第2の人生は魔王スタートだったので、人外の女の子達とハーレム作ります。 PV 2000到達! 感謝、感謝です
主人公はイジメに耐え兼ね、この世を去った。本来なら自ら命を絶った罪で地獄送りだったところを、事情が事情だったが故に神様からの恩情で異世界へ転生する許可を得る。ただし、人間に敵対する側の存在として……
どうも!艦これとポケモンのSSで私の存在を御存知の方は御無沙汰しています、それ以外の方は初めましてです。
柔時雨と申します。
上記で述べた2つの作品のネタ探しでいろいろ本を読んだり、ゲームに走ったりしているうちに
【 異世界転生物 】というジャンルに触れ、おもしろかったので 『 自分もやってみたいなぁ 』と思ったのが、今作を始める動機であります。
節操が無くてすいません!
最近、たくさん見かけるジャンルになってきたので、ネタ被りがありそう……著作権侵害などが起こらないよう、自重しながら粛々と綴らせていただこうと思っています。
艦これやポケモンは1話完結で、1話綴り終わったら、次の1話を新規作成していたのですが……数が増えてきたので、今回初めて1つの作品に章タイトルというのを導入してみました。
なので、この物語が中途半端なところで途切れていたり、更新が滞っている場合は
『 あっ、違う2つの作品を綴ってるのか 』 とか 『 またSS更新しないで、ゲームしてやがるな 』 と思ってください。
それでは覘きに来てくださった方々、ゆっくりしていってくださいね。
(警告タグや レーティングはその都度、変更する予定です )
皆様が覘きに来てくださったおかげで、PVが1000を越えました!本当に感謝しかありません。
今後も少しずつ更新させていただくつもりですので、引き続き宜しくお願いします。
この日……俺は自分の18年の人生に、自らの手で幕を下ろした。
理由はそんな大したことじゃない。今までの自分に対するイジメが原因だ。
日に日にエスカレートする連中の行為に、耐え続けていた俺の心が高校卒業より先に挫けてしまったのだ。
そして本日、俺は街の片隅にある5階建ての廃ビルの屋上から飛び降りた。
重力に従って地面と接触するまでの刹那の時間……脳裏を過ったのは自分の両親、そして……腹の立つ笑みを浮かべたイジメグループの連中の顔だった。
俺 「( こんなことなら……連中を1発殴ってから跳び下りても、良かったんじゃないかな…… )」
そんなことを思いながら、後頭部から鈍く嫌な音が聞こえ……そこで俺の意識は途絶えた。
*****
???
俺 「………ん?」
おかしい……あの高さから跳び下りたというのに、痛みを全く感じない。
いや、無事に死ぬことができた俺は今、魂だけの存在だから痛みを感じないのか……
??? 「……『 東雲 悠耶 』さんですね。自殺とは……心中は御察ししますが、短絡的なことをしてしまいましたね。」
悠耶 「…………!」
声をした方を見ると、白く長い髪をなびかせた老人が立っていた。
??? 「自ら命を絶った場合、地獄行きは決定事項なのですが……貴方が置かれていた境遇には同情の余地があると判断しました。そこで貴方には第2の人生を満喫できる、転生のチャンスをあげようと思います。」
悠耶 「地獄行きは嫌だなぁ……でも、だからといって、あんたの声をそのまま信じるのもどうかと……っていうか、あんた誰?」
??? 「これは失礼しました。私は不遇の死を遂げてしまった者達に転生の機会を与える神でございます。」
悠耶 「死?そっか、俺はやっぱり死んじまったんだな。」
神様 「えぇ。ビルから跳び下りた投身自殺で即死でした。よほど精神的に追い詰められていたのですね。確かに親より先に先立つ不孝も、自ら命を絶ったこともいけない事ですが……死の国の神が温情を掛けてくださったので、こうして私が貴方の元に参ったというわけです。」
悠耶 「そっか……もし、あんたの話通りに転生ってのが本当にできるんなら、俺は蘇った先の世界で、あんたと死の国の神を信仰崇拝するよ。」
神様 「ありがとうございます。それでは、これから貴方を転生するにあたり、幾つか希望があるのでしたら叶えてさしあげますよ?」
悠耶 「希望を出す前に質問。これから俺が転生しようとしている世界について、教えてくれないか……あっ、いや、くれませんか?」
神様 「ほっほっほ。話しやすい喋り方で構いませんよ。そうですね……貴方が転生しようとしているのは剣などの武器や魔法で冒険したりする世界ですね。」
悠耶 「いわゆるファンタジーな世界ってことか…………神様。確かに自殺しちまったのは俺の心が弱かったせいだと思う。それでも、俺は自分をイジメでここまで追い詰めたあいつ等を絶対に許すつもりは無い。」
神様 「まぁ、貴方の心境からすれば、そういう感情が湧き出ていても不思議ではないでしょう。」
悠耶 「だから、この怒りをそのままに、人間と敵対する立場の存在として、その世界に転生してくれないか?」
神様 「おや?こういう機会を与えられた方々は大抵、『 勇者になりたい! 』 とか 『 裕福な暮らしがしたい! 』 と仰るのに、貴方は自ら人間の敵となることを望むのですか。」
悠耶 「人間に転生して、裏切られたり……虐げられたりするくらいなら、俺は人間になりたくない。あんたや死の国の神様を崇拝しながら、人間の敵対者として徹底的に……」
神様 「わかりました。貴方がそう望むなら……次の世界では貴方は死の神の遣い、人間の敵対者として君臨することになります。ですが、それは他の人間から命を狙われる修羅の道です。本当にそれでも構わないですか?」
悠耶 「あぁ!構わない。」
神様 「それでは、これより東雲悠耶に第2の人生を……それに伴い、幾つか貴方に贈り物を授けましょう。あちらの世界では、頑張って生きてくださいね。」
悠耶 「はい。ありがとうございます。」
◆◆◆
??? ・ ???
悠耶 「…………ん……」
さっきまでのは夢だったのだろうか……?
目を覚まして周囲を見渡して、とりあえず現状を確認する。
自分が居る場所は薄暗いが、そこそこ広い石造りの空間。
その空間の奥の方に、RPGや漫画などで王様が座る、いわゆる玉座というものが設置されている。
それ以外は此処が何という国なのか、どんな場所なのかが全然判らない。
ついでに、鏡が見当たらないので目視できる範囲で、手で触れる範囲で自分の姿を確認した。
服はビルから飛び降りた時の……黒色の学生服のまま、飛び下りた時に地面と接触してヤバいコトになってるのでは?と思われた頭も、触った感じどこも潰れていないようだ。
早い話、俺の姿はビルから跳び下りる前の姿のままということだ。
人間と敵対する存在として転生させてもらうよう神様にお願いしたから、てっきり見た目はもっとモンスターなのかと思っていたんだが……どうやら、そんなことはないらしい。
現に視線を落として見える俺の手は、人間の手のままである。
悠耶 「とりあえず、このまま直に座ってケツを冷やしたくねぇし……他に誰も居ねぇみたいだし、あの椅子に座らせてもらうか。」
玉座に座ると、それまで夢だったのかな?と思っていたあの神様との会話を少しずつ思い出してきた。
あの神様は此処が剣と魔法が存在するファンタジーの世界と言っていた。
悠耶 「ということは、ゲームみたいにウィンドを開いて、自分のステータスを見れたりするのかな?」
未だに半信半疑ではあるが、何も無い空中で右手を長方形の枠を作るように動かしてみる。
すると、案の定……ヴンッという電子音のような、上手く表現できない音が小さく短く響き、青い長方形の画面が浮かび上がってきた。
悠耶 「おぉ……いろいろ試してみるもんだな。さて……何に転生したんだろう?何か、普通の人間っぽいんだけど……」
【 ユーヤ 】
レベル : 1
種族 : 魔王
クラス : 暗黒騎士
【 ステータス 】
HP 5000 / 5000 MP 3500 / 3500
攻撃力 3000 ・ 守備力 2500 ・ 魔法攻撃力 2500 ・魔法防御力 2100 ・ 素早さ 150 ・ 運 20
【 スキル 】
〇 夜空への飛翔 : 悪魔の翼で空を飛ぶことができる
— (Lv に応じて随時開放 × 4 )
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロンパイア
アイテム : 魔獣の召喚符 × 1
—
—
悠耶 「…………魔王!?Σ( ; ゚ Д ゚) 」ガビーン
悠耶 「魔王……魔王かぁ……」
確かに、神様と対峙していた時、話をしていた転生の神様と、死の国の神様を信仰崇拝するみたいなことを言ったような気はするが……
これが、その恩恵だとでもいうのだろうか?
悠耶 「それと、ステータスの基準も判らねぇなぁ……これは高いのだろうか?他の比較対象が居ないから何とも言えない。」
とりあえず 『 魔 』王ってくらいなんだし、魔法攻撃力もそれなりにあるから、いずれ俺も魔法を使えたりするのだろうか?
それはちょっとだけ楽しみだ。
悠耶 「スキルは……これは此処で試すのは、やめとこう。先に武器とアイテムの確認だな。」
武器は……ロンパイア?聞きなれない武器だ。
武器名をタッチすると、追加の画面が出現し、そこには 【 出現 】 と 【 説明 】 の文字が表記されている。
悠耶 「とりあえず、説明をまず見てみるか。」
【 ロンパイア 】
名称 : ロンパイア ・ rhomphair
種類 : 長柄武器 ・ 大刀
全長 : 2m
長い片刃の刀身に、それと同程度の長さの柄が取り付けられた刀剣。逆刃槍の一種。 敵の馬の足を切断したり、首を刺して掲げるのが主な用途。
紀元前3~紀元前1世紀頃、古代のトラキア人( バルカン半島東部に住んでいた民族 )が主な武器として使用していた。
また、バスタルナエ族( ドナウ川下流に棲んでいた民族 )も使用していた。
悠耶 「紀元前とか言われましても……まぁ、文字で確認するより、実際に出して確かめてみるか。」
画面の出現をタッチすると、他の画面は全て消えて、代わりに1本の薙刀のような武器が現れた。
悠耶 「なるほど、これがロンパイア……漫画で読んだ三国志の関羽が持つ、青龍偃月刀みたいなモンか。あれよりちょっとリーチが短いって感じかな。」
それまで竹刀はもちろん、薙刀なんて持ったことなど無かったのに、ロンパイアを手にして試しに振ってみた瞬間……まるで最初から使い方を知っていたかのように、昔から使っていたかのように体が自然と動いた。
悠耶 「馴染む……実に馴染むぞ……とか言ってる場合じゃないな。ロンパイアは何とか使えそうだから、残りのアイテムの確認を先に済ませてしまおう。」
俺はもう1度画面を呼び出し、アイテムの中に収容されている 【 魔獣の召喚符 】 の 【 説明 】 をタッチした。
【 魔獣の召喚符 】
使用すると以下のモンスター Lv 1 を1匹召喚することができる。
召喚対象モンスター : キマイラ ・ ケルベロス ・ グリフォン ・ マンティコア ・ フェンリル ・ 鵺
悠耶 「強っ……( ; ゚ Д ゚) 」
さすがにドラゴン系統のモンスターは居ないものの、召喚できるモンスターはどれもゲームなどでボスを務めるような強力なヤツ等だ。
とりあえず、この中なら空を飛べるグリフォンが狙い目か……あっ、そういや、自分のスキルで空を飛べるんだっけ?
そして、このモンスター一覧でもう1つ解ったことがある。
鵺……こいつは確か、日本版キマイラだったはず。( 頭が猿で、体が狸、四肢が虎で、尻尾が蛇だったかな?)
とりあえず、コイツのおかげでこの世界には日本の妖怪も居る可能性が出てきた。まぁ……だからといって、特に何かしようとか決めたわけじゃないけど。
悠耶 「とりあえず、これを使うのはちょっと後にしよう。まずは……1度此処から出てみるか。」
しかし、此処がどこで、どこをどう進めば外に出られるのかが判らない。
物は試しともう1度長方形を描いて画面を呼び出して、何やかんや試していると、地図を表示することができた。
俺はこの地図を出す手順を絶対に忘れない。
そして、何とか表示できた地図によると、俺が今居る空間はそこそこの面積のある正方形の空間になっており、此処から外に向かって1本の道が続いているという滅茶苦茶シンプルな構造をしていた。
仮に此処をダンジョンというのであれば、入って1分も掛からないうちにラスボスに到達できるという、人を馬鹿にするのも大概にしろよ!と怒りたくもなるクソみたいな内容の代物である。
悠耶 「俺のレベルが上がったり、さっきの召喚符でモンスターを召喚したり、仲間が増えたら此処の構造も変わるのだろうか?」
まだまだ課題があるな……と思いながら外へ出ると、豊かな自然が栄える光景が目に映った。
どうやら森の中にある洞窟が、俺がさっきまで居た玉座の間に繋がっているらしい。
そして、外に出たと同時に地図は洞窟から森全体のものへと切り替わった。
この森……俺の住居までの道のりより、圧倒的に複雑怪奇な構造になってるんですけど……くそっ!何か釈然としない。
とりあえず、上を見上げて大樹の先端が空を隠していない場所を探し……少し開けた場所に出たので、そこでスキルを試すことにした。
悠耶 「えっと……【 夜空への飛翔 】か。今は画面をタッチして発動させているけど、そのうちこの手順を省いて自在に発動できるようになったらいいな。」
そんな独り言を呟きながら画面をタッチすると、俺の肩甲骨辺りでビリッという音が聞こえたと同時に、少しだけ背後に重量を感じた。
悠耶 「俺の一張羅がぁぁぁ!!いや、でも、この重み……うん、おそらく翼が出たんだろうな。それで……どうするんだろう?地面を蹴ってジャンプすればいいのか?」
とりあえず、思ったことを実践してみる。
地面を蹴って跳び上がると、ある一定の位置で宙に浮いたまま停止することができた。背後でバサッバサッと聞こえてきているので、おそらく今のコレがホバリング……空中待機状態ということになるんだろう。
スキル名にわざわざ 【 夜空への 】 とまで表記されているので、日中や明るい場所では使えないのか?と思っていたけど、そんなことはなかった。
現に今、真昼の空へ浮かべているわけだし……魔王のスキルとして仰々しく表記した感じかな?
悠耶 「よし、できたできた。滑空とかも試してみたいけど、とりあえず今は上昇と軽い移動、それと着地を練習して完全な物にしておこう。」
地道なトレーニングを重ね、ある程度使えるようになったと自負したので、拠点……あの玉座の間に戻ろうと洞窟近くまで飛んで帰ると、近くでゴブリンの群れが野営している場所を見つけた。
悠耶 「おぉ!やっぱり、あぁいうのを見るとファンタジーな世界だってことを改めて実感するな。そうだ、ちょうどいい……あいつ等相手に、自分のステータスがどれくらいのものなのか、試させてもらおう。」
魔王が配下になるであろうモンスターに攻撃を仕掛けるのもどうかと思うけど、いずれ人間の冒険者達と戦うことになる前に、準備はしっかりと整えておかないと……
そう思いながら、ロンパイアを手に持った状態で舞い降りたと同時に、ゴブリン達も俺の存在に気付き、木製の棍棒や短刀を手に戦闘態勢を取った。
悠耶 「そうやって最初から敵意剥き出しの相手ならやり易い……ゴブリン共よ。俺の力の糧となれ!」
武器を構えて正面から突っ込んでくるだけのゴブリンの腹部にロンパイアの刃を当て……力任せに薙ぎ払うと同時に、横一列で跳びかかって来たゴブリン数匹の上半身と下半身がサヨウナラした。
大量の血が噴き出し、ドサッと音を立てて落ちてくる肉の塊を前に、残りのゴブリン達が一気に尻込みする。
悠耶 「……今の1撃でこれか。あれ?もしかして、このステータスって高いのか?まぁいいや……この調子なら、この群れ1つを壊滅させることができるな。」
この時の俺はどんな表情をしていたのだろうか……それはちょっと思い出せないけど、気が付いた時には、ゴブリン『 だった物 』 の中心で、肩で息をすることもなく、ただ立ち尽くしていた。
宙で長方形を描いて画面を表示して、自分のステータスを確認すると、レベルが一気に3まで上がり、ステータスも全体的に上昇していた。
悠耶 「よし……ゴブリン共のレベルを確認するのを忘れていたけど、とりあえずこの程度の相手なら余裕で勝てるってことか。この調子でしばらく魔物や動物達には犠牲になってもらおう。」
その後、日が完全に沈み切るまで洞窟周辺の生き物達をロンパイアの餌食にした結果……俺のレベルは10まで上がって、攻撃力が4000代に突入した。
何か、美味しい経験値になる生き物でも居たのだろうか?
悠耶 「ふぅ……こんなモンか。それじゃあ、今日のトレーニングはこの辺にして、あそこに戻って召喚符を…………ん?」
どうやら、魔王というのは夜目が効くらしい。
少し離れた場所で、野営をすることなく先を急ぐ馬車の姿が見えた。
悠耶 「こんな時間に……馬車?」
それは本当に、ただの興味本位による行動ではあったが、気が付いたときには既にその馬車を追いかけて飛翔していた。
日は完全に沈み、目には見えないところでフクロウが鳴き始めた頃……俺は上空から、未だに疾走を続けている馬車を追跡していた。
悠耶 「日が沈んでるのに、松明も点けないで疾走……何をそんなに急いでるんだろうか?」
まぁ、時代っていうか世界観的に食べ物の冷凍や冷蔵保存ってのは難しいだろうから、痛む前に……っていう気持ちはあるのかもしれない。
悠耶 「そういえば、腹減ったな……」
思えば現状を把握してから今まで、何かを試したり、トレーニングをしていて食料の確保をするのを、すっかり忘れていた。
空を飛ぶのだって、意外とエネルギーを使うのだ。
悠耶 「こんなことなら、動物の肉を確保しておくんだったな……まぁいいや。ちょうど下にはおそらく行商の馬車も走っていることだし、商品を幾つか恵んでもらうとするか。」
俺は少しだけ飛ぶ速度を上げ、充分な距離を取ってから、( おそらく )馬車の進路上だと思う場所に舞い降りた。
馭者 「うおぁっ!?」
松明の灯りも無いのに、俺みたいに夜目が効いていたのか……俺の存在に気付いた馭者が慌てて手綱を引っ張った。
同時に馬の嘶きと何かが地面を抉るような音が耳に入って来て……俺との正面衝突まであと僅かというところで、荷馬車を引っ張っていた2頭の馬の脚が止まった。
馭者 「あっぶねえ……馬鹿野郎!!兄ちゃん、轢き殺されてえのか!?」
悠耶 「すまん……あんたを行商人と見て、頼みがある。俺は駆け出しの旅の者なんだが、食料の確保を怠っちまってな……悪いんだけど、後ろの荷台の中の商品を少し恵んでくれねぇだろうか?」
ここで馬鹿正直に 『 俺、魔王です! 』 なんて言うような真似はしない。それがこの状況でどういう結果を招くかってことくらい解っているつもりだ。
…………まぁ、『 何言ってんの?お前 』 ってな感じでテキトーに対処されるだろうが。
馭者 「……悪いな。ウチの商品はあんたには売れねえ。」
悠耶 「何でだ?金ならあるぞ。大金とは言えねぇけど……」
俺は自分が討伐したゴブリン共が何故か持っていた金貨を集めて入れた皮袋を馭者に見せる。
馭者 「それでもなぁ……」
悠耶 「歯切れが悪いな。そんなに無茶を言ってるつもりはないんだけど?少しの食べ物と飲み水を恵んでくれるだけで良いんだ……っていうか、この馬車は何を積んでるんだ?」
もしかしたら最初から俺が求めている物と違う物……骨董品や民芸品、絹や綿みたいな食べられない物を積んでいる可能性だってある。
積み荷の内容を確認しようと思い、荷馬車の後ろに廻って幕を開けると……そこには俺の予想の斜め上をいくものが積まれていた。
暗い荷車の中には2人の厳つい男性が座っているのと……幾つかの檻があり、その中にはボロボロの衣類を着た痩せ細った人々が、手枷を嵌められた状態で閉じ込められていた。
悠耶 「なるほど……犯罪者の護送?それとも奴隷ってヤツか?こりゃあ確かに食えねぇよな。」
男性A 「おい、コラ!何覗いてやがる!」
馭者 「だから言っただろ!あんたには売れねえって。それとも、荷物持ちの奴隷でも御所望ですかい?」
悠耶 「荷物持ち……」
『 荷物持ち 』……その言葉に、この世界に来る前の自分の姿を思い出してしまった。
下校時にイジメグループの連中の荷物を4人分運ばされ、入りたくも無いカフェに同行させられ、連中が帰ると言うまで無駄な時間を過ごしていた日々……
悠耶 「(そうか……あの頃の俺は、奴隷だったのか……そして、この人達はこれから何処かに売られて、俺と同じ……いや、俺以上の苦痛を強いられることになるのか……)」
馭者 「おい、兄ちゃん。聞いてるのか?」
馭者が呼びかけると同時に俺の肩を掴んだ瞬間……俺は振り返り様に、ロンパイアを右上から左下に向かって斜めに振り下ろした。
残心ってやつを感じている刹那、馭者の体に刻まれた傷跡から鮮血が噴き出した。
馭者 「ぎゃあああああああああっ!!」
男性B 「この野郎!何しやがる!!」
悠耶 「別に?ただ、奴隷を売買しているコイツやお前等が気に入らないだけだ。この世界の法っていうのは知らねぇけど……俺はお前等が嫌いだ。」
男性A 「ふざけるな、この野郎!」
荷馬車から跳び下りると同時に振り下ろされた長剣をロンパイアで受け止めて制し、そのまま距離を取って連中と対峙しる。
悠耶 「(そういや、ゴブリンの時は忘れてたけど……あいつ等のステータスを見ることができるのかな?)」
俺は素早く宙に長方形を描き、連中のステータスを表示した。
【 盗賊 A 】
レベル : 5
種族 : 人間
クラス : 盗賊
【 ステータス 】
HP 150 / 150 MP 5 / 5
攻撃力 40 ・ 守備力 70 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 10 ・ 素早さ 70 ・ 運 1
【 スキル 】
〇 逃げ足 : 自分よりレベルの高い相手から高確率で逃げることができる
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロングソード
アイテム :
—
—
—
【 盗賊 B 】
レベル : 9
種族 : 人間
クラス : 盗賊
【 ステータス 】
HP 270 / 270 MP 20 / 20
攻撃力 90 ・ 守備力 130 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 55 ・ 素早さ 110 ・ 運 6
【 スキル 】
—
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロングソード
アイテム :
—
—
—
悠耶 「(なるほど……盗賊Bの方が全体的にステータスは高めか。スキルは持ってねぇみたいだけど……)」
とりあえず、この時点でようやく確信した。自分のステータスが尋常じゃなく高いということに。
だって、今の俺とレベルが1つしか違わない盗賊Bのステータスがこれだぞ?俺の初期ステータスよりも低いじゃねぇか。
盗賊B 「何、黙り込んでやがる!それとも、俺達に敵わないと思って、観念したのか?」
俺の目の前に居るこいつ等は、自分が置かれている状況にまだ気づいてないんだろうなぁ……あぁ、もう。ニヤニヤしやがって……
悠耶 「御託は良いから斬り込んで来いよ。返り討ちにしてやるから。」
盗賊B 「このっ……調子に乗ってんじゃねえぞ!こらぁ!!」
盗賊Bが勢い良く剣を振り上げたと同時に、俺はロンパイアを横一閃に薙ぎ払った。
高々と振り上げられた盗賊Bの両手と首から上の部位が、ゴトッ……ボトッ……と音を立てて、剣と共に地面の上に落ちた。
盗賊A 「ひっ………ひぃぃぃぃぃ!?」
盗賊Bの体が前のめりに倒れたのと、盗賊Aが剣を放り捨てて尻餅を着いたのは、ほぼ同時だった。
盗賊A 「なっ……何で、駆け出しの冒険者が、こんなに強いんだ……!?」
悠耶 「待っててやるから、俺のステータスを確認してみな。魔力の才能がからっきし駄目なテメェでも、この世界の住人だっていうなら、それくらいのことはできるだろ?」
盗賊Aは尻餅を着いたまま、震える手で宙に長方形を描いて画面を呼び出し……俺のステータスを見たのだろう。全身の震えがより一層激しくなった。
暗くて顔色までは伺えないけど、十中八九……いや、ほぼ100% 真っ青になっているだろう。
盗賊A 「ひぎゃあぁぁぁっ!?何で……?何だ、このふざけたステータスは!?何で、こんな奴がこんな場所に……」
悠耶 「恨むんならテメェの運の低さを恨むんだな。ぷっ……運の数が1って……(笑)」
盗賊A 「いっ……嫌だ……頼む!殺さないでくれ!!」
悠耶 「悪いが、今はまだ俺の存在を世間に広めるつもりはないんでね……逃げ足とかいうスキルを持っているテメェをこのまま放置するわけにはいかねぇんだよ。」
盗賊 「やっ、やめっ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
人間、嫌悪感を抱いた相手に対してなら、こんなに冷静に……冷酷になれるんだな。正直、自分でも驚いてる。
俺は目の前で震える盗賊Aに向かってロンパイアを振り下ろし、彼の人生を終わらせた。
悠耶 「ふん。最初から期待してなかったけど……弱かったな。まぁいいや。さてと……残りの面倒事を済ましちまうか。」
俺は一時的にロングソードを手に取ると、荷馬車の中へと入った。
薄暗く狭い空間で中腰になりながら、檻の扉を閉じている鍵を1つずつ剣で破壊していった。
普通不可能に思えることでも、この世界に来て高い攻撃力のおかげで何とかなるのは、こういう時ありがたい。
そして1つずつ鍵を破壊していき、残す1つになった檻の中を覗いた時、そこに居た人物の姿に一瞬手が止まってしまった。
他の痩せた人達とは違う。褐色の肌に綺麗な銀色のロングヘアの若くて美しい女性が、膝を立てて……いわゆる体育座りの状態で、こちらを見つめていた。
悠耶 「お前……まぁいい、ちゃんと助けてやるけど、ちょっとそこで待ってろ。先に他の連中の方を片付けてくる。」
女性 「……( 頷き )」コクッ
俺は檻の中で荷台の中から出て、先に出ていた人々の方へ歩み寄る。
悠耶 「あんた等、此処から離れるのはちょっと待て。」
男性A 「?」
悠耶 「一刻も早く、此処から離れてぇだろうけど、その手枷を何とかしねぇとな。今からこの剣でソイツを砕くから、ジッとしてろ。」
俺は男性の腕を掴むと、荷台に両手を着かせる形で立たせた。
悠耶 「手を斬り落とされたくなかったら、動くなよ?俺を信じろ。」
俺はロングソードを持ち、剣先で手枷を軽く小突いてみると、案の定手枷はただの鉄の塊となって地面の上に落ちた。
男性A 「おっ……おぉぉ!自由だ……自由だぁぁぁ!!」
悠耶 「他の連中も解放してやるから、順番に並べ。割り込みとかくだらねえ真似する奴は手枷を砕いてやらねぇぞ。」
— 数分後 —
老若男女問わず、捕らわれていた人達全員の手枷を粉砕し終えた現在……
話を聞くと、彼等は1つの村で捕らえられたとか何とかで、この後は村に戻るか……新しい村を開拓するとか、方針は定まっていないらしい。
何にせよ、この場を去ると代表の人物が言ったので、ざっと見た感じ屈強そうな男性2人に盗賊共が持っていたロングソードを護身用に手渡した。
丁度東の空が明るくなってきた頃だったので、俺はそのまま一行を見送り……馭者が腰に携えていた短剣を持って、もう一度荷台の中に入った。
悠耶 「待たせたな。」
女性 「…………あの人達は、無事に解放できたのですか?」
悠耶 「あぁ。ついさっき、新天地を求めて去っていったよ。」
女性 「そう……ですか。よかった……」
悠耶 「あんたは、あの連中とは違うな……ちょっと、ステータスを確認させてもらっても?」
女性 「どうぞ。見られて困ることは何もありませんから……」
俺は俺の前で長方形を指で描き、中に居る女性のステータスを表示した
【 シルヴィア 】
レベル : 8
種族 : ダークエルフ
クラス : 射手 ( アーチャー )
【 ステータス 】
HP 2500 / 2500 MP 9500 / 9500
攻撃力 1500 ・ 守備力 4000 ・ 魔法攻撃力 8500 ・魔法防御力 5500 ・ 素早さ 780 ・ 運 160
【 スキル 】
〇 魔弾の射手 : 弓矢による攻撃に魔力を込めて、威力を上昇させることができる
〇 古代魔法の技術 : 魔法の効果が通常よりも強力になる
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
悠耶 「名前はシルヴィア……へぇ、ダークエルフなのか。」
すっかり慣れてしまった目で、もう1度シルヴィアをよく見てみると、エルフ特有の長い耳が見えた。
悠耶 「ステータスも高いじゃねぇか。そんなお前が何でこんな目に……?」
シルヴィア 「…………数日前、私が住んでいた……いえ、実際は他のエルフ達からは無視され、軽蔑されていたのですが……とにかく、住処にしていたエルフの里が、人間同士の争いの戦火に巻き込まれました。」
悠耶 「それでその時そのまま、人間に捕まったと……」
シルヴィア 「はい……一応、自分が住んでいた場所なので、守るために最後までそこに留まり、人間相手に戦ったのですが……途中で弓の弦が切れ、魔法の呪文詠唱中という無防備の時に……私は必死に他のエルフ達に助けを求めましたが、エルフ達は遠巻きに私を見るだけで、助けようとはしてくれませんでした。彼等の手には、まだ使える弓が握られ、矢筒にはたくさんの矢が入っていたというのに…………」
悠耶 「…………」
シルヴィア 「私がハイエルフからダークエルフの道に手を染めたのも、強力な力があれば里を守れると思ったからだというのに……ハイエルフの時には親しくしていた友人も、私がダークエルフになった瞬間、すぐに目に見える嫌悪を示して来ました……」
悠耶 「そっか……シルヴィア。俺は予定通り、このままお前を解放するが……話を聞いた感じ、戻る場所は無さそうだな。お前を見捨てて逃げたエルフ共がどこに新しい集落を作ったのかが判らないし……何より、自分を見捨てて逃げた奴等の元へ戻るような馬鹿な真似をするつもりは無いんだろ?」
シルヴィア 「それは……えぇ、そうですね。」
悠耶 「だったらさ、シルヴィア。お前さえ良ければ、俺の仲間になってくれねぇかな?」
シルヴィア 「私が……貴方の仲間に?……お誘いくださるのは嬉しいのですが、お断りさせてもらいます。」
悠耶 「ほぅ……理由は?」
シルヴィア 「先程から申している通り、私はダークエルフ……魔力を求めて暗黒神を崇拝し、堕落してしまった元ハイエルフです。そんな穢れた存在である私と一緒に居たら、貴方に迷惑が掛かってしまう……」
悠耶 「なぁんだ!そんなこと気にしてたのか。大丈夫、大丈夫!とりあえず、手を前に出してくれねぇか?その手枷を壊してやるから。」
シルヴィア 「……?はっ、はい……」
シルヴィアが檻の中でスッと両手を前に差し出し、俺も短剣を突き出して剣先で軽く手枷を小突いた。
パキンッ!と音を立てて、檻の中でシルヴィアを拘束していた手枷が粉々に砕けた。
悠耶 「その動くようになった手で画面を表示して俺のステータスを見てみな。」
シルヴィア 「?……わかりました。」
俺に言われた通りに手を動かし、画面を表示して俺のステータスを確認したであろうシルヴィアの表情に驚きの色が伺えた。
シルヴィア 「えっ……!?種族が魔王で、クラスが暗黒騎士……?それに、この高いステータス……貴方は一体?」
悠耶 「信じてもらえるかは分からないけど、俺は以前、この世界とは別の世界でイジメ……えっと、迫害を受けていてな。その辛さから自ら命を絶って、この世界に転生した。その時俺を迫害していた人間達への怒りや憎悪を引き継いで、人間と敵対する存在としてな……」
シルヴィア 「……それなのに、先程の人達は助けたのですね?」
悠耶 「まぁ、奴隷となって売られた後のことを考えるとな……俺も似たようなことをさせられていたから、何となく先の未来が分かっちまうんだよ。」
シルヴィア 「なるほど……」
悠耶 「回りくどい話をしちまったけど、要するに……俺も魔っていう人間と敵対してる立場で、穢れた存在だ。だから、シルヴィアが仲間になってくれたところで、何も変わることは無いんだよ。」
シルヴィア 「そうでしたか……わかりました。先程は申し出を断ってしまい、申し訳ございませんでした。私なんかで宜しければ」
悠耶 「『 私なんか 』って言うなよ。他のエルフのことは全然知らないけど……俺はお前が気に入ったから勧誘したんだ。改めて……俺の仲間になってくれるか?シルヴィア。」
シルヴィア 「もちろんです!このシルヴィア。残りの生涯を懸けて、ユーヤ様に尽くし、力になることを誓います!」
確かエルフって、めちゃくちゃ長寿じゃなかったっけ?
残りの生涯がどれだけあるのか知らないけど……そこまで仰々しくしてくれなくてもいいんだけどなぁ。
けど、まぁ……こんな美人が俺の仲間になってくれるという現実は、素直に嬉しい。
だから……
悠耶 「ありがとう、シルヴィア。頼りにしてるぜ。それと……俺はお前と対等な立場でありたいと思ってる。だから、そういう堅苦しいのは無しで……俺のやろうとしていることに疑問とかを感じたら、遠慮なく自分の意見をぶつけてくれ。」
シルヴィア 「そう……ですか?ユーヤ様がそう仰るなら……わかりました。こちらこそ、これから宜しくお願いしますね。」ニコッ
鍵が壊れた檻の出入り口が開き、そこから延ばされた手を俺は固く握り返した。
この世界に来て初めてできた仲間の存在というのは、本当に心強い。
シルヴィアのおかげで、この世界での生活を有意義に楽しく過ごせそうだ。
拠点の洞窟 ・ 玉座の間
悠耶 「…………」
シルヴィアを仲間にして戻ってきたら、拠点の通路に新しく横道ができていた。
もしやと思って、地図で確認してみると……この玉座のある空間まで一直線だった通路が、少しだけ枝分かれして行き止まりができていたりと、ちょっとした簡単な迷路みたいになっていた。
悠耶 「俺のレベルが上がって、シルヴィアを仲間にしたから、ダンジョンがちょっと複雑になったんだろうか?」
シルヴィア 「ユーヤ様、どうされました?」
悠耶 「ん?あぁ、いや……ちょっと、この拠点の全体図を確認してただけだ。自分の住んでいる場所で迷子になりたくねぇからな。」
シルヴィア 「そうでしたか。」ニコッ
優しく微笑むシルヴィアを見て、俺は改めて思う。
本当に、こんな美人がよく……よく俺の仲間になってくれたものだと!
あの時、シルヴィアは体育座りしていたからよく判らなかったんだけど……胸がメチャクチャデカい!
ゲームの攻略サイトなんかで 『 ダークエルフは普通のエルフよりもスタイルが良くて、胸が大きい 』 とか、ストレートに 『 エロフ 』 とか言われているそうだが
実際に本物を目の前にすると、『 なるほど!まったくもって、その通り! 』とも思う。まぁ、他のエルフはまだ見たこと無いんだけど……
シルヴィア 「ユーヤ様?」
悠耶 「すまん。ちょっと考え事を…………あっ、そうだ。シルヴィア。」
シルヴィア 「はい。」
悠耶 「ちょっと、その服を脱いでもらえるか?」
シルヴィア 「えっ?……えっ!?Σ( ; ゚ Д ゚) 」/////
褐色の肌の上からでも判るくらい、顔を真っ赤にしながらシルヴィアが少しだけ後ずさった。
当然の反応だと思う。今のは俺が言葉足らずだった。
シルヴィア 「ゆっ……ユーヤ様が望まれるのでしたら、私としてもやぶさかではないのですが、なにぶん出会ってからまだ日も浅いですし、そもそもまだ午前中でもあるのに、そんな」/////
悠耶 「すまん、今のは俺が悪かった。」
そういうやましい気持ちが無い……といえば、嘘になるけど……っていうか、日が沈んだ後なら、OKなのか?シルヴィア。
悠耶 「今、シルヴィアが言ったようなことをするつもりはない( 今は )。ただ……その……俺も詳しくはないんだけど、奴隷ってさ……烙印みたいなのを押されるって話を聞いたことがあってな。それがお前の身体にもあるのかを確認しておきたかったんだ。そのボロ雑巾みたいな服を捨てて、新しい服に着替えた時、見える場所に烙印があったらお前も嫌だろ?」
シルヴィア 「あっ……あぁ、そういうことでしたか。それなら、大丈夫です。私はまだ、烙印を押されていません。ユーヤ様の世界の奴隷制度がどのようなものかは存じませんが、この世界で烙印を押されるのは、買い取り先が決まった時で、『 その奴隷を買い取った人物の所有物 』 という証として烙印が押されるのです。」
悠耶 「そっか。じゃあ、シルヴィアはまだ綺麗な身体なんだな。」
シルヴィア 「その言い方もどうかと思いますが……はい。ユーヤ様が懸念されていることは、されていませんのでご安心を。」
悠耶 「なら、安心して近くの町に装備品を買いに行けるな。それじゃあ、早速……」
シルヴィア 「あの、ユーヤ様。町に買い物に行くのは一向に構わないのですが……私達が同時に此処を留守にしてしまった場合、誰が此処を守るのですか?今はまだ特にこれといった問題はありませんが、今後金品を貯蓄していくようになってから対処するというのも……」
悠耶 「確かに……今のトコロ、シルヴィア以外に仲間の目処なんてまったく無いからな…………あっ、そうだ。」
俺は思い出したように宙に長方形を描いて画面を呼び出し、所持していたアイテム ・ 【 魔獣の召喚符 】 を取り出す。
悠耶 「今こそ、コイツに頼らせてもらおう。」
シルヴィア 「ユーヤ様、それは……?」
悠耶 「こいつを使うと、特定のモンスターを呼び出して仲間にできるらしいんだ。これで俺達の留守を守ってくれる頼れる仲間を召喚する。」
確か、候補の中にグリフォンが居たはず。黄金や宝石を守る役目を担うなら、グリフォンが適任なんだろうが……正直、どのモンスターが来ても大当たりなんだよなぁ。
ハズレの無いガチャというのも珍しい。
そんなことを思いながら魔獣の召喚符をタッチすると、追加で 【 魔獣の召喚符を使いますか? 】 というメッセージと 【 はい 】 【 いいえ 】 の選択肢が出てきたので、迷わず 【 はい 】 の項目をタッチした。
すると魔獣の召喚符は俺の手から独りでに離れ、玉座の間の中心まで飛んでいくと、床に魔方陣を展開して……眩く光り輝きながら、小さく爆発した。
魔法陣の上に白い煙が立ち込め……魔法陣の中心に居たモンスターがゆっくりと動く。
シルヴィア 「ユーヤ様……!このモンスターは……」
悠耶 「あぁ……正直、俺も少し驚いてる……」
【 ケルベロス 】
ギリシャ神話に登場する3つの犬の頭と蛇の尻尾をもつ地獄の番犬。
冥界の入り口で見張っており、死者が冥界へ入る時は友好的だが、生きた人間が冥界へ入ろうとする時と、死者が冥界から逃げ出そうとする時は激しく吠えたて、貪り食うという。
キリスト教の文化圏では地獄の侯爵として描かれ、イタリアの詩人 ・ ダンテの 『 神曲 』 の地獄編にも登場する。
神曲に登場するケルベロスは地獄の第3圏 ・ 貪食者に居り、そこに落ちてきた罪人を3つの口で貪り食う。此処でケルベルスに食べられた罪人は排泄物となって排出された後地獄の泥と同化し、再生してはケルベロスに食べられるという責め苦を永遠に繰り返す。
【 ケルベロス 】
レベル : 1
種族 : 魔獣
クラス : 地獄の番犬
【 ステータス 】
HP 8500 / 8500 MP 6000 / 6000
攻撃力 4200 ・ 守備力 3800 ・ 魔法攻撃力 3300 ・魔法防御力 ・3500 ・ 素早さ 320 ・ 運 50
【 スキル 】
〇 地獄の門 : 生きている人間や魔物に対して、攻撃力が上昇する
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
—
—
—
—
【 飼い主 】 ユーヤ ・ シルヴィア
悠耶 「こりゃまた、随分と頼もしいヤツが来てくれたな……やったぜ。」
俺とシルヴィアの姿を確認したケルベロスの3つの頭がこちらを向き、律儀にお座りをした状態で、蛇の尻尾を左右にブンッブンッ振っている。
そして同時に 【 召喚したケルベロスに名前を付けますか? 】 というメッセージが表示された。
悠耶 「ケルベロスに名前か……」
いや、ケルベロスはケルベロスだろ。これ以上、どうニックネームを付けてやれってんだよ。
悠耶 「……シルヴィア、何か良い名前の候補はあるか?」
シルヴィア 「そうですね…………『 ケロちゃん 』 とか、どうでしょう?」キリッ!
悠耶 「うん、頑張って捻り出してくれたんだろうけど、アウトだな。」
このまま採用してしまって、3つの頭がいきなり関西弁を喋り出したら、もう目も当てられない。
とりあえず……良い案が思い浮かばず、『 ケルベロスはやっぱりケルベロスのままで 』 という結論に至り、【 いいえ 】 の選択肢を選んだ。
悠耶 「さてと!それじゃあ、早速で悪いんだけど……ケルベロス。シルヴィアの装備品を町に買いに行ってる間、留守番をお願いできるか?」
俺の呼びかけに、ケルベロスの3つの頭が同時に頷いた。
◆◆◆
ケルベロスに留守を任せて出発した翌日。
地図を頼りに拠点から西へと進み、【 ルーデンベルク 】 というそれなりに大きな町に到着した。
悠耶 「さてと……シルヴィア。先に服を何とかしようか。周囲の連中の目もあるだろうからな……」
シルヴィア 「そうですね。お気遣いありがとうございます。しかし……人間の作った服に、私が気に入るものがあるかどうか……」
とりあえず、シルヴィアを連れて目に入った服屋へ赴いてみる。
店員 「いらっしゃいませ。」
悠耶 「すまない。彼女の服を買いたいんだけど……お洒落というものに疎くてな。本人が気に入る物を選ぶまで、好きに見せてもらっても構わないだろうか?」
店員 「もちろんです!どうぞ、ごゆっくりお選びください。」
店員の女性はダークエルフを知らないのだろうか?それとも、徹底して営業スマイルを崩さないよう訓練されているのか……いずれにせよ、外見で人を判断しない彼女の居るこの店は気に入った。
もしかしたら、今後贔屓にするかもしれないので覚えておこう。
シルヴィア 「ふむ…………ほぅ、これはなかなか…………うん。店員さん、少し試着させてもらっても?」
店員 「はい。でしたら、どうぞ。こちらの試着室へ。」
女性の店員さんに促されて、シルヴィアの姿が白いカーテンの向こう側へと消えていく。
一体、どんな服を選んだんだろう?まぁ、出て来るまで適当に時間を潰すとするか。
— 数分後 —
シルヴィア 「ユーヤ様、お待たせしました。」
悠耶 「いや、そんなに待ってな……い……」
声がしたので振り返ってみたものの、視線の先に居たシルヴィアの姿を見て言葉を失った。
防具はこの後行く武器屋で纏めて買うつもりなのだろうが……その防具の下に着るつもりでいる普段着というのが、黒いレオタードの上から、袖の無い水色のジャケットを羽織っただけ ( + 茶色のブーツ ) という非常にシンプルでラフなものだった。
おそらく森にあったのであろうエルフの里での活動の名残から、俊敏に活動するための機能性重視で選んだコーディネイトなのだろうが……
明らかにサイズが合っていないのか、レオタードは全体的にピッチピチで、浮き出てはいけない部分が浮き出ていたり、後ろがTフロントになっていたりと……若くて健全な男性にとって、いささか刺激の強すぎる姿になっていた。
長く美しい銀髪も、赤いゴムでポニーテールにしている。それでも腰……いや、お尻の位置まで届いてるんだが……うなじが見えるのと見えないのとでは、やっぱり違うんだろうか?
シルヴィア 「どうでしょうか?ユーヤ様。」
悠耶 「あぁ……うん。その……ありがとうございます!」/////
シルヴィア 「えっ!?あっ、はい。どう……いたしまして?」
とりあえず、シルヴィア自身も気に入っているみたいだし、俺も気に入ったし……シルヴィアの衣装はそのまま着て帰るということで、一式纏めて購入した。
シルヴィア 「すいません、ユーヤ様。私の服なのに支払っていただいて……」
悠耶 「気にすんなって、必要経費なんだから。それじゃあ、続けてシルヴィアの武器と防具も買ってしまおうか。」
シルヴィア 「はい。」ニコッ
武器屋へ向かう道中、すれ違う男性達の視線がシルヴィアに向けられていたが……気にするのは止めておこう。
✝✝☥✝✝
武器屋
店主 「らっしゃい。」
様々の武器が陳列している壁の奥、カウンターの向こうに屈強な男性が丸太のような腕を組んで座っていた。
悠耶 「店主。彼女の武器を探してるんだが……えっと、弓でいいのか?」
シルヴィア 「はい。弓と矢筒、あと矢を数本頂ければ……あっ、小さいもので構いませんので、肩当てもあればそれもお願いします。」
店主 「あいよ!ちょっと待っててくれや。」
どうやらこの町の人達は気さくで良い人達が多いらしい。
これから先、人間に敵意を向けることもあるだろうが、どこか1つくらい物資を補給できる町を確保しておきたい。
拠点からも近いし、できるだけこの町の人達とは良好な関係を築いておくのが得策だろうな。
店主 「待たせたな。」
店の奥から戻って来た店主が抱えてきた物は弓と矢筒、青色主体に金色のレリーフで装飾された肩当てだけだった。
悠耶 「へぇ……この世界の弓って、小さいんだな。」
シルヴィア 「ユーヤ様の世界の弓は、これとは違うのですか?」
悠耶 「あぁ、うん。俺の知ってる弓は、これの倍くらい大きい。」
シルヴィア 「これの倍?御冗談を……そんな大きな弓が、戦闘で本当に活用できるのですか?」
確かに、俺の知っている弓っていうのは弓道で使っている和弓であって……実際に戦闘で使うなら、今シルヴィアが持っているような小さな弓の方が邪魔にならなくて良いんだろうな。
それに、弓道みたいにゆっくり矢をつがえたり、的を狙ってる暇なんて無いだろうし……こういう所で、やっぱり文化の違いというものを痛感する。
店主 「どれも新品で、特に弓はお嬢さんの手に馴染むには少し時間が掛かるだろうが……まぁ、大事に使ってくれや。」
シルヴィア 「はい!ありがとうございます。」
悠耶 「……ところで、店主。矢束もお願いしたんだが……在庫切れか?」
店主 「それなんだがよぉ……」
もう1度店の奥へと消えていった店主が、両脇に大量の矢を抱きかかえて持って来た。
店主 「矢の在庫が余っていて、困ってたんだ。矢の分の代金は要らねえから、できれば全部貰ってくれねぇかな?」
シルヴィア 「宜しいのですか!?これだけあれば、当分戦えます。」
悠耶 「そりゃ、くれるって言うんなら、ありがたく貰うけど……何でこんなに矢だけが余ってるんだ?」
店主 「いや……それが、最近町を訪れる連中は、剣だの槍だの、打撃武器だの……近接戦闘用の武器ばかり買っていきやがってな。連中に言わせると、 『 遠距離攻撃は魔法があるから、わざわざ使う必要が無い 』 んだとよ。」
悠耶 「なるほど、それで……わかった。」
俺は画面を呼び出し、アイテムストレージに入るだけの矢を投入した。
シルヴィア 「そういえば、ユーヤ様は防具は揃えないのですか?」
悠耶 「ん?あぁ、今回はお前の買い物がメインだからな。また金を溜めてから、改めて出直すよ。」
シルヴィア 「そうですか……ふふっ、ユーヤ様。ありがとうございます。」ニコッ
悠耶 「そういうわけだ、店主。今度また利用させてもらうよ。」
店主 「おうっ!毎度アリ!こっちこそ、矢束を引き取ってくれて、ありがとな。」
*****
買い物を全て終え、行きと同じだけの時間を費やして拠点まで戻って来ると……拠点の入り口でケルベロスがお出迎え。
拠点内の通路をあっちこっち歩き回った結果、此処に落ち着いたらしい。
しかも、ゴブリンが持っているような棍棒や短剣の他、羽毛や何かの牙が入り口の外側で散乱していたことから想像するに、おそらく夜間のうちにケルベロスは単独でこの辺りの生き物を狩って、経験値を稼いでいたようだ。
おかげで、ケルベロスのレベルは、一夜にして俺やシルヴィアに追いつくくらいまで上がり、拠点内の通路もより複雑になっている。
まったく……忠実に留守の拠点を守ってくれたのは良いけど、単独行動してる間によく他の冒険者に見つからなかったことだと思う。
悠耶 「お疲れ様、ケルベロス。この辺りはお前の縄張りにしていいから、今後も好きに過ごしな。ただし、外を通る冒険者には見つからねぇようにな。中に入って来た奴等には容赦は無用だけど。」
ケルベロス 「(U ・ ω・)U ・ ω・)U ・ ω・)” 」
シルヴィアの装備も整い、頼もしすぎる番犬も来てくれた。
しばらくは此処を中心に悠々自適に過ごしながら、レベルアップ中心の生活かな……
とりあえず、ケルベロスよりは高いレベルを維持しておかないと……飼い主としての威厳を保つために。
拠点の洞窟 ・ 周辺の森
シルヴィア 「…………ふっ!」
周囲をゴブリン共に取り囲まれている現在……シルヴィアは弓に5本の矢を番え、それを一斉に放って、矢1本につきゴブリン1匹の眉間のド真ん中を射抜くという離れ業をやってのける。
そして1度矢を放ってから、次の5本の矢を番えるのも非常にスピーディ。
俺もロンパイアで複数のゴブリン共を一度に始末していった結果……ものの数分で全ての敵の殲滅を完了した。
シルヴィア 「あの……ユーヤ様。」
悠耶 「ん?何だ?」
シルヴィア 「ユーヤ様って、魔王なんですよね?ということは、このゴブリン達魔族を統べる立場なのでは?こんなふうに討伐してしまって良いのですか?」
悠耶 「俺もそれは思ってたんだけど……連中から俺達に武器を向けてきてるからな。どっちが上の立場かも理解できねぇ残念なオツムの連中を配下に加えるつもりは無いよ。」
シルヴィア 「確かに、それもそうですね。無理やりゴブリンを仲間に引き入れずとも、ユーヤ様は私がお守りします!ケルベロスも居ることですしね。」
ケルベロス 「(U ・ ω・)U ・ ω・)U ・ ω・)” 」
悠耶 「あぁ、頼りにしてる……うっ。」
シルヴィア 「ユーヤ様!?」
軽い立ち眩みを起こし、倒れそうになったところをシルヴィアが支えてくれた。
シルヴィア 「大丈夫ですか?」
悠耶 「あぁ、うん。でも、おかしいな……?この世界に来たての頃は、ゴブリンの群れを倒したくらいじゃ息も上がらなかったのに……」
シルヴィア 「ユーヤ様のHPもMPも減っていませんし……何が原因なのでしょう?」
宙に画面を表示して、俺のステータスを表示したシルヴィアも、俺の体のどこにも異常が無いことを確認して首をかしげている。
悠耶 「とりあえず、ゴブリン共は始末できたし……ちょっと、玉座に座って休む。シルヴィアもケルベロスも好きに過ごしてくれていいぞ。」
シルヴィア 「はい……」
俺やシルヴィア、ケルベロスのレベルも上がり、拠点としている洞窟の通路は更なる枝分かれをして、新たに個室が2つ程増えた。
洞窟内も上り坂や下り坂が増え、このままいくと地下を含めて更なる多重構造の拠点になっていくだろう。
そんなことを地図を確認しながら考え、深い溜息を吐く。
何だろう?体が怠い……シルヴィアが診てくれたように、HPもMPも減っていない。状態異常にもかかってない……
それでも、もしかしたら 『 疲労 』 とかいう謎の隠しパラメーターでもあるのか?
悠耶 「ふっ……魔王が過労死ってか?馬鹿馬鹿しい。」
それでも、この謎の疲労感……いや、倦怠感ってやつになるのか?とにかく、体の怠さの正体と解決策の目処が付かないまま、自然と重くなり閉じようとする瞼に、全てを委ねた。
—————
??? 「うふふ♪ さぁ、今夜も楽しみましょう。」
誰だ?聞いたことのない声だ……いや、違う。俺はこの声の主を知っている。
??? 「でも、これ以上すると流石に死んでしまうかしら?」
そうだ……高校1年生の時に一目惚れしたものの、結局告白できなかったクラスの委員長の声だ……
??? 「せっかく見つけた濃厚な魔力と精力ですもの。これからも頑張ってもらわないと。」
おいおい、何言ってんだ委員長……あんた、清楚なキャラだったじゃねぇか。それを何だ……小さいお子さんだって見てるかもしれないんだぞ。
??? 「———————!———————ま!」
—————
シルヴィア 「ユーヤ様!」
悠耶 「……っ!?あれ……?シルヴィア?」
シルヴィア 「大丈夫ですか?何やら、うなされていたようですが……」
悠耶 「うなされてた?俺が?そんな馬鹿な……久しぶりに、ちょっと懐かしい夢を見ていたんだ。うなされるようなことなんて……その証拠にほら、俺のステータスには何の異常も……」
【 ユーヤ 】
レベル : 18
種族 : 魔王
クラス : 暗黒騎士
【 ステータス 】
HP 45000 / 45000 MP 100 / 12500
攻撃力 18000 ・ 守備力 17500 ・ 魔法攻撃力 17800 ・魔法防御力 17500 ・ 素早さ 950 ・ 運 37
【 スキル 】
〇 夜空への飛翔 : 悪魔の翼で空を飛ぶことができる
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロンパイア
アイテム :
—
—
—
悠耶 「うえぇぇぇぇ!?何で、MPこんなに減ってんの!?Σ( ; Д ) ゚ ゚ 」ガビーン
自分で自分のステータスを表示しておきながら、俺自身が凄く驚かされた。
こんな寝起きドッキリ、誰も望んでねぇんだよ!
シルヴィア 「MP残り100って、どういうことですか!?」
悠耶 「俺が知りたいわ!!え?何?俺、寝ぼけて無意識のうちに魔法を連発で放っちまったのか?それにしては、この玉座の間は綺麗だけど……」
シルヴィア 「そんな症状、聞いたこともありませんよ。ですが、これでユーヤ様の謎の疲労の原因が判りましたね。ユーヤ様は何者かによって、知らぬ間にMPを奪われていたんですよ。MPは寝ている間に確かに回復しますが……これだけの量を1度に奪われているのですから、疲労感や倦怠感が残り、立ち眩みを起こすのも当然です!」
悠耶 「でも……一体誰が?シルヴィアやケルベロスがそんなことするハズもないし、この世界で敵対している勢力も今のトコロ無い。仮に侵入者が居たとして、何処から入ったのか……いや、そもそも入り口近くにいるケルベロスを突破できるとは思えない。」
シルヴィア 「……………ユーヤ様。私に考えがあります。」
悠耶 「それ、駄目なフラグ……」
シルヴィア 「大丈夫です!私を信じてください!とりあえず……ユーヤ様はこの後、そのままお休みください。」
悠耶 「……わかった。シルヴィアを信じるよ。」
————————
その後……割とすぐに、また瞼が重くなったので、本能に従ってそのまま目を閉じる。
悠耶 「(さて……シルヴィアには何か考えがあるみてぇだけど、一体何をするつもりなのか……?)」
??? 「おじゃましま~す♪ 」
悠耶 「(この声……あぁ、また委員長の夢か……どんだけ、未練がましいんだよ、俺!)」
??? 「さっきは邪魔が入って、最後までできなかったけど……こうして、また寝てくれているなら……あら?」
悠耶 「(ん?)」
??? 「あら……あらあらあらあら♪ この人ったら、私のためにこんなに沢山の精液を用意しておいてくれるなんて!」
悠耶 「(はぁぁぁ!?いや、そんな……馬鹿な!?全然身に覚えが無いんですけど!?え?シルヴィア、あいつマジで何したの!?)」
シルヴィア 「そこまでです。ユーヤ様、起きてください。」
悠耶 「(ん?シルヴィアの声……?)」
——————
夢の中でシルヴィアに起こされたような気がした……
とりあえず、声に従って目を開けてみると……俺の目の前には、全く見知らぬ黒色ショートヘアの女の子が、両手でコップを持って膝立ちしており、その背後でシルヴィアが女の子の背後で弓矢を構えていた。
女の子をよく見てみると、頭には黒い羊のもののような角が、背中には俺がスキルで呼び出すような悪魔の翼が、おそらくお尻の上辺りから一般的な悪魔のイメージ図でよく見かける細くて長い尻尾が生えており
その……どう説明したらいいんだろう?黒色の危ない紐水着で必要最低限の部分だけを隠した、とても露出度の高い官能的なコスチュームを着ている。
しかも、シルヴィアに負けず劣らず、豊満な胸を持っておられるようで……ただでさえ際どいコスチュームなのに、その胸の部分が思いっきり引っ張られていて、余計に危ないことになっている。
シルヴィアのレオタードに続き、これまた若く健全な男性には刺激が強すぎるぜ。まったく……いや、というより
悠耶 「え……?何、この状況……っていうか、あんた誰!?」
シルヴィア 「おはようございます、ユーヤ様。彼女が今回の件の犯人である、サキュバスです。」
悠耶 「サキュバス!?」
【 サキュバス 】
夢魔とも呼ばれる。男性の夢魔をインキュバス ( 上に圧し掛かる者 )、女性の夢魔をサキュバス ( 下に寝る ) という。
夢を使って人間に忍び寄り、夢の中で徹底的に快楽を覚えさせ、人間を堕落への道に引きずり込む。
サキュバスは睡眠中の男性の理想とする女性の姿に変身して誘惑し、交わり、悪魔や精霊を生むための精子を採取する。
悠耶 「(だから、委員長の夢を頻繁に見ちまってたのか……今はシルヴィアも居てくれるし、早めに向こうの世界のことは忘れた方が良いな。)」
シルヴィア 「貴女、どうしてユーヤ様に近づいたのですか?正直に答えなさい。さもなくば、このまま……」
サキュバス 「ちょっと待ってよ!別に深い意味は無いの!ただ、男性を探して彷徨っていたら、素敵な魔力と精力の持ち主が無防備に寝ているのを見つけて……つい……」
シルヴィア 「つい……ではありません!貴女のその軽率な行動のせいで、ユーヤ様のMPが枯渇しかけたのですよ!いくら寝ればMPが回復するとは言っても、その度に貴女が奪い取っていたのでは、負の堂々巡りではありませんか!」
悠耶 「まぁまぁ……そういや、夢の中でそのサキュバスの子が、何かその……精液を手に入れて喜んでたような気がしたんだけど……」
俺の視線は再び、サキュバスが両手で持っているコップの中へ向けられる。
確かにコップの中には白い液体が溢れんばかりに入っているが……マジで、俺……やっちゃったのか?
シルヴィア 「ご安心ください、ユーヤ様。その液体はただの牛乳です。」
悠耶 「え……?牛乳?」
シルヴィア 「サキュバス撃退法の1つです。枕元に牛乳の入ったコップを置いておくと、彼女達はそれを、その……せっ、精液と間違えて喜んで持って行くので、当の本人は難を逃れられるというわけです。」
悠耶 「なるほど、そういうことか。」
サキュバス 「あっ……あの……それで、私はこの後、どうなってしまうのかしら?」
シルヴィアに矢を突き付けられた状態のまま、サキュバスが震えながら口を開いた。
シルヴィア 「そうですね……本来なら、2度とユーヤ様に手出しできぬよう、拷問でその体に覚えさせても良かったのですが……そういった道具は此処にありませんので……」
悠耶 「今のところ、そういうモンを導入する予定は無いんだけど……」
シルヴィア 「ここは被害者であるユーヤ様に、貴女の処遇を決めていただきましょう。さぁ、ユーヤ様。」
悠耶 「そうだな……確かにMPは奪われて、疲労感はあったけど……それだけだ。いや、これが続いてたら俺の命が危なかったのか……?ちょっと、失礼。」
俺は宙に長方形を描き、画面を呼び出してサキュバスのステータスを確認する。
【 アンネリー 】
レベル : 12
種族 : サキュバス
クラス : 魔法使い ( 意味深 )
【 ステータス 】
HP 7500 / 7500 MP 12000 / 12000
攻撃力 6500 ・ 守備力 8200 ・ 魔法攻撃力 14000 ・魔法防御力 13700 ・ 素早さ 1450 ・ 運 460
【 スキル 】
〇 夜戦主義 : 夜間戦闘で攻撃力、魔法攻撃力が上昇する
〇 傾国の美女 : 異性 ( 男性 ) から受けるダメージを軽減する
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
悠耶 「(魔法使い( 意味深 )って何だ?魔法使いになれるのは男性だけじゃないのか……?まぁいいや。)えっと、アンネリー。」
アンネリー 「はい。」
悠耶 「えっと……俺達の仲間になってくれないかな?」
アンネリー 「え……?」
シルヴィア 「ユーヤ様!?まさか、既にこの者に篭絡されて……くっ!やはり、今此処で彼女の命を……」
悠耶 「違う!違う!そういうんじゃないから!純粋に、アンネリーの能力を見て、スキルも強そうなものを持っていたんでね……」
俺は手招きしてシルヴィアを呼び、アンネリーのステータスを見せる。
シルヴィア 「あら……本当ですね。この周辺で鍛えていた私達との差はありますが、そこまで大きなものではないですし……確かに、彼女なら即戦力になってくださるかと。」
アンネリー 「え……?えっと、そんなことでいいの?私、あなたに酷いことをしたのに……」
悠耶 「酷いことっつっても、それはサキュバスの本能で……やらなきゃ生きていけねぇんだろ?だったら、俺はこの事に関しては不問にするつもりだ。それどころか、俺が死なない程度になら、その……許可しても良いとも考えてる。」
シルヴィア 「ユーヤ様が決めたことであるなら、余程酷いことにならない限り、私もとやかく言うつもりはありません。あとは、アンネリー……貴女の返答次第です。」
悠耶 「そういうわけだ。俺を割と精神的に( MP的な意味で ) 追い詰めた罪……その身体で働いて返してもらおうと思うのだが……」
アンネリー 「何よそれ……そんな風に誘われたら、断れないじゃない。いいわ!貴方達の仲間になってあ・げ・る ♡ 心配しなくても、都合が悪くなったからといって、裏切るような真似だけは絶対にしないわよ。うふふ……♪ よろしくね。御主人様、シルヴィア。」
こうして、ひょんなことから俺の生命力を賭して新たに1人の仲間を迎えることができた。
この先、余程のことが無い限り大丈夫だとは思うが……【 魔王が床上死した! 】なんて不名誉なことにならないためにも、アンネリーとの接し方をよくよく考えていこうと思う。
拠点の洞窟 ・ 玉座の間
悠耶 「ん~……」
シルヴィア 「どうされました?ユーヤ様。」
悠耶 「シルヴィア、ちょうど良かった。実は今、世界地図を見ていたんだけど……」
俺は宙に表示した、この大陸全体の地図をシルヴィアにも見せる。
悠耶 「今、俺達の拠点の場所と、最寄にしているルーデンベルクの町の位置を確認していたんだけど……この大陸の王都って何処かわかる?」
シルヴィア 「王都ですか?それでしたら、現在私達の居る此処から、ちょうど反対側……東の果ての、此処です。この【 マキアイデル 】に王族が住む城があります。ですが、どうして、そのようなことを……?もしかして、人間共に宣戦布告ですか?」
悠耶 「いずれはそう……するのかな?先の予定はまだ未定だけど、ちょっと気になることがあってな。」
シルヴィア 「気になること……とは?」
悠耶 「何かがきっかけで、その王都に俺達の存在を知られた場合、異界から 『 勇者 』 とか呼ばれる連中を召喚される恐れがある。」
今のトコロ、この洞窟を訪れる奴等は入り口の段階でケルベロスが撃退してくれているが、いつ、どこから情報が洩れるか判らない。
いや……シルヴィアやアンネリーが情報を洩らすなんて思ってないんだけどな。
せっかく、この世界で第2の人生を歩み始めたばかりだというのに……早々に存在がバレて、編成された討伐隊と戦って、最悪敗れでもしたらと思うと、少し慎重になってしまう。
シルヴィア 「過去にそのような事例はありませんでしたが……異界から参られたユーヤ様がこうして存在する以上、そういった可能性も今後生じるかもしれないのですね。」
悠耶 「そういうこと。まぁ、勇者がどうかはともかく、討伐隊みたいなのは組まれるだろうな。」
アンネリー 「ちょっと、もぅ!此処を象徴する2人が揃いも揃って辛気臭い顔して……何?シルヴィアの月の物でも止まった?」
地図を見る俺とシルヴィアの背後から、ハイヒール状のブーツの靴底を鳴らしながらアンネリーが歩み寄って来た。
しかし、月の物って……エルフであるシルヴィアにもあるのだろうか?
シルヴィア 「昼間から何を言っているのですか、貴女は!?私はまだ、ユーヤ様とそんな……」/////
アンネリー 「うふふ♪ ちょっとした冗談じゃない。本気にしちゃって、シルヴィアちゃんったら、かぁわいい♡ 」
シルヴィア 「あまりふざけたことを言うようでしたら、いくら仲間である貴女といえど、その眉間を射抜きますよ?」
アンネリー 「あら、怖い。それで?本当は何をしていたの?御主人様。」
俺の背後から両手を回してアンネリーが抱き着いてくる。
同時に、俺の背中に彼女の豊満な胸の適度な重みと柔らかさが伝わってくる。
悠耶 「いっ……いや、その……今後の活動で面倒になるのは何処だろうなぁって……」/////
アンネリー 「ふぅん。それで王都にマークが付けられたわけね。それなら、もう1つ注意しておかないといけない場所があるわ。」
アンネリーが指差した場所は王都・マキアイデルよりやや北西に位置する町だった。
規模でいえばルーデンベルクの町より、やや大きい感じの町だ。
悠耶 「この町はえっと……【 オルディア 】?」
シルヴィア 「なるほど……教団ですか。」
悠耶 「教団?」
シルヴィア 「はい。オルディア教団……この大陸で広く浸透している神話や法典、その中に登場する光の神々を崇め奉る宗教……それら全てを管理し各地で布教活動を行っては、信者を増やしている集団。その総本山である大聖堂が、この町にあるのです。」
悠耶 「なるほど……神様の御加護を受けた神聖な連中が大量にそこに居るわけか。そりゃ、魔族である俺やアンネリーや、暗黒神崇拝しちまったシルヴィアからしちゃ、最悪の地だな。」
アンネリー 「だから此処には余程のことが無い限り、手を出さない……いいえ、近寄らない方が良いわ。たとえ美男美女が居たとしてもね。」
とりあえず、シルヴィアとアンネリーのおかげでなるべく近づかない方が良い場所の特定はできた。
早い話、この後々面倒になる2ヶ所から遠く離れた場所であるなら、割と何をしようと 【 力 】 で対処できるということだ。
悠耶 「そういえば……先日レベル20になった時に、新しいスキルと魔法を覚えたんだっけ。」
俺は自分が新しく得た力をまだ確認していなかったことを思い出し、自分のステータスを確認する画面を表示する。
【 ユーヤ 】
レベル : 25
種族 : 魔王
クラス : 暗黒騎士
【 ステータス 】
HP 120000 / 12000 MP 75500 / 75500
攻撃力 34000 ・ 守備力 29000 ・ 魔法攻撃力 31800 ・魔法防御力 27500 ・ 素早さ 1120 ・ 運 60
【 スキル 】
〇 夜空への飛翔 Lv Ⅱ : 悪魔の翼で空を飛ぶことができる / スキル所持者の意思で自在に翼の出し入れが可能
〇 束縛からの卒業 Lv Ⅰ : 封印 ・ 束縛系の神聖術を受け付けない
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロンパイア
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Crazy Black hole MP消費 : 20 属性 : 闇
黒い球体を地面に投げつけて攻撃。 地面で展開された黒い渦が周囲のあらゆるものを吸引する
ただのブラックホールだけでも相当ヤバいってのに、御丁寧に 【 クレイジー 】の文字まで付けてくださって……正直、威力が計り知れない。
いや、説明が 『 吸引する 』 で終わってるってコトは……吸い込んだら、終わりなのだろうか?
まぁ、それはおいおい試していくとして……スキルが新たにレベル制になっていて、【 夜空への飛翔 】の効果が増えているところを見ると、上限は判らないけど、レベルを上げればより強力になることに違いはないんだろう。
……っていうか、もうこの時点で 『 絶対に封印されない魔王 』 という、ある意味最悪な存在が誕生していた。
シルヴィア 「流石、ユーヤ様!人間の小賢しい神聖術対策は万全なのですね!」
悠耶 「いや、まぁ……うん。そうなんだけど、さすがに強力すぎるっつうか……」
アンネリー 「気にしなくて良いんじゃないかしら?強くて困ることなんて、あんまり無いんだから。」
悠耶 「……それもそっか。ところで、2人は何か新しいスキルや魔法は覚えたのか?」
シルヴィア 「あっ、私も新しく魔法を覚えました。」
アンネリー 「あら?スキルで魔法強化の恩恵を受けれるみたいなのに、魔法をまだ1つも使えなかったの?」
シルヴィア 「はい。ダークエルフになった時から、ハイエルフの頃に習得した魔法は使えなくなってしまい、今までは矢に魔力を込めて威力を上昇させていたので……ちゃんとした魔法は本当に久々です。」
悠耶 「へぇ!ちょっとステータスを見せてもらうぞ。」
シルヴィア 「はい、どうぞご覧になってください。」
【 シルヴィア 】
レベル : 23
種族 : ダークエルフ
クラス : 射手 ( アーチャー )
【 ステータス 】
HP 14000 / 14000 MP 130000 / 130000
攻撃力 7500 ・ 守備力 32000 ・ 魔法攻撃力 44600 ・魔法防御力 31800 ・ 素早さ 2400 ・ 運 320
【 スキル 】
〇 魔弾の射手 Lv Ⅰ : 弓矢による攻撃に魔力を込めて、威力を上昇させることができる
〇 古代魔法の技術 Lv Ⅱ : 魔法の効果が通常よりも強力になる / 呪文詠唱の時間が短くなる
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 弓 ・ 矢 × 550
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 οφθαλμαπάτη στρατός 消費MP : 10 属性 : —
幻影兵を数体作り出し、敵を攻撃させる。
よっ……読めねぇ。( ; ゚ Д ゚)
魔法の効果は理解したけど……何?古代魔法とかになると、こんな難解な文字になるのか?
……うん。訊くは一時の恥、訊かぬは一生の恥だ。
悠耶 「……なぁ、シルヴィア。お前の魔法……これ、何て読むんだ?」
シルヴィア 「はい。これで 【 オフサルマパティ ・ ストラトス 】 と読みます。直訳すれば 『 幻想陸軍 』です。」
アンネリー 「この幻影兵っていうのは、何人くらい作れるの?」
シルヴィア 「そうですね……まだ、覚えたばかりですので試していないのですが、現時点ではおそらく15体……スキルの恩恵を得られて、30体というところでしょうか。」
悠耶 「何かもう、小さな村ならシルヴィア1人で制圧できそうだな。」
シルヴィア 「勿体なきお言葉。ですが……できるなら、行動する時は可能な限りユーヤ様やアンネリーと一緒が良いです。」
背の高い美人のダークエルフが体の前で弓を両手で持ち、小さく体をモジモジさせている……可愛いやつめ。
でも、ただ単に一緒に居たいって理由もあるかもしれないけど、シルヴィアの戦い方的に、前衛で盾になる奴が居ないと少々厳しいことになるんだろう。
アンネリーも魔法タイプだし、可能な限り俺が守ってやらねぇとな。
悠耶 「それじゃあ、次はアンネリーのステータスを見せてもらおうかな?」
アンネリー 「私の?別に構わないけど……先日とあまり変わってないわよ?」
【 アンネリー 】
レベル : 18
種族 : サキュバス
クラス : 魔法使い ( 意味深 )
【 ステータス 】
HP 18500 / 18500 MP 23000 / 23000
攻撃力 14500 ・ 守備力 16000 ・ 魔法攻撃力 25000 ・魔法防御力 21400 ・ 素早さ 2240 ・ 運 530
【 スキル 】
〇 夜戦主義 Lv Ⅰ : 夜間戦闘で攻撃力、魔法攻撃力が上昇する
〇 傾国の美女 Lv Ⅰ : 異性 ( 男性 ) から受けるダメージを軽減する
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Ignite Javelin 消費MP : 10 属性 : 炎
炎の投擲槍を作り出し、敵を貫いてダメージを与える
悠耶 「あっ!そういえば、アンネリー……お前、武器を持ってねぇけど、何か所望があるなら言ってくれよ?ルーデンベルクで買って来るから。」
アンネリー 「あら?御主人様がわざわざ行かなくても、私が自分で……」
シルヴィア 「そんな裸同然の姿で公の場に出るつもりですか?サキュバスである貴女はそれでも良いのかもしれませんが、ユーヤ様の品位が疑われてしまいますので、大人しくケルベロスと一緒に留守番していてください。」
そういうシルヴィアも、後ろから見たらお尻丸出しだぞ……と、思っても言わない俺の優しさ。
悠耶 「まぁまぁ、それで?別に無理にとは言わないけど、希望があるなら可能な限り用意するぞ?」
アンネリー 「そう?じゃあ、私。鞭が欲しいわ。」
悠耶 「ムチ?」
俺はてっきり一般的な悪魔が持ってるような処刑鎌を所望してくると思ってたんだが……あぁ、でも、昔やったゲームにでてきたグレートデーモンってヤツは確か鞭を持ってたな。
しかし……アンネリーのこの格好で、鞭を所持か……一部の特殊性癖の持ち主は喜びそうだな。まったく、痛いのが快感とか……意味がわからん。
シルヴィア 「なるほど……鞭を相手の体に巻き付けて動きを止めてから、魔法を叩きこむんですね。」
悠耶 「そっか。叩く以外にもそういう使い方ができるのか。」
アンネリー 「それで……どう?御主人様。お願いできるかしら?」
悠耶 「もちろん。鞭1つだけなら、嵩張らないだろうし……ちょっと町に行って、買って来るよ。」
シルヴィア 「ユーヤ様。留守は私達にお任せを。せっかくですし、どこかで魔法の試し撃ちでもされてきては、いかがでしょう?」
悠耶 「……そうだな。此処で試したら、2人を……規模がわからないから最悪、入り口付近に居るケルベロスまで巻き込むかもしれねぇもんな。わかった、ついでにちょっと試してくるよ。」
アンネリー 「えぇ。私も鞭が急いで必要というわけでもないし、ゆっくりしてきていいわよ、御主人様。」
*****
拠点を出て、地図を見ながらやや西南の方角……地図上でいうところの西の果てまでスキルを使って飛んで移動し、枯れ木や枯草だけが生えている以外は生き物がまったく居ない不毛の地の真上へやってきた。
悠耶 「此処なら誰かを巻き込むこともないだろう……って、魔王が言う台詞じゃねぇよな。さてと……【 Crazy Black hole 】!!」
技名を唱えた俺の掌に、小さな黒い球体が靄を発しながら出現した。
悠耶 「えっ?小さっ!( ; ゚ Д ゚) えっと……これを地面の上に落とせばいいのか?」
俺は掌を下に向けると、球体は重力に従ってスーっと落ちていって……地面に接触した( と思われた )瞬間、球体は楕円形に大きく渦巻きながら展開し、物凄い勢いで周囲の物を渦の中心へと引き寄せていく。
枯草は宙を舞いながら、枯れ木や大きな岩なども、根元から地面をゴッソリと抉り取られた状態で渦の中心へと吸い込まれていき、大体1分が経過した頃……ブラックホールは自然消滅し、周囲は文字通り 【 何も無い状態 】 になっていた。
悠耶 「これは……狭い場所で使ったら、1撃必殺技だな……少なくとも、シルヴィアやアンネリー、ケルベロスの居る場所では絶対使わないでおこう。」
一望できる場所を何も無い更地へと変えた自分の新技の威力を確認した後、ルーデンベルクへと方向転換した。
この技は連発したり、乱発する技じゃないな、うん……
拠点の洞窟 ・ 玉座の間
シルヴィア 「ユーヤ様。あの、意見具申よろしいでしょうか?」
玉座に座り、ステータスや地図を確認していた俺の前に、姿勢良くシルヴィアが立って口を開いた。
悠耶 「ん?あぁ、うん。そんな畏まらなくても良いから、遠慮なく発言してくれ。」
シルヴィア 「そうですか?では……ユーヤ様、いつまでこの洞窟で生活されるおつもりですか?」
悠耶 「え?」
シルヴィアの質問に、思わず言葉を詰まらせてしまった。
だって、他に当ても無いし……初期スポーン地である此処でずっと生活するつもりでいたからだ。
悠耶 「えっと……俺としては、ずっと此処で過ごすつもりだったんだけど……駄目?」
シルヴィア 「いえ、ユーヤ様がそのつもりだったのでしたら!ですが、私やアンネリー、ケルベロスは確かに洞窟暮らしでも苦を感じることはありませんが、魔王であるユーヤ様をこんな地下奥深くに居座らせるというのも……」
悠耶 「そうか?魔王ってのはダンジョンの1番奥で居座る存在じゃないのか?」
また少し、俺とシルヴィアとの間で常識のズレが生じたような気がした。
俺は漫画やゲームからの知識で 『 魔王はダンジョンの最深部で勇者を待ち構えるもの 』 と思い込んでしまっているが、これまで魔王という存在が居なかったこの世界では、その扱い方も変わってくるんだろう。
アンネリー 「御主人様。つまりシルヴィアは、『 こんな薄汚い洞窟で過ごすより、もっと相応しいお城で生活した方が良いんじゃないか? 』 って言いたいのよ。」
シルヴィアに助け舟を出すように、奥の通路からアンネリーが入ってきた。
悠耶 「そうなのか?シルヴィア。」
シルヴィア 「いえ、その……薄汚いとまでは思っていませんが……!はい……概ねアンネリーが言った通りです。」
悠耶 「ん~……城かぁ……」
アンネリー 「あら?良いじゃない、お城暮らし。何か問題でもあるの?」
悠耶 「いや、俺も魔王になった時から、ちょっと城暮らしってのに憧れてはいたんだけど……地図を見た感じ、昔の戦とかで使われた古城や簡易拠点みたいなのが見当たらなくてな。無いなら新しく作るかとも考えていたんだけど、城を建てられるような場所がどこにもない。」
魔王らしく人間の住んでいる町を襲撃して城を奪うか?とも考えたが、今のステータス的に後れを取るつもりはないけど、何が起こるか分からないのが戦争というもの。
襲撃の段階でシルヴィアやアンネリー、ケルベロスの誰かが運悪く欠けてしまったら?戦争に勝っても、それでは何の意味も無い。
その結論が出た時、俺の頭の中から 『 襲撃 』 の2文字が消えた。
シルヴィア 「ユーヤ様。城を建てる場所ならあります。お忘れですか?先日、ユーヤ様が魔法を試された最西端の荒野のことを。」
悠耶 「あ……あぁ~……」
そういえば、【 Crazy Black hole 】を試したあの荒野……今は文字通り、草木が1本も生えていない、不毛の更地になってたんだっけ。
アンネリー 「御主人様のおかげで、あそこは今、この大陸で唯一生物が居ない場所になっているわ。他の誰かが余計なことをする前に、早々に行動するべきじゃないかしら?」
悠耶 「…………そうだな。よし!シルヴィアとアンネリーは此処に居る間に貯まった金品や宝石を残すことなく集めてくれ。俺はこの玉座や使えそうな物を回収してから入り口に向かう。他の連中の目に付かない夜間のうちに、件の荒野まで移動するぞ!」
シルヴィア ・ アンネリー 「「はい!!」」
— 数分後 —
【 ケルベロス 】
レベル : 20
種族 : 魔獣
クラス : 地獄の番犬
【 ステータス 】
HP 156000 / 156000 MP 20000 / 20000
攻撃力 29000 ・ 守備力 26700 ・ 魔法攻撃力 33400 ・魔法防御力 ・29500 ・ 素早さ 2900 ・ 運 260
【 スキル 】
〇 地獄の門 Lv Ⅱ : 生きている人間や魔物に対して、攻撃力が上昇する
〇 鋼鉄の毛皮 Lv Ⅰ : 物理攻撃によって受けるダメージを軽減する
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
魔獣の首輪 ( 防御力 + 500 ・ 魔法防御力 + 500 )
—
—
—
【 魔法 】
〇 Abyss Flare 消費MP : 20 属性 : 炎
地面から断続的に黒炎の柱を噴出させて、敵を攻撃する。
【 飼い主 】 ユーヤ ・ シルヴィア ・ アンネリー
悠耶 「本当に強くなったな、お前。」
ケルベロス 「(U ・ ω・)U ・ ω・)U ・ ω・)” 」
シルヴィア 「ユーヤ様、お待たせしました。」
拠点の入り口でケルベロスと戯れていると、洞窟の中からシルヴィアとアンネリーが大きな革袋をそれぞれ1つずつ抱きかかえながら出てきた。
悠耶 「よし。じゃあ、1つは俺が持つ。もう1つはケルベロスに乗るシルヴィアが、責任をもって管理してくれ。」
シルヴィア 「承知致しました。」
アンネリー 「うふふ。それじゃあ、早速出発しましょう。」
悠耶 「あぁ……長い間、世話になったな。」
俺は長い間使っていた洞窟の拠点に費やしていた……というより、仲間が増える度に勝手に増えていた 【 コスト 】 を全て回収し、洞窟の中が俺が1人だった頃の 『 奥の空間と直線通路 』 に戻ったのを確認した後、仲間達と不毛の荒野へ向かった。
*****
大陸最西端 ・ 不毛の荒野
先日、俺が魔法を試した時のまま……あれから何者も近寄っていないのだろう。相変わらず草木は生えていないし、抉れた地面はそのままだった。
悠耶 「さてと……此処まで来たはいいが……」
正直、俺に建築センスというものは皆無といっても過言ではない。
並の工作ならまだ小手先でどうにかできるけど、一生ものの家を……しかも、城を建てるとなると、話が変わってくる。
とりあえず、何か頼れるものはないかとメニューを表示すると、【 建造 】 の2文字が追加されていることに気付いた。
他にそれらしいものも見当たらないし、術もないので、 【 建造 】 の文字をタッチすると、更に追加で 【 家 】 と 【 城 】 の2つの選択肢が表示された。
今回は城を建てたいので 【 城 】 をタッチすると、 【 自分で建てる 】 と 【 カタログを見る 】 という、何ともありがたい御都合主義な追加表記が出たので、俺は迷わず 【 カタログを見る 】 の文字をタッチする。
すると、幾つかの明るい感じのする城や、禍々しい感じのする城が表示された。
最初はこの世界の基本的な建造物なのかと思って見ていたが、そうじゃない……俺は今、表示されているこの城を見たことがある。
そうだ……間違いない。ここに表示されているのは、俺がTVで観たり、プレイしたゲームに登場した城だ。
現に、明るい感じのする城は、俺がやり込んだゲームで主人公達の拠点になっていた場所だ。
悠耶 「マジか……」
シルヴィア 「どうされました?ユーヤ様。」
悠耶 「あぁ、うん……何でもない、大丈夫。それじゃあ、まずは2人の希望を聞こうかな。」
アンネリー 「私達のって……御主人様の城を建てるのでしょう?」
悠耶 「そうなんだけど、これだけ広い土地があるんだ。シルヴィアが建てたい城、アンネリーが建てたい城、俺が建てたい城を合体させても、まだ土地が余るぜ。建造に必要なコストが足りなくなったら、また貯めれば良いんだし……な?」
正直、俺が選んだ明るい感じのする城を優先するより、2人が選んでくれた物の方が、まだ魔王として威厳のあるものになる気がする。
他力本願かもしれないが、ここは2人の力を借りよう。
シルヴィア 「そうですか……わかりました!では、私から先に選ばせていただきますね。」
そう言いながら俺の隣に立ったシルヴィアがカタログから城を選ぶと、 【 配置場所 】 と 【 素材 】 について選ぶ項目が出現した。
悠耶 「無駄に凝ってるな……シルヴィア。素材と配置場所は俺に任せてもらっても良いかな?」
シルヴィア 「もちろんです!お願いします、ユーヤ様。」
シルヴィアの許可を得ることができたので、此処から俺の自由にカスタマイズさせてもらおう。
といっても、やることは簡単で、シルヴィアの選んだ城を、正面から見た時に左側になるように配置して、素材を【 黒曜石 】 にする。
すると、シルヴィアが選んだ、ドイツにあるノイシュヴァンシュタイン城のような城が黒曜石造りで、指定した場所に出現した。
悠耶 「よし、次はアンネリー。好きなのを選んでくれ。」
アンネリー 「本当に良いの?何かもう、シルヴィアが選んでくれたお城だけで充分な気もするのだけれど……」
悠耶 「まぁ、俺達3人とケルベロスが住むだけだから、確かに無駄なことをしてるのかもしれない。でも、今後仲間が増えたり、敵を撹乱させたり疲弊させるために広くて問題になることは少ないだろう。最初のうちだけ、移動や部屋の場所を覚えるのが面倒なくらいか。」
アンネリー 「御主人様がそこまで考えているのなら、私も選ばせてもらうわね。えっと………じゃあ、これで。配置と素材はお任せするわ。」
悠耶 「了解。」
シルヴィアの時と同じようにアンネリーの選んだ城を、今度は先程の城とは反対側に配置し、素材は同じ黒曜石にする。
そして、新たに世界的に有名な某配管工が最終的に対峙する火を吐く亀の大魔王様の城のような荘厳な城が、黒曜石造りで新たに出現した。
同時に先に出現した城と今出現した城とを結ぶ通路が、同じ素材で自動的に構成された。
シルヴィア 「これだけでも、かなり誰も近づけさせない感じが出てきましたね。」
アンネリー 「ところで、御主人様が選んでるこの黒曜石って、丈夫なの?見た目が厳つくても、脆いんじゃ……」
悠耶 「それなら大丈夫。俺もあんまり詳しくは知らないけど、頑丈さと爆発耐性にメチャクチャ優れている石らしい。」
アンネリー 「そうなの。それなら、安心ね♡ 」
悠耶 「それじゃあ、最後に俺の建てたい城を配置して……っと。」
俺は自分が好きだったゲームの拠点となっていた城を、2人の城の背後の密接した位置にに少しだけ小さな丘を作って、その上にもちろん黒曜石造りで配置した。
そして先程と同じように、2人が出した城と黒曜石の通路で繋がり、俺達の拠点が完成した。
悠耶 「これでよし……それでもコストがまだ残ってるから、今後追加で何かを建造する用にちょっと広めのスペースを確保して……城壁を作れば……」
俺は残っていたコストを消費して、城の周囲を取り囲むように黒曜石で城壁を作った。
これなら、たとえ巨人が進撃してきても大丈夫だろう。
◆◆◆
自分でカタログから呼び出した城の最上階……そこの大広間の1番奥に、アイテム覧から玉座を選択して出現させ、深々と腰を沈める。
悠耶 「ふぅ……」
シルヴィア 「お疲れ様です、ユーヤ様。」
悠耶 「ん?シルヴィア……此処に居て良いのか?アンネリーやケルベロスみたいに、自分の部屋や好きな場所を確保しないと……」
シルヴィア 「これだけ部屋があるのです。自分の部屋と書庫にする部屋くらい残るでしょう。それに……私の好きな場所は、ユーヤ様のお傍ですから。」ニコッ
悠耶 「…………そっか。」ニコッ
大広間にあるガラス窓から、2人して夕日を眺める。
悠耶 「今日1日で不毛の地に城と城壁が築かれた……この事は遅かれ早かれ、人間共に気付かれ、まずは偵察隊……そして冒険者や、討伐隊の連中が来るだろうな。」
シルヴィア 「そうですね。アンネリーに人間共の様子を偵察してもらいますか?きっと彼女なら問題無くこなしてくれるでしょう。」
悠耶 「……いや、それはもう少し連中の動きが活発になってからで良いかな。今日はとりあえず、盛大に宴でもしようじゃねぇか。」
俺は玉座から立ち上がり、傍に居たシルヴィアの頭にそっと手を置く。
悠耶 「今後頼れる仲間が増えるかもしれない、もちろんアンネリーやケルベロスも頼りにしてるけど……俺が1番頼りにしてるのは、お前だ。今後も俺を支えてくれ、シルヴィア。」
シルヴィア 「……はい!これからもずっと、いつまでも……私は貴方様の傍に居ます。お慕いしております、ユーヤ様。」/////
不毛の地に拠点を建造してから数日後……
拠点 ・ 玉座の間
シルヴィア 「失礼します。ユーヤ様、御報告があります。」
悠耶 「何だ?冒険者でも来たか?」
シルヴィア 「はい。付近を物見していたアンネリーからの報告なのですが、数名の冒険者がこの城に向かって来ているそうなのです。距離からして明日の朝頃かと……いかがいたしましょう?」
悠耶 「そうだな……現時点で冒険者とどこまで戦えるか試してみたい。ケルベロスには手を出さないようにさせて、此処まで来てもらうか。」
シルヴィア 「承知しました。アンネリーにもこちらで待機してもらいますか?」
悠耶 「……いや、連中が城壁の内側に入ってからで良いだろう。城壁の外から眺めて素通りって可能性もあるからな。」
シルヴィア 「了解です。アンネリーにそう伝えておきますね。」
悠耶 「あぁ、頼む。」
シルヴィアが玉座の間から出て行った後、玉座に深く腰を沈める。
冒険者達がこの城を見つけて、素通りならそれっきり……入って来て、此処まで来た後は話し合いか、戦闘か……
この世界に来て間もない頃、シルヴィアを助けるために盗賊2人と戦ったけど、流石にあれがこの世界の標準レベルってことはないだろう。
戦闘になった時、俺は此処の主としてシルヴィアやアンネリーを守れるだろうか?
いや……やる前から弱気になってちゃ駄目だな。魔王として堂々とふてぶてしく、それなりの態度で連中と接してやろうじゃねぇか。
◆◆◆
拠点 ・ 城門外
剣士 ( ♂ ) 「不毛の荒野に、一夜にしてこんな城が……新しいダンジョンか?」
魔法使い ( ♀ ) 「不気味……敵のレベルも判らないし、今は近づかない方が……」
盗賊 ( ♂ ) 「けど、誰も踏み込んだことのないダンジョンなら、お宝も手付かずってコトだよな?」
僧侶 ( ♀ ) 「…………っ!?この城から、とんでもない邪気を感じます。迂闊に近づいては、命の危険が……」
剣士 「じゃあ、危なくなったら即撤退ということで。行けるだけ行ってみよう。」
— ✝*✝ —
拠点 ・ 玉座の間
悠耶 「へぇ……怖気付かないで踏み込んで来たか。」
玉座に座り、画面を表示して、城に入って来た冒険者達を観察する。
シルヴィア 「本来なら、この時点でケルベロスの標的になるのですが、今回は見過ごす様伝えておきました。」
悠耶 「ありがとう。アンネリーも手筈通りに城門を閉めてくれたし……あとは、こいつ等が此処に来るのを待つだけだな。」
画面の向こう側に居る冒険者達はケルベロスの存在や、いきなり閉ざされた城門に怯えながら、ただ真っ直ぐに……左右の城には目もくれず、俺とシルヴィアの居る城へと進んできた。
悠耶 「こいつ等、左右の城はまだ内装の整っていない城だと気付いたのか?」
シルヴィア 「いえ、おそらくこの城が1番奥にあって、目立つから向かって来ているだけでしょう。」
悠耶 「そっか……せっかく2つの城に幻影兵を配置してもらってたのに、無駄になっちまったな。」
シルヴィア 「構いません。いざという時は、この弓矢でユーヤ様をお守りします。それに、もうそろそろアンネリーも合流するでしょうし。」
悠耶 「そうだな。それじゃあ、わき目も触れないで一直線に此処へ向かってきた御褒美だ。この玉座の間で出迎えてやろうじゃねぇか。」
— 数分後 —
玉座に座る俺の目の前の扉がゆっくりと開き、先程まで観察していた冒険者達が入って来た。
剣士 「人が……居た……」
悠耶 「拠点を作った翌日に訪問者が来るなんてな……祝いの花束でも持って来てくれたのか?」
魔法使い 「作ったって……貴方が?1日で?」
悠耶 「信じられないのも無理はない……けど、俺はそれができるだけの力を持っている。さて……お前等に問う。何しに此処に来た?返答次第では、こちらも黙ってはいないぞ。」
盗賊 「決まってる!此処にあるお宝を頂きに来たのさ!」
僧侶 「あっ、あなた達!この男の力にまだ気づいていないのですか!?」
剣士 「何を焦っているんだ?戦闘になっても、相手は1人だ。こちらに分が……」
僧侶らしき女性に言葉を続けようとしていた剣士の頬を、1本の矢が掠める。
剣士 「…………え?」
シルヴィア 「呆れましたね。此処にユーヤ様しか居ないと、本気で思っていたのですか?」
アンネリー 「武力と精力はそこそこのようだけど、索敵能力はサッパリみたいね。」
この時を待ってましたと言わんばかりに、玉座の背後の陰からシルヴィアとアンネリーが姿を現す。
同時に、冒険者4人の顔が赤くなり、剣士が鼻血を出して仰向けに倒れた。
やっぱり、そういう知識や環境に疎いと、2人のコスチュームは刺激が強すぎるよなぁ……
悠耶 「盗賊行為が目的で来た連中相手に容赦することもないだろう。今、此処で始末して……やろうと思ったが、お前達のリーダーがそんな調子じゃ、碌な戦闘にもならねぇだろう。こちらとて、一方的な虐殺をするつもりは無いからな。」
僧侶 「みっ……見逃して、くださるのですか?」
悠耶 「まぁな。戦う気も失せたし……何より、お前等にはこの城のことを王都や聖都に伝えてもらおうと思っていたからな。とりあえず、『 こちらから戦を仕掛けるつもりはない。そちらから攻めて来た時だけ、俺達は抵抗する 』 とだけ、確実に伝えてくれ。」
魔法使い 「わっ……わかりました。」
悠耶 「もし、お前等も後日改めて挑戦しに来るっていうんなら、俺達はいつでも迎え撃つぜ。まぁ、その度胸があるならな。」
俺の挑発に盗賊らしき男性が何か物言いたそうだったが、シルヴィアとアンネリーの持つ武器を見て、渋々後方に下がった。
悠耶 「さてと……御客人のお帰りだ。アンネリー、このお客さん達を城門まで送って差し上げろ。」
アンネリー 「はぁい♡ それじゃあ皆、私の後に付いて来てねぇ~♪」
アンネリーの案内で冒険者一行……剣士は盗賊に担がれて、玉座の間を出て行った。
シルヴィア 「本当に戦闘をしなくて宜しかったのですか?」
悠耶 「いくら、人間と敵対する立場といってもなぁ……お前やアンネリーの恰好を見て、鼻血出すようなピュアボーイに手をかけるほど、落ちぶれちゃいねぇつもりだ。」
シルヴィア 「……私の服装は普通だと思いますが?」
悠耶 「まぁ、他の世界の魔王なら世界征服とか企んで、容赦なく人間を攻めるんだろうが……俺は、この城に挑んで安寧な生活を脅かす連中だけを相手にする。自由な時間が無いと、味方になってくれる奴を探しに行く時間も無くなるからな。今後、そういう方針でいこうと思うんだが……」
シルヴィア 「私は他の魔王という物を存じません。ですが、ユーヤ様が……我が魔王様がお決めになったことなら、喜んで従います。確かに、人間は嫌いですが……無益な殺生を避けられるなら、極力避けるべきだと、私も思いますから。」ニコッ
悠耶 「賛同してくれてありがとう、シルヴィア。……あの冒険者達が各地で此処のことを言い広めてから、世間がどう動くか……楽しみだな。」
ちょっと確信に近い予想をしていることはあるけれど……今はまだ、それを口から出さなくても良いだろう。
拠点 ・ 玉座の間
悠耶 「…………ん?」
玉座に座り、ほぼ日課になっている地図の確認をしていると、とある異変に気付いた。
前にチェックした王都 ・ マキアイデルと、聖都 ・ オルディア、そして2つの都市とはまったく関係の無い、この大陸から北方に位置する海の上に 『 ! 』 マークが付いていた。
シルヴィア 「どうされました?ユーヤ様。」
悠耶 「ん?あぁ、いや……ちょっと気になる場所が3ヶ所あってな……」
シルヴィア 「王都に聖都、それに海……ですか。」
アンネリー 「あら?此処って……」
シルヴィアとは反対側から地図を覗き込んできたアンネリーが、海の方を見て声を上げる。
シルヴィア 「アンネリー。この海のことを知っているのですか?何か特別な海域とか……?」
アンネリー 「特別な海域……まぁ、そうなるのかしら?そこは 『 ゼーマン インテルフィケレ 』 と呼ばれる、船の墓場よ。深い霧が立ち込めていて、そこに迷い込んだら最期。確実に座礁してしまって身動きが取れなくなり、船に積んである食料やラム酒も底を着いて、船乗り達は衰弱死してしまうの。」
悠耶 「そんな場所に何で!マークがついてるんだろう?」
シルヴィア 「そして、なぜ貴女は海の出来事なのに、そんなに詳しいのですか?」
アンネリー 「それは……船乗りの男性の夢にお邪魔したことがあってね。その時に不運にも、その彼が乗った船が此処に迷い込んでしまったのよ。その段階で、先は長くないだろうと見限ったけど。」
悠耶 「なるほど……」
アンネリー 「御主人様がお望みなら、この場所まで案内するけど……どうする?」
悠耶 「そうだな……じゃあ、せっかくだし、お願いしようかな。」
シルヴィア 「今回は場所が場所ですので、空を飛べない私は同行できそうにないですね……ケルベロスや幻影兵と共に、この拠点の守りに徹します。」
悠耶 「あぁ、頼んだぜ、シルヴィア。」
シルヴィア 「はい!お任せ下さい!」ニコッ
◆◆◆
大陸北方 ・ 『 アヴェントゥーロ海 』 上空
アンネリー 「…………! 見えたわよ、御主人様。ほら、あそこ。」
並行して空を飛んでいたアンネリーが指差す方を見てみると、周囲を険しい岩場に囲まれている辺り一帯に霧が立ち込めている。
霧のせいで地形がよく判らないけど、おそらく入り江になっているんだろう。
とりあえず、上空か見下ろしていても埒が明かないので、俺とアンネリーは岩場に着陸した。
着陸して改めて海の方を見ると、無残にも折れてしまったマストや船体などが、海面から少しずつ飛び出していた。
中には船体が海面から垂直に飛び出しているものもあり、当時の事故の悲惨さが窺える。
悠耶 「さてと……此処で何かあるはずなんだけど……ん?」
周囲を探索しようとした時、眼前の海面が大きく揺れ動き、数本の太い水柱が立ち上ったかと思うと、海に浮かんでいた大量の船の残骸が俺達に降り注いできた。
俺とアンネリーはすぐさまロンパイアと鞭を取り出し、降り注いできた残骸を、元あった海へと叩き落とす。
音を立てて水飛沫を上げながら落ちていく残骸の背後では、大きくて太い吸盤付きの触手がクネクネと揺れ動いていた。
悠耶 「こいつは……もしかして、クラーケンか!」
【 クラーケン 】
ノルウェーやアイスランド沖に出現したといわれる海のモンスター。
姿はタコやイカのような多足類生物から、イソギンチャクやカニという説もある。
横幅が2km以上あるといわれ、その巨躯の脇から多くの鰭や角が伸びており、それらを使って船を海中へと引きずり込んだ。
また、その巨体から、クラーケンが海中へ潜るだけで大きな渦が生じるので、発見してから逃げようとしても渦に引きずり込まれてしまう。
人間を食べるともいわれており、漁船をまるごと飲み込んでしまうこともある。
18世紀のノルウェーの司教エリック・ポントピダンはクラーケンを目撃したとされ、著作 『 ノルウェー博物誌 』 では、『 海草に取り囲まれて、島のように見えるほど大きな怪物 』 だと記している。
悠耶 「どうやら、此処はコイツの縄張りのようだな……」
アンネリー 「……!御主人様、奥のクラーケンの脚を見て!」
悠耶 「ん!?」
アンネリーが指差した場所を見ると、海面に出ているクラーケンの触手……脚に女の子が巻き付かれている。
同時に、昔、学校の授業……歴史だったか美術の教科書に載っていた、女性がタコとよろしくやっている浮世絵を思い出してしまった。
??? 「だっ……誰か!助けてくださいましぃぃぃ!!」
アンネリー 「御主人様、あの子……」
悠耶 「あぁ。人間じゃねぇな。」
クラーケンの脚に捕まっている女の子の腰から下……いわゆる下半身は人のものではなく魚のもので、耳が魚の鰭のようになっている。
悠耶 「はぁ……見てしまったもんは仕方ない。あの人魚の子を助けてやるとするか。」
【 人魚 】
頭から腰までが若くて美しい女性、腰から下が魚のモンスター。
上記の説明は 【 マーメイド 】 のもので、人魚には男性も存在しており、そちらは 【 マーマン 】 という。
デンマークのアンデルセンの童話、それを元にアメリカのウォルト・ディズニーが映画化した作品により、現在のマーメイドは悲劇のヒロインのような立ち位置に居るが、本来のマーメイドは水場が持つ危険の象徴である。
半人半鳥のモンスターであるセイレーンと同じく、岩の上に座り、美しい歌声や楽器の演奏で船乗り達を誘惑し、船を座礁させたり危険な海域まで導いたりと、死に導いていた。
中世のキリスト教徒では、マーメイドは悪魔の代理人で、裏切りの象徴と考えられていた。教会内部の装飾に魚を持つ姿でよく描かれているが、それは呪文とお世辞によってキリスト教徒の魂を罠にかけ、罪に引き込むことの象徴だったといわれている。
日本にも人魚の肉を食べた【 お里 】 という若い女性が歳をとらず、800年生きたという 『 八尾比丘尼 』 という伝説がある。
悠耶 「とりあえず、あの子を助ける前に、まずはクラーケンのステータスを確認っと……」
【 クラーケンの脚 1 】
レベル : 25
種族 : モンスター
クラス : —
【 ステータス 】
HP 500 / 500 MP 0 / 0
攻撃力 300 ・ 守備力 1200 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 750 ・ 素早さ 50 ・ 運 20
【 スキル 】
〇 自己再生 Lv Ⅱ : 切断された部分を、HPを全回復した状態で再生する
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
【 クラーケンの脚 2 】
レベル : 25
種族 : モンスター
クラス : —
【 ステータス 】
HP 500 / 500 MP 0 / 0
攻撃力 200 ・ 守備力 1150 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 870 ・ 素早さ 50 ・ 運 20
【 スキル 】
〇 自己再生 Lv Ⅱ : 切断された部分を、HPを全回復した状態で再生する
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
【 クラーケンの脚 3 】
レベル : 25
種族 : モンスター
クラス : —
【 ステータス 】
HP 500 / 500 MP 0 / 0
攻撃力 470 ・ 守備力 1000 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 390 ・ 素早さ 50 ・ 運 20
【 スキル 】
〇 自己再生 Lv Ⅱ : 切断された部分を、HPを全回復した状態で再生する
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
【 クラーケンの脚 4 】
レベル : 25
種族 : モンスター
クラス : —
【 ステータス 】
HP 500 / 500 MP 0 / 0
攻撃力 190 ・ 守備力 1500 ・ 魔法攻撃力 0 ・魔法防御力 800 ・ 素早さ 50 ・ 運 20
【 スキル 】
〇 自己再生 Lv Ⅱ : 切断された部分を、HPを全回復した状態で再生する
—
—
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
人魚 × 1
—
—
悠耶 「マジか……こいつの脚、攻撃しても再生しやがるのかよ……」
アンネリー 「ということは、クラーケンを倒そうと思ったら、海の中に居る本体を攻撃しないといけないわけね。」
悠耶 「まぁ、別にクラーケンを無理に倒すこともねぇだろう。確か、クラーケンの排泄物は琥珀みたいで、魚を引き付ける効果があるみたいでな……人間がそれを獲る。漁業に恩恵があるってんなら、俺達の食事情的にも悪い話じゃない。」
アンネリー 「それじゃあ、あの子を助けたら即撤退?」
悠耶 「そうだな。幸いなことに、背後に洞穴がある。さすがに、クラーケンの巨体じゃ、あそこに入れないだろう。」
アンネリー 「確かに……」
悠耶 「んじゃ、アンネリーは前にある2本の脚を引き付けてくれ。大丈夫、早急に終わらせる。」
アンネリー 「えぇ、お願いね♡ さすがに触手プレイなんていうレベルの高いことをされるつもりはないんだから。」
触手プレイって……まぁいいや。
俺はロンパイアを構えて飛び上がり、そのまま前の2本をやりすごしつつ、脚に捕まっている人魚の傍まで一気に接近した。
悠耶 「待ってろ、今助ける。」
人魚 「はっ、はい!ありがとうございます!」
ロンパイアを振り下ろし、クラーケンの脚を切断してすぐ、宙に舞った人魚をお姫様抱っこの形で受け止める。
受け止めた瞬間、衝撃で人魚の豊かな胸がプルンッと揺れ動いた。
昔、童話で人魚姫の本を読んで、人魚というのがどんな姿をしているのか、重々理解していたはずなのに……実際に、胸の先端を貝殻で隠しているだけというのは、正直これはこれで目のやり場に困る。
人魚 「ぁ………」/////
悠耶 「よしっ!救助完了!アンネリー、退くぞ!」
アンネリー 「はぁい♡ 」
アンネりーも攻撃を中断し、俺の後を着いて洞穴の中へ舞い込んだ。
背後からクラーケンの脚が伸びて来ていたが、ちょうど洞穴の中が下りになっていたため、ギリギリのところで回避に成功した。
アンネリー 「ふぅ……危なかったわね。」
悠耶 「あぁ。俺も触手プレイは嫌だからな……それより、お前。呼吸のほうは大丈夫か?」
人魚 「え?あっ、はい。人魚は肺呼吸とエラ呼吸の両方ができますから……」
悠耶 「そうか。それならもう少し、頑張ってくれ。」
アンネリー 「この洞穴の構造的に、たぶん地底湖があるはずよ。そこで彼女を下ろしてあげましょう。」
それからしばらくして、アンネリーの見立て通り、大きな地底湖があったので、その水の中に人魚を下ろしてやった。
自分達が下りて来た場所とはちょうど反対側から、他の場所か流れてきた水が滝となって地底湖に落下している。
人魚 「助けてくれて、誠に感謝しております!私、人魚の【 マーレ 】 と申します。」
悠耶 「俺はユーヤ。こっちは仲間のアンネリーだ。」
アンネリー 「よろしくねぇ♪ 」
悠耶 「それで?マーレは何でクラーケンに捕まってたんだ?」
アンネリー 「もしかして、ワザと?そういう激しいのが、お好きなのかしら?」
マーレ 「そっ、そのようなこと、あろうはずが……!!実は、私は常日頃から先程のゼーマン インテルフィケレの近くで気ままに歌を唄って過ごしていたのですが……」
悠耶 「気ままに唄って……」
もしかして、それで迷い込んできた多くの船が、さっきの場所で座礁して事故ったんじゃ……?まぁ、憶測でしかないだろうから、何とも言えないけど……
マーレ 「それで本日も、いつもみたいに唄っていましたら……見知らぬ船が来て、何事かなぁ?って思っていたら、その船の背後にあのクラーケンが居まして……」
アンネリー 「どこかで遭遇してしまったクラーケンに襲われた船が、運悪くクラーケンを振り切れないまま、さっきの場所まで来てしまったのね。」
悠耶 「おそらくそうだろうな……しかし、どこで襲われたのか知らんけど、よく此処までの道中でクラーケンに沈められなかったもんだ……」
マーレ 「はぁ……しかし、これからどうしましょう。あそこに戻ったところで、きっとまたクラーケンに襲われるだけでしょうし……」
水面に浮上したまま、頬に手を当てて憂いの表情を浮かべるマーレに話しかける。
悠耶 「マーレ。もし良かったら、ウチに来ないか?」
マーレ 「え……?」
アンネリー 「ちょっと、御主人様。マーレ迎え入れることに関しては、私は別にとやかく言うつもりは無いわ。でも、私達の城って……水路も堀も無いじゃない。それに、来てもらってもマーレに住んでもらう場所が……」
悠耶 「あっ、そっか。建物を追加で建てる場所はあるから、優先すべきは水路と堀だな。まぁ、それも、マーレが仲間になってくれるなら……だけどな。」
マーレ 「あの……本当によろしいのですか?私がそちらに御厄介になっても……」
悠耶 「ん?あぁ。ちょうど仲間を増やしたいと思っていたところだったんだ。だから、お前も仲間になってくれると嬉しい。」
マーレ 「ユーヤ様……ありがとうございます。喜んで、貴方様の御仲間に加えてくださいませ。」
悠耶 「決まりだな。それじゃあ、この地底湖と拠点、それと海を結ぶ水路を作らないと……」
俺は宙に画面を表示して、【 建造 】 の項目をタッチした。
すると、前回は 【 家 】 と 【 城 】 の項目だけだったのに、新しく 【 建築物 】 が追加されていた。
そっちの内容も気になるけど、今回造りたいのは水路だ。
確か、【 城 】 の項目で城壁が作れたから、もしかして……と思って選んだら、普通に水路の項目があった。
水路のルートは自分で作れて、いつでも水路の高さや幅などの変更が可能のようなので、とりあえずこの地底湖と拠点とを結んでみる。
現在居る地底湖と拠点は、それほど離れていないみたいなので、まずは最短ルートで水路を繋ぐ。
拠点に戻ってから、濠や無駄に長くて複雑地下水路を作ろう。
悠耶 「よし!繋がった。」
地底湖と拠点を結び、そして拠点内に簡単な水路を作った。
直後、地底湖の奥の岩壁に、そこそこ大きな穴が開いた。
悠耶 「あそこから拠点に行ける……はずだ。」
マーレ 「わかりました。うふふ♪ これから宜しくお願いしますね、ユーヤ様、アンネリー様。」ニコッ
アンネリー 「うふふ。よろしくねぇ♪」
こうして、俺の下に新たな仲間が加入した。
とりあえず、拠点に戻ったらすぐマーレの生活環境を何とかしよう。あとは……水路を弄るついでに、シルヴィアが移動するための足場を作ってやらないと。
ふふ……それなりに、やることがあって充実しているというのは、良いことだな。
マーレを仲間にした翌日、拠点に新しく 【 建造 】 から 【 建築物 】 の手順で 【 水族館 】 ができた。といっても、マーレ以外の海洋生物は今のところ何も居ないんだけど……
他の城と水族館を繋ぐ通路も、黒曜石の足場に周囲がガラス張りと、他の通路よりちょっと御洒落になっている。
悠耶 「通路は勝手に繋がるのに、水路は自分でやらなきゃいけねえのか……ごめんな、マーレ。後日、此処と他の城とを繋ぐ水路をちゃんと作るから。」
マーレ 「そんな!こちらこそ、私のためにこんな立派で素敵な建物を築いてくださり、ありがとうございます!水路に関しましては、お気持ちは大変嬉しいのですが、急がなくても構いませんよ。他に優先するべき案件があるのでしたら、迷わずそちらを優先なさってください。」
悠耶 「ありがとう。そういえば、先日はゴタゴタして忘れてたけど、マーレのステータスを見せてもらってもいいかな?」
マーレ 「もちろんです。すぐに表示しますね。」ニコッ
【 マーレ 】
レベル : 14
種族 : マーメイド
クラス : 音楽家
【 ステータス 】
HP 23500 / 23500 MP 20000 / 20000
攻撃力 8000 ・ 守備力 9600 ・ 魔法攻撃力 24000 ・魔法防御力 25000 ・ 素早さ 50 ( 陸上 ) 2400 ( 水中 ) ・ 運 270
【 スキル 】
〇 水神の加護 Lv Ⅱ : 水上 ・ 水中戦での防御力、魔法防御力が上昇する
〇 傾国の美女 Lv Ⅰ : 異性 ( 男性 )から受けるダメージを軽減する
〇 白魔法 Lv Ⅰ: 回復魔法 ・ 補助魔法を使うことができる
—
—
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : —
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Maelstrom MP消費 : 10 属性 : 水
勢いのある波飛沫を発生させて戦場に水を張った後、巨大な渦潮を発生させて敵を巻き込み攻撃する
〇 Resurrection MP消費 : 15 属性 : 光
特定の範囲内に居る味方のHPを大幅に回復させ、状態異常 ・ デバフ効果を全て解除する
悠耶 「えぇ!?レベル14で使える魔法なのか、これ!?スキルも3つあって……頼りになるぅ。」
マーレ 「うふふ。ありがとうございます。回復が必要でしたら、いつでも申してください。地上を這ってでも御助けに参りますから。」ニコッ
悠耶 「しかも、めっちゃ献身的!泣きそう!」
シルヴィア 「……あっ!ユーヤ様、こちらでしたか。」
今まで俺を探していたのであろう、シルヴィアがこちらに向かって駆け寄って来た。
悠耶 「どうした?冒険者が攻め込んで来たのか?」
シルヴィア 「いえ、先程アンネリーが耳を疑うような情報を入手してきまして……」
悠耶 「耳を疑うような情報?」
シルヴィア 「…………王都 ・ マキアイデルが陥落したそうです。」
悠耶 「…………は?」
いやいやいや、何でそんなことになってんだよ?
俺はまだ1度も王都へ侵攻したこともなければ、王様お抱えの兵士達とも戦ったことがないぞ?
悠耶 「何でそんなことに……どこかと戦争でもしてたのか?」
マーレ 「仮にユーヤ様が仰る通り何処かと戦争をしていたとしても、 『 王都 』 と呼ばれるような場所が、簡単に陥落するものでしょうか?」
悠耶 「だよな?俺もそう思う。」
シルヴィア 「より詳しい情報を得るために、私の独断で、アンネリーには引き続き偵察に出てもらいましたが……宜しかったでしょうか?」
悠耶 「あぁ。むしろ、よくやってくれた。そういえば……確か、建造できるあの建築物の効果って……よし、空き地に建てるか。」
◆◆◆
俺とシルヴィアは水族館を出て、城壁に囲まれた拠点の空きスペースに 【 建造 】 の 【 建築物 】 から 【 神殿 】 を選んで建てた。
此処は自分や仲間が崇拝する神様を一覧表から選んでその石像を設置すると、その神様と通話……念話?できるという、とんでも効果があるらしい。
神様を祀る社を簡単に壊されるわけにはいかないので、もちろん黒曜石造りで。そして、とりあえずメインとなる円形の大広間の端と思われる四ヶ所に
台座を設置し、俺をこの世界に導いてくれた神様と死者の国の神様、マーレが崇拝する海神様を一覧から選んで、石像を配置した。
シルヴィアの話によると、彼女とアンネリーが崇拝する 【 暗黒神 】 というのが、どうやら死者の国の神様のことだったらしい。
そして、石像が設置されてから知ったんだけど……死者の国の神様は、美しい女神様だった。閻魔大王様やハデス様みたいに威厳のある男性の神様を勝手に想像していただけに、ちょっと衝撃的だった。
悠耶 「とりあえず、これで良し。アンネリーから話を聞いた後、最終確認として神様にも訊いてみよう。」
シルヴィア 「承知しました。」
悠耶 「それじゃあ、アンネリーが戻ってくるまで、濠を作って、マーレが移動するための水路を増やしておくか……」
*****
— 翌日 —
拠点 ・ 玉座の間
シルヴィア 「ユーヤ様。偵察に出ていたアンネリーが戻りました。」
アンネリー 「うふふ♪ 拠点に戻ったら、素敵な建物が増えてて、驚いたわ~。」
悠耶 「アンネリー。最西端と最東端の往復で疲れてるだろうけど、とりあえず報告を聞かせてくれないか?王都が陥落してのは、事実なのか?」
アンネリー 「えぇ、事実だったわ。しかも、お城が壊れただけじゃなくて、城下町まで既に魔物の巣窟と化していたわ。それも、この世界に居る様な魔物じゃなくて、もっとこう……形容し難い、言葉では上手く表現できない奴等よ。」
悠耶 「そっか……王都陥落は事実か……ありがとう、アンネリー。ゆっくり休んでくれ。」
アンネリー 「えぇ。少し休ませてもらうわ。さすがに翼がクタクタなの。」
シルヴィア 「アンネリー。無理を言って申し訳ありませんでした。」
アンネリー 「うふふ♪ いいのよ、気にしないで。それが必要な事だったんだし、私は私のできることをやっただけなんだから。」
シルヴィア 「ありがとうございます。そう言っていただけると、幾分か気持ちが楽になります。」
悠耶 「それじゃあ、神殿に行くか。神様にどういう経緯で王都が陥落したのかを教えてもらおう。」
シルヴィア 「はい。」
◆✝◆
拠点内 ・ 神殿
俺とシルヴィアは転生の神様の石像の前に立ち、神様との会話を試みる。
すると、割とすぐに聞き覚えのある優しいお爺さんの声が聞こえてきた。
神様 『 おや?お久しぶりですね、東雲悠耶さん。そちらでの生活はどうですか?』
悠耶 「おかげさまで仲間にも恵まれて、悠々自適に生活させていただいてますよ。」
神様 『ほっほっほ!それは良かった。』
悠耶 「実は、ちょっと神様に訊きたいことがあって……」
神様 『そちらの王都のことですね。』
悠耶 「はい。仲間のサキュバスが調べてくれて、陥落した事実は解ったんですけど、その陥落に至るまでの経緯を教えてほしいんです。」
神様 『わかりました。では……そちらの王都 ・ マキアイデルでは、あなた達に対抗する手段として、異世界から勇者を召喚しようとしたそうです。」
シルヴィア 「勇者?召喚?あの……ユーヤ様も以前、違う世界から来たと仰っていましたが、この大陸でそのようなことを行われた事例は、今まで無かったはずですが……」
神様 『シルヴィアさん……でしたね?貴女の言う通りです。違う世界からそちらの大陸への転生は、実は東雲悠耶さんが初めてだったのです。』
悠耶 「そっか……俺が記念すべき第1号だったのか。ん?でも待てよ?確かに 【 転生 】 は俺が初めてだったかもしれない。けど、 【 召喚 】 の概念は以前から、あったんだろう?ケルベロスが良い例だ。異界からの召喚っていうことなら、勇者召喚も成功しそうなもんだけど……」
シルヴィア 「そうですね。それが何故、王都は陥落して魔物の巣窟となっているのか……」
神様 『答えは簡単です。王都の人々は召喚に失敗してしまったのです。』
悠耶 ・ シルヴィア 「「え?」」
召喚に……失敗?
シルヴィア 「召喚に失敗というのは、やはり勇者とやらを召喚するのは難しいという……」
神様 『いえ、召喚難易度の話ではなく、もっと根本的な問題があったのです。」
悠耶 「と、いうと?」
神様 『王宮に住む人達は、これまで召喚というものを1度もやったことがありませんでした。そんな彼等が異世界から人間を召喚しようとして失敗……』
悠耶 「ちょっ、ちょっと待ってくれ、神様。え?召喚魔法をやったことがない?1度も?」
神様 『はい。1度も。』
シルヴィア 「王宮には、宮廷魔導士と呼ばれる人間が何名か居ると聞いたことがあります。そのような者達が居たにも関わらず、召喚 【 魔法 】 は失敗したのですか?」
神様 『はい、残念なことに……彼等は攻撃や補助といった魔法にはそこそこ長けていたそうなのですが、召喚……使い魔という概念そのものが無かったのでしょう。そちらの実力は……』
悠耶 「その残念な連中に、国王は 『 異界から勇者を召喚しろ! 』 とか何とか無茶振りを言ったわけか。それで、結果的に召喚は失敗……」
シルヴィア 「…………あら?待ってください、おかしいです。召喚魔法に失敗すると、不発のまま魔法陣が消えるだけです。それがどうして王都は魔物の巣窟になっているのですか?」
神様 『あっ、申し訳ありません。私の言葉が足りませんでした。正確に言うのであれば、『 召喚そのものは偶然ながらも成功した。しかし、結果は彼等が望んでいるものとは違ったため、失敗した 』 のです。』
悠耶 「なるほど、そういうことか。王都が陥落ってコトから考えるに……連中、ドラゴンでも召喚したのか?」
神様 『いえ、東雲悠耶さんが元居た世界でも、この世界のものでもない、まったく別の世界で封印されていた魔王を召喚してしまったのです。』
悠耶 「はぁぁぁぁぁぁ!?Σ( ; ゚ Д ゚) 」
おいおい……じゃあ、王都の奴等は自分達の救世主を呼ぼうとしたつもりが、まったく逆の存在を呼んでしまったってことか。
シルヴィア 「つまり、現在この大陸の東西の果てに、我が主ユーヤ様と、どこの馬の骨ともしれない輩……その2人の魔王が存在するのですね。」
悠耶 「世紀末だなぁ……聖都 ・ オルディアの連中が、ストレスでハゲる未来が見えるぜ。」
神様 『そういうわけですので、私は転生の神として、そちらの世界の均衡を保つため、各所で勇者召喚や転生の儀式が行なわれた時には、極力手を貸すつもりでいます。貴方達と敵対する立場の存在を召喚するということを、あらかじめ承知 ・ 覚悟しておいてください。』
悠耶 「神様が贔屓するわけにはいかねぇもんな。それに、それが貴方の仕事だってのも解っているつもりです。」
神様 『ありがとうございます。ただ、それはあくまで私の仕事であって、私個人としては……東雲悠耶さん。貴方と御仲間の皆さんには、そちらの世界で生き続けて欲しいと思っています。』
悠耶 「神様にそこまで言っていただけるなんて、嬉しい限りです。ありがとうございます。俺達としても、簡単に果てるつもりは無いので御安心を。」
神様 『はい。それでは、また何かありましたら、いつでも気軽に語り掛けてくださいね。雑談でも構いませんよ。ほっほっほ!』
— 通話終了 —
悠耶 「雑談って……退屈してんのかな?神様。」
シルヴィア 「しかし、神様のおかげで、東で何が遭ったのかが判りましたね。」
悠耶 「そうだな。とりあえず、新しい魔王とその配下とやらが攻めて来るまで、こちらから攻撃を仕掛けるのは止めよう。正直、連中の規模や実力が如何程のものか、まだ検討もつかないしな……シルヴィア。悪いけど、このことをアンネリーとマーレに伝えておいてくれるか?」
シルヴィア 「もちろんです!お任せください。」ニコッ
そう言いながらシルヴィアは、神殿から出て行った。
悠耶 「それにしても、1つの大陸に2人の魔王か……」
これであと1人、どこかで魔王が召喚されたら、この大陸も三國時代に突入するのだろうか?
あまり考えたくない未来だけど、今回のことを考えたら、まったく無いと言い切れないケースだというのが、この世界だったりする……のかもしれない。
とりあえず、今のうちに拠点を改造したり、俺や皆の実力を上げたりと、富国強兵に努めようと思う。
拠点 ・ 玉座の間
前に自分のスキルを確認してから、マーレを仲間にしたり、濠や水路、水族館や神殿を築き、近場で魔物を討伐して……現状、どうなっているのかを、久しぶりに確認してみる。
悠耶 「……ん?おっ、スキルと魔法が増えてる。」
【 ユーヤ 】
レベル : 42
種族 : 魔王
クラス : 暗黒騎士
【 ステータス 】
HP 840000 / 840000 MP 320000 / 320000
攻撃力 150000 ・ 守備力 125000 ・ 魔法攻撃力 112000 ・魔法防御力 134600 ・ 素早さ 2300 ・ 運 150
【 スキル 】
〇 夜空への飛翔 Lv Ⅲ : 悪魔の翼で空を飛ぶことができる / スキル所持者の意思で自在に翼の出し入れが可能 / 移動速度が上昇する
〇 束縛からの卒業 Lv Ⅱ : 封印 ・ 束縛系の神聖術を受け付けない / 相手の攻撃によるデバフ効果にかからない
〇 覇王の威厳 Lv Ⅰ : 一定以下のダメージを無効化する
〇 地獄のその先に Lv Ⅰ : 自分のHPが半分になった時、攻撃力 ・ 守備力 ・ 素早さの数値が5000上昇する。HPが回復された時、上昇したステータスは元に戻る
〇 蘇生する災悪 ( パッシブスキル ) : 戦闘でHPが 0 になった時、その戦闘毎に1度だけHPを全回復して復活する
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : ロンパイア
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Crazy Black hole MP消費 : 20 属性 : 闇
黒い球体を地面に投げつけて攻撃。 地面で展開された黒い渦が周囲のあらゆるものを吸引する
〇 Soul of Centaure MP消費 : 15 移動距離 : S 属性 : —
1度闇の中に溶け込んだ後、自分の下半身を覆う闇で馬の胴体と健脚を作って突撃。進行ルートである直線距離上に居る敵を装備武器で一掃した後、下半身は元に戻る
悠耶 「何だ、このチートキャラ……( ; ゚ Д ゚) 」
まさか、自分で自分の能力を恐ろしいと思える日が来るとは……これはもう、俺よりLvの高い奴か、俺と同じようにチートな……もしくは、それに近い能力の持ち主しか、俺にダメージを与えられないだろう。
悠耶 「まぁ、転生の神様は今後異世界から勇者召喚の頻度を増やすみたいなことを言っていたし、東の魔王のことを考えると、これくらいで丁度良いのかもな。」
少なくとも、他の敵対勢力の連中に後れを取るようなこと考えたら……嘗められるようなことが無くなったのは、良かったのかもしれない。
シルヴィア 「おはようございます、ユーヤ様。」
正面の巨大な扉がゆっくりと開き、シルヴィアが入って来た。
悠耶 「おう。おはよう、シルヴィア。」
シルヴィア 「何をなさってたのですか?」
悠耶 「ん?あぁ、いや……ちょっと自分のステータスの確認をな。」
シルヴィア 「私も見せていただいて宜しいですか?」
悠耶 「もちろん、それは構わないけど……あんまり面白くないぞ?」
俺の傍まで歩いて来たシルヴィアが、そのまま俺のステータス画面を覗き込む。
シルヴィアの美しい銀髪と全身から香る良い匂いが鼻孔をくすぐるが、それで表情を緩ませない様、何とか平常心を意識する。
シルヴィア 「これは……Lvの上限はまだまだ先なのに、この能力……流石です、ユーヤ様!」
悠耶 「ありがとう、シルヴィア。そういうお前はどうなんだ?何かスキルや魔法は増えたのか?」
シルヴィア 「はい。私もスキルは全部埋まりました。ご覧になられますか?」
悠耶 「あぁ。是非、見せてくれ。」
【 シルヴィア 】
レベル : 40
種族 : ダークエルフ
クラス : 射手 ( アーチャー )
【 ステータス 】
HP 115000 / 115000 MP 450000 / 450000
攻撃力 12800 ・ 守備力 142000 ・ 魔法攻撃力 167500 ・魔法防御力 183700 ・ 素早さ 5900 ・ 運 740
【 スキル 】
〇 魔弾の射手 Lv Ⅱ : 弓矢による攻撃に魔力を込めて、威力を上昇させることができる
〇 古代魔法の技術 Lv Ⅱ : 魔法の効果が通常よりも強力になる / 呪文詠唱の時間が短くなる
〇 王佐の才 Lv Ⅱ : 相手が仕掛けようとする軍略 ・ 奇策を高確率で看破する / 相手の策略の要所を瞬時に見極め致命的な被害を与えることができる
〇 死角から降る雨 Lv Ⅴ : 射程範囲内に居る敵の飛行能力を持つもの ・ 飛行ユニットを5割撃墜させる
〇 忠義の心 ( パッシブスキル ) : 状況に応じて各能力が2段階上昇する
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 弓 ・ 矢 × 800
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 οφθαλμαπάτη στρατός 消費MP : 10 属性 : —
幻影兵を数体作り出し、敵を攻撃させる。
〇 ξεσηκωμός βέλος 消費MP : 20 属性 : 闇
魔力で作り出した無数の矢を縦横無尽に飛び交わせ、ダメージを受けて足を止めた敵1体につき1本の魔力が籠った矢で射貫いて攻撃する
悠耶 「つっよ……( ; ゚ Д ゚) 」
シルヴィア 「そうなのですか?私はただ、ユーヤ様の側近として相応しくありたいと思って修練に励んだだけなのですが……」
俺を思って慕ってくれるシルヴィアの純粋な発言に、顔と胸が熱くなる……ような気がする。
悠耶 「いや、お世辞抜きで頼りになる!これからもずっと、俺の側近として、支えてほしい。」
シルヴィア 「もちろんです!私の武と才は、貴方様のためにあるのですから。」ニコッ
悠耶 「シルヴィア……ありがとう。じゃあ、ついでで悪いんだけど、この2つ目の技の読み、また教えてもらっても?」
シルヴィア 「あぁ、これは 【 クセスィコモス ヴェロス 】 と読みます。直訳の意味は 『 反乱矢 』 となります。」
悠耶 「なるほど……あれだな。シルヴィアの魔法は乱戦や限られた空間での戦闘に強そうだな。」
シルヴィア 「そうですね。まだ試してはいませんが、おそらくは……」
しかし、俺やシルヴィアと同じようにアンネリーやケルベロスも強くなっていて、先日仲間入りしたマーレも今後強くなっていってくれるのだとしたら……とりあえず、向かってくる敵相手なら充分対処できるだろうな。
そんなことを思いながら、玉座に深々と座り直した時……パソコンやスマホなどでよく見る 『 ✉ 』 マークが、俺の表示していた画面に浮かび上がった。
悠耶 「ん?何だこれ……手紙?こんな物を送ってくる奴に心当たりは無いんだけど……」
シルヴィア 「もしや、東の魔王からの宣戦布告でしょうか?」
悠耶 「とりあえず、見てみるか……」
俺が表示されていた✉マークに触れた瞬間、先日聞いたばかりの声が聞こえてきた。
神様 『あぁ、気付いてくれましたか。ありがとうございます。』
悠耶 「えぇ!?神様?何で……此処、神殿じゃねぇんですけど。」
神様 『先程の表示がされていた場合のみ、場所を関係無く話すことができるのです。』
シルヴィア 「それで、転生の神様。本日はどのような御用件で?」
神様 『うむ……実は少々困った事が神界の方でありまして……東雲悠耶さんに、お願いがあるのです。』
悠耶 「神様にはこっちに来るときに色々世話になったから、お礼ってワケじゃねえですけど、大抵のこと引き受けるつもりでいます。あぁ、でも、魔王という立場上、そちらへ行くことはできませんが……」
神様 『ありがとうございます。お願いというのは、そちらで1人、引き取ってもらいたい子が居るのです。』
悠耶 「引き取って欲しい……神様、それって……俺と同じような境遇の……?」
神様 『いえ、そちらではなく……実は先日、神殿で貴方達と話した後、神界でちょっとした騒動が起きまして……』
シルヴィア 「ちょっとした騒動?」
神様 『光の最高神に仕える天使が……謀反を起こしたのです。』
悠耶 「神界でクーデター起きてんじゃねえですか!」
シルヴィア 「しかし、この世界から光が失われていないことから察するに、最高神様の命は奪われていないのですね?」
神様 『はい。しかし、未遂とはいえ謀反であるということは間違いありません。本来ならば地獄の最下層に永久幽閉という処罰なのですが、最高神様が生きているという事と、その天使が最高神様の1番のお気に入りの天使だったこともあり、最高神様自らがその天使に温情をかけて 【 神界からの無期限追放 】【 地上への堕天 】 という判決を下されたのです。』
悠耶 「なるほど。それで、その堕天使様をこちらで受け入れてやって欲しいと……」
神様 『お願いします。東の魔族の巣窟とは違い、そちらなら私も安心して見守ることができますので……』
シルヴィア 「やはり東は相当酷い有様なのですね……」
悠耶 「……わかりました。その堕天使様を受け入れましょう。」
神様 『おぉ!ありがとうございます。これで最高神様にも良い報告ができます。では、早速その者をそちらへ参らせます。しばし、お待ちを。』
そこで転生の神様との通話が終わった。
今更ながら、いくら世話になったからといって、神様とこんなに親しく接する魔王というのは、どうなんだろう?……などと考えていると、俺とシルヴィアの目の前に、黒曜石の天井を貫通するように極太の光の柱が刺し込み……その光の柱が掻き消えて瞬間、先程まで光の柱があった場所に、1人の女性が立っていた。
お尻の位置まである綺麗な金色のロングストレートヘア、頭には月桂樹の葉の形を模したアクセサリーを付けており、シースルー……っていうのか?やたらと透けている布で古代ギリシャの人達が着ていたような服と、同じ素材で丈が極端に短いスカートを着用している。
おかげで彼女の豊満な胸や抜群のスタイル、ボディラインから純白の下着が丸見えなのだが……それよりも、彼女の背中から生えている、本来ならば純白だったのであろう……今は闇のように漆黒に染まった左右3対、計6枚の翼の方に視線がいってしまった。
堕天使 「貴方がシノノメ ユーヤ様ですね?初めまして、私は 【 フレデリカ 】 と申します。この度は神界から追放された私を受け入れてくださり、ありがとうございます。」
悠耶 「おう。大体の内容は転生の神様から聞いている。神界での生活がどんなものだったのか知らないけど、そこと同じような生活はさせてやれないと思うってことだけ、理解しておいてほしい。」
フレデリカ 「もちろんです!本来ならば地獄で幽閉されるところだったものを、最高神様や転生の神様、そしてユーヤ様の恩情によって免れたのです。感謝こそすれども、恨むようなことは一切致しません!」
悠耶 「そっか。まぁ、気を楽にして……とりあえず、ステータスを見せてもらって良いかな?」
フレデリカ 「承知しました。どうぞ御覧になってください。」
【 フレデリカ 】
レベル : 38
種族 : 堕天使 ( 元 ・ 熾天使 )
クラス : 聖騎士 ( パラディン )
【 ステータス 】
HP 790000 / 790000 MP 375000 / 375000
攻撃力 128000 ・ 守備力 168000 ・ 魔法攻撃力 143000 ・魔法防御力 185000 ・ 素早さ 3500 ・ 運 900
【 スキル 】
〇 信頼の重み Lv Ⅰ : 自分の防御力と魔法防御力を1段階上昇させる
〇 殿軍の誉れ Lv Ⅱ : 敵全体の攻撃力と素早さを2段階下げる / 味方全員の防御力を3段階上昇させつつ、HPを半分回復する
〇 底無しの生命力 Lv Ⅱ :戦闘中、少しずつHPを回復する / HP回復系の効果を受けた時、効果を通常の倍にして受けることができる
〇 大天使の加護 Lv Ⅲ : 戦闘不能を3回まで回避しつつ、HPを半分回復する
〇 守護神 ( パッシブスキル ) : 総大将のHPが半分以下にならない限り、味方の受けるダメージが半減される
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 重装突撃槍 ・ ビッグシールド
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Confession Cross MP消費 : 15 属性 : 光
自分の周囲に5本の十字架を出現させ、1度垂直に撃ち上げた後、一定の範囲に分裂させた計10本の十字架を振らせて敵を攻撃する
〇 Atonement Reincarnation MP消費 : 20 属性 : 闇
黒いオーラを放つ6個の玉を出現させ、敵の足場に円形になるように配置した後、高速回転させることで巨大な黒い渦を発生させて攻撃する
悠耶 「本日2度目のつっよ……( ; ゚ Д ゚) 」
シルヴィア 「流石、元 ・ 熾天使。 最高神様のお気に入りだっただけのことはありますね。」
悠耶 「これなら、ウチの即戦力として申し分ないぜ!これから宜しくな、フレデリカ。」
フレデリカ 「はっ……はい!こちらこそ、宜しくお願いします!」
悠耶 「それじゃあ、シルヴィア。フレデリカを案内してやってくれ。ついでに、アンネリーとマーレへの紹介も頼む。」
シルヴィア 「了解です。では、行きましょう。フレデリカ。」
フレデリカ 「はい!」
シルヴィアとフレデリカの退室を見届けた後、玉座に深々と座って溜め息を吐く。
あんなに強いフレデリカの謀反が達成されなかったことを考えると、流石神様といったところか。
流石に、神様に戦いを挑むようなことをするつもりは無いけど……純粋に、どれほどの強さなのかは、ちょっとだけ興味があったりする。
悠耶 「それにしても……謀反か……」
きっと内容は知られたくないだろうから、フレデリカ本人や神様に訊くのは絶対にやめておこう。
とりあえず、今まずやるべき事は……フレデリカの住居を建てるスペース確保のため、現在の城壁と堀を左右に拡張することだろうな。
元々、自分達以外の生物が住んでいない不毛の地なので、領土の拡張は思いのまま。
フレデリカの加入と同時に、俺は拠点の敷地を大幅に拡張した後、フレデリカ専用のノートルダム大聖堂やサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂みたいな城と、訓練場にするための闘技場、そして城を守る黒曜石の城壁を更にもう1つ追加した。
拠点 ・ 玉座の間
アンネリー 「御主人様、ちょっといいかしら?」
悠耶 「ん?どうした、アンネリー。貯蓄していた金品が底を着きそうなのか?」
アンネリー 「まさか。無謀にも挑んできた冒険者達をケルベロスが追い払ってくれるもの。彼等の 『 落とし物 』 は貯まる一方よ。そうじゃなくてね、東の連中が不穏な動きをしているの。」
シルヴィア 「不穏な動き?まさか、此処へ攻めてくる気なのですか?」
アンネリー 「目的地が此処なのか……それはまだ判らないわ。でも、連中が何処かへ攻めようとしているのは確かね。」
悠耶 「……アンネリー、ちょっとステータスを見せてもらってもいいか?」
アンネリー 「? えぇ。もちろん。見て!私の全てを♡ 」
シルヴィア 「はぁ……アンネリー。私はもう、貴女の言動には慣れましたが、マーレやフレデリカの前では控えてください。彼女達はおそらく、まだ貴女の言動に慣れていないでしょうから。」
アンネリー 「なるほど。お互いのことをよく知るために、もっと積極的になればいいのね?」
シルヴィア 「違います。」
とりあえず、俺はアンネリーが表示してくれたステータスに目を通す。
【 アンネリー 】
レベル : 35
種族 : サキュバス
クラス : 魔法使い ( 意味深 )
【 ステータス 】
HP 103400 / 103400 MP 560000 / 560000
攻撃力 23200 ・ 守備力 116000 ・ 魔法攻撃力 235000 ・魔法防御力 179000 ・ 素早さ 4760 ・ 運 625
【 スキル 】
〇 夜戦主義 Lv Ⅱ : 夜間戦闘で攻撃力、魔法攻撃力が上昇する / 夜間戦闘での素早さが上昇する
〇 傾国の美女 Lv Ⅰ : 異性 ( 男性 )から受けるダメージを軽減する
〇 暗躍する影 Lv Ⅲ : 自分の姿を消し、存在感を隠すことができる / 移動中の音を消すことができる / 相手の魔法等で認識阻害効果を解除されない
〇 魔法の技術 Lv Ⅲ : 魔法攻撃による威力が上昇する / 呪文詠唱の時間が短くなる / 魔法攻撃の範囲が通常より広範囲になる
〇 女王号令 ( パッシブスキル ) : 自身よりもLvの低い異性 ( 男性 ) ・ Mな異性 ( 男性 ) の行動をある程度抑制することができる
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 鞭
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Ignite Javelin 消費MP : 10 属性 : 炎
炎の投擲槍を作り出し、敵を貫いてダメージを与える
〇 Demon's Lance 消費MP : 15 属性 : 闇
敵の足元に魔方陣を展開した後、上方向に向かって突撃槍を出現させ、敵を貫いてダメージを与える
Mな異性って……まっ、まぁ!得意とする間合い ( レンジ ) のことかもしれないし、服のサイズのことかもしれない。だから、勝手にそういう性癖の連中のことだと決めつけてはいけない!
っていうか、そっちも気になるけど、他のスキルの内容も……
悠耶 「アンネリーは魔法使いなのに、スキルの内容はアサシンみたいなのが多いな……でも、凄く頼りになるのは間違いない。そこで、アンネリーに頼みがある。」
アンネリー 「各地で色々情報を集めて来ればいいのね?差し当たって今真っ先に知りたいことは、東の連中がどこに攻め込もうとしているのか?」
悠耶 「あぁ。その通りだ。今後も状況に応じて、お前にはこういったお願いをすることになるだろうけど……頼めるか?」
アンネリー 「もちろんよ。御主人様に頼ってもらえて、シルヴィア達の力になれるかもと思うと、私も嬉しいんだから。任せて!必要な情報は必ず手に入れて来るわ。」
シルヴィア 「えぇ。頼りにしていますよ、アンネリー。」ニコッ
アンネリー 「うふふ♪ それじゃあ、行ってきます。」ニコッ
楽しそうに玉座の間の扉を押し開けて出て行ったアンネリーと入れ替わるように、フレデリカが入ってきた。
フレデリカ 「失礼します。ユーヤ様。今、そこでアンネリー様と擦れ違ったのですが……」
悠耶 「あぁ。ちょっと東の連中が不穏な動きをしているらしくてな……詳しいことを調べてもらうため、偵察に出てもらった。」
フレデリカ 「なるほど、そうでしたか。……アンネリー様が持ち帰ってきてくださった内容次第では、戦になるかもしれませんね。」
悠耶 「そうだな……とりあえず2人共。いつでも動ける準備だけはしておいてくれ。」
シルヴィア ・ フレデリカ 「「了解です!」」
悠耶 「それじゃあ、俺はこの件をマーレに伝えに行くとするか。」
◆◆◆
拠点 ・ 水族館
マーレ 「……なるほど。そのようなことになっているのですね。ユーヤ様、私にできることはございますか?一応、肺呼吸もできますので、地上でも戦えるとは思うのですが……」
悠耶 「マーレの気持ちは本当に嬉しい。けど、マーレには水が常にある此処で、ケルベロスと一緒に留守番をしていてほしいんだ。お前を仲間外れにしているんじゃない。留守もまた、立派な役目だってことを理解してほしい。」
マーレ 「もちろんです!御安心ください。皆さんが戻って来る場所を守る大切さというものは、理解しているつもりですので。」
悠耶 「ありがとう。戦場が海や川だったり、此処の防衛になった時は、必ずマーレの力が必要になる。その時は一緒に戦おうな。」
マーレ 「はい!」ニコッ
正直、俺が抱きかかえて戦場へ連れて行ってもいいんだろうけど……水があるか無いか判らん場所で、下半身が魚の彼女を長時間酷使するのは、さすがに可哀想だ。
適材適所……マーレには水のある場所で、その力を存分に振るってもらおう。
*****
2日目の早朝
スキルの効果をフル活用して密偵をこなしてくれたアンネリーが無事に戻って来た。
アンネリー 「ただいま~♪」
悠耶 「お帰り、アンネリー。戻って来て早々で悪いけど、早速話を聞かせてもらえるか?」
アンネリー 「えぇ。とりあえず、連中の目的地は此処じゃなかったわ。」
フレデリカ 「ということは、人間の住む町の何処かということになりますね。」
シルヴィア 「ならば、無理に関与することもないでしょう。人間がどうなろうと、私達には関係のないことです。」
アンネリー 「ところがね、今回はちょっと、そうも言ってられないのよ。」
悠耶 「もしかして、連中が狙ってるのって……」
アンネリー 「えぇ。奴等の目的地はルーデンベルクの町よ。」
ルーデンベルク……シルヴィアの服や、彼女とアンネリーの武器を買ったり、その他にも本や日常品などを買ったりと、何かと贔屓にさせてもらっている町。
そこが今、東の王都を犠牲にして出現したという魔王軍によって襲撃されそうになっているのか。
アンネリー 「連中の話だと、明日の夜に元 ・ 王都を出発して、2日後の夕刻に襲撃するつもりでいるそうよ。」
悠耶 「ん?随分とゆっくりだな。ただ単に愚鈍なのか……余裕の表れなのか……?」
シルヴィア 「それにしても……他の都市なら放置するつもりでしたが、あの町にはいろいろとお世話になっています。見過ごすことはできません。」
フレデリカ 「あの町には冒険者ギルドがありますし、人間の都市が魔族に攻め込まれようとしているのです。聖都 ・ オルディアの聖騎士や神官達も動くでしょう。しかし……」
悠耶 「敵の規模、強さがまったくの未知数だからな……それらを確かめるために、1度戦ってみてもいいな。仮に俺達が撤退することになっても、ある程度の数を減らしておけば、後は人間共が自力で何とかするだろう。」
シルヴィア 「決まりですね。アンネリーは出撃の時まで休んでいてください。後程呼びに伺いますので。」
アンネリー 「ありがとう。それじゃあ、文字通り羽休めさせてもらうわね。」
フレデリカ 「それでは、アンネリー様には後程御伝えするとして、作戦を立てましょう。ユーヤ様、地図を表示していただけますか?」
悠耶 「あぁ。すぐに出す。」
俺はすぐに地図を表示し、シルヴィアとフレデリカを交えて作戦を立ててみる。
当然の話だが、俺は前に居た世界では普通の高校生だった。自衛隊に所属していなければ、戦争なんてニュースの話題やゲームでくらいしか知らない。
そんな俺が、近々魔物相手とはいえ大規模な戦いをしようとしている……
とりあえず、皆が無事に生きて此処に戻って来られるよう努めなければ。
シルヴィアとフレデリカと作戦を立てた当日の夕刻、俺とシルヴィア、アンネリーとフレデリカの4人は、東の魔王軍が進軍してくると思われるルートとルーデンベルクの町との中間地点にある 『 ヴィンベル平原 』 の見通しの良い丘に陣取っていた。
丘から見える景色は草原と森のみで、近くに川は流れていない。この周囲に川が流れていたら、マーレも一緒に来れたんだろうけど……
アンネリー 「見晴らしが良いわね、此処。東西南北の景色がよく見えるわぁ~♪ 」
フレデリカ 「しかし、高台故に水などの補給線を絶たれると一気に不利になります。今回はなるべく短期決戦で終わらせるつもりですが、長期戦に持ち込む場合は注意してくださいね。」
悠耶 「今回の……いや、今後も大規模な戦闘の時は、スキルに 『 王佐の才 』 を持つシルヴィアの指示に従うようにしてくれ。もちろん俺も皆の意見を聞いて随時対処するつもりだ。頼んだぜ、シルヴィア。」
シルヴィア 「はっ!お任せください。ユーヤ様と皆を必ず勝利へと導きましょう。」
フレデリカ 「…………どうやら、御見えになられたようですよ。」
フレデリカの持つ突撃槍の先端が指し示す遥か前方、東方の地平線上に黒い塊がこちらに向かって接近して来るのが見えた。
悠耶 「あれが……敵の実力が判らない今、俺達が直接武器を交えるのは避けたい。シルヴィア、 【 οφθαλμαπάτη στρατός 】 を発動してくれ。」
シルヴィア 「了解しました。」
俺達の少し前方で短い呪文詠唱を終えたシルヴィアの周囲に30体の幻影兵が出現した。
幻影兵達は各々、手に剣や斧、槍やメイスを持っている。
アンネリー 「そういえば、この兵士達を実戦で見るのは初めてなんだけど……活動時間はどうなっているの?」
シルヴィア 「まず、彼等は召喚主である私が倒れないかぎり、敵の攻撃で消滅することはありません。そして、幻影兵は1人で敵を100体倒したら自然消滅します。また、そのノルマを達成できなくても、戦闘が終了したその時点で自然消滅します。」
フレデリカ 「つまり、この30人が効率良く戦ってくれたなら、その戦闘で3000の敵を倒すことができるのですね。」
シルヴィア 「はい。そして幻影兵はMPが許す限り追加で30体ずつ召喚できますので、敵の被害が最低でも3001。最高で6000……9000……と増えていくのです。」
悠耶 「なるほど、そういう仕様なのか……よし、じゃあ敵も目視できる位置まで来たし、早速連中にぶつけてくれ。」
シルヴィア 「お任せください。幻影兵、突撃!!」
シルヴィアの合図と同時に、幻影兵達が無言のまま、所持している武器を振り上げて高地から駆け下りて行った。
魔物A 「ん?何だ?妙な連中がこっちに向かって来やがるぞ。」
魔物B 「愚かな……身の程知らずの人間め、返り討ちにしてやる!」
高台から幻影兵と、それに気づいた魔物共との戦いをしばらく観察する。
魔物共は本能に任せて攻撃を仕掛けているようで、策略というものも無さそうなら、隊列という概念も存在しないようだった。
悠耶 「とりあえず、連中のうち1匹で良いからステータスを確認しておくか。そこから、大まかだけど全体の力量も解るだろう。」
俺は戦場を見渡し、たった今幻影兵によって高々と打ち上げられた魔物のステータスを表示した。
【 魔物 A 】
レベル : 42
種族 : 魔物
クラス : —
【 ステータス 】
HP 0 / 1200 MP 50 / 50
攻撃力 1400 ・ 守備力 2500 ・ 魔法攻撃力 800 ・魔法防御力 2700 ・ 素早さ 200 ・ 運 15
【 スキル 】
【 装備武器 / アイテム 】
武器 :
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
悠耶 「えっ!?Lv 42 でこの能力!?いくら何でも低すぎるんじゃ……」
アンネリー 「スキルを見た魔物がたまたま弱かっただけで、他にはもっと強そうなのも居るんじゃない?」
悠耶 「そうだよな……おっ!ちょうどいいところにガタイの良い魔物が居るな。よし、あいつのステータスも見てみるか。」
【 魔物 D 】
レベル : 45
種族 : 魔物
クラス : —
【 ステータス 】
HP 100 / 3500 MP 20 / 20
攻撃力 3900 ・ 守備力 5500 ・ 魔法攻撃力 100 ・魔法防御力 3300 ・ 素早さ 50 ・ 運 8
【 スキル 】
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 棍棒
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
シルヴィア 「あの図体で、この程度ですか……」
フレデリカ 「これでも彼等は、此処とは違う世界を壊滅寸前まで追い込んだ魔王軍なのですが……ユーヤ様や皆様の前では、霞んで見えますね。」
悠耶 「この調子だと幻影兵1人につき100体撃破のノルマなんて簡単に達成できちまいそうだな。シルヴィア、追加で幻影兵を出しておいてくれるか?」
シルヴィア 「承知しました!」
— 数分後 —
ヴィンベル平原 ・ 戦場
魔物C 「なっ、何だ!?コイツ等!!こっちの攻撃がまったく通用しねえ!!」
魔物F 「もう駄目だ……俺は逃げるぞ!」
魔物J 「おいっ!此処で逃げ帰ったら、魔王様や幹部クラスの連中に何されるか判らねえぞ!!」
魔物G 「此処で死ぬか、後で死ぬかの違いだ!俺も逃げるぞ!!」
魔物P 「おっ……おい!何、退き返して来てるんだ、お前等!?」
魔物F 「え……?」
*****
アンネリー 「あっ……」
悠耶 「どうした?アンネリー。」
アンネリー 「え……えっとね、最初に幻影兵と戦っていた連中が怖気付いて撤退しようとしていたんだけど、後方から進軍していた魔王軍第2波と正面衝突してしまって……勝手に乱闘を起こして、消滅したわ。」
悠耶 「………は?( ; ゚ Д ゚) 嘘だろ?え……?マジで? 」
フレデリカ 「それはもう、何と言いますか……愚かを通り越して、哀れですね。」
シルヴィア 「しかし、あの者達を徹底的に叩くにはまたとない好機です!アンネリー。貴女は魔王軍の最後尾まで行き、魔法……【 Ignite Javelin 】 で攻撃してください。」
アンネリー 「はぁい。それじゃあ、ちょっと行ってくるわね。」
アンネリーは宙へ舞い上がった後、スキルで姿を消し、( おそらく ) まだ見えない魔王軍の最後尾へと向かって飛んで行った。
シルヴィア 「ここまできたら、策は不要かもしれませんね。ユーヤ様、フレデリカは敵の側面から強襲、そのまま吶喊してください。」
悠耶 「おう!任せろ!」
フレデリカ 「承知しました!フレデリカ、出ます!」
6枚の漆黒の翼を広げ、高地からの斜面を滑空しながら舞い降りて行ったフレデリカの後方で、俺は 【 Soul of Centaure 】 で自分の下半身を闇を使って馬のものへと変え、突撃準備を整える。
悠耶 「よし……シルヴィア!乗れ!」
シルヴィア 「え?よろしいのですか?……というより、乗れるのでしょうか?その馬の部分は闇で作っているのですよね?」
悠耶 「実戦前に試せれば良かったんだけどな……けど、もし乗れたら、一緒に突撃できるだろ?」
シルヴィア 「一緒に……突撃……」
悠耶 「あぁ。普通、騎士や騎兵ってのは馬に乗って、フレデリカの持つような突撃槍みたいなのを駆使して戦うんだろうけど、俺の前に居た世界では、流鏑馬っていう乗馬しながら弓矢で的を射る武芸があったんだ。それを今の俺とシルヴィアならできるかもしれねえって思ったんだよ。」
シルヴィア 「そのようなものが……わかりました。試してみましょう!では、失礼しますね。ユーヤ様。」
そう言うと、シルヴィアは身軽に俺の馬の部分の背中に跨った。
闇で作った一時的な物のはずなのに、シルヴィアが跨った感触がダイレクトに伝わってくる。
シルヴィア 「乗れました!ちゃんと乗馬できるようです。」
悠耶 「うおぉぉぉぉ!人馬一体!!俺は今、攻撃力と機動力に加え、我が軍の頭脳を乗馬させたことで完全な存在となった……行くぞ、シルヴィア!降り落とされるなよ!!」
シルヴィア 「はいっ!」
シルヴィアを乗せ、高台から駆け下りようとしたとき、長方形の画面が表示される小さく短い電子音が俺の目の前と頭上の2ヶ所で鳴り響いた。
たぶん、シルヴィアの目の前にも表示されてるんだろう。
悠耶 「えっと……【 新たに 『 協力技 』 が使用可能になりました 】 だって?」
【 協力武術スキル 】
〇函蓋の流鏑馬 - かんがいのやぶさめ - 会得条件 : ユーヤが魔法 【 Soul of Centaure 】 を使える + シルヴィアが魔法 【 ξεσηκωμός βέλος 】 を使える
【 Soul of Centaure 】状態の悠耶のロンパイアによる攻撃から逃れた敵を、乗馬しているシルヴィアが【 ξεσηκωμός βέλος 】で作り出した無数の魔力の矢で射貫いて攻撃。
この時、【 ξεσηκωμός βέλος 】 分のMPは消費しない
* 函蓋 = 『 函( はこ ) 』 と 『 蓋( ふた ) 』 のこと。両者が相応し、一体となっているものの例え
シルヴィア 「函蓋……良い言葉ですね。」
悠耶 「会得したばかりの技だってのに、不安や失敗を恐れる気が微塵も湧いてこねえな……改めて、行くぞ!シルヴィア!俺の攻撃からまんまと逃げおおせた敵の始末は任せた!」
シルヴィア 「お任せください! 【 ξεσηκωμός βέλος 】を発動します!」
◆◆◆
ヴィンベル平原 ・ 戦場
魔物S 「うおぉぉぉ!?乱入してきた、あの女……マジでやべぇ!!」
フレデリカ 「堕天したとはいえ、元は最高神様にお仕えしていた身です。邪な存在である貴方達を浄化する力くらいは残っているのですよ。」
魔物X 「なっ……何でそんな奴が、こんな場所に!?」
魔物V 「前線は謎の兵士と、堕天使に完全にやられた!今回の進軍は失敗だ、撤退!撤退ぃぃぃ!!」
悠耶 「そう言うな……せっかくだから、俺達とも遊んでくれよ。」
魔物L 「え……?」
俺の声に気付き、振り返った魔物に向かってロンパイアを振り下ろし、一刀両断した後、返し刃で周囲の魔物を薙ぎ払う。
悠耶 「シルヴィア!頼む!」
シルヴィア 「はいっ!」
ロンパイアの攻撃軌道から逃れたり、武器が届かなかった魔物、翼や尻尾を斬り落とされてもまだ動けていた魔物は、シルヴィアが大量に放つ魔力の矢で射貫かれて消滅した。
魔物達 「「「「「ぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
魔物W 「まっ……まだ、仲間が居やがったのか!?」
魔物U 「目的地に着く前に、こんな連中に邪魔され……しかも、壊滅の危機にまで追い込まれてるだとぉぉぉ……!?」
魔物I 「大変だぁぁぁ!後続に居た同胞達が、何も無い場所でいきなり炎に包まれて、やられちまった!!おかげで、後続は壊滅状態だ!!」
シルヴィア 「どうやらアンネリーが上手くやってくれたようですね。ユーヤ様、フレデリカ、このまま敵を追撃しましょう!」
フレデリカ 「そうですね。ここで徹底して相手をたたき、敵の戦力を大幅に削ることは、後々の戦闘に大きな影響が出てくるはずです。」
悠耶 「そうだな。やるからには徹底的に……しばらく活動できねぇくらいには痛めつけてやるとするか。」
それからしばらくの行動も、逃げ惑う魔物達をほぼ一方的に蹂躙していくという簡単なものであった。
魔物の赤色以外の体液が草や地面を穢し、前方でアンネリーが繰り出しているのであろう炎の魔法で所々が焦土と化し、大地が抉れ、泣き叫びながら逃げ惑う魔物達の声が草原の空に木霊する。
ふっと気が付いた時には、動いているのは俺とシルヴィア、フレデリカとスキルを解除して姿を現したアンネリーだけで、役目を終えた幻影兵達は消滅した。
アンネリー 「ふぅ……数が多いだけで、大して強い相手じゃなかったわね。良質な精力の持ち主も居なかったし……」
悠耶 「とりあえず、皆お疲れ様。おそらく、すぐに冒険者や聖都市の連中が来るだろう……金目の物も無いし、このまま拠点に退き返した後、ゆっくり休んでくれ。」
3人 「「「はいっ!」」」
自分達の拠点へと帰る直前、俺は戦場となったヴィンベル平原を見た。
討伐された魔物共の角やその他パーツだけが残り、血で穢され、所々焦土になった美しかった平原……
後からこの光景を目の当たりにした連中が……このことを知った東の魔王とやらがどんな反応をするのか、楽しみだ。
ルーデンベルクの町 ・ 冒険者ギルド
受付嬢 「それは本当なのですか?」
冒険者G 「嘘じゃねぇよ!俺は見たんだ!ヴィンベル平原で大量の魔物と戦う奴等を!見慣れない長柄武器を持った男や、弓を使うダークエルフの女性の姿が見えたから、あれはおそらく、西の不毛の地に居を構える連中だ。」
受付嬢 「もし、それが本当だとしたら……どうしましょう?マスター。」
ギルドマスター 「どうするって、そりゃお前。相手が誰であれ、俺達の代わりに魔物の群れを撃退してくれたってんなら、報酬を支払うのが流儀ってモンだろ?」
受付嬢 「それはそうかもしれませんが……」
ギルドマスター 「何より、俺自身ちょいとそいつ等に興味があるんだよ。だから、報酬は俺が直接持って行く。」
受付嬢 「それは危険すぎます!」
ギルドマスター 「馬鹿野郎!何が 『 危険すぎます! 』 だ。そこいらの冒険者共に後れをとるようじゃ、冒険者ギルドのマスターなんて務まらねえっつうの!……ただ、まぁ……もし1週間しても俺が戻って来なければ、葬式は盛大にやってくれ。」
受付嬢 「洒落になりませんよ!ちゃんと生きて帰ってきてください!」
*****
大陸最西端の拠点 ・ 玉座の間
先日、実力はさっぱりだったのに、Lvだけは無駄に高かった魔物達を倒したおかげで、戦闘に参加した俺達だけでなく、俺の仲間という括りになっているマーレとケルベロスのLvも上がっていた。
もしかしたら、まだ拠点が洞窟にあった頃、俺とシルヴィア、それにアンネリーは知らず知らずのうちに、侵入者を撃退しケルベロスの恩恵を受けていたのかもしれない。
悠耶 「さてと……東の連中は今後、どう動くかな?」
シルヴィア 「ユーヤ様、失礼します。」
玉座の間の重い扉がゆっくりと開き、シルヴィアが入って来た。
悠耶 「ん?シルヴィア、どうした?」
シルヴィア 「その……実は今、ルーデンベルクの町から来たと言っている人間が1人、城門の前に立っているのですが……いかが致しましょう?このまま追い返しますか?」
悠耶 「ルーデンベルクから……1人で?ふむ……何が目的かは知らねえけど、良い度胸してるじゃねえか。シルヴィア、そいつを此処まで連れて来てくれ。」
シルヴィア 「御会いになるのですか?」
悠耶 「あぁ。元々、ルーデンベルクの奴等と事を荒げるつもりはないからな。仮にもし、そいつが俺の命を狙うっていうなら……返り討ちにするだけさ。」
シルヴィア 「承知しました。では、その者をこちらに御連れしますね。」
~ ✝✝✝ ~
大陸最西端の拠点 ・ 城門前
ギルドマスター 「……城壁が高すぎて、中が見えねぇ……はぁぁ、あいつ等の前では、らしいことを言ったけど……これ、中に入った瞬間、いきなり食われるとか……ないよな?」
シルヴィア 「お待たせしました。我等が主が貴殿に会ってみたいと言われましたので、特別に御案内致します。」
ギルドマスター 「あ……あぁ、よろしく頼むよ。」
◆◆◆
しばらくして……俺が玉座に座って本を読んでいると、玉座の間の扉が開き、シルヴィアが茶髪で顎に無精髭を生やした、ワイルドな中年の男性を連れて入って来た。
シルヴィア 「ユーヤ様。お客様を御連れしました。」
悠耶 「ご苦労様。それで……あんたかい?俺達に用があるっていう物好きは?」
ギルドマスター 「あぁ。まずは自己紹介から……俺は【 ケネス 】。ルーデンベルクの冒険者ギルドの長を務めている者だ。」
悠耶 「へぇ、あんたがギルドマスターなのか。あっ……すまん、俺はユーヤ。この領土の長とでも言えばいいのかな?それで、えっと……話を戻すけど、俺達に何か用でも?物見遊山のつもりなら、早く帰れと警告させてもらうが……」
ケネス 「そう邪見に扱わないでもらいたいねぇ。俺はただ、あんた等に報酬を持ってきただけさ。」
悠耶 「報酬?俺達はあんたのギルドでクエストを受注した覚えはねぇぞ?」
ケネス 「あぁ、正式な手続きとかは何もしてねえが……先日、東から攻め寄せてきた魔物の大群を討伐してくれたそうじゃねえか。実は、連中の進軍先がルーデンベルクだってことが判った時点で、連中の討伐を緊急クエストにしたんだよ。」
あぁ、なるほど。そういうことか……そりゃ、自分達の町に得体の知れない奴等が攻めて来ようとしてたんだ。そりゃ、連中の討伐が緊急クエストになっても、何もおかしいことなんて無い。むしろ、当然の判断だろう。
悠耶 「つまり、その緊急クエストを俺達が知らずにやってしまったっつうワケか。」
ケネス 「まぁ!普段からイキってる冒険者共が、肝心なところでヘタレになっちまったから、誰もクエストを受注しやがらなくてよぉ……結果的にあんた達のおかげでルーデンベルクの町は守られたのさ。」
悠耶 「そういうことなら……その報酬金額がどれくらいかは知らねえけど、その半分の金額を頂こう。残り半分はギルドの運営費にでもしてくれ。」
ケネス 「おいおい、随分謙虚だな。全額受け取ってくれて構わないんだぞ?」
悠耶 「いや……俺達も最初の頃、ルーデンベルクのいろんな店に世話になっていてな……今回の件は日頃の恩返しみてぇなモンだったんだよ。実際、魔物共が他所の町を襲うつもりでいたなら、放置するつもりでいた。」
ケネス 「そういや、武器屋の親仁が矢束を処理できたと喜んでいたが……」
悠耶 「それに、俺達は連中を討伐したことで、あんたのトコの冒険者共が得るはずだった経験値ってヤツを頂いたんだ。そんな良い思いをさせてもらったってのに、その上更に金まで全額頂いたんじゃ、流石に申し訳ねぇ。けど、あんたにだって面子ってモンがあるだろうから、あんたが持って来た報酬の半分を頂くことにするってワケさ。」
ケネス 「そうかい?あんたが、それでいいって言うなら……」
悠耶 「あぁ……じゃあ、ついでに頼みたいことが。」
ケネス 「ん?何だい?」
悠耶 「これはあんたに言っても、どうしようもないことなんだろうけど……俺達は今後もいろんな目的でルーデンベルクを訪れる。その時に、邪険な態度をしないでもらいたいんだ。その代わり、これから先の未来で、仮にもし!ルーデンベルクの町が今回みたいに厄介事に巻き込まれた時は、俺達が加勢することを約束する……ルーデンベルクの町とは、今後とも友好関係を築いておきたいからな。俺の頼み……聞き入れてもらえるだろうか?」
ケネス 「何だ、そんなことか!それなら安心してくれ。あの町の代表取締役として、あんた等のことを信用して受け入れるつもりさ。グダグダ言う奴も納得させるから、安心していつでも町に来てくれ。」
悠耶 「ははっ、あんたが代表取締役なら安心だ。ありがとう……ケネス殿。」
ケネス 「おう!さてと、それじゃあ日のあるうちに御暇させてもらうとするかな。」
悠耶 「泊っていくか?と言いたいけど、あんたにも仕事があるし、魔族だらけの城に泊まらせるのもなぁ……じゃあ、せめてルーデンベルクの町まで護衛を付けよう。俺なりの誠意だと思ってくれ。」
ケネス 「そうかい?悪いな。じゃあ、御言葉に甘えさせてもらうとするかな。」
悠耶 「うん。それじゃあ、シルヴィア。フレデリカに事情を伝えて呼んで来てくれるか?」
シルヴィア 「承知しました。では、ケネス殿。しばし、このままお待ちください。」
ケネス 「あぁ、すまねえな。」
- 数分後 -
フレデリカ 「失礼します。」
玉座の間の扉が開き、フレデリカが突撃槍と盾を装備した状態で入ってきた。
フレデリカ 「貴方がケネス様ですね。御話はシルヴィア様から伺っております。ルーデンベルクまでの道中は私が責任をもって御守り致しますので、どうぞ御安心ください。」
ケネス 「おぉ、ありがたい。しかし、さっきのシルヴィアって姉ちゃんといい……こんな美人さんが居て、此処は良い場所だな。」
フレデリカ 「うふふ、御上手ですね。それではユーヤ様、行って参ります。」
悠耶 「あぁ。フレデリカなら何も心配ないと思うけど、任務遂行の後、無事に帰って来るように。」
フレデリカ 「はいっ!」
フレデリカとケネス殿が退室した直後、入れ替わるようにシルヴィアが入ってきた。
シルヴィア 「ユーヤ様、お疲れ様です。」
悠耶 「ん?あぁ……やっぱり、敵意の無い他人と話すのは、神経使うなぁ……けどまぁ、こうして大金も手に入ったことだし、良しとするか。」
シルヴィア 「ユーヤ様の聡明な判断のおかげで、私達の補給線はより安泰になりました。ありがとうございます。」ニコッ
悠耶 「まぁ、必要なことだしな。」
とりあえず、これで俺達が約束を反故にしない限り、ルーデンベルクから此処に攻め込んで来る奴等の数は減るだろう。
良好な近所付き合いをするためにも、外交の技術はもう少し磨いておいたほうがいいのかもしれない。
ルーデンベルクの町との友好関係を築いてから数日後、アンネリーがとある情報を仕入れてきた。
拠点 ・ 水族館
悠耶 「え?リザードマン達の様子がおかしい?」
アンネリー 「そうなのよ。あいつ等、元々は自分達の巣穴を守ることに専念していて、他の種族とはあまり積極的に係わるようなことはなかったのに……」
フレデリカ 「そんな彼等が武装をして戦準備を進めていると……」
シルヴィア 「いえ、既に実戦を行ったそうで、手始めに同じ洞穴暮らしをしているドワーフの集落を襲撃して打ち負かしたそうです。まぁ……ドワーフ達は集落を追われただけで、すぐまた新しい鉱山を縄張りにしたというから、腹立たしい。」
マーレ 「シルヴィアさん?どうされました?顔が怖いですわよ。」
悠耶 「あぁ……エルフとドワーフは仲が悪いそうだから……それにしても、リザードマンかぁ……」
【 リザードマン 】
直立二足歩行するトカゲの亜人。
人間のように前足が手のように使え、剣や盾などの武器を扱うことができる。
また、人間ほどではないが知性はあり、人間の言葉を話したり、独自の言語を持っていることがある。
硬い皮膚 ・ 鱗が鎧の役目をして、腕力も人間より優れているため、戦士としてはかなり優秀。
攻撃的な性格ではあるが、自分の生命や領土を侵されたりしなければ、襲ってくることはない。
リザードマンの心臓は右にあるため、盾を右手に持つ必要があったり、右利きの多い人間相手に有利に攻撃できるよう、リザードマンの殆どが左利き。
悠耶 「(リザードマンにも女性が居るんだろうが……トカゲ頭なんだろうなぁ。)」
リザードマン( ♀ ) 『我、汝の盾となり、矛となりましょうぞぉぉぉぉぉ!!』
悠耶 「………………いや、ないな。」
4人 「「「「?」」」」
悠耶 「とりあえず、何でリザードマン達がそんな蛮勇に出たのか、ちょっと気になるな……連中に会ってみるか。」
マーレ 「ユーヤ様でしたら、彼等に後れをとることはないでしょうが……」
シルヴィア 「数の暴力というものもあります。普段温厚な彼等が蛮勇を振るうという予期せぬ事態が起こっている以上、念の為に私達のうちの誰かか、ケルベロスを護衛につけてお出掛けください。」
悠耶 「そうか……じゃあ、今回はフレデリカと一緒に出掛けてくるよ。空を飛んで行ったほうが早いだろうし……完全武装しているフレデリカなら、連中の奇襲にも対処できるだろう。」
フレデリカ 「承知致しました。ユーヤ様は私が必ず御守りします!」
アンネリー 「それじゃあ、トカゲ達の相手は御主人様とフレデリカに任せるわね。此処の防衛のことは心配しなくていいから、ね?」
悠耶 「あぁ。シルヴィア、アンネリー、マーレ、留守は任せたぞ。」
3人 「「「はい!」」」
◆◆◆
拠点から南下して、空から眺める眼下の景色が不毛の荒野から、ややマシな荒地へと変わった頃、川の傍にある大きな洞穴を見つけた。
悠耶 「おっ……!たぶん、あの洞穴だろうな。」
フレデリカ 「いきなり洞窟の正面に舞い降りるより、少し距離を取って着地しましょう。」
シルヴィアの提案通りに洞穴の入り口から少し離れた場所に着地し、そのまま洞穴へと歩を進めて……大きな入り口が目の前に差し掛かろうとした瞬間……俺の足元の地面に1本の短刀が突き刺さった。
悠耶 「ん?」
??? 「見慣れない怪しい奴め……何しに来たんだい?」
頭上から声がしたのでふっと見上げると、洞穴の入り口の真上に、いつの間にか1人の女の子が1本の槍( スピア )を持って立っていた。
リザードマンの女性かと思ったが少し違う……白いレオタードから露わになっている腕や足の側面、衣類の上から腰やふくよかな胸を覆う黒と紫が混ざったような色の鱗はリザードマンと同じなのだろうけど、腰辺りから垂れている長い尻尾はトカゲのものより幾分か太い。トカゲというよりワニの尻尾のようだ。
そして、圧倒的な違いは……彼女の背中には鱗で覆われたコウモリのものに近い翼が生えており、数本の角が生え、牙が付いたままの状態で剥製にされたであろう大きなトカゲの頭部を兜にして装着している。
フレデリカ 「……!ユーヤ様、彼女はリザードマンではありません。【 ドラゴニュート 】 です!」
悠耶 「ドラゴニュート!?前に居た世界のゲームや漫画で存在は知っていたけど……そうか、あの子が……」
【 ドラゴニュート 】
龍人 ( 竜人 )は、神話上の神々に見られる描写で、創作上の架空の生物でも良く見られる。二足歩行で、竜もしくはドラゴンの姿をしている獣人。
人や竜( ドラゴン )への変身の有無、皮膚( 鱗及び蛇腹 )の色、翼の有無、飛行の可能不可、武器の有無( あるいは手( 前肢 )によるその所持の可能不可 )など、作品によって様々な違いがある。
ファンタジー系ロールプレイングゲーム等においては、人間の姿を基本に、竜もしくはドラゴンの身体の一部( 翼や尻尾 )が生えていたりする姿で描かれる事が多い。
卵胎生なのかどうかといった様な生物学的な設定も、作品等によって異なり一定していない。
東洋圏でも古くは八大竜王、四海竜王伝承、中国の書物 『 西遊記 』 の竜王の絵や像などで龍人の姿を確認することができる。
日本の古墳では四方の四神が描かれた壁の下にそれぞれ三体ずつ十二支の獣面( 獣頭 )人身像が描かれている文化がある。
しかし、キトラ古墳では北壁 ・ 玄武の「 子 」、東壁 ・ 青龍の「 寅 」、西壁 ・ 白虎の「 戌 」、南壁 ・ 朱雀の「 午 」など6体の発見に留まっており、辰の獣面( 獣頭 )人身像はまだ発見されていない。
ドラゴニュート 「ボクの質問に答える気が無いのかい?なら……敵対者として、君達を排除する。」
そう言い放った直後、ドラゴニュートの少女は槍を構え、俺に向かって勢い良く降下してきた。
悠耶 「おっと!」
俺は素早くロンパイアを取り出すと、彼女が繰り出した初撃を受け流す。
フレデリカ 「ユーヤ様!」
悠耶 「大丈夫。初撃を防ぎさえすれば、後はどうとでもなる。フレデリカは先に洞穴の中の様子を確認してきてくれるか?」
フレデリカ 「しょっ……承知致しました!」
フレデリカはその場で舞い上がると、そのまま洞穴の中へ吸い込まれるように飛んでいった。
ドラゴニュート 「……!まぁいいや。今は目の前にいる相手に集中しなきゃ……いくよ?」
悠耶 「来いよ。お前が満足するまで相手してやる。」
ドラゴニュートの少女が振り回す槍に合わせて、自分もロンパイアを振り回して激しい攻防を繰り返す。
刃や金属の部分がぶつかり合う度、冷たく重いながらも透き通った音が周囲に響き渡る。
悠耶 「へぇ……やるじゃねぇか。実戦で3合以上打ち合った相手はお前が初めてだ。」
ドラゴニュート 「ユーヤ……だっけ?キミもやるじゃないか。まだ本気を出していないとはいえ、ボクの槍捌きについてきた相手は初めてだよ。」
悠耶 「言うねぇ。お互い、出し惜しみは無しにしようぜ。俺も本気を出すから、お前も隠し玉をフル活用してかかって来い。」
ドラゴニュート 「望むところだよ。」
俺から少し距離を取ったドラゴニュートが槍を構え直し、勢いよく地面を蹴って突きを繰り出してきた。
悠耶 「その単調な突きがお前の隠し玉か?俺を失望させるなよ。」
ドラゴニュート 「まさか……これで終わりなわけないでしょ?」
悠耶 「ん?」
ドラゴニュートが放った突きを少し掠った程度で回避したまでは良かった……が、掠ってしまった服の袖の部分からチリチリと小さな音が聞こえてきたかと思うと、いきなり黒煙を上げながら発火した。
悠耶 「うおぁぁぁ!?」
俺は急いで傍を流れる川に飛び込み、火傷する前に消火を完了させた。
悠耶 「はぁ……はぁぁ……焦ったぁ……危うく一張羅がオジャンになるところだったぜ……」
ドラゴニュート 「運が良かったね。川が無ければ、この【 火槍 】 『 火竜神器 』 でそのまま丸焼きにしてあげたんだけどね。」
悠耶 「まったく、初見殺しの恐ろしい武器だな。次の一手を許す前に終わらせてやる……【 Soul of Centaure 】。」
俺の体は背後に出現した闇の中へ一度後退し、そのまま闇で馬の下半身を作り、戦場へ舞い戻った。
悠耶 「いくぞ……避けきれると思うな。」
ドラゴニュート 「……っ!」
フレデリカ 「そこまでです!御二人共、武器を置いてください!」
突進しようとした俺とドラゴニュートの少女との間に、洞穴を調べ終えたのだろうフレデリカが舞い降りてきた。
悠耶 「おっと……フレデリカ。リザードマン達の様子はどうだった?」
フレデリカ 「それが……正直に申し上げます。洞穴の中に、リザードマン達の姿はありませんでした。」
悠耶 「え?姿が無いって……1人も?」
フレデリカ 「はい。生活していたような痕跡はありましたので、少し前まで此処にリザードマン達が居たのは間違いないと思うのですが……」
ドラゴニュート 「居なくて当然だよ。だって、リザードマン達……東へ大移動しちゃったからね。」
悠耶 「東へ大移動?ちょっと……詳しい話を聞かせてもらえるか?」
ドラゴニュート 「うん。まず、ユーヤとフレデリカ?は、リザードマン達がドワーフ達と戦ったことは知ってる?」
悠耶 「あぁ。その情報を仲間から聞いた俺達は、リザードマン達が何でそんな蛮行に出たのかを知りたくて、此処に来たんだ。」
ドラゴニュート 「そうだったんだ。いきなり攻撃してごめんね。それで話を戻すけど、そもそもドワーフとの戦闘は、ドワーフ達がこの辺りにある鉱山で採掘作業をしている最中に、偶然リザードマン達の住んでいたこの洞穴の壁に穴を空けてしまったんだよ。」
フレデリカ 「確かに洞穴の壁にそれなりに大きな穴が開いていましたが……あれはそういう経緯で空いた穴だったんですね。」
ドラゴニュート 「それで、襲撃されたと勘違いした一部のリザードマンとドワーフとの間だで交戦はあったけど、すぐに誤解だということに気付いて2つの種族は和解。ドワーフ達は次の活動場所を大陸北部に定めて大移動して行ったんだ。」
悠耶 「なるほどな。リザードマンとドワーフのことは解ったけど……何でリザードマン達は東に大移動したんだ?」
ドラゴニュート 「ドワーフ達との騒動の後にね、東から見慣れない奴等が集団で 『 領土をよこせ 』 って言ってきてね。当然リザードマン達は激怒して要求を拒否した挙句、そいつ等を追いかえした勢いで追撃を……きっと、落ち着いたら東方のいい感じの場所に新しい住処を作るんじゃないかな?」
悠耶 「まさか、東の連中がこんな所まで来ていたとはな……」
フレデリカ 「おそらく、アンネリー様が情報を持ち帰ってきてくださるのと入れ替わるようなタイミングで、進行してきていたのでしょう。」
悠耶 「まぁ、この際東の連中のことは放っておくとして……ドラゴニュートのお前は、リザードマンの住処で何してたんだ?」
ドラゴニュート 「ん……その……水を飲みに此処へ舞い降りた時にね、見張りのリザードマンに 『 怪しい奴! 』 って槍を突き付けられてね……弁解して、それで駄目なら交戦かな?って思ったときに、ドワーフの騒動があって……流れで何故かリザードマン達と共闘することになって、そのとき不覚にも負ってしまった傷を治癒していたんだよ。」
悠耶 「なるほど……その自己治療している間に、リザードマン達は東に行って、俺達が来たってワケか。」
ドラゴニュート 「そういうこと。膨大な魔力を感じて、あの変な奴等が戻って来たなら追い返す……いや、殲滅してやろうかなと思って洞穴から出てみたら、2人がこっちに向かって歩いて来るんだもん。ちょっと警戒してて……武器を交えることになって、ごめんね。」
悠耶 「いや、正当防衛だと思えばあの程度、可愛いモンだよ。ところで、お前はこれからどうするつもりなんだ?リザードマン達の後を追うのか?」
ドラゴニュート 「さっきも言ったけど、ボクが此処でリザードマン達と共闘したのも、ユーヤと武器を交えたのも、成り行き?不運が重なった結果なんだよ。だから、この後リザードマン達を追うつもりは無いけど、他に行く当ても無いし……しばらくは、此処を拠点に武者修行かな?」
悠耶 「お前ほどの実力者をこんな場所で野放しにしておくなんて勿体ない真似できるか!行く当てが無いなら、俺達の仲間にならないか?」
ドラゴニュート 「ユーヤと……フレデリカの仲間に?」
悠耶 「あぁ。もしかしたら、いずれ東のワケわからん連中と戦うかもしれないし、立場的にいろんな奴等と戦うことになる……と思う。武者修行の場としては、なかなか美味しいと思うけど……フレデリカも彼女が仲間になってくれても構わないよな?」
フレデリカ 「もちろんです!これも神様の御導き……頼もしい御味方が増え、拠点が賑やかになることは、とても良いことです。」ニコッ
悠耶 「そういうわけだ。どうする?もちろん、お前に拒否権はあるからな。その場合は潔く諦めるつもりだ。」
ドラゴニュート 「断る理由なんて無いよ!これといって大したことはできないけど、ボクで良かったら喜んで仲間になるよ!これからよろしくね。ユーヤ、フレデリカ。」
悠耶 「おう!…………そういえば、まだ名前を教えてもらってなかったな。」
ドラゴニュート 「あっ、ごめん!ボクは 【 シャロン 】。改めて、これからよろしく!2人共。」ニコッ
こうして新にドラゴニュート……5人目の人外の女の子が仲間入りした。
竜の頭部の兜からチラッと見えた青い髪の少女の顔は、とても嬉しそうな良い笑顔だった。
拠点 ・玉座の間
シャロン 「ユーヤ、入るよ。」
重い扉を押し開けて、シャロンが玉座の間に入ってきた。
ドラゴンの頭部の兜を脱いでおり、彼女が動く度に、露わになった青色のショートヘアが一緒に揺れ動く。
悠耶 「おう、シャロン。此処の生活には慣れたか?」
シャロン 「おかげさまで。ゴメンね、いろいろ要望を出しちゃって。」
悠耶 「気にすんな。仲間には自分の住みやすい環境で、日常生活を過ごしてもらいたいからな。」
その結果、この拠点内の俺が今居る……この玉座の間がある城の背後に、それはもう大きくて立派な活火山が聳え立ち、その山膚に盗賊や海賊の砦を彷彿とさせる施設を作り、シャロンはそこで自由に過ごしている。
また、活火山の設置に伴い、マーレ用水路とは別に、黒曜石で火山の火口から砦、城壁の周囲に造った濠を循環するマグマ用の水路も作った。
結果……水とマグマの水路が、偶然何かちょうどよく合わさって良い感じの温度になっている部分があることを、拠点の地図を眺めているときに気付き、そこから運用して、拠点に大浴場ができた。
これまで、俺も他の皆も汗は冷たい井戸水で洗い流していたので、この偶然の産物ができたときはマーレ以外の全員が両手をあげて喜んだ。
悠耶 「あっ……そういえば、シャロンのステータスをまだ見せてもらってなかったな。」
シャロン 「そうだっけ?じゃあ、ほら!これがボクのステータスだよ。」
そう言いながらシャロンが表示した彼女のステータスを見せてもらった。
【 シャロン 】
レベル : 45
種族 : ドラゴニュート
クラス : 竜騎士 ( ドラグーン )
【 ステータス 】
HP 1180000 / 1180000 MP 500000 / 500000
攻撃力 297000 ・ 守備力 360000 ・ 魔法攻撃力 186500 ・魔法防御力 347200 ・ 素早さ 5270 ・ 運 745
【 スキル 】
〇 驚異の再生力 Lv Ⅲ: 何らかの原因で首以外の部位が切断してしまった場合のみ発動。瞬時にその箇所を再生すると同時にHPの半分を回復する
〇 変温動物の性 Lv Ⅰ: 砂漠や溶岩地帯など暑い場所での戦闘時、素早さが上昇する / 雪山などの極端に寒い場所での戦闘時、素早さが減少する
〇 鉄壁要塞 Lv Ⅱ: 敵から受ける攻撃、魔法攻撃のダメージが減少する
〇 逆鱗 Lv Ⅲ: 敵の攻撃で体力が半分以下になった時、攻撃力が上昇する / 自分以外の味方の体力が3分の1になった時、攻撃力が上昇する
〇 竜の眷族 ( パッシブスキル ) : 味方がかけてくれたバフ効果が解除されない / 敵の攻撃で状態異常にならない / 竜の眷族以外のスキルが発動した時、運以外のステータス全てが2段階上昇する
【 装備武器 / アイテム 】
武器 : 火槍
アイテム :
—
—
—
【 魔法 】
〇 Gegenangriff Signalfeuer MP消費 : 5 属性 : 炎
30秒間魔法使用者の体を紅いオーラが包み込む。敵から受けるダメージを半減させ、本来敵から受けるはずだったダメージを2倍の威力まで増加させてカウンター攻撃を繰り出すようになる
〇 Brennen Hinterhalt MP消費 : 10 属性 : 炎
自分の周囲に炎の玉を5つ召喚した後、無造作にばら撒き地中または床下へ忍ばせる。炎の玉を忍ばせた場所からは白煙が上り、敵が火の玉を忍ばせた場所に接近した瞬間、極太の火柱となって噴出し敵にダメージを与える
〇 Letzter Ausweg Wyvern MP消費 : 20 属性 : 炎
その場で一度飛翔した後、どこからともなく呼び寄せたワイバーンに騎乗して更に飛翔する。急降下時に火槍から放出する火炎放射と、ワイバーンが吐き出す火炎放射で敵全体に大ダメージを与える
悠耶 「さすが、ドラゴンの血を引いてるだけあって、純粋に強いな。」
シャロン 「ボクから言わせてもらったら、そのドラゴンの力を嘲笑うかのように、手合わせでボクと互角以上にやりあうユーヤのほうが凄いよ。」
悠耶 「そりゃまぁ、こんなナリでも一応 『 魔王 』 の肩書を背負ってますんで。」
シャロンとそんな話をしていたときである。久しぶりに 『 ✉ 』 マークが、表示されていたシャロンのステータス画面上に浮かび上がった。
悠耶 「ん!これは……シャロン。すまねえけど、シルヴィアを呼んで来てくれねえか?」
シャロン 「え?うん、わかったよ。ちょっと待っててね。」
- 数分後 -
シャロン 「ユーヤ。シルヴィア、呼んで来たよ。」
シルヴィア 「お待たせして申し訳ございません。どうされました?ユーヤ様。」
悠耶 「また神様から通信が着てな。大事な話かもしれないから、シルヴィアにも聞いておいてほしいんだ。」
シルヴィア 「そうでしたか。承知致しました。」
シャロン 「ねぇ、ユーヤ。ボクも此処に居ていい?」
悠耶 「もちろん。それじゃあ、神様と通信するぞ。」
先程届いた『 ✉ 』 マークをタッチすると、すぐに転生の神様の声が聞こえてきた。
神様 『おぉ。今回も無事に繋がって良かったです。』
悠耶 「神様、今回はどうしたんですか?また堕天使の受け入れ要請ですか?ウチはいつでもウェルカムですよ。」
神様 『いや……今回はそうではないのです。まずは、この映像を見てもらいましょうか。』
そう神様が言った直後、俺達3人の目の前に、ある映像がスクリーンで映し出された。
そこには険しく細い山岳道路で、落石事故に遭っている大型バスが映っていた。運転席は無事みたいだが、それより後ろが大岩のせいで大惨事になっている。
被害状況からして、乗っていた奴の大半は亡くなってしまっているだろう。
シルヴィア 「これは?何やら見慣れない箱が映っていますが……」
悠耶 「こいつは俺が前に住んでいた世界の馬車みたいなモンさ。」
シャロン 「それじゃあ、此処に映っているのが、ユーヤの……」
悠耶 「それで?神様。何で俺にこの映像を見せたんだ?交通事故なんざ、向こうの世界じゃ日常茶飯事だろ?」
神様 『実は……そのバスに乗っておったのは、君のクラスメイト達なのです。』
悠耶 「へぇ……今更、あいつ等がどうなろうと俺には関係無いけど……でも、何で連中はこんなバスに……」
神様 『修学旅行の目的地へ移動中の不運な事故でした。』
悠耶 「あぁ、なるほど。そういや、あったな。そんな行事。」
確か、あの学校の修学旅行は秋の半ば頃だったはず。俺が死んだのが5月の終わりだったから……うわっ、夏休み終わってんじゃん。
シルヴィア 「あの、ユーヤ様。先程から話の内容についていけてないのですが……」
悠耶 「あっ、すまん!えっと、まぁ……大雑把に言うとだな、前の世界で俺を死に追いやった連中が、この事故で死んだって話だ。」
シルヴィア 「なるほど。因果応報ですね。」
悠耶 「それで?優しい転生の神様のことだ。連中も転生させるつもりなんだろ?俺の居るこの世界に。」
神様 『うむ。君のクラスの担任とバスの運転手以外……つまり、君のクラスメイトだった39人を、そちらの世界へ勇者として転生させるつもりです。』
おいおい……あいつ等全員が死んで、先生が無事って……どんな座席順だったんだろう?
悠耶 「確か、以前にも勇者がどうこう言ってましたね。えぇ、神様の仕事に口出しはしません。この拠点を脅かす連中を始末するため、強くなるだけです。」
神様 『わかりました。私も彼等をいきなりそちらの大陸にある都市に転生させるつもりはありません。海を挟んだ別の王都に転生させるつもりです。』
シャロン 「つまり、敵がこの大陸のこの拠点に来るまで、まだまだ時間があるってことだね。」
シルヴィア 「そうですね。それに、各地の厄介事に巻き込まれたり、モンスター討伐などもされるでしょうから……」
悠耶 「あと、手頃なゴブリンとかを倒してLvアップとかな。まぁ、いつになるかは解らないけど、いつ来ても大丈夫なよう、普段から準備はちゃんと整えておこうな。」
シルヴィア ・ シャロン 「「はい!」」
悠耶 「神様、話は以上ですか?それでは、人数が多いですけど頑張ってください。」
神様 『ありがとうございます。あっ、そうでした。伝えることがもう1件ありました。』
シャロン 「もしかして……勇者の数が増えるとか?」
神様 『いえ、そうではなくですね。これは私というより最高神様からなのですが……『 フレデリカを受け入れてくれたこと、東の魔王軍の一団を殲滅したりと……遅くなりましたが、感謝の意を込めて、贈り物を差し上げます! 』 とのことです。』
悠耶 「え?素直に嬉しいですし、プレゼントは欲しいですけど、最高神様が魔王にプレゼントって……大丈夫なんですか?いろいろと……世間体的に。」
神様 『はい。最高神様もその考えに至りまして、それで私に……』
悠耶 「そうでしたか……お勤めご苦労様です。それで?プレゼントの内容は?」
神様 『まず1つ目は、勇者の動向をTV番組を見るように観察できるようになりました。2つ目は、悠耶さんの御仲間の皆さんが各々拠点に装飾品などを作ってカスタマイズできるようになりました。3つ目は、悠耶さんのアイテムストレージに、内容を一新した【 魔獣の召喚符 】 を1枚入れておきました。また後程確認してください。』
悠耶 「ありがとうございます、神様。最高神様にも改めてお伝えください。」
神様 『わかりました。あっ……遣いの者が彼等を連れて来たので、私も失礼しますね。彼等が転生したら改めて一報入れておきます。』
悠耶 「はい。お願いします。」
- 通話終了 -
悠耶 「ふぅ……」
シャロン 「……ユーヤ、大丈夫?」
悠耶 「ん?あぁ、ちょっと長話しちまったかな……」
シャロン 「そうじゃなくて……前の世界のことは全然知らないけど、ユーヤに酷いことした奴等といつか戦うことになるんだよ?辛くない?」
悠耶 「それなら大丈夫。この拠点の長として……いや、この世界に来たときから、人間と戦う覚悟はできているつもりだ。ただ、それでも大事な局面でヘタれてしまった時は……シルヴィア、シャロン。俺を打ってでも目を覚まさせてくれ。」
シルヴィア 「はい。承知致しました、ユーヤ様。」
シャロン 「うん。わかったよ。まぁ、ユーヤの居るこの玉座の間に来れるか……まずはそこからだよね。」
悠耶 「ははっ、そうだな。シルヴィア、今回の件を他の3人にも伝えておいてくれるか?」
シルヴィア 「もちろんです、お任せください!」
俺の元居た世界のあいつ等がこの世界に来た。
相まみえるのは、まだまだ先の話だけど……対峙した時、確実な絶望を与えられるよう、もっと強くならなければ。
ここまで読んでくださった皆様、本当にお疲れ様でした。
えっと、まだ文字数的には余裕があるのですが、章が15と( 個人的に )そこそこキリが良い数字になったので
次話からは次のスレッド?とにかく、新規作成したもので続けていこうと思います。
まだ続きますので、新しく投稿した続編を見つけた際、気が向いた時にでもチラッと覘きに来ていただけると……パソコンの前で柔時雨は歓喜します。
それでは!また次の回で御会いしましょうです。
むむ、楽しいぞこれ思ったよりスゲェ(๑╹ω╹๑ )
と思いましたこれは支援モノですな。
リアルの忙しさとネットの忙しさのパワーバランスが難しいと思いますが、
休みに割り振るポイントも忘れずにご無理のなさらないように!
ミヤビさん
コメントありがとうございます!
少しでも楽しんで頂けているようで、ホッと安堵の溜め息を吐くことができます。
他の作品は【 艦これ 】だったり【ポケモン】というベースとなるゲームがありますが、今回は武器やモンスター以外は1からの挑戦なので
色々四苦八苦して考えながら綴っていこうと思っています。
大丈夫ですよ……更新が途絶えている時に休んでいると思ってください。
だんだん調子良く更新してますね!
がんばですー!
ミヤビさん
いつもコメントありがとうございます。
ユーヤ勢力、ボチボチと……でも、確実に拡大中です。
調子よくなってますか?そう言っていただけるのであれば、幸いです。
少しでも覘きに来てくださった方々に楽しんで頂ける様、今後も綴らせていただきますね。
最近の異世界転生物の中では全然面白かったです!
最初はこういう作品って文章とか言葉とか設定とかが極端にチープなものが多くて敬遠してたけど
思ったより文章とか、設定がしっかりしてて、あと、いい意味でラノベっぽいちょうどいいチープさが読みやすくしててサクサク読めました!
黒星さん
コメント、そして面白いと言っていただき、誠にありがとうございます!
俺も異世界モノというのは存在自体知らなかったのですが、偶然某ヨウツベさんで漫画を見て……
気が付いた時には読みふけり、気がつけばこうして書き始めるくらいまでハマってしまいました。
いろいろ手探り状態で綴っている状態ですが、引き続き楽しんでいただける様、精進させていただきますね。