2019-10-10 08:08:11 更新

概要

知らん間に夏終わってて草


前書き

(注意事項説明)

・二次創作
・(語彙力)ないです
・解釈違い、設定崩壊は日常茶飯事
・誤字脱字のオンパレード
・ファミチキください
・矛盾点とか絶対ある

(こんなでも読みたいって物好きだけ入って、どうぞ)


風が心地良い。

「……」

海が静かだ。

「……なあ、見てるか」

青空を見上げながら、一人呟く。

「お前が守ったんだ」

あの日のことを、思い出していた。


・・・


「……」

鎮守府全体に、重い空気が満ちる。

当然だ。資材もほぼ尽き、艦娘は皆中破以上の損害を受けている。

「……」

深海棲艦との最終決戦に臨み、双方が総力をぶつけあった結果がこれだ。

お互い、壊滅状態。

「……」

しかし、このままではこちらが負けるのは明確だ。幾度もの調査により、深海棲艦には資源がなくとも無限に深海棲艦を創り出すドックがあるらしいことが分かっている。場所が不明なので、早急に手を打つ必要がある。

どちらにしろ、奴らの数が激減している今しか、奴らを倒しきるチャンスはないのだ。

「……動ける者はいるか」

「「「……」」」

いる訳が無い。ここで「出撃しろ」などと言うのは、「死んででも倒しきれ」と言うようなものだ。

この「死んででも」が喩えでなく事実だと言うことは、全ての艦娘が理解しているだろう。

「……」

一を殺して十を生かす。

戦においては、多くの者を助けるのが第一優先だ。

覚悟を決める。蔑まれる覚悟を。非難され、敬遠され、罵倒される未来を。

選ぶのは。

「……ついてきてくれ、大井」

「!……はい」

驚き、それでもすぐに平静を取り繕い、ボロボロの足を動かす。

「待ちなよ」

それを止めたのは、北上だった。

「大井っちが行くくらいなら、私が……」

「北上さん」

大井が北上の言葉を遮り、淋しげに微笑む。

「私は大丈夫ですから」

「……!」

声にならない声をあげ、大粒の涙を零す北上を背に。

「……行きましょう、提督」

「……ああ」


・・・


工廠裏。

「大井」

「はい」

「頼みたいことがある」

「はい」

「とても辛いことだ」

「……はい」

「嫌なら、断ってくれても……」

「くどい。覚悟なんて、とっくに出来てます」

「……そうか」

意を決して、『その言葉』を発する。

「……ケッコンしてくれ、大井」

「分かりまし……え?」

数十秒の沈黙。

「……はあああああああああああああああ!?」

いきなり顔を真っ赤にして叫ぶ大井。

「な、な、な……!」

「……駄目、か……?」

きっと、罵倒がとんでくる。「この非常時に何を」とか「釣り合うと思っているのか」とか。

しかし、聞こえてきたのは予想に反する言葉。

「……喜んで」

「……!」

消えそうな声で、一言だけ。それだけだったが、想いが伝わったことは確認できた。

「……ありがとう。急ですまないが、受け取ってくれ」

ポケットから小箱を取り出し、その中の指輪を大井に嵌める。

「……!」

みるみるうちに身体中の傷が癒えていく。

「……あの、提督?これは……」

「ん?ああ、ケッコンカッコカリの効果でな、さすがに燃料とかは戻らないが、損傷がすべてなくなるんだよ。便利だよな」

「……まさか、それだけの、ために……?」

引きつった笑顔を浮かべる大井。

本能が「殺される」と叫んでいる。

「そ、それもほんの少しだけある。が、もとよりお前に渡すつもりだったさ。このタイミングで渡すのが燃費的にも雰囲気的にも良いかなと思った。思いました。はい」

大井が、はあ、と大きなため息をつく。

「……まったく、あなたという人は……」

呆れ気味に、それでも嬉しそうにそう呟いた後。

「じゃあ、行ってきますね」

「え?」

「え?最期のプレゼントみたいなアレじゃないんですか?」

「違う違う。ついてきてくれって言ったろ」


・・・


他の艦から残った弾と燃料全てをかき集め、ようやく1隻分の資材を確保する。

「さて、全部積んだな。乗れ」

「え……もしかして、これで?」

さて、皆さんに質問だ。

スワンボートは知っているか?


・・・


キコキコキコ。

「「……」」

シュールだ。敵の本拠地にスワンボートで乗り込む艦娘一人と提督。

「……ム?」

ボロボロになって海のど真ん中にいる棲鬼&棲姫共を適当にスワンボートの中から大井に撃たせる。

「グワーッ!」

完 全 勝 利 S 。

「……これで終わりですか!?」

「ああ。俺達の、人類の勝利だ」

カッコよくキメてはみたが、やはり全然しまらない。

「……ふふっ」

「わ、笑うことないだろ」

「いえ、その……私たちらしくていいな、と」

「……そうか。それもそうだな!」

キコキコキコ。海に悠々と響き渡るその場違いな音を聴きながら、母港へと帰るのだった。


・・・


数ヶ月後。

今である。

艦娘達は艦娘として鎮守府に引き続き残ることを定められ、今も海の安全を守っている。

深海棲艦は、中枢棲姫の撃破とともに発生しなくなった。が、未だドックは見つかっていない。活動を停止したのか、別の場所でまだ稼働し続けているのかが不明なうちは、艦娘の仕事は無くならないだろう。

それでも、世界を守ったことに対する見返りは早急に与えられるべきだと考え、せめて少しでも楽しめるようにと思い全員で海に来たという訳だ。

プライベートビーチと言えば聞こえは良いが、実際は元海軍泊地の、今現在は代表ということで俺が管理している海辺の土地だ。整備(建物取り壊し)は事前に数週間かけて完璧にただの浜辺に見えるようにしてある。ところどころにそれっぽい名残があるが、探さない限りは見つからないはずというレベルにはしてある。

「……なあ、見てるか」

見ている訳がない。

「お前が守ったんだ」

聴こえる訳がない。なぜなら……。

「……さて、そろそろ行くか」

重い足取りで向かった先は……。


・・・


「……」

「機嫌直せって。熱中症はしょうがないだろ」

「……」

浜辺から少し離れたところにある病院。

大井が来て早々に不調を訴えたので、すぐに医者に診せたところ「熱中症ですね」と一瞬で言われてしまい、入院することになってしまったのだ。

「……いいんですか」

「何がだ?」

「私なんかに付き添ってるより、北上さんや姉さん達と遊んであげたほうがいいです」

「何言ってんだ、嫁放っといて遊べるか」

「……馬鹿」

そっぽを向いてしまう大井だったが。

「……そうだ、提督」

「どうした?」

「確か、滞在期間は3日でしたよね」

「おう。二泊三日の予定だが」

「……ごめんなさい」

「……あちゃー」

多分、あれだ。

「何日だ?」

「……ジャスト3日です。出てこられるのは4日目だと」

やはり。

「……それは残念だな」

「本当ですよ。北上さんの水着が見られると思ってたのに」

本気で残念がっている大井を見て、流石に不憫に思う。

「連れて来てやろうか?」

「北上さんに迷惑かかっちゃいますから」

「そうか。……そろそろ時間だ。また明日、様子を見にくるぞ」

「はい……」

淋しそうな大井だったが、すぐにいつもの調子で。

「……まあ、別に来なくたってどうってことないですけどね!」

「はは、何言われたって来てやるよ。……無理はするなよ」

そう言って部屋から出ようとしたとき。

「……ありがとう」

と、小さな声が聴こえた気がした。


・・・


海岸に戻る途中。

「提督ー」

「北上か。どうした?」

「大井っちの具合、どうだった?」

「多分大丈夫そうだが……一緒に海は無理そうだな」

「……そっか。ところでさ」

「なんだ」

「大井っち、なんか急に提督に優しくなったよね。なんでだろ」

「あー……」

そりゃ北上は気づくわな。

「戦争中ってのもあって、気が緩まないようにしてたんじゃないか?仮にも上司だし」

「あー、大井っちなら有り得る」

……大井とケッコンしたことは、まだ誰にも伝えていない。大井曰く、「恥ずかしいので言いふらすのはやめてください」と。

「じゃ、私も大井っちの様子を見に行こうかね」

「その水着でか?」

「まさか。ちゃんと着替えてくよ」

「……そうか」

北上が歩いていくのを見送りながら、どうしたものかと考える。折角の休みだというのに入院だけで終わってしまうのは、幾らなんでも可哀想だ。

「……姉さんのことか?」

「うわっ!木曾か……」

横からスっと現れ、ニヤリと笑う木曾。

「図星か。ま、そりゃそうだよな」

「……まあ、な」

「デキてんだろ?お前ら」

「!?」

木曾はその反応を見て、「やっぱりな」と微笑む。

「……いつから気づいていた?」

「さあな」

あくまでもニヒルな笑みを崩さない木曾は、とても楽しそうに。

「ま、知ったこっちゃないがね。精々上手くやれよ?大井の姉さんは取り扱いが難しいんだ。これでもかってくらいの特別扱いしてやらねえとな」

「……覚えておこう」

「じゃ、俺は行くぜ。今浜辺に残ってるのは……」


・・・


「私です!」

ドヤァ、という擬音が聞こえてきそうな態度の鹿島だった。

「他のは?」

「駆逐艦の皆は軽巡の皆さんに引率してもらって先に旅館に向かってもらいました。戦艦空母重巡の皆さんは……まだ向こうの海の家でお酒を嗜んでおられるようですね。潜水艦はあっちの方で遠泳してて香取姉が見てますよ……ともあれ。ここに残ってるのは私達だけですよ」

「そうか。じゃあ、俺もそろそろ向かうとするか」

「えっ?」

「え?」

こいつは何を言っているんだとでも言いたげな顔をする鹿島。

「今から遊ぶに決まってるじゃないですか」

「いやでもそろそろ……」

「今日まだ遊んでないですよね?」

「……だがそれは」

「『お前たちの為の休暇であって俺が遊ぶ必要はない』とか言うのは禁止ですよ?」

「……しかしだな」

「『大井が遊べないのに俺が遊ぶのは後ろめたい』とかやめてくださいね?」

……本当にこいつは俺の思考ルーチンを完全に理解しているのではなかろうか。

「……やっぱり、ダメですか……?」

……はぁ。

「仕方がないな。日が暮れるまでだぞ」

「ホントですか!?やったー!」

普段の艦娘に比べても休むことの少ない俺を見兼ねての、鹿島なりの気遣いなのだろう。上司たるもの、部下の望みはできる限り叶えたい。

「じゃあ何しましょうか!遠泳とかどうですか!?」

「え、遠泳か……。これでも体力には自信のあるほうだが……うーむ」

近頃はデスクワークばかりだったので、絶対に身体が鈍っている。……死なないだろうか。


・・・


「……あ"ー」

存分に楽しんだ(鹿島のみだが)のちに旅館に到着、自室で横たわっている。

「……」

波の音が響く。寄っては引いて、引いては寄って。ただそれだけの音ではあるが、非常に心地良い。

「……」

……静かだ。夜に寝られることが当たり前になったことが、未だに馴染まない。

「……ん?」

……物音だ。それも廊下からでなく、天井から。

「……」

息を殺して周囲を警戒する。いつでも最悪の事態を想定し対策を、と大井に言われているので、急遽起き上がり枕元に置いておいた短剣を構える。

「……」

深海棲艦の目撃情報が途絶えたからと言って、油断はできない。もし今上にいるのが陸棲の深海棲艦であった場合、どのような被害をもたらすかは分からない。何かが起こる前に手を打つ。

「……せいっ!」

「ぅひゃあっ!?」

天井に短剣を突き刺すと、どう聞いても人間の、女の声。というか、これは……。

「……降りてこい、川内」

「あははは、はーい」


・・・


「んもー、危ないじゃん!夜に起きてたのは謝るけどさー、提督のほうこそなんでこんな時間に起きてるのさ!?」

「お生憎様、職業柄だ。お前のことだ、俺の睡眠時間は知ってるな?」

「当然、時々仕事手伝ってたしね。でも大井さんと仲良くなってだいぶ早く寝るようになったよね」

「なっ」

……これは、もしや……。

「私以外起きてない時間帯だからいいけどさー、よくもまあ鎮守府内であんなことするよねー」

「……ぁあああああああぁぁぁ……」

最悪だ。ナニがとは言わないが、最悪だ。

「……何が望みだ」

「おっ、分かってるねぇ。じゃあ……」


・・・


川内にこっそり持ってきた菓子の類を渡して立ち去ってもらった後、一人悶えていた。

「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

いっそ殺して欲しい位に恥ずかしい。

川内のことだ、今更口封じをしても遅いのだろう。恐らく川内型……あと球磨型には広まっている。

「……」

そう思えば、北上はすべてを知った上であの質問……あいつ性格悪いな。

で、木曾は……ああ、ダメだ。今思うと絶対知ってるやつだ。

「……はあ」

何かもう、色々なものを一瞬にして失った気がする。

「……寝るか」

収拾のつけられない思考を無理矢理にでも整理するため、夢の世界へと向かう。

……当然、寝られる筈がなかった。


・・・


「……大丈夫ですか?」

「……大丈夫に見えるか?」

病人に心配されるとは人間としてどうなのか。

「はあ……ほら、こっちに来てください」

「ん、ああ」

言われるがままに大井に近づくと、軽く手を握られ。

「私が言えることじゃありませんけど、倒れられたりしたら困りますから。……だから」

「大井っち〜……ってあれ、提督じゃん。お邪魔だったかね?」

「「!?」」


・・・


「やー、まさか2人がそういうアレだったとはねー」

わざとらしくニヤつきながら大井の頬をつつく北上。

「北上、お前どうせ知ってたんだろ?」

「とーぜん」

「て、提督?これはどういう……」

一人状況を理解できていない大井が、困惑気味に訊いてくる。

「んー、まあいっか。あのね大井っち」

「は、はい」

「2週間と4日くらい前の夜」

「!?」

悪趣味なやつだ。ちょうどその日に……。

「ま、まままままままま……」

壊れて「ま」しか発せなくなった大井を後目に、北上は話を続ける。

「今このこと、鎮守府内では周知の事実なんだよねー」

「!?!?」

ままままままままままままままままままままま……。

「ってのは冗談で」

ふう。

「まだ球磨姉と多摩姉にはバラしてない」

「ふう……」

大井も息を吹き返したようだ。

「ま、知ったからって皆の対応が変わる訳でもないだろうけどねー。……一部の提督Love勢以外は」

「ぶふぅっ!?」

「大井!?」


・・・


で。

「……あいつら絶対許さん。鎮守府帰ったら倍仕事させてやる」

「まーまー、落ち着きましょうよ司令官!青葉も手伝ってあげてるんですから!」

「大半お前のせいなんだよ!!!」


・・・


海の家は艦娘が運営している。艦娘の中でも面倒見のいい一部の重巡や戦艦、空母……古鷹や榛名、翔鶴あたりが中心となって、他の客……まあ客も艦娘だが、それをもてなしていた。

「酒だ酒!ジャンジャン持ってこぉい!」

「な、長門さん!暴れないでください!お店が壊れちゃい……ひゃあっ!?ビール瓶を振り回さないでくださーい!」

戦艦だからという理由でその他の戦艦組のお守りを任された榛名に、

「ビール、在庫切れました!厨房から誰か2人くらいで追加で大量に買ってきてくださーい!」

注文をとりながら冷蔵庫を確認したりと1人で凄まじい活躍を見せる古鷹、

「すいません!私は今手が離せません!他の誰かお願いします!」

「わっ、翔鶴先輩そっちは壁……!」

「ひゃあっ!?すいません!お皿割れました……!」

泣きそうになりながら厨房を走り回る翔鶴や天城、

「……」

撮影係の青葉。

「騒ぎを聞きつけて来てみたはいいですが、ここにいたら厄介になりそうですね……ここは逃げるとしま」

「青葉!ちょうどいいところに!」

「げっ」

古鷹に見つかった青葉は、恐る恐る振り向く。

「な、なんでしょう……?」

「誰か適当に大きめの人連れて行って、たくさんビール買ってきて!」

「は、はあ。しかし戦艦の皆さんは酔い潰れていますし、重巡もおんなじようなもんですし……空母はそそくさと逃げちゃいましたし、誰も行く人が……」

「おーい、繁盛してるかー」

「あっ」

「え?」


・・・


「ここはほんとの田舎だから注文して発送とかできませんし、買いに行くしかないですもんね。最初見た時は凄い量入ってたんですけど、あれどうやって持ってきたんですか?」

「5回くらい往復して買えるだけ買ってきた。全部担いでだがな」

「はえ^~すっごい」

「まあ、全部呑むとは思ってもなかったけどな。財布がもたん」

「自腹ですか!?……ところで司令官、ワインをこっそりと買っていた様ですが、青葉に気づかれないとでも思いました?」

ニヤニヤしながら寄ってくる青葉。正直、お互い限界までビニール袋やダンボールを持っていてぶつかりそうになるのでやめてほしい。

「……少しな」

「ふむふむ、なるほどー。大井さんと呑むんですか?」

「ああ。……え?」


・・・


「お前だけは生かしてはおけない。大人しく死んでくれ」

「青葉死ぬのはごめんです!こんな面白そうなネタ、拡散するまで死ねません!」

「よーし分かった今息の根を止めてやろう」

「そんなこと言っちゃっていいんですか!?今この発言もすべて録音してるんですよ!?編集して司令官がさも最低の人間であるかのようにデマを流して差し上げますよ!?」

「なっ……」

「嘘です☆」

「あっ、おいこら待て!!」

……隙をつかれて逃げられた。担いでいた大量のビールすら置いて。

「……終わった」

青葉に知られているのは想定外だった。

おそらくあいつのことだ、俺の部屋に盗聴器でも仕掛けておいて昨晩の川内との話を聴いていたのだろう。

「……あー、なんかもうやる気ねえわ」

青葉が持っていた分をどうにかすることもできず、その場に立ち尽くしていると。

「クマ-…クマ-…哀れな提督の気配がするクマー……」

「球磨!?」

「おっ、ここに居たクマか。青葉さんが笑顔で走っていったのを見てわざわざ様子を見に来てやったクマ」

なんてよくできたやつなんだ……多摩達が慕っているのも分かる。

「ほら、それは球磨が持ってやるクマ。道端で突っ立ってないで、とっとと戻るクマよ」

「わ、悪いな」

「……弟になるんだから、これくらいは当然クマ」

……ん?

「球磨、お前今なんて言った?」

「なんでもないクマ。それより急ぐクマ、皆お待ちかねクマ」


・・・


ビールを運んだ後、精神的にも肉体的にも疲労していたので早めに休ませてもらうことにした……のだが。

「ちょうど良かった!ねーねー提督ー、ちょっち頼みがあるんだけどさぁ」

「……なんで旅館に残ってるんだ?秋雲」

「決まってるじゃん!昨日手に入れた資料使って描いてるところ」

「お前マジか」

「マジよりのマジ。帰ってから描くってのも良いんだけどさー、やっぱノッてる今じゃないとね」

「はぁ……手伝えと?」

「そ。んでね、写真撮ってきてほしいの」

「……誰の?」

「大井さんの病室と大井さん本人!」

「あ"?」


・・・


「それで?また戻ってきて写真を撮りにきたと?」

「面目ない」

「はぁ、まあいいですけど。条件があります」

「なんでも聞くぞ」

顔を背けた大井は、蚊の鳴くような声で。

「……もっと、ここにいてください」

と、そんな可愛いことを言った。時間?そんなもん知るか。


・・・


「……」

「……」

静かだ。適度な潮の香りが心地いい。

「……思えば、二人っきりの時間は少ない気がします」

「……そうだな。せいぜい深夜に何度か……」

「そ、その話はいいですから!……まあ、そのくらいしか二人の時間はとれませんけど」

「……まあ、ずっと二人だけっていうのもなんかな」

「……不満でも?」

「いや、そういう訳じゃない。……よし、この話は今度だ」

「は、はぁ……」


・・・


「……ん、そういえば大井。北上の水着は見られたか?」

「あっ、まだです!あああ、今年はもうこれが最後のチャンスなのに……北上さんの水着ぃ……!」

「……よし」

「うぅ……で、それがどうかしました?まさか提督だけ北上さんの水着を見たなんてつまらない自慢はしませんよね?沈めますよ?」

真顔で言われると本気っぽく感じるのでやめてほしい。というか本気だ。

「まさか。訊いてみただけだ」

「なんですか、嫌味ですか。写真撮らせてあげませんよ?」

「そりゃ困った」


・・・


「……だいぶ暗くなったな」

「もう日が落ちましたから」

「……」

「……」

もう夜が長くなってきた様に感じる。夏の終わりを実感する。

「……もうそろそろ、帰ったほうがいいんじゃないですか?」

「……そうだな」

本音を言えば、もっと大井と一緒にいたい。もっと話していたい。もっと触れ合いたい。……だが、大井はそれを望んでいるのだろうか?

「……なら、帰らせてもらうぞ。明日また、様子を見に来る」

「……明日は来なくてもいいですよ。そのかわり、皆をちゃんと連れて帰ってあげてくださいね?……あと。私は一人で帰れますから、大人しく鎮守府で休んで待っていてください。さもないと、魚雷ぶち込みますよ」

「……おう。無理はするなよ」


・・・


病室から出て扉を閉めると、その向こうから。『……はあ。ちょっとカッコつけすぎたかしら……』

と聴こえてきた。

「まったく……」

苦笑しながら旅館に戻る。その帰り道は、なぜだか妙に長く感じた。


・・・


「……じゃあ、後は任せたぞ」

「うーい。あーめんど」

気だるげな返事を返す北上。

「ほれほれ駆逐艦どもー、しっかり着いてくるようにー」

それでもしっかりと役割を果たしてくれるので、結構頼りにしている。

「大井っちによろしくねー」

「おう。鎮守府の大淀にもよろしく言っといてくれ」

「あいよー。じゃ、しゅっぱーつ」


・・・


「お前らは仕事だ、あれ片付けてこい」

「えー」

「何が「えー」だ、散々暴れ回りやがって。長門、お前には別の仕事がたんまりあるからな」


・・・


「すいません、2人部屋を一部屋だけ、1週間追加で泊まらせてもらうことって可能ですかね?………あ、はい、はい……ありがとうございます」


・・・


迎えた4日目。

「大井ー」

「……はあ、まさかとは思いましたけど……残ってたんですね。少しくらいは私の言うことも聞いてください」

言いながらも、笑顔を見せてくれる大井。

「善処する。……さて」

「……帰りましょうか」

「え?」

「……え?」


・・・


「まったく……」

「嫌だったか?」

「まさか。お人好しすぎるどこかの誰かに呆れてるだけですよ」

「そりゃ酔狂なやつもいるもんだな。嫁と二人 の時間が欲しいなんて欲望に満ちた俺とは大違いだ」

「……私、一応病み上がりなので数日は泳げませんよ?」

「だから1週間とったろ。動けない数日はここでまったりしていよう」

「……はあ、私の負けです。帰ったら、今回の分みんなに構ってあげてくださいね」


・・・・・


北上さんにつく悪い虫だ。

鎮守府で唯一の男である提督は、欲望の塊なのではないかと疑っている。私が北上さんを守らねば。




日が経つにつれ、疑いは晴れていく。そして今日、この人は国の、国民の未来を護るために戦っていると確信した。なにせ、艦娘が水着で鎮守府内を歩いていても平然としていられる朴念仁だということが明らかになったから。




執務室から嗚咽が聴こえてきた。どうやら泣いているようだ。何事かと飛び込んでみると、艦娘を戦場に送り出して自分は指揮するだけ、という事実に耐えられなくなったそうで。私達は平気だと伝えたらすぐ立ち直った。私の言葉で笑顔が取り戻せたと考えると、少し嬉しい。あと、この人は意外と単純だ。




北上さんが改二になった。とても喜ばしい。でも、北上さんの笑顔は提督だけに向けられていた。私は嫉妬した。あろうことか、提督ではなく北上さんに。なぜ、そこにいるのが私ではないのか?




練度が99になった。凄まじい強さを手に入れたことは理解しているが、言い換えるとこれ以上の成長は見込めないということだ。恐らく、私は使われなくなる。とても不安になった。私はあの人に捨てられるのだろうか。




以前懸念していたようなことはなかった。あの人は私を使い続けた。練度が最大の艦娘は他にもいるだろうに、それでも私を使い続けた。あの人なりの配慮なのだろう、大体の出撃に球磨型の誰かも同じ艦隊に編成されていた。




今日は記念日だ。提督が私を選んでくれて、とても嬉しかった。最後に、私を頼ってくれた。こんないい見せ場、北上さんにだって渡すものか……と思っていた。


プロポーズをされた。幻覚かと思ったが、どうやらそういう訳ではなさそうだ。きっと最期のプレゼントだろう、と考えたが、それも違った。私はこの人が好きだ、心からそう感じた。




熱中症で倒れた。心細かった。この幸せな時間は、ここで終わりを迎えてしまうのか。


あの人は、私のことを本気で心配してくれた。結構強気にふるまってはみたものの、やはり調子が悪い。それになんとなく気づいたのか、最後に優しい言葉をかけてくれた。北上さんが来るまでの間に少しだけ泣いたのは秘密だ。




久しぶりに、ゆっくりと二人きりの時間をとれた。他の子の頼みだと言われてほんの少し嫉妬したが、我儘を聞き入れてくれたのでよしとする。それにしても、あの言葉の意味はなんだったのだろう?




あの人は来なかった。私のいいつけを守ってくれたようだ。本音を言えば顔くらいは見せて欲しかったが、あの人は単純だ。私の言うことを聞いて帰ったに違いない。片道に半日以上はかかるので、私のことを迎えに来ることはないだろう。




退院に関する説明を受けた。医師が部屋から出ていくとき、少しだけ開いた隙間から医師が会釈をする姿が見えた。……まさか。


いた。本来いるはずのない人が。どうやら残ったのはこの人だけのようで、他の艦娘の姿は見当たらない。本当に馬鹿な人だ。夏を楽しめなかった自分へのささやかな贈り物だと思った。


違った。贈り物はこれからだ。こんな風に騙された(?)のは、あのときも合わせて2回目だ。ただあのときと違うのは、


・・・・・


「何を書いてるんだ?」

「ひゃぁっ!?……な、何も?」

話しながら後ろにノートやらペンやらを隠す大井。

「……まあ見せたくないのなら別にいいんだがな」

「だ、だから何もありませんって」

「はいはい」

焦り、というよりは照れに近い表情なので、とりあえずは大丈夫だろう。

「……な、なに笑ってるんですか、気色悪い」

「なっ」

顔に出ていたようだ。

「いや、なんでもないぞ」

「……嘘だったら沈めますよ?」

「怖いな」

「……はあ」

……先ほどから気丈にふるまってはいるものの、やはり疲れは残っているようだ。

「さて、大井はもう寝てろ。まだ無理はさせられないからな」

「はい……提督はどうするんですか?」

「どうもしないさ。隣にいるぞ」

「……ありがとう、ござい、ま……」

言葉を発している最中であったが、眠りに落ちてしまったようだ。

「……さて」


・・・


「……」

「……」

「……」

「……」

「……これ、どうするクマ?」

「届けるべきだと思うニャ」

「んー、でもねー。折角大井っちと二人っきりなんでしょ?」

「……まあ、何とかするだろうさ。俺たちは呑気に待ってようぜ」


・・・


「……やべ」

忘れてきた。取りに帰るか?いや、そんな時間はない。最後の最後まで確認しなかったのが仇となったか。

「……はあ」

……仕方ない。元より渡す予定は大井が倒れた時点でおじゃんになったから確認しなかっただけだし、帰ってからでいいか。

「……」

今日で6日目。明日は帰るだけなので、実際最終日だ。

「……んー……」

どうやら大井も目覚めたようだ。

といってもすぐに覚醒する訳ではなく、可愛さ100倍の寝ぼけた状態だ。……いやまあ普段も可愛いのだが。

「……おはよー、ございまふ……」

可愛い。

「おはよう、大井。今日はどうする?」

大井の体力がある程度回復した昨日、海で存分に遊んだ。まあ、大井には疲れが見えるのでたぶん今日はゆっくり休む日になるだろう。

「そうですね……」

だが。

「今日は昨日の疲れが溜まってますし、ゆっくり休み」

ましょう、と言いかけた大井だったが、窓の外を見て固まる。

「……どうした?」

「……このあたり、元泊地でしたよね」

「おう」

「私の予備の艤装、置いてましたよね」

そう訊く大井の顔には、一筋の汗が。

「……分かった。着いてこい」


・・・


泊地には急遽本来の艤装が壊れたときのための簡易版の艤装が置いてある。

念の為、というか処理をする暇もなかったので、艦娘の予備の艤装はここに残ったままだ。

「……指示はここからで構わないか?」

「ええ。鎮守府への連絡もお任せします」

「……よし、行ってこい」

大井の視線の先に見えたのは、深海棲艦の群れだった。

駆逐艦や軽巡洋艦ばかりではあったが、とても大井1人では倒しきれないだろう。何しろ簡易版の艤装だ、本来の力の50%も出せない。

「……大淀、聞こえるか」

『はい、こちらでも感知しました。既に部隊を送ってはいますが、到着は……』

「分かっている。……あと、こんなときにすまないが机の上のアレを持ってきてくれ」

『……はあ、わかりました。非常時に優先すべきことではありませんが、仕方ないので私が持っていきます』

「すまん」

通信を切ると、次は大井に無線を繋ぐ。

「大井」

『はい』

「すまん、半日だ」

『半日……ええ、分かりました』

「辛い闘いになる」

『知ってます』

「すまない」

『くどい。覚悟なんて、とっくにできてます』

……あの日も聞いた、懐かしい言葉。

……だが、その言葉はまったく違うものに聞こえた。

「……はは。信じてるぞ」

『……はい』

なぜか、本当になぜか急に不機嫌になってしまった大井の声を聞きながら。

「……さあ、最後の決戦だ!」

1人、気合いを入れ直したのだった。


・・・


結果から言うと、深海棲艦は完全に『消滅』したらしい。

……なぜ「らしい」というあやふやな表現を使ったか。それは、深海棲艦を最後の一体まで破壊した瞬間、俺を含む人間全ての記憶から『深海棲艦』の存在が消え去ったからだ。

よって、今人類に残っているのは文献などの記録のみ。

空想上の存在として扱われ、文字通り消滅したということになるのだ。

「提督、おはようございます」

……だが、残るものもあった。

艦娘だ。

「おはよう、大井。珍しく早いな」

俺の中には、『艦娘たちとともに何か強大な敵を打ち倒した記憶』が残っていた。

だから大井達と過ごした記憶は残っているし、まだ提督の地位に就いている。

ちなみに、艦娘は人間ではないので深海棲艦との戦いの記憶は全て残っているとのこと。

ともに戦った仲間としては、自分だけ記憶が残っていないというのが非常に辛い。

「今日は久々の休日ですから」

「ああ、そういやそうだったな」

大井はあの日、見事一人で半日以上に渡り敵の攻撃を食い止め続けた。

増援が来た頃には大井は満身創痍で、ここまで耐えたのは奇跡と言っていいほどだった。

「どうする?」

「今日はゆっくりしましょ」

味方の姿を見て安心した大井は、その場で気絶してしまったらしい。北上が運んできたときには、本当に危ない状態だった。

「了解」

急遽入渠させ、なんとか傷は癒せた。

だが、後遺症は残ってしまった。

艦娘として、前線に出ることができなくなってしまったのだ。

そういった経緯で、今は俺の専属秘書として働いている。

「……そうだ。少しいいか?」

「はい?少しだけならいいですけど……なるべく早くしてくださいね、北上さんの所に行きたいので」

「そいつは悪いな。まあ手短に済ませよう」

一部の記憶を失った俺。それは、大井の知っている『俺』ではない。

「……大井」

「……はい」

それでも、確かに変わらないものがある。

一つだけ。

「……好きだ。俺と……」

この想い。全てが変わろうと、決して変わらないただ一つのもの。

「俺と、結婚してくれ」

「……おかしな人ですね。もうケッコンしてるじゃないですか」

そう言って、手に嵌った指輪をそっと撫でる大井。

「……あ、いや。そうではなく……」

「……はい?」

あの日、『俺』が渡したかったもの。

今、俺が渡したいもの。

「……本物だ」

「ほん、もの……?」

あの日忘れてしまった『それ』を、懐から取り出し。

「本物の、指輪だ」

「!」

「……受け取ってもらえるか?」

あの日のように最終決戦、という訳でもなければ、ロマンのある場所でもない。

そこまでいいタイミングでもなかった。

だが。

「当然じゃないですか」

大井は俺を選んでくれた。

「というか、今更何か変わる訳でもないでしょう?指輪程度で」

「指輪程度ってお前……ま、あながち間違いでもないか」

事実、指輪を渡した理由もそんな感じだ。心の繋がりだけでなく、形式上での繋がりも欲しかった。

「ということなので、はい」

すっと左手の薬指からケッコン指輪を外し、その手を差し出してくる。

「では、遠慮なく……」

何事もなく直ぐに指輪を嵌め終える。

「では、私は北上さんのところに行ってきますね」

「おう」


・・・・・


死ぬかと思った。

何が「今更何かが変わる訳でもないでしょう?」だ。

恥ずか死ぬわ。

あの人も鈍感だから気づかないし。

まあ、私達らしいと言えば私達らしいが。

……それでも、内心ホッとしている。

力を失った私を受け入れてくれるのだろうか?

ずっとそう考えていたから。

……贈り物が、3つに増えた。

だから、今日は記念日だ。


艦!


後書き

鹿島「あれ?私のルートは?」
球磨「ないクマ」
北上「提督Love勢発言は?」
木曾「特にないな」
多摩「……」
青葉「多摩さん出番ありませんでしたね」


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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2019-10-12 00:24:27 ID: S:Gsi33n

面白かった。
良い作品です!

2: SS好きの名無しさん 2019-10-13 11:32:50 ID: S:vnt8v0

熊ねえのような姉がいる時点で勝ち組ですねw
子供ができたら親以上に可愛がりそうだw

3: とあるリンガ泊地の赤髪提督 2019-10-17 14:07:32 ID: S:5QruXJ

ラストがハッピーエンドで良かった

4: ウラァー!!ハラショー!! 2023-06-11 01:01:07 ID: S:JCEwoC

綺麗さっぱり忘れてしまったのか...
それでも長かった人類と深海棲艦との終戦記念日。いい年に結婚できたやん
結婚おめでとうございます


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