セキゼイ
ある日の暮方のことだ。
僕は一凛の花に出会った。
鮮やかな黄色の、綺麗な花だった。
並木通りの紅く色付いた木々の下で黄色く輝いていた。
君の記憶が焙煎された珈琲豆のように黒く僕を飲む。
穴の開いた風船のように見るも無残な心を拵えた君の記憶たちが関係を阻害していく。
容姿端麗で博識洽聞。
僕の過去を知る者のみに与えられた能力をこの花は持っていた。
不思議な気分だ。
日常生活から刺激を破棄した僕に対するプレゼントか。
それとも戒めか。
こんな化け物に成り果てた僕を咎めるのか。
傍観者たちが溜飲を下げたあの瞬間。
僕は決して忘れもしない。
キサラギ街道を右往左往する君が僕にくれた唯一無二の証明。
今日も僕は道を通りかかる人間に話しかける。
彼は僕に驚いていた様子だったが、大して気にする素振りも見せずにそこに留まり、去る。
この地域は田舎だから朝方この辺を散歩するのは彼しかいない。
だから僕は話しかけ続けた。
来る日も来る日も。
絶え間なく話しかけ続けた。
いつか彼が僕の言葉たちを解読してくれることを願って。
あの日僕を化け物にした単語は僕になった。
だから彼にも僕になってもらう。
僕はこれから先も存在し続けなければいけない。
誰に言われたわけでもないが、なぜかそう信じていた。
僕がーーーーになった代わりに、君にもーーーーになってもらう。
だから僕は彼にサラダをご馳走し続ける。
化け物の言葉たちのサラダを。
僕はーーーー。
「これからは君に託すよ」
文字数は少ないですが、合計数では多くなってしまうかもしれません。また次回作でお会いできることを切実に願っております。
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