2020-08-08 23:21:13 更新

前書き

八幡「また性犯罪者呼ばわりか……」その4の続き


動き出す想い


――始業前、教室


沙希「あたしに話って、何?」


結衣「実は、沙希に折り入って頼みたい事があるんだ。聞いてもらえる?」


沙希「まあ、聞くだけならいいけど」


結衣「えっとね、沙希の弟の大志くんに、会わせてもらいたいの。放課後に空いてる日があったら教えてくれないかな?」


沙希「大志に、一体何の用? あんた達の部活と関係がある話?」


結衣「奉仕部の活動と直接関係はない、かなぁ。でも、ゆきのんも同席させてもらいたいんだ」


沙希「ふーん……」


結衣「ダメ?」


沙希「その用件って、もしかして比企谷の事?」


結衣「え、何で分かったの!?」


沙希「あんたと雪ノ下が一緒に来るのにあいつだけ来なくて、しかもあんた達が会いたい相手が大志とくれば、想像はつくでしょ」


結衣「そっか、バレちゃったかー……」


沙希「大志、最近はあいつの妹と一緒に登下校しているらしいし、だけど付き合ってる訳でもないって時点で、何かあったんだって事はすぐ分かったよ」


結衣「沙希も事情は知らないんだ?」


沙希「まあね。あたしも気になったから大志に尋ねてみたんだけど、『こればっかりは教えられない』って突っぱねられたし」


結衣「って事は、大志くんは小町ちゃんの事情を知ってるんだ?」


沙希「多分。だけど、姉のあたしにも話せないような事情を、大志があんた達に話すと思うの?」


結衣「うっ、それは……」


結衣(確かに、沙希の言う通りかもしれない。大志くんは小町ちゃんの事を好きっぽいし、小町ちゃんの事情を知っているなら、絶対に隠そうとするハズ)


結衣(だけど、昨日ゆきのんが推理していた通り、小町ちゃんの方が問題だって事も確認できたし! あたしの作戦は、完全に失敗って訳でもなかったかな)


結衣「ごめん、沙希。大志くんと会わせてっていうお話、やっぱりなかった事にしてもらっていい?」


沙希「そうしてもらえると助かる。あいつも、一応受験生だから」


結衣「うん。話に付き合ってくれてありがと!」


結衣(放課後に、またゆきのんと作戦会議だね! とりあえず、今の結果だけゆきのんに連絡しとこっと)


――放課後、教室


八幡(さて、帰るか)スッ


??「せんぱーい!」


八幡(今聞き覚えのある声が……いや、気のせいだな。別に俺の名前は呼ばれてねぇし)


??「ちょっと、無視しないでくださいよ、先輩!」ガシッ!


八幡「うおっ!? いきなり腕を掴むんじゃねえよ」


いろは「先輩が無視するから悪いんですよー? もう、可愛い後輩をどうして無視したりするんですか!?」プンプン


八幡「いや別に可愛くねぇし。で、何の用だ?」


いろは「もちろん、決まってるじゃないですか! 依頼ですよ、依頼!」


八幡「暫くの間、用事で俺は奉仕部の活動を休む事にしてるんだよ」


いろは「知ってますよ。昨日、わたし奉仕部に行きましたから」


八幡「何だよ、知ってんのかよ。だったら何で俺の所に来んの?」


いろは「先輩、責任取ってくれるって、約束しましたよね?」


八幡「……悪いが、今回は無理だ。お前の依頼は受けられん」


いろは(ふむふむ。責任、って言葉を持ち出したらいつも結局引き受けてくれる先輩が、今回は頑なに依頼を断ろうとしている。確かに、これは深刻な問題があるっぽいかな?)


いろは(だったら、わたしがここで切るべきカードは――)


八幡「そういう訳だから、俺は帰るぞ。さっさと腕を離してくれ」


いろは「まだ話は終わってませんよ? 1つ、わたしから提案があるんですけどー」


いろは「先輩の用事、わたしがお手伝いしますよ!」


八幡「は? おい待て、どうしてそうなる?」


いろは「先輩の用事を早く終わらせて、わたしの依頼を受けられるようにすればいいかなって思ったんですよー」


いろは「あと、いつも先輩にはお世話になってますから。可愛い後輩からの恩返し、です♪ どうです、トキメキましたか?」ニコッ


八幡「はいはい、あざといあざとい」


いろは「む~! ちょっとくらい素直に可愛いって言ってくれてもいいじゃないですかー!?」プリプリ


八幡(相変わらず面倒くせぇ……。適当に褒めて、さっさと解放してもらうか)


八幡「一色は可愛いよ、世界一可愛い。これでいいか?」


いろは「はっ! 可愛いって褒められるのはとっても嬉しいし先輩さえ良ければ今すぐにデートしてあげてもいいですけどその前にまずはわたしに告白してきちんと恋人になってもらえますかごめんなさい!」


八幡(別に告白も何もしてねぇのにまたフラれた……。もう慣れたし、今更だからいいけど)


八幡「とりあえず、俺は帰るから。じゃあな」


いろは「待ってくださいよ、先輩! わたしも一緒に帰りますってば~!」


八幡「ん? お前まさか、俺の家について来る気か!?」


いろは「もちですよ♪ 先輩の用事のお手伝いをするって言ったじゃないですか」


八幡「駄目だ。そもそも、お前には生徒会長やサッカー部のマネージャーの仕事があるだろ」


いろは「1日休むくらいなら平気ですよ! ちゃんと事前に休むって連絡も入れてますし♪」


八幡「やけに用意がいいんだな……」


いろは「はい♪ 今日は、絶対に先輩の仕事を手伝うんだって決めてましたから!」


いろは「――先輩から見て、わたしは頼りないですか?」


八幡「いや、そんな事はない……と思う。最近は俺達の手助け無しでも、生徒会長の仕事を上手く回せてるみたいだしな」


いろは「なら、生徒会長として、生徒の悩みの解決を手伝ってあげたいっていうわたしの気持ちは、間違ってますか?」


いろは「普段からお世話になっている先輩のために何かしたい、っていうわたしの想いを、受け取ってはもらえませんか?」


八幡「それは……」


八幡(いつもふざけている癖に、何でそんなに真剣な顔をしてるんだ?)


八幡(理由は分からんが、一色は恐らく本気だ。適当にはぐらかそうとしても、こいつは絶対に諦めないだろう)


八幡(どうする? こいつをうちに連れて帰る訳には……いや)


八幡(雪ノ下達と違って、一色は小町と面識がない。面識のない女相手なら、小町も多少は自分の気持ちなどを喋れるかもな)


八幡(小町はもうすぐ受験を控えている。心が回復するまでのんびりさせてやりたい気持ちは山々だが、受験への影響を考えれば、あまり悠長にもしていられない)


八幡(雪ノ下のせいで兄の俺ですら小町に拒絶されている現状、一色に小町のケアを手伝ってもらうのもアリか。当然、事情は伏せなくちゃならんが)


いろは「先輩、駄目ですか?」


八幡「……分かった。俺の用事を手伝ってくれるか、一色?」


いろは「はいっ、もちろんですよ! この可愛い後輩にお任せあれっ!」ズビシッ!


八幡「はいはい、んじゃ行くぞ」


いろは「あっ、置いていかないでくださいよ、せんぱーいっ!」タタタッ


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