過ちから始まった戦争 前編(第9話)
今回は、全く話しません。説明ばっかりです。
(前回までのあらすじ)
優斗と茜は助けられ、どこかの施設に連れて来られた。
その後、前元帥やレ級、ヲ級と対面する。
色々とあった後、優斗は前元帥から戦争が始まった理由を聞くことになる。
深海棲艦との戦いが…。俺たち人間の所為? どういう事なんだ…?
前元帥「まだ混乱してるみたいだな…。まぁ、仕方がないか」
横に前元帥が座る。そして、言葉を続ける。
この深海棲艦との戦争を始まるに至った、人間の過ちの話を。
俺や前元帥がまだ生まれる前、国内でとある人体実験が行われていた。
その実験とは、戦争などを終わらせるための人間を生み出す実験だった。
戦争を終えるという目的に向かって、各国の科学者が力を合わせていた。ここまでは、言葉でいえば聞こえはいい。
だが、やっている事は非人道的という言葉では言い表せないレベルでしかなかった。
人を、人として見ていないような実験を毎日捨てられた子供に行い、失敗すればそのままゴミ箱行き。
成功しても、苦痛のような実験がまだ続く。生きても、死んでも地獄。
そんな実験を行っていた。
戦争を終えるという目的に向かって。
そんな中、とある人間が実験に成功した。しかも、2体。
研究者は狂喜乱舞した。ただでさえ実験成功率が低いにもかかわらずに2体も実験に成功したから当然だ。
その2体は、番号で呼ばれた。0番、1番と。
実験に成功した翌日からは、その2体は戦闘を行うための訓練を毎日のように行わされた。
腕がちぎれても、足がもげても、骨が粉々になっても、内臓がグチャグチャになってしまっても。
その2体は、戦争を終えるために高い再生機能を持ち得ていた。そのため、どうなっても回復する。
だから、どうなろうが元通りに戻る。けれども、心は治る事はない。
戦闘訓練を行えば行うほど、2体の心は暗く、病んでいった。
いくら改造しても、元は人間の子供。心には、大きな傷が刻まれ、その傷は日々日々深くなっていく。
しかし、逃げることは出来ない。大人によって監視され、管理されているから。
泣いても、実験体に異変が発生と言われ強制的に泣き止まされる。
そんな環境の所為で、1年が経つ頃には、人格を失っていた。
と、研究者は思っていた。
だが、2体は完全には感情を消失していなかった。「怒り」という感情を心の中に。
そんなある日、2体はついに行動を起こす事にした。
この1年の間で、その2体は陸上、海上どちらでも活動ができるようになった。なので、逃げ出すには問題なかった。
訓練が行われる海上に移動する際中、動いた。
身体を固定していた拘束具を腕や足を自ら引き裂く事によって、拘束から脱出。
研究者はこうなっても大丈夫なように、再生できなくなる薬剤を拘束具に塗っていた。
けれども、2体はちぎれた手足を見ても何とも思わなかった。
感情を失っていたからだ。痛みも感じずに海へと逃げ出す。
そして、この2体は海の底へと消えていった。
研究者たちは海の中をひたすら探したが、見つかる事はなかった。
2体の実験体を消失した研究者たちは、新たな実験体を生み出そうとした。だが、生み出すことは出来なかった。
それから10年経つと、この実験が明るみに出る事になり、多数の批判を浴びてこの計画は消えた。
しかし、あの2体の事は公にはされていなかった。実験施設は誰にも分からないように処分され、研究者たちは裁かれる事になった。
それと同時期の事だった。
海に、人と似た身体を持ちながら兵器と化した生物が発見された。
その生物は、人間たちを問答無用で攻撃し始めた。たった数時間で、一つの町が壊滅する程の力を持つその生物を、人間は「深海棲艦」と名付けた。
海は、深海棲艦によって完全に支配された。
海に生きる生物は、深海棲艦によって改造され、人間を襲う兵器と化した。
人間は、人間が創り出した人間兵器によって恐怖のどん底に突き落とされた。
この深海棲艦に対抗するためのモノを、人間は考えるも結論は必ず1つにしかならなかった。
「あの時創り出した人間兵器を再び創り出す」
皮肉なことにも、自分たちを苦しめる深海棲艦を倒す為に、自分たちが創り出した人間兵器である深海棲艦と同じような人間兵器を作り出さねばならない事になってしまった。
深海棲艦を生み出す原因になった研究者たちは、海で戦うことが出来る人間を造り始めた。
子供だけでなく大人も研究対象にし、陸上での戦闘能力を捨て海上での戦闘に全てを注げるような人間を造ろうとしたが、上手くいくことはなかった。
海に生きる生物の遺伝子を人間に組み込む実験を行おうにも、海に生きる生物はほとんどが深海棲艦のようにされているため、実験も出来なかった。
そこで、人外以外のモノと人間を組み合わせる事にした。ありとあらゆるモノを人間と組み合わせていくうちに、これまでの大戦で使われた船と人間を組み合わせる事によって力が発揮されることが分かった。
そして、海を守る者である「艦娘」が生まれた。
艦娘は、深海棲艦を倒す為に全力を尽くした。
国は、海を取り戻す為に艦娘を支える組織を作り出した。それが、今の「海軍」になった。
こうして、艦娘(及び人間)と深海棲艦との長い戦争が幕を開ける事になった。
ただ、研究者たちから見ると、艦娘対深海棲艦と言ってはいるが、人間が創り出した戦争を終えるための兵器と人間が創り出した兵器を止めるために作られた兵器が戦っているだけという光景としか映らなかった。
こうして、長い間戦い、死んでは新たな兵器が生まれる悲しみの連鎖は、ここから数十年に渡って始まる事になった。
戦況は、最初の頃は深海棲艦が有利だった。しかし、数年も経つと人間側が押し返し始めた。
初期の頃は艦娘がいくら頑張っても勝てなかった。艦娘が押し返し始めたのは、技術の進歩もあるが、深海棲艦の力が弱まり始めたからだ。
深海棲艦の力が弱まり始めたのは、理由があった。
最初に深海棲艦となった2体は、深海棲艦となったはいえ寿命がある。
そのため、身体の遺伝子を誰かに引き継がなければならなかった。
だが、誰かに引き継ぐにつれてその遺伝子は薄くなっていた。そして、艦娘1体で深海棲艦を倒す事は不可能では無くなるまでに至った。
弱くなっていく自分を感じながら、深海棲艦は人間と同じような感情が戻りつつあった。
始めの頃は、人間に対しての「怒り」だけだったはずが、仲間が死んだ事による「悲しみ」、人間を倒す事によって得た「喜び」など、もはや人間の持つ感情をほとんど得ていた。
感情が得るにつれ、仲間をこれ以上失いたくないという想いが芽生え始めた。
その想いは、艦娘と戦い傷つき苦しんでいる仲間を見るにつれて更に強くなっていく。
そして、戦争が始まってから約20年。
深海棲艦は行動を起こした。人間との交渉を行おうと試みた。
海から陸にあがった深海棲艦の2体は、とある鎮守府へ向かった。
陸にあがった深海棲艦2体は攻撃される事も想定していた。
だが、その鎮守府の提督らは攻撃をするどころか、話し合いに素直に応じた。
こうして、人間と深海棲艦との対話が始めて行われた。
その鎮守府の提督、深海棲艦の2体以外はまだこの頃は対話を行ったとは知らなかった。
深海棲艦との対話を行った提督はすぐに行動を起こした。
この戦争を終えるための協定を結ぶための、行動を。
その提督は、友人の提督と話し、仲間を増やした。海軍上層部と必死で話し、上層部からの理解を得た。
戦争の終結に向かって、一気に加速したかとこの時は海軍、深海棲艦の一部らは思っていた。
上手くいっていた。ここまでは。
しかし、ここで歯車は狂い始めた。
深海棲艦との対話を行った提督が、急に別の鎮守府へと異動になった。
何者かによって、異動させられる事になってしまった。
その翌日に行われた深海棲艦との対話で、別の提督は事件を起こした。
深海棲艦を攻撃したのだ。無抵抗の深海棲艦を。
戦争は、終わりに近づいたどころか、逆に悪化してしまった。
いや、これも深海棲艦を攻撃した提督の想定内だったのだろう。
この時、担当した提督は戦争に使う為の武器を製造する会社の社長の息子だった。
異動が発生したのは、この社長の圧力だった。
深海棲艦との戦争が終われば、武器は不必要になる。そうなると、会社の業績は一気に転落する事となる。
そんな下らない事を回避させるためだけに、深海棲艦との戦争を続けさせた。
何人かの研究者たちの所為で戦争が始まり、1人の人間の所為で、終わりかけた戦争が続いてしまった。
この事件を知った瞬間、対話をしていた提督は「人間とは自分勝手だ」と、しか言いようがなかった。
戦争は続いていった。深海棲艦は更に弱体化し、艦娘たちは更に強化されていく。
一方的な戦争になり始めた時、再び深海棲艦は行動を起こす事にした。
先代が果たせなかった、人間との戦争の終結。
戦争を終えるため、最初の2体の遺伝子を継いできた2体の深海棲艦は、今度は一番大きいと考えられる鎮守府へと向かった。
その鎮守府とは、元帥が勤めていた鎮守府。
先代が小さな鎮守府で交渉を行ない、攻撃されたという前例から、最初から大きな鎮守府での対話を行おうと考えたからだ。
元帥といきなり対話を求めるなんて、不可能と考えられたが、なぜか特に何も起こる事もなくすんなりと対話を行う事になった。
この時の元帥が、異動させられた提督の相談を受けた友人だったからだ。
対話は上手く進み、今度こそ戦争が終結へと向かい始めた。
だが、今度は深海棲艦側で問題が発生した。
これまで憎き人間供を滅ぼす為に戦っていたのに、急に人間と仲直りするなんて考えられない奴らがいたからだ。
こうして、深海棲艦は2つに分かれる事になった。
人と共存を目指す側と、人を滅ぼす事を目指す側。
深海棲艦のリーダー格の2人が共存を望んでいたという事もあってか、人との共存を望む深海棲艦の方が多くいた。
ただ、多くいたとは言えども全員ではない。その他の深海棲艦は、新たなグループを形成し人間を襲い始めた。
今度は、深海棲艦側の所為で戦争が終えられなくなってしまった。
この深海棲艦同士の戦いを収めるため、人間との対話はまた止まってしまった。
戦争は、またも終われなかった。
人間も、深海棲艦も戦争の終結を望んでいる者がいるのにも関わらずに。
(次回に続く)
次回、過ちから始まった戦争 後編に続きます。
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