趣味人達の集う鎮守府パート2
戦争が終わって暇になった提督と艦娘達が業務と趣味に生きるほのぼのコメディ(にしたい)です(笑)
戦争が終わり、かつて戦功1位を記録した『船着山鎮守府』は提督が出世を蹴った為、訓練と哨戒、たまに広報しかやる事がなく、それを良いことに提督・艦娘揃って趣味に時間と金を使っていた。
前回、朝飯を食べ損ねた提督は『アニ飯同好会』の誘いを受けてご相伴にあずかる事になった。
ーーー清霜の場合(アニメのグルメパート2)
食堂のテーブルについた提督を迎えたのは、ベーコン2きれに玉子が6個焼かれた皿が1人一皿づつとパンとコーヒーだった。
提督「こ、これは…かなり多くないか?特に玉子が6個って(汗)」
秋雲「実はキヨシーが…」
ーーーアニ飯同好会は秋雲が発起人であるが、今回の料理を提案したのは清霜だった。
料理自体も簡単なものだった為、他のメンバーは食堂の掃除を手伝い、清霜が調理をする流れになり、清霜は持ち込んだ食材で調理したのだが…
提督「清霜が作る量の加減を間違えたと…(ハア)」
清霜「だ、だってたくさん食べないと立派な戦艦になれないから…」
深雪「まぁまぁ、作っちまったもんはしょうがないし、それに運良く司令官もいるんだから何とかなるだろ!(アハハッ!)」」
清霜「み、深雪ちゃん…(ウルウル)」
深雪「ほらキヨシーもう落ち込むなって!早く食べないと冷めちまうからさっさと食っちまおうぜ!」
提督「そうだな。飯は温かい方がいいし、それに今日の秘書艦は妙高だから遅刻なんかできないしな(苦笑)」
文月「あれ~?吹雪ちゃんはどうしたの?」
提督「あ、ああ。ちょっと体調が良くないそうだから休みをあげたんだ(い、言えない…酔いつぶれて二日酔いだなんてアイツの面子に関わる!)」
文月「じゃあ後で皆でお見舞いに行こうよ~(ニッコリ)」
一同(((て、天使や…)))
提督「んじゃあ、まずは食べますか!」
一同「「「さんせーーい!」」」
提督「では、いただき…」
秋雲「なになに提督~その挨拶~~いいのお~~~?」
提督「ン?普通いただきま…あっ、そうか!『あれ』か!」
秋雲「ふふーん♪わかったようだね、ワトソン君♪」
提督「確かにいただきますじゃあ格好がつかないな、この場合は」
提督「ゲフンゲフン、では改めて」
提督『では諸君、いただこう。美味し糧を』
一同「「「美味し糧!!」」」
清霜「久しぶりですね、ちゃんとした朝ごはんなんて!」
提督「鳳翔さーん、コイツ(清霜)のはアニメの台詞ですんで気にしないでくださーい!」
鳳翔「ええ、わかっていますよ(ニッコリ)」
提督&一同(((キヨシー!!ブッ込むなーーー!鳳翔さんの笑顔が怖いーーー!目が笑ってなーーーい!)))
提督(さて、改めて見てみると…玉子はともかくベーコンの厚さが2セ~3センチはあるなぁ。)
提督(確かに『ハウルの動く城』の朝飯のシーンでもかなり厚みのあるベーコンだったから食いごたえはありそうだな)
提督(さてまずは玉子を…)
ハグッ!モギュモグ…
提督(うん、塩も何もついてないから玉子そのまま、しかも産みたてだから黄身の色も良い。だがこのままじゃあ食べ飽きるな)
提督はベーコンを少し切ると玉子と一緒に口に入れた。
提督(成る程、ベーコンの塩気で玉子に味をつければわざわざ塩をふる必要はないわけだ)
モグモギュ…
提督(うん、どこまでいっても玉子とベーコンだ。ああ、ソースをかけたい!だが、ソースをかけたら本来の趣旨に外れてしまう。コーヒーやパンでごまかすしかないなこりゃあ…)
しばらく後
提督(おや?巻雲の様子が…)
巻雲「ヴっぷ…」
提督(ありゃ、限界かなぁ。だが)
提督は食堂の正面に貼られた食堂の掟「お残しは敵前逃亡」と鳳翔の様子を伺う。鳳翔は調理場で作業中だった。
提督(確かに退いてはならない闘いもある、だが、時には逃げる事も英断だ。俺もかなり限界だが…仕方ない!)
ササッ!
提督は巻雲と自分の皿を素早く取り替えると、ハンドサインで『黙っていなさい』と送った。
巻雲「し、司令官様…(ウルウル)」
提督(ウオオオン!俺は人間火力発電所だ!)
提督とは、男稼業はツラいものである(笑)
ーーーその後
一同「「「ごちそう様でした!」」」
深雪「いや~~食った食った!(ポンポン)」
提督「腹を出して叩くんじゃない!」
秋雲「な、なーんとか食べられた…(ゲフッ)」
文月「あー美味しかった♪」
雪風「まだまだ雪風は大丈夫です!」
時津風「あたしも食べられるよ!しれえ」
初雪&望月(あんたら3人の胃袋は異次元か!?)
清霜「こ、これで立派な戦艦になれるよね…司令官?(ゲフッ!)」
提督「ああ、いつか立派な軍艦にはなれるな(戦艦になれるとは言ってない)」
ピーンポーンパーンポーン!
?高「本日の秘書艦より放送します、提督、後3分で始業時間です。ただちに執務室に出頭してください。繰り返します…」
提督「やッべ!もう時間だ!皆、ありがとうな!後、悪いが皿を片付けといてくれ!頼む!」
ガタッ!ダダダダダダダ…
一同「「「いってらっしゃーい!」」」
ーーー執務室
バタン!
提督「セーフ?(ハアハア)」
妙高「ギリギリ…ほんとーーにギリギリです(ニッコリ)」
提督「よっしゃ!」
妙高「ですが提督?鎮守府の長たるあなたがそのような乱れようでは示しがつきませんよ?(ニッコリ)」
提督「は、はい…すみません」
妙高「…金曜日は土日の外出申請の最終締め切りなんですから、普段より業務が増えますから気をつけて下さいね」
この鎮守府では金曜日に外出申請をして、その日に許可印を押して返す為普段より忙しいが、艦娘達の嬉しそうな顔を見られる日なので提督には嬉しい日でもある。
ーーー執務中
妙高「次の人、どうぞ」
長良「司令官、お疲れ様!」
提督「おぅ、お疲れ!またハイキングの申請か?」
長良「それもあるんだけど、天龍さんの野球の試合メンバーの申請も頼まれたんだ!」
提督「天龍の?ああ、そういやアイツ野球チームの監督もやってんだっけ?確か『船着山シーガールズ』だっけ?」
長良「何かネットで対戦相手を募集したら横須賀の『レインボーウィングス』ってチームと対戦するんだって」
提督「ネットでって…大丈夫なのか?」
長良「メール以外でも電話で確認してるから多分大丈夫だよ!」
提督「何か不安だな…んで、スターティングメンバーはどうなってんだ?」
長良「これに書いてあるよ、ほら」
提督「ン~~?どれどれ」
監督…天龍
ピッチャー…不知火
キャッチャー…武蔵
ファースト…村雨
セカンド…嵐
サード…鬼怒
ショート…赤城
レフト…阿武隈
センター…足柄
ライト…雲龍
提督「………」
長良「どうしたの?司令官?」
提督「…このメンバー編成はマジか?」
長良「どうしたの?実力的に厳しいとか?」
提督「このメンバー編成、艦種も何もバラバラだが、ある共通点がある(ハア…)」
長良「何ですか?」
提督「いずれも野球マンガの大家、『水島新司』先生の野球マンガに出てくるキャラクターと同じ、またはそれに近い名前を持つ連中だって事だ」
長良「えーーーーッ!そんな理由で決めていいんですか?!というかそれ本当ですか!?」
提督「本来は良いわきゃない。不知火、村雨、はまんま名字がそのままの奴がいるし、武蔵は読みが(たけぞう)ならいる。雲龍は漢字違い(雲竜)だな。足柄は『足利』、赤城はショートの選手に『赤城山高校』の選手がいる。嵐は『山嵐』で阿武隈は『あぶさん』鬼怒は大方『岩鬼』だろう。しかもポジションもそれぞれのキャラクターがやった事のあるポジションだからこりゃ確信犯だな。全く…試合自体は相手の事もあるから中止にはしないが後で話し合いだな(ヤレヤレ)」
長良「あ、あははは…(汗)」
ーーー長良退室後、再び執務中
提督「妙高、この書類を頼む」
妙高「はい、かしこまりました」
カリカリカリカリ………
ジリリリン!ジリリリン!
妙高「はい、執務室です…」
提督「しかし忙しいなぁ~(汗)」
コンコン
提督「入れ」
ガチャッ!
川内「しっつれいしまーす!」
提督「あれ?川内じゃないか、どうした?今日は他所の鎮守府で演習指導のはずだろ?」
川内「それが相手さんの鎮守府でトラブルがあったらしくてさ~、今日は中止だって!もぅ…せっかく夜戦演習中心のメニューだったのに!(プンスカ!)」
提督「トラブル?何の?」
川内「相手側の提督の外での夜遊びがバレて怒られてる時にケッコンカッコカリの話題が出ちゃって、『誰とするの!?』ってなったら艦娘同士で乱闘した挙げ句、鎮守府の設備は壊れるわ、モチベーションはだだ下がりだわで演習になんないってさ!」
提督「………どっからそんな情報を?普通ならそんな恥さらしな理由を話す訳なかろう?」
川内「ウチのパパラッチからだよ(ニヤッ)」
提督「ああ…青葉か(苦笑)」
川内「本当なら今日明日でやるはずだったからどうしたものかな…」
提督「うーん…本来なら哨戒とか訓練しろと言いたいところだが、最近川内にはあっちこっち飛んでもらっているからな!よし、特別休暇をやろう!妙高?」
妙高「(ガチャン!)今その件で中止の連絡がありました。そうですね、宜しいかと思います」
川内「え?良いの?(キラキラ)」
提督「目にキラ付けしてどーすんだよ(苦笑)。それにちょっと頼みもあるし」
川内「頼み?何?」
提督「俺のバイク(カブ110箱付き)最近動かしてなくってさ、バッテリーその他のチェックついでに動かしてやってくれないか?」
川内「(大型二輪免許&カワサキGPZ900R所有)いいよ!ちょうど外に買い物行きたかったし、私のニンジャだと箱ついてないから荷物積めないし!」
提督「そうか、なら頼むぞ。これ、外出許可な(書き書き、ピラッ!)」
川内「はーい、了解!」
バタン!
提督「ヤレヤレ、また演習予定の練り直しだ(トホホ…)」
妙高「仕方ありませんよ、比叡さんではありませんが、艦娘は『恋』も『闘い』も負けたくないものですから(ウフフフ)」
提督「妙高もそうなのか?」
妙高「ええ、私に限らずですけど」
提督「まぁウチで乱闘やろうもんなら命がいくつあっても足りないし、俺は他所の提督みたいに夜遊びしたりモテないから心配ないけどな!(アハハハハハ!)」
妙高「(それはひょっとしてギャグで言ってるのでしょうか!?)」
ーーーーお昼近く
提督「さーて、朝食い過ぎたから昼はお茶かコーヒーだけでもいいから…」
妙高「駄目ですよ!ちゃんと3食とらないと!」
提督「でもあんまり腹へってないしなあ~」
コンコン
提督「どうぞ」
陽○「…失礼します…」
秋雲「失礼しまーす」
妙高「あら、陽炎さんに秋雲さん、どうしたの?」
秋雲「実は秋雲さんも陽炎ねぇに呼び出されてここに来たんでわかんないんだよねぇ~」
当の陽炎は俯いたまま提督が執務中の机の前に棒立ちになっていた。
提督「どうした?陽炎?」
陽炎「……ちょっといい?」
陽炎の場合(お悩み相談の巻)
ーーー執務室の来客用の椅子に全員が座りると、陽炎は手に持っていた大きなスケッチブックを机に置いた。
提督「何だ?このスケッチブックは?」
秋雲「あれ?これどっかで…」
妙高「見たかぎりでは普通のスケッチブックですね」
陽炎「実は……これは雪風のスケッチブックなの」
提督「雪風の?」
秋雲「ああ!思い出した!前に一緒に買い物行った時に選んでたやつだ!」
妙高「確か雪風さんは今日は同好会に参加しているはず…陽炎さん、あなたは何故それを?」
陽炎「……雪風に借りてきたの」
秋雲「んでその雪風ねぇが書いた絵の品評会でもやるの?(アハハハハ)」
陽炎「そんな訳ないでしょ!!(バァン!)」
秋雲「ヒィッ!(ガクブル)」
妙高「陽炎さん、落ち着きなさい。貴女がそんな事では妹さんや後輩さん達に示しがつきませんよ?」
陽炎「ご、ごめんなさい…」
いつも明るく頼れる皆のお姉さんな陽炎の沈み具合に提督はただならぬものを感じていた。
提督「陽炎、『何事も冷静に、常に冷静に』だ。雪風が何かしたのか?」
陽炎「……スケッチブックを見て。そうすればわかるから」
提督「いいのか?雪風に許可なく見て?」
陽炎「……」
提督「まぁ見てみないと内容がわからないからな、見るぞ」
パサッ
ーーーそこには神社の狛犬のような、または昔の人が想像で書いた象のような白い体に三つ目の四本足の生き物らしきものが書かれていた。
妙高「」
秋雲「」
提督「」
ペラッ
坊主頭の顔に海亀の体をした何か
ペラッ
一本足の毛むくじゃらの怪物
ペラッ
一つ目の腰ミノをまいた人間らしき者
妙高「これは……何というか…」
秋雲「流石の秋雲さんもビックリだよ…」
提督「……」
陽炎「他にもそんな絵ばかりで…」
提督「陽炎…」
陽炎「ねぇ、どうしたらいいの?あの子何か変なモノにはまっちゃったのかな?私何か雪風に悪いことしたのかな?だから雪風こんなモノを書くようになっちゃったのかな?(グスッ、グスッ)」
提督「陽炎…(ナデナデ)」
陽炎「えっ、な、なに///」
妙高&秋雲(いいなあ…)
提督「心配するな!こいつはお前が悪いわけでも変なモノにはまっちゃったわけでもない。ただ雪風が『自分にゆかりのある人物』のやってた事を真似してみただけだよ(アハハハ)」
三人「「「雪風にゆかりのある人物?」」」
提督「ああ。雪風が第二次大戦後、復員船として活動していたのは知ってるよな?」
陽炎「うん」
提督「その復員船だった頃の雪風で戦地から帰って来た人の中に『武良茂』という人がいたんだ」
秋雲「武良さん?」
提督「ああ、そしてその武良さんはある名前で一躍有名人になった、その名は…」
陽炎「その名は?」
提督「『水木しげる』先生だ」
秋雲「あーーーーっ!そういえば!」
陽炎「へ?」
妙高「え?水木しげるさんて本名じゃないんですか?」
提督「妙高……(苦笑)」
ーーーーお茶中
陽炎「じゃあ雪風は…」
提督「ああ、心配ない。それにしてもよく書けてるなあ~」
秋雲「んで提督~書いてあるのが何だかわかるの?」
提督「最初に書いてあるのを除いて順に『海和尚』『一本だたら』『山童』だな、いずれも水木先生が書いた妖怪図鑑に書いてある」
妙高「他はともかく海和尚は…」
提督「海坊主の別名とも海亀の怪異化したものとも言われているな。一本だたらは『たたら場』という今でいう製鉄所の跡地に出る妖怪だ。山童は河童が秋~冬にかけて山の中ですごす姿と言われていて、西日本に伝承が残っている」
陽炎「じゃあ最初のやつは何なの?」
提督「実は『ぬりかべ』だ」
秋雲「ちょっと待って!あれ?ぬりかべって水色の壁に手足のついた…」
提督「それは水木先生が書いたもので、これは水木先生以前の昔の人が書いたものだよ。ちなみに現物はアメリカで発見されたんだ」
妙高「ところで提督?私はあまり知らないのですが、水木先生はかつて戦時中に兵隊だったのですか?」
提督「ああ、しかも『兵隊にしちゃいけないタイプ』の兵隊だ」
提督「本人がマンガの中で体験談を書いてるが、とにかく毎日同じ失敗をして殴られたり、ある日見張りの最中に戦地の鳥の観察に夢中になった挙げ句起床時間を過ぎて皆を起こしに行ったら味方がアメリカ軍の襲撃にあい全滅して生き残ったのが水木先生だけだったりしたんだ」
妙高「た、確かに兵隊には向いてませんね…(白目)」
提督「しかも終戦直後には『日本に帰ってあくせく働くよりここに残りたい』と残留を希望したんだが、軍医の『とりあえず一旦日本に帰って母親に顔を見せて無事を伝えてからこちらに戻れ』という説得でやっと日本に帰って来たんだ」
秋雲「初雪や望月もビックリの『働きたくないでござる!』だねぇ~(ア、アハハ…)」
陽炎「で、私は雪風に何かした方がいいの?」
提督「基本的には好きでやってる事だから特に可笑しくはないし、書くこと自体を辞めさせたくないから、陽炎型で写生大会とかやったり、皆で雪風に色々書かせて他に興味をひかせるぐらいしかないなぁ」
陽炎「そう…わかったわ、秋雲!」
秋雲「は、はい!(ビシッ!)」
陽炎「雪風が帰って来たらさっそく写生大会の企画するわよ!あんたにも手伝ってもらうからね!」
秋雲「あ、秋雲さんはこれからネームの作成が…」
陽炎「司令も写生大会が決まったら参加してね!じゃあ!」
秋雲「え?ちょ、ま…引っ張らないで(ズルズル…)」
バタン!
提督「……」
妙高「……提督?」
提督「…何だ?」
妙高「ちなみに絵の腕前は…」
提督「……昔、美術の先生に『お前の絵は千年先には理解されるだろう』って言われた(ションボリ)」
妙高「えーと…が、頑張って下さいね(アセアセ!)」
提督「……うん、頑張るよ……」
ーーーーお昼
サイレンが昼の到来を告げ、提督は妙高に昼休憩を命じ、自分は残りの仕事を片付けてからおやつタイムに備えて鎮守府内の散歩に出かけた。
提督「今日は間宮パフェのスペシャルを頼みたいからなあ~少しでも腹に余裕をつくらないとな~」
提督「あっ、そうだ、大和に車借りられるか聞かなきゃ。どこにいるんだろ?」
提督「とりあえずブラついてりゃあ見つかるかな」
提督「あと駄目だった時の為に他に乗れるやつも見ておきたいからガレージに行こう!ちょうど距離もあるし」
ーーー鎮守府ガレージ
かつて鎮守府にはガレージはなく、野ざらしの駐車場に何台か業務用の車と軽トラがあるだけだった。
だが、一年前に提督が大本営に軽トラでやってきた事を元帥に怒られて、新しい車を買おうとしていた時うっかり艦娘達にバレてしまい、海外勢がそれぞれの国の車を、日本勢が国産車を『普段のお礼』として買ってきたり各国の政府にタカり…もとい、『英雄へのプレゼント』として持って来てしまい、駐車場がさながらスーパーカーの見本市のようになってしまい、クラシックな車もあった為、盗難と潮風による錆び対策の為に急遽屋根付きのガレージを作った。
そして気になる所有権に関しては、「こんなに所持できないから自分達で使いなさい、たまに貸してくれればいいから」という提督の鶴の一声により買ったり貰ったりした艦娘達に所有権と管理を任せている。
そして今ではガレージは車だけではなく後からロードバイクやオートバイの置き場としても使われ、ガレージは明石や夕張をはじめとする『乗り物好き艦娘』のカスタム工房兼たまり場になっている。
提督「さーってと、誰かいるかなあ~?」
提督「しっかし相変わらずスゲー数の車やらオートバイやらチャリ…じゃなかった、ロードバイクだなぁ~~(チャリと言うとロードバイク好きの艦娘に怒られる為、ロードバイと呼んでいる)」
提督「しかもきちんと棚に整理されてるとはいえモデルガンやら釣竿やら楽器やらダーツやら趣味のものを置きやがって…ここは世田谷ベースじゃねーんだがなあ~(苦笑)」
???ー?「おい、誰だそこにいるのは…って、何だ、提督か」
提督「よぉ、ガングート」
ガングート「何か用事でもあったか?」
提督「ああ、散歩ついでに大和を探していてな、どこかで見なかったか?」
ガングート「いや、ここには一時間ほどいるが見てないぞ」
提督「一時間も何を…ってサイドカーの整備か」
ガングート「たまには日ごろの労をねぎらってやらないとな」
提督「ん?普段使ってたのか?」
ガングート「ああ、畑に行くときにな。農具も積めるし」
提督「そういや、最近は朝雲や山雲も畑を手伝ってるんだっけ?」
ガングート「ああ、素直な奴らだから教えがいがある(アハハハハハ!)」
ーーーーガングートは任務や訓練の傍ら農業に精を出している。
ロシアでは春から夏にかけて「ダーチャ」と呼ばれる『農地つきの別荘』で野菜を作り、長く厳しい冬に備える。余った野菜は市場で売って現金にしたりもする。
ロシアの冬は長い。5・6月でさえ、やっと春の芽吹き時の気温といったところに加え、冬は日照時間が少なく朝も夕も車のライトをつけて会社や学校に行く光景が見られる。
そのかわり、春から夏は日照時間が長く、夜の11時ぐらいまで明るく、この時期に作物を作るのだ。
このダーチャのおかげでロシア国民は過去何度も経済危機が来たにも関わらず、自給自足で餓死者を出す事なくのりきってきたのだ。
提督「しかし、いつみてもゴッツイサイドカーだよなこれ」
ガングート「何だ、乗りたいのか?」
提督「興味はあるんだけど、なんか敷居が高そうな感じがしてな」
ガングート「それこそ杞憂というものだ。こいつは…『ウラル』は祖国の、特に高齢者には貴様の乗ってるカブや軽トラに近いものだったのだ」
提督「えっ!そうなの?」
ガングート「ああ。祖国の国民にとってウラルは農家の乗り物、ソビエト時代の遺物というイメージがついている(ウラルジャパン代表談)。同志スターリンの時代から使われていたからな」
提督「ふーん。そうだ、せっかくだからウラルの事を教えてくれないか?」
ガングート「おいおい、大和はいいのか?」
提督「なあに、居なきゃ飯時に食堂で会うだろからそこで聞くさ。それに知らない事を聞くのは俺の趣味でもあるんでな」
ガングート「フッ、ならいい。私がウラルについて教えてやろう」
提督「お願いしまーす(ウキウキ)」
ガングート「ウラルは1930年代末にドイツのサイドカー、BMWのR71をスウェーデン経由で密輸し、それを解析して各所に変更を加えた軍用サイドカーがその起源でな、大戦中に製造拠点がモスクワからウラル山脈のイルビトという所になった時にウラルと名付けられたんだ」
提督「かなり安直なネーミングだな」
ガングート「安直なのは否定せんがな。そして大戦中も改良を加えながら軍用車としては1950年代半ばまで使われ、それ以後は民間に使われるようになり、ソビエトがなくなった後、ウラルは会社として再出発したんだ」
提督「じゃあざっと70年以上の歴史があるわけだ、へぇ~~」
ガングート「ウラルは最初からサイドカーとして製造されているから普通のバイクに後付けするより頑丈だし、値段も安い。さらにモデルによってはパートタイム2WDという、1輪・2輪駆動を切り替える機能によって、平地や舗装路は1輪、荒れ地では2輪と使い分けができる」
提督「でもそれって何か意味があるのか?どうせならフルタイム2WDでもいいじゃないか?」
ガングート「それについてはサイドカーの特性について話さなければならないな」
提督「特性?」
ガングート「サイドカーという乗り物はハンドリングに癖があってな、走行中はサイドカーがついている方(ウラルは全車右側についている)に自然とハンドルが流れてしまうので、そちらに行かないように常に力を入れておかなければならない」
ガングート「さらに2WDのままでコーナリングすると、かなりの力を必要とするから、2WDを使う時というのは未舗装路でもない限りはあまり使う機会は無いんだ」
提督「なるほど、適材適所という事か」
ガングート「ちなみに昔、ハーレーもBMWを参考にしたと思われるバイク『XA1000』を一時期軍用として卸していてな。悔しいが、当時のドイツの技術力がいかに高かったかがうかがえるな」
提督「そういや値段について安いって言ってたけど」
ガングート「現在買えるサイドカーの中では一番安いクラスだ」
提督「普通のバイクに後付けより?」
ガングート「日本のウラルユーザーがウラルを選ぶ理由の上位が『値段の安さ』らしいからな、信憑性は高いぞ」
バン!ギャーギャー!ワーワー!
提督「ん?何だ?」
ガングート「談話スペースからだな」
?「「あっ、アトミラール!」」
?「アンミラーリョさん!」
提督「何だ、レーべにマックスにリベじゃないか、どうした?」
レーべ「ちょうどよかった、助けて欲しいんだ!」
マックス「ちょっと私達だけじゃ対処できない事が起きて…」
リベ「他の皆から『アンミラーリョさんを連れて来て!』って頼まれたの!」
提督「な、何だかよく解らんが、と、とにかくわかった、行くよ」
ガングート「私も行こう、荒事ならば歓迎だ(ニヤリ)」
提督「そのおっかない顔は止めとけ、小さい子が怖がるし、何より美人が台無しになるぞ」
ガングート「ハン!やはり貴様は変わり者の伊達男だな。こんな傷つきを美人などとは。そういう歯の浮くような台詞はな、そこのイタリア娘にでも言ってやれ」
提督「お世辞って奴は俺の頭の辞書には無くてね、美人を美人と呼ぶ以外に何かあるかい?なんなら女神様でも良いがな(ニコッ!)」
ガングート「わかったわかった、さっさと行くぞ。さっきから物音が激しい、下手するとそこらにある高いものを破壊されかねん」
提督「だな、さーて、んじゃあ行くぜ!ガングート!」
ガングート「ダー!」
タッタッタッ…
レーべ「ねぇ…(ウフフ…)」
マックス「ええ、見たわ(ニヤニヤ)」
リベ「ガングートさん(ニコニコ)」
「「「まんざらでもない!って顔してたよね!(アハハハハ…)」」」
ーーー
ルイ「マンマミーヤ…」
プリンツ(オロオロ)
ビスマルク「……(ゴゴゴゴ…)」
グラーフ「……(ゴゴゴゴ)」
リットリオ(ニコニコ…)ゴゴゴゴ…
ローマ「……(ギロッ!)」
ザラ「り、リットリオ(オロオロ)」
ポーラ「やっぱりおしゃけ(お酒)は『命の水』ですぅ~~(グビグビ)」
平常運転のポーラ(提督に食堂以外での飲酒の現行犯でGE☆N☆KO☆TU☆♪をくらう5秒前)を除いて談話スペースは空気が歪む錯覚すら感じさせるほど緊張で張りつめていた。
物が置かれていたテーブルはぐちゃぐちゃ、椅子もあちらこちらに散らばっていた。
そのテーブルをはさんでドイツ勢とイタリア勢が相対する形でにらみ合いになっていた。
ビスマルク「……まさかこれほどまでに噛み合わないとはね(ゴゴゴ…)」
グラーフ「そうだな。全くもって理解に苦しむ」
リットリオ「そうですね、それに関しては同意しましょう」
ローマ「そうね、そのビールとブルストの食べ過ぎで頭に血が回ってな
いジャガイモ戦艦と出撃の機会がなくて丸々とバームクーヘンみたいになっちゃった漬物空母と同じ意見になるのはシャクだけど(フン!)」
ビスマルク「寝言は寝て言いなさい、じゃないとそのパスタみたいに細い眼鏡がポキッ!といくことになるわよマカロニ戦艦(ギリギリ!)」
グラーフ「その胸部の無駄肉をピザみたいにぺったんこにされたくなければ黙っているのが利口だぞ(ゴゴゴ…)」
ローマ「あら?何か気にさわったかしら?事実を言ったまでよ」
リットリオ「ローマ、あまりグラーフさんとアカツキちゃんをからかったら駄目よ(ウフフフ)」
ビスマルク「私はビスマルクよ!」
リットリオ「あら?そうだったかしら?あまりにも似てるからつい…ごめんなさいね♪」
ビスマルク「この……!(ブルブル!)」
提督「なぁ、あれを止めろって言うのか?」
ガングート「部下の制御も提督の役目だ、何なら私が力づくで止めてやってもいいが?(ニヤリ)」
提督「勘弁してくれ、目の前で『リアル・スマブラ!(ポロリと流血もあるよ!)』じゃシャレにならん」
レーベ「お願いだよ、あの四人を止めてよ!」
マックス「私からもお願いするわ、アトミラール」
リベ「アンミラーリョさん!お願い!」
提督「そもそも原因は何だ?それがわからなきゃ対応のしようがない」
レーベ「それが…」
ーーー少し前
ガレージにはブルーレイやDVDプレーヤーがテレビと一緒に置かれており、様々なレースや自分たちで撮影したツーリングの映像を見ながら皆で持ち寄ったお茶やらお菓子やらをつまみながら会話を楽しむ習わしがあり、今日はドイツ勢とイタリア勢が少し前にお呼ばれしたスーパーカー&クラシックカーのイベントの様子を見ていた。
メルセデス・ベンツ、ポルシェ、BMW、フェラーリ、ランボルギーニ、アルファロメオ等、その他世界を代表する自動車メーカーの往年の名車達のオーナーが多数存在する船着山鎮守府にイベントの主催者が直接交渉にやってきて、提督も『プライベートでの参加で、希望者だけで良いなら』と車を所有する艦娘に打診したところドイツ勢とイタリア勢がツーリングついでに参加を表明し、イベントに行ってきたのだ。
イベントはかなり盛況で、当日は快晴にも恵まれて沢山の観客が訪れ、また参加した艦娘達もパレードやツーリングを楽しんだ。
ちなみにアメリカやイギリス勢、国産車勢は残念なことに都合がつかず、主催者と提督が協議して、『次回のイベントには参加できるように調整する』ことで話が決まっている。
ビスマルク「うーん、こうやって改めてみると楽しいイベントだったわね」(ベンツSSK所有)
プリンツ「そうですね、姉様(ニコニコ)」(ポルシェ911カレラ所有)
グラーフ「好天に恵まれ、風も適度だったから走らせていて気持ちが良かった。また走りたいものだ」(メッサーシュミットKR200所有)
レーベ「でも3人はいいとしても、僕らが車に乗って運転してるのを見てびっくりされたのはちょっと心外だったよ(BMWイセッタ所有)」
マックス「そうね、私達の見た目が若いから仕方ないとはいえ、ちょっとね(イセッタに同乗)」
ユー「…また行きたいです(ビスマルクのベンツに同乗)」
ローマ「………(アルファロメオ・ヴェローチェ所有)」
リットリオ「………(フェラーリ・512ベルリネッタ・ボクサー所有)」
ザラ「?ローマもリットリオもさっきから静かだけど、どうしたの?(ランボルギーニ・エスパーダ所有)」
ポーラ「やっぱりワインは美味しいです~~(当然ながらエスパーダに同乗、しかもイベント中も飲んでやがった)」
リベ「このクッキーも美味しいよ(モグモグ)」←フィアット500(水色)所有
ルイ「な、何か二人とも機嫌が悪いみたい…(リベのフィアットに同乗)」
ローマ「…納得いかないわ」
リットリオ「…ええ、そうね」
ビスマルク「?何が納得いかないのよ?」
ローマ「貴方のベンツ、あれに納得がいかないと言ってるのよ!」
ビスマルク「?何でよ?」
リットリオ「それは……」
ローマ&リットリオ「「何故フェラーリのエンジンを載せてカラーリングも変えてないの?」」
ビスマルク「………はあ!?」
ローマ「貴方あの時…ルパンのコスプレをしたでしょう?」
ビスマルク「それを言ったらあんた達のリベだってルパンのコスプレしてたじゃない!しかもルパンと次元のセットで!」
リットリオ「あれはファーストシリーズに忠実なカラーリングと緑ジャケットだから良いのです、問題は貴方の中途半端なベンツです!何でカラーリングが違う(ビスマルクのは黒で統一したカラーリング)んですか!?」
ローマ「しかもエンジンはオリジナルのままって…そこはせめてフェラーリ・312BのV12エンジンを載せておくべきでしょう!」
ビスマルク「……ごめんなさい、頭が追いつかないわ」
グラーフ「気にするなビスマルク、私も訳が解らん」
更新頑張って下さい!
楽しみにしてます!
1様、ご覧いただきありがとうございます。
遅筆ではありますが、精進していきますのでよろしくお願いいたします!