2018-12-26 21:46:06 更新

概要

4.5と同時期に起きた出来事。


天龍が春雨と出会って2日後…深夜の鎮守府、演習場にて


天龍「ほら、もっと動けっ!その速度だと狙い撃ちされるぞ!」

春雨「う、うん!」


天龍と春雨による模擬戦が行われていた。

あの日以来、2人は深夜に出会っては春雨の訓練と他愛ない世間話をする仲になっていた。


春雨「えぇい!」

天龍「うぉっ!?」


春雨の砲撃が天龍の体を掠める。


天龍「今の凄く良いぜ!」

春雨「はぁ…はぁ…ありがとう」

天龍「今日はこんなもんか。休憩しようぜ?」

春雨「うん。じゃあまたいつもの場所で」


笑顔でそう言い残し、春雨は演習場を後にする。


天龍(うーん…春雨も艤装外して中に入ればいいのに…)


頭を掻きながら艤装を外しに行き、近くに設置されてある自動販売機で飲み物を2人分買う。


天龍(そうだ、明日はお菓子でも買ってみるかな…?あいつ何好きなんだろ…チョコとか甘いやつの方が良いかな?)


おやつで笑顔になる春雨を思い描き、思わずにやける。

天龍にとって春雨の存在は無くてはならないモノになろうとしていた。

龍田の代わりとして、そして自分の罪を癒し、赦してくれる存在として。


鎮守府の裏にある海岸、そこが2人のいつもの場所だった。

後ろを見れば僅か数メートル先に鎮守府の裏口や窓から中の様子もうっすら見える。

春雨は鎮守府に背を向けるように海岸に腰掛け、夜の真っ暗な海を眺めていた。


天龍「待たせたな」

春雨「おかえり。そんなに急がなくて良かったのに」


クスりと笑う春雨の言葉で、無意識に走ってきた事を自覚する天龍。


天龍「い、良いじゃねーか!ほれ、ジュース」

春雨「ふふっ♪ありがと」


照れながらジュースを手渡し、天龍も春雨の隣に座った。

飲み物を飲んで一息つく。


天龍「ふぃ…春雨も随分強くなったな。これなら此方にいる暁や響と互角にやりあえるぜ!」

春雨「天龍おねーちゃんのお陰だよ!ここまで艤装の使い方を分かりやすく教えてくれて…もしかしたら、先生の才能あるんじゃない?」

天龍「あははは!何言ってんだ!春雨の飲み込みが早かっただけさ」


春雨の言葉に大笑いするが、ふぅ…と一呼吸置くと真剣な表情に変わった。


天龍「…前から思ってたんだが、なんで艤装の使い方知らなかったんだ?着任してから訓練とかしなかったのか?」

春雨「……春雨がいた鎮守府は、そんなことさせてもらえなかった。戦果と資材にしか興味が無くて、春雨達は使い捨てにされてたの」

天龍「ブラック鎮守府ってやつか……青葉の新聞で見たことがある…」


1度だけ部屋を出た際、掲示板に貼られていた新聞の記事を思い出す。


春雨「春雨も着任してすぐ遠征させられて」

天龍「待て、お前遠征って言っても!」

春雨「うん、深海悽艦と戦闘になった。ボロボロになって帰れなくなった……けどね?春雨はあのヒトに助けられたの!」


先程とは違い、とても嬉しそうに言う。


天龍「あの人?」

春雨「うん!傷も治してくれたし、友達も出来たの!!」

天龍「そうか……良かった」


ブラック鎮守府から解放されたと知って安心し、春雨の頭を優しく撫でる。


春雨「えへへ…///天龍おねーちゃんも、優しい///」

天龍「ったりめーだろ?大事な妹分なんだからよ?」

春雨「妹…うん!」


余程嬉しかったのかその後も噛みしめるように妹という単語を呟く春雨。

その後、夜が明けてきた為2人はまた会う約束をして解散した。


朝、鎮守府食堂にて


提督をはじめとした一行の視線は朝食をガツガツと食べている天龍に向けられていた。


提督「な、なあ天龍?そろそろ何があったか教えてくれないか?」

天龍「んぁ?何でもねーよ……ごっそーさん。そんじゃおやすみ」


完食し、食器を返却するとすぐさま部屋に戻っていく。


利根「またじゃ…朝食後すぐ寝とる…」

暁「きっと夜に仔猫の世話でもしてるのよ!」

仙台「そうであれば良いのですけど…」

提督「……」


その日の深夜、天龍は春雨に会うため外へ出ていた。お菓子が入った袋を持って。


アルマータ「閣下」

提督「あぁ、行くぞ」


提督とアルマータも天龍の行動を知るために尾行をしていた。

それに気付かないまま、鎮守府裏の海に佇んでいる春雨を見付けた。


天龍「お~い春雨~!」

春雨「天龍おねーちゃん…」


天龍を見てもどこか悲しそうな表情を浮かべる春雨。


天龍「どうした?早く此方に来いよ!」

春雨「天龍おねーちゃん」

天龍「な、なんだよ…?」


いつもと様子が違う春雨に、戸惑う天龍。


春雨「ごめんなさい…皆にバレた…もうここにはいられない…!」

天龍「え…?」


春雨の言葉に頭が真っ白になる。


春雨「ごめんなさい…」

天龍「ま、待てよ。そんなに勝手に違う鎮守府に行くのがダメな事なのかよ。安心しろってオレんとこの提督が」

春雨「違うの…!」


天龍の説得を断ち切り、深呼吸をする。


春雨「春雨は…春雨じゃないの…」


艤装を全て外す。それでも春雨は海上に浮いている。


春雨「ワタシは…」


肌が、髪が、目が、そして衣服の色がどんどん変わっていく。

天龍も彼女が何者なのかを察し、目を見開いている。


そして鎮守府中に警報が鳴り響く中、彼女は自分をさらけ出した。


駆逐悽姫(以下駆逐)「ワタシハ駆逐悽姫……深海悽艦…ナノ…!」

天龍「嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


駆逐悽姫の姿を見て、涙を流しながらその現実を否定しようと叫ぶ。

その時提督とアルマータが駆け寄ってきた。


提督「大丈夫か天龍!?」

天龍「提督…なんで…?」

アルマータ「貴女の行動が不自然過ぎたから尾行してたのよ!」


アルマータは明石が開発した対深海悽艦用の戦車砲を構える。

しかし駆逐悽姫は怯む事なく提督を見据える。


駆逐「オ前ガココノ司令官ダナ?」

提督「…そうだ」

駆逐「2日後、我々ハココヲ攻メル。止メタケレバ北方海域へ来イ」


そう言うと駆逐悽姫は踵を返し、戻って行こうとする。


アルマータ「逃がすものか!」

天龍「止めろぉ!!」


砲を構えるアルマータに掴みかかる。


天龍「あいつはっ!春雨は敵じゃねえっ!!春雨っ!行くな!!行かないでくれぇ!!!!」

提督「天龍!」

アルマータ「頭を冷やしなさい!」


提督とアルマータによって取り抑えられる天龍。

それでも彼女を、春雨の名前を叫び続ける。


天龍「春雨ぇ!!!」

駆逐「天龍オネーチャン…ごめんなさい…」


背後で自分の名前を叫んでいる天龍に静かに謝罪し、北方海域へ戻っていった。


それから約1時間後、執務室で提督・大淀・ミーシャが集まり天龍から事の顛末を聞いていた。


提督「……なるほど」

大淀「艦娘に変化する深海悽艦…厄介ですね。もしかして天龍さんから内部情報を得るつもりだったんじゃ?」

ミーシャ「だとしたら人選ミスだ。それに天龍の言葉を信じるなら、その春雨はただ天龍と親睦を深めていただけに感じるが…」


春雨…基駆逐悽姫に関してさまざまな憶測が飛び交う。天龍は俯いたまま黙っており、提督も何やら考え込んでいた。


ミーシャ「それに彼女は自らを駆逐悽姫と名乗っていた……。大淀よ、それについての情報はあるか?」

大淀「それについてなのですが、今までのデータにないですね…新種と考えるべきかと」

ミーシャ「新たな驚異か…」

天龍「そんなんじゃねえ…」


ミーシャの言葉に反応し、ポツリと呟く。

全員の視線が俯いている天龍に向けられる。


天龍「アイツは…春雨は驚異なんかじゃねえ…!」

大淀「ですが実際宣戦布告をしたじゃないですか?」

天龍「春雨は…何か理由があったんだよ…!アイツは皆にバレたって言ってた、だから…そう、きっと脅されてたんだよ!」

ミーシャ「深海悽艦が深海悽艦を脅す、か。今までの行動パターンからそれの可能性は無いに等しいな」


何とか駆逐悽姫を庇おうとするが尽く論破され、黙ってしまう。


ミーシャ「提督よ、貴様はどう考える?」

提督「…宣戦布告してきた以上、こちらも臨戦体勢をとる。明日、ヘリ部隊及び艦隊を北方海域へ進軍。敵を撃滅する」

天龍「そんな…待ってくれ!」


すがり付く様に天龍の腕を掴む。

提督は抵抗せず、天龍の次の言葉を待っていた。


天龍「チャンスをくれ…!アイツを説得してみせるからよぉ…!」

提督「向こうは君を殺す気で襲い掛かって来るぞ?もしそれで君自身を…他の仲間を死なす事になったらどうする…!?」


少し語気を強め、天龍を見据える。

しかし天龍は臆する事なく提督を見つめ返す。


天龍「もちろん艦隊には迷惑を掛けねえ…!オレ一人でアイツと戦って説得する!……もし、それでもダメなら…せめてオレの手で、倒してやりてぇ…」


その言葉に、眼差しに嘘は無かった。

提督もその覚悟を受けとめ、天龍の肩に手を置いた。


提督「…わかった。ただ、悔いは残すなよ?」

天龍「あぁ、絶対何とかする…!」


その後、朝に詳細な作戦を伝える事になり天龍は執務室を後にした。


大淀「…良いのですか?通常より危険な作戦になりますよ?」

提督「それでも、価値はあると思っただけさ…」


天龍とのやり取りで不安になる大淀に苦笑いを返す。


ミーシャ「…昔を思い出したのか…?」


複雑な表情を浮かべ、静かに問いかける。

大淀はその意味がわからずキョトンとしているが、提督はバレたかと言わんばかりに頬を人差し指で掻き軽く肩を落とす。


提督「…少しだけな。アイツなら、もしかしたらあんな事にはならないんじゃないかって…」

ミーシャ「そうか…スマン」

提督「謝らないでくれ、もう良いんだ」


一方天龍は執務室から出てすぐ鈴谷と暁に出会った。

先程の警報で全員起きたのだが提督の説明により驚異は去った事が伝えられ、全員再び寝たものだと思っていた為、2人に驚く天龍。


天龍「お前ら…!」

鈴谷「えへへ、執務室でのやり取り…全部聞いちった」


笑顔で話す鈴谷だが目は真剣だった。


天龍「…止めても無駄だぞ?」

鈴谷「ううん、逆」

暁「暁も天龍ちゃんと一緒に行くよ!」


意外な反応に思わず面食らう天龍。


天龍「え?」

鈴谷「あはは!そんなに意外だった?…あの話聞いたらさ、多分鈴谷も天龍ちゃんと同じ事するって思っちゃったんだよ~」

暁「それにもしその子もヒリュウさんみたいに助けられるなら助けたいわっ!」

鈴谷「それともう一個。天龍ちゃんが前に進もうとしてるんだから鈴谷も…そろそろ前に進まないと、それこそ熊野にどやされるかな~って」

暁「一人前のれでぃはくよくよしないわっ!暁だって皆を守るために戦うわ!」

天龍「お前ら…へへ、サンキュー!」

鈴谷「3人でまた再スタート、だね!」

暁「すぐに響に追い付くんだから…ふあぁ」


天龍の様子に安心したのか大きな欠伸をする暁。

その後も眠たそうに目を擦っている。


鈴谷「暁ちゃん、天龍ちゃんの事スッゴク心配してたんだよ?今回も心配で寝てられないって起きてて…感謝しときなよ~?」

天龍「そうだったのか…暁、サンキュ。それと、心配かけてスマン。…もう大丈夫だ」

暁「んぅ…良かった…」


暁を抱き抱え、礼を言う。

暁もそれを聞いて更に安心したのか天龍の胸でスヤスヤと寝息をたてはじめた。


鈴谷「それじゃまた朝ね?」

天龍「あぁ、おやすみ」


そして朝、食堂に初めて全員集合する。

そして皆の視線の先には徹夜で作戦を練っていたのか、目元に隈が出来ている提督の姿があった。


提督「皆、おはよう。昨晩知っていると思うが、駆逐悽姫という深海悽艦がこちらに宣戦布告をしてきた。我々はこれに応戦、本日1400に北方海域へ進軍する。今回は第2艦隊も編成し、連合艦隊を結成。ヘリ部隊と共に出撃してもらう」


第2艦隊を編成するという言葉に一部の艦娘がどよめく。

提督は軽く咳払いをし、続きを説明する。


提督「第1艦隊、旗艦は利根。その後扶桑、響、龍讓、ヒリュウ」

利根「いつものメンバーじゃな」

響「…ということは」

提督「続いて第2艦隊、旗艦は天龍」

天龍「おう」

利根「なんじゃと!?」


天龍の名前が挙がった瞬間、食堂ががざわつく。

それでも天龍は堂々としており、鈴谷と暁もそれを見て嬉しそうに頷いていた。


提督「静かに。次に鈴谷、青葉、暁の計4名だ。只天龍は駆逐悽姫と会敵した瞬間、旗艦の任を解く。その後の旗艦は鈴谷とし、天龍は駆逐悽姫の説得だ」

天龍「任せろ…絶対止めてみせる!」

鈴谷「鈴谷達も精一杯頑張っちゃうよ~!」

青葉「これってどういう事ですか!?」

ヒリュウ「私の時の様に捕獲とかじゃ無いんですか?」


第2艦隊のメンバーもそうだが駆逐悽姫の説得という言葉に青葉やヒリュウから質問が挙がる。


提督「…あくまで可能性だが。この駆逐悽姫とは友好関係を築けるかもしれないんだ。そのカギは天龍…彼女が握っている」

鈴谷「それを聞いた鈴谷達も、天龍ちゃんの為に一肌脱ごうって訳よ!」

青葉「おぉ!これは…スクープの予感です!!」

提督「そういうわけだ。続いてヘリ部隊。歩兵を操縦者にミーシャとシルカ。目達原を操縦者に飯塚、仙台。鯖江を操縦者にウラールとウラジーミル。最後に出浦を操縦者に大和と青野原だ。それとハインドは単体で飛行だ」

出浦「あら、出番があるのね?」

提督「当然だ。期待してる。そして皆!もしかしたらこの戦いは今後の在り方を左右することのなるかもしれない!各員気を引き締めていこう。解散!」


その後一行は食事をとり、各々準備に取り掛かる。

ある者は艤装、ヘリの調整に、ある者は訓練で軽く体を温め……


ーーーーーーーーー


鎮守府のとある廊下


天龍「椿」

飯塚「あん?どうした?」


体を動かそうと演習場に向かおうとしていた飯塚を呼び止める天龍。


天龍「その…お前には、色々迷惑掛けたと思って…スマン」


素直に頭を下げる天龍を見て一瞬だけポカンとするも、すぐに豪快に笑い天龍の背中を叩く。


飯塚「あっはははは!!気にすんじゃねえよ!それより、深海悽艦とダチになりにいくんだろ!?」

天龍「あぁ」

飯塚「お互い気が済むまで殴りあってこいや!良いなっ!?」

天龍「へへ…任せろ!」


拳を突き合わせ、お互いフッと微笑む。


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食堂にて


ハインド「………」


食事をとった後もその場に残り、瞑想するように目を閉じ考え込んでいるハインド。

そこにアルマータが近付いてきた。


アルマータ「あら珍しい、緊張してるのかしら?」

ハインド「ギィ……ギュギィ(そうね………ついに奴等と対等に戦えるんだって思うと)」


ギィ…と静かに深呼吸し、目を開けてアルマータを見る。


ハインド「ギギギュイ?(貴女は出撃しないの?)」

アルマータ「あのヘリじゃ狭すぎて、ね?大型のヘリじゃ的になるし…今では閣下のサポートをしているのよ」

ハインド「ギギ……ギュギィギギギュイ(ふふ……常に前線で暴れていた貴女がね)」


緊張が解れたのか笑みを溢す。

アルマータもそれを見て微笑み返す。


アルマータ「もうあの頃みたいに一方的に殺られる存在じゃないわ。安心して戦ってきなさい。私も精一杯サポートするわ」

ハインド「ギィ。ギュギュイギュイギ(了解。ついでに私と閣下との愛の育みもサポートして欲しいわね)」

アルマータ「冗談が過ぎるわよ?いくらケッコンしてるとは言え、閣下は私のものよ」


今度は互いに好戦的な笑みを浮かべ、火花を散らす。


ハインド「ギギギギュ(帰ったらこっちの戦いもしなゃね?)」

アルマータ「ふふふ…望むところよ。だからちゃんと、帰ってきなさい」


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ヘリポートにて


青野原「燃費計算しないと~。パチパチってなぁ~」

明石「そ、そろばんで計算ですか…?」


そろばんでヘリに積む燃料や弾薬の計算をしている青野原の姿に驚く。


青野原「そろばんがあればどんな計算だって出来るッスよ~。ほい、いっちょあがりッス!明石さん、これでお願いッス~」


紙に計算した値を書き込み、明石に見せる。


明石「す、すごい…適格な数値になってます…!」

青野原「こんなの駐屯地にいる前からやってたッスから、朝飯前ッスね」


ーーーーーー


そして時間が過ぎていき、作戦開始5分前になる。


鎮守府を背に艦隊が陣形を組んで待機しており、ヘリ部隊もヘリポートで待機している。

そこに提督からの無線が入った。


提督『ではこれより、北方海域へ進軍。駆逐悽姫との和解と敵対する深海悽艦の撃滅が目標だ』

大淀『北方海域までは距離があり、途中で夜を迎えます。その際マップで記した場所で待機、夜明けを待ってから進軍してください』

提督『各員の奮闘と帰還を祈っている…必ず帰ってこい。総員出撃!!』

利根「第1艦隊抜錨!」

天龍「第2艦隊抜錨!行くぜっ!」

ミーシャ「出撃する!各ヘリは楔陣形をとれ!」


提督の合図と共に一斉に動き出す。



前回航路を確保した成果もあり、会敵する事なく順調に進み夜になったところで休憩地点に到着。

補給や休息を取りながら夜明けを待ち、再び進軍する。


利根「そろそろじゃな。龍讓、ヒリュウ、扶桑、艦載機を頼む」

龍讓「りょーかい!」

ヒリュウ「偵察隊、発進!」

扶桑「彩雲、お願いね?」


艦載機を放ち、情報を待つ。

それからすぐに情報が入った。


ヒリュウ「艦載機から入電!敵艦あり…なっ!?」

天龍「どうした!?」

扶桑「対空射撃で全滅艦載機が…」

龍讓「全滅しおった…!」


ヒリュウ、龍讓、扶桑は驚きのあまり立ち止まってしまう。

その様子に一同に緊張が走る。


ミーシャ「敵は対空能力に長けているか」

青野原「厄介ッスね…」

青葉「お三方が飛ばしたのって紫電と彩雲ですよね…?それを全機…!?」

仙台「敵の人数はわかりますか!?」

龍讓「…3人や」


仙台の問い掛けに龍讓が震えた声で答える。

その答えに皆が唖然とする。


飯塚「…は?」

扶桑「3人なんです…たった3人の人型に私達の艦載機がやられました…」

ヒリュウ「一瞬だったから自身無いけど、その内の2人はリ級とネ級だと思う…けど、あの2人はそんなに対空能力に長けていない筈…」


謎が謎を呼び、全体の進軍スピードが落ちていく。

だんだんと皆の表情が曇っていく。


天龍「うだうだ考えたってしょうがねえ!行くしかねえだろっ!!」

飯塚「やりあう前にひよってんじゃねえ!行くぞオラァ!!!」


この状況に渇を入れるかのように天龍と飯塚が叫ぶ。


利根「…そうじゃな…!」

ミーシャ「ふっ…なまじ考えすぎるのもいかんな」

扶桑「自分から不幸になってしまってはいけませんね」

響「ハラショー、力を感じる」

鈴谷「うし!気合い入ったし行きますかー!」


2人の渇で気合いが入った一同は再び進軍スピードを上げていく。

そして、艦載機を撃ち落としたと思われる人影が見えてくる。


天龍「……あれは」


待ち構えて居たのはヒリュウの情報通り重巡級リ級とネ級。

そしてその2人の間に駆逐悽姫が立っていた。


駆逐「…来タノネ」

ヒリュウ「この娘が駆逐悽姫…!?」

鈴谷「ホントに艦娘ソックリじゃん…」

暁「見たまんま駆逐艦ね…」


駆逐悽姫の姿に戸惑いを隠せないヒリュウ達。

そして天龍が駆逐悽姫達の前に対峙する。


天龍「作戦通り、ここはオレに任せてくれ」

青葉「向こうは3人ですよ!?無茶です!!」

天龍「良いんだ。鈴谷、あとは頼んだ…」

鈴谷「…わかった。皆、行こ」


天龍を置いて奥へ進んで行く一行。

駆逐悽姫達は彼女らを攻撃する事なく、それを見逃した。


天龍「へぇ…行かせるんだ?」

駆逐悽姫「ドウセ、アノヒト二勝テッコナイ。ココデオ前モ、彼女達モ全テ沈ム」

天龍「…春雨、出来ればお前と戦いたくない」

駆逐悽姫「……ダッタラ沈メ。ワタシトオマエハ敵ダ。ダッタラ戦ウシカナイ」


天龍、駆逐悽姫共に見つめ合い長い沈黙が漂う。

そしてほぼ同時に砲を構えた。

ネ級とリ級もそれに続く。


駆逐「2人ハ見テイテ…」

リ級・ネ級「…」


駆逐悽姫の言葉に従い、主砲をしまい距離を空ける。


天龍「一対一か…ありがてえぜ」

駆逐「オマエトハ正々堂々ト戦ッテ勝ツ…!」


主砲を同時に放つ。

砲弾は互いにぶつかり、空中で爆発する。

そして天龍は右へ、駆逐悽姫は左へ回り込んで砲撃で牽制し合う。


天龍「…演習を思い出すなぁ。なぁ春雨!?」

駆逐悽姫「アレハ艦娘用ノ艤装ダッタカラ圧サレタダケダ!今ナラ負ケナイ!!」


天龍の手前に3発、主砲を放って水柱を立てる。

天龍はその行為の意図に気付き水柱から離れ、魚雷を放つ。

すると先程水柱が立った場所に新たに大きい大きな水柱が立つ。


天龍「視線を防いで魚雷…あの時教えた通りだな!だが甘ぇ!!!」

駆逐「チィ…!!」


今度は牽制しながら迫ってくる。


天龍(教えた通りにやるなら、魚雷を決め手にする筈…!)


予想通り、駆逐悽姫の足元に既に発射されている魚雷がうっすら見えている。

天龍はそれを撃ち抜き爆発させる。


天龍(見え見えだぜ…なっ!?)


立ち上がった水柱の所に駆逐悽姫の姿がない。

急いで辺りを警戒するが見当たらない。


天龍「一体何処に」

駆逐「コ、コ」


突然天龍の足下から爆発が起こり小破してしまう。

真下を見ると駆逐悽姫が沈んでいるのが見えた。


天龍「な…に…!?」

駆逐「ワタシ達ハ深海悽艦ダ。深海カラ来ルノダカラ、沈ム事ダッテ出来ル」


次々と天龍の足下から水柱がたっていく。

天龍は全速力で避けながら対策を考えていた。


天龍(考えろ…春雨は駆逐艦だ。潜水艦じゃない。艤装を起動したら嫌でも浮かんで…艤装…!)


水中にいる駆逐悽姫をよく見ると、攻撃と移動する際の初動時のみ艤装を起動しているのが見えた。


天龍(艤装を停止させて浮力を無くして沈んでるのか…!考えたな…艤装を起動していない時は生身だと考えると…)


再び駆逐悽姫が足下に移動していくのが見える。

それを確認すると天龍は魚雷を数本沈ませ、主砲で攻撃する。

砲撃が命中した魚雷は直ぐ様爆発、近くに投下された魚雷も連鎖爆発させ大きな水のうねりを作り上げた。


駆逐「ッ!?」


うねりに巻き込まれ駆逐悽姫の体は海中でもみくちゃにされる。

急いで艤装を起動させ海上へ出るが、それを見計らっていた天龍が砲撃を食らわせる。


駆逐「ガハッ!」

天龍「おもしれぇ事するじゃねーか…だがまだまだ甘ぇ!」

駆逐「ーーーーーッ!!コノッ!!!」


小破した状態でも構わず再び沈もうとする駆逐悽姫。

だが天龍がとっさに腕を掴み、引き揚げる。


天龍「同じ手は通じねえ!」


艤装目掛け砲撃し、今度は中破へ追い込む。

だがその場で駆逐悽姫も負けじと砲撃仕返し、天龍も中破になってしまう。


その後互いに間合いを空け牽制し合う。

弾薬と時間を消費するが一行に勝負が進まない。


天龍(これじゃ)

駆逐(埒ガアカナイ!)


互いに接近し、今度は取っ組み合いに発展する。

そして互いに至近距離で砲撃。

それぞれの弾薬庫に誘爆、互いに大破してしまう。

それでも2人は距離を取らず互いの闘志をぶつけ合う。


天龍「はぁぁぁああああああ!!!!」

駆逐「コンノォォォォォォオオオオ!!!」


最早言葉で語らず、互いの拳で殴り合う。

ひたすら叫び、喚き、それでもどちらも怯む事なく殴り合っている。

1発食らい、1発返す。

そんなやり取りが数回、数十回繰り返され体力が共に尽きかけ拳を振るうのを止める。


駆逐「ハァ…ハァ…!」

天龍「はぁ……はぁ…!」


無言で間合いを空けて天龍は刀を、駆逐悽姫は最後の1本の魚雷を手に取り構える。


駆逐「コレデ…終ワラセル!!」


天龍目掛け最後の突撃を行う。

天龍は刀を構えたまま微動だにしない。


駆逐「ハァァァァァアアアアア!!!」


間合いに入り天龍の頭部に魚雷を叩き込もうと腕を振り下ろす。

だがその瞬間、天龍の刀が魚雷を捉えた。


天龍「そこだっ!!」


刀は魚雷のみを見事に切り落とす。

そして最後の攻撃手段を失い無力になった駆逐悽姫の頭部に刀を突き付けた。


天龍「…終わりだ…春雨……」

駆逐「ソウ…カ…負ケタカ…」


駆逐悽姫は敗北をあっさり認め、自分の死を受け入れる覚悟をする。

だが、天龍は刀を海へ投げ捨てた。


駆逐「ナニヲシテイル!?」

天龍「オレはもう、二度と妹を殺したりなんかしない」


驚いている駆逐悽姫を優しく抱き締める天龍。


天龍「もう、止めようぜ春雨……?」

駆逐「ウルサイ…黙レ…!」


天龍から離れようと暴れるが、天龍は離さないようにしっかりと強く抱き締める。


駆逐「ワタシハ敵ダッ!貴様ガ憎ム深海悽艦ダ!!」

天龍「確かに春雨は深海悽艦だ。だけど、憎むべき敵じゃない…。」

駆逐「サッキマデ殺シ合ッテイタジャナイカ!」

天龍「喧嘩してただけさ」

駆逐「喧嘩…ダトッ!?」

天龍「わかり合う為の喧嘩だってあるんだぜ?オレも…つい最近教えてもらった」

駆逐「ワタシヲ理解シテ何ニナル!?」

天龍「妹の事知るのに理由がいるか?」


駆逐悽姫の抵抗する力がだんだんと弱くなっていく。


駆逐「何故ダ……何故………ワタシガ艦娘ダッタ時二貴様二会エナカッタノダ……!」

天龍「春雨…」

駆逐「痛カッタ…恐カッタ……人間ガ…憎カッタ……!」

天龍「もう一度人間を…いや、オレんとこの提督を信じてみてくれないか…?きっと春雨を助けてくれる」

駆逐「ナン…で」


駆逐悽姫の髪の毛がピンク色に戻っていく。

視線を下げると潤んだ瞳で天龍を見ていた。


春雨「深海悽艦になった春雨に…そんな優しく出来るのよ…?」

天龍「春雨はオレの心を救ってくれた。…そしてオレの大事な妹だから」


優しく微笑み、駆逐悽姫…いや、春雨の頭を撫でる。

春雨は大粒の涙を流しはじめる。


天龍「オレんとこに来い、春雨」

春雨「でも、皆を置いていけない…」


後ろを振り返る春雨。

その視線の先にはこちらに近付いてきているリ級とネ級。


春雨「秋月さん、摩耶さん…二人共春雨と一緒に沈んだ所を助けられて深海悽艦になったの」

天龍「マジか…」

アキヅキ(ネ級)「モウソノ名前ハ捨テタワ…駆逐悽姫、ソノ艦娘ノ元二行クノ?」

マヤ(リ級)「助ケラレタ恩ヲ仇デ返スノカ?」


心配した眼差しで春雨を見るネ級と呆れているリ級。


天龍「なぁ、さっきから助けられたってどういう事だ?」

春雨「この先にいる湾岸悽姫様が春雨達を助けてくれたの」

マヤ「アタシラモ最初ハ戸惑ッタケドヨォ…。アノヒトノヤリ方見テタラ嫌デモ味方シタクナルッテノ」

アキヅキ「捨テ駒二サレタ艦娘ヲ深海悽艦二シテ保護シテルンデス」

天龍「なんだって…!?」

春雨「湾岸様は強いけど戦いはあまり好きじゃないの。でも春雨達を守る為に艦娘達と戦ってる。今回だって…元は春雨のせいで……」

天龍「ちょ、ちょっと待てよ…?」


春雨達の話で1つの考えが浮かびあがる。


天龍「深海悽艦の中に……戦いたくない奴が居るって事か…!?」

春雨「少なくとも湾岸様は戦いは嫌ってる」

天龍「……何てこった…!」


急いで鎮守府にいる提督に無線を入れようとするが、先程の戦闘で無線が壊れてしまっていた。


天龍「くそっ!春雨、案内してくれ!!皆を止める!!」

春雨「うん!」

マヤ「ヘェ、ソノ体デワザワザ止メニ行クトハゴ苦労様ナコッテ」

天龍「艦隊の皆も、その湾岸って奴も戦う必要が無いなら止めに行くしかねえだろ。オレと春雨の二人ならやれる筈だ」


マヤの皮肉に動じる事なく、春雨と共に奥へ進んで行く。

その様子を残った二人は黙って見送っていた。


アキヅキ「アノ艦娘…モシカシタラ…」

マヤ「何カヲ期待スルナンザ無駄ナンダヨ……鎮守府デ嫌トイウホド実感シテルダロ」


後書き

このまま続行して湾岸戦まで書こうかと思いましたが、また新たに書くことにしました。


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2018-12-20 12:04:36

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2018-12-20 12:04:38

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