艦これss 冬谷「また、海へ征く君に」外伝1
彼女は壊した。
楽しかった『記憶』の全てを、壊した。
このSSは本編2話の戦艦レ級の過去についてです。
時間は本編2話の約10年前になります。
主人公視点でのストーリーです。
ここでの深海凄艦は
·戦争をして艦娘もとい人間を滅ぼしたい戦争推奨派
·戦争をせず艦娘もとい人間と共存したい反戦争派
に分かれています。
登場人物
戦艦レ級 約10歳
隠岐泊地にて建造された深海凄艦。
戦艦、駆逐艦、軽巡、潜水艦の4つの艦因子を掛け合わせた『ハイブリッド型』。
戦争が嫌い。空母ヲ級が大好き。
空母ヲ級 約15歳
隠岐泊地にて建造された深海凄艦。
空母、重巡、駆逐艦の3つの艦因子を掛け合わせた『ハイブリッド型』。
戦争が嫌い。隠岐泊地でのお姉ちゃんポジション。
外伝1話 『ハイブリッド型』
最初の感覚は、液体に全身を包まれているような感覚だった。
その次に、何人かの声が聞こえた。
「やった…やったぞ!」
「やっと5体目のハイブリッド型が出来た!」
「しかも従来の奴らとは違うぞ!なんせ艦因子を4種も積んでいるからな!」
「それじゃ、起動するまで、訓練のプログラムでも組んでおくか…」
「いや〜しかし、もう5体目か…」
「いやいや、こいつは今までのとは違う。こいつは完成品だ。」
「そうだな。こいつなら…」
液体の中にいるのか、話がよく聞こえない。
少し、目を開けてみた。そしたら、何人かいた奴らの内の一人が気付き、
「あ…ハイブリッド型が起きたぞ!」
と私に聞こえる位の大声で叫んだ。
そして直ぐに他の奴らも気付いて、何かを弄り始めた。と、私を包んでいた液体が足元の穴に流れていく。
完全に液体が無くなると目の前のガラスが開く。要は出て来い、という事だろう。
変な箱みたいな物から出た途端、パンッ、と音がした。私はとても驚き、その後それを見た。
円錐形でカサカサいう紙みたいな物が付いている。
私は何故かそれを知っていて、思わず、
戦レ「…クラッカー…?」
と呟いた。すると、そのクラッカーを持っていた一人が、
研究員1「お、よく知ってるな。ビックリした?」
と私に言った。私はコクリ、と頷いた。その後直ぐにその隣の人が、
研究員2「まぁとりあえず、戦艦レ級!」
と言い、その後に続いて全員が
研究員1.2.3「「「誕生おめでとう!」」」
と言った。何だか、純粋に嬉しい気がした。
〜数分後〜
私は、これから部屋で生活することになる。同じ部屋の仲間がいて、研究員と名乗った奴は、
研究員1「君と同じ部屋の子は、簡単に言えば君の『お姉ちゃん』だよ。」
と私に言った。しかし、正直ちょっと不安だ。
ここで造られて、仲良くできるのか。
そう考えている内に、その部屋に着いたようだ。研究員は直ぐに、コンコン、と扉を叩いた。すると、おずおずとした感じで、扉が開く。そして、そこに居たのは、
空母ヲ級「アラ、可愛イ子ネ。研究員サン、コノ子ガ新シク入ッタ子?」
まさに『お姉ちゃん』と言える、空母ヲ級だった。
まず見えたのは、恐らく私と同じ色であろう目。そして、すらりとした顔立ち。さらに白くて長い髪。そして、下の方を見ると、自分より…その…うん。大きい。(ボキャ貧)上の方に目線を向けると、その体型に不釣り合いな、えっと…蟹…?
空ヲ「?コレハ蟹デハナイワヨ?」
あ、違うんだ。研究員によると、頭のやつから艦載機を出して攻撃や制空権をとるらしい。えっ、じゃあこの人超強いじゃん。ていうかさっき私の心読んだよね?
空ヲ「フフフッ…」ニコッ
研究員1「それじゃあ空母ヲ級、戦艦レ級に色々教えてやってくれ。それじゃ。」トコトコ
空ヲ「ワカッタワ。サァ、入ッテ?」
戦レ「ウ、ウン…」シツレイシマス
部屋は広めのようだ。ベッドに箪笥、洗面所まで…結構ハイスペックだなここ。
空ヲ「レ級チャン、ソコニ座ッテテ?」カチャカチャ
戦レ「ア、ウン」ヨッコイショ
座って直ぐにお茶が出された。……ん?
戦レ「ア、アノ…」オズオズ
空ヲ「アラ?ドウシタノ?」
戦レ「アノ…ソノ…チ、チャン付ケハ、アノ…チョット…」オロオロ
空ヲ「アラ、イイジャナイノ。可愛クテ私ハイイト思ワ。」
戦レ「カ、可愛イ⁉ソンナ嘘ヲ」ボンッ
空ヲ「嘘ジャナイワヨ。本心ヨ?ソンナコト言ワレタラ、私泣イチャウワ…」。・゚・(∩Д∩)・゚・。シクシク
戦レ「アアアア!!泣カナイデ!チャン付ケデモイイデス!ハイ!全然アリガタイデスノデ泣カナイデ!」オロオロ
空ヲ「アライイノ?ジャアレ級チャンデイイワネ♪」
あ、まんまと嵌められた。ヲ級さんを見てみる。
空ヲ「フフフッ…」(・∀・)ニヤニヤ
恥ずかしい…と、ヲ級さんが思い出したようにこう言う。
ヲ級「ア、レ級チャンモ私ノ事『ヲ姉チャン』ッテ呼ンデモイイノヨ?」ニヤニヤ
戦レ「ウッ…」
ぐっ、と言葉に詰まる。さっきあんな事を言ったから、強く言えない。……しょうがないか…
戦レ「……ヲ……」
空ヲ「ヲ?」
戦レ「ヲ…姉…チャン…//」カーッ
空ヲ「レ級チャン、モウ一回言ッテ?」
戦レ「ヲ姉チャン…」
空ヲ「モウ一回言ッテ!」
戦レ「ヲ姉チャン!」
空ヲ「レ級チャン好キー!」ダキツキ
戦レ「チョ、ヲ姉チャン⁉」
キャーレキュウチャンダイスキー! チョットヲネエチャンハナシテー!
そんなヲ姉ちゃんとの会話があって。
〜1900、食堂〜
戦レ「エエト、ヨ…ヨロシク…オネガイシマス…」オズオズ
ワーイ ヨロシクネー カワイイー
自己紹介をやった。他の子に見られるって凄く緊張する…あ、ヲ姉ちゃんいた。
空ヲ「ッ…ッフ…クッ…」ワライコラエ
……くそう。笑ってやがる。
〜食後、自室〜
空ヲ「…ウ〜ン…」アタマカカエ
戦レ「…」ブッスー
空ヲ「ゴ、ゴメンナサイッテ〜…」オロオロ
戦レ「…フンッ」プイッ
空ヲ「私ガ悪カッタカラ許シテヨォ〜…」
戦レ「…許スモンカッ」ホッペプクーッ
空ヲ「(何コノ子超可愛イ)」
空ヲ「(…イヤイヤ違ウ違ウ)ネ?オ菓子アゲルカラ許シテ?」つお菓子
戦レ「…食ベル」ススス
空ヲ「(ヨシ釣レタ)」
戦レ「…オイシイ…」モムモム
空ヲ「(…アア何デコノ子ハ可愛イノヨ!)」
そんな空母ヲ級もといヲ姉ちゃんとの会話があって。
私はヲ姉ちゃんと一緒に過ごすようになった。隠岐泊地に艦娘が制圧しに来ないのかっていう疑問があるが、ここは海軍公認の非戦闘泊地らしい。なんとも、ここのモットーが「艦娘も人間も友達」だからだという。
戦闘訓練もした(対人訓練ではない)。他にも友達ができ、沢山お話をした。金剛という艦娘の友達もできた。誕生日には、泊地の仲間全員でお祝いをした。逆に祝われたりもした。私は、毎日がとても楽しく、こんな日々が続いてくれたらいいなと思った。
〜10年後〜
そんなこんながあって、早くも10年が経っていた。
戦レ「フゥー…」ヨッコイアグラ
私は海岸で黄昏れていた。
空ヲ「ドウシタノ?溜メ息ナンテツイテ…」トナリニヨッコイショ
戦レ「…金剛ガ…」
空ヲ「?」
戦レ「死ンダソウダ。」
空ヲ「…」
戦レ「沈ンデハイナカッタソウダ。鎮守府デ死ンデイタト聞イタ。」
戦レ「犯人ガ…ソコノ提督ラシイ。アイツハ居ナクナッタガ…私ハ…」ポロポロ
戦レ「…悔シイ!大好キダッタ友達ガ居ナクナルノガ!悔シイ!」ボロボロ
戦レ「コノ怒リハ、何処ニ当テタライイ?私ハ、ドウシタラ…」ボロボロ
私は泣き、ヲ姉ちゃんに質問した。その答えは言葉ではなく、
ギュッ
私に抱きついた事だった。
戦レ「…エ?」ボウゼン
空ヲ「…」ダキツキアタマナデナデ
戦レ「チョットヲ姉チャン、離シテ「ヤーダ♪」ナ、何デ…」
空ヲ「私ハネ?ソンナ怒リヲ何処カニブツケヨウトスルレ級チャンガ嫌イナノ。」ナデナデ
戦レ「ジ、ジャアドウシタラ…」
空ヲ「私ニ話シテ?私ニ思ウ存分ブツケテ?貴女ダケガ抱エル事デハナイワ。私モ金剛チャントハ色々話ヲシタ仲ナノ。」ナデナデ
戦レ「…」
空ヲ「私モ、アノ子ガイナクナッテトテモ悲シイワ…トテモ、トテモ怒ッタ。ドウシヨウ、コノ感情ヲ何処にブツケレバイイダロウ、ッテ。」ナデナデ
空ヲ「ダカラ、他ノ子ニ沢山オ話シタワ。金剛チャントノ思イ出ヤ、喧嘩、レ級チャントノオ話トカ、沢山アッタ思イ出ヲ、全部話シタノ。ソシタラ…」
重巡リ級『ヨク話シテクレタナ。』
空ヲ「ッテ、頭ヲ撫デテクレタノ。ソノオカゲデ、私ノ心ノ中ハスッキリシタノ。」
空ヲ「ダカラ、私ニ全部話シテ?貴女ト金剛チャントノ思イ出ヲ、全部。」ナデナデ
戦レ「ウ…ウワァァアァァ…」ボロボロ
私はヲ姉ちゃんに言われるがままに、全てを話した。楽しかった事、悔しかった事、喧嘩した事、私と金剛が作った思い出の全てを。
〜数分後〜
空ヲ「…?アラ…」ナデルテヲトメル
戦レ「スゥ…スゥ…」ジュクスイ
空ヲ「フフ…何ダカ強クナッタカシラ…?」ホッペプニプニ
戦レ「…ンゥ…ムニャ…」
〜次の日〜
管理人「戦艦レ級、今日は対人訓練をしようと考えているんだ。」
戦レ「エ、ソレッテ…」
管理人「ああ心配しないでくれ。大破したらその時点で終了だ。殺したりはしないから安心してくれ。」
戦レ「…ア、ハイ…」
ガチャバタン
管理人「……」
管理人「…そんな訳無いだろう…」
〜10:00、訓練用ドーム〜
戦レ「…」キョロキョロ
戦レ「(…オカシイ)」
戦レ「(誰モ来ナイ。時間ガ違カッタ?)」
管理人『あーあー戦艦レ級聞こえてるか?』マイクゴシ
戦レ「ハ、ハイ!」
管理人『よし。それじゃ、今回はまず一艦隊に単独で出くわした時だ。』ブツッ
ガゴゴゴ…
戦レ「(…ア、アッチナンダ…ッテ、エ?)」
その扉から出てきたのは、
空ヲ「…」フラッ
見間違う筈も無い。10年間一緒に暮らしてきた「ヲ姉ちゃん」だった。
戦レ「ナ…ナンデ…?」ボウゼン
よく見れば、重巡リ級や駆逐凄姫もいる。しかし皆の目は虚ろで心此処にあらず的な状態で、ふらついている。
戦レ「クッ…管理人サン!!ナンダコレハ!」
管理人『あっははは。頑張って生き残ってよ?今のこいつ等は死ぬまで君を殺しに来るからね…』ツウシンキゴシ
戦レ「クソッ…ネェ、ヲ姉チャン!皆!聞コエテル?何ガアッタノ⁉」
空ヲ「…ゥア…ァァ…」フラフラ
駆姫「グ…ゥゥ…」ガチャッドォン
戦レ「クッ!ネェ!答エテ!!目ヲ覚マシテ!」ザザザザ
空ヲ「ゥオ…レ…キュウ…チャン…?」フラフラ
戦レ「‼ヲ姉チャン!ヲ姉チャン!大丈夫⁉何ガアッタノ⁉」ザザザザ
空ヲ「カ…管理人ノ…仕業…」カンサイキハッカン
戦レ「ナ…ナンデ!」ザザザザ
バババババッ
戦レ「ウグゥッ!」小破
空ヲ「レ…級チャ…ン…コ…コロ…シテ…」フラフラ
戦レ「ヤダ!イヤダヨヲ姉チャン!私ガ元ニ戻スカラ!」ポロポロ
空ヲ「オ…ネガイ…」ツゥー
戦レ「ウ…ウゥ…死ンデモ…恨マナイデヨ?」ボロボロ
空ヲ「レ級チャンニ…殺サレルナラ…トテモ、嬉シイ…」ボロボロ
戦レ「ウゥ…」カタカタ
此処で殺してしまっていいのか?この後はどうすれば良い?あの男はどうするか?と、その時、
空ヲ「レ級…チャン…」ボロボロ
戦レ「?」ボロボロ
空ヲ「貴女ハ、死ナナイデ。」ニコッ
ヲ姉ちゃんは、笑っていた。
戦レ「ッウ……アリガトウ…ヲ姉チャン…」ニカッ
ドォン…グシャッ…
戦レ「……」
戦レ「………………………………………………アァ……」
………ああ………
戦レ「……ァァァァァァアアアア!!!」ガシャッバンバンバン
………もう、全て壊してしまおうか。
戦レ「ウアアアアアアア!!!アアアアアアアア!!!」ドンドンドンバンバンバン
ドォンドォンボガァァン……
私は、自分の体力が尽きるまで、此処を壊した。不思議と、罪悪感や背徳感は感じなかった。壊す。自分の思い出の場所を、友達との会話も、自分の笑顔も、硝煙の匂いに紛れて消えていく。炎の中で燃えていく。歩いて、あった物を壊す。歩いて、動くモノを撃つ。
歩いて、壊して、歩いて、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して。
ーーーーーーーーーーーそして。
〜隠岐泊地だった所〜
戦レ「……」
私は、自分の家だった所に立って、
戦レ「……何モ、無クナッタ……」
そう、呟いた。
戦レ「……………アハッ………」
何だか不思議と笑えてきた。
戦レ「アハハハハハハハ!!アハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハ!!」ケラケラケラ
戦レ「ウアアアアアアアアアアアアア!!!!」ダァン
笑えてきたと思えば次は涙か。でも、もう、抱き寄せて頭を撫でてくれるヲ姉ちゃんは居ない。私は、涙が枯れる迄泣いていた。
戦レ「……アーア……」ネッコロガリ
これから、何をしようか。行く宛も無い。金剛がいた鎮守府は遠いし、かといって他に知ってる鎮守府が無い。
と、ふと思い出した。
戦レ「舞鶴……」ボソッ
そうか。舞鶴に行けば良いか。そう自分に問うてみる。…分からない。まぁ良いか。どっかに行けば。
戦レ「……弾モ、魚雷モ、ナイ…マ、イッカ。」トコトコ
パチャッ…ザザザザザ……
また、この苦しみを受け止めてくれる奴がいるかな…
ー終ー
本編3話も早めに投稿します。
ここから本編でも主人公視点での思考などをちょくちょく書き出そうと思います。
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