睦月「弥生を甘やかす?」
ろりこんじゃないよ
当メニューは、
・駆逐艦マシマシ
・グダグダ
・キャラ崩壊
などを含んでおります。
許容できる方のみ、当メニューの注文を許可します。
「弥生を甘やかす?」
「おう。面白そうだろ?」
「また変なこと思いつくにゃしぃ……」
秘書艦の睦月が溜息をつく。
「この前は『そうだ、京都に行こう』とか言って1人でこっそり行っちゃうし……」
「土産に八ツ橋買ってきてやっただろ?」
「ご馳走様でしたにゃしぃ……じゃなくて!」
凄い剣幕で迫ってくる。
「なんだ、お前も甘やかしてほしいのか?」
「んにゃ!?……そ、そんなことより!弥生を甘やかすのは許すけど、他の娘に迷惑かけるのはダメにゃしぃ!」
「分かってるよ、俺がやらかしてきたことの中で誰かに迷惑かけたことあるか?」
「ないけどやらかした自覚があるのなら善処するべきにゃしぃ」
「はいはいっと……早速行ってくる」
・・・
「弥生ー」
「……どうしたの」
「これやるよ。ほれ」
そう言って、弥生にあるものを渡す。
「……っとと。これ、なに……?」
「睦月に聞いたら分かるさ。それじゃ」
「……?」
・・・
「……睦月、これ……」
「な、それは!?」
「さっき司令官から、もらった……」
「……絶対に誰にも見せちゃダメにゃしぃ」
「……?」
「それ、あの入手に半年かかる間宮さんの羊羹にゃしぃ!」
「!?」
・・・
「さて、次だ次。どうすっかなー……」
なんて事を考えながら鎮守府をほっつき歩いていると。
「おはようございます、なのです!」
「暁か、おはよう。電のネタを横取りするんじゃないぞ」
「わ、分かってるわよ!……それより、いつものアレをやって頂戴!」
暁が目を輝かせてこちらを見てくる。
「はいはい……ほっ」
「これでこそ、大人のレディの身長よね!」
アレとは、俗に言う高い高いである。
「大人のレディは高い高いなんてされません」
「え……」
顔を真っ青にする暁。
「……嘘だ」
「な、なーんだ!ビックリしたじゃない!」
暁が安堵する。いつ本当のことを教えるべきか、全くタイミングが掴めない。
「じゃ、司令官!またねー!」
「おう……そうだ」
・・・
「……あ、司令官……。昨日の……ありがとうございます」
「いいっていいって。ところで突然なんだが、お前にしたいことがある」
「……?」
「ま、答えは聞いてないけどな」
そう言って、弥生を抱えあげる。
「はわわっ!?し、司令官!?」
表情の固い弥生が、顔を真っ赤にして慌てている。その顔を見て、少しだけ虐めてみたくなった。
「さて、このまま食堂まで移動するか」
「!?」
・・・
「弥生……お疲れ様にゃしぃ」
「恥ずかし、かった……」
「それにしても、弥生にもデレがあるなんて初めて知ったにゃしぃ」
「っ……!撫でるの、やめて……子供じゃないんだし」
「高い高いされてたのに?」
「ううっ……」
・・・
「よし、次のネタを……」
「たっだいま〜!」
「おかえり、龍驤。報告頼めるか?」
「ええよ!演習の戦果はS勝利、MVPは……ウチやー!ほらほら、ほめてほめて!」
「まったく……ほれ」
頭を撫でてやると、龍驤は子供のような笑顔を見せる。
「えっへへ〜……」
「……ほら、このくらいでいいだろう。補給行ってきなさい」
「了解や!」
「ふぅ……そうだ」
・・・
「弥生ー」
「っ!……今度はなんですか」
「次、演習出てもらえるか?」
「……演習?私じゃないはず……」
「卯月が逃げ出したんだよ、どこかにいるはずなんだが……」
「はあ……分かりました」
「……怒ってる?」
「お、怒ってなんかないです。……すみません、表情固くて」
・・・
「……卯月、協力感謝する」
「いいのいいの!弥生の照れ顔なんて、滅多に見られないぴょん!」
卯月は別に逃げ出してなどいない。今回の演習は、味方全員がグルだ。
「弥生にMVPをとらせるなんて、変わった指示ぴょん!」
「それで照れ顔が見られるんだから、いいんだよ」
・・・
「……あの、司令官……。戦果報告に来ました……」
「おう、早速始めてくれ」
「はい。戦果はS、完全勝利……。MVPは、私……」
「ん、弥生がMVPか。偉いぞ、弥生。よく頑張った」
「……!?」
弥生の頭に手を置くと、肩がピクリと震える。
「よしよし」
「!?」
アニメならば、ぼふっ、という効果音がついていたであろう赤面の勢い。
「ちょ、司令官……!卯月も、見てる……!」
「あ、お構いなくっぴょん」
「ほら、卯月もこう言ってるんだ。いいだろ?」
「そういう、問題じゃっ……!」
・・・
「……弥生」
「もう何も言わないで……」
「うーちゃん、ビックリしたぴょん!撫でられて照れ笑いする弥生なんて、初めて見たぴょん!」
「言わないでって……」
・・・
「早くもネタが切れてきたぞ……」
「ならさー、この秋雲さんにお任せしなよー」
「秋雲!いつからそこに!?」
「まあまあ、細かいことはいいからさ。ネタ、欲しいんでしょ?」
「そりゃ欲しいさ。……何が望みだ?」
「話が早くて助かるよ……男の身体のデッサンをしてみたいんだよねー、同人描いてる身としては」
……は?
「ああ、安心してよ。下着姿を描かせてもらうだけだから」
なんだ、ならいいか。
「よし、その条件……呑もう」
・・・
「……あの、司令官。報告に……」
「あ」
「あ」
俺が下着1枚で秋雲のデッサンのモデルになっていると、遠征を終えた弥生が帰ってきた。
「……?」
状況を理解する3秒前。
「……」
2秒前。
「……」
1秒前。
「……!?」
0。
「……えっ、と……あの……」
言いながら手で顔を隠す弥生。指の隙間から目がちらちらと見えるのはご愛嬌。
「なんだ、見たいなら見ればいいじゃないか」
「弥生ー、何照れてんの?」
秋雲と俺の2段攻撃に、弥生はと言うと……。
「……ご」
「ご?」
「……ごめんなさぁぁいっ!」
と言って走り去っていった。
・・・
「いやぁ、満足満足」
「ほら、約束は守ったんだ。ネタを教えろ」
「はいはいっと……ちょっち待っててね、ネタ帳から引っ張ってくるから」
・・・
その後、秋雲から様々なシチュ、ジャンルを聞き出した俺は次の日……。
「睦月ー」
「なんですか?」
被験者を睦月にしてその効力を試してみることに。
「ちょっとこっち来い」
「……はあ、また何か企んで……」
そう言いながらも、渋々とこちらに来てくれる。
「で?何の用……」
言い終わる前に睦月を脇から抱えあげ、俺の膝に載せる。そして、そのまま後ろから手を回す。
「にゃあ!?は、離すにゃしぃ!」
睦月が暴れて抜け出そうとするが、がっちりホールド。
「なんだ、嫌なのか?」
「うぐっ……。い、嫌じゃない、けど……」
秋雲曰く、『ここ!一瞬の隙を逃すな!』らしい。
「ならいいじゃないか」
「……うぅ〜!」
・・・
「しかし凄まじい効き目だな、これ」
「んっ……にゃぁ……」
ヤバい吐息をし始めた睦月をソファに寝かせ、先ほどの威力を再確認する。
「さて、そろそろ遠征から弥生が帰ってくるはずだが……」
「……呼びました?」
噂をすればなんとやら、自分の名前が聴こえたらしい弥生が入ってくる。
「ああ、遠征お疲れ様。報告を、前の分と合わせて頼む」
「前……あっ」
ナニを思い出したのかは知らないが、赤面する弥生。
「……どうした?」
「な、なんでも……」
「そうか。じゃあ、前回の分から」
・・・
「よくやったな、弥生。下がっていいぞ」
「えっ……」
弥生が一瞬何かを期待したような目で見てくる。が、直ぐに元に戻ってしまう。
「……いえ、失礼します……」
「……ああ、待った。忘れてた」
そう言いながら、弥生の頭を撫でる。
「んっ……」
やはり緊張こそしているものの、前回と違って拒絶反応を示さない。
「偉いぞ、弥生。よく頑張ったな」
「……はい」
・・・
結局、弥生は睦月が目覚めるまで大人しく撫でられ続けた。
「……睦月、どれくらい寝てました?」
「そうだな、1時間程度ってとこだ」
「1時間……」
「ほら、もう夕方だ。飯食いに行くぞ」
「はいなのね……」
未だ眠いのか、ボーッとしながら俺の後に続く睦月。とてつもなく派手な寝癖がついていることはまだ言わないでおく。
・・・
食堂で如月と合流し、3人で夕食を頂く。
「如月ー」
「あら、司令官!今日も、ご一緒していいかしら?」
「もちろんだ」
と、ここで如月が。
「あら……睦月ちゃん、髪」
「……?」
「髪、跳ねてるわよ?」
「?」
「司令官も、教えてあげなきゃダメじゃない」
「すまんすまん。でもまあ、寝癖くらい気にすることないだろ」
「もう……女の子はそうもいかないんですよ」
如月がそう返す。睦月は……。
「……」
まだ意識がハッキリとしていないのか、反応が薄い。
「……如月、睦月がちゃんと起きたらまた言ってやってくれ」
「ええ、任されました!」
・・・
「弥生ー、どうしたぴょん?」
「な、なんでもないよ……」
「でも、さっきから司令官のほうをチラチラ見てるぴょん」
「……そ、そんなこと……」
「ふーん……変な弥生」
・・・
飯を食い終わり、執務室に戻……。
「うーちゃん参上!ぴょんっ!」
「ボクもいるよ!」
「あたしもー」
……はあ。
「……卯月、皐月、文月。一応聞くが、何の用だ?」
「ボクたちと遊ぼうよ、司令官!鬼ごっこで!」
「しかしだな……」
「……みんな、ここにいたんだ……」
弥生が合流する。
「あのね、弥生ちゃん。司令官、遊んでくれないの」
文月がそう言うと、弥生は表情こそ変えないものの、弥生から負のオーラが。
「……よし、遊ぼう。時間は守れよ?」
「やったぁ!ありがとぴょん!」
・・・
「司令官ってば、弥生に甘すぎない?ボクたちが鬼のときは本気で逃げるクセに、弥生のときになったら急に手を抜くよね」
「あ、バレたか。実はな……」
・・・
「へぇ、面白そうだね!ボクも協力するよ!」
「くれぐれも弥生には内緒だぞ?」
「もちろん!」
・・・
鬼ごっこを終え、今度こそ執務室へと戻る。
「遅刻にゃしぃ」
「まだ1分だろ」
「遅刻には変わりないにゃしぃ!」
「へいへい、私が悪うござんした……」
「もう……」
睦月は怒りながらも何故か嬉しそうだ。
「どうした?妙に上機嫌だな」
「なんでもないですよ?」
「そうか?」
「きっと気の所為にゃしぃ!」
「はあ……」
・・・
「睦月ちゃん、ちゃんと上手くやってるかしら……」
「ん、如月。どうしたの?」
「あら、皐月。面白いことを考えたのよ。睦月ちゃんのご飯に、少しだけ惚れ薬を混ぜてみたらどうなるかなって……」
「え、それ大丈夫なの?」
「平気よ、数時間で元に戻るはずだから」
「ふーん……」
「惚れ薬の効力はキチンと試しておかないと、司令官に効くかどうかも分からないしね」
「睦月は実験台か……睦月も大変だね」
・・・
「睦月、これチェック頼む」
「りょーかい!」
睦月とのやりとりに、どこか違和感がある。
「次、これ任せてもいいか?」
「もちろんにゃしぃ!」
こう、なんと言うか……。
「よし、次はこれ頼む」
「はい!」
素直すぎる。普段なら『チェックくらい自分ですればいいのに……』とか言ってくるあの睦月が、今は大人しくチェックをしてくれる。いや、別に不満があると言う訳ではないのだが……。
「およ?司令官、何か悩み事?睦月で良かったら聞きますよ?」
「……いや、なんでもないよ。心配してくれてありがとう」
「どういたしまして、にゃしぃ!」
えへへ、と笑う睦月。今なら夢にまで見たアレが出来るかもしれない、そう思い。
「睦月、少しだけこっちに来てくれないか?」
「なんですか、なんですかー?」
「……てい」
睦月の頭を撫でる。睦月は仕事の出来る秘書艦だが、それ以前に駆逐艦なのだ。他の駆逐艦の頭は撫でたこともある。が、睦月は例外で、頭を撫でさせてくれないのだ。しかし……。
「……もっと」
「え?」
「もっと、撫でてほしいにゃしぃ。いつも我慢してた分、いっぱい」
今の睦月は、抵抗することなく、むしろ自分から頭を突き出してくる。
「……よしよし」
「……♪」
……なんだろう、圧倒的な『コレジャナイ』感。
「……はっ」
「ん?」
「……」
見ると、睦月は肩をプルプルと震わせている。
「……か」
「え?」
「……ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
そう言い残し、睦月は部屋から走り去っていった。
「……えぇ?」
・・・
1人取り残され、大人しく執務をしていると。
「……司令官、いますか……?」
「ああ、いるぞ。入って、どうぞ」
弥生が執務室に来た。果たして何の用なのだろうか、見当がつかない。
「……」
目線を合わせようとしない弥生。
「……どうした?何か相談でもあるのか?」
「……えっ、と……」
どこか言いにくそうにモジモジとする。
「……その、ご飯……」
「ご飯?」
やっと上げた弥生の顔は、紅に染まっていた。
「……一緒に、食べませんか……?」
・・・
「なるほどねぇ……」
聞くに、皐月と卯月、文月が外食。知らされていなかった弥生は準備が出来ておらず一緒に行けなかったらしい。
「よし、俺達も外に食いに行くか」
「えっ……でも、その……」
「大丈夫だ、金は俺が出すから」
「……ありがとう、ございます……」
・・・
「司令官、ちゃんと上手くやってるかなあ……」
「うーちゃんの作戦に抜かりはないぴょん!司令官なら、絶対に弥生を甘やかすぴょん!」
「あたし、弥生ちゃんとも一緒に食べたかったなぁ……」
「「天使や」」
・・・
「さて。車に乗ってから言うのもアレなんだが……何か食いたいものはあるか?」
「……えっ、と……特には」
「なるほど。じゃ、あそこでいいか」
・・・
「いらっしゃいませ。どなたからのご紹介でしょうか?」
「元帥から。はい、これ」
そう言って、胸元から1枚のカードを取り出し、店員に渡す。
「……確認致しました。お席へご案内します、どうぞこちらへ」
・・・
「……司令官、ここは?」
「ここか?ここはな、元帥とか偉い人からの紹介がないと入れない店なんだ」
「……あのカードは?」
「あれは使い切りのカードで、あれが紹介状なんだよ」
「……使い切り……?」
「ああ」
弥生が動揺する。
「……私なんかの、ために……?」
「そろそろ期限だったし、まあいいんじゃないか?」
「そ、それは……大事な人と来たほうが……」
「何言ってんだ、弥生は大事だぞ?」
「!」
部下が大事でない奴なんてそうそういないだろう。
「……」
俯いて黙りこくる弥生。
「……あれ、怒ってるか?」
「……えっ?あ、いえ。怒ってなんか、ないです……よ?」
「そうか。お、料理が来たみたいだな。ほら弥生、冷めないうちに頂くぞ」
「あ、はい……」
・・・
「司令官、上手くやったぴょん?」
「上手くかどうかは分からんが、とりあえずあの店には連れてったぞ」
「あの店……まさか!?」
「うーちゃんは知ってるぴょん!軍の中でも選ばれた人しか入れない、全ての軍人の憧れ……前回の大規模作戦で多大な功績を挙げた司令官に与えられた、1度きりの食事券を使って入れるお店のことだぴょん!」
「司令官、正気なの!?」
皐月達が矢継ぎ早に責め立ててくる。
「1度甘やかすと決めたんだ、とことん甘やかすのが筋だろう?」
「いくらなんでも度を超えてるよ!それはボクが行くべきところだったのに!」
「うらやまけしからんぴょん!」
「……あたしは別にどっちでもいいかな〜」
おい、前半2人。欲望に満ちてるな。
・・・
「あら、睦月ちゃん。どうしたの?」
「司令官に酷い辱めを受けたのね……」
「辱め、ねえ……。抱きしめられた、とか?」
「それはある程度耐性がついてるのね……」
「……なんで?」
「あいつ、いつも抱きついてくるにゃしぃ……。大体は冗談だけど、時々ガチになって襲い掛かってくるから困りものにゃしぃ」
「そうなの……じゃあ、キス?」
「にゃ!?」
「あら、外れ?」
「は、外れにゃしぃ!キ、キキキキスって……!」
「ふーん……頭を撫でられたりとか?」
「……それなのね」
「ふふ、いっつも『他の子を優先したほうが……』とか言ってるから撫でてもらえてないものね。たっぷり撫でてもらった感想、どうだった?」
「べ、別にちっとも嬉しくなんかないにゃしぃ!」
「あらあら……」
・・・
「三日月、少し相談が……」
「あら、弥生……どうしたの?」
「……その、司令官のことで……」
「司令官の?」
・・・
「司令官、少しお話があります」
三日月が、そんなことを言ってきた。
「話?」
「はい。少々お時間を頂いても?」
「ああ、構わない」
「では、早速ですが……今日、弥生から相談がありました。最近、司令官が優しいのだそうで……。何か、企んではいませんか?」
「企み?」
「はい、例えばそう……弥生を堕落させたりとか、或いは……その、弥生に……惚れ込んでるとか」
「……違います」
「えっ」
「甘やかしたらどうなるのかなーって」
「えっ、えっ?」
「それだけです」
「……し」
「し?」
「失礼しましたぁぁぁぁぁ!」
……惚れ込んでる、ねぇ。
・・・
「弥生、聞いてきたわよ」
「……ん、ありがと。結果は……?」
「……そうね、まだ内緒」
「え……」
「大丈夫よ、しょうもない理由だったし」
「……そう」
「怒ってる?」
「……怒ってなんか、ない……。怒って、なんか……」
・・・
俺は……弥生のことをどう思ってるんだ?甘やかすにしたって、どうして弥生なんだ?弥生は……俺にとって、何なんだ?数日前に三日月に言われたことは、事実なのか……?
「……司令官、遠征の報告に……」
そこまで考えて、一旦思考を放棄する。
「ああ、頼む」
……結局、数日間のうちに答えが出ることはなかった。
・・・
「うふふ、司令官にお飲み物の差し入れよ」
「お、ありがたいな」
「じゃーん!如月特製の、栄養ドリンクです!」
「特製か。今頂いても?」
「ええ、もちろんよ。ふふ……」
何か含みのある如月の笑い方を不思議に思いながらも、そのドリンクを一気に飲み干し……。
「うっ……!?」
身体が、熱い。奥底から燃えているようだ。
「はあ、はあ……」
心拍数が上がっていくのが分かる、目の前にいる如月のことしか考えられなくなる。
「きさ、らぎ……!」
「なあに?もう私のことしか考えられなくなっちゃった?」
その言葉を聞き、『盛られた』と気づく。惚れ薬か?いや、これは……。
「媚薬、だろ……!」
「あら、そうだったかしら?なんでだろ、人間と艦娘では身体の作りが違うから……?まあいいわ、うふふ……」
そうしている間にも、身体はどんどん熱くなる。
「うぅ……!」
「我慢しなくても、いいのよ?」
今の自分を喩えるならば、空気の満タンまで入った風船に針の先を宛てがわれているような状況だ。
「……ダメ、だ」
自分には……弥生が……。
「……そう、ならこっちから仕掛けるしかないわね」
薄れつつある意識の最中、何かを取り出す如月が目に映る。
「なに、を……」
「飲むの」
「……?」
「私も、それを」
取り出した特製ドリンク……媚薬を、一気に飲み干す。
「……ふふふっ」
そこで、俺の意識は途切れた。
・・・
次に目覚めたとき、俺は医務室のベッドに寝かされていた。
「……そうだ、如月は……」
「大丈夫、です……。いや、大丈夫ではないのかな……」
「……すまない、状況を説明して貰えるか?」
・・・
聞けば、あの後直ぐに弥生が異変を察知、助けに来てくれたらしい。執務室についた頃には、2人とも眠っていたのだそうだ。
「アレの副作用は眠気か……」
「……アレ?」
「いや、弥生は別に気にすることないさ。それより、如月に伝言頼めるか?……『今回の件は不問とする。但し、次はないので注意すること』と」
・・・
不味いな、最近は弥生を甘やかせていない。今は弥生のターンだ、睦月や如月に構いすぎた俺が悪いな。
「……と、いう事で。弥生ー」
「……どういうことですか?」
「気にしなくていい。そうだ、なんか欲しいものあるか?」
「欲しい、もの……?」
「ああ。そろそろクリスマスだろ?今のうちに聞いておこうと思ってな」
「……じゃあ……司令官と……」
「……ん?」
「……いえ、なんでもないです……。私は、別に……決まったらまた」
……何か言おうとしてたな。
「分かった、決まらなければこちらで考えておくよ」
・・・
「さて、どうするか……」
「やあ、司令官」
「響か。こんな夜遅くにどうした?」
「ウォッカが切れてね……持ってないかい?」
「生憎だが、俺は酒を飲まん……すまんな」
「そうか、邪魔したね」
「あ、酒保ならまだ置いてるかもしれないぞ」
「酒保か……хорошо、行ってみる」
「俺もついていくぞ、夜道は危ないしな。どこのビッグ7が襲ってくるか分からん」
「分かった、早速行こう」
・・・
「明石の酒保へようこそ!」
「おう、明石。ウォッカ置いてるか?」
「はい、ありますよ?でも提督、お酒呑まないんじゃ?」
「あ、私の分だよ」
「あら、響ちゃんも一緒なんですね」
2人が話している間に、俺は俺で買物を済ませる。
「明石、これ会計たの……」
「……司令官?」
入口を見ると、弥生が赤い顔をして立っていた。
・・・
「走り込み、ねぇ……」
「弥生ちゃん、いつも走り込みが終わったら寄ってくれるんですよ」
「そうなのか……頑張ってるな、弥生」
そう言って、弥生の頭を撫でる。
「んっ……」
抵抗する気力もないのか、俺の手を大人しく受け入れる。
「……2人は仲がいいんだね。付き合ったりとかはしてるのかい?」
響が、不意にそんなことを言ってくる。
「な、ななっ……!?」
弥生が慌てるのを見て、少しからかってみたくなる。
「付き合ってるぞ。なあ、弥生」
「ぇ!?」
もちろん大嘘。
「……えっ、と……その……うぅ……」
「弥生、本当かい?」
弥生は、ひとしきり唸った後。
「……はい」
蚊の鳴くような声でそう呟いた。
・・・
「……やっぱ怒ってるか?」
「……もちろん、です」
「ごめんな、つい勝手に口が動いてしまったんだ」
「もう……」
「でも、あそこで肯定しなくても良かっただろ?」
「……それは」
沈黙が俺達2人を覆い尽くす。
「……司令官、あのっ……」
「ん?」
「……クリスマスプレゼント、決めました……!」
「決めたか。欲しいもの、なんでも言ってくれ」
「……じゃあ」
すると弥生は俺の手を取り。
「……クリスマスイヴを、一緒に……」
・・・
「……って言われたんだけど、真意はなんなんだ?」
「……クソ提督なのね」
睦月にそう言われる。
「え、何それは……(困惑)」
「はあ……呆れてモノも言えないにゃしぃ」
「この子酷い……酷くない?」
「……まあ、折角の機会なんだし存分に甘えさせればいいと思うにゃしぃ」
「分かった、分かったからその感情の篭っていない目は止めてくれ」
「怒ってなんかないですよ?」
ついに妹のネタまで。
「……なんかごめん」
「……1日デート」
「デート?」
「デートしてくれたら、許してあげないこともないにゃしぃ」
俺知ってる。デートって名目で色々買わせる策略なんだ、これ。
「……はいはい、デートね。分かった分かった」
「……ホントに分かってますか?」
「分かってる分かってる、大丈夫だって」
「むぅ……」
・・・
「さあ、弥生。クリスマスだぞ」
「……はい」
いつも通りの口調ながらも、どこか嬉しそうな雰囲気。
「今日は俺からのクリスマスプレゼントだ。好きなだけ甘えていいぞ」
「甘え……!?べ、別にいいです……」
なんと。逆の立場なら好きなだけ甘えていた自信があるが……。
「そうだ。腹、減ってないか?」
「……そ、そんなこと」
ぐぅぅ。
「……飯作ってくるから、待ってな」
・・・
「……美味しい!」
「喜んでもらえたようで何よりだ。久しぶりの料理でも、案外上手くいくものだな」
メニューはクリスマスっぽく七面鳥やクリームスープなど。調理中にどこかの五航戦の瑞のつく方の呪詛が聴こえてきた気がしたが、うちの鎮守府にはいないので気の所為だと信じたい。
「これ、司令官が作ったんですか!ありがとうございます、とっても美味しいです!特にこの……」
そこまで言って、弥生はピタリと止まる。
「……忘れてください」
はしゃぐ弥生の姿を忘れろという方が無茶なのではないか。
「うぅ……」
弥生は顔を真っ赤にしてうずくまっている。
「弥生、ありがとな。こんなに褒めてもらえるなんて、思ってなかったよ」
言いながら、弥生の頭を撫でる。
「……ふふ」
そうして、2人の1日は刻一刻と過ぎていった。
・・・
「もう5時か」
「……小腹が空きました」
「……ははっ」
もはや空腹を隠そうともしない弥生が少し可笑しくて、笑ってしまう。
「……あははっ」
弥生も、その状況を楽しんでいるようだ。
「なあ弥生、晩飯に食いたいものあるか?」
「いえ、司令官が作ってくれるのならなんでも!」
「そうか、なら適当にいいの作ってくるわ」
・・・
扉を開けると、如月が倒れ込んでくる。
「……如月、部屋の外で何を?」
「饒舌に喋る弥生ちゃんが面白くて、つい盗み聞きを」
「はあ……」
「そんなことより!メリークリスマス、司令官!」
「メリークリスマス、如月。ちゃんと楽しんでるか?」
「ええ、もちろんよ。……睦月ちゃんはイマイチみたいだけれど、ね」
「睦月が?」
意外だな、睦月ならこんな日に羽目を外すはずだが……。
「気になるなら、ご飯を作るついでに見に行ったらいいんじゃないかしら?」
「……そうだな、そうしてみるよ」
・・・
「睦月ー」
「にゃ!?し、司令官!なんで……」
「何やら元気がないらしいからな、様子を見に来た」
すると、睦月は慌てて。
「そ、そんなことないにゃしぃ!しっかり楽しんでるのね!」
「……そうか、ならいいんだ。じゃ、俺はもう行くぞ」
「あっ……」
部屋を出ようとした俺の袖を、睦月が掴む。
「どうした?」
「……少しだけ」
顔を真っ赤にした睦月が、ぼそりと。
「あと少しだけ、一緒にいてください……」
・・・
「弥生、ただいま。遅くなって申し訳ない」
「もう、司令官ったら。弥生ちゃん、すごく不機嫌でしたよ?」
如月にそう言われ、弥生を見ると。
「……遅い、です」
不機嫌さを顕にした弥生が、そう呟く。
「ごめんな、少し睦月と話してたんだ」
「怒ってなんか、ないです……別に、怒ってなんか」
どう見ても怒ってるんだよなぁ……。
「じゃ、私はもう行くわね。そうでもしないと弥生ちゃんが甘えられないもの」
「なっ、如月……!」
如月の一言に、弥生が慌てる。
「うふふ……じゃあね、司令官」
「おう、またな」
・・・
「抱きしめてください」
「なんだ藪から棒に」
「私を待たせた罰です」
「どこが罰なんだか」
「ロリコンのレッテルが貼られます」
「それは勘弁」
「いいからはやく、ほら」
そう弥生に急かされる。
「はいはい……ほら、これで良いか?」
「ん……満足です」
抱きしめると言うよりは抱っこに近いが、弥生はそれでも良いようだ。
「もっとお願いします」
「了解」
・・・
「さて、弥生。夜も更けたし、そろそろ部屋に戻りなさい」
「……あと少し、ダメですか?」
「ダメです。俺はまだすることが残ってるからな、弥生は早めに寝るべきだ」
すると、弥生は少し寂しそうな顔をして。
「……分かりました、おやすみなさい。素敵なクリスマスプレゼント、ありがとうございました」
部屋から出ていった。
「……さて」
・・・
「えっと、まずは戦艦あたりから……」
「司令官、私も手伝うわよ」
「如月!?おま、ちょ……!しーっ、しーっ……!」
配るプレゼントの準備をしていると、いつの間にか入ってきた如月に話しかけられ、焦ってしまう。
「もう、そんなに慌てることないじゃない。それとも、1人きりでナニかしていたの?」
「違う。……まあいい、手伝ってくれるのなら歓迎するぞ」
すると、弥生はくすりと笑い。
「任されたわ!うふふっ」
・・・
「さて、まずは戦艦寮からだ。これを長門型、こっちを扶桑型に頼む」
「それぞれ中に何を入れたの?」
「長門にテディベア、陸奥に化粧品。扶桑型には絶対に割れないらしい食器だな」
「へぇ……」
「俺は金剛型と伊勢型、大和型に配ってくる」
「ちなみにそっちには?」
「金剛型がティーセット、伊勢には酒を、日向には瑞雲。大和には新しい傘、武蔵は……可愛い服」
「えっ……」
「今朝な、執務机に置いてあったんだよ。カタログの中の服のところに丸がついてあって、武蔵の名前が書いてあった」
「あー……武蔵さんならそうしそうね」
・・・
「よし、次は空母だ。一航戦と二航戦、翔鶴を頼む」
「じゃあ、提督は雲龍型と軽空母のみんなを?」
「おう。一航戦はボーキを、蒼龍には九九艦爆の本、飛龍には多聞提督の抱き枕カバー。翔鶴にはシキツルさんのポスターだ」
「シキツルさん?」
「あ、知らないか。ま、知らなくて困るってことはないしいいけどな」
「雲龍型には?」
「雲龍にはラム酒入ケーキ、天城は甘城ブリリアントパークのDVD、葛城は瑞鶴の抱き枕カバーだ」
「天城さんってそんなキャラだったかしら?」
「いや、俺の独断と偏見に基づいた選択だ」
「じゃあ、軽空母は?」
「それは纏めて欲張り艦載機セットだ。この日のために全員分の紫電改二やら揃えるの大変だったんだからな」
・・・
「ここからはもう俺1人でやるから、如月はもう戻っていいぞ」
「あら、大変じゃない?」
「これ以上プレゼントを考えるのは大変なんだ、分かってくれ」
「あら、作者の都合なら仕方ないわね。それじゃ、おやすみなさい」
如月は、手をヒラヒラと振りながら自分の部屋へと戻っていく。
「……さて」
・・・
「司令官、少しお話があります」
「またか。夜も更けてるし、早めに頼めるか?」
「はい。単刀直入に聞きますけど、司令官は弥生のこと、どう思ってます?」
「む……。そうだな、好きだぞ」
前に言われて考えた、自分の気持ちだ。
「ですよね」
三日月は、さも分かっていたかのようなリアクションをとる。
「まあ、普通は好きでもない人にあそこまで尽くしたりしませんからね。弥生を甘やかすという発想が出たのも、潜在意識で弥生が好きだったからなんでしょう」
「そうなのか?」
「はい、恐らく」
「ふむ、それで?」
「弥生に、もう1つクリスマスプレゼントをあげては如何かと」
・・・
「ふぁぁ……如月ちゃん、おはよー」
「おはよ、睦月ちゃん。……あら?」
「……プレゼントが、部屋の外に……」
「あらあら、中身は一体なんなのかしらね」
「……おぉ」
「睦月ちゃんの方は何が?」
「レンゲルのベルトにゃしぃ……。丁度欲しいと思ってたら、まさか本当に貰えるなんて……」
「私の方はフォーゼのベルトとアストロスイッチが全種ね。司令官ったら、ライダー好きは睦月ちゃんだけなのに……」
・・・
「わあ……!響、起きて!サンタさんがプレゼントを置いていってくれたわよ!」
「……おはよう、暁。起きるのが早いんじゃないかい?まだ4時だよ」
「ほら、プレゼントがあるのよ!起きなきゃソンじゃない!」
「……司令官、お疲れ様」
「?」
「なんでもないよ。じゃ、早速開けようか」
「えーと、なになに……」
「ふむ、私のほうは『響』だね。なんとも安直な選択だ」
「……何これ?『暁秘伝』?」
「なっ、それは私が前々から欲しいと思っていた本じゃないか!」
「え、この本ほしいの?」
「是非とも頂きたい!代わりに『響』はあげるから!ほら、お酒が呑めるなら1人前のレディだよ!」
「そ、そうかしら?じゃあ、譲ってあげるわ!」
「……司令官、GJ」
・・・
「……弥生ー」
「うーん……」
「やーよーいー」
「……むー」
「起きるぴょん!弥生!」
「……なに、卯月」
「これ、司令官からぴょん?」
「……?」
「クリスマスプレゼント、2つあるぴょん!」
「……なんで?私、昨日貰った……」
「じゃ、要らないぴょん?」
「い、いるけど……」
「ほら、これぴょん!」
「えーと、これは……」
「おっ!うーちゃんのは、ブーブークッションだぴょん!」
「……!」
「ん、どうしたぴょん?」
「な、なんでも……」
「?」
「……ふふ」
「それにしても、おめでとうぴょん!」
「え?」
「どうせ、それ指輪ぴょん?」
「!?」
「あっ、やっぱり!」
「〜っ!」
「痛、痛いぴょん!ごめんなさい、叩かないで!」
・・・
「三日月、いるか」
「はい、司令官。ちゃんとアドバイス通りにしましたか?」
「おう、とりあえず指輪は入れといた」
「ならOKです!司令官、ちゃんと弥生のこと、甘やかしてあげてくださいね」
「おう、もちろんだ!」
「あと、時々でいいから私もお願いします!」
「了解、覚えておくぞ!」
「……ふう、これで良かったのよね」
「ん、どったの三日月」
「あら、もっち……。少し、司令官の背中を押しただけよ」
艦!
え?駆逐艦マシマシなのに龍驤がいるじゃないかって?何言ってんだ、明石以外は駆逐艦しかいないじゃないか(白目)
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