八幡「また性犯罪者呼ばわりか……」その4
八幡「また性犯罪者呼ばわりか……」その3の続き
――放課後、奉仕部部室
結衣「あたし達の……」
雪乃「これからの、話……」
いろは「はいっ♪」
雪乃「その話は、今するべき話なのかしら? 他にもっと優先すべき話があると思うのだけれど?」
いろは「今するべき話ですよ? 『わたし達』の中には、当然、あの先輩も含まれてるんですから」
雪乃「でも、比企谷君は、もう……」
結衣「いろはちゃんには、何か考えがあるの?」
いろは「考えというか、戦略ってヤツですかねー? 今日は先輩が来ないそうですし、それ以外にも色んな意味でこんな機会はもう二度とないかも、って思ったので」
雪乃「どういう意味かしら? 一色さん」
いろは「単刀直入に言いますとですねー、わたしは、先輩の事が好きなんです。頼れる先輩としてではなく、異性として」
結衣「やっぱり、かぁ……」
雪乃「あなたがここを度々訪ねてくる理由は、やはりそれだったのね?」
いろは「はい。あの先輩って、あからさまに好意を向けると絶対逃げるじゃないですかー? だから、葉山先輩や生徒会を引き合いに出して、先輩の方からわたしを好きになってもらえないかなーって」
雪乃「確かに、彼は人の好意に疎いところがあるわね。好意を向けられても、常に相手の裏を読もうとする性格のせいで、相手の気持ちを素直に受け止め切れない。彼の性格には、私も今まで散々手を焼かされたわ」
結衣「あはははは……。素直じゃない、ってところはゆきのんも人の事言えないと思うよ?」
雪乃「由比ヶ浜さんだってそうでしょう? 素直になったあなたなら、彼もきっと……いえ、何でもないわ」
結衣「ゆきのん……」
いろは「はいはい、そういうのはこの辺でストップですよ。まだわたしの話の途中ですからね?」
結衣「ごめん、いろはちゃん」
雪乃「脱線させて申し訳なかったわね。一色さん、続けて頂戴」
いろは「はい♪ えっとですねー、わたしが先輩へのアプローチを遠回しにやっていたのは、先輩が逃げるからという以外にも、もう1つ、別の理由があったんですよ」
結衣「その理由って、いろはちゃんもあたし達の気持ちに気付いてたから、だよね?」
いろは「ですですっ。わたしが好意を露にしちゃったら、お2人だって気持ちを隠したままではいられなくなりますよね?」
いろは「もしそうなってしまった場合、この奉仕部はきっと崩壊してしまう」
いろは「わたしが先輩を本気で好きになった切っ掛けは、『本物が欲しい』って言葉に心の底から共感して、自分も変わりたいって思ったからです。だから、そんな先輩が守ろうとしていた奉仕部を、わたしは壊したくなかったんです」
雪乃「……一色さんがそこまで奉仕部の事を考えてくれていたなんて、少し驚いたわ」
いろは「いえいえ。わたしにとって、奉仕部の3人は憧れの先輩方ですから♪」
いろは「だけど、ここでもしお2人が先輩の事を諦めると言うのなら、わたしも先輩へのアプローチの仕方をもっと積極的なヤツに切り替えられるかなって思うんですよねー」
結衣「!」
雪乃「あなたがさっき言っていた、私達と彼との仲直りを手伝う代わりに要求する報酬というのは、もしかして……!」
いろは「ご明察の通りですっ。先輩の事、暫く生徒会で貸し切らせてもらって、わたしと2人きりの時間をたっぷり作っちゃおうかなって考えてるんですよー♪」
結衣「ダッ、ダメだよ! ヒッキーは、奉仕部の部員だもん! でしょ、ゆきのん!」
雪乃「そうだけれど、一色さんから比企谷君個人への依頼という事であれば、仕方ないわ……」
結衣「仕方なくなんてないよ! ちゃんとヒッキーに謝って仲直りすれば、まだチャンスはあるってば!」
雪乃「でも……」
いろは「ぷぷっ♪ 雪ノ下先輩って、意外と臆病なんですね~?」
雪乃「……何か言ったかしら、一色さん?」イラッ
いろは「え~、だってそうじゃないですかー? 雪ノ下先輩が今はこれ以上動こうとしない理由って、行動を起こしたせいで先輩に余計嫌われるのが怖いからですよね~?」
いろは「先輩にはっきり拒絶されるのが、怖くて怖くて仕方ないんですよね、雪ノ下先輩は♪」
雪乃「……っ」プルプル
結衣「いろはちゃん、言い過ぎだよ! もうその辺にしときなよ……」
いろは「残念ですけど、それは出来ませんよ。前に進むのが怖い? だからそれがどうしたってんですか。舐めてるんですか?」
いろは「自分が傷付くのを怖がって前に進もうとしない臆病な人に、『本物』なんて掴める訳ないじゃないですか」
いろは「成績学年1位の雪ノ下先輩は、そんな事も分からないんですか? あの先輩とわたしより長く一緒にいたのに、今まで一体何を見てきたんですか?」
いろは「お2人が先輩と喧嘩した事情とか、わたしは全然知らないです。不用意に踏み込めば、わたしまで嫌われるかもしれないっていう先程の忠告の意味だって、未だに分からないです」
いろは「それでも、わたしは――『本物』が、欲しいんです!」
雪乃・結衣「!」
いろは「――だから、わたしは前に進みます」
いろは「大体、前に進んだせいで傷付くのは、葉山先輩にフラれた時に既に経験済みですから♪ わたしには、もう怖い物なんて何もありませんよ!」
雪乃「……」
結衣「……」
いろは「さて、とっ♪ お2人との交渉は決裂しちゃったみたいですし、仲直りのお手伝いをするお話はなかった事にしますね」
いろは「話は終わったので、わたしは帰ります。お2人が立ち止まっている間に、先輩と少しでも距離を詰めなくちゃいけませんし!」
いろは「ではでは~っ、失礼しましたっ!」ズビシッ!
雪乃「……」
結衣「……行っちゃったね、いろはちゃん」
雪乃「ええ……」
結衣「さっきのいろはちゃん、凄くカッコ良かったね、ゆきのん」
雪乃「そうね。家族以外で同性の人があんなに格好良く見えたのは、初めてだわ」
結衣「あたしは、このままヒッキーと疎遠になっちゃうのは、やっぱり嫌だな……」
雪乃「私だって、嫌よ。比企谷君は、私にとっても『本物』かもしれない人だもの」
雪乃「でも、私にはもう打つ手がないわ……」
結衣「手なら、まだあるよ。さっき、ちょっと思いついた事があるの。ゆきのんは、どうする?」
結衣「あたしに一緒についてくる? それとも――やっぱり、やめておく?」
雪乃「……私も、由比ヶ浜さんの案に乗らせてもらうわ。例えどんな結末が待ち受けているとしても、私は前に進みたい。一色さんのお陰で、そう思えたから」
雪乃「それに、このまま一色さんに比企谷君を奪われるのは癪だもの。仮に負けるのだとしても、不戦敗で負けるのは嫌よ。ここで戦わなくては、一生後悔すると思う」
雪乃「だから、話を聞かせてもらえるかしら、由比ヶ浜さん」
結衣「うんっ! 一緒に頑張ろうね、ゆきのん! 誰が勝っても、恨みっこ無しだよ!」
雪乃「ええ!」
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