2019-09-14 18:27:12 更新

概要

"多摩さんの師匠は誰?"そんな天龍の素朴な疑問に多摩は快く語り始めるのだった、記録には無い多摩の記憶を…


前書き

球磨「球磨型心得そのいーち」のスピンオフ?
となります
前回は何を言ってるのか分からなかった
多摩ですが今回は喋ります(過去限定)
内容は前回の球磨編に続き今回もバトル物
となります(話の関連性はありません)
調子に乗ってたら本文がかなり長くなって
しまいました(汗)読む方はご注意を
今回も単独で読める様にしていますが
よければ前作もどうぞ(宣伝)

本SSの注意点
気を付けはしましたが戦闘の描写の際の
表現がいくらか有ります
それでも良い、文句は言わない
と言える方は本文へどうぞ
そうでない方はブラウザバックをお願いします


大潮

「ひゃああああ!?」


ザッブーーン


貨物用クレーンに吊られた

特別製の飛込み台から

大潮が海に"落ちた"

大潮

「ぷはっ」

再び海面へと顔を出した大潮に

多摩の罵声が飛ぶ

多摩

「ニャ〜」

大潮

「そんな事言われても…この高さで

 海面に着水なんて不可能ですよぅ…」

待機していた他の朝潮型に引き揚げられ

海面に立つ大潮

その顔には不満がアリアリと表れている

クレーンのアームの先

大潮が飛び込んだ吊り台の更に上方で

遥か下方の海面を見下ろす多摩

その多摩に岸壁から声が掛けられる

木曾

「どうする?信用されてない様だぞ」

(クックック

岸壁から様子を見ていた木曾が笑う

楽しそうだ

多摩

「ニャ〜」

木曾を一瞥すると多摩は乗っていたクレーン

から躊躇する事なく飛び出した

木曾

「あ、おい!?」

クルリ…ザッバーン

多摩が空中で身を翻すが

重力加速度が変化する事はない

そのまま勢い良く海面に到達すると

当然大きな飛沫が上がる

大潮

「ほら自分だって出来ないじゃないですか!」

それ見ろと言った具合に

腕組みをして言う大潮だが

その手を霰が引っ張る


「大潮、アレ!アレ!」

霰が執拗に引っ張るので仕方なく

視線を着水地点へと戻す大潮

飛沫が収まったそこには

ランス○ットの発進ポーズで波に浮かぶ

多摩の姿が在った


※)多摩達は特別な訓練を受けています

  良い子は決して真似をしないで下さい




球磨とのクマーズ・ブートキャンプを

終えて数日、球磨は既に母港の在る

稚内の対深海棲艦北方対策基地に戻っていた

だが上昇思考の強い朝潮達は

自分達と同じ鎮守府に在籍する多摩に

引き続き訓練を求めていた

最初(はじめ)は教官をする事から

逃げ回っていた多摩であったのだが

球磨

「見舞い品をギンバイした罰クマ」

球磨の一声により訓練教官を

押し付けられていたのだった


木曾

「向こうで球磨姉から基礎は叩き込まれたが

 あの2人…艦娘としても色々おかしいな」

着水訓練後、鎮守府内の休憩所に

木曾と天龍の姿が在った

天龍

「へぇ、あの球磨さんの訓練か

 まるで想像出来ねーな」

先程チラリと目にした"飛び込み"訓練を

思い出すと

天龍は飲み終えたジュースの氷を噛み砕いた

木曾

「安心しろ、球磨姉も基礎はあくまで

 基礎だった、そこはちゃんとしている」

冗談半分で言った天龍だったが

木曾の真面目な返答に少々戸惑う

木曾

「だが、それ故に"あの"模擬戦では

 流石に面食らった」

注)球磨「球磨型心得そのいーち」参照

天龍

「あれ見て驚かない艦娘がいたら

 是非とも会ってみたいもんだ」

球磨の並外れたパワーは言うに及ばず

天龍は多摩の身のこなしや

その技のキレを思い出す

天龍

「そう言や、多摩さんの師匠って誰なんだ?」

あの模擬戦までは誰もが

"多摩ちゃん"呼びであったのだが

何時の間にか"ちゃん"付けで

多摩を呼ぶ者は殆どいなくなっていた

木曾

「球磨姉は退役した提督と言っていたが

 言われてみれば聞いた事は無かったな…」

タピオカミルクティーを飲みながら

考え込む木曾に

天龍が面白がって提案する

天龍

「じゃあさ、一丁確かめにに行こうぜ」




休憩所で一度別れた後、木曾は大潮を連れ

天龍は何やら荷物を持って再度合流すると

3人は多摩のお気に入り

海が見渡せる工廠の屋上へと向かっていた

大潮

「確かに興味は有ります

 この大潮、吝かではありません…が」

大潮

「何で大潮が連れて来られたんですか?」

表裏の無い透明な水晶玉の様な大潮は

疑問をそのまま口にする

天龍

「そりゃお前、通訳に決まってんだろーが」

一般艦娘には唯"ニャ〜"としか認識出来ない

多摩の発声なのであるが

何故か朝潮型の、それも大潮だけが

それらを理解し通訳する事が出来た

まあ、違っていたとしても

確認のしようがないのだが…

木曾

「あの暗号は難解過ぎてな…すまないが頼む」

木曾から頭を下げられると大潮は了解した

そんな話をしながら階段を上り終えると

3人は屋上の扉を開けた

潮の匂いのする熱風が木曾達を通り過ぎる

屋上迄の蒸し暑い通路と違い

開けた屋上は幾分爽やかに思える

天龍

「こりゃまた随分とリゾート気分だな…」

額の汗を手で拭うと

屋上の光景に天龍は呆れた様子で呟いた

ビーチパラソルで作られた日陰

サマーベッド、折り畳み机、

飲みかけのジュースに、携帯TVに、扇風機

そしてクーラーボックス

此処が砂浜であれば完璧だったであろう

セットの中、多摩は寝そべっていた

 



木曾

「まあ興味本位なんだが、疑問でな

 良ければ教えてくれないか?」

多摩は面倒くさそうに木曾を一瞥すると

欠伸を1つして微動だにしなかった

木曾

「ダメか…」

多摩の態度から察するに

話を聞くのは望み薄かと木曾は諦めかけるが

余裕の笑みを浮かべた天龍が木曾を

押し退け前に出た

天龍

「勿論、只とは言わねえよ」

(ガサ

色々と詰め込まれたレジ袋を

天龍が突き出すと多摩の髪が跳ねた

……… 

…… 



パラソルの影にレジャーシートを敷き

座る木曾と天龍

対面に当たるサマーベッドでは

多摩と大潮が並んでいる

多摩

「ニャ〜」

大潮

「直接は球磨さんの師匠、風提督

 そのケッコン艦の妙高さんだそうです」

予定していた役割を見事にこなし

大潮が多摩の言葉(?)を通訳した

木曾

「そうなのか」

木曾が建造される以前の事である為

球磨の言う提督や多摩の語った妙高との

面識は木曾には無い

天龍

「それで"その妙高"さん

 なんか面白い話とかねーの?」

持って来ていた摘みを広げると

多摩を急かす天龍

多摩

「ニャ〜」

少し考え込む多摩だったが

直ぐに天龍達に向き直り

あるエピソードを語り出した


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜昔、多摩が在籍していた別の鎮守府〜

(以下〜昔鎮守府〜)


多摩

「あっついにゃ…」

真夏のとある日

訓練を終えた多摩は1人

執務室へと向かっていた

何故1人なのかと言うと

少しでも早く涼を取りたい訓練生達は

皆でジャンケンをした…その結果だった

勿論、多摩もそれに賛成し参加した

他に誰も居ない廊下で

グーにした自分の手をジッと見る多摩

多摩

「おのれ…謀ったニャア」

あの時、他の訓練生は示し合わせたかの様に

パーばかりであった


妙高

「あら多摩ちゃん、訓練は終わったの?」

執務室では秘書艦の妙高が多摩を出迎えていた

この鎮守府の秘書艦、妙高

普段から笑みを絶やさず

その物腰は常に柔らかい

所謂、ノンビリ系のお姉さんキャラ

そのものである

多摩は着任以来

この妙高が怒っているのを見た事が無かった

多摩

「だから執務室(此処)に来てるにゃ

 これ、訓練の書類にゃ」

牙に鬼怒、もとい衣着せぬ物言い

とても上官に対する態度ではないのだが

妙高は特に気にした様子もなく

書類を受け取ると軽く目を通した

妙高

「はい、確かに

 お疲れ様でした多摩ちゃん」

妙高が確認をする間、執務室を見回す多摩

何故ならこの日の執務室には

妙高以外に誰も居なかったからである

そう言えば今朝は球磨も部屋に居なかった

今朝の事を多摩が思い出していると

妙高

「あら、もしかして昨日の朝礼

 聞いてなかったの?

 あの人なら主力の娘達と他所へ出向中よ」

妙高にズバリ心中を言い当てられ

多摩は少し動揺してしまう

着任時、先輩艦娘が言っていたのを思い出す

この妙高は人の心を見透かす…と

多摩

「そんな事はないにゃ、知っていたにゃ

 失礼しますにゃ」

長居は無用と一気に捲し立て

退出しようと背を向けた多摩に

妙高が待ったをかけた

多摩

「な、何か他にも?」

振り返らずに聞く多摩

開いた窓から流れる込む風が

多摩には酷く冷たく感じられた

妙高

「そんなに身構えなくても大丈夫よ

 冷蔵庫にアイスがあるから

 持って行くといいわ」

(クス

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現鎮守府〜


天龍

「おちょくって来ない龍田みたいな感じかね」

菓子の袋から1枚取り出し一口齧りし

天龍が言うと

木曾と大潮が手を叩いてガッテンした

多摩

「ニャ〜」

大潮

「嘘なんかは直ぐ見破られて

 とても困った、と言っていますね」

天龍

「あー…すっげぇ良く分かるわ、ソレ」

天を仰ぎ大仰に嘆いてみせる天龍

どうやら龍田には色々思う所が有る様だ

木曾

「ふむ、バレて困るなら嘘を言わなければ

 いいんじゃないのか?」

至極真面目に木曾が傍らの天龍に言うと

大潮も相槌を打っていた

天龍

「…そう言う事じゃねぇんだよ」

(ケッ

思考が純粋故に発言の主旨を

理解出来ない2人へ悪態をつく天龍

首を傾げると木曾は話を妙高へと戻した

木曾

「しかし今の話だと、それ程特筆する様な

 人物とも思えないが…」

多摩

「ニャ〜」

大潮

「えっと…、本番はこれからだそうです」

大好きなオレンジジュースを一口飲むと

大潮は話の続きに目を輝かせた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜昔鎮守府〜


多摩が在籍していた鎮守府は

それ程大きな所ではなかった

だがある一点において他の鎮守府とは

違う特徴が有った

それは艦娘の大部分を訓練生が占め

陰で訓練校と揶揄されていた事である

その為、実戦を知らない者特有の

のんびりとした空気が蔓延していたのだが

それはある日、突然打ち砕かれる事になる


その日、唐突に総員召集が掛けられた

多摩が急ぎ工廠前へ行くと

既に集まっていた者達がザワ付いていた

居並ぶ者達を見回し多摩は直ぐに

その理由が分かった

何故ならあの妙高が困った様な表情で

考え込んでいたからである

程なく全員が集まると

待機していた妙高が皆の前で話始めた

妙高

「皆、落ち着いて聞いて頂戴

 先程、哨戒班が当鎮守府へと向かう

 深海棲艦の一団を補足しました」

ザワ付きがピタリと止まる

皆の顔は強張っていた

何故なら此処に集まった艦娘達は

妙高を除けば皆、実戦経験が無いからだ

だが理由は他にも有る、それは数だ

大半が駆逐艦の、しかもたったの十ニ名

今、深海棲艦をマークしている

哨戒班を合わせても二十にすら届かない

誰かが口にした、深海棲艦の戦力は?と

皆が固唾を飲んで縋る様な目で妙高を見る

妙高

「35〜6は下らないそうよ

 正確な数は不明です」

だがそんな儚い希望は打ち砕かれた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現鎮守府〜


木曾

「おいおい、ざっと見積もっても

 倍近い数じゃないか…撤退したのか?」

木曾が立ち上がり多摩に詰寄る

多摩

「ニャ〜」

詰寄る木曾を足で離すと多摩は続けた

大潮

「最終的に敵は43体だったそうです」

通訳してからその数に大潮は驚いた

主力が相手をするのではない

戦うのは実戦経験の無い訓練生だと言う

大潮は自分の初陣を思い出す

あの時は6:3の戦力差が有りしかも自軍には

自分と比較にならない練度の者も居た

初陣で指揮官以外の経験者が居ない艦隊

しかも倍以上の戦力差、想像しただけで

この暑さの中…寒気がした

木曾

「質問の答えになってないな

 まさか、その口ぶりだと戦った…のか?」

呆気に取られる木曾に多摩は続けた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜昔鎮守府〜


天気晴朗で波穏やか

破滅的な危機が迫っているなど

微塵も感じさせない空の下

唯海を見ながら座り込んでいる多摩に

妙高が声を掛けていた

妙高

「多摩ちゃんこんな所でどうしたの?

 何処も人手不足だから手伝って頂戴」

多摩

「嫌にゃ…どうせ勝てっこないのに

 する意味がないにゃ」

そう言い不貞腐れて蹲る多摩に

少し困った表情を見せた妙高だったが

溜息を1つ吐くと

先生の様な口調で多摩に語りかけた

妙高

「いい?多摩ちゃん、覚えておきなさい

 何時の時代も人が足を止めるのは

 絶望ではなく諦めから」

妙高

「そして足を止めた者から戦場では死ぬわ

 悲しいけどこれは変えられない

 多摩ちゃん、あなたは死にたいの?」

死、戦場

戦士には避けて通れない言葉なのだが

訓練生だからと、無意識の内に避けていた

現実を身近な人物から突き付けられ

多摩は溢れるものを爆発させた

多摩

「多摩は死にたくないし死なせたくもないの

 だけど勝ち目が無いんだから

 しょうがないじゃないっ!」

涙で顔をクシャクシャにしながら多摩が

叫ぶ

そんな多摩の涙を拭い妙高は優しく微笑んだ

妙高

「あら、負けると決めつけるには

 少し早過ぎるんじゃないかしら?」

多摩

「前(大戦時)はそう楽観視して負けたんだ」

妙高

「それは耳が痛いわね、けれど大局的な

 戦局と1戦場を混同しては駄目よ」

多摩

「何が違うって言うの?」

口癖の語尾すら出る程に

余裕の失くなった多摩が妙高を睨む

しかしそんな多摩とは対極的に

妙高は変わらないのんびりとした

態度と笑みで答える

妙高

「前者は他方をねじ伏せる無制限の消耗戦

 後者はその時々で"勝利条件"が異なる事ね」

(ソウネェ…

多摩

「勝利…条件?」

妙高から勝利と言う言葉が出る事で

諦め切っていた多摩の顔が

ほんの少しだけ上を向く

妙高

「ええ、遮蔽物が何も無い洋上でなら

 確かに単純な数が物を言うわ

 そこは正しい、けれど此処(鎮守府)は

 水面だけの平面じゃない…城なのよ」

見慣れた湾や建物を穏やかな目で

見つめる妙高

妙高

「次に此処は敵が拘る様な要所でもなければ

 重要拠点でもないところ

 加えて此方には近隣の鎮守府からの

 援軍がある…こんなところかしら」

多摩

「よく分からない」

妙高

「う〜ん、簡単に言うなら此方は守るだけ

 けれどあちらにはこの戦いに割ける

 数と時間に制限が有る…ならどう?」

多摩

「数的不利を覆せる条件には思えないにゃ…」

説明を受けても尚まだ不満気な多摩

だがその言葉に語尾が戻ったのを妙高は

見逃さなかった

自分を見上げる多摩に手を差し伸べると

妙高は何時もと変わらぬ笑顔で言った

妙高

「そこは創意工夫次第ね、いい機会だから

 多摩ちゃんには私がレッスンしてあげるわ」




最低限の言しか発さず皆一様に

暗い訓練生達であったが

迎撃準備に忙しく走り回っていた

そんな中、多摩と数名は夕張に率いられ

工廠の奥…普段は誰も寄り付かない

場所へと来ていた

多摩

「こんな所に連れて来て何するにゃ?

 多摩も艤装の点検を…」

唯でさえ戦力に差があるのだ

せめて準備位は納得がいく迄行いたい

抗議する多摩を夕張が途中で制止した

その顔は自慢の工作を発表する前の

子供の様な笑みだった

夕張

「皆の言いたい事はよ〜っく分かるわ

 だからこその"コレ"なのよ!」

そう言って夕張は"それ"に被せられていた

シートを勢い良く取り払った



〜鎮守府沖合〜


発見より付かず離れずの距離を保っていた

哨戒班が沿岸沿いに鎮守府から離れて行く

だが、深海棲艦はそちらには目もくれずに

鎮守府へと針路をとっていた

軽巡棲姫

「ククク、我々ガイツモイツモ

 ヤラレテバカリダト思ウナヨ」

目前の小さな湾を防衛する艦娘は居なかった

軽巡棲姫

「フン、スデニ逃タカ?

 …イヤ、感ジルゾヤツラヲ…艦娘ハイル」

さながら獲物を前にして舌なめずりする

猛獣の様な軽巡棲姫

その彼女が号令を下すと

深海棲艦達は一斉に湾への攻撃を開始した

鳴り響く砲撃音とそれが伝える衝撃

戦う為に生まれた艦としての本能が

軽巡棲姫の魂を震えさせていた

楽シイ…と

………

……



軽巡棲姫、この一団を率いる彼女は

ある時この近海で沈められた深海棲艦が

皆下位の、それも少数ばかりである事に

気付いた

以降注意深く統計を取ってみると

此処は他の海域に比べ極端に戦闘が

少なかったのである

そして彼女は"訓練校"を突き止めると

数を集め反撃に打って出たのだった

ある"過去"を捨て去る為に


……

………


事前の統計から推測していた通り

大した艦は居ないのだろう

ここに来る迄に発見されていたにも関わらず

艦娘からの攻撃は無かった

更に本拠地を前にした今でさえ反撃は無い…

貧弱な艦娘共は深海棲艦(我々)の

圧倒的数に恐れをなし引き篭もっている

…軽巡棲姫は既に勝った気でいた

その時

前列で砲撃を行っていた深海棲艦が

突如爆散した

軽巡棲姫

「ナニ!?」

驚いた軽巡棲姫が鎮守府の方を見ると

先程の一撃を皮切りに次々と砲煙が上がる

深海棲艦が一撃で落ちたところを見るに

それは戦艦クラスの艦砲と推測出来た

軽巡棲姫

「馬鹿ナ、戦艦ガイルノナラ

 ナゼ今迄攻撃シテコナカッタノダ…」





〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜少し前、迎撃準備中の工廠〜


夕張

「皆の言いたい事は良〜く分かるわ

 だからこその"コレ"なのよ!」

そう言って夕張が被せられていたシートを

勢い良く取り払うと

そこには35.6cm砲が並べられていた

多摩

「これは…?」

多摩が35.6cm砲を指差し夕張を見る

夕張は楽しそうに多摩達を見た

夕張

「ふっふーん、皆さんにはこれから

 "陸の戦艦"になって貰います!」

そう言うと夕張はドヤ顔で無い胸を張るが

軽い沈黙が訪れる

夕張

「あれ?35.6cm砲よ?大砲よ?

 ここはワーって盛り上がる所でしょ?」

静まり返る皆に両手で以て盛り上がる様

促す夕張に多摩が抗議した

多摩

「多摩達はこんな砲、扱えないにゃ」

この時点で鎮守府での最高位は

重巡洋艦の妙高、唯1人

残りの艦は多摩を含める軽巡が最も上

戦艦の艦砲等運べたとしても

そもそも撃てる者が居ないのだ

だが夕張は不敵に笑うと指摘した

夕張

「海上で…ならそうでしょうね

 でもね此処は"陸"なのよ」

(ニヤリ

夕張はこれから始まる

実験的試みに心躍らせていた



〜戦闘中〜


多摩

「撃てー!」

多摩の掛け声と共に3人掛かりで

砲撃は行われていた

夕張

「3班左に5度修整、4班は仰角2度右3度…」

双眼鏡と電探を交互に見て

夕張が忙しく射撃の指示を出す

多摩達とは別の訓練生も複数人で班を組み

35.6cm砲による砲撃を繰り返していた

一方、深海棲艦側は当初の目論見とは違う

反撃…その威力と射程距離の差に

焦りを募らせ始めていた

軽巡棲姫

「エエイ、サッサトシロ

 コノ愚図ドモガッ!」

絶対的有利、覆し様のない筈の戦力差

だが、そのほんの一端ではあるが

この時、深海棲艦側は一方的に

その数を減らされたのだ

戦いは始まったばかりである


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




〜現鎮守府〜


天龍

「陸(おか)とは言え戦艦の砲って…

 マジかよ?うわー俺も撃ってみてー!」

のたうち回る天龍を見て大潮は何時も

夢一杯に戦艦を語る妹の知人を思い出した

これを聞いたのなら、きっと

天龍の様な反応をするのだろうな…と

無論、大潮自身も興味を唆られていた

木曾

「湾の入口で一時的に足が止まる瞬間を

 狙った訳か…

 何と言うか、奇策もいいところだな」

多摩

「ニャ〜」

大潮

「あ、全くだ、だそうです」

普段見掛けない摘みに手を伸ばすかどうか

思案していた大潮が慌てて通訳する

天龍

「これか?」

大潮に摘みを投げて渡すと

天龍自身もそれを齧った

天龍

「にしても訓練生だらけの鎮守府に

 よくそんな大砲(ブツ)が在ったな?」

落ち着きを取り戻した天龍が多摩に訊ねる

多摩

「ニャ〜」

大潮

「全くだ、だそうです」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜戦闘中〜


1/3程の戦力を削ったところで

35.6cm砲は弾切れとなった

攻撃する手段が失くなった鎮守府が

再び沈黙すると

程なく湾内に深海棲艦が雪崩込んだ

軽巡棲姫

「サッキハヨクモヤッテクレタナ

 全員引裂イテヤレ!」

湾内を深海棲艦が一斉に鎮守府へと迫ると

其処へ弧を描いて幾つもの煙幕が

撃ち込まれる、同時に鎮守府の建物からも

煙が立ち上っていた

軽巡棲姫

「目晦マシカ?ダガ見エナイノハ向コウモ…」

同じ、軽巡棲姫がそう言いかけた時

煙幕に足を止めた深海棲艦が轟沈した

そして続け様にまるで見えているかの様に

正確に撃ち貫かれていく深海棲艦達

軽巡棲姫

「何故コチラノ位置ガコンナニ正確ニ?

 マルデ見エテイルカノヨウナ…」

軽巡棲姫はその余りにも

正確な砲撃に困惑していた


妙高

「7つ…と、多摩ちゃん次は?」

鎮守府内で湾に面した最も高い場所

工廠の屋上で妙高が砲撃を行っていた

水平位置から見ると壁になる煙幕の帯も

上方より見下ろせば

疎らな茂みでしかなかった

多摩

「左60mに1体にゃ」

妙高

「了解」

35.6cm砲での砲撃の後

目視用員として多摩は妙高に付けられていた

妙高の砲撃が次々と深海棲艦を屠ると

多摩は感心していた、上方から撃つ等

海上での訓練経験しか無い多摩には

思い付きもしなかったからである

だが…


ズガーン


屋上に一発、深海棲艦の砲撃が着弾すると

それは瞬く間にその数を増した

妙高

「あらら、意外に優秀ね…

 こんなに早く此処に気が付くなんて」

砲撃の雨霰の中だと言うのに

暢気に敵を褒める妙高

一方、お付きとして唯1人屋上に連れ出され

妙高と共に砲撃の的となっている

多摩は焦り、怒っていた

多摩

「笑い事じゃないにゃ、どうするにゃ!?」

妙高

「もう少し減らせると思っていたけど…

 そうね、そろそろ"降り"ましょうか」

妙高の言葉を聞き、多摩は階段へと向くが

背後より伸びた妙高の手に阻止される

多摩

「ちょっ?何するにゃ?降ろ…」

抗議する多摩を無視し

妙高は多摩を小脇に抱えると


タッタッタ…タンッ


まるでプールに飛び込むかの様に躊躇無く

妙高は屋上から湾へと飛び出した

多摩

「待つにゃ!

 ここは屋上ぉおーーーーーっ!?」

多摩の絶叫は鳴り止まない砲撃音に

掻き消された


※)妙高達は特別な訓練を受けています

  良い子は決して真似をしないで下さい


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現鎮守府〜


大潮

「あの着水訓練の裏にはそんな経緯が!」

先程まるで成功しなかった訓練

その有用性に懐疑的であった大潮には

衝撃的な話であった

天龍

「いやいや…防衛戦、しかも湾内とか

 有り得ねーっての」

手を振り否定する天龍だったが

頭のアレは正直だった

木曾

「…明日の訓練、天龍(お前)も来るか?」

天龍の頭のアレを見ながら

木曾が訓練へと誘う

天龍

「ばっ、バッカじゃねーの?行かねーよ///

 それより続きだ、多摩さん続き!///」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




〜戦闘中〜


上方からの砲撃を逸早く察知し

潰す事に成功した軽巡棲姫ではあったが

既に余裕を失っていた

何故か?

それは自身の甘い采配によって

開戦から僅か十数分と言う短時間で

その半分を失った為であった

更に今、軽巡棲姫達は煙幕が立ち込める

視界の効かない湾内と言う限定された

空間で立往生しているのだ

軽巡棲姫

「クソ、次ハドウスレバ…」

軽巡棲姫が次の手を考えていたその時

シュシュシュ…ドーン

水中を滑る様な音の後に

派手な爆発音と水柱が上がる

シュシュ…ドーン

続け様に1発、計2発水柱と同じだけ

轟沈していく深海棲艦達

軽巡棲姫

「魚雷カッ!?」

深海棲艦A

「魚雷ダ東カラダ」

深海棲艦B

「違ウ西ダッ」

情報が錯綜し足元を断続的に走る魚雷

次はどうすればいいのか?

深海棲艦達の混乱はピークへと達していた

そんな最中…

深海棲艦

「グエッ!?」

(ボチャン

微かな呻き声と何かが水没した音

そこに視線を移した軽巡棲姫は

ほんの一瞬だがそれを見た

直ぐに煙幕の中に消えた"それ"

だが見間違える事等、あろう筈が無い

軽巡棲姫は記憶の奥底へと封印していた

ある"過去"を思い出していた…




煙幕が次第にその効力を弱める中

湾の周囲には訓練生達が待機している

その中には多摩の姿も在った

そして全員から見て取れるのは

"緊張"その一言であった


妙高

「煙幕が晴れたら

 総員で"殲滅戦"に移行します」


ブリーフィングの際、妙高はそう言った

つまり煙幕が晴れたその時

湾内は敵味方入り乱れる戦場と化し

訓練生の本当の初陣が始まるのである

多摩は深海棲艦の数が

半数近くまで減っている事は確認している

だがそれでも…それでもまだ敵の方が多い

先程放った魚雷、それが幾つ命中したかで

この戦いは決まるだろう

初陣を待つ中、神に祈る者の声がした

どうか同数程度には減っていて、と


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現鎮守府〜


大潮

「どうか同数程には減っていて欲しい

 と言う声を聴いた気がした…そうです」

天龍と木曾が顔を見合わせると

天龍が身を乗り出す

天龍

「そ、それでどうなったんだ?

 敵の数は?味方に被害は出たのか?」

詰寄ろうと身を乗り出す天龍を

木曾が止める

木曾

「少し落ち着け、…続きを頼む」

そう言う木曾も前のめりだ

天龍、木曾、大潮の3人は物語の結末を待った


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜戦闘中〜


固唾を飲んで訓練生達が待機していると

煙幕はついにその効力を失った

視界が完全に晴れると

そこでは十余りになった深海棲艦が

既に逃げ出し始めていた

雷撃の成果に沸き上がる訓練生達

そこへ指揮官代理の妙高の激が飛ぶ

妙高

「先の雷撃で敵は戦意を喪失している

 我らが母港に勝利を刻め、総員突撃っ!」

号令と共に高らかに響く喇叭の音

訓練生達は鬨の声を上げ

我先にと一斉に駆け出した


狩る者から逃げる者へ


追い詰められた者から狩る者へ


ほんの数十分という時間が

両者の立場を逆転させていた

既に戦意を失っていた深海棲艦は

大した反撃も出来ずに次々と討たれていく

這う這うの体で湾から脱出した僅かな

深海棲艦も

待ち構えていた哨戒班に残らず殲滅された

小さな鎮守府の存亡を賭けた一大防衛戦

その最後は実に呆気なく

幕を閉じたのだった


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




〜現鎮守府〜


天龍

「おっほぉ!すげぇじゃん!

 そんなに魚雷が当たったのかよ!?」

まるで自分の事の様に喜ぶ天龍だったが

反して木曾は静かだった

天龍

「オイオイ雷撃はお前の十八番だろ?

 もっと喜べよ?」

木曾の肩に腕を掛け、天龍がふざけて

言うと木曾は真顔で返した

木曾

「確かに雷撃は得意だ…だからこそ分かる

 "狙わず"に当たる魚雷等、先ず無いんだ」

温度の違う2人が互いに顔を見合わすと

微妙な沈黙が2人の間に流れた

多摩

「ニャ〜」

沈黙を破ったのは多摩だった

大潮

「あ、まだ続き…

 後日談的な物があるそうですよ」

オレンジジュースを飲み終えた大潮が

通訳する

天龍

「戦闘も終わって万々歳だろ?

 他に何が有るってんだ?」

その場に居る全員を見回すと天龍は

ヤレヤレと両手を上げる

一方少し考え込んでいた木曾だったが

確かめる様に多摩へと問う

木曾

「多摩…姉が師匠とまで言う艦娘なんだ

 恐らく雷撃の裏側だろう…違うか?」

木曾の目は多摩を通して姿さえ知らない

妙高を見据えていた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜戦闘終了後〜


迎撃に成功し勝利に酔いしれたのも束の間

訓練生達は事後処理に追われていた

多摩

「あっついにゃ…」

吹き出す汗を手で拭うと

多摩は太陽を睨みつけた

深海棲艦との激闘が有ったと言うのに

陽射しは容赦をしてくれないのである

そんな時、不意に背後から

多摩を呼ぶ声がした

妙高

「多摩ちゃん進捗はどう?」

何時もの笑顔の妙高が傍までやって来ると

だらけ切っていた多摩の背筋が急に伸び

敬礼したまま彫像の様に動かなくなる

多摩

「ハッ、鋭意継続中であります…にゃ」

妙高

「そんなに堅くならなくてもいいわよ」

(クス

妙高は少し困った様な笑顔で

持って来たアイスを多摩に差し出すのだった

……… 

…… 



多摩

「安い口止め料だにゃ…」

アイスを頬張りながらボヤく多摩

あの後、妙高は直ぐに執務室へと戻り

今は居ない

現在、鎮守府は再建中であるのだが

作業に従事する訓練生の士気は高かった

何故なら鎮守府の存亡の掛かった一戦

その雌雄を決したのは

他ならぬ訓練生(自分達)が

煙幕に向け放った魚雷なのだ

…と言う事に"なっていた"からである

頬を撫でる生温い風につられて

晴れ渡る湾を多摩は見下ろしていた



〜戦闘中、雷撃直前〜


多摩

「本当に行くのかにゃ?」

弾薬の補充を終えた妙高に

不安げに多摩が問う

妙高

「ええ、時間と位置は頭に入っているわ」

自身の頭を指差し、妙高は言った

事前に説明されていた作戦、それは

・35.6cm砲での遠距離砲撃

・高所よりの狙撃

・煙幕が残る間に湾の周囲を移動しての雷撃

・包囲からの殲滅戦

の筈だった

だが妙高はここに来て予定には無い

湾内への一騎駆けを"秘密裏"に行うと

多摩に告げたのだった

多摩

「湾内は今も敵だらけ

 おまけに何も見えないよ…」

敵の数を知るが故に不安がる多摩

だが妙高は何時もと変わらぬ笑顔で言った

妙高

「だからこそ"今"が効果的なのよ」

(ニコ

これまで徹底して陸上からの

砲撃に専念した事で

開戦以降、深海棲艦は艦娘の姿を見ていない

それはつまり輪の中は味方だけ

と言う思い込みを生む

そこを中から崩そうと言うのだ

…確かに隙は突けるのかもしれないが

敵の真っ只中へ単騎での吶喊

更に味方の魚雷のおまけ付きである

常識的には自殺行為でしかない

何よりまだ最後の殲滅戦が残っていた

今、指揮官に何か有っては戦う前に

味方は総崩れとなる

多摩は妙高の艤装を強く掴む…だが

妙高

「それじゃあ手筈通りにお願いね」

多摩の手に自分の手を添え

静かに見つめてくる妙高には

皆の為の自己犠牲、功名心

そんな気負いが微塵も感じられなかった

ああ、この人は本気で"唯"数を減らしに行って

そして帰って来るつもりなんだ

多摩は唐突にそう悟ると

掴んだその手を離してしまった

妙高は無言で笑うと溶け込むかの様に

煙幕の中に消えていった



〜再び、事後処理中の多摩〜


多摩

「雷撃で戦意喪失

 …まあ"嘘は"言ってないのかにゃ」

ブルッ

アイスに拠って身体が冷えたのか

身震いする多摩

食べ終わったアイスの棒には

ハズレと書いてあった

多摩

「盲撃ちの雷撃…

 アレ…何発当たったのかにゃ…」

彼方此方で戦勝に沸く声が絶えない鎮守府で

皆が語り合っている

深海棲艦を退けた訓練生が在った事を

しかし多摩は語らなかった

単騎で暗躍した者が在った事を


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現在〜


天龍

「…マジ?」

多摩

「ニャ〜」

大潮

「あくまで多摩さんの経験を話しただけで

 何があったのかは箱(煙幕)の中を

 覗かない事には分からない…だそうです」

大潮の通訳を待って思い出したかの様に

多摩は付け足した

多摩

「ニャ〜」

大潮

「それと、あの短時間で煙幕の中戦える筈は

 "常識的"には無い…と言ってます」

天龍

「アハハハだ、だよなー

 もう、冗談が上手いんだからハハハ」

落ち着かない様子で多摩に

手をヒラヒラさせる天龍

多摩

「ニャ〜」

大潮

「そうそう、公式の記録には

 鎮守府が攻め入られた事実は無い

 …だそうです」

そこで話は終わりとばかりに

多摩はそっぽを向いて動かなくなった

夏の陽射しは未だ屋上を灼いていた




おまけ1

多摩リンガル 編


多摩

「ニャ〜」

大潮

「そんな事言われてもこの高さで

 海面に着水なんて不可能ですよぅ…」

不貞腐れて多摩に文句を言う大潮

それを見ていた荒潮はふと考えていた

荒潮

「(何で言ってる事が分かるのかしら?)」

………

……



大潮

「何故多摩さんの言葉が解るか?ですか」

着水訓練が終わり皆がずぶ濡れの制服を

着替え終わった更衣室で

荒潮は率直に聞いてみた

質問に少々考え込む大潮だったが

ポンと手を叩くと良く通る大きな声で答える

大潮

「よく分かりません!」

荒潮

「あら〜」

(ヨロケ

大潮

「ただ…解る様になったのは

 あの模擬戦以降…ですね」

(フム…

球磨と多摩、対する朝潮型総員で

行われた先日の模擬戦

そこで大潮は多摩の強烈な回し蹴りを受け

宙を舞った後地面を二転三転する事になる

荒潮はその時の事を思い出していた

朝潮と言う精神的支柱を失い

その焦りから朝潮型一同は足並みが乱れた

荒潮はと言うと容易く体勢を崩され

多摩から止めの拳を振り下ろされたのだった

だが、それは既のところで止められた

あの時の多摩の目は今でも忘れられない

思い返し軽く身震いする荒潮

荒潮

「(あの時…寸止めで終わらなかったら

  私も解る様になっていたのかしら?)」

どの様な感覚なのか少し知りたい反面

脳裏に浮かぶのは宙を舞う大潮の姿だった

荒潮は頭を振りその映像を追い払う

やはり知らずに済んで良かったのだ…と

大潮

「荒潮、どうかしたんですか?」

心配した様子で荒潮を見つめる大潮に

何でもないと答えると

少し安堵する荒潮なのであった




おまけ3

流石は艦娘 水には 強いぞ 編


阿賀野

「ぴゃあああ!?」


どっぱっーん


盛大な水柱を上げ阿賀野が海面へと突入した

そこは鎮守府内工廠前の岸壁

先程、阿賀野が飛び出したのは

貨物用クレーンに吊り下げられた

飛び込み台であった

天龍

「ブハハハ、随分見事な腹打ちじゃねーか?

 なあ、オイ」

"ずぶ濡れ"の天龍が阿賀野を見ながら

楽しそうに笑っている

木曾

「他人の事は言えんだろう?」

(ドッコイショ

阿賀野を引き揚げる木曾が天龍を窘めると

天龍は口を尖らせ木曾に問い返した

天龍

「チッ、じゃあお前はどうなんだよ?」

木曾

「フッ…当然の結果だ、出来ん」

(ドヤ

胸を張って堂々出来ないと木曾は答えた

阿賀野

「ホント、多摩ちゃんてば

 どうやってるのかしら?」

(アリガトネ

木曾に支えられて完全に

海面に立ち上がる阿賀野

チラリと覗くその腹はスカートと揃い

赤かった


その時


タッタッタ


誰かが走る足音がしたかと思うと

1つの影が岸壁から宙へと躍り出た

影は空中でクルリと1回転すると

殆ど波を立てずに着水した

阿賀野

「凄く 見事な 飛び込みね(SMT)10点!」

木曾

「アリだな…最高の10点を与えてやる」

天龍

「世界水準で採点しても10点だな」

皆が揃って10点を付ける中

更に2つの影が続けて海面へと飛び込んだ

阿賀野

「あ〜ちょっと着水が荒いかなぁ…9点?」

木曾

「甘すぎる…8.8だな」

天龍

「お前ら随分辛口だな?俺は9.4」

暢気に点数を付け合う天龍達の上方

岸壁には淡々と状況を見守る

猟犬(者)がいた

白露

「2番4番追尾始めー、カウント開始」

村雨

「…目標迄5、4、3、2、1今!」

僅かな弧を描いて進む3つの航跡は

村雨のカウントダウンと共に1つになり

そして停止した

………

……



提督

「…」

(ずぶ濡れ

時雨

「残念だったね、駆逐艦は泳ぎも得意なんだ」

(にっこり

夕立

「追いかけっこ、たーのしー(サー○ル感)

 提督さんまたやろうね?ねっねっ?」

(にっこり

提督

「水泳なら まだ 突き離せるかも(SMT)

 そう考えていた時期が私にもありました」

(しょんぼり

阿賀野達が見守る中、岸壁に水の跡を残すと

手錠姿の提督は連行されていった

木曾

「お前達の指揮官は無能だな?」

(ヤレヤレ

天龍

「何他人事決め込んでやがんだ

 アレはお前の指揮官でもあるんだよ…」

(ヤレヤレ





艦?


後書き

お詫び編としては最後のお話となります
当初は球磨「球磨型心得そのいーち」内の
おまけ2から繋がるハングリー・ダンプティ
の話を載っけるつもりだったんですが
読み返していてAR○S知らない人には
イマイチかなぁと思い
出来上がっていた上記のお話をまるっと没
今回の話となりました
球磨編でA○MSを絡めた時から
ラフィン○パンサーは妙高さんだろうな
と勝手に思っていたので話自体は
すんなり出来ました
アイオワ編のおまけで書いた妙高さんも
書き易かったです、ハイ
さて、気付いた方もおられるでしょうが
今回おまけが2つしかないのに
ナンバーは1と3でした
上げるのをミスったのではありません
おまけ2はここに置いていきます
では何故ここかと言うと
球磨編の時にちとアレなコメントを
貰いましたので(削除しましたが…)
表現的な事もあり分けさせてもらいました
念の為です
こう言う事しないといけないのは面倒ですね


※)ここからはちょいエグめな表現有り
  となりますので読む方はご注意を


おまけ2
笑う女鯱 編

深海棲艦
「グエッ!?」
(ボチャン
微かな呻き声と何かが水没した音
そちらへと視線を移した軽巡棲姫は
ほんの一瞬だがそれを見た
直ぐに煙幕の中に消えた"それ"
だが見間違える事等…あろう筈が無い
軽巡棲姫
「…思イ出シタ…ゾ、アレ…ハ
 地獄ノ艦娘(ヘルズ・パープル・ウィッチ)
 ソノ片ワレノ笑ウ女鯱
(ラフィング・グランパス)!」
(サーッ
軽巡棲姫は記憶の奥底へと封印した
ある"過去"を思い出していた
かつて自分が棲む(居た)海域を…
一夜にして壊滅的な被害を受け
撤退を余儀なくされた夜の事を…
……… 
…… 


そこはある夜、奇襲を受けた
上がる爆炎、響く砲声
そんな中、息も絶え絶えの深海棲艦が
軽巡棲姫に寄り掛かってきた
その深海棲艦は逃げる様に伝えると
そのまま軽巡棲姫の腕の中で事切れた
既にどうしようも無い程に混乱していた
他の深海棲艦達
陣頭に立ち退く様に指令を出すと
共に退く(下がる)軽巡棲姫であったが
撤退の最中、次第に深海棲艦の数が
減っている事に気付くのだった
深海棲艦
「ゲェッ!?」
(ボチャン
微かな呻きと何かが水没した音
それに気付きそちらへ振り向くと
一瞬だが月明りが映し出す"それ"を
軽巡棲姫は見たのだった
日の出の頃、深海棲艦は両の指で足る程に
その数を減らしていた
そしてあの夜を生き延びた軽巡棲姫は
記憶の奥底へと封印するのだった
深海棲艦の自分が他者に恐怖した事実と
その存在を…
掠り傷1つ無い紫の服を…
月夜で見た憤怒でも侮蔑でもない
唯の"笑顔"を…

……
………

軽巡棲姫
「冗談デハナイ!コンナ所ニイラレルカ!」
(アタフタ
他の深海棲艦の目等お構いなしに
慌てて踵を返す軽巡棲姫であったが
彼女が深海へ"帰る"事はなかった
フワッ…キュッ
軽巡棲姫
「グエッ!?」
背後より回されたワイヤー(?)が
意思を持っているかの様に
軽巡棲姫の首へと巻き付く
背後には笑顔を湛えた妙高が居た
妙高
「あら、他人の鎮守府(家)を滅茶苦茶に
 しておいて、只で帰ろうなんて
 虫が良過ぎないかしら?」
軽巡棲姫に巻き付けられた
ワイヤーが更に締まる
軽巡棲姫
「ま、待…」
(ボチャン
水没音と共に海へと"還って"逝く元軽巡棲姫
その姿が完全に見えなくなると
未だ煙幕の中の鎮守府を振り返り
笑顔の妙高が呟いた
妙高
「さあ、"仕上げ"はあなた達の仕事よ」


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください