2019-01-14 00:44:08 更新

概要

キリがよかったので分割
連合艦隊vs湾岸悽姫戦


天龍が駆逐悽姫と戦闘を始めた頃、利根やミーシャ達連合艦隊は北方海域奥へ進軍していた。


ミーシャ「周囲に敵影はない…妙だな…」


後部席から周りの景色を見回す。

唯一単独飛行出来るハインドの方を見るが、彼女も同様の結果だったのか、首を横に振っている。


利根「ぬぅ…我輩も瑞雲を持っておれば…!」

鈴谷「あったとしても駆逐悽姫の所で落とされてるって」

目達原「皆、前方に島が見える。このまま進むと5分程で……なんだ!?」


目達原の言葉の直後、ヘリ部隊の動きが慌ただしくなる。


利根「どうしたのじゃ!?」

ミーシャ「敵だ!恐らく艦載機、多いぞ!!」

青葉「もしかして…あれですか…!?」


全員の視線が上空にある、複数の影を見付ける。

青い空に異様な黒い斑点が蠢いているのが見え、それが敵の艦載機の群れだということに気付くのに数秒も掛からなかった。


利根「総員、航空戦用意じゃ!!」

ヒリュウ「了解!友永隊、発進!!」

龍譲「もうさっきのようにはいかへんで!!」


艦載機を飛ばすヒリュウと龍譲。

それに続くようにヘリ部隊も敵機の群れに立ち向かっていく。


ヒリュウ「…これは…!?」

鯖江「今までの艦載機じゃないね…」


彼女らが見たモノは白い球体におぞましい口が付いた謎の生物だった。

白い球体の口から銃弾が放たれ、弾幕を形成していく。


鯖江「動きが速い…!」

目達原「違うのは見た目だけでは無いということか!」


弾幕を何とか避けつつ、こちらも反撃体制に入る。


ミーシャ「対空戦用意!シルカ、出番だ!!」

シルカ「ギッ!」


両袖から2門ずつ、計4門の対空機関砲を出して弾幕を形成していく。

ミーシャもそれに続くように機銃で敵機を落としていく。


飯塚「おっしゃ久遠!アタイらの出番だぞ!!」

青野原「りょーかい!制空権は貰いッスよ」


飯塚と青野原も携行式の対空砲で一機ずつ確実に落とす。

その時、目達原が操縦するヘリの死角部分に敵機が迫って来ていた。


鈴谷「楓さん下!下!!」

響「この位置じゃヘリにも当たっちゃう…!」

ハインド「ギィギャァッ!!(させない!!)」


ヘリの下に滑り込むように移動し、敵機を蹴り飛ばす。

そしてヘリから離れた事を確認すると、装備している機銃で蜂の巣にした。


目達原「すまない!助かった!!」

ハインド「ギュイ…ギギギィ!!(もう…誰もロストなんてさせないわ!!)」

出浦「島から砲撃音…各機警戒して!」

龍驤「こっちでも確認したで!皆、避けて避けてぇ!!」


出浦と龍驤の言葉を聞き、散開する一行。

そして先程まで利根ら第1艦隊がいた場所に着弾し大きな水柱が幾つも立つ。

その大きさ故に近くを飛行していた艦載機を敵味方問わず、飲み込んでいく水柱に思わずゾッとする。


扶桑「なんて威力…!」

青葉「戦艦でもあの大きさの水柱は中々立ちませんよ!?」

利根「しかも島から…相手は艦では無いのか…!?」

出浦「ぼさっとしないで!第2射が来るわ!!」


島の方角から爆音と共に砲弾が飛んでくる。

利根達は避けつつ、島を目指して進軍していく。


鈴谷「見えてきたよ!」

暁「陸にいる深海悽艦!?」

扶桑「どうやら…並の相手では無さそうですね」


島の前面部がコンクリートで整地され、その中央に巨大な艤装と共に湾岸悽姫が待ち構えていた。

そしてその周辺には先程の艦載機より二回り程大きな球体が複数、連装砲を積んで浮游している。


ミーシャ「こちらでも確認した。…どうやらあれが、この海域の主と見て間違いないだろう」


島全体を囲むようにヘリ部隊が展開していく。

湾岸悽姫はそれを横目で確認しつつ、艦隊を睨みつける。


湾岸「貴様達ガ駆逐悽姫ガ言ッテイタ部隊ダナ…?」


一人一人その姿を焼き付けるように見ていく湾岸悽姫だが、その中にヲ級であるヒリュウの姿を見て眉をしかめた。


湾岸「オ前…何故ソコニイル…?オ前ノイルベキ場所ハソコデハナイ…」

ヒリュウ「…いいえ…私は艦娘、飛龍よ。私が居るべき場所は提督のいる鎮守府よ」


先程とは違い穏やかにヒリュウに語りかける湾岸悽姫であったが、その言葉を否定し戦う意思を見せるヒリュウ。


湾岸「…ソウカ、ソノ体デモ尚艦娘デアロウトシタカ……」


ヒリュウの言葉を聞いて何処か哀しそうな表情を浮かべる湾岸悽姫。

だが直ぐに表情を変え、主砲を向ける。


湾岸「ナラバ容赦ハシナイ…!ソコノ艦娘ヤ人間共々沈ムガイイ!!」

利根「来るぞっ!」


湾岸悽姫の艤装や浮游している球体から砲弾が飛んでくる。

一行は第1艦隊、第2艦隊で分かれ反撃を開始する。


利根「主砲、一斉射!」

鈴谷「二人共、いっくよー!!」


2方向からの砲撃が湾岸悽姫目掛け迫ってくる。

だがその瞬間、近くを浮游していた球体が湾岸悽姫の前方に庇うように展開し、湾岸悽姫への直撃を防いだ。


利根「なんじゃと…!?」

扶桑「攻防一体…さしずめ浮游要塞ってとこね…!」

龍驤「艦載機の皆~!お仕事お仕事!!」


それを見た龍驤とヒリュウが艦載機を発進させる。

すると今度は湾岸悽姫の艤装から先程の白い艦載機が射出されていく。


龍驤「さっきのはこいつの艦載機かいな!?」

ヒリュウ「しかもまだこんなに量があるなんて!?」

ミーシャ「援護するぞ!」


歩兵、目達原、出浦のヘリが艦載機の迎撃に当たる。

鯖江のヘリとハインドは浮游要塞の数を減らすべく、狙いを定める。


鯖江「二人共頼んだよ?」

ウラール「ギギッ(ええ)」

ウラジーミル「ギュギギッ(いきましょう)」


ヘリから身を乗りだし戦車砲を構え、砲撃していく。

ハインドもミサイルを射出し、浮游要塞へ攻撃していく。


鯖江「いいね、目標を二つ撃破。その調子だよ」

湾岸「チィ…!」


浮游要塞を二つ潰され、思わず舌打ちをする。

鯖江は次の目標を狙うべくヘリを動かすが、湾岸悽姫の艤装がヘリを捉え砲撃し直撃してしまう。


鯖江「そんな…!捕まってて!!」

鈴谷「静香!!」


ローター部分が損傷し、航行不能になったヘリは島の中央部である森へ不時着してしまう。

鯖江達は不時着したと同時にヘリから脱出。銃を装備し改めて湾岸悽姫へと立ち向かう。


鯖江「お陰様で眼鏡にヒビが入っちゃったよ…!」

ウラール「ギュギュギィ(やっぱり私達は地上戦が合うわね)」

ウラジーミル「ッギギ、ギュイ(ええ、私達はこうでないと)」


ウラールとウラジーミルは砲撃を、鯖江はアサルトライフルで湾岸悽姫に攻撃を仕掛ける。

だが再び浮游要塞に阻まれ、今度は要塞からの砲撃が鯖江達を襲う。


鯖江「こんなの…!移動要塞の攻撃に比べたら…!!」


走って砲撃を避けつつ、銃撃していく鯖江。

ウラールも自身の装甲で耐えつつ、再び砲撃。

浮游要塞を1つ落とす。


ウラール「ギャイギャイギギギッ!(伊達にマグマ軍の重戦車を名乗っていたわけじゃ無いのよっ!)」

湾岸「…ギギギュイ(要塞1つ落としただけで調子にのるな)」

ウラール「ッ!!??」


湾岸悽姫から発せられたマグマ語に驚愕し思わず立ち止まってしまう。

湾岸悽姫はその隙を逃さず、ウラール目掛けて主砲を放つ。


ウラジーミル「ッギャイ!!(お姉様!!)」


ウラジーミルがウラールを抱き伏せ、間一髪で砲弾を避ける。

砲弾が通り過ぎたのを確認すると、ウラジーミルはすぐさま立ち上がり、袖口からチェーンソーを取り出して斬りかかる。


だが湾岸悽姫は表情1つ変えず自身の爪で受け止める。


湾岸「ギイ…(甘いわね…)」

ウラジーミル「ギャイ……ギギイッ!?(貴様…なんで私達の言語を!?)」

湾岸「フン…ギギギュイ?(貴様達の中にも人間の言葉を使える者がいるだろう?)」

ウラール「ギュイギャイッ!(ウラジーミル左っ!)」


ウラールの言葉でハッとなり左を見ると湾岸悽姫の艤装がこちらに牙を剥き、今にも襲い掛かろうとしていた。


利根「させるか!」


利根や扶桑、響が艤装に砲撃していくが残った浮游要塞がそれを身を呈して防ぐ。


ハインド「ギギッ!(させないっ!)」


湾岸悽姫から射出された艦載機を一機掴み、艤装目掛けて投げ付ける。

投げられた艦載機は艤装の先端、口の部分にぶつかり爆発する。


湾岸「グゥッ!」

ハインド「ギャギャッ!(ヒリュウ!)」

ヒリュウ「はいっ!」


湾岸悽姫の艤装が損傷し、一瞬だけ飛んでいる艦載機の動きが鈍った。

ハインドはそれを見逃がさず、ヒリュウもハインドの意図を理解し艦爆を数機湾岸悽姫の上空へ移動させ爆撃を開始、ウラジーミルもそれに合わせ湾岸悽姫から離れる。


湾岸「ガハッ!」


爆撃をまともに食らい傷を負う湾岸悽姫。

さらにウラールとウラジーミルが戦車砲で追い撃ちをかける。


湾岸悽姫「調子二……乗ルナァッ!!」


額から流れる血を拭い、雄叫びをあげる湾岸悽姫。

それに呼応するように彼女の艤装も咆哮をあげる。


湾岸悽姫と彼女の艤装から発せられた声に周囲の空気が震える。

そして湾岸悽姫は艤装をその場に残し、ウラジーミルへ突撃する。


湾岸「貴様達二ッ!」


ウラジーミルの頭部をわし掴み、アスファルトが砕ける程強く地面に叩き付ける。

更に今度はウラールの方へ距離を詰め自身の爪で斬りかかる。


ウラール「ギッ!」

湾岸「コノ島ヲッ!コノ島ニイル皆ヲッ!!」


ウラールに足払いをして宙に浮かせたところを掴み、鯖江目掛け投げ飛ばす。


湾岸「奪ワレテタマルカァァァァア!!!」

鯖江「あぁっ!!」


投げ飛ばされたウラール共々地面に転がる鯖江、その衝撃で気を失ったのか倒れたまま2人は動かないでいる。


湾岸「私ガ…守ラナキャイケナイノヨ……!」

ハインド「ギィッ!(まずいっ!)」


止めを刺そうと2人の元に迫る湾岸悽姫を止めようと、機銃を撃つ。


湾岸「チィ…!」


上空からばら蒔かれる弾丸の雨を両腕で防ぎ、ハインドを睨む。


湾岸「オ前モ…沈ンデシマエェ!!」

ハインド「!?」


湾岸悽姫の叫びと同時に彼女から離れていた艤装が上空のハインドを捉え砲撃、不意を突かれたハインドは直撃を食らい海へ堕ちていく。


鈴谷「ヤバ…!」


着水ギリギリで受け止める鈴谷。

だが湾岸悽姫の方を見ると既にこちらを捉えていた。


湾岸「ハァァァッ!!」


湾岸悽姫の艤装からいくつもの砲弾が飛んでくる。

鈴谷はハインドを抱き抱えながら何とか避けていく。


鈴谷「利根、要塞はっ!?」

利根「全部片付けたっ!あとはあやつだけじゃ!!」

扶桑「ですがこちらの損害も大きいので油断は出来ません…!」

響「鈴谷は下がってて…ハインドさんをお願い」


ハインドを抱えている鈴谷を後方に下げて陣形を組み直す。

湾岸悽姫も再び艤装を装着し、利根らと対峙する。


ヒリュウ「上は私達に任せて」

龍驤「まだまだぎょーさんおる。ここは、ウチらの仕事や」

利根「わかった……頼むぞ。総員砲撃戦用意……」

湾岸「来イ、艦娘」


そして双方同時に砲撃を開始。

利根達は機動力で砲撃を避けながら、湾岸悽姫は自身の装甲で受けとめながら主砲を放っていく。


暁「暁達の主砲じゃ歯が立たないじゃない…!」

響「それでも皆の助けになる…頑張るんだ…!」


小さな単装砲で湾岸悽姫を攻撃するが、その圧倒的防御力を前に掠り傷を付けるのがやっとの2人。

その時湾岸悽姫から放たれた砲弾が暁と響を襲った。


暁「きゃぁっ!」

響「ぐっ…!」

湾岸「駆逐艦ゴトキガ…ソノ幼サデ出テクルナッ!」


直撃し、大破する2人に吐き捨てる湾岸悽姫。

だが大破しボロボロになってもなお主砲を構えた暁と響を見て目を見開く。


暁「小ささなんて関係ないじゃない…!」

響「司令官や艦隊の、部隊の皆と…一緒にいたいんだ…!」

暁・響「だから私達は戦うんだ!(のよ!)」

湾岸「一緒二イタイナライレバイイ!何故戦ウ必要ガアルッ!?」


その直後湾岸悽姫の体に砲弾が直撃する。

顔を動かすと青葉と利根が硝煙が立っている主砲をこちらに向けていた。


利根「愚問じゃ、深海悽艦がこっちに攻めてきて」

青葉「青葉達にはそれに対抗する力があるから、です!」

湾岸「ソレハオ前達モ同ジジャナイカ!私達ノ居場所ヲ侵略シテイル!!」


双方同時に主砲を放つ。

砲弾は双方に直撃し青葉は大破、利根は至近弾で中破したが、湾岸悽姫もダメージを負った。


湾岸「私ニハ守ラナキャイケナイ子達ガイルノヨッ!!オ前達ナンカニ…!」

利根「守りたい者は…!」

扶桑「私達にだってあります!!」


青葉と利根を庇うように前に出て主砲を放つ扶桑。利根もそれに続き、稼働する主砲で援護する。

利根の砲撃は耐えきったが戦艦である扶桑の砲撃がまともに直撃し艤装の一部が損壊、所々から血を吹き出している。

それでも構うもんかと主砲を2人目掛けて放つ。

扶桑には外れたものの利根に直撃し大破に追い込んだ。


扶桑「…不幸ね。お互い守る為に戦ってるなんて」

湾岸「ナラ沈メ!私達ノ為二沈メェッ!!」

扶桑「それは出来ません…!提督が、私達の帰還を待っているんですから!!」

湾岸「黙レェエェェエ!!!」


湾岸悽姫の叫びと同時に放たれた砲弾が扶桑に直撃し、中破する。

扶桑も負けじと稼働する主砲を動かし砲撃する。


湾岸「ガァァァア!!!」


砲弾は湾岸悽姫の艤装に直撃、そこから至る所で爆発が起こり湾岸悽姫が吹き飛ばされる。


湾岸「ハァ…ハァ…!」

利根「…これで」

扶桑「終わりよ…」


ボロボロになった主砲を構える利根達。

ヒリュウや龍驤も湾岸悽姫の艤装が無くなった事により艦載機がコントロールを失い墜落した為、利根達に合流して艦載機を湾岸悽姫の上空に旋回させている。


湾岸「マダヨ…!」


一行を睨み付ける湾岸悽姫だが、艤装もなく身体も満身創痍であるため睨む事が精一杯だった。


湾岸「ココデ負ケルワケニハイカナイノヨォッ!!!」

利根「…!?」


後ろにある何かを守るかのように両腕を広げる湾岸悽姫に疑問を覚える利根。

その時


天龍「皆待ちやがれぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」


大破しボロボロになった天龍と駆逐悽姫こと春雨が双方の間に割って入った。


天龍「皆武器を下ろせ!!彼女は敵じゃねぇ!」

利根「な…どういうことじゃ!?」

春雨「湾岸悽姫様、待ってください!」

湾岸「駆逐悽姫…何ヲシテイル…!?」


割って入った2人に驚愕する利根達艦隊と湾岸悽姫。


利根「天龍、どうやら説得に成功したようじゃな」

天龍「あぁ、それと聞いてくれ。あいつはオレ達艦娘と戦う事を好んじゃいねぇ…!あいつは今ままでの深海悽艦と違う!」

湾岸「駆逐悽姫…アナタハ…」

春雨「湾岸悽姫様、彼女達と…彼女の提督と話をしてください!彼女がいる鎮守府の提督ならきっとわかってくれます!」


天龍は利根やミーシャ達に、春雨は湾岸悽姫に簡単な説明をしていく。

信じられないといった表情の利根と湾岸悽姫は互いを見合う。


利根「湾岸悽姫…といったか。通りで…さっきの行動の意味がわかった気がするぞ…」

湾岸「…ダカラヲ級ガソコニイルノネ。ソシテ…アレダケ鎮守府デ怖イ思イヲシテ、アノ場所ヲ怖レテイタ駆逐悽姫デスラ……」


湾岸悽姫はしばらく考え込み、そして何かを決心し利根達の方を改めて見る。


湾岸「ワカッタ…駆逐悽姫ノ頼ミトナレバ、貴様達ノ提督ト話ヲシヨウデハナイカ。ダガ、貴様達ノ提督ガコチラニ来イ。ソレマデ、コノ艦娘ヲ預カラセテモラウ」

天龍「え、オレぇ!?」


指を刺され思わず間抜けな声を出してしまう天龍。


湾岸「流石二コノ話全テヲ信用スル事ハデキナイ。ダカラ人質ヲトラセテモラウ」


まるでこちらを試すような表情で淡々と話していく湾岸悽姫。

天龍も覚悟を決めたのか、表情を引き締めそれを了承する。


天龍「…あぁ、わかった」

利根「な…!?天龍いくらなんでも危険じゃ!!」

天龍「オレがここに残る事でこいつらと戦わずに済むなら…。それに提督も言ってたろ?もしかしたら今後の在り方を左右する戦いになるかもって……今がその時だって思うんだ」


天龍の言葉を聞き、止めようとした利根であったが呆れたような笑顔を見せる。


利根「全く…わかった」

天龍「それじゃ、頼んだぜ?」

ミーシャ「では2日後、提督を連れてまたここに来るとしよう」

利根「急いで連れてくるから、大人しくしてるのじゃぞ?」


その後、陸にいたウラール、ウラジーミル、鯖江を回収し、湾岸悽姫に2日後戻ってくる事を伝えた一行は天龍を置いて鎮守府へ戻っていった。


湾岸「サテ、コッチニ来テ。入渠ハデキナイケドアル程度ノ治療ハデキルワ」

天龍「おう、頼む」


湾岸悽姫に連れられ島に上がる。

そして案内された森の中で適当な場所で腰を下ろし空を見上げる。

もううっすらと空が藍色に染まり夜になろうとしていた。


湾岸「ソレジャ応急措置ダケド、腕ヲ出シテ」


湾岸悽姫に促されるまま腕を差し出し、包帯を巻かれる様をじっと見つめる。


湾岸「駆逐悽姫ガ世話ニナッタワネ…」

天龍「いや…礼を言うのはこっちだ……春雨がいなきゃ、今でもオレは戦えなかった」


お互い探るように言葉を選んで話していく。

気まずいのか互いの顔を見ることを無意識に避けているようにも見えた。


湾岸「戦エナカッタ?」


天龍の言葉に疑問を持つ湾岸悽姫に、事の始まりを説明していく。


湾岸「…ソウダッタノネ」

天龍「そして今に至るって訳さ。なあ、なんでアンタは人間達を攻撃しようとしないんだ?」

湾岸「アマリ気乗リシナカッタダケヨ。ソレニ私ハ海上ヲ移動スル事ガ出来ナイノ」

天龍「そうか…だから陸上にいたのか…」

湾岸「ココヲ拠点ニシテ過ゴシテイタラ、ボロボロニナッテイタアノ娘達ガヤッテキタ」

天龍「春雨達か」

湾岸「ソシテアノ娘達ト戦ッテ…沈メテ深海悽艦二変エタ。……デモアノ娘達ハソレヲ受ケ入レタ、寧ロ鎮守府カラ解放サレタッテ喜ンデタ」


治療しながらもどこか遠くを見詰める湾岸悽姫。

天龍も何か思うことがあるのか目線を下げている。


湾岸「アノ娘達ト過ゴシテ……思ッタノ。コノ娘達ノ居場所二ナロウッテ。ナントシテモコノ娘達ダケハ守ロウッテ……ダカラ駆逐悽姫ガアナタノ鎮守府二独リデ向カッタト知ッタ時ハ、気ガ気ジャナカッタワ」

天龍「……そういう事だったのか」


申し訳なさそうに思わず顔を伏せる天龍。


天龍「はは…今までずっと深海悽艦を倒す事が正義だって思ってたから、何だかどっちが正しいんだかもうわかんねーや……」

湾岸「……ドチラカ一方ガ血ヲ流シテイル時点デ、正義ナンテドコニモナイ………正義ヲ掲ゲル位ナラバ、信念ヲ掲ゲロ…」


湾岸悽姫の言葉に思わず顔を上げ彼女を見る。

湾岸悽姫も自分の言った言葉に戸惑っているのか気まずそうに頬を掻いていた。


湾岸「何故カ今コンナ言葉ガ浮カンダノ…自分デモ驚イテイルワ…」

天龍「正義じゃなく信念を掲げろ…か。はは、良い言葉じゃねーか…!サンキュ」


湾岸悽姫に自然と笑顔を向ける天龍。

湾岸悽姫もそんな彼女を優しく微笑んでいた。

先程の気まずさ無く、自然と落ち着いた時間を過ごしていた。

そこに春雨とリ級、ネ級が此方にやって来る。更に彼女達の後ろにもう一人の少女が大きな瞳で天龍をじーっと見ていた。


湾岸「オカエリナサイ」

天龍「ん?その子は?」


体を傾け3人の後ろにいる少女を見る。湾岸悽姫同様白い肌と髪、そして朱色の瞳を持った少女だ。

少女は天龍の方に歩み寄り、右手を上げて挨拶をした。


「ポッ!」


天龍「ぽ…?」

春雨「この子は北方悽姫ちゃん。皆はホッポちゃんって呼んでるの」

湾岸「コノ海域デ産マレタ新シイ姫…」

ホッポ「ポッ!ヨロシク!!」

天龍「あぁ!オレは天龍だ」


北方悽姫の目線に合わせるようにしゃがみ、頭を撫でる。

すると天龍を見てどこかボーッとし出す北方悽姫。


ホッポ「ポー…テンリュー…」

天龍「ふふ、恐いか?」

ホッポ「ポッ!カッコいい!!」

天龍「あははっ!サンキューホッポ!」

春雨「もーホッポちゃんだけずーるーいー!!」


天龍に撫でられている北方悽姫を見て我満出来なくなった春雨が自分も撫でろと言わんばかりに頭を差し出す。


天龍「わ、わぁーったって!だからそんなに頭を押し付けるなって!」

春雨「むぅ~!」

リ級「ハハッ!モテモテダナ天龍ヨォ!?」


こうして夜が更けていきそして2日後、約束の日がきた。


天龍「来たか…」


利根、青葉、ヒリュウと3人の上空にヘリが一機此方に向かってきた。

そしてヘリは島前部のアスファルトに着陸し、利根達も足の艤装を外して陸へ上がる。


利根「待たせたの」

天龍「はは、そんなに待っちゃいねーよ」


冗談混じりに返す天龍。

そしてヘリの後部席が開き中から提督、ミーシャ、大淀が、そして操縦席から出浦が降りてくる。


提督「無事か天龍!?」

天龍「おう、そんな顔すんなって!」


不安気な表情で駆け寄ってきた天龍に笑顔を見せる。

そんな天龍を見て提督もホッと胸を撫で下ろした。


湾岸「オ前ガ提督ダナ?」

提督「…あぁ、そうだ」


提督の方に近付いてきた湾岸悽姫に、提督は思わず緊張する。

湾岸悽姫もどこか威圧するような佇まいで提督を見詰める。


提督「さて、何処で始めればいい?」

湾岸「ココデ始メテモ良イゾ」


湾岸の言葉を聞いて、ふと周りを見渡す。

辺り一面には何も無く、会談をするには不向きな場所に思えた。


提督「ここで座って話すのか?」

湾岸「何カ不都合カ?」

提督「…わかった。良いだろう」


顔色ひとつ変えずに答える湾岸悽姫に折れ、提督はその場で胡座をかく。

それを見た湾岸悽姫も座り、それに続くように提督側にミーシャと大淀、そして天龍。湾岸悽姫側に春雨と北方悽姫が座る。

そしてその周りに利根、青葉、ヒリュウ、出浦、リ級、ネ級が提督達を囲うように立っている。


提督「…まずは、天龍が世話になった。ありがとう」

湾岸「……イヤ、コチラモ駆逐悽姫ガ世話ニナッテイル。オ互イ様トシヨウ」


礼を言った提督に少しだけ驚きながらもそれに応じる湾岸悽姫。


提督「さて、本題に入ろう…。君は、艦娘と戦うのを好まないと聞いたが?」

湾岸「アァ、ソウダ」

提督「何故だ?こちらの知る限りだと深海悽艦は全員人間や艦娘を襲っているが…?」

湾岸「マァ、大抵ハソウダロウナ。ソモソモ私ハ海上ヲ航行デキナイ。ソシテ彼女達ヲ危険ナ目二合ワセタクナイノダ」


その言葉を聞いて大淀をはじめとした艦娘達がどよめきだす。

提督はそれを制止させ、話の続きを始める。


提督「……それは君以外の深海悽艦も同じ考えを持っているのか?」

湾岸「ソレハ知ラナイ。彼女達以外ノ姫二出会ッタ事ガナイ」


そう言って湾岸悽姫は隣に座っている春雨と北方悽姫の頭を撫でる。


提督「…他にもその姫は存在しているのか?」

湾岸「ソウダ、南方海域ダッタラ南方悽姫。他ニモ戦艦悽姫ヤ重巡悽姫等モイル」

大淀「姫級…ですか」

ミーシャ「何と言う事だ…」


大淀やミーシャ達に緊張が走る。

提督はそれを肌で感じながらも冷静に話を続けた。


提督「……根本的な事を聞いても良いか?君達深海悽艦は何故、我々を襲うんだ?」

湾岸「フム、一言デ表スナラ……生理現象、イヤ、繁殖行為ト言エバイイダロウカ」

提督「な…に!?」


湾岸悽姫の答えに今まで冷静を保っていた提督も思わず動揺してしまう。


湾岸「元々我々ハ深海デ魚二寄生スル生物ダッタノダ。ダガアル日…アレガ沈ンデキタ」

提督「あれ…?」

湾岸「貴様達ガ武器娘?ト呼ンデイタ生物ダ。我々ノ個体ノ1ツガソレニ寄生シタ」


その言葉に提督達はゴクリと音をたてて唾を飲み込む。そしていつの間にか心臓が大きな音をたてて脈打っていた


提督「…それで…?」

湾岸「ソシテマタアル日モ、マタアル日モ…武器娘ヤオ前ノヨウナ地底ノ者ノ亡骸が沈ンデ、ソノ度二寄生シ数ヲ増ヤシテイッタ。アル個体ハ身体二寄生シ人型二、マタアル個体ハ一緒二沈ンデキタ武装二寄生シ、駆逐イ級ヤ軽母ヌ級、更二私ガ使ッテイタヨウナ艤装ヘト変ワッテイッタ」

ミーシャ「待て!何故武器娘やマグマ兵士の死体が!?我々は海戦を行っていなかった筈だ!!」


身を乗り出しそうになるのを堪え、湾岸悽姫に問い質すミーシャ。


湾岸「我々ガ知ル筈ナイダロウ?」

ミーシャ「しかしっ!」

提督「落ち着けミーシャ…彼女の言う通りだ…」

ミーシャ「ぐっ…」


立ち上がろうとするミーシャだったが、提督の言葉を聞き、悔しそうに眉をしかめ座り直す。


湾岸「ダガソレモ長クハ続カナカッタ。ソコデ武器娘達二寄生シ、知能ヲ得タ我々ハ海上へ出テ、自ラノ手デ宿主ヲ探シ始メタ。ソレガ数ヵ月前」

提督・ミーシャ「海岸防衛戦…!!」

出浦「…じゃああの後の死体を捕食していたのは…!」

湾岸「…アァ、ワ級ノ事カ。アノ後ワ級二宿主ノ回収ヲサセ、ソシテソノ宿主ノ1体カラ私ガ産マレタ」

提督「……」


言葉を失う提督達。

湾岸悽姫はそれを気にせず淡々と話を続ける。


湾岸悽姫「ソノ後、オ前達艦娘ガ現レタ。ダガ我々ノ大半が海上デシカ生活デキナイカラ、対抗スル力ヲ持ッテイルトハ言エオ前達ノ存在ハ好都合ダッタ」

大淀「だから次は艦娘を狙って…攻撃してきた…!」

ヒリュウ「待ってよ!私がヲ級だった頃人間や艦娘に抱いていたあの感情は何だったのよ!?」

利根「ヒリュウ!落ち着くのじゃ!」


湾岸悽姫に掴み掛かろうとするヒリュウを利根は咄嗟に体を張って制する。

リ級とネ級もそんなヒリュウを見て臨戦態勢をとったが、すぐにそれを解いた。


湾岸「……寄生シタ際ノ、宿主ノ意識的ナ抵抗ノ結果ダ。抵抗ガ強イトコチラモ力ヲ強メ、宿主ノ記憶ヲ消ス。ダガソレデモ元二戻リタイトイウ潜在意識ダケガ残リ、同族ヲ襲ウヨウニナル。私ノ素体ハ既二死ンデル為抵抗ハナイ。コノ娘達ハ寧ロ受ケ入レタ事デ、艦娘ノ意識ヲ保ッテイラレタ。……境遇ヲ考エルト、皮肉ナ事デアルガ…」

ヒリュウ「あの2人も私と同じ…」

提督「艦娘だった記憶があるのか…!?」


提督とヒリュウの視線がリ級とネ級に向く。

2人はこっちを見るなと言わんばかりに提督達を無言で睨み返す。


天龍「あぁ、どうやらそうらしい。ただ春雨もそうだが鎮守府で酷い扱いを受けてたみたいだ。こっち側に、あまり良い思い出が」

リ級「天龍、アマリペラペラシャベンジャネーヨ」

天龍「…そうだな、すまねえ」

提督「…鎮守府での不当な扱いか…成る程。通りで俺を殺意の籠った目で睨む訳だ」

リ級「当タリ前ダ。テメーラ人間二良イ感情ヲ持チ合ワセチャイネーンダカラヨ」

大淀「少なくともこちらの提督は私達の事を考えてくれています!」

ネ級「ダトシテモ…今ハ信ジラレナイワ。ソノ服ヲ見テイルトイライラスルノヨ…!」

提督「わかった…。今は、信用しなくても構わない」

リ級「フン、今ドコロカ永久二信ジネーヨ!」


提督への殺意を隠そうともしないリ級とネ級。

ふと、提督は春雨の方を見ると複雑な表情で俯いていた。


提督「駆逐悽姫、君はどうだい?」

春雨「え…?」


急に話を振られ、戸惑う春雨。


春雨「…春雨も、素直に提督を信じる事は出来ません」

提督「…」

春雨「でも、天龍おねーちゃんが信じる提督なら、春雨も信じてみたいと思います…」

天龍「春雨…!」

提督「ありがとう…精一杯努力するよ…!」


恥ずかしそうに顔を逸らし、手を弄りながら答えた春雨に優しく微笑む提督。


湾岸「ソレデ、私達ヲドウスルツモリダ?」


話を戻す湾岸悽姫。

提督も表情戻し湾岸悽姫を見る。


提督「どうするつもりもない。ただ、俺は深海悽艦と共存の道を見付けようと思ってる。…それの協力をしてもらえないか?」

湾岸「共存ダト…?アッハッハッハハハハハ!!」


提督の言葉を聞いた湾岸悽姫は大きな声で笑いだす。


湾岸「我々ハ貴様達人間、地底ノ者、ソシテ艦娘ヲ大量二殺シテキタノダゾ?ソンナ我々ト共存ナドト…コレガ笑ワズニイラレルカ!」


湾岸悽姫は笑いを堪えながら提督の方を見ると、肩を震わせ俯いている。


湾岸「ククク…スマナイナ。アマリニモ」

提督「アハハハハハハハハ!」


今度は提督が大声で笑いだし、唖然とする湾岸悽姫。

大淀やミーシャ達も呆然と提督を見ていた。


提督「ハァー…湾岸悽姫、今ので確信したよ!人間と深海悽艦の共存の可能性を!」


笑い顔は確信した笑みへと変わり、自信に満ち溢れた目で湾岸悽姫を見詰める。


湾岸「ナ、ナニヲ根拠二言ッテイル!?」


その自信は何処から来るのかわからず困惑する湾岸悽姫。


提督「昔、同じこと言った異種族を俺は知っている。そして今では彼女は俺と同じ道を歩んでいる」

ミーシャ(…なるほどな…)

提督「湾岸悽姫、俺と一緒に来てくれ!そしてこの戦争を終わらせよう!!」


立ち上がり、湾岸悽姫に手を差し伸べる。


湾岸「ワ、私ハ同族ト戦ウ気ナドナイ!」

提督「敵はもう深海悽艦だけじゃない。共存の道を阻む者全てだ」

湾岸「オ、オ前人間トモ戦ウ気カ!?」

提督「この手の戦いなら、経験済みなんでね。…彼女達が俺と一緒にいるのが何よりの証拠さ」


提督の目線が隣にいるミーシャに移る。

ミーシャは何処か呆れた様子で溜め息を吐いていた。


ミーシャ「…こうなると、もう我々では手に負えん。諦めてくれ」

湾岸「……」


湾岸悽姫は改めて提督を見る。

彼の表情に迷いはなく自信に満ちていた。


湾岸「……何カアレバ、背中ヲ撃ツ」

提督「構わない」

湾岸「フン…」


提督の差し伸べた手にそっと自身の手を乗せる。


提督「ありがとう、湾岸悽姫」

湾岸「私ト貴様ハアクマデ対等ダ。ソレヲ忘レルナ」

提督「もちろんだ。さぁ、乗ってくれ!鎮守府へ案内するよ。皆も」

ホッポ「ポッ!オ空飛ブ!」

春雨「改めてよろしくね?天龍おねーちゃん!」

天龍「あぁ、これからはずっと一緒だ!」

リ級「アタシラハ海路カラ行カセテモラウゼ」

ネ級「鎮守府……マタアノ場所二行クコトニナルナンテ…」

利根「では、吾が輩達が案内しよう」

ヒリュウ「ネ級、少しずつでいいから鎮守府の本当の姿と、提督の事を知っていこう?」

ネ級「……」


人間・マグマ軍・艦娘・深海悽艦…様々な種が集まった一行は鎮守府へと出発する。

それぞれ違った思いを胸に


後書き

陸大祭で20連回しても特戦郡とアマテラスがでないよぉぉぉぉぉおお
今回はここまで。次回はカテリーナ鎮守府後編を予定中


今回はコメントを誰でも残せるようにしました。
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SS好きの名無しさんから
2019-01-13 22:17:26

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