2020-08-01 12:30:57 更新

概要

八幡「また性犯罪者呼ばわりか……」その2の続き


秘めた真実


ーー比企谷家、リビング


八幡「ただいま、小町」


小町「ひっ! ……お、お兄ちゃん、か……。ぶ、部活は、いいの?」


八幡「ああ。それより、さっき雪ノ下からお前に電話ーー」


小町「やめて! もう小町に思い出させないで!」


八幡「すまん、俺が悪かった。今日も俺が一緒にいるから……小町?」


小町「……」プルプル


八幡「?」


小町「あ、あのね、お兄ちゃん」


八幡「何だ?」


小町「そ、それ以上、近寄らないで、くれない、かな?」


八幡「分かった。でも、どうしてだ? 昨日は平気だっただろ?」


小町「う、うん、そうなんだけど……。さっき雪乃さんと話した時に、お兄ちゃんに襲われるのを、ちょっとだけイメージしちゃって……」


八幡「そうか……」


八幡(雪ノ下の一言でトラウマを抉られたところに、「俺が小町を襲った」という妄言を聞かされたせいで、実際に襲った男子生徒の顔が俺と被ってしまった)


八幡(恐らくは、そんなところだろうか)


八幡(しかし、だからと言って今の小町を1人にするのは危険だ)


八幡「小町に必要以上に近付かないように気を付けるから、俺もリビングにいてもいいか?」


小町「えっと……うん、いいよ、お兄ちゃん」


八幡「おう」


八幡(小町のトラウマは、昨日よりも改善するどころか余計に悪化してしまった)


八幡(小町を襲った奴もそうだが……事情を知らなかったとはいえトラウマを抉った雪ノ下や、俺があいつの電話を止めようとするのを邪魔した由比ヶ浜も、簡単に許す事は出来そうにない)


八幡(せっかく奉仕部が立ち直ったばかりなのに暫く休む、って事を申し訳ないと思っていた気持ちも、完全に吹き飛んでしまったみたいだ)



――翌日、学校


戸部「でさー、マジあり得ないって思うっしょ、隼人くーん!?」


葉山「いや、そう思うのは戸部だけじゃないか?」


三浦「あーしも、どうでも良いと思うけど」


結衣「あ、あははは……」チラッ


結衣(ヒッキー……)


八幡(さっきからチラチラと視線を感じる。多分、由比ヶ浜だろう)


八幡(だが、俺はあいつや雪ノ下と当分関わる気はない)


八幡(ここは無視をするに限るな)


キーンコーンカーンコーン……


平塚「それでは今日の現国の授業はここまでとする」


平塚「あと、比企谷。この休み時間に話したい事があるからついてこい」


八幡「はぁ、分かりました」



――職員室


平塚「さて。雪ノ下から聞いたが、これから奉仕部を暫く休むつもりらしいな?」


八幡「ええ、まぁ」


平塚「雪ノ下達とまた派手にやり合ったらしい事も聞いたが、君は何を考えているんだ? せっかく奉仕部が以前の状態に戻りつつある状態で、比企谷は1人で何をしようとしている?」


八幡(やっぱり既に先生の耳に話が入っていたか。だったら、俺のやるべき事はただ1つ)


八幡「実は、妹の小町がーー」


~~~~……


平塚「……なるほど。まさかそんな大変な事になっていたとはな。しかし、その中学の担任や校長とやらは、教師の風上にも置けん奴らだ。事件を隠蔽して加害者を庇おうとするとは!」


八幡「事件が公になれば、小町まで周りの奴らから奇異の眼差しを向けられる可能性がありますし、仕方ないと思いますよ」


平塚「だが、君は心の底から納得はしていないのだろう? でなければ、その目がいつも以上に腐っていたりはしないさ」


八幡「ま、そうっすね。到底納得は出来ないですけど、これが一番、小町にとって最善ですから」


平塚「ふむ……。とりあえず、話は理解した。妹さんがそのような状態である以上、君が奉仕部を休んで少しでも妹さんと一緒にいようとする事に、私も異議を唱えるつもりはない」


平塚「それに、そういった繊細な事情があるのならば、君が正直に全てを雪ノ下達に話せなかったのも分かる。あいつらは、私の方で上手く説得しておくよ」


八幡「ありがとうございます」


八幡(奉仕部の事は、平塚先生に任せておけば大丈夫だろう。これで、あいつらとも当分関わらずに済む)


八幡(今日からは、心置きなく奉仕部を休めるはずだ)



――放課後、奉仕部部室


雪乃「……」


ペラッ、ペラッ


結衣「……」


ポチポチ、ポチッ


結衣「ねえ、ゆきのん」


雪乃「……何かしら、由比ヶ浜さん」


結衣「ヒッキー、来ないね」


雪乃「そうね……」


結衣「あたし達が昨日ヒッキーにした事って、物凄く不味い事だったのかな……」


雪乃「どうなのかしらね。普段の冗談以上の事はしていないはずなのだけれど……。あと、比企谷君だけでなく、小町さんの様子もおかしかったのが気にかかるわ」


結衣「それそれ! あたし、昨日の夜に小町ちゃんにメール送ってみたんだけど、返信来なくてさー。いつもなら割とすぐ返事が来るのに……」


雪乃「由比ヶ浜さん、比企谷君と今日は話をしたの?」


結衣「ううん。ヒッキー、いつもより目が腐ってたというか、すっごく機嫌悪そうな感じで、話し掛けようにも話し掛けられなかったよ」


雪乃「昨日の帰り際の比企谷君、今まで見た事がないくらい本気で怒っていたように思えたわ。もしかしたら、彼はもう二度と、ここには戻ってこないかもしれないわね……」ブルブル


結衣「あたしは、嫌だな……。こんな形で、またヒッキーと仲が悪くなるのなんて、嫌だ……!」


――ガラガラッ!


平塚「2人共、浮かない顔だな。まあ、無理もないか」


雪乃「平塚先生、ノックを……コホン。何か御用でしょうか」


平塚「ああ。比企谷の事で、お前達に伝えておきたい話があってな」


雪乃・結衣「!」


平塚「比企谷が、部活を暫く休みたいと言っていた件についてだ。お前達は、まだあいつから何も聞いていないんだったな?」


結衣「はい。昨日、あたしとゆきのんが無理やり事情を聞き出そうとしたら、ヒッキーの事を怒らせちゃって……」


雪乃「その話をするのは後よ、由比ヶ浜さん。先生、早く続きを」キッ


平塚「う、うむ」


平塚「比企谷についてだが……」


雪乃「ゴクリ」


結衣「ドキドキ」


平塚「暫く奉仕部を休みたいという申し出を、受理させてもらう事にした」


結衣「……えええっ!?」


雪乃「平塚先生、それは一体どういう事でしょうか? 奉仕部に顔を出すよう、比企谷君を説得してもらえるはずでは?」


平塚「最初はそのつもりだったんだがな。本当の事情を聞かされて、あいつが休む理由に納得できたので受理したんだ」


雪乃「!」


雪乃(平塚先生を納得させられるだけの理由を、比企谷君は持っていたというの?)


雪乃(でも、それ程の理由を用意できるのなら、彼は何故、昨日私達にその事情を説明しなかったのかしら?)


結衣「じゃ、じゃあ、ヒッキーは暫くここに来ないんですか?」


平塚「そうなるな」


結衣「いつになったら戻ってくるとか、聞いてますか?」


平塚「聞いていない――いや、分からない、と言った方が正確だな。あいつに直接尋ねたとしても、これ以外の答えは返ってこないだろう」


結衣「あの、ヒッキーがここに来れない理由、あたし達にも説明してもらえませんか?」


平塚「悪いが、それは出来んよ。あいつは私を信用してくれているからこそ、本当の事情を正直に打ち明けてくれた。だから、私が軽々しくあいつの事情をお前達にも話す訳にはいかないのだよ」


雪乃「……」


雪乃(昨日、比企谷君が帰る直前までの一連のやり取りの内容、比企谷君の最後の反応、そして小町さんの異変)


雪乃(平塚先生を納得させ、且つ、私達に口外しない事を約束させるに足る理由……)


雪乃(これらの要素から導き出される結論は――っ、まさか!)


平塚「私からの話は以上だ。当面は、お前達2人だけで活動してもらう事になる。すまんが宜しく頼むぞ。ではな」


雪乃「待ってください、平塚先生。1つだけ、確認させて頂きたい事があります」


平塚「何だね、言ってみたまえ」


雪乃「比企谷君は、私達の事を何か言っていませんでしたか?」


平塚「いや、何も言っていなかったな。気になる事でもあるのか?」


雪乃「はい。昨日、私達が比企谷君や小町さんと交わしたやり取りの詳細に関して、先生にはまだ詳しく説明していなかったのですが……」


~~~~……


雪乃「――というのが、昨日の顛末です。先生は、このやり取りについてどう思われますか?」


平塚「……はぁ。全く、厄介な喧嘩をしてくれたものだな」


結衣「へっ? どういう意味ですか、先生?」


平塚「それは私の口からは説明できんと言っただろう」


雪乃「大丈夫です。ここまでに出揃った情報から、ある程度見当はつきましたから」


結衣「何か分かったの、ゆきのん!?」


雪乃「ええ。まだ推測の域を出ないけれど、多分ね。恐らく、今回の問題の鍵は比企谷君ではなく、小町さんの方だわ」


平塚「……さすがだな、雪ノ下。そこまで分かっているのなら……そうだな、あいつの妹さんの名誉のために、1つだけ言っておくが――」


平塚「未遂で済んだそうだ。ギリギリだったらしいがな」


雪乃「……! ありがとうございます、平塚先生」ホッ


平塚「では、私は今度こそ行くぞ。奉仕部の仕事は、暫くお前達2人で頑張ってくれ」


ガラガラッ、ピシャンッ!


結衣「え、えーと、何が何だか全然分からなかったんだけど、どういう事なの、ゆきのん?」


雪乃「ごめんなさい。由比ヶ浜さんに、全てを説明する事は出来ないわ」


結衣「ヒッキーが、聞かれたくないって思ってる話だから?」


雪乃「その通りよ。私が昨日彼や小町さんに対してやった事は、幾ら謝ったとしても許してもらえる保証はないわ……」


雪乃「だけど、由比ヶ浜さんは、私と小町さんの電話中、比企谷君の動きを邪魔しただけだから、私よりはまだ許してもらえる可能性があると思うの」


結衣「ちょ、ちょっと待ってよ! 許してもらえるとかもらえないとか、そんなにヤバい状態なの!?」


雪乃「仮に私が土下座をしたとしても、厳しいでしょうね。比企谷君にも小町さんにも、心底嫌われてしまったと思うわ……」ガクガクブルブル


結衣「諦めるにはまだ早いよ! 今からヒッキーの家に行って、あたしと一緒に謝ろ?」


雪乃「今すぐは無理だわ。行っても確実に門前払いされるでしょうね……」


結衣「そんな!? じゃあ、一体どうしたらーー」


ガララッ。


いろは「こんにちはー! 聞いてくださいよ、せんぱーい……って、いない?」


結衣「あ、いろはちゃん、やっはろー……」


雪乃「こんにちは、一色さん」


いろは「どうもですー。お2人共、先輩が何処に行ったかご存じですか?」


結衣「えーっと、どうしよう、ゆきのん?」


雪乃「比企谷君は、当分ここには来ないわ。彼に何か依頼があるのなら、私達が代わりに引き受けるわよ?」


いろは「いえいえ、大丈夫です。そんなに大した用事じゃないので。ところで、お2人共浮かない顔してますけど、何かあったんですか?」


結衣「あはは……。実は、ちょっとヒッキーと喧嘩しちゃったんだ」


いろは「はぁ、またですか。まあ、先輩捻くれてますし、しょうがないと言えばしょうがないんでしょうけど」


雪乃「今回の喧嘩に関して言えば、比企谷君は全く悪くないわ。私達に100%非があるから……」


いろは「珍しいですね? 雪ノ下先輩がそこまではっきり自分の非を認めるなんて」


雪乃「そうかもしれないわね……。私は、自分では常に正しい事をしているつもりなのだけれど、いつも何処かで歯車が狂って、おかしくなってしまう。だけど、私にはどうする事も出来なくて、そのまま全てが終わる」


雪乃「私は、幾度となくそんな過ちを繰り返してきたわ」


雪乃「でも、せめて彼の事だけは、間違えずにやり遂げたい。ずっとそう願っていたはずなのだけどね……」


結衣「ゆきのん……」


いろは「んん~? いまいち話が見えてこないんですけど、わたしで良ければ、仲直りのお手伝いをしますよ? もちろん、報酬は頂きますけどっ♪」


雪乃「この問題に一色さんまで巻き込む訳にはいかないわ。下手に首を突っ込めば、あなただってタダでは済まないわよ?」


いろは「わたしは構いませんよ、それでも」


結衣「いろはちゃん、本当に危ないよ! 今のヒッキーにいつもみたいなちょっかいを掛けたら……」


いろは「お2人共、らしくないですね。やけに弱気過ぎるんじゃないですか?」


いろは「丁度良い機会ですし、ちゃんとお話ししましょうか」


結衣「へっ?」


雪乃「話というのは、何かしら?」


いろは「そんなの、決まってるじゃないですか~! わたしと、先輩達のこれからについて、です!」


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2020-08-01 20:42:38

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