提督と〇〇29 「提督とお正月」
提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です
注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々
長い
29回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね
ー
睦月「新年っ」
卯月「あけましてっ」
文月「おめでとーございまーす」
いえーい、どんどんぱふぱふー
如月「はぁい。それじゃあ、新年といえば?」
皐月「…初詣?」
望月「初日の出?」
弥生「書き初め?」
「姫初め…」
金剛「ぶふっ!?」
大井「誰よ、今の…」
三日月「さ、さぁ…」
如月「だれでしょうねぇ…」
菊月「長月…姫っむぐぅ」
長月「だぁぁぁっ!?言うなっ、しらんでいいからっ!?」
多摩「なんで耳年増がこうも多いのにゃ?」
北上「お年ごろなんだよぉ、あたしにも覚えはある」
木曾「年頃って、艦娘になってから数えれば大差ないだろうが…」
大鳳「姫始め…強飯の反対で、姫飯…柔らかいご飯を新年にに食べることだから、ね?」
瑞鳳「つまりそれ以外を考えた娘は…」
夕張「むっつりなおませさんっと…」
三日月「し、しってたもん…」
金剛「はっはっはっ、ちょっとした演出ってやつデスヨっ」
如月「そう、そう…振りよ、振り」
長月「だそうだ、菊月」
ゆー「くぅま…なんで、みんな顔赤いの?
球磨「ムッツリだからだクマ」
大鳳「それと提督はこっち来なさい」
提督「いやん、やさしくしてね?」
大鳳「貴方しだいね?」
ー諸々のメンバーでお送りしますー
↑後【提督とバレンタイン(2年目)」
ー食堂ー
年末、年の瀬、師走
クリスマスが終わってみれば、モミの木は門松に置き換えられ
クリスマスリースは注連縄飾りに変貌する
その流れでクリスマスの片付けをしながら
大掃除へと移行するのも珍しくはないだろう
睦月「如月ちゃん、今度はこっちだよっ」
如月「はぁい」
皐月「三日月、そっちは?」
三日月「うん、終わってる…後は…」
文月「こっちとー、あっちとー」
長月「ああ、じゃあ私がこっちをやろうか」
ゆー「あ、ゆーも お手伝いしますって…」
弥生「じゃぁ、私と文月はあっちで…」
忙しく動きまわる睦月型の姉妹たちとゆー
そんな食堂の中、その片隅
理路整然と並んでいた机を撤去し、畳を敷き詰め こたつを据える
そうしてみれば暇人ホイホイの完成だ
提督「忙しそうだなぁ…」
菊月「全くだな。やはり、私達のように常に余裕を持って優雅であるべきだな」
提督「全くだね。だからミカンちょーだい?」
菊月「うむ、任せろ」
畳の上で炬燵の中
膝の上に菊月を乗せた提督たちが見事にだらけていた
積み上がっていたミカンの山から一つ抜き取ると、ペリペリと皮を向き始める菊月
別に、彼女とて遊んでいるわけではない
「ああ、掃除は良いから、今日は司令官の相手をしてくれ…」とは、長月からの指示で
「ぁぁ、掃除をしないなら菊月と遊んでいてくれ…」とは、長月からのお願いだった
そして、長月からすればこれで両手が開くので一石二鳥のいいとこ取りだ
後は、食堂の片隅のDMZ(ダメダメな艦娘ゾーン)に押し込んでおけば
邪魔にもならないという、非常に合理的だった
三日月「ああ、もうっ、望月はそっち行っててっ」
望月「ぁいてっ、蹴るなよぉ、もぅ…」
そしてまた、DMZに押し込まれる娘が一人
三日月に蹴られたおしりを擦りながら、こたつの中に入る望月
まったく誰に似たのやら、割とすぐに手が出るんだから、困った姉だ
提督「おや、いらっしゃい望月」
望月「いやぁ、皆せわしなくてさぁ…」
菊月「全くだな。みかん、たべるか?」
望月「お、たべるたべる」
剥き終わったミカンを、すすっと差し出す菊月
そしてまた、ミカンの山から一つ引き抜くと、ぺりぺりと皮を剥き始める
「だいたい卯月がっ」
「人のせいにしようっていうのっ」
そうしていると、喧騒が近づいてきた
大井「うるさい、やかましい、お黙りなさいっ」
同時に、大井さんの一喝も耳に届く
その手には、首根っこを掴まれた卯月と瑞鳳
「ひっ」と、その声に気圧されて、小さく上がる二人の悲鳴
そうしてDMZまでやってくると、ぽいっと放り込まれた
大井「ふんっ、そこで大人しくしてなさいな」
萌えるゴミ捨てを終えると、踵を返し作業にもどっていく大井さん
瑞鳳「まったく、卯月のせいで邪魔者扱いじゃない」
卯月「うぷぷぷっ、邪魔者じゃなくて、そのものだったぴょん」
瑞鳳「あんたのせいじゃないのっ!」
卯月「同じ穴の瑞鳳って言葉習わなかったの?」
瑞鳳「ならうかぁぁっ!」
大人しくこたつに潜り込んだかと思えば、また口喧嘩を始めだす二人
良くも飽きないものだと、関心もするが
菊月「全く、落ち着かないか二人共」
ミカンでも食べろと、二人の口に放り込む菊月
「むぅ…」と、口を閉じてみれば、広がる甘酸っぱさに多少溜飲はさがったのだろう
一応は、おとなしくなる二人だった…
と思えば、炬燵の下で足を突き合ってるが、まあ良い
提督「菊ちゃん…私のミカン、まだ?」
菊月「あ、すまない…」
提督からの催促に、そう言えばそうだったと
次のミカンに取り掛かる菊月
提督「あんまり待たせると、ちゅーしちゃうぞー」
なんて、頬ずりしながら割りと棒読み気味に菊月にじゃれつく提督
頬ずりする度に、柔らかな銀糸の髪が肌をなでて、ちょっとこそばゆい
菊月「ん?したいのか?」
ならどうぞ?とでも言いたげだった
私だって ちゅーくらいはしっている
おでことか、ほっぺとかにするあれだろう?
姉妹たちや提督が良くやっているな、仲が良いのは良い事だ
司令官がしたいというなら、別にそのくらい構いやしない
提督「え?あ、いや…」
そんな菊月の反応に狼狽える提督
悪戯を真に受けられると、どーにもやりづらかった
ていうか、絶対ただの挨拶程度にしか思ってないだろコイツ
ー
長月「…」
ちゅーって、菊月にちゅーって、何を言ってるのだあいつは
朧気ながらも耳に届いた言葉に、完全に掃除の手が止まっている長月
締めあげられた雑巾がギチギチと音を立て、水分の大半を吐き出している
冗談だよな、流石に…だって菊月だぞ、そりゃ可愛いけども
まだ、ちゅーとかそんな事は早いんじゃないのか…
というか、どうせするなら私に…って、いやいやいやいや
妹にヤキモチを妬くなどと、なにをっていうか、なんだこれ…
三日月「長月?手が止まってるんだけど?」
ゆー「どうしたの?」
長月「え、あ、いや…別に、なんでも」
二人に覗きこまれて、慌てて掃除を再開する長月
その内心は、赤面しそうになる顔を抑えるのに精一杯だったりする
ー
球磨「大掃除だクマーっ、球磨も頑張るクマーっ…お?」
なんてやっていると
ガラッと勢い良く、威勢のいい言葉と一緒に球磨が食堂にやってくる
球磨「ふぅ…」
提督「おい、掃除はどうした?」
かと思えば、一直線にDMZに転がりこむ球磨ちゃん
球磨「くっくっくっ、掃除をしたと思った時には既に完了しているクマ」
球磨型とはそういうものだクマーとかなんとか
どこからか「ないない…」っと、北上様のツッコミが聞こえたきた気もする
菊月「はははっ、流石だな球磨は。ミカン、食べるか?」
球磨「頂くクマ」
慎ましやかな胸を張る球磨ちゃんに、そっそっとミカンを差し出す菊月
提督「きーくーづーきーっ、みーかーんー」
いい加減しびれを切らしたのか菊月を揺さぶりだす提督
菊月「あ、すまない…」
そそくさと、ミカンを剥く作業に戻る菊月
瑞鳳「自分でやりなさいよ、もう…」
卯月「まったく、司令官はお子ちゃまだぴょーん」
瑞鳳「そのものが何いってんだか…」
卯月「ぷぷっ。そうやってすぐ うーちゃんの真似をするぴょん」
ま、お子ちゃまだから仕方ないぴょんっと、瑞鳳の顔を覗きこむ卯月
その顔は誰もが「うざい」と言えそうなほどだった
「こんのっ、ばかうさぎーっ」
「ぷっぷくぷー」
多摩「にゃぁ…」
全く騒がしいにゃ、仕方ないから多摩は隅っこで寝るのにゃ
そう、忙しそうな皆の邪魔をしないことに多摩は幸せを感じるのにゃ
形成されたDMZ。いの一番に潜り込んでいたのは多摩だった
ー
夕張「ほーら、年越しそば、出来たわよーって…アンタ達ねぇ」
そうして、掃除が終わってみれば年越しそばの出番となる…が
炬燵の上は、黄色で埋まっていた
見渡す限りに、皮、皮、皮…
大鳳「・・・第2次攻撃必要かしらね?」
まったくもぅっと微笑む大鳳
卯月「瑞鳳がっ」
瑞鳳「人のせいにしないでよっ」
菊月「ほら、司令官…ミカンだ」
提督「あーん…あ、うめぇ」
大鳳「…」
まったくもぅっと微笑んでいた大鳳だったが
かしゃりと、ボウガンを取り出し構えをとり、そうして
大鳳「片付けなさい、いますぐ、ね?」
ほんとにもぅっと微笑む大鳳
笑顔ちゃっ笑顔だが、構えられたボウガンがその内心を示していた
大鳳「それと球磨さん、どこへ行こうと言うの?」
球磨「ちっ…」
抜き足差し足、忍び足と出る前に大鳳に首根っこを掴まれる球磨ちゃんだった
北上「いやぁ…普段怒らない人が怒ると…」
金剛「迫力ありますねぇ…」
これが大井だったら、もう少しゴタゴタしていただろうに
大鳳の一声で慌てて、ミカンの皮の山を片付けだす暇人たち
北上「あぁ、集めた皮は北上さんにおくれよ。マーマレードにするからさ」
集めた皮はスタッフがおいしくいただきましたってやつである
ー
大鳳の監視のもと炬燵の上を片付け終えると
ようやっと年越しそばの時間となる
ちょっと柑橘類の匂いが漂っているが、まあ良いだろう
これ以上は麺が伸びる
そうして ずるずると麺を啜る音が合唱の様に響く
その間に紛れて、付けっぱなしにしていたTVの音が混じる
この時期だと特番とか特番とか特番だろうか、後はそう
青葉「続きまして。誰が呼んだか一航戦の急に歌う方、加賀さーん」
テレビの向こう、やたらテンションの高い重巡洋艦に招かれて
折り目正しく、堂々と、登場したのは一航戦の加賀だった
青葉「ではでは、加賀さん意気込みなんかはどうですか?」
加賀「たとえ年末の余興であろうと妥協はありません。赤組の勝利、ここは譲れません」
青葉「おおっ。青葉、一航戦の誇り見ちゃいましたよっ。それでは参りましょう」
普段は洋上で部隊を率いていますが、今夜は歌謡が舞台です
百万石の想いは会場に届くのでしょうかっ、加賀岬どうぞぉっ
デデンっ♪
夕張「広報任務とはいえ…よくやるわ、あの人」
ゆー「でも、とっても上手…」
その感想はだれもが頷く所ではあった
加賀「やりました…」
青葉「はーい。加賀さん、どうもです。ありがとうございましたー」
なにかやり遂げた感じの加賀が、舞台から降りていく
青葉「それでは次の方っ、白組からっ、〇〇鎮守府よりっ木曾さんでーす」
「ぶはっ!?」
その日その時その瞬間、その場にいた大体の娘が蕎麦を吐きかけた
「けほっけほっ…」と、咳き込む音もそれに続く
球磨「あのバカ…いないと思えば、何をやってやがるクマ」
その言葉は、この場にいた娘たちの大体の総意でもあった
北上「あ、そいやぁ…昼過ぎに大和さんが来てさぁ…」
「コレ、借りてきますね」とか言って拉致っていったとかなんとか
大井「もっと早く言いなさいな…」
北上「てへ♪」
多摩「可愛い娘ぶって誤魔化してんじゃないニャ…」
そうして始まる木曾さんの熱唱
やぶれかぶれというか、やるとなれば割と本気を出す木曾さんだった
結果のほどは、まぁ、そうねぇ…
ー鎮守府・裏口ー
木曾「うへぇ…」
深夜。ようやく開放されたと思えば、帰ってこれたのはこんな時間
正直、疲れたのもあるが…何より、姉たちに合うのがアレだった
しかし、こっそり入った所で明日になれば嫌でも顔を合わせる事になる
どうやったって詰みだ、せめてTV見てませんようにと祈るしか無い
大井「…体、冷やすわよ?」
木曾「うっ、大井、か…」
木曾さんが一人頭を抱えていると、頭上から声を掛けられる
顔を上げてみれば、呆れたような諦めたような大井の顔
木曾「…見た、か?」
大井「ええ」
木曾「そうかぁ…そうかぁぁぁ」
またまた頭を抱えだす木曾さん
大井「ま、良かったんじゃないの?」
加賀さんの後でなければ、ワンチャンは合ったかもしれない
木曾「…からかわないのかよ?」
大井「はぁ…。貴女を笑いに来た、そう言えば気が済む?」
木曾「あ、いや、べつに…そういう訳じゃねぇけどよ」
意外ではあった
大なり小なり からかわれるであろうと構えていたが
労われるとは、しかも大井から…
大井「いいから入りなさい。あんたの分の蕎麦、残ってるんだから」
「片付かないでしょ」と、ぶっきらぼうに言うと背を向けて中に戻る大井さん
木曾「ん…ありがとよ」
大井「はいはい」
そんな背中に、ぶっきらぼうに投げかけられるお礼の言葉だった
ー食堂ー
年が明け1月1日、元旦でありお正月
寒々とした冬の空気に混ざって、どこか浮ついた感じのする時期だ
どこもかしこも紅白で染められ、まるで改装前の瑞鳳の様
季節としては確かにそうなのだけれど
食堂のその一角だけは、そんなものお構いなしに弛緩していた
敷き詰められた畳と炬燵
その中に銘々に足を突っ込んで、机に突っ伏したり、畳に転がったりと だらしないの絵になっていた
多摩「にゃぁ…」
北上「…」
木曾「…」
提督「…」
丸くなっている多摩が あくびを零す
けれどそれっきり…音らしい音は無意味についてるTV位ものだろう
北上「…」
どてらを羽織っている北上様
ちゃぶ台の上には無残に散らかった みかんの皮の山
残った最後の一房を啄み、ちゅーちゅーと吸血鬼よろしく中身を吸い上げた所で
からっからになった薄皮を じゅるりと吸い込む。行儀の悪い事この上ない
木曾「…」
頬杖を付いて、呆けている木曾
焦点の合わない瞳からは力が抜けて、重くなった瞼が降りてくる
やがて、カクっと木曾の頭が落ちる
慌てて、体勢をたて直すも、だんだんとその頻度は増えていった
船頭に、先導されて、船を漕ぎだす木曾
昨夜寝るのが遅かった、なんて理由もあるし
それに重ねて炬燵の温もりが、灯台の灯りのように木曾を眠りへと誘っていた
かくっと…木曾が寝落ちするのに、そうそう時間はかからなかった
提督「…」
珍しく、執務室ではなく食堂で転がっている提督
抱きつく相手もいない上に、こたつが置かれてるわけでもないので
暖をとるとなれば、自然とこの一角に吸い寄せられていた
だからといって、何が変わるわけでもない
結局は寝っ転がってるだけなのだ、それが新年であっても変わらない
自分でやらないでいい事は まずやらないし、明日でも良い事はやらんでも良い事だ
そう断じてしまえば、世の中大してやることなんか残らない
それが新年であれば尚の事
1月1日、お正月であり元旦
半分は初詣に、もう半分は野暮用に
そんな感じに、人気の少なくなった鎮守府は一段とだらけていた
ー
北上「…ん?」
口寂しくなって、山と積まれた みかんに手を伸ばすも
いい加減 皮を向くのも面倒になってきて、手元で転がして遊んでいた北上様
不意に足を突っつかれて、顔を上げる
犯人は誰だ…当てずっぽうでも、答えは3分の1ではあるが…
北上「…ふふん」
まあ、良いでしょう
付き合ってさし上げましょう、突っつきあって差し上げましょう
手持ち無沙汰なのは こちらもそうだし
何より、こたつ戦争のプロと呼ばれた北上様を舐めてはいけない
提督「…お」
こたつに足を突っ込み、畳の上に転がっていた提督
そうしていると、こたつの中で足先が突つかれた
また、しょうもない悪戯を…だがしかし、まあいいかと
どうせやることもないのだから、突っ付きあおうか
見た目通りなら、先ほどと変わらない静かな食堂
しかしその水面下、というより ちゃぶ台の下では、静かな攻防が繰り広げられていた
カンフー映画を思い浮かべれば良いのだろうか
突き出しては、受け流し、受け流しては突き返す
それは綺麗な殺陣の様であった
無言のまま、何食わぬ顔で繰り広げられる攻防
どうなれば負け、なんて明確なルールは無い
そうである以上、相手の根気を折るしか無いかと
長期戦の様相を呈し始める
多摩「…」
正直鬱陶しい、さっきから二人して多摩の足を突かないで欲しい
多少なら多摩だって海よりも広い心を持ってスルーもするが、その範疇は等に超えていた
こたつ神である所の多摩の前で、こたつ戦争をはじめようなどと身の程を知るが良いにゃ
ガタッと、ちゃぶ台が揺れ、積み上げられていた みかんの皮がバランスを崩して散らばる
木曾「っ!?なっなんだっ」
急に足を突かれて飛び起きる木曾
完全にとばっちりだった
大井「…なにやってんのよ」
調理場からお盆を抱えて戻って見ればこれだった
何を、といっても妹がオチを担当しているのだから、日常ではあるのだけれど
北上「おかえりー、大井っち」
大井「ただいま北上さん、そのみかんは…」
畳に上がると抱えていたお盆から、急須とお茶碗を配り始める大井さん、実に甲斐甲斐しい
そうしていると、どうしても目に入るみかんの皮の山
お茶を淹れに下がった時よりも確実に増えていた
北上「これかい?これを積み上げると、今年一年無事に過ごせるっていう…」
大井「散らばってるじゃない…」
北上「だぁねぇ…」
その後、みかんの皮は昨日の分も合わせて北上様がマーマレードにしました
ー海上ー
新年だからといって、鎮守府の仕事がゼロになる訳じゃない
深海棲艦はこちらの都合に関係なく湧いて出るし
船の往来だって無くなるわけでもない以上、海上護衛の必要はどうしたって出てくる
まったく、年明けから忙しないとは思うけども
年明けだからこそ忙しくなる所もあるのも事実
神社だってそうだし、現在進行形で護衛中の間宮さんだってそうだろう
間宮「新年早々お手間を取らせまして…」
そう言って、軽く頭を下げる間宮さん
金剛「もーんだーい、なっしんぐー♪」
そんな間宮さんに笑顔で返す金剛
間宮さんだって、今しがた別の鎮守府に行ってきたばかりである
むしろ、こっちがお疲れ様ですと言いたい程
睦月「うんっ、全然気にすることなんか無いよっ、だから早く行こっ♪」
もう待ちきれないといった様子で、間宮さんの周りを くるくる回っている睦月
それはだってそうだろう、次は自分たちの番なのだから
年明け早々間宮さんの料理が食べられる、それはとっても嬉しいなって
三日月「もぅ、はしゃいじゃって…」
正直言えばちょっと恥ずかしい
いつもの事とはいえ、一応は護衛中なのに…
如月「そうは言うけど、三日月だってそわそわしてるじゃない?」
三日月「え?私は、別に…」
それはだって、間宮さんのと言われれば楽しみだけども
そんなに はしゃいで見えたのだろうか
如月「三日月って、嘘をつくと耳がピクピク動くのよね…」
三日月「え、うそ…」
慌てて自分の耳を抑えてみるけども…
如月「うん、うそ♪」
三日月「…」
いたずらっぽく笑う姉の表情が目に入っただけだった
三日月「むぅ…」
何もは言わないが
唇を尖らせてジト目になってるあたり抗議してるのは明白だった
如月「うふふ。怒らない怒らない、ほら行きましょう?」
三日月「ちょっ、ちょっと押さないでって」
むくれる妹の背中を押して、睦月たちの方へと向かう如月
その表情は、どことなく楽しげで
なんだかんだ言っても、如月自身も楽しみにしているようであった
皐月「うん…」
如月「…ん」
そうやって、三日月の背中を押していく如月に視線を送る皐月
返って来た視線を受けて、軽く頷いてみせる
皐月「望月…」
望月「こーゆーのは弥生の仕事何だけどなぁ」
皐月「ぼやかないぼやかない」
ソナーにひっそりと映る潜水艦の影
溢れる愚痴とは対照的に、その手には爆雷が握られている
皐月「って、それボクのっ」
望月「どっちだって、同じだろって」
皐月の艤装から爆雷を引っこ抜くと、適当に当たりをつけて放り投げる
爆雷が波紋を立てて海に落ちる…3・2・1…遅れての爆発
望月「ちっ、弥生みたいにはいかねーか」
外しはしてないだろうが、沈んでもないな、評価としてはそんな所
このまま逃げてくれれば御の字ではあるのだけれど
望月「んで?」
皐月「逃がすわけ無いじゃん?」
望月「だよな」
頷きあう二人。潜水艦殺すべし、慈悲はない
それは、駆逐艦娘の常識の筈、多分
「せーのっ」
タイミングを合わせて、再度爆雷を放り投げる二人
放物線描き飛んで行く爆雷が、1つ2つと波間に消えていく
3・2・1…
「よしっ」
声を揃えて二人でハイタッチ
金剛「片付きましたか?」
皐月「あれ、金剛さん。皆と先に行かなかったのかい?」
金剛「皐月たちを置いてはいけませんからネっ」
「それでは、急いで戻るヨっ」
なんて言いながら、二人の手をぎゅっと握る
望月「急ぐたって、金剛のが足遅いじゃねーかよぉ」
それはそう、いくら金剛が高速戦艦と言ったって
駆逐艦より足が速いわけもなく
金剛「ふふーん。no problemネ」
どこから湧いてきたのか、自信満々に胸を張る金剛
「?」と首を傾げる姉と妹
そんな二人の手をぎゅっと握り直し
金剛「撃ちますっFire!」
そう宣言した
望月「ちょっ!?おまっ」
皐月「金剛さんっ!?」
砲塔を後ろに向けて、46cm砲を発射する金剛
それと同時に、缶とタービンを全力で回し、ロケットのように加速した
いや、加速というか半ば吹っ飛んでるようにも見えるけど
波を蹴散らし、疾走する金剛に引きづられていく二人
その後を、可愛らしい悲鳴が付いて行った
ーその辺の神社ー
見渡す限り、人・人・人
それは、人の波と言っても良いし、ゴミの様だとも、一山幾らとでも言えるほどに
まぁ、元旦の神社なんて否が応でもこうもなる、大きめの神社ともなれば尚更だろう
それ自体は別に良い
それも合わせて、出店を冷やかしながらお祭り気分を楽しみに来たのだから
そうだとしても、その人混みの中で大鳳が少々困っていた
大鳳「ん…」
一言で言えば迷子
さっきまで一緒だった ゆーの姿が見当たらない
失敗したな。しっかり手を握っておけばよかったか
なんて後悔をしつつ、軽くあたりを見回してみるも、人・人・人…
そんな中で人探し、しかも小柄な ゆーの姿を追うとなると…
う。ーりーを探せをリアルでするようなものか…いや、答えがある分あっちのがマシだろう
文月「たーいほうさんっ♪」
大鳳「おっと…」
ぬっと、人混みの中から顔を見せた文月が、大鳳に抱きつく
大鳳「みつかって…は、いないようね」
文月「うん、近くにはいなかったねぇ」
ちょっと辺りを探してくるねーっと、いって戻ってきた文月だったが
手ぶらな所を見ると収穫はなかったらしい
大鳳「となると…」
文月「とりあえずー…あっちかな?」
文月が指差す先は、ちょうど集合場所の社務所のある方角
それなら、探しながら歩いていけば、その内見つかるだろうか
大鳳「行きましょうか」
そう言って、ぎゅっと文月の手を握る大鳳
文月「はーい♪」
その手をしっかりと握り返すと
はぐれないように手を繋いだ二人が、人混みに溶けていった
ー
ゆー「んー…困りました」
口に出してはみるものの、実際にはそれ以上には困っていた
知らない場所で、知らない人だらけの中に一人きり
誰かに道を聞こうにも、内気な彼女にはそれさえも厳しい状況だった
ゆー「たいほう…ふみづき…」
助けを求めるようにポツリと呟く…
同時に、熱くなる目頭と一緒に何かが込み上げてくる
我慢しないと、しなきゃいけない、こんな所で泣いたら…
ゆー「っく…」
そうおもってはいても、だんだんと抑えが効かなくなり
ついには、口の隙間から小さな嗚咽が溢れだす
「ゆー?」
ゆー「っ!?」
不意に、後ろから名前を呼ばれて弾かれる様に振り返る
ゆー「たいほうっ…じゃないやつ、ですっ…て、マックス、レーベ…」
目尻に溜まりだした涙を払い、ぱっと笑顔になったかと思えば
あてが外れたのに気づき、しゅっと落ち込んだ後
「あけましておめでとう…」って、ぺこりと頭を下げるゆー
レーベ「ああ、おめでとう ゆー。大鳳さんがどうかしたのかい?」
久しぶりに合った郷友
マックスと同じか、それ以上に表情の変わらない娘では合ったけど
今しがたの笑顔からの急降下は中々に新鮮な反応ではあった
それ自体は微笑ましかったのだが…
なんか口が悪くなってきてるようなと、一抹の不安を覚えなくもない
マックス「はぐれたの?」
ゆー「ん…たいほうが、迷子さん、です…」
ぐしぐしと目を擦り、涙をなかった事にして頷くゆー
そもそも、気づいたら居なかったのだから、はぐれたのは大鳳だと言えなくもないが
その内心は郷友に対するちょっとした見栄だったりもする
マックス「ふぅん、そう…」
すっと、ゆーを見つめていたマックスの目が細くなる
「はぐれたのは、貴女じゃないの?」と、言いたくもあったが
それよりも、そういう見栄の張り方を覚えたのが意外というか、なんというか
鬼怒「おーい。マックス、レーベ、勝手に先に言っちゃダメでしょ」
「はぐれたらどーすんの」と、パタパタと鬼怒が駆け寄ってくる
マックス「別に…はぐれたのは貴女じゃないの?」
なんて、用意した言葉の矛先を変えるマックス
実際、2対1なのだ。どっちがはぐれたかと言われれば?
鬼怒「え、鬼怒が悪いのっ」
勝手に先に行っちゃったのそっちじゃんっと、鬼怒の目線からしたらそんな所
鬼怒「って、およ?ゆーちゃんじゃん、やっほー」
ゆー「ん…きぬ、お久しぶりですって」
小さく手を振る鬼怒に、ペコリと頭を下げる ゆー
鬼怒「ひとりかい?あ、もしかして迷…」
ゆー「迷子じゃありません」
鬼怒が最後まで言い切る前に、ぴしゃっと否定してくる
ゆー「迷子じゃありませんから」
しかも2回言われた
鬼怒「え、あ、そう…」
ちょっと からかうつもりだったのが
思いの外強めに否定されて、ちょっと面食らっている鬼怒だった
マックス「すこし、変わったわね」
レーベ「だね。明るくなったかな?」
レーベの返答に小さく頷くマックス
朱に交われば何とやら…日本にはそんな言葉があったかと
ー
菊月「ぁ…」
長月「?」
行き交う人波の中、はぐれないように手を繋いでいた二人
不意に足を止めた菊月につられて、長月もその足を止める
何かと思い、菊月の視線を追ってみれば
香ばしい匂いを漂わせて、くるくると回る綿菓子の機械が目に入った
長月「食べるか?」
菊月「いや、別に…」
綿菓子なんて ふわふわしたもの、女子供の食べ物だろう、と
張り付いていた視線を強引に引き剥がすと、さっさと先に進もうとする菊月
長月「まぁ、まて…」
菊月「?」
長月が菊月手を引き、その場に押しとどめる
食べたいものを食べたいと言わないのが、大人なわけ無いだろう
なんて思いはするものの、口にして変に意固地になられても困るしなっと
そうして屋台の人から綿菓子を受け取ると
長月「ほら?」
菊月「いや、私は…」
長月「私が食べたいんだ」
流石に全部は多いからな、半分食べてくれ
などと適当に理由をつけて、6:4くらいに千切って菊月に差し出す
菊月「そう、か…じゃあ、仕方ないな」
長月「そうだ、仕方ないな」
二人して、仕方ない仕方ないと口にしながら綿菓子を食べ始める
文月「それじゃあ、あたしにもちょーだいっと♪」
菊月「ぁ」
声が聞こえたかと思えば
ぬっと、人波から伸びてきた手が、菊月の綿菓子を半分くらい千切っていった
文月「はい、大鳳さんの分」
大鳳「あら、ありがとう」
千切った半分を更に半分にして大鳳に手渡す
それを受け取り口に運ぶと、綿菓子の残った指先をちろりと舐める
長月「文月、大鳳も…ゆーはどうした?」
大鳳「それが、はぐれちゃって…見なかったかしら?」
長月「いや…集合場所には?」
大鳳「今から、ね」
長月「私達も探そうか?」
大鳳「ありがとう。でも…この人波じゃね…」
長月「まぁ、それは…」
なんとなく行き交う人に視線を投げる二人
流石にこの中から、女の子一人を探しだすというのは
大鳳「とりあえず社務所の人に言って、呼び出してもらおうかなって」
長月「それが良いな。見つけたら捕まえて置くよ」
大鳳「お願いね」
そんな感じに頷き合う二人の隣で
文月「ねぇ、菊ちゃん菊ちゃん。もうちょっとちょーだい?」
菊月「やだ」
文月「えー、要らないんでしょ?」
菊月「でもやだ」
にこにこと笑う文月から綿菓子を庇うように背中を向ける菊月
大鳳「文月。それぐらいにして先に行くわよ?」
文月「はーい」
大鳳「それと菊月。食べたいものは、ちゃんと食べたいって言う方がカッコイイと思うわ?」
それじゃ後でねっと、人波に消えていく文月と大鳳
その背中を見送る二人
菊月「…」
長月「食べるか?」
菊月「うん」
再び問いかける長月に、今度は素直に頷く菊月だった
ー鎮守府・食堂ー
一方、食堂では相も変わらず こたつでだらけている面々
提督「そいや北上様は初詣、いかないの?」
こたつに入り、机に突っ伏しながら、ふと思いついたことを口にする
流石に全員で鎮守府を開けるわけにもいかないが
だからと言っても、ここでだらけてる面々がお出かけする分くらいには余裕はある
北上「北上様は寒いの苦手なんだよぉ…ぉぉ、さむさむ」
わざとらしく体を震わせて、こたつに入り直す北上様
提督「ま、そうだなぁ…」
なんとなく、窓の外に目を向ける
雪こそ降ってはいないものの、1月の気温ともなれば温かい筈もなく
時折吹く北風が、枯れ枝を揺らしている
提督「大井さんは?」
大井「北上さんがいかないなら、別に?」
それに、皐月達も外に出ているのだ
だったら提督の面倒は誰が見るのかって話になるが
口にしたら調子に乗りそうなので、そこは黙っておく
提督「平常運転だねぇ…愛されてるねぇ、北上様」
北上「ふっふっふっ。羨ましいかね?」
提督と同じように、ちゃぶ台に突っ伏している北上様からドヤ顔が返って来た
提督「いいもんっ、提督には木曾さんがいるから」
木曾「んぁ?なんで俺なんだよ…」
じりじりと側に寄ってくる提督を、眠そうな目で迎える木曾さん
提督「いいじゃん。あ、今度カラオケ行こうぜ、カラオケ」
木曾「…」
その時、年末の歌合戦の光景がフラッシュバックしていた
全国のお茶の間で…
初詣にいかない理由の大半がコレだった、あんまり外に出たくない
木曾「今度な、今度…」
少なくとも、正月気分が過ぎ去るまでは
北上「お、デートかよ。妬けるねぇ」
にまにまと、だらけた笑顔の北上様
提督「そうっ、中学生みたいにカラオケボックスではしゃぐのだ」
そんで、彼女と密室で二人っきりなことに気づいて
妙にドキマギした後、どちらからともなく体をよせて…
提督「みたいな?」
大井「エ◯本の読みすぎ」
提督「なはははは。そうやって、ばっさり切り捨ててくれる大井さんが好き」
大井「言ってなさいな」
木曾「…」
下らないことで笑っている提督
その隣で、木曾さんの頬がちょっと赤くなっていた
多摩「提督、多摩には聞いてくれないのかにゃ?」
提督「ん?」
この手の会話に入ってくるなんて珍しい
猫の気まぐれか、数少ない多摩ルートに入るための分岐フラグの一つなのか
提督「でもお前、こたつで丸くなってる方が好きだろ?」
多摩「にゃしししし、ちがいにゃい」
そういって、再び丸くなって寝息を立て始める多摩だった
ーその辺の神社ー
神社の拝殿、桜色の髪をぴょんぴょんっと揺らしながら
石段を登ったその先で、賽銭箱に5円を放り、鈴を鳴らして2礼2拍1礼と
割と礼儀正しく、卯月が初詣をしていた
卯月「おっまたっせぴょんっ」
参拝を終え、くるっと回って石段からぴょんっと飛び降りると
そのまま下で待っていた弥生に飛びついた
弥生「んっと…あぶないよ?」
飛びついてきた卯月を受け止め
その場でくるっと回る頃には卯月の足が地面に降りる
一応はと、窘めてみるものの「ごめんぴょーん」なんて、余り聞く気は無いようだ
まぁ、いつものことである
弥生「それで?卯月は何をお願いしたの?」
卯月「ん?うーちゃんはねぇ…」
その後ろ、卯月に続いて石段から降りてきた瑞鳳
その手がすぅっと持ち上がる、その次に口を開いたらいつでもスパンっといけるように
夕張「まぁまぁ、せめて最期まで聞きなさいよ」
瑞鳳「けど…」
夕張が持ち上がった瑞鳳の手を抑える
気持ちは分かるが、何も新年早々喧嘩する事もないだろうと
それにまだ「瑞鳳のお胸が大きくなりますように」とか、言い出すと決まったわけでもない
卯月「今年もいっぱい瑞鳳と遊べますようにって」
抱きついていた弥生から離れ、後ろの瑞鳳に振り返ると
にへっと、照れくさそうに笑ってみせた
瑞鳳「…へ?」
瑞鳳の口から間の抜けた声が上がると、その動きが止まる
なにぶん予想外の事態だ、新年早々追いかけっこか口喧嘩か
その辺りを期待…もとい、予想していたのに
そんな嬉しそうに、そんな事を言われてしまったら…
夕張「ふふっ」
瑞鳳「なによ?」
夕張「べっつに~…その手をどうするのかなーって?」
瑞鳳の様子を眺めていた夕張が、思わず笑みを溢す
口を尖らせた瑞鳳に軽く睨まれながらも、掴んでいた手を離した
卯月「瑞鳳?」
瑞鳳「え、えーっと…その…」
手を上げたままの変な形で固まっている瑞鳳を、不思議そうな顔して見上げる卯月
見上げてくる桜色の瞳と しばし見つめ合う
瑞鳳「…まぁ、今年もよろしく、ね」
手が降りる
後頭部をすっぱ叩こうとしていた手は卯月の頭の上へ
卯月「ぴょんっ♪」
わしゃわしゃと雑に撫ぜてみれば
くすぐったそうにしながらも嬉しそうに目を細める
弥生「うん…良い、実に良い」
君に良いし、私に良い
そんな二人の様子を、なにやら満足そうに眺める弥生さん
夕張「…」
意外、でもないか、今ともなれば…
最初合った時の弥生の印象からすれば、意外どころか別人かと思う程だけど
弥生「ん?夕張さん?」
視線を感じて顔を上げる弥生
夕張「ああ、ううん。なんでも」
弥生「そう?」
夕張「まあ、あれよ。弥生は何をお願いしたのかなーって?」
弥生「私?私は…」
と、ここで一思案
今年も皆と無事に過ごせますように、言ってしまえばその程度
けど、それが一番大事なことだとも思う
とはいえ、わざわざ口に出すような事でもないし
それに何より、やっぱりやっとかないといけないと思う
弥生「夕張さんのお胸が大きくなりますように、とか?」
夕張「あははは…」
そういうのは瑞鳳の仕事だと思ってたんだけどなぁ…
どうやら、今回の矛先はコチラらしい
弥生「それで、夕張さんは何をお願いしたの?」
夕張「私はねー…弥生の頭が良くなりますようにって」
弥生「…」
なるほど、そう返すのか
遠回しにバカと言われてしまった
しかし、そこで頭に血が上る弥生じゃないよ
追い詰めます、任せてっ
弥生「夕張さん、ここは学業成就の神様じゃないよ?」
夕張「豊胸のご利益も無いけどね…」
弥生「そんな…神頼みでも無理だなんて…」
何か察した様に、瞳を伏せてさめざめて嘘泣きを始める弥生さん
夕張「やかましいわっ」
すぱんっと夕張の手が弥生の頭をはたく
弥生「いたい…バカになったらどうするの?」
夕張「手遅れでしょ?」
神頼みでも無理そうなほどには
瑞鳳「あんたら、新年早々何喧嘩してんのよ?」
卯月「弥生も夕張も遊んでないで早く行くぴょんっ」
瑞鳳の手を引いて、あるいは卯月に手をひかれて
屋台街に向かっていく卯月達
弥生「…」
夕張「…」
しばしの沈黙
弥生「ねぇ、夕張さん?」
夕張「んー?」
弥生「せーのっ」
「お前が言うな」
瞬間、心が重なった
ー
文月「大鳳さん…あれ…」
大鳳「どうしたの?」
文月の指差す先、元旦のイベント会場とでも言えそうなその場所に
【新春羽根つき大会】なんて、のぼりが上がっていた
大鳳「やりたいの?」
そうは言っても、流石に一般人と艦娘じゃ勝負にならない気もするし
帰ってから一緒に遊ぶのも良いだろうか
文月「ううん、そうじゃなくてー。ほら、あそこあそこ」
大鳳「?」
羽根つきがしたいわけでもない、けども指差す先は変わらない
改めて会場を見回してみる
イベントは現在進行形で進んでいるようだ、ただの羽根つきと言っても中々に盛り上がっているようにも思える
そして、その試合の様子に目がいくと同時に、頭を抱えることとなった
大鳳「うわぁ…」
文月「ねぇ、どうしようか?」
どうもこうも…なんで一般参加のイベントに艦娘が参加してるのか
子どもとボクサーじゃ喧嘩にもならないってのに、大人げないにも程がある
かと思えば、相手の方にも見覚えが合ったりするものだから始末が悪い
大鳳「仕方ない、か。文月、ちょっと手伝って?」
文月「はーい」
一体どれほど打ち合っているのか、試合の様相は白熱化していた
羽根つきのプロ試合という意味では、見世物としては上等とも思うけど
実際、周囲の盛り上がりも、スポーツ観戦のそれに等しいものがあった
球磨「また長良かっ、面倒な奴だクマっ!」
スパーンっと、素っ頓狂な音を上げて羽が打ち出される
長良「あんたは私が倒すわっ、今日っここでっ」
ステーンっと、頓珍漢な音を上げて羽が打ち返される
球磨「出来もしないで、声だけは大きいクマっ」
長良「弱いやつほどよく吠えるって言うしねっ」
最初はハンドガンの応射程度だった打ち合いは
次第にマシンガンの掃射にかわり
仕舞にはショットガンの接射の様になっていた
もはやアニメやマンガの領域に差し掛かる程の羽根つきの応酬
ギリギリ現実に繋ぎ止めているのは、羽や羽子板の耐久度を気にしてる結果だろう
球磨「くまくまくまくまくまっ!!」
長良「ウラウラウラウラっ!!」
「すげー…ていうか、羽根つきってこんな遊びだったけ?」
とは誰が言い出したのか、スポーツ観戦を通り越して大道芸の観衆に移行しつつある観客
長良「これでフィニッシュっ!」
球磨「なわけないクマぁぁぁっ!」
大きく振りかぶる長良、それに応じようと球磨が構える
「そこまでっ」
そんな声と共に、カンコンと随分と間の抜けた音が会場に響く
球磨と長良、睨み合う二人の間に差し込まれる別の羽子板
同時に長良が羽を打ち出すと
差し込まれた羽子板にぶつかり、一も二もなく長良の額めがけて跳ね返ってくる
そして、長良の額から跳ね返った羽を、返す羽子板で球磨の額めがけて打ち出した
長良「あいたっ」
球磨「クマっ」
仲良く額を抑えてうずくまる二人
大鳳「貴女達は、こんな所にきてまで喧嘩して…」
球磨「仕方ないクマ、クマの本能が疼くんだクマ、長良を倒せって」
長良「そうよ、私のゴーストが囁くんだからしょうが無いじゃない」
大鳳「はぁ…」
ふかーく、溜息をつく大鳳
さっさと成仏しろとか思わなくもない
大鳳「文月、後お願い」
文月「まっかせてー」
長良「あ、ちょっやめなさいって」
球磨「くまぁっ」
右手に筆を、左手に墨の入った小鉢を持った文月
大鳳の合図に合わせて、さっさと球磨と長良の間を走り抜ける
その様はまるで、おとぎ話のかまいたちの様だった
ただし、塗ったくっているのは血止めの薬じゃなくて、ただの墨だけど
文月「ふたりともバッテンだから今日はおしまいだね」
頬に刻まれたのは、X印、敗者の刻印
球磨「たかがバッテン書かれたくらいでっ」
長良「止まるわけないじゃないっ」
文月「そっかぁ…」
小鉢に筆をツッコミ、タプタプとたっぷり墨を含ませる
文月「服に墨がつくと落ちないんだよねぇ…ねー?」
にはっと笑顔で微笑み、小首を傾げてみせる文月
それは暗に、それ以上騒ぐなら服に落書きするよって、墨で、と、脅していた
「うっ…」
一瞬だけ二人の動きが固まる
新年早々、服を汚して帰ったら…しかも、墨で
由良が、大井が、うるさいなぁって…
マックス「潮時ね。引きなさい、長良…どの道そろそろ帰る時間よ?」
長良「マックス…あーもー、分かったわよ」
口惜しそうにしながら、しぶしぶ立ち上がる長良
レーベ「ごめんね。家の長良が…」
大鳳「良いのよ。お互い様だし、ね?」
レーベ「ありがとう。それと、お届け物だよ」
ゆー「たぁいほぅ…ふみづきぃ」
レーベの影から顔をのぞかせた ゆーが
てとてとと頼りなさ気な足取りのまま、大鳳に抱きついた
大鳳「ゆーっ。よかった、探してたんだから」
ゆー「どこいってたのって…もうもう…」
ぐしぐしと、大鳳に顔を擦り付けるゆー
なんとなく、涙を拭いている様にも見えるが、まあ見なかったことにしておきましょう
文月「あれぇ、ゆーちゃん泣いてる?」
ゆー「むっ、泣いてませんって…」
大鳳から顔を上げる ゆーの目は、若干赤みを帯びてたりもする
レーベ「ふふっ。それじゃ、僕らはこの辺で」
ゆー「あ、レーベ、マックス…ありがとう」
レーベ「うん。またね、ユー」
マックス「ええ、また…」
長良「覚えてなさいよっ、バカクマっ」
鬼怒「ほらっ、帰るよ長良姉っ」
球磨「おとといきやがるクマっ」
大鳳「球磨も、煽らないの…ほんとにもう」
文月「またねー。ほら、球磨さんもいくよー」
球磨を引っ張っていく文月に、長良を引きずっていく鬼怒
二人が去ったあとは、普通の羽根つき大会になったのだが
どこか物足りなさを感じる観衆でした
ー鎮守府・食堂ー
相も変わらず弛緩した空気が流れる こたつ空間、そこへ…
「作戦完了のお知らせなのです!」
食堂の扉が開かれ、大きな声で、元気の良い声が響く
既に聞き慣れた声だ、顔を挙げなくても分かる
そして、声の主が、たったっと小走りに提督達の元へ駆けてくると
そのままコタツでだれていた提督に飛びついた
提督「おかえり睦月」
睦月「ただいまにゃしーっ」
睦月を抱きとめ、その頭をわしゃわしゃと撫でくり回すと
満足そうに、にへらぁっと頬を緩める睦月
提督「それで、首尾は?」
睦月「是非もなしっ、みたまえ提督っ、あれがあれこそがっ」
なんて、少々大げさに睦月が扉の方を指し示すと
間宮「ど、どうも。給糧艦の間宮です」
派手に紹介されたせいか、少々ぎこちなく頭を下げる間宮さん
大人びた外見に、割烹着と落ち着いた印象を受けるが
それだけに、髪を上げている大きめの赤いリボンが可愛らしい
如月「ほら、睦月ちゃん。あんまり期待値上げると、間宮さんが困っちゃうでしょ?」
間宮さんと一緒に、食堂に入ってきた如月と目が合うと
「只今戻りました、司令官」と、ウィンクしてくる如月に、頷いて返す提督
提督「さて、早速で悪いんだけど、間宮さん」
視線を如月から間宮さんへ移すと
我が意を得たりといった風に、目礼が返って来た
間宮「はい。今日は腕に寄りを掛けさせて頂きますね」
提督「うん。それじゃあお願いします間宮さん」
間宮さんの目礼に会釈して返す提督
睦月「さぁっ、我らの為にお菓子が作るが良いぞっ」
提督「よいぞよいぞっ」
睦月「よいぞよいぞよいぞーっ」
「よいぞっ」
なにが楽しいのか、よいぞよいぞ言いながらはしゃぎだす二人
北上(うざい…)
多摩(うるさいにゃ…)
木曾(やかましい…)
大井(子供かっての…)
さっきまで比較的静かだった反動か、いつもの喧騒はいつも以上に耳に響く
北上「まぁ、いいけどさぁ…提督、そろそろやめたげなよぉ」
提督「ほいほい」
睦月「?」
提督が、睦月の頭を撫でくりまわしていた手を止める
木曾「睦月…あたまあたま」
睦月「??」
言われるままに頭に手をやる睦月
睦月「ふぁっ!?またかっ!?」
もともと癖っ毛なせいか、撫で回していたせいで
くしゃくしゃになっていた睦月の髪型、それに冬場の静電気が追い打ちをかけて
昇天ペガサスMIX盛り見たくなっていた
睦月「ふわぁぁぁんっ、如月ちゃーん、なおしてぇぇ」
如月「はいはい、こっちいらっしゃいな」
如月に泣きつく睦月の背中を見送る提督
提督「ふふ、可愛いのぅ」
その顔は、にやにやと意地悪いものだった
大井「あなたねぇ…」
苦言を呈そうかとも思ったが、呆れが勝って言葉が出ない
提督「大井さんもしてほしいとか?」
大井「ぶっとばすわよ」
提督「おぅ、こわいこわい」
じろっと大井に睨まれた
北上「はぁ…ま、こうなるよねぇ」
多摩「にゃぁ…」
睦月たちが戻っただけでこの騒ぎ
これでまだ半分なのだ、初詣に行ってる娘たちが戻れば、どれ程になるのやら
間宮「い、いつもこうなの?」
三日月「ええ、まぁ…はい。概ね、毎日…はい」
正直ちょっと恥ずかしいとか思ってる三日月
間宮「そう…賑やかな所ですね」
三日月「あはは…」
そう言って微笑む間宮さんに、苦笑いの三日月
まあ、特別珍しいという程でもない
各地を回っていれば、こういう所もちらほら見かけるものだ
間宮「さて…それでは、調理場をお借りしますね」
三日月「あ、はい。こちらです…」
三日月が間宮さんを連れ、調理場に入って少しの後
楽しそうな鼻歌と、小気味の良い料理をつくる音
そうして、美味しそうな匂いが食堂に雪崩れ込んでくるのだった
ー
程なくして完成する間宮さんの手料理
食事から、お菓子まで、どれもこれも輝いて見える
本当なら、それを前にはしゃぎまわっても良い所だが
金剛の様子はそれどころではなく、ちょっと泣きそうになっていた
金剛「ね、ねぇ…皐月?」
皐月「ふん…」
ご機嫌を伺うように、皐月の顔を覗きこむ金剛
しかし、それに視線を合わせるでもなく、ふいっとそっぽを向く皐月
金剛「も、もちづき…?」
望月「…」
ご機嫌を伺うように、望月の顔を覗きこむ金剛
しかし、それに視線を会わせるでもなく、ぷいっとそっぽを向く望月
金剛「あーんもぅっ、ごめんなさいって言ってるのにーっ」
接岸する場所がないとはこの事か
二人の反応に耐え切れなくなった金剛が
ついには駄々をこね始める
提督「なぁ、みつき…なにあれ?」
三日月「え、えーっと…」
かんかんこれこれっと状況を説明する三日月
一旦、別れた皐月と望月が、46cm砲の反動で超加速する金剛に引きづられていました、と
提督「あぁ、それで…」
大体状況は把握した。でかい砲にはそんな使い方もあるのね…
イメージとしては、モーターボートというより、ロケットブースターか…
所によっては、弾薬消費量に発狂する提督もいそうだが
まぁ、いいか…ちょうど倉庫もいっぱいだったし…
皐月「ほんとに悪いと思ってるかい?」
金剛「もちろんですともっ」
やっと見つけた接岸点に飛びつく金剛さん
望月「じゃ、これもらいっと」
金剛「へ…あ、あぁぁぁぁっ!?」
金剛の前に大切そうにとってあった羊羹
一人分にしては、わりと大きめだったそれは
望月の伸ばした手に、ごっそり持って行かれた
皐月「それじゃ、ぼーくもっ」
金剛「ふわぁぁっ!?」
さらに皐月の手が伸びて、ばっさりと切り取っていく
3分の2程度にまで削り取られていた羊羹が、さらに半分に切り取られる
さて、残りは何分の1でしょうか?
金剛「どうしてぇ…どうしてぇ…」
すっかり、貧相になってしまった羊羹に涙を禁じ得ない金剛さん
宴の席の一角は、哀愁が漂っている
間宮「あ、あの…まだ一杯ありますから、ね?」
減った分を補填しようと、間宮さんが羊羹を切り分けようとする
提督「ああ、いいよ。いつものことだし」
間宮「え、でも…」
金剛「しくしく…しくしく…」
それを手で制する提督
しかし、そうは言われてもちょっと可哀想になるくらいは どよんとしていた
提督「ほら、金剛…」
金剛「なんですか、提督…いま金剛は落ち込むのに忙しいんですよ?」
落ち込んでますアピールをしてはいるものの
提督に呼ばれて、伏せていた目を上げる金剛さん
提督「いいから、あーん…」
金剛「…え?」
目の前には羊羹。しかも提督が手ずから差し出している
金剛「い、いいんデスカ?で、でも…」
目の前の羊羹と、周囲に視線を彷徨わせる金剛
提督に食べさせてもらえるだなんて、それはとても美味しいシチュエーションだ
それだけで、羊羹3本くらいはいける、たぶん…
しかし、皆が見ているし
なにより「あらあら…」なんて、微笑ましそうに見つめてくる間宮さんの視線が少々気になる
提督「いらないの?じゃあ…」
金剛「すとっぷっ!またれよっ、待たれよ提督!」
提督「おぅ」
下げかけられた提督の手を、がしっと鷲掴みにする金剛さん
金剛「あーんですよねっ、あーんされれば良いんですよねっ!?」
提督「まあ、そうだけど…」
掴まれた手が、無理やり金剛の口元まで引っ張られていく
鬼気迫るというか、必死すぎないか…とか、思わなくもない
金剛「あー…ん?はっ!?」
その時金剛に電流が走る
大きく口を開けて、羊羹を飲み込もうとしていた金剛の動きが止まる
金剛「おぅっと、危ない、危ないところでしたっ」
提督「ん?」
金剛「その手には乗らないヨっ。どうせ、金剛が食べようとした所で、ないないするつもりだったネっ!」
掴んでいた提督の手を離すと
今度はびしぃっと指先を突きつけて、したり顔の金剛さん
提督「…して欲しいの?」
金剛「…へ?しないの?」
不思議そうな顔をする提督に、金剛の気勢が削がれる
金剛「あっ!じゃーじゃー、睦月が横から取ったりとかっ!」
如月「あらあら、ひどいわ金剛さん。睦月ちゃんはそんなことしないわよ?」
睦月「如月ちゃぁん、睦月、かなしぃよぉ…およよよよよ…」
金剛「あ、あぁっ…Sorry、ごめん、ごめんなさい」
およよよ~っと泣き崩れる睦月を、抱きしめて頭を撫でる如月
誰がどう見ても嘘泣きだけれど、割りとテンパっている金剛さんにそれを見破る余裕もなく
泣き出した睦月を宥めようと必死になっていた
睦月「うんっ、だからこれは睦月が貰うねっ」
金剛「あ、あぁぁぁぁっ!?」
更に半分になる金剛さんの羊羹
そう、睦月は横取りなんかしないよ、真正面からは持って行くけど
さて、これで残りの羊羹は何分の1になったでしょう?
金剛「てぇいぃとぉぉぉくぅぅぅ…ぷりーず、提督のが欲しいですぅ」
提督「…」
涙目になって提督に縋り付く金剛さん
場所が場所なら、随分とアレなセリフだとか思わなくもない
提督「ほら、あーん」
金剛「あー…んっ♪んんんぅぅぅぅ♪♪♪」
改めて差し出された羊羹を、ぱくっと咥える金剛さん
それだけで涙目だった表情に笑顔が戻り
尻尾でもついてたら、ぶん回していそうなほど体を揺らしている
ー
多摩「…金剛、読みが甘いにゃ…」
完全に警戒心をなくしている金剛を見ながら首を横に振る多摩
木曾「ん?横取りも、取り上げるでも無いなら、他に何があるってんだよ?」
北上「ふぅ…木曾っちも、もう少し悪戯というものを勉強するべき」
ほっと息を付く北上様
間宮さんの羊羹に、大井っちの淹れてくれたお茶…至福である
大井「はぁ…」
そうして、そっと自分の耳を塞ぐ大井さん
次の瞬間には「てーいーとーくーっ!?…」なんて、叫び声響いた
ー
提督「じゃ、これ貰うな」
金剛「へ?」
気の抜けた声と共に、金剛が正気に戻った時には
残っていた羊羹は提督の口の中へしゅーっとっ、超デリシャスっ
提督「お、うめーうめー」
残ったのは空になったお皿
さて、残りの羊羹はって言うまでもなくな0である
金剛「てーいーとーくーっ!?ほらっほらぁぁ、やっぱりぃぃぃっ!」
提督「バカな。食べる途中で取り上げてもないしー」
睦月「睦月だって横取りしてないしー」
予想できなかった金剛の負けっと
金剛「なぁんでっ、なんでぇぇぇぇっ」
涙目になりながら、駄々っ子の様に提督をポカスカ叩きだす金剛さん
間宮「…あ、あのぅ。三日月さん?」
三日月「はい、何でしょう」
間宮「これ…後で金剛さんに?」
三日月「あ…。ありがとうございます」
間宮「いえ」
騒ぎの裏で、こそこそと三日月に耳打ちする間宮さん
そして、包んだ羊羹をそっと三日月に預けた
間宮「あの…いつもこうなんですか?」
三日月「ええ、まぁ…はい。概ね、毎日…はい…」
間宮「たいへんね…」
三日月「いえ。馴れましたし、それに退屈しませんから…」
間宮「それは、確かに…」
騒いでいる金剛たちに目を向ける間宮さん
これが毎日なら、そう…退屈する暇はなさそうだけれど
三日月「それに、まだ半分だし…」
間宮「半分?」
首をかしげる間宮さん
そこへ答え合わせのように食堂の扉が開いた
ゆー「ただいまです…って、誰?」
大鳳「あら、間宮さん。いらっしゃいませ」
文月「あけましておめでとうございまーす」
球磨「飯だクマぁぁぁっ、やけ食いするクマーっ」
卯月「それじゃ、瑞鳳の羊羹は半分うーちゃんが頂きぴょんっ」
瑞鳳「ぐぬぬぬぬぅ…おぼえてなさいよ…」
夕張「なんで卯月と射的で勝負したのか…」
弥生「それはだって…ねぇ?」
菊月「あ…間宮さん…姉さん、どうしよう…お腹が」
長月「はぁ…食べ過ぎだバカ者」
扉が開くと同時に喧騒が倍になった
間宮「…半分、ね」
三日月「はい。半分、です」
くすっと苦笑する三日月
けれど、それはどこか楽しげで、これが彼女の日常なのだと思う
間宮「さて、お料理の追加、必要そうですね」
席についた球磨ちゃんが、ガンガン食べ始めていたりする
それなりに用意したつもりだが、それでも少々心許なさそうだった
三日月「あ、私も手伝います」
間宮「良いのよ?今日は私が…」
三日月「あ、いえ…その…ついでというか、お邪魔じゃなければ…」
「お料理教えて欲しいです」と
気恥ずかしそうに、最後の方はちょっとフェードアウトしつつ
間宮「…提督さんに?」
三日月「へっ!?え、あ、いや、その…はぃ」
間宮「あらあら…」
頬を染め、俯く三日月
その少女らしい反応に、思わず笑みを溢す間宮さん
冗談のつもりだったが、どうにも図星のようだ
間宮「それじゃ、飛びきり美味しいの教えちゃいましょう」
三日月「はいっ」
ー執務室ー
ぱんぱんっと、乾いた音が部屋に響く
提督「…ん?」
その音に揺り起こされて、ソファに転がっていた提督がゆっくりと目を覚ます
提督「皐月?なにやってんの?」
音のした方に目をやってみれば、すぐ近く
というか目の間で、皐月が手を合わせていた
そう、ちょうど神社で皆がするような
皐月「ん?何か御利益あるかなーって?」
にひひっと悪戯する子供のように笑う皐月
提督「ご利益ねぇ…」
懐かしい話とは思うけど
そういう意味で祀られてたわけではないのよなぁ
でも、まぁ…
提督「えぃ…こちょこちょこちょ」
皐月「ひぅっ、や、ちょっと、やめって、ぁははははっ、もぅ」
手を伸ばして、皐月の服の間に手をすべらせると
その柔らかい横腹を、さわさわと、すりすりと、こちょこちょと、くすぐり倒す
一瞬、触れた指先の冷たさに体を震わせる皐月だったが
直ぐにお腹を撫で回される くすぐったさに負けて、体をくねらせる
皐月「はぁ、はぁ…もぅ、やりすぎだっての」
とかなんとか言いつつも、大人しく くすぐられ続けてたのは何なのか
提督「ま、私のご利益なんてそんなもんだ」
皐月と遊んでいる内に、すっかり目が覚めて、ゆっくりと体を起こす提督
皐月「…そう、でもないよ?」
提督「?」
寝ぼけ眼を振り払って、改めて皐月を見る
妙に顔が赤いのは、さっきくすぐったせいだろうか
皐月「その、さ?…今年もよろしくね司令官…んっ」
提督「ぅ…」
不意に近づいてくる皐月の顔
顔が熱い、皐月が触れた部分はもっと熱い
皐月「さっ、司令官っ。僕らも初詣行こうよっ」
照れた自分を誤魔化すように、努めて明るく手を差し伸べる皐月
そう、今年も一年皆と、司令官と一緒に過ごせたら
それは十分なご利益だと思うからさ
ーおしまいー
明けましておめでとうっ。世界の至宝、御代 みつよ よっ
ここから先はおまけになるわっ
もうお腹いっぱいって人、秋津洲が好きで好きで仕方ない人は気をつけなさいっ
それじゃ、始めるわっ
ー大本営・工廠ー
秋津洲「おひいさまー、呼んだかもー?」
年末の大掃除の結果、ピッカピカに磨き上げられた工廠施設
新品に入れ替えたのかと、見まごう工作機械が並ぶ施設の中
その中央に お目当ての人物がいた
みつよ「来たわね、秋津洲っ」
秋津洲「あ、はい。明けましておめでとう、かも」
みつよ「はいっ、おめでとうございます」
丁寧に頭を下げ合う二人
「今年もよろしく頼むわっ」と、前置きした後その場から一歩下がる
すると、みつよ様の影に隠れていた、その姿が顕になった
秋津洲「へ?…あ、あぁぁっぁぁっ!?」
秋津洲の目に入ったのは、見慣れた二式大艇の姿…ではなく
なにかゴテゴテした装飾が施されていた
大潮「獅子舞にしてみましたっ」
アゲアゲでカッコイイですねっ、と楽しそうな大潮
秋津洲「獅子舞!?なんでっ、意味分かんないかもっ!?」
みつよ「何を言ってるのよっ、めでたいじゃないっ」
それに、と前置きをして
みつよ「うごくのよっ、これっ。大艇っ」
大艇ちゃん「あいあいまむ」
秋津洲「え、えぇぇぇぇぇっ!?」
ただの飾りかと思っていたのに、獅子舞の口の部分がパカパカと開閉していた
驚愕する秋津洲に対して、割とノリノリな大艇ちゃんだったりする
みつよ「名づけて…そう、ね。大和、良いわよっ言ってもっ」
大和「い、良いんですか?ドン引きとかしません?」
みつよ「平気よっ、初笑と行きましょうっ」
大和「はいっ。それでは…名付けて」
秋津洲「二式だけに、錦大艇とか言ったら流石に寒いかも…」
大和が口を開くその前に、秋津洲がポツリと割り込んだ
「…」
しばしの沈黙、そして
みつよ「大和っ、あんまり面白くないわねっ」
大和「はい…」
秋津洲「ちょっとっ、今絶対言おうとしたかもっ、あたしが滑った見たくしないで欲しいかもっ」
みつよ「秋津洲っ、自分の発言の責は負うべきだわっ」
それが大人ってものよ、と続けるみつよ様
秋津洲「ぐぬぬぬ…理不尽かもっ」
確かにその言葉自体は正論だけれど、どうにも責任転嫁された気しかしない
みつよ「ま、ただの屁理屈だけどね。大和っ、大潮っ、行くわよっ」
大潮「お伴しますっ」
大和「よっこいしょっと…」
白い外套を翻し、工廠の出口へ向かう みつよ様
そのとなりに大潮が同伴し、大艇ちゃんを担いだ大和が後に続いた
秋津洲「あぁっ!?いま屁理屈って、おひいさま屁理屈て言った…って、どこ行くのっ!?」
みつよ「何処ってそりゃ…」
工廠の出口で足を止め、肩越しに振り返る みつよ様
みつよ「アゲアゲよっ」
大潮「アゲアゲですっ」
秋津洲「おひいさまは、もう少しさげさげにした方が丁度いいかもっ」
本当に、正月早々無駄にテンションの高い人だと思う
みつよ「ふふっ、今のはちょっと面白かったわっ。大和っ」
大和「はい。それでは…」
みつよ様が工廠の出口の前から一歩下がり、道を開けると
進み出た大和が担いだ二式大艇を構え直す
秋津洲「え…ちょっと…なに、を」
薄々気づいてはいた、ただ口にしたくなかっただけで
みつよ「大艇っ、新年の初任務よっ。初空に、錦を飾りなさいっ」
大抵ちゃん「あいあいまむっ」
みつよ「大和っ」
大和「はい…てぇぇぇいっ!」
投げた
砲丸、あるいは槍投げか、ともかく大きく振りかぶり、全力で青空に投擲した
大和をカタパルト代わりに急発進した錦大艇
失速すること無く風に乗ると、悠々自適に新年の空に錦を飾った
みつよ「あら、案外と、戦艦でも運用できるものねっ」
こんど水偵の代わりに積んでみましょうか、とかなんとか
秋津洲「いやいやいやいやいやっ、出来るわけないかもっ!?」
みつよ「秋津洲…貴女は少し現実を見たほうが良い、現に飛んでるわよ?」
秋津洲「おひいさまは常識を見て欲しいかもぉっ!」
ー
龍鳳「あら、飛んでますねぇ」
大淀「な…なんですか、あれ…」
おせちの準備をしていた二人
ふと、窓の外を見てみれば…獅子舞が空を待っていた
しかし、その後の反応は同じとはならず
一方は驚愕し、もう一方は大成功を喜んでいるようだった
大淀「龍鳳…貴女…もしかして…」
なにか知ってるんじゃないかと、視線を向ける大淀さん
龍鳳「名付けて、錦大艇っ、なんちゃって」
てへっと舌を出してみせる龍鳳
大淀「…知ってたなら…」
額に手をやる大淀さん、きっと今頃秋津洲がきゃーきゃー騒いでいる頃だろう
それに、あんな資材の使用申請、いつの間に通したのか…
龍鳳「ん?」
そんな大淀に、笑みを浮かべ小首をかしげる龍鳳
それは暗に「どうして?」と、言いたげだった
大淀「いや、良いです…そうですよね…」
「知ってたなら、止めなさい」って、龍鳳に言うだけ無駄だった
むしろ、知ってるから通している、おひいさまが楽しんでいるのは良い事だと
龍鳳「はい、そうですね」
続くはずの言葉を知っていたかのように
笑顔のままに頷くと、おせちの準備にもどる龍鳳
大淀「はぁ…」
こうなっては仕方ない。秋津洲には強く生きてもらうより他はない
龍鳳「大丈夫ですよ。彼女、あれで結構タフですから」
あんなでも大和に叩き上げられてますし
龍鳳「アゲアゲなんですよ?」
くすくすと、楽しそうに笑う龍鳳
大淀「それ、流行ってるんですか?」
龍鳳「さぁ?でも、結構元気でますよ?大淀さんもどうです?」
ぐっと小さなガッツポーズをして、大淀に勧めてみる
大淀「いえ、私は…」
龍鳳「だめですよ、あんまり保守的だと今の若い娘たちについてけません」
少しは大和さんを見習っては?とは、言ってみたものの
大淀「いえ、あの人は…付いていこうとして失敗してる感が…」
龍鳳「…さ、おせちおせち…」
大淀「流したわね…ぁ」
洗い物の最中だった手が止まる
出しっぱなしの水が、排水口に…流しに流れていく…流しに…
龍鳳「…流しだけに?」
大淀「っ…知りませんっ。おひいさま達が戻る前に終わらせますよっ」
龍鳳「はいはい…うふふっ」
少し頬を赤くしながら口をとがらせる大淀
そんな彼女に笑みを向けて、作業を再会する龍鳳だった
ーおしまいー
はい、というわけで最後まで読んでくれた方。本当にありがとうございました
貴重な時間が少しでも楽しい物になっていれば幸いです
それではこの番組は
レーベ「ん?ビスマルクかい?こたつから出れないんだそうだよ」
マックス「すっかり絆されていたわね…」
ゆー「ビスマルク姉様…多摩にそっくりだって…」
多摩「多摩と一緒にしないで欲しいにゃ…脳ある多摩は爪を隠すのにゃ」
木曾「研がない爪に価値はねーっての」
多摩「ほぅ…妹よ、オチの付け方というものを教えてやろう」
木曾「ふっ、やってみろってのっ」
どんぱちどんぱち
北上「あーあ…ダメだありゃ」
大井「見事なワンサイドゲームね…」
球磨「あいつ…球磨と同じように戦ったって勝てるわけねークマ」
多摩「ふんっ、雪だるまにでもなってるがいいにゃっ」
木曾「…ちくしょう」(←木曾IN雪だるま
大井「はぁ、多摩と真正面から撃ちあった貴女が悪い」
北上「そいじゃ、木曾だるまを背景に今回はお別れだよーん。まったねーん」
ー諸々のメンバーでお送りしましたー
ー
ー以下蛇足に付きー
ー
♪教えて皐月ちゃんのコーナー♪
提督「なにげに多分一周年…」
皐月「もうそんなになるんだ…」
提督「正確な日付は分かんないけどね…去年の1月頃に1話をあげてたはず」
皐月「一話って何してたっけ?」
提督「執務室で、なんか騒いでただけだったような」
皐月「ああ…」
提督「ちなみに、今回の話は最後の方のあれがやりたかっただけです」
皐月「相変わらずの長い前フリだね…」
提督「しかし、これで季節ネタはだいたい全部やったことになるかな」
皐月「ここからが本当の戦いだっ」
提督「ま、最初に考えてたネタなんて、半年前ぐらいに全部使ってたし…なんとかなると信じて」
♪皐月ちゃんラジオ♪
皐月「はーい。それじゃ、新年最初のコメント返しだよっ」
・金剛さん
・長月可愛い
・クリスマスボイス
・大鳳と弥生
・文菊長如
皐月「今回もたくさんのコメントありがとうっ」
提督「そいじゃ、上から…」
・金剛さん
金剛「待って、アレを同衾だなんてノーカンデスっ、ノーカンっ」
提督「何が不満だったのさ?」
金剛「同衾というのはデスネっ、もっとこう、おはようからお休みまで一緒に過ごしてこそのっ」
皐月「つまり、今晩いっしょに寝て欲しいと?」
金剛「…へ?いや、いやいやいやいやいやっ、決して、決してそのようなことでなくっ」
提督「嫌なの?」
金剛「いやいやいやいやいやっ、デスからっ心の準備とかっ、ムードとタイミングとかっ!」
皐月「じゃあ、いつやるの?」
提督「今でしょっ」
金剛「あーんもーっ!聞いてくださぃぃぃぃ」
提督「あ、ちなみにビス子はな…」
ビス「ふふっ。金剛の代わりに私が残念になったというならっ、イタリア艦が来れば解決ねっ」
夕立「なわけ無いっぽい、寝言は寝てから言ったほうが良いっぽい」
ビス「なんでよっ!」
提督「もうしばらくこうなるだろうな…」
・長月可愛い
提督「長月可愛い、頂きました」
皐月「ボクも姉として嬉しいよっ」
長月「ま、まぁ…礼は言っておこうか、ありがとう」
提督「クリスマスボイスで、ナチュラルにプレゼント渡してきてくれたり」
皐月「ケッコンボイスの微笑みなんか、感涙するよねっ」
長月「いや…褒め過ぎだろう…」
・クリスマスボイス
提督「最近はイベント事に睦月型の追加があって、私も大満足です」
皐月「司令官は、ボクのが流れる度に最後まで聞いてたよね」
提督「可愛いからね、仕方ないね」
・大鳳と弥生
弥生「大鳳(ふぇにっくす)…ううん、びっぐふぇにっくす…ふふっ」(←やっと言えたって回
大鳳「やーよーいーちゃーん」
弥生「いひゃい…ほっぺひっぱっちゃ…」
・文菊長如
文月「やったね菊月っ、可愛いってっ」
菊月「いや、だから可愛いなどと…」
如月「長月は今回だけで2票目ね」
長月「褒めても何も出ないぞ…」
文月「ふっふっふっ、この調子で菊ちゃんを…」
菊月「がるるるるるぅ…」
如月「はいはい、威嚇しない威嚇しない」
ー
提督「改めまして、新年あけましておめでとうございます
旧年中はたくさんの、閲覧、コメント、お気に入り、評価、応援を頂き誠にありがとうございます
今年もぼちぼち続けていけたらと思いますので、よろしければお付き合いくださいませ」
皐月「それじゃ、ここまで読んでくれてありがとう。また遊ぼうねっ」
今回は結構バッサリいきましたね
でもかなり読みやすかったです!!
そして最後に全てをかっさらっていった皐月はやっぱり可愛い
今年こそ皐月改二を願います
頑張ってください
んー。長菊を撫でてあげたい……
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします<(_ _)>
正月ネタ話読ませて頂きました。
今回は甘みが少なめかと思って油断してたら、皐月の夜戦クリティカル!
やられた(笑)
自分とこの艦娘達が大好きな提督とそんな提督が大好きな艦娘達ですが、正妻ポジはやっぱり皐月な○○鎮守府ですね。
笑顔でボーガンはマジで怖いよ大鳳さん(^^;;
そしてやっぱり提督や駆逐艦に翻弄される安定の金剛さん(*^^*)
大丈夫、普段弄られな分決める時に決める貴女は最高にカッコいい(^^)b
「取り付く島もない」ならぬ「接岸する場所がない」なるほど、『艦』娘だものね。座布団一枚(^o^)
ところで、初詣の場面で服装の描写が無かったのですが彼女たちはやはり振り袖でしょうか?
駆逐艦娘達が振り袖で走り回る様やドイツ艦娘達の新鮮な和装姿に癒やされ、球磨と長良の裾にハラハラしと、勝手に脳内補完して楽しんでました(*^^*)
長々と失礼しました<(_ _)>
次作も楽しみにしています。
今回なんか短く感じるな?
いくつか質問
この世界の鎮守府・基地・泊地の配置は?
イタリア艦の登場予定は?
オリジナル主砲に次いで、オリジナル艦載機は出るのか?
今度は、猫かなんか拾ってくる話しがいいなって思う。
今回もとても楽しく読ませて頂きました。いつもながら大鳳さんが可愛いです!北上様料理得意ですねマーマレード食べてみたいです!!
気になったことがあるんですが提督は神様的な仕事はしないんですか?誰か初詣に来ないんでしょうか...
それと球磨姉と長良の打ち合いは板と羽根の耐久力を気にしなかったらどれくらい速くなるんでしょう?
気になることについて既に語られていたらごめんなさい!次回もとても楽しみに待ってます!
(羊羹の件の金剛とみかん剥いてる菊月も可愛いと思いました。)