陸軍司令、マグマ軍率いて提督になる4
気が付いたらもうパート4。
元陸軍司令の提督は元部下で、別の鎮守府の提督になったカテリーナの艦隊と迫り来る敵艦隊を撃滅。だが、そこで天龍達はもちろん、カテリーナ達に人型深海悽艦の正体を話すことになってしまった。
提督「……ここは?」
気が付くと提督は海岸沿いに立っていた。
身体中傷だらけで左手には無線機が握られている。
そして、目の前の海には大量の深海悽艦。
提督「まさかっ!」
ハッとなり後ろを向く。
そこには陸軍の仮設テントが張ってあり、その中で大和や飯塚達紅蓮隊のメンバーが血塗れで横たわっている。
更に周りを見渡すと地面には砲撃で抉れた跡、息絶えた武器娘、マグマ軍、陸軍兵士の屍が転がっている。
提督(…深海悽艦が攻めて間もない頃の海岸防衛戦……!)
自分が置かれている状況を把握すると同時にアルマータが駆け寄って来る。
彼女も全身傷だらけで至る所に出血、更に頭部の角も折れていた。
アルマータ「閣下!」
提督「状況は!?」
アルマータ「住民の避難完了しました!私達も撤退を!」
提督「許可する!アルマータは動ける隊員と一緒に怪我人の運搬を頼む!!」
敬礼した後直ぐ様行動に移るアルマータ。
提督は無線機のスイッチを入れる。
提督「第4部隊、聞こえるか!?撤退を許可する!!繰り返す」
『司令……』
無線機から弱々しい声が聞こえてくる。
『こっちの事はいいッス……早く撤退してくださいッス…』
提督「ふざけるな!お前達も来るんだよ……!」
その時、敵の砲撃音が聞こえ提督の近くに着弾する。
提督「ぬぅっ!」
吹き飛ばされる提督。その攻撃で大怪我を負うがそれでも無線機に呼び掛ける。
提督「這ってでも…戻って来い!」
『…へへ…司令官の元で戦えて良かったッス…』
無線機から爆音が聞こえ、通信が切れる。
提督「やめろ…もうやめろ…!」
様々な方向へ攻撃する深海悽艦を力無く睨む。
だが、それを嘲笑うかのように砲撃が強まっていった。
アルマータ「閣下!あぁ……なんて事っ?!」
市ヶ谷「酷い傷……運びますよ!」
砲撃を聞いて駆け付けたアルマータと市ヶ谷に運ばれヘリの後部席に乗り込むと同時に離陸、ヘリは撤退を始めた。
その時陸側からジェット音が聞こえてくる。
市ヶ谷「航空隊…!?」
ヘリとすれ違うように海へ飛んでいく複数の戦闘機。
そして深海悽艦目掛け爆撃するが、相手は傷一つ負わなかった。
更に仕返しとばかりに艦載機と対空砲火で次々と撃墜されていった。
市ヶ谷「そんな……」
提督「……」
絶望する市ヶ谷を横目で見ながら提督の意識はだんだん遠退いていった。
提督「っはぁ!」
飛び起きるとそこは鎮守府の自室。
時計を見ると午前4:40。汗だくになった体の隣には大和が寝息をたてていた。
提督(また…あの夢……深海悽艦と初戦闘した時の……)
頭を抱え、踞る。
提督(あの演習から1週間……あの日から、またこの夢にうなされる事になるとは……)
大和「んぅ……司令…君…?」
提督の異変に気付いたのか、大和が目を覚ましていた。
目を擦りながら提督を見つめている。
大和「どうしたの…?」
提督「…最近、またあの夢を見るんだ…海岸防衛戦の……」
暗い表情で話す提督。まだ日が完全に昇っておらず部屋が薄暗かった為、大和に表情を視られる事はなかったが、大和は声で察した。
大和「そう、あの日の…」
そう呟き無言で提督を抱き締める。
提督の体は当時の絶望を思い出したせいか、震えていた。
提督「…情けない……天龍達に覚悟を聞いておきながら、当の自分はあの日の惨劇に怯えてる……なんてざまだ…」
大和「……」
静かに涙を流す提督に対し、大和はただ無言で抱き締める事しか出来なかった。
そうしている間に時間が過ぎ、起床時間になる。
大和はカーテンを開け、改めて提督を見ると明らかに顔色が悪かった。
それに気付かず起き上がろうとする提督を、大和は座らせる。
大和「顔色が悪いわ…。今日は休んだほうが」
提督「提督である俺が休むわけにはいかないよ……こんな理由で…」
提督は無理に立とうとするが、大和に抑えられる。
大和「ならせめて午後からにして。もし、倒れたらそれこそ士気に関わるわよ」
少しだけ語気を強める大和。
提督も渋々承諾し、布団に横になった。
それを確認し、身支度を整え、ドアノブに手を掛ける。
大和「それじゃ、アルマータに執務の代行頼んでおくわ」
提督「あぁ……」
大和「あと、あの日の司令君は最善を尽くしてたわ。…じゃなきゃ多分……私達も死んでた。それを、忘れないで?」
そう言い残して提督の部屋を出る。
大和「…ドアの隣で待機しないでよ」
アルマータ「貴様もヒトの事が言えないだろう」
ドアの横で待機していたアルマータに出くわす。
アルマータ「閣下は?」
大和「体調崩しちゃったみたい。執務の代行頼める?」
アルマータ「何ですって…!?今すぐ看病を」
大和「またあの日の夢、見たらしいのよ」
アルマータは提督の部屋に入ろうとしたが大和の言葉で動きが止まった。
大和「体調の事は私だって心配だけど、原因があれだから…そっとしておきましょう」
アルマータ「…そうね」
大和とアルマータは食堂へ歩き出す。
2人共何処か暗い表情で無言だった。
大和「あの日の事、覚えてる?」
大和が沈黙を破る。
アルマータ「ええ、鮮明に覚えてるわ。部隊の隊員75名の内、戦死者39名…残りは全員重軽傷者。閣下も…」
あの日の事を思い出し、ギリリと歯を食いしばって顔をしかめる。
大和「病院で目覚めた時は…ほんとに悲惨だったわね」
アルマータ「皆、絶望していたわね…。無理もないわ。攻撃が通用せず防衛戦は完敗、軍の戦力の4分の1が喪失…」
大和「部隊内の戦死者リストを見た時も…愛さんや智香が気を失ってたわね」
アルマータ「…」
大和「…」
またお互い暫く無言になってしまう。
次に沈黙を破ったのはアルマータだった。
アルマータ「私は…もう閣下にあのような思いをさせたくない」
大和「…そうね。その為にも艦娘も、私達も強くならなくちゃ」
そして2人は食堂へ到着。
既に何人か席に着いており、その中に利根と扶桑がいた。2人はこの1週間の出撃や演習で練度が上がり、改二に改修されていた。
利根「2人が揃って来るとは珍しいのう」
扶桑「いつもは、提督と一緒に来ますもんねぇ?」
アルマータと大和を見るや否や意外といった表情をする。
同席している扶桑も提督がいない事に疑問を持つ。
大和「司令君体調を崩しちゃったから休ませてるわ」
「ややっ!?それは一大事ですっ!」
声が聞こえた方を見ると先日新たに建造された艦娘、青葉がカメラを持って立ち上がっていた。
アルマータ「私が代理を勤めるから問題ない。それと、今閣下の私室に行くようなら……?」
青葉「あわわわわわ……失礼しましたっ!」
アルマータの気迫に圧され、直ぐ様カメラをしまって着席する。
その後、天龍以外全員集まり日程の確認を行う。
アルマータ「本日閣下が体調を崩された為、私が代理を勤めさせてもらう。鈴谷は青葉に指導を。利根旗艦の第1艦隊は今後行う予定の北方海域攻略の為の、航路確保を行ってもらう。そしてヘリ部隊も飯塚、歩兵、ミーシャを残して艦隊と共に出撃。以上だが質問は?」
淡々と日程を伝え終わり、皆を見渡す。
すると利根が手を挙げていた。
利根「ヘリ部隊が着いてくるという事は鹵獲もアリと捉えて良いんじゃな?」
アルマータ「航路の確保と全員の無事が保証されるなら。これは現場の判断に任せるわ」
利根「わかった!その時はよろしく頼むぞ?」
仙台「任せてください。一応私達もそれを想定した訓練もしてますから!」
目達原「この前の戦闘の後、改めて1から操縦訓練をしたんだ。やってみせる」
明石「鎖や銃器もミーシャさんと一緒に改良もしました!」
アルマータ「あーコホン。あくまでチャンスがあったらよ?基本殲滅、これが閣下のご意向でもあるんだから」
咳払いし、盛り上がりだした一行に釘を刺す。
利根「わかっておる。無計画に鹵獲しようとはせんよ」
アルマータ「期待してるわ。では朝食後、行動を開始する」
各々食事を済ませ、第1艦隊とヘリ部隊は出撃。アルマータは執務を開始していた。
コンコン
執務を始めて数時間後、控えめなノックが響いた。
入室を促すと入ってきたのは暁。
暗い表情で入ってきた暁を見て、アルマータは用件を察して少しだけ肩を落とす。
アルマータ「…どうだった?」
アルマータの問に無言で首を横に振る。
暁「天龍ちゃん……やっぱり部屋から出てきませんでした……」
暁の用件は、軽巡ホ級…もとい龍田を自分の手で殺めてしまった天龍の事だった。
執務を中断し、暁をソファーへ促す。
アルマータ「…そう…食事のほうは?」
ソファーに座った暁の所にお茶を出し、自身もソファーに腰掛ける。
暁「この間利根さんや椿さんが無理矢理食べさせて以降、少しずつ食べるようにはなってます」
アルマータ「椿から聞いたわ。部屋に入ったら衰弱してたらしいわね…」
暁「天龍ちゃん……ずっとあのままなのかなぁ……?」
俯き涙を流しはじめる暁。
アルマータ「今は、信じて待つしかないわ…そこから立ち上がるかどうかは天龍自身が決める事だから……ごめんなさい……こんなことしか言えないわ」
暁「グスッ……いえ…そう、ですよね…」
アルマータ「…落ち着くまでここに居るといいわ。この件は閣下にも伝えておくから、きっと大丈夫よ」
暁に微笑み掛けた後、再び執務を再開しようと立ち上がる。
そこへ大淀が入ってきた。
大淀「アルマータさん!」
アルマータ「どうした?」
急いで入ってきたのか少し肩で息をしている大淀。
大淀「救難信号をキャッチしました!ここから西、本土から数キロ離れた所に位置する孤島です!」
アルマータ「ここから西…?」
場所を地図で調べる。
そしてその場所を見て目を見開いた。
アルマータ「海岸防衛戦が行われた場所…!」
冷や汗がアルマータの頬を伝う。
落ち着く為大きく深呼吸をし、大淀を見る。
アルマータ「艦隊の状況は?」
大淀「現在予定海域で作戦行動中。帰投予定時刻は1500です」
机に置いてある時計に目をやると1201を表示している。
アルマータ(他の鎮守府に頼む…?いや、距離が遠い…!)
アルマータ「…ここにいて。閣下に伝えてくるわ」
速足で執務室を出て提督の部屋に向かう。
提督の部屋は執務室から近い所に位置する為、数分でたどり着いた。
アルマータ「失礼します閣下」
ノックも忘れ、入室。
提督がベッドに腰掛けて居るのが見えた。
提督「…どうした?」
アルマータの様子に表情が思わず強張る。
アルマータ「…ここから西……あの場所付近の島で救難信号をキャッチしました…」
提督「なんだって…!?」
提督は思わず立ち上がるが、体調が治りきっておらずふらついてしまう。
アルマータは急いで駆け寄り、提督を抱き抱えた。
提督「す、すまん…もう大丈夫だ…。作戦会議を行う。大淀とミーシャを執務室へ」
アルマータ「はい…!」
その後工房にいるミーシャを呼び、執務室で作戦会議を開いた。
提督「敵の動きは?」
大淀「今の所大きな反応はありません。ただ、信号は現在も発信されているため気付かれてしまうかと」
ミーシャ「艦隊から入電。航路確保完了だそうだ。損害もないらしい」
提督「今すぐ帰投させろ。……ブリーフィングを開いて補給が済み次第出撃させる」
アルマータ「装備に探照灯を加えておきます」
提督「…助かる」
ミーシャ「救助はヘリ部隊に担当させよう。もしもの為にボートも積んでおく」
提督「頼む。それと暁、飯塚と歩兵を1500に執務室へ来るよう伝えてきてくれ」
暁「わかったわ!」
そして15:08。
作戦を終えて帰投した利根達は出迎えてくれた大淀から軽く説明を受け、執務室へ走る。
利根「艦隊帰投したぞ!」
響「司令官…身体はもう良いのかい?」
提督「ああ、心配かけたな」
執務室に出撃メンバーが揃い、作戦概要の説明を始めた。
提督「先ずは作戦ご苦労。ゆっくり休ませたい所だがそうは言ってられなくなった。西の方角にある孤島…ここで救難信号がキャッチされた」
地図を指しながら説明していく。
ヒリュウ「なんでそんなところに…?」
提督「…数ヵ月前、ここで陸軍と深海悽艦の戦いがあったんだ。もしかしたらその生き残りの可能性もある。これより第1艦隊とヘリ部隊は補給完了後出撃、救助任務を行ってもらう」
ミーシャ「救助は我々ヘリ部隊が行う為、全機出撃だ」
提督「連続の出撃で辛いと思うが頼んだぞ…!」
敬礼する一同。
そして各自補給と間宮から受け取った軽食を食べ終え、配置に着く。
利根「艦隊何時でも出撃OKじゃ!」
提督に無線で連絡を入れる。
それに続くようにヘリ部隊の方でも出撃準備完了の無線が届く。
提督『了解した。今回は夜戦になる可能性が高い。各自索敵に気を配ってくれ…出撃!』
利根「第1艦隊抜錨じゃ!」
ミーシャ「全機離陸!」
提督の合図で一斉に動き出す。
その様子を遠くで鈴谷、暁、そして青葉が眺めていた。
暁「…みんな、手伝えなくてごめん……」
青葉「うぅ~…練度がもう少し高ければ…!」
鈴谷(皆、躊躇わず深海悽艦を沈めていってる…覚悟を決めて。……私は、このままでいいの…熊野……?)
暁は利根達の援護が出来ない哀しさを。
青葉は自身の練度が足りない事への悔しさを。
鈴谷は今の自分に対する迷いを。
それぞれ抱えながら、見えなくなるまで見送っていた。
一方彼女達が向かっている孤島。
本土に近いものの海に囲まれている為かつての戦いの傷跡が修復されず放置されており、未だに戦車や戦闘機の残骸が辺り一面に転がっている。
その残骸の1つ。砂浜に落ちている比較的損傷が軽い戦闘機の操縦席で何かを操作している少女とその様子をすぐ近くで伺っている女性がいた。
「信号……誰かキャッチしてくれるッスかねぇ?」
「しなければもうチャンスはないわね。…この信号が最後の希望…」
操縦席で信号を発し続けているのはかつての提督の部下、青野原久遠。
そしてその様子を見ていたのは『特戦群』と呼ばれる陸軍特殊部隊に所属していた出浦信(あき)。
青野原は基盤がいくつか剥き出しになっている操縦席を弄りながら会話を続ける。
青野原「この数ヵ月これを治す為に頑張ってきたッスからねぇ…」
出浦「あんた達は治療して寝てたの間違いでしょ?」
青野原「あはは…面目ないッス……。でもまさかあの爆発でここに漂流なんて運が良かったッス」
出浦「……本当、運が良かったわよ…」
青野原「…?」
突然含みのある言い方をする出浦に疑問を抱きちらりと彼女の方を見る。
逆光で良く見えなかったが複雑そうな表情をしているように青野原は感じた。
その時島の奥から何者かが音を立ててやって来た。
青野原「収穫はどうッスか?」
操縦席から顔を出し、出てきた人物を見る。
そこには服や帽子に付いた葉っぱを払い落とすシルカと両手いっぱいに果物を抱えたハインド、そして猪を引き摺るウラジーミルがいた。
攻撃ヘリ24號ハインドと重戦車90號ウラジーミル。2人共提督の部下であり、青野原同様第4部隊の生き残りである。
ハインドは提督とケッコンしている間柄であり、ウラジーミルはウラールの妹だ。
ハインド「ギュギュギュ、ギャギィ(意外な穴場を見つけたわ)」
出浦「…駄目だわ……未だに彼女達の言葉がわからない。訳して」
青野原「要は今日はお腹いっぱい食べられるって事ッス!さて、日も落ちてきたしご飯にするッス!」
操縦席から飛び降り、食事の準備に掛かる。
青野原「ウラさん流石ッス!これは大物ッスね!」
ウラジーミル「ギギ、ギューギィ…(ふふ、ありがとうございます…)」
猪を見て興奮する青野原に頬笑む。
青野原は地面に置かれた猪を、サバイバルナイフで捌いていく。
青野原「シルカさんはどうッスか?もうウチらに慣れたッスか?」
シルカ「……ギ(ふん)」
ハインドが持っていた果物を1つかじりながらそっぽを向く。
青野原「アハハ……」
ハインド「ギュイ、ギィ…。ギュギギギュ(ごめんなさい久遠…。彼女生粋のマグマ兵士だったから)」
苦笑いを浮かべる青野原に謝り、シルカのフォローをするハインド。
対空戦車23號4型、シルカ。彼女はマグマ軍からの援軍で海岸防衛戦に参加し、青野原達同様爆発に巻き込まれ島に漂着していた。
青野原「さ、焼けたッスよ!」
出浦「それじゃ、いただくわ」
串に刺し、焚き火で焼いた猪肉を食べはじめる一行。
そして一通り夕食を食べ終わり、残った肉を干そうと作業していたその時、シルカが叫んだ。
シルカ「ギギャギャイ!(何か来る!)」
一同「!?」
ハインド「ギャッギギ!?(何処から!?)」
シルカ「ギャイ!ギーギュイ!!(海よ!深海悽艦だわ!!)」
青野原「出浦さん奴等に気付かれたっぽいッス!」
出浦「ついてないわね…火を消して森の中に隠れるわよ」
焚き火に水を掛け、森の中に身を隠す。
そして出浦は手頃な木に登って双眼鏡を覗きこんだ。
出浦「来た。囲まれてるわ」
青野原「こっちでも確認出来たッス…こりゃマズイッス」
深海悽艦の瞳がこちらを見付けようとギラリと光っている。
その時別の方向からライトの光が深海悽艦を照らしていた。
利根「敵艦隊発見!夜戦じゃ、行くぞ!!」
利根達第1艦隊が到着し、砲撃を開始した。
ミーシャ「龍讓!ヒリュウ!敵の座標はそっちに随時送ってある!艦載機を出せ!」
龍讓「おー♪夜でも艦載機を飛ばせるってええなぁ♪」
ヒリュウ「それじゃ遠慮なく!」
艦載機を飛ばし、深海悽艦目掛け爆撃を始める。
青野原「奴等にダメージを与えてるッス!」
艦娘を初めて見た青野原は興奮気味に戦闘を見ている。
出浦「どうやら新型の武器娘の開発に成功したようね」
空を見ると上空のヘリがライトでこちらを探し始めていた。
出浦「どうやら私達を探してるようね…行きましょう」
ヘリに分かりやすく、尚且つ戦闘に巻き込まれにくい場所を探しながら、出浦達はヘリに手を振ってアピールをする。
そしてライトが出浦達を捉えた。
鯖江「こちら鯖江、目標を見付けたわ。……久遠とハインド、ウラジーミルがいるわ」
照らしたライトの先で手を振っている青野原を見て声が上ずる。
大和「う…そ…!」
ウラール「ギャイ!?(ウラジーミルが!?)」
仙台「第4部隊の青野原さん達が生きてた…!絶対連れて帰りましょう!」
鯖江「あと見慣れないマグマ兵士と…あれ、特戦群じゃない…!」
ミーシャ「こちらも肉眼で確認した。……5人か、私と鯖江のヘリに収容する。目達原は援護を」
目達原「了解した」
目達原のヘリは少し離れた所で周囲の警戒を始める。
その間に歩兵はヘリを降下させ、出浦達の前にヘリを低空飛行させる。
ミーシャ「生きていてくれて嬉しいぞ。まさか信号を発信したのが君達だったとは」
青野原「ミーシャさんじゃないッスか!!」
シルカ「ギュイ…!?(ミーシャ元中将…!?)」
ヘリから降りてきたミーシャに歓喜の声をあげる青野原と対称的にミーシャを見てぎょっとするシルカ。
ミーシャ「話は後だ。重量の問題があってな、シルカとウラジーミルはこのヘリに。残りは今降下するヘリに乗ってくれ」
促されるままに乗り込むシルカとウラジーミル。
ウラジーミル「ギャギャ!(ウラールお姉様!)」
ウラール「ギュギュギュ…!(無事で良かった…!)」
シルカ「ギュイ……ギュギュギュ……!(ミーシャ元中将……私は貴女に銃を…!)」
ミーシャ「…あの時はお互いにソーニャに謀られていたんだ。怨んだりしてないさ…よし、上昇だ!」
歩兵「ギュイ!」
ミーシャ達を乗せたヘリが上昇し、入れ替わるように鯖江のヘリが降下する。
大和「さぁ乗って!」
青野原「大和さぁん!」
ハインド「ギュギュギュ…!(貴女がいるということは…!)」
大和「司令君が待ってるわ!早く!」
全員乗った事を確認し、上昇をはじめる。
鯖江「こちら鯖江。救助は完了したわ」
利根『了解じゃ。こちらもそろそろ片付く』
無線で連絡をとりながらヘリを動かす鯖江。
そんな彼女を見つめる出浦の前に大和が立ち塞がる。
大和「まさか特戦群の貴女がいたなんて…驚きだわ?…でもどういうつもり?」
出浦「あら、この状況で特戦群もへったくれもないじゃない?」
睨み付ける大和を小馬鹿にするように鼻で嗤う。
青野原「た、大和さん…出浦さんはウチらの命の恩人なんですし…」
大和「だとしても、軍内部の派閥争いで襲って来たことは許さないから…?」
出浦「構わないわ?…それよりも、これから彼に会えるんでしょ?」
大和「何かしようとしたら…殺すから」
出浦「お好きにどうぞ」
互いににらみ合い、険悪な雰囲気になるヘリ内。
その時、利根から通信が入る。
利根『こちら利根。少々手こずったが殲滅完了じゃ』
鯖江「了解…帰投しましょう…」
利根『なんじゃ?珍しく随分疲れた声をしてるのう?』
鯖江「後ろで雪子とお客さんが喧嘩してるのよ…」
ため息をつきながら艦隊と合流し、鎮守府へ向かう一行。
「ふうン…あレが艦娘……ホントウニ似てル」
それを少し離れた所で何者かが見ていた事を、彼女達は知らなかった。
その頃鎮守府の執務室では
大淀「入電!作戦成功、陸軍及びマグマ軍兵士5名救出!!」
提督「あぁ…良かった…!損害は?」
作戦成功の報に安堵するが、すぐに気を引き締める。
その表情は何処か苦しそうで、顔が僅かに赤く汗もかいている。
大淀「利根、響、ヒリュウが小破、扶桑が中破」
提督「了解…彼女達に良く頑張った、ありがとうと伝えてくれ…」
アルマータ「…閣下?」
声が弱々しくなっていく提督を見る。
それと同時に提督はその場に倒れ込んでしまった。
アルマータ「閣下!!」
大淀「提督!!」
提督「……ここは……また、あの場所か」
気が付くと再び海岸に立っていた。そして目の前の海には、やはり深海悽艦が迫ってきている。
提督「また、あの光景を見せるのか…!」
主砲を構える深海悽艦を睨み付ける提督。
その時何処からか砲撃音が鳴り、深海悽艦が沈んでいく。
提督「え……?」
気が付くと目の前に天龍を始めとした艦隊が、深海悽艦と対峙している姿が見えた。
提督「皆…!」
そして深海悽艦目掛け砲撃する天龍達を見た瞬間、再び提督の意識は途絶えていった。
提督「…ぁ」
目が覚めると医務室のベッドに寝かされていた。
首を動かし時計を見ると8:40。窓から入る太陽の日が部屋を照らしていた。
提督「……作戦はどうなった…?」
青野原「成功ッスよ」
その声にハッとなり、反対側を見る。
そこには提督と同じくベッドに横になっている青野原が、こちらに微笑み掛けていた。
提督「青野原…!?」
青野原「司令官、ただいま」
提督「あぁ…!おかえり…おかえり!!」
涙目になっている青野原の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
青野原もその感触を噛み締めるように受ける。
「あー…」
提督「え?」
声が聞こえ、上体を起こすと向かい側のベッドでこちらを呆れた様子で見ている出浦がいた。
出浦「医務室で何やってんのよ?」
提督「お前特戦群の!?」
出浦「出浦信よ。ま、もう死亡判定されてるだろうから元特戦群ね」
青野原「島に漂着したウチらを助けてくれたッスよ」
提督「そうだったのか…部下を救ってくれて感謝するよ」
出浦「別に良いわよ。それより、あの新型の武器娘について教えて」
提督「…そうか、ずっとあの島にいたから…わかった」
出浦と青野原に艦娘について簡潔に説明する提督。
出浦「成る程ね…。あとこっちからも奴等について教えたい情報があるの」
提督「何…?」
出浦「あの戦いが終わって2,3日後に目が覚めたんだけど…奴等の何体かが、海に漂流している死体を食べてたのよ」
提督「何だと…!?」
新たな事実に驚愕する提督。
一方それを聞いた青野原はだんだん青ざめていく。
青野原「え…待ってほしいッス……ウチら出浦さんより後に漂着したんスよね…?」
出浦「だから運が良かったわねって言ったのよ。……あんた達が生きてたから食べなかったのか、それとも単純に見落としてたのか……」
提督「また新しい謎が増えたな……その後はどうなった?」
出浦「一通り平らげた後、また海に帰って行ったわ」
提督(……死体を食う深海悽艦……それだと寄生生物説と矛盾するぞ…?)
考えを整理しようと目を閉じていると扉がノックされ、アルマータが入室する。
アルマータ「あぁ閣下!お体の方は大丈夫ですか!?」
起きている提督を見て涙目になりながら駆け寄る。
そんなアルマータに微笑み、頭を撫でる。
提督「あぁ、心配かけた。午後には復帰するよ」
アルマータ「良かった…!」
「ギフン…」
提督「へ…?」
今度は咳払いの様な声が聞こえ、扉の方を見るとハインドとウラジーミル、シルカが僅かに冷たい目線を送っていた。
提督「ハ…ハインド……それにウラジーミルまで…!」
青野原「彼女達も出浦さんに助けられたッス」
提督「そうだったのか…!」
ベッドから降りて、ハインド達の元に向かう。
そして彼女達の姿を焼き付けるように見つめ、思わず涙を浮かべる。
提督「良かった…!ホントに……良かった…!」
ハインド「ギュイ、ギギギィ…(私達も、また貴方に会えて嬉しいわ…)」
ウラジーミル「ギ、ギュイ…!(また、よろしくお願いします…!)」
提督「あぁ…任せろ…!今度は絶対に、こんな思いはさせない…!!」
アルマータ(閣下、本当に良かった…今回ばかりは、そこは2人に譲るわ)
男泣きしはじめる提督をそっと抱き締める2人と、それを見守るアルマータ。
出浦「それはそうと、これから私達はどうなるの?」
何処と無く良い雰囲気に成り掛けていた空気を切り替える様に出浦が声を掛ける。
青野原「確かにそうッスね…ウチら死亡判定になってると思いますし、また軍に戻れるんスか?」
青野原の問いにかつて見た部隊内の死亡者リストがフラッシュバックする。
提督「…確かに青野原やハインド達はもう死んだ事になってるな…」
出浦「…ってことわ私もね」
面倒な事になったと言わんばかりにため息をつく。
提督「もし居場所がないなら、ここで憲兵として働かないか?青野原達もどうだ?」
青野原「もちろんッス!こっちからお願いするッス!」
ハインド「ギュイ(こっちも同じよ)」
ウラジーミル「ギュイギギ!(またウラールお姉様と一緒に戦えるなら!)」
青野原、ハインド、ウラジーミルは快諾。
出浦は何か考えており、シルカもまた思うところがあるのか顔を伏せている。
出浦「……ま、悪くないかもね。暫くやっかいになるわ」
提督「うん。さて君も、どうだい?」
顔を伏せているシルカに声を掛ける提督。シルカは少し考えた後顔を上げ、提督を少し睨んで答えた。
シルカ「ギュギュギュ、ギギギャイ(貴様の指揮下に入るつもりはない。私はあくまでミーシャ中将の元につかせてもらうわ)」
提督「わかった。ミーシャは工房に居るだろうから、行ってくるといい」
シルカ「ギィ…(フン…)」
ミーシャの居場所を聞くなり礼も言わずそそくさと退室するシルカ。
彼女が出ていった扉を見て、アルマータは静かに怒りを露にする。
アルマータ「彼女…少し教育した方が良いかしら…?」
提督「その内、心を開いてくれるさ。アルマータは最初あれ以上だったぞ?」
アルマータ「か、閣下!その事はもう、お忘れください…///」
顔を紅くし恥ずかしがるアルマータに悪戯っ子の様な表情を浮かべ、その後すぐに表情を引き締める。
提督「さて、利根達にも会って来るよ。そしたら良い時間になると思うから、また一緒に仕事を始めよう」
アルマータ「わかりました」
ハインド「ギュギュギイ?(それよりも彼女の最初の頃の話が気になるんだけど?)」
提督「あぁ、鹵獲したての頃は」
アルマータ「閣下ぁ!!」
その日の夜。
灯りも付けず薄暗い演習場に佇む天龍の姿があった。
天龍「ハァ……ハァ……」
冷や汗を流しどこか怯えるようにゆっくりと的が設置されている場所へ前進する。
天龍「くそっ……海に立つだけで、こんなに震えるなんて……」
牛歩のようにゆっくりと前進し、月明かりに照らされた射撃訓練用の的の前に立つ。
天龍「……」
またゆっくりと構え、単装砲を動かす。
狙いが定まるにつれて足が震え、息遣いが荒くなっていく。
そして狙いをつけたその瞬間。
-----テンリュウチャン……-------
天龍「ヒッ…!」
あの時の光景が鮮明にフラッシュバックし、頭を抱えその場にしゃがみこむ。
天龍「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………」
その場にいない誰かに必死に謝る天龍。涙を流し、歯をガタガタ言わせている彼女の姿はもう以前の勇ましいものでは無くなっていた。
天龍「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「そこには、誰も居ないよ?」
突然背後から聞こえた少女の声にハッとし、振り向く。
そこにはピンクの髪をした少女が天龍を見つめていた。
天龍「だ、誰だっ!」
春雨「春雨は……白露型?の春雨、うん春雨って言うの」
尻餅をついて後退りする天龍に笑顔を見せる春雨。
天龍「な、なんでここに居るんだよ!もう消灯時間だろ!」
春雨「消灯時間?そうなの?春雨、ここの艦娘じゃないからわかんない」
弱々しく睨みつける天龍に動じず笑顔で答える。
天龍「は、はぁ…?じゃあなんでここに」
春雨「迷っちゃった、かな?」
エヘヘと笑う春雨。
すると何かを思い付き天龍の元へ駆け寄る。
春雨「あ、そうだ!私に艤装の使い方教えて?」
そう言って取り出したのは駆逐艦用の連装砲や魚雷。
天龍「…は?お前、使い方知らないのか?」
春雨「うん、春雨生まれたばかりなの」
天龍(建造されたばっかって事か…?それにしても…)
春雨「…ダメ?」
無言でいた天龍に首を傾げる春雨。
それを見て渋々了承する天龍。
天龍「わかったよ…」
春雨「やった!」
天龍「じゃあ、まずは……」
はしゃぐ春雨に艤装の使い方を身振り手振りを使って丁寧に教えていく。
最初は渋々説明していた天龍だったが、説明していく内にだんだん笑顔が増えていく。
天龍「魚雷はこんな感じだ!どうだ?なんかわかんねえ事、あるか?」
魚雷を手渡し、笑顔で聞く天龍。
春雨はそんな彼女の笑顔をじっと見つめていた。
天龍「お?どうした?」
春雨「さっきの顔より、今の顔が似合ってるよ」
天龍「っ…」
春雨の無垢な言葉に、表情が固まり言葉が詰まる。
春雨「…さっき、誰に謝ってたの?」
天龍「……妹だ……深海悽艦になっちまって、それに気付かねえで……沈めちまったんだ」
春雨「……」
天龍「それまで深海悽艦は只の倒すべき敵としか考えて無くて…それを知った瞬間、武器を構えるのが……怖くなっちまったんだ」
今まで抱えてた思いを少しずつ話していく天龍。
春雨も彼女の目を見て、親身になって聞いていた。
天龍「さっきもあの的に向けようとした瞬間、あの的が、龍田に……妹に見えて…!」
言い切る前に涙を流し、俯く。
春雨は静かに彼女を抱き締めた。
春雨「……誰にも言えなかったんだね…?仲間にも、司令官にも」
天龍「うぅ……」
春雨「良いよ?春雨が全部聞くよ?春雨も一緒に考えるよ?」
天龍「…なんで…?なんでそんなに……お前、初めて会ったヤツになんでそこまで…?」
春雨「おねーちゃん優しいから。春雨に艤装の使い方を教えてくれたから」
天龍「あぁ……あぁ…!!」
優しく抱き締める春雨を震える手で抱き締め返す。
そのまま声を出して泣き続け、時間が過ぎ空が明るくなりはじめる。
春雨「……そろそろ行かなきゃ」
天龍「あぁ…すまん。その、ありがとな…」
春雨「また、会いに来ても良い?」
天龍「もちろん…!待ってるぜ!」
涙を拭い、笑顔を見せる天龍に手を振る。
そして春雨が見えなくなったのを確認すると、天龍も演習場を後にした。
パート4はこれで以上です。
次回どうするか考え中
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