督代行「何とも嬉しいやら嬉しくないやら微妙な結果ですね…」
早霜「まぁあくまでも遊びの占いですし、私が自分でやってみた時はあまり当たりませんでしたから、多分大丈夫ですよ」
提督代行「何とも頼りない励ましですね。しかし、私も海軍のはしくれ、このようなものに心惑う訳にはいきません」
早霜(他人で試したのはこれが初めてだから、どうなるかは解りませんけど…)
----翌日、鎮守府講堂、朝礼中
提督代行「……という訳で、現在の比較的安定している戦状を鑑みて、君達の普段からの働きへの感謝と、現提督の復帰へのモチベーション向上の為、君達に現提督へのお見舞いをしてもらいます」
提督代行「ただし、一気に押し掛けては現提督にも病院にも迷惑がかかりますから、少人数で何回かに分けて行ってもらいます。組分けとスケジュール調整に関しては長門と大淀が現在急ピッチで進めていますから皆さんは焦らずに、現提督に会った時の為にお見舞いの品や話したい事を考えて準備を進めておいて下さいね」
一同『はい!』
提督代行「では、朝礼はここまでです。今日も1日無事に過ごしましょう、以上」
大淀「総員、敬礼!」
ビシッ!
大淀「解散!」
ザワザワ……キャッキャッ♪
提督代行「皆機嫌が良くなりました、良いことです」
大淀「皆内心は餓えた狼の群れみたいにピリピリしてましたからね。これで皆のモチベーションも上がるでしょう」
摩耶「提督代行」
提督代行「摩耶、どうしました?また天龍と喧嘩でも?」
摩耶「いや、そこん所は木曾が間に入ってくれて話合って手打ちにした。じゃなくて…」
摩耶「お見舞いに行く順番なんだけどさ…」
提督代行「すみませんがそれに関しては長門と大淀に一任していますから…」
大淀<●><●>「まさか優先して欲しいなんて直談判じゃありませんよね?」
摩耶「あ、当ったり前だろ!この摩耶様がんな事するか!」
提督代行「?では何でしょう?」
摩耶「……なるべくでいいんだけどさ、駆逐の子とか潜水艦の子達を先にしてやって欲しいんだ」
提督代行「……理由を伺いましょうか」
摩耶「駆逐や潜水艦の子達は皆いい子だし、普段遠征やら雑務やら一番頑張ってるのはあの子達だ」
摩耶「それに落ち着いてるとは言うけどいつまた忙しくなるかわかんねーだろ?散々我慢していざ自分の番て時に何かあったら…可哀想だからさ…その…」
大淀「摩耶さん…」
提督代行「……」
大淀「いかがいたしましょうか?提督代行」
提督代行「大淀、組分けとスケジュール作成の進行率は?」
大淀「まだ組分けをしている最中で、スケジュールはまではまだ決まってません」
提督代行「では、摩耶の提言を念頭に再確認の後、作成するように」
大淀「了解しました!」
摩耶「提督代行…」
提督代行「それと摩耶、悪い訳ではないのですが、長門の場合、皆が尊敬の念が強く出てしまって相対するとなかなか普段の姿というものを理解しにくい。その点貴女は姉御肌で皆も話しやすいですから、長門では見えにくい本音も見えやすいでしょう?そこで、組分けとスケジュールを先に見てもらって、我慢が限界に来てる子が後になってないかチェックして下さい。長門には私から話しておきます」
摩耶「了解!」
提督代行「では、私は長門と話してきますから、よろしくお願いしますね。大淀、後は頼みます」
大淀「了解しました!おまかせ下さい!」
提督代行「では」
ツカツカ……
摩耶「……ハア……」
大淀「?どうしました?」
摩耶「いっそ提督代行が嫌な奴だったら…楽なのにな…」
大淀<●><●>「どういう意味ですか?提督代行に不満でも?」
摩耶「ふ、不満じゃねーさ、現提督に匹敵するホワイトぶりには感謝こそしてるし、その、不満じゃなくてだな」
摩耶「ブラック鎮守府の提督みたいな嫌な奴だったら皆が一つにまとまって愚痴吐いてりゃいいけど、何やかんやで良い人だし、何かあっても自分を慕っているいないに関わらず公平に判断してくれる。これで不満があったら贅沢ってもんだ。でもな…いつまでもこのままってのはな…」
大淀「……確かに、今のように潜在的に分裂している状態では、いざという時に不安が残ります」
摩耶「……なぁ、大淀」
摩耶「それだけが問題じゃない、アンタや他の代行を慕っている奴らは現提督が帰ってきて代行が辞めるってなったらどーするんだ?」
大淀「私はもちろん退役します。もし、提督代行が他の鎮守府に行く事になったらお供します」
摩耶「お、おぅ…決めているならいいんだけどさ…」
大淀(他の人は知りませんが…私はあの方に一生を捧げると誓った身、どこまでもお供いたします)
大淀<●><●>(そう…黄泉路の果てまでも…ウフフ…)
摩耶(あれ?大淀ってこんな風に怖い笑い方する奴だったか?)
シーン………
静かになった講堂。皆が外で準備を進めている中、一人残っていた早霜は
タシッ!タシッ!タシッ!
早霜「……」
手に持ってシャッフルしていた山札から一枚めくるとニヤリと笑った。
早霜「さて、この一枚が示すのは、吉か?凶か?見せてもらいますよ?提督代行、フフフフ…」
引かれた札を戻すと、早霜は今日の訓練の準備をするために外へと歩いて行った。
前編 完
ご覧いただきありがとうございます!暫く間が空きますが、後編(都合によっては中編)をお待ち下さい!
根っからの苦労人だな代行殿。
ストレス溜まりまくりお疲れ様です!
作者様も大変ですが頑張って下さい!
最近、朝晩寒いので風邪を
引かれないようにしてください。
1氏、ご覧いただきありがとうございます!
お気遣いいただき、誠にありがとうございます!
1氏もお体をご自愛下さいませ。
苦労してますなぁ…(他人事
とりあえず頑張ってくだせぇ。
3氏、ご覧いただきありがとうございます!
苦労はいつか報われる(といいなあ…)
続編希望(´;ω;`)
5氏、ご覧いただきありがとうございます!
お待たせして誠に申し訳ありません(汗)
現在鋭意製作中ですのである程度書けたら公開致します。頑張ります!