陸軍司令、マグマ軍率いて提督になる6.5
カテリーナ鎮守府後編。戦艦悽姫になってしまった比叡に艦隊は敗走し…
カテリーナ鎮守府、執務室にて
夕陽が差し込める室内は重苦しい雰囲気が漂っていた。
作戦会議用に置かれた椅子には木曾、五十鈴、川内、加古、雪風、海風、不知火、近衛兵が暗い表情で座っており、カテリーナもまた思い詰めた表情で執務椅子に腰掛けていた。
カテリーナ「そう…比叡が…」
五十鈴「間に合わなかったのね…」
海風「こんなのって…あんまりです…!」
涙を拭う海風。
雪風もまた涙を流しており、不知火がそれをハンカチで拭って慰めていた。
近衛「入渠した金剛達はどうした?高速修復材使用の許可を出した筈だが…」
カテリーナ「身体はともかく精神的にやられたのよ。察してやりなさいよ」
その時執務室の扉がノックされる。
入室を許可すると大淀が資料を片手に入ってきた。
大淀「カテリーナ提督。木曾さんから頂いた情報を元に戦艦悽姫を調べてきました」
机の上に数枚の文書と写真が並べられる。
カテリーナ「これって…?」
大淀「同一種と思われる個体の目撃情報が数ヵ月前に。これはその時に撮られた写真です」
木曾「あぁ…間違いない…このデカ物…!」
写真を手に取り怒りで震えだす木曾を、五十鈴が何とか宥めている。
大淀「その巨大な生物が戦艦悽姫の艤装なのではと…私は考えてます」
近衛「成る程…確かにこの写真を見る限り本体に艤装らしきものが確認出来ないな」
木曾「じゃ、じゃあこのデカ物を倒せばヒリュウみたいに…!」
カテリーナ「…少し考えさせて。取り合えず解散、今は身体を休めてちょうだい」
カテリーナの言葉で後ろ髪を引かれながらも執務室を後にしていく一行。
だが五十鈴だけその場に残っていた。
近衛「どうした?下がって良いぞ?」
五十鈴「比叡さんが助からない可能性の方が高い…そう思ってるでしょ?」
カテリーナ「…だったら何よ?」
五十鈴「どんな結果になっても貴女を責める人は誰もいないわ」
カテリーナ「その代わり、金剛は一生自分を責め続けるわよ」
五十鈴「っ!…そうね、失言だったわ…ごめんなさい」
カテリーナ「お互い疲れているのよ…。ほら、次の作戦まで休みなさい」
五十鈴を執務室の外へ促す。
彼女も申し訳なさそうな様子でそれに従い、執務室を後にした。
カテリーナ「…ふう……」
椅子に腰掛け、天井を見上げながら深い溜め息を吐く。
カテリーナ「…悪墜ち、か…」
近衛「随分懐かしい言葉だな」
カテリーナ「アタシや提督…あと、ミーシャにとっては忌々しい言葉でもあるんだけど、その時はアンタはいなかったわね。まぁ、いいわ。今は…比叡をどうするか……」
近衛「助けられると思うのか?あぁなってしまってはもう手遅れだと思うが」
カテリーナ「……」
状況を整理し、対策を練るため目を閉じ、思考を巡らせる。
そして何かを決心したのかゆっくりと目を開け、近衛兵を見た。
カテリーナ「今からこの場所に行ってきて」
手頃な紙に住所を書いて近衛兵に渡す。
近衛兵はその住所を見て思わず目を見開いた。
近衛「ここはっ…!?」
カテリーナ「そこに大将御姉様が居る筈だから御姉様に会ってあれを借りてきて欲しいの」
近衛「なっ…弾薬や運用資材はどうするのだっ!?あれを運用するなど…!」
いつもの冷静さを失い動揺している近衛兵。
対称的にカテリーナは冷静に話を続ける。
カテリーナ「…資材はもちろんこっちのものを使うわ。弾薬はミーシャが残したデータを元に明石に頼むつもりよ」
近衛「………」
カテリーナ「大袈裟かもしれないのはわかってるわ。でも、今は彼女達を守る為になりふり構っていられないのよ…!」
カテリーナの決意に満ちた瞳が近衛兵を見つめる。
数分、いや数秒の沈黙の後、近衛兵は観念したように肩をすくめた。
近衛「やれやれ…わかった」
カテリーナ「大将御姉様によろしく伝えなさいよ?」
近衛「伝えておこう。では、準備が出来次第行ってくる」
近衛兵は呆れたような笑みを、カテリーナは悪戯っ子のような笑みを互いに見せた後、近衛兵は執務室を後にした。
一方その頃、木曾は自室へ戻ろうとする最中に長門と出会っていた。
長門「木曾…」
暗い表情で俯いている木曾を見て心配する長門。
木曾「…なんで」
長門「え…っ!?」
肩に手を置こうとした長門であったが、木曾の呟きでピクリと一瞬動きが止まる。
その瞬間木曾は長門の胸ぐらを掴み壁へ追い込んだ。
木曾「なんで来てくれなかったんだよぉ!!??お前が!お前が居てくれたら!!」
長門「っ!」
涙を流しながら長門を睨み付ける。
そんな木曾に反論出来ず彼女から目を逸らしてしまう。
木曾「何がビッグセブンだっ!何が戦艦だっ!!お前が…お前が…!!」
長門「…すまない」
木曾「謝んじゃねぇ…!お前の信念は…正義はこんな事の為にあんのかよ…!?」
長門「……」
木曾「…もういい……!」
反論出来ず黙りこくっている長門から手を離し、トボトボと部屋へ戻っていく木曾。
長門も自身の不甲斐なさに苛立ち、思わず壁を殴ってしまう。
長門「私は…!」
同時刻、蒼龍の部屋にて。
扉がノックされ、返事をする間もなく入ってきたのは加賀であった。
加賀「入るわよ」
蒼龍「勝手に入らないでよ……」
何処か自棄になってベッドに座っている蒼龍に対し、呆れた表情の加賀。
加賀「いつまでそうしてるつもりかしら?」
蒼龍「…はぁ?」
加賀「いつまでそうやって逃げているのと聞いているの。深海悽艦との戦いから、そしてヒリュウさんから」
蒼龍「…何よ…!」
立ち上がり加賀を睨み付ける。
加賀も表情ひとつ変えず冷酷な表情で蒼龍を睨み返す。
蒼龍「あんたに何がわかるのよ…!」
加賀「そうね、確かにわからないわ。目の前の現実から目を背けるだけでなく逃げてしまった艦娘の気持ちなんて」
蒼龍「あんただって!大事な相方を深海悽艦にされれば良いのよっ!!そうすればそんな顔していられなくなるわっ!!!」
加賀「いいえ」
蒼龍「はぁ!?」
加賀「例え赤城さんが深海悽艦として立ち塞がったなら、私は彼女を沈めるわ」
蒼龍「口先ではなんとでも!」
加賀「恐らく逆の立場になったとしても赤城さんは私を沈めてくれると思うわ。これが私達の…一航戦としての誇りだから」
蒼龍「っ!」
加賀「貴女には無いのかしら…二航戦としての誇りが」
加賀の問いに答えられず、悔しそうに黙ってしまう蒼龍。
加賀「今の貴女は五航戦以下よ。誇りがない空母なんて先が知れてるわ」
蒼龍「…うるさい…!」
加賀「だったら立ち上がってみなさい。二航戦の誇りはそんなもので」
蒼龍「うるさいうるさいうるさい!!!!」
もう聞きたくないと言わんばかりに加賀の話を強引に止める。
加賀はそんな蒼龍を見て軽く溜め息を吐く。
加賀「そう、わかったわ。勝手にしなさい」
そう言い残し、部屋を出る。
加賀「………」
扉を閉めたとたん加賀は悔しそうに顔をしかめて、しばらくそこに立ち尽くしていた。
ーーーーーーーーーー
場所は変わり、鎮守府から少し離れた場所にて。
執務室を後にした加古は、普段昼寝をする場所へ向かっていた。
鎮守府から少し離れたところに広場があり、そこに植えられている木々の内の1本の下。そこは海辺と鎮守府を一望でき、加古にとってちょっとした特等席であった。
だが、木の近くまで行くと先客が横たわっていた。
加古「北上…?」
北上「よっ」
北上は加古を見るなり手をヒラヒラさせて挨拶する。
何故彼女がこの場所を知ってるのか。そんな疑問を抱きながらも彼女の隣に寝転ぶ。
加古「入渠終わってからずっといたのか?」
北上「まぁね。皆執務室に行く様子無かったし、いいかなーって」
互いに顔を見ることなく、空を眺めながら話す。
北上は口調は変わらないものの、声のトーンが僅かに低く話していく。
北上「私ねぇ~今まで色んな深海悽艦を沈めてきたわけよ。金剛や木曾達も」
加古「まぁ…だろうな」
北上「けどあの事件があってからさ。皆何処か深海悽艦を沈めるのを躊躇ってるんだよねぇ。それまでその戦果を自慢してたのにさ~?」
加古「……」
北上「そんで今度は身内が深海悽艦になったら撃てませんときた……。これってさ、今まで沈めた相手にすごく失礼じゃないかなって…思うわけよ」
加古「…何となく、言いたいことは…わかるかな…?」
北上「だから…私は沈める覚悟で行く。金剛達に恨まれたって構わない。…だって、これ以上手を子招いていたら比叡は…誰かを沈める。それだけは絶対させたくないから」
加古「…良いんじゃねーの?ま、提督がどんな作戦を立てるかによるけど」
北上「ま、そーなんだけどねぇ~。でも、誰かに聞いてほしくってさ」
加古「アタシにはそういう覚悟とか決意なんてのはいまいちよくわかんないけど。北上のその思いは正しいと思うし、もしそうなったら全力で援護するよ」
北上「サンキュ~加古っち。やっぱ持つべきモノは友だねぇ~!」
北上の声のトーンがいつもの調子に戻っていく。
加古はそんな調子に戻った北上の声を聞いて思わず微笑む。
加古「ははっ、ったく、真面目な話聞いてたから眠くなってきたぜ…」
北上「風も気持ちいいし…ちょっと一眠りと洒落混みますかぁ~…」
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鎮守府、食堂にて
雪風、不知火、海風、そして川内の四人は執務室を出た後、部屋に戻る気にもなれず食堂に集まっていた。
雪風「うぅ…比叡さん……もう会えないのかなぁ…?」
不知火「…雪風」
再び涙を流し始める雪風。
そんな雪風の頭を川内は優しく撫でる。
川内「こら…幸運艦が泣かないの。幸運の女神が逃げちゃうよ?」
雪風「で、でもぉ…」
川内「ほら、鼻かんで」
近くにあったティッシュを数枚取り雪風の鼻に押し付ける。
その後チィーンという音を立てて鼻をかむ雪風。
雪風「ありがとうございますぅ…」
川内「良いの良いの。今回は失敗しちゃったけど、次こそは成功出来るよ。だってここには幸運の女神とそれに見合った実力の持ち主達が居るんだから!」
雪風の頭を撫でながら笑顔を見せる川内。
雪風もまたそれを見て次第に笑顔になっていく。
雪風「はいっ!次こそは頑張りますっ!!」
元気になり部屋へ戻る雪風と、川内にお礼を言って彼女を追っていく不知火。
そんな彼女達を見送り、視線を戻すと未だに暗い表情の海風が川内を見つめていた。
海風「川内さん…この戦いの終わりって何なんですかね…?」
川内「…どうしたのさ、急に?」
海風の隣に座り、彼女を見る。
海風「深海悽艦は私達艦娘を使って数を増やしてる…そんな気がするんです」
川内「……比叡さんみたいに?」
海風「はい…。そしてその深海悽艦を倒したり建造する事で私達艦娘が生まれて、そして戦って沈んだ艦娘は深海悽艦になって……。なんだか、大きな輪の上をぐるぐる回ってる気分です」
川内「成る程……それでこの戦いの終わりが見えない、か…。確かに、私達艦娘と深海悽艦は表裏一体な存在なのかもね」
海風「……」
川内「でもさ、私達にはカテリーナ提督もいるし、背中を預けられる仲間もいる。これって結構大事な事だと思うんだ」
川内の言葉の意味を少しだけ考え、答えを口にする。
海風「…誰も沈まない、沈ませないという事、ですか?」
川内「そう。奴らに仲間を増やさせない。それが奴らに対する最も有効な攻撃手段」
海風「でも今回は…」
川内「うん、流石に皆不覚をとっちゃったね。…でも、次はそうはさせない」
真剣な眼差しで海風を見つめる。
海風もそれに込められた意志に応じる様に頷いた。
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演習場にて
不規則に並べられた的を順番に、素早く砲撃していく那智の姿があった。
那智「…次っ!」
素早く目標を切り替え、砲撃していく那智。
だがその表情はどこか焦りのようなものがあった。
那智「次っ!」
近衛「もう撃ち尽くしているぞ」
ハッとなり振り向くと、大きなリュックを背負った近衛兵の姿があった。
那智「そうだったか…」
近衛「……」
名残惜しそうに撃ち抜いた的を見つめる那智。
近衛兵はそんな彼女の隣に立ち、那智が撃ち抜いた的の数々を眺める。
近衛「何を焦っている?」
那智「焦っているわけではない…。ただ……」
言葉に詰まる。
だが那智は深呼吸して、続きを話した。
那智「躊躇ってしまったんだ……。あの時、比叡に砲を向けるのを」
近衛「……」
那智「全く情けない事だ。覚悟していた筈なのに……いざ、その状況になるとこの様さ」
近衛「…あぁ、よくわかる」
那智「え…?」
近衛兵がボソッと呟いた言葉に驚く。
彼女は恥ずかしそうに頬を掻き、横目で那智を見ていた。
近衛「私にも、似たような経験があるからな…」
那智「……そうか…!近衛殿は元々…」
近衛「そう、元々はマグマ軍として女王陛下に仕えていた身だ」
那智「そう…だったのか…」
近衛兵に掛ける言葉が見つからず目を泳がせる那智。
それを察してか否か、近衛兵の方から話を始めた。
近衛「私は…女王陛下に忠誠を誓っていた……いや、盲信していたんだ」
那智「盲信?」
近衛「我が国は縦社会だ。その頂点たる女王陛下こそ正義、女王陛下の言葉が真実…とな。今考えると、何とも恥ずかしい限りだが。だから奴に捕まった時は屈辱でしかなかったが、アイツは私と数回会話した後、無条件で解放したのだ。捕虜となった私をだ」
那智「…愚策でしかないな」
近衛「私もそう思ったさ。そして解放した際こう言ったんだ。『盲信するんじゃなく忠を尽くせ、信じる相手に、そして自分自身に』と」
那智「忠を……それで?」
近衛「その後真っ先に女王陛下の元へ戻ったさ、私は盲信なんぞしていない。忠誠を誓っているんだという自信を胸に…。だが戻ってみたらどうだ?他の近衛に銃を突き付けられ、忠誠を誓っていた女王からは汚物を見る目で見られた。そしてそんな女王から死の宣告を受け…その瞬間私は怖くなったんだ。忠誠を誓っていた筈の女王が悪魔に見えてな……そして私は盲信していただけなんだと、気付いた」
那智「……」
近衛「女王から逃げ、国から逃げた私は何を信じれば良いかわからなくなった。今まで信じていたモノ全てが壊れた私は自然と奴らの駐屯地へ足を運んでいた。そして奴に、提督に保護された」
那智「それから提督殿の味方に?」
近衛「残念だがそう簡単にさせてくれなかったんだ。私も助けてくれた恩を返そうと共に戦う事を誓ったが、提督はそれを拒否したんだ。それじゃ…女王にいた時と変わらないと、あの時の哀しそうな顔は忘れられそうにない…。実際、無理矢理戦地に立ったが、同胞に銃を向けられなかった」
懐かしむ近衛兵だが、その表情はどこか哀しそうな表情だった。
近衛「だがそんな私を変えてくれたのがお前達の提督、カテリーナだった」
那智「カテリーナが?」
近衛「同じ国の出身の同胞として、そして提督の仲間として、私を叱咤した。そして最後に『まずは信じてみなさい。信頼してみなさい。忠を尽くすのはその後』と、私に手を差し伸べたんだ。しかめっ面を見せながらな」
フッと目を細める近衛。
近衛「その後彼女が隊長を務める部隊に配属されて、まずはカテリーナを信じてみることにした。その後部隊の仲間を、そして彼女達を束ねる提督を信じてみた…女王の元にいたときとは違う、何かが満たされるモノがあったんだ。そして初めて相手に忠を尽くす事の意味を知り、同胞に銃を向けるのを躊躇わなくなった」
那智「…近衛殿にそんな過去があったとはな…」
近衛「あぁ、まぁだからなんだと言われたらそうなのだが…その躊躇いを無くす切っ掛けになってくれれば嬉しい」
那智「忠を尽くす…か」
何かを考え込むように空を見上げる那智。
そんな彼女の肩をポンと叩き、近衛兵はその場所を後にした。
ーーーーーーーーー
金剛・比叡の部屋にて
ベッドに俯せになっている金剛。
その周辺にはさっきまで見ていたのであろうアルバムが転がっていた。
金剛「比叡……」
比叡との思い出が甦ってくる。
共に訓練した思い出、間宮の甘味を一緒に食べた思い出、改二になり共に喜んだ思い出…様々な思い出が金剛の脳裏を過っていく。
金剛「こんなお別れ、嫌デス……」
静かな部屋に金剛の悲痛な思いだけが響き渡る。
その声に応える者は誰もいなかった。
ーーーーーーー
翌朝、朝食を終えた第1艦隊、第2艦隊のメンバーは作戦会議室に集まっていた。
決意を固めた者、迷いを抱えた者…様々な思いを胸に椅子に座り、正面の作戦ボードの前に立っているカテリーナの言葉を待っている。
カテリーナ「集まったわね。現時刻、0930をもって戦艦悽姫比叡捕獲作戦を決行するわ」
金剛「捕獲……」
救出ではなく捕獲という言葉に俯く金剛。
そんな金剛を気に留めながらカテリーナは作戦の概要を説明しようとする。
その時、突然会議室の扉が開かれた。
長門「待ってくれ!」
入って来たのは長門と、彼女を止めていたのだろうか、息を切らしている大淀だった。
大淀「すいません提督!作戦会議中に」
カテリーナ「…何事なの?」
冷や汗を流しながら謝罪する大淀を下がらせ、長門を見る。
長門はカテリーナの前に立つと深々と頭を下げた。
長門「急にすまない……私も、作戦に加えてくれ」
木曾「っ…!」
長門の言葉に木曾を初めとした数人の艦娘達がどよめきだす。
カテリーナは無言で、頭を下げている長門を見つめていた。
長門「もう迷わない…もう躊躇わない…だから、戦わせてくれ…!」
カテリーナ「…」
少しだけ眉間を抑え、再び長門を見る。
カテリーナ「…さっさと座りなさい。時間がないのよ」
長門「……ありがとう…!」
長門の作戦参加を許可するカテリーナ。
そして長門は近くの席に座り、再び作戦ボードの前に立つカテリーナを見た。
カテリーナ「…それじゃ、改めて概要を説明するわ。作戦目標は比叡の確保、及び捕獲とするわ。…もう彼女は艦娘ではなく深海悽艦。説得等は無駄と判断したわ」
金剛を初めとした出撃メンバーに酷しい現実を突きつけていくカテリーナ。
金剛や木曾、雪風らは悔しそうに歯を食い縛っている。
カテリーナ「だけどこのままじゃ終われないわ!捕獲して元に戻せるように明石やアイツのいる鎮守府と協力するわ!」
金剛「…カテリーナ…!」
雪風「しれぇ…!」
カテリーナ「この作戦が彼女を止める最後のチャンスよ!比叡が深海悽艦として完全に敵に回ってしまう前に何としても捕まえる!!」
カテリーナの言葉に先程まで沈んでいた金剛達の表情が明るくなっていく。
カテリーナはそんな彼女達を見て力強く頷き、改めて作戦ボードを使って説明を続けた。
カテリーナ「まずは比叡を戦艦悽姫たらしめている艤装の破壊、その後人型深海悽艦用捕獲鎖で彼女を確保する戦法よ」
金剛「向こうの提督がくれた鎖ですネ!」
カテリーナ「そうよ。次に出撃メンバー。第1艦隊旗艦、金剛!」
金剛「イエスッ!」
カテリーナ「金剛、アタシも最後まで足掻いて協力するわ。だから…気合い入れて行きなさい!」
金剛「っ…!はい…絶対…絶対!!連れて帰りマスッ!!!」
涙を堪えながら力強く応じる金剛。
そんな彼女の姿を見て周りの艦娘達の表情も引き締まっていく。
カテリーナ「次、那智、木曾、北上、五十鈴、加賀」
五十鈴「えっ?」
第1艦隊メンバーに自分が選ばれている事に驚く五十鈴。
カテリーナ「アンタの能力なら第1艦隊に入れても問題ないわ。しっかりやりなさいよ」
金剛「よろしくデース!」
木曾「お前なら背中を預けられるぜ。よろしくな」
五十鈴「…えぇ、五十鈴に任せて!」
加古「じゃあ第2の旗艦って誰なんだ?」
加古の質問に舞い上がっていた五十鈴達も確かにと顔を見合わせる。
カテリーナ「第2艦隊旗艦は、長門…あんたよ。次に加古、川内、雪風、不知火、海風の順よ」
長門「なっ…」
旗艦の指名に驚く長門。そして次第に不安気な表情へ変わっていく。
カテリーナ「何驚いてんのよ?元第1艦隊旗艦。さっき見せた覚悟で皆を引っ張って行きなさい」
長門「しかし…私が旗艦で本当に良いのか…?」
不安気に第2艦隊メンバーである川内や雪風達の方を見る。
川内「あーあ、折角私が旗艦になれると思ったのに」
長門「っ…」
川内「でも、長門さんなら仕方ないか」
ニシシと笑い、納得した様子の川内。
加古「頼りにしてるぜぇ~?」
雪風「よろしくお願いいたします!」
不知火「ビッグセブンの実力、見させてもらいます」
海風「ブランクがある、なんて言い訳は無しですよ?」
他の皆も納得し、長門を歓迎していた。
長門「…ありがとう…!皆の期待は絶対裏切らない!!」
拳を強く握り締め、川内達に清々しい表情で宣言する長門。
カテリーナもその様子を見てどこかホッとし、直ぐ様気を引き締めて金剛や長門達に言い放つ。
カテリーナ「じゃあ皆、準備に掛かって!艦隊、出撃!!」
一同「了解!!」
全員起立し敬礼した後、会議室を後にする。
そして各々艤装を装着し、隊列を組んでいく。
金剛「第1艦隊、出撃デース!!」
長門「第2艦隊、出るぞっ!」
隊列を組んだ一行は再びトラック泊地へ進んでいく。
カテリーナはそれを執務室の窓から見送っていた。
カテリーナ「…絶対、連れて帰りなさいよ…」
その時、執務室の扉が開き大淀が入室する。
大淀「提督!近衛さんから連絡が入りました!」
カテリーナ「来たわね…!明石に例の準備をさせて!」
数十分後、一行は目的の海域まで数十メートルまで近付いてきていた。
川内と加賀はそれぞれ水上偵察機と艦載機を飛ばして偵察を行っている。
川内「敵艦反応あり!…これって…!」
長門「どうした!?」
険しい顔の川内と加賀を見て、緊張感が高まっていく。
加賀「敵艦隊多数…前方、およそ60…」
金剛「ホワッツ!?」
加賀の報告に、皆信じられないと目を見開く。
長門や加古は川内を見るが、川内も同じ結果だったのか静かに頷く。
木曾「なんて数だ…!」
不知火「奴等も警備を厳重にしたと言うの…!?」
那智「だが、退くわけにはいかない…!」
川内「そろそろ見えてくるよ!」
長門「くそっ…総員、砲雷撃戦用意!!」
主砲を構え、戦闘準備に入りながらも前進していく。
そして情報通り敵深海悽艦の姿が見えてきた。
空母級20、軽・雷巡級15、戦艦級20、駆逐級5の大部隊を前に冷や汗を流す金剛や長門。
長門「大歓迎だな…!」
金剛「…主砲一斉射用意!」
カテリーナ『その必要は無いわ』
狙いを定め、撃とうとした瞬間カテリーナから無線が入る。
それと同時に一行の後方上空から複数のミサイルが通過していき、前方にいる艦隊を攻撃した。
金剛「な…!」
長門「これは一体…!?」
全員の視線がミサイルを放った物体に集まる。
その正体に思わず足を止め、驚愕の余り数人が口をあんぐりと開けている。
カテリーナ『これがアタシのとっておき、遊撃要塞ブレストよ!!』
近衛『昨夜こいつの申請をするのに苦労したが、どうやらその甲斐があったな』
海風「近衛さん!今朝から姿が見えないと思ったら!」
那智「そうか、昨日の荷物はその為の物だったか…!」
カテリーナ『そんな雑魚はコイツに任せなさい!アンタ達はさっさと比叡を!』
金剛「カテリーナ…!サンキューデース!!」
那智「ふっ…近衛殿が忠を尽くしたくなるのも頷ける…!」
カテリーナ『行きなさいブレスト!久し振りに大暴れしちゃって!!』
ブレスト「ギュアアアアアアアアアアアアアァァァァァァアァァァアアアアアア!!!!!」
雄々しい雄叫びと共に左右の巨大な連装砲が火を吹き、深海悽艦を吹き飛ばしていく。
金剛達はブレストの攻撃で出来た艦隊の隙間を全速力で進んでいく。
加賀「艦載機より入電。前方に反応あり…比叡です」
金剛「了解デース…!」
加賀の報告からしばらくして、前方に1つの影が見えてくる。
それは紛れもない戦艦悽姫と化した比叡の姿であった。
ヒエイ「ウフフフフ…来タ来タ♪間抜ケナ艦娘ガ選リ取リミドリ♪」
艤装の腕部に腰掛け、遊び相手が来たとばかりに目をギラギラと輝かせる。
金剛「比叡…今度こそ連れて帰りマスッ!!」
ヒエイ「連レテ帰ルゥ?…フフフフ…!」
戦闘態勢に入っている金剛を見下し、不敵に笑う比叡。
だが突然鬼の様な形相へ変化し、憎しみの篭った目で睨み付ける。
ヒエイ「ホザケ艦娘風情ガ!!誰ガ貴様達ノ元へ行クカ!!!」
その瞬間、艤装から砲弾が放たれる。
金剛達は、第1及び第2艦隊で別れて比叡を包囲するように回り込み、反撃を開始する。
金剛「ファイアー!!」
長門「主砲一斉射!ってぇ!!」
金剛と長門の合図と同時に主砲を射っていく。
加賀も艦爆を発進させ、比叡目掛け爆撃を開始する。
だが比叡の艤装が彼女を庇う様に巨大な腕で比叡を包み込み、砲撃と爆撃を一身に受ける。
金剛「シィット!…あれだけ攻撃したのに掠り傷しかついていまセン…!」
五十鈴「なら、雷撃ならどうかしら…!?木曾!北上!川内達も行くわよ!!」
木曾「おうよっ!」
川内「りょーかい!!」
不知火「不知火達も続きます!」
艤装から放たれる砲弾を避けつつ、五十鈴を始めとした軽巡・雷巡・駆逐艦のメンバーが比叡に接近していく。
金剛や長門は主砲を放ち、彼女達の援護に回る。
そして五十鈴・木曾・北上は艤装の左側から。川内・雪風・海風・不知火は艤装の右側から接近し、そしてすれ違い様に魚雷を放っていく。
魚雷は見事命中、水柱が比叡と艤装を包み込み小さな虹が出来る。
木曾「これだけの魚雷を食らったらひとたまりもない筈だっ!」
長門「油断はするなっ!艦隊、陣形を再編し距離をとれっ!」
各々陣形を組み直し、降り注ぐ水飛沫の中を凝視している。
金剛「まだデスね」
長門「あぁ、まだまだだ」
水飛沫が減っていき向こう側がうっすら見えてくる。
そこには黒い影が佇んでいるのが伺えた。
ヒエイ「調子二乗ルンジャネエ…!!頭二キヤガル面シヤガッテ!!!」
怒りに染まった顔で金剛達を睨み付けながら艤装から降りる。
ヒエイ「モウ容赦ハシネェ!!!」
艤装「グルオオォォォォォォォォオオオオ!!!!」
凄まじい咆哮をあげる艤装。
その時、艤装の口から何かが吐き出された。
那智「あれは…!」
金剛「比叡の艤装!?」
見覚えのあるそれは所々に黒い肉塊のような物が付着してあるが、紛れもなく比叡が使用していた艤装であった。
比叡は吐き出された艤装を手に取り、自身の腰に装着する。
ヒエイ「テメエラ全員沈メテヤラァ!!」
金剛「来マスッ!」
長門「各艦警戒しろっ!!」
比叡は金剛がいる第1艦隊へ、残された艤装は長門率いる第2艦隊の方へ別れる。
ヒエイ「アァ、ソノ面!ソノ面ヲ見テルトイライラスルンダヨォ!!!」
金剛「っ!比叡っ!!!」
水飛沫を上げながら突撃してくる比叡。
金剛も副砲で牽制しつつ、比叡に突撃していく。
そしてお互いすれ違い様に主砲を撃つが紙一重の所で避ける。
ヒエイ「チィ!」
金剛「シィット…!」
Uターンして再接近を図ろうとする比叡だが、那智の砲撃と加賀の艦載機に阻止される。
那智「大破にさえ追い込んでしまえば!」
加賀「航空隊、攻撃開始。沈める気で行きなさい」
砲撃しつつ、魚雷を放っていく那智と艦攻による雷撃を行う加賀。
だが比叡は高速戦艦故の機動力で砲撃を避け、副砲で水中を進んでいる魚雷を撃ち抜いていく。
ヒエイ「邪魔スンジャネェエエエエェェエエエエ!!!」
更に上空を飛んでいる艦載機目掛け砲弾を放つ。
放たれた砲弾は上空で破裂し、小さな弾丸となって艦載機を撃墜させていく。
加賀「…三式弾…!」
ヒエイ「ソオラオ返シダァッ!!」
撃墜し墜落してきた艦載機を一機掴み、加賀目掛けて急接近する。
ヒエイ「オラァ!!!」
そして加賀の顔面に艦載機を叩き付けた。
加賀「っがぁ…!!」
那智「加賀!!」
ヒエイ「ソンナニコイツガ心配カァ!!??」
今度は顔を覆って苦しんでいる加賀を蹴り飛ばす。
その先には飛ばされた加賀を受け止めようと手を伸ばしている那智がいた。
ヒエイ「ナラ一緒二沈メェ!!」
那智が加賀を受け止めた瞬間を狙い、主砲と副砲を一斉に放つ。
放たれた砲弾は二人の体に着弾し、爆発。
加賀、那智は大破していしまった。
金剛「二人は退避してくだサイ!五十鈴と木曾と北上の4人で何とか止めマス!!!」
北上「ほーら、こっちだよー!」
木曾「比叡っ!お前の相手はオレ達だっ!」
五十鈴「来なさいっての!」
比叡目掛け主砲を放つ4人。
比叡はそれを察知し、直ぐ様回避行動に移る。
ヒエイ「ソンナニ沈ミテエカオイ!!!」
木曾「北上姉ぇ…魚雷は?」
北上「あと1回分…そっちも…同じっぽいね」
五十鈴「五十鈴も後1発…」
金剛「了解デース…!陽動はワタシに任せてくだサイ!!」
主砲を放ちながら接近してくる比叡の前に立ち塞がる金剛。
金剛「さぁカモーン!!」
ヒエイ「マズハテメエカァッ!!」
お互いに至近距離で主砲を撃ち合い、至近弾が互いの体に小さな傷を作っていく。
だが、比叡の注意は確実に金剛のみへと注がれていた。
ヒエイ「ハァアァァアアアア!!!」
金剛(今っ!!!)
主砲を放とうと狙いを定めている比叡から急速離脱を始める金剛。
ヒエイ「怖ジ気ツイタカコノヤ」
突如比叡の足元から轟音と共に水柱が立つ。
その正体は木曾・北上・五十鈴が射程ギリギリで放った魚雷であった。
五十鈴「魚雷全発命中…!」
木曾「あとは鎖で縛り上げるだけだ!!」
金剛の元に合流した3人は、水柱が消えるのを待つ。
だがその時、水柱の中から砲弾が飛び出し木曾の体に着弾する。
木曾「がはっ!」
北上「木曾っ!!」
更に1発、先程同様砲弾が飛び出し、今度は五十鈴の体に命中する。
五十鈴「きゃぁぁあ!!!」
金剛「…そんな…!」
一撃で大破してしまった二人を見て戦慄する金剛と北上。
そして今度は砲弾を撃った本人、比叡が中破し傷だらけになった体で接近してきた。
ヒエイ「…ヨクモ……ヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモ!!!!コノ戦艦悽姫様二ヨクモヤリヤガッタナコノ艦娘共ガアアアアアアアアア!!!!」
怒りを露にし、大破した木曾と五十鈴目掛けて攻撃を始める。
北上「マズッ!木曾!!」
金剛「五十鈴!!」
二人を庇おうと動き出す金剛と北上。
金剛は何とか五十鈴を抱き抱え、砲弾を避ける事に成功したものの、北上は間に合わないと判断し、砲弾を自らの体で受け止めた。
木曾「北上…姉ぇ…!」
北上「あはは……やっちゃったわぁ……」
木曾を庇い大破してしまった北上。
残された戦力は金剛のみとなってしまった。
金剛「……3人も離脱を…ワタシがケリをつけマス…!」
ヒエイ「ッ!コノッ!!」
比叡を遠ざけるべく体当たりし、そのまま北上達から引き離す。
金剛「比叡…これ以上やらせません!!!」
ヒエイ「ホザキヤガレ…!テメエダケデ止メラレルト思ウナ!!!!」
金剛「止めマス…止めてみせマス!!金剛型一番艦金剛!気合い、入れて、行きマスッ!!!!」
一方長門達第2艦隊は戦艦悽姫の艤装と対峙していた。
長門「主砲一斉射、ってぇ!!」
迫りくる艤装に主砲を放つ一行だが、艤装は太く強靭な腕で飛んできた砲弾を防御する。
海風「なんて防御力なの…!」
艤装の圧倒的防御力を前に思わず恐怖してしまう海風。
そんな海風の隙を艤装は見逃さず、狙いを海風に定めて襲ってくる。
艤装「グオォッ!」
川内「海風!」
海風「ひっ…!」
海風の目の前に艤装の腕が迫ってくる。
川内は恐怖で立ち竦んでいる海風を突き飛ばすが、自身の頭部を掴まれ海面に叩きつけられる。
川内「がはっ!」
更にその状態で艤装は走り出し、川内を引き摺りまわしだす。
海風「川内さぁん!!」
不知火「川内さんを…返せっ!!」
海風と不知火はその後を追い、川内を巻き込まぬように主砲を放つ。
艤装は瞬時に彼女等の方へ向き直り主砲を避けると掴んでいた川内を海風目掛けて投げつけた。
海風「っ!川内さん!!」
川内を受け止め、内心ホッとする海風。
だが同時に艤装はそんな彼女を攻撃すべく跳躍し、両手を合わせ振り下ろそうとする。
不知火「海風!」
海風「え…?」
顔を上げた瞬間艤装の拳に川内もろとも叩きつけられる。
まるで魚雷が命中したような水柱が立ち上がる。
加古「てめぇ…!許さねえ!!」
不知火「援護します!」
主砲を放ちながら艤装の注意を向けようと攪乱する加古と不知火。
陽動は成功。艤装は狙いを二人に定め、突進してくる。
加古「行くぞ不知火!」
不知火「いつでも大丈夫です!!」
艤装を引き付け、魚雷を放つ二人。
魚雷は見事、艤装の足元で爆発し水柱が艤装の姿を包んでいく。
立ち上がった水柱から一定の距離を保ちながら周囲を回る加古と不知火。
だがその時、艤装の拳が水柱の中から飛び出し不知火の体を吹き飛ばす。
加古「不知火!っ!?」
今度は多少の傷を被った艤装が中から飛び出し、加古の頭部を掴もうと腕を伸ばす。
加古は咄嗟に右腕で防ぐが、掴まれた右腕の艤装が濁り潰されていく。
加古「があぁぁぁぁああああ!!!!」
長門「加古を…離せっ!!!」
右腕を潰されかけ苦しむ加古を助けるべく、長門は艤装の頭を殴りつける。
艤装は少しだけ怯んだものの、未だ加古を離さなかった。
長門「くそっ!」
だがその時、艤装の背後が爆発する。
艤装は今まで以上に苦しみだし、思わず加古を離す。
艤装「グルオオォォォォォォォォオオオオ!!!」
長門「これは…雪風か!?」
加古を抱えながら移動し、艤装を攻撃した雪風を見つける。
雪風「加古さんを助けようと主砲を撃ったら…想像以上に痛かったみたいです…」
雪風自身もここまで通用するとは思っていなかったのか、少しだけ唖然としている。
長門「…どうやら背中が弱点のようだな」
雪風「あっ!だから今までの攻撃が全然効かなかったんですね!!」
長門「弱点は解った…あとはどうやって背中を向けさせるか…」
加古を離脱させ、長門と雪風は視線を一点に向ける。
そこには背中を攻撃され、怒りで更に凶暴化している艤装の姿があった。
艤装「グオオオォォォォォォォオオオオオオ!!!!!」
長門「あぁなってしまった以上、厳しいが…やるしかない…!」
カテリーナ『…なるほど、背中を狙えば良いのね?』
突如カテリーナから無線が入り、その瞬間艤装の背中が上空から攻撃を受ける。
艤装「ギヤァァァアアアアアア!!!」
長門「これは…!」
空を見上げるとブレストがミサイルや三連砲で攻撃していた。
長門「カテリーナ!」
カテリーナ『雑魚は皆沈めたわ!!あとはコイツだけね!!!』
着弾時の爆煙や水柱で艤装の姿が見えなくなる。
その時、爆煙を突き破って艤装がブレスト目掛け跳躍し掴み掛かった。
カテリーナ『嘘でしょ!?』
長門「あれだけの攻撃を受けて…!?」
ブレストは艤装を引き離そうともがくが、艤装は掴んでいる手の力を強め、もう片方の手でブレストの武装を破壊していく。
ブレスト「ギュアアアアアアアアアアア!!」
艤装「グルオオォォォォォォォォオオオオ!!」
互いに獣のような雄叫び上げながら宙を不安定に舞っている2体。
カテリーナ『…仕方ない…!長門!ブレストごとコイツを撃ちなさい!!』
長門「なっ…!?」
カテリーナ『安心して!胴体部分さえあれば修復出来るわ!!急いで!!!』
カテリーナの指示に困惑するものの、深呼吸し主砲を動かす長門。
雪風もそれに続き、主砲を構える。
長門「雪風…いくぞ…!」
雪風「…はい…!」
狙いをブレストを攻撃している艤装の背面に定める。
長門「…てぇっ!!!」
長門の合図と共に、主砲を一斉に放つ。
砲弾は艤装の背中を中心にブレストの翼や体の一部に着弾していく。
艤装「グルオオォォォォォォォォオオオオ…………!!!」
そして翼を撃ち抜かれ浮力を失ったブレストと一緒に海に叩き付けられる艤装。
主砲を全弾撃ち尽くしその様子を見つめる長門と雪風だが、2体が落ちた場所から艤装がゆらりと立ち上がった姿を見て驚愕する。
長門「まだ…立つのか…!」
全身から血を流し満身創痍な状態になりながらもゆっくりと長門に近付いていく艤装。
長門は雪風を退避させ、近付いてくる艤装の前に立ち塞がる。
艤装「グルルルル……」
長門「……来い。最後は殴り合いといこうじゃないか…!」
艤装はゆっくりと血まみれの腕を振りかざし、長門目掛けて一気に振り下ろす。
だが長門は瞬時に避けて艤装の腹部に一撃、拳を叩き込んだ。
更に1発、もう1発と艤装の頭部や腹部に拳を叩き込む。
艤装は口から滝のように血が流れ出し、今にも倒れそうな様子だった。
長門「……終わりだっ!!!」
ふらふらと立ち竦んでいる艤装の頭部を思いっきり殴りつける。
それがトドメとなり、遂に艤装は倒れ海の底へ沈んでいった。
場所は戻り比叡と金剛の戦いは熾烈を極め、互いに1歩も譲らない砲撃戦が繰り広げられていた。
だが金剛の弾薬が尽き、状況は一気に不利になってしまう。
金剛「っ!弾が…!!」
ヒエイ「ハハァッ!モウ終ワリカァ!?……ッ!」
弾薬が尽きた金剛を見て勝利を確信するも、突如頭を抑えながら苦しみ出す。
ヒエイ「ガッ…!アァァッァアア!!!」
金剛「一体何が…」
長門「金剛!」
苦しむ比叡の姿を見て状況が理解出来ない金剛の元に長門が合流する。
金剛「長門、艤装はどうなりまシタ!?」
長門「何とか倒せたが…こっちは弾切れだ…」
ヒエイ「ソウカ……テメェ…!ワタシノ艤装ヲ!!」
頭を抑え悶絶しながらも、長門を睨み付ける。
だが、比叡の苦しみ方が更に激しくなっていく。
ヒエイ「アァッ!ヤメロォッ!!コノ身体ハモウワタシノモノダァ!!!イイ加減二消エヤガレェェェェエエエエ!!!!!!」
遂には見境無く砲撃して暴れまわる比叡。
暴れながら放った砲弾が金剛と長門の近くに着弾し水柱を立てていく。
長門「くっ…!これじゃ近付けない…!!」
金剛「あと少し!あと少しなんデスッ!!」
何か方法はないかと必死で思考を巡らせる二人。
その時、カテリーナから無線が入った。
カテリーナ『……ブレストの主砲の1つがまだ生きてるわ…!彼女の元に向かって!!』
金剛「っ!カテリーナ…!!」
急いで辺りを見回し、ボロボロになって水面に浮かんでいるブレストを見つける。
ブレスト自身も自分のやるべき事を理解しているのか、三連砲を動かそうともがいている。
金剛と長門はブレストの元に駆け寄り、三連砲を暴れている比叡に狙いを定め始める。
だが比叡もそれに気付き、苦しみながらも金剛目掛けて突撃してくる。
ヒエイ「コノ艦娘共ガアアアアアアアアア!!!コノ戦艦悽姫様ガ…テメェ等ナンカニ!テメェ等ナンカニィィィィイイイイイ!!!!」
半ば攪乱状態で主砲を放ちながら突進してくる比叡。
金剛とブレストは未だ狙いを定めきれずにいた。
金剛「早く…早く…!!」
あと少しで狙いが定まるという瞬間、比叡から放たれた砲弾が金剛目掛けて飛んでくる。
金剛「っ!」
長門「させるかぁ!!!」
瞬時に金剛の前に出て砲弾を自らの体で受け止める長門。
だがそのお陰で狙いが定まり、大破した長門に避けるように叫ぶ。
金剛「ブレスト…準備は良いデスネ…!?」
ブレスト「ギュギイ…!」
カテリーナ『OK…って言ってるわ』
呪詛を叫びながら突撃してくる比叡とは対称的に、静かに相手を見据える金剛とブレスト。
金剛「バーニングゥ………」
ブレスト「ギューギィ…………」
ヒエイ「沈メッ!!!沈メ沈メ沈メ沈メェェェェエエエエ!!!!」
金剛「ラァァァァァァアアアアアアアヴッ!!!!!!!!」
ブレスト「ギャァァァァアアアアアアウ!!!!!!!」
二人の叫びと共に放たれた砲弾は比叡の身体に命中、大きな爆発と共に比叡の身体が水面に転がる。
長門「今だっ!鎖で!」
金剛「ハイッ!」
金剛と長門は急いで比叡の元へ駆け寄り、鎖で拘束していく。
長門「カテリーナ提督……作戦は…成功…比叡を奪還したぞ…!」
カテリーナ『…了解…!よくやったわね…!帰投しなさい…それと、ブレストの回収もね』
金剛「…比叡……」
金剛は比叡を長門はブレストを担ぎ上げ、退避させていた他のメンバーと共に帰路につく。
作戦の成功に皆が喜ぶ中、金剛はまだこれで終わりではないという不安を感じていた。
……そしてその予感は命中することになる。
二日後、カテリーナ鎮守府・医務室
眩い朝日が室内を照らすなか、医務室のベッドに横たえている比叡。
両腕に点滴、口元には呼吸器が付けられ重病を患った患者の様な姿になっている。
そしてベッドの隣に設置されたパイプ椅子には録に寝ていないのか、目元に隈が出来ている金剛が暗い表情で比叡を見つめていた。
その時、医務室の扉がノックされ、カテリーナと比叡の件を聞き駆け付けたミーシャが入室する。
ミーシャ「失礼する」
金剛「…ミーシャ……」
何処か虚ろな瞳でミーシャを見詰める金剛。
カテリーナはそんな彼女を心配しつつ、比叡に関しての経緯を伝える。
ミーシャ「成る程……補給級に拉致され姫級に…か」
金剛「ヘイ……比叡は、比叡はちゃんと目を覚ましてくれるんデスよネー…?」
金剛の問いにどうしたものかと難しい表情をしながらカテリーナの方をチラリと見る。
カテリーナはその意味を察し、歯を食いしばりながら頷く。
ミーシャ「…目覚めはするかもしれないが……記憶の方は無い可能性が高い」
金剛「え…?」
金剛の表情が絶望に染まっていく。
その事に罪悪感を覚えながらもミーシャは説明を続けていく。
ミーシャ「……最近知った事実だが…深海悽艦は寄生した際、宿主の意識的な抵抗が強ければ強いほど侵食を強め、宿主の意識を潰しに掛かる……その例として記憶の消去…。報告書や話を聞く限り…その兆候があったと判断出来た…」
金剛「そんな…嫌デス…」
ミーシャ「戦艦悽姫となった比叡が荒々しい言動や行動が多く見られたのも、恐らくその間も比叡の意識が抵抗していた証拠なのだろう…」
金剛「嫌…嫌…!もう聞きたくありまセン!!!」
ミーシャの説明を断ち切る様に叫ぶ金剛。
その瞳には大粒の涙が流れ、身体が小刻みに震えていた。
金剛「もう…いいデス……帰ってくだサイ……」
カテリーナ「…金剛……」
金剛「こんなの……こんなのって………あんまりデス…!」
両手で顔を覆い泣き崩れる金剛。
カテリーナもそんな彼女に掛ける言葉が見付からず、ミーシャと共に部屋を後にした。
今回だいぶ長くなりましたが、これで一区切りとなります。
次回は提督鎮守府をメインに、カテリーナ鎮守府の続きをちょこっと書く予定です。
登場キャラクターの項目、更新する度に何個か消えているのは何故じゃ…?
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