電「電を、お嫁さんにしてほしいのです!!」提督「……えっ?」
『トラック泊地シリーズ』
※何も考えず勢いだけで書きました
※オリジナル要素が8割です
――横須賀鎮守府
*
天原「………………」
電「……ど……どうなのですか?」
天原「うん。……うん。おいしい……ね」
電「なんでひきつった顔で言うのですか!?……目をそらすのはどうしてなのです!?」
天原「いや、だって…… ……これ、何入れたの……?」
電「あ、ヨーグルトなのです。入れると隠し味になっておいしくなるらしいのです」
天原「…………」
天原「……隠し味は、隠れてるから隠し味なんだよ……?」
電「……隠れてなかったのですか?」
天原「むしろ出ずっぱりだね。他の食材とスパイスを押しのけてひとりでポールダンスしてる、ていうかルーが白い」
電「たくさん入れたほうがおいしくなると思ったのです……」
天原「うん。……うん、これ誰に教わったの」
電「調べたのです。たぶれっと……?を、北上さんから借りて」
天原「そっか……うん……そっかぁ」
電「………………」
*
電「という具合だったのです……」
綾波「お、おおぅ……それはそれは」
電「教えてくださいなのです!!どうしたら司令官さんをギャフンと言わせられるようなカレーが作れるんですか!?」
綾波「ぎゃ、ギャフン!?え、ええっと……レシピ通りに作ればいいと思うけどなぁ……」
電「うそなのです!!秘書艦は何も見ずにすらすら作ってたのです!それに秘書艦のカレーは美味しいのです!何か秘密があるはずなのです!!」
綾波(あ、ヨーグルトぶちこんだ原因は私にあったのかな……)「え、えーっと…………特に何もない……けどねえ」
電「……………………」
綾波「……………………」
電「………………目をそらすクセが、司令官さんと同じなのです……」
綾波「……白状します……司令官のお姉さんから教わりました……」
電「やっぱりな」
電「どんなことを教わったのです」
綾波「えっ!?それは…………その、いろいろ……というか…………」
電「……~~っもういいのです!!自分で教わりに行きますから!!!」
綾波「えっ!?ちょっ、それはどういう……」
電「有給を使うのです!!!!天原司令官の姉君にお会いしてくるのです!!そしてカレーの作り方を教わってくるのです!!!」ビターン!!
綾波「いたい!!休暇届の出し方が雑っ!!」
*
天原「おーい、電ー」
天原「……電ー?あれ?」
綾波「どうかしましたか?司令官」
天原「あ、綾波ぃ。電、見なかった?さっきから探してるんだけど……遠征に行かせる子がひとり足らなくて」
綾波「電なら、有給休暇をとってトラックに行ってますけど……」
天原「えっ」
綾波「えっ」
綾波「……また書類の内容を確認せずにポンポン押印してましたね。連絡入れようにも、もう海の向こう側ですよ」
天原「…………マジかぁ…………お姉ちゃんに連絡……いや、結局変わんないか……どうしよ…………」
綾波「……」
綾波「……綾波が行きましょうか?」
天原「……お願い。いやー……こんなとき秘書艦が駆逐艦だと助かるなぁ……」
綾波(綾波が休暇をとったら、この鎮守府、大変なんだろうなぁ……)
天原「どうかした?」
綾波「なんでもありませんよ……」
*
・某月某日
……トラック諸島は遠いのです。
はじめて行くから、いろいろと手間取りましたが、なんとか着きました。
事前の連絡は行き届いているようで、秘書艦の夕立さんがお出迎えしてくれたのです。
……長門さんや武蔵さん、赤城さん加賀さんが彼女に頭をさげて、道をゆずっていた様子が今でも印象的なのです。
武勲艦と名高い夕立さんですが、実際に目の当たりにすると、親しみやすい、いい艦娘だったのです……
で。
目的の、司令官さんの姉君なのですが……
*
電「……留守……なのです?」
夕立「うん、ちょっと買出しに行っててね。まぁすぐ帰ってくると思うから、適当にうろついてくれて大丈夫だよ」
電「そうなのですか……わかりました」
夕立「まぁ夜までには帰ってくると思うし……じゃ、私はこのあたりで」バイバイ
電「はいなのです」
*
……とはいえ広すぎるのです。
ここは本当に孤島群なのでしょうか、と思うくらい、設備もしっかりしていますし
整備された道がどこに続いているのか、まったくわからないのです。
適当にうろついてくれて大丈夫、という言葉を信じ
とりあえず道に沿って歩いてみるのです。
歩き疲れたら本部へおじゃますればいいのです……
……。
「そうだクマ!今の感覚を忘れるなクマッ!!」
「はいッ、球磨姉さん!!」
……?
なんだか元気のいい声が聞こえるのです。
なんでしょう……
球磨「ではもう一回やってみるクマ!はい!大地斬!!」
大井「大地斬ッ!!」ズァ
球磨「海破斬ッ!!」
大井「海波斬んッ!!」ドォッ
球磨「最後ォ!!空裂斬!!」
大井「空ゥ裂斬ッッ!!!」バッシィア
電(魚雷でアバン流刀殺法を修行しているのです!!?)
球磨「筋がいいぞクマァ!!じゃ来ォいクマッ!!」
大井「いきます――球磨姉さん――!!!」
大井・球磨「アバンストラ 叢雲「おめーら、風呂沸いたわよ」
大井・球磨「はぁい」クマ」
電「…………」
大井「うーん……惜しかったわね……ようやくたどり着いたと思ったのだけれど」
球磨「大丈夫クマ、大井ならすぐ習得できるクマ」
叢雲「……あんた達の暇のつぶし方はなんなの?怖いんだけど」
スタスタ……わいのわいの…………
電(……この鎮守府は駆逐艦の立場が強いのでしょうか……?)
電「さ、さすがに行く先々にこんな光景があるわけ……ないのです。うん……」
*
……この鎮守府……トラック泊地は、かつては掃き溜めと呼ばれていたこともありました。
問題を起こし、手に負えない艦娘……というのは表向きの、こじつけに過ぎず
本当は、言ってしまえば上層部から消えてもらいたいと願われた艦娘がたどり着く場所だったのです。
司令官殺しに師団潰し、狂い……などというような蔑称を持つ、いわゆる「目立つ」艦娘も居れば
知られては困る事実を知った艦娘や、上層部に反発した艦娘、存在自体が疎ましく思われている艦娘も居るそうなのです。
わたしの姉のひとり、響ちゃんも、ここへ行きました。
当初は四姉妹みんな揃っていたのですが、その事件以来、みんなバラバラのところへ行きました。
舞鶴に行った雷ちゃんは、文通をくれるし元気そうなのですが、呉に行った暁ちゃんはぱったり連絡が途絶えてしまいました。
そして響ちゃんは……
……?
「…………――――ァッ!!」
桟橋のところに誰か居るのです。
……
見覚えのある綺麗な銀髪なのです…………
「……うーん……もう少し、構えが……こう……かな」
「…………よし」
響「かぁ……めぇ……はぁッ…………めぇッ…………」グググッ
響「――波ァァァーーーーーッッッ!!!!」ドンッ
電(こっちは亀仙流なのです……)げんなり
電「え、えっと……」
響「出ないか……ん…………」
響「…………」
電「…… おひさしぶりなのです。響ちゃん」
響「……が…………」
電「……が?」
響「ガチャガチャ、ピーピー、ボロボロ、ズルズル、ドンガラガッシャン、ポッピー」ガタガタガタガタブシュッ
電「響ちゃん!?響ちゃん!!?口から燃料がこぼれてるのです!?」
響「ああ、電か、ひ、ひさしぶりだね。うん。げんきに、してたかい」ゴシゴシ
電「元気にしてたのです!!響ちゃんも元気そうで何よりなのです!!」
響「そうか……それは何よりだ、うん……」
電(この鎮守府がどんな状況にあるのか全く想像できないのです……)
*
響「それで、今日はどうしたんだい」
電「え、えっと…… ……。」
響「なんだ、言いにくいことかい?別に、言いたくなければ、無理に言わなくてもいいけれど」
電「い、いや大丈夫なのです(響ちゃんが見せた痴態に比べれば屁でもないのです)、じつは……」
響「……なるほど。料理、か」
電「……なのです。なんだかうまくいかなくて」
響「私もボルシチなんかは得意だが、カレーか……確かに司令のカレーは絶品だね」
電「なのです!綾波秘書艦も、天原司令官の姉君から教わったと聞いたのです」
響「天原……あぁそうか。電はあの人の妹のところに所属していたんだったね。……どっちも天原だから、ちょっと混乱するな……」
電「そうでしたね……ここでは、言い分けた方がいいのです?姉の方と妹の方と」
響「そうだね。名前で呼んだほうがいい」
電「…………」
響「……どうかしたかい?」
電「……司令官さんの下の名前、知らないのです」
響「…………そうなのか」
響「……どうしようか。私も、提督の名前を知らないんだ」
電「なのですか……」
響「まあいいや。長旅で疲れたし、腹も減ったろう?ちょうど今はここ自体が長期休暇に入っているし、食堂で休むといい」
電「(だからみんな暇してあんな様子だったのですね……)判ったのです。……あ、あの、響ちゃん」
響「ん……どうかしたかい」
電「できれば、案内してもらえると助かるのです」
*
……トラック泊地についての説明を、続けるのです。
その艦娘たちについて、大半は司令官さんから聞きました。
のこり一割くらいは小耳に挟んだ噂話です。
最前線であるトラック泊地は、数多くの艦娘が沈む場所でもありました。
世間的には「そういう場所である」という認識でしたから、まったく、何の違和も作ることなく、艦娘の処分ができたわけです。
……早い話、「掃き溜め」は、「処理場」でもあったのです。
トラック泊地への異動、左遷は、つまるところ「死ね」という命令でした。
その印象を覆し、処理場を激戦区へと昇華させたのが、今この泊地を統べている将官……「天原少将」なのです。
女の身でありながら彼女は、年単位では到底数え切れない数の艦娘が沈んでいく、このトラック泊地を鎮守府たりえる場所にし、
以降、轟沈数「1」を保ち続けています。
…………。
書いていて、気が滅入ってくるのです。
そんな華々しい成果の裏に、どれだけの苦難があったのでしょう。
電には、とても想像できないのです。
天原少将の妹君である、電の司令官さんも、自分たちについては、黙して語ってくれません。
そんな、暗い予感とは裏腹に……
響「ただいま」
レ級「おかえりー。飯にするかい?」
響「いや、先に執務を終えてくるよ」
レ級「おっけー……その子は?」
電「はっ、え、あ、えっ」
響「電。視察……の名目で、遊びに来てくれた」
レ級「そっか、こんなところまではるばるご苦労様……疲れたろ?すぐ飯を用意するよ」
……ここは、すっごく人情にみちた、いいところなのです。
というか深海棲艦なのです。
悪鬼羅刹と名高い戦艦レ級が、
お昼ご飯作ってるのです。
……恐ろしげな尻尾は切断されているようで、包帯がぐるぐると巻かれていました。
ここの司令官さんが斬り飛ばしたのでしょうか。
怖いのです。
レ級「とんかつ食える?」
電「あっ、は、はい。好きなのです」
レ級「そりゃいい。じゃあじっくり揚げて出すから、座って待っててくれ?」
電「えあ、はいなのです」
響「それじゃ、よろしくね。レ級」
レ級「おお、まかせとけ」
電「…………」
レ級「…………」チャカチャカ
電(三角巾とエプロンが似合ってるのです……)
レ級「電はどこから来たんだ?」
電「あっ、ぇ、横須賀からなのです」
レ級「おー、横須賀。となるとなんだ、エリートか?」
電「い、いちおう……戦果はあげているほう……だと、思うのです」
レ級「そりゃ凄い。elite級か。はは、じゃ僕と同じだな」ザバザバ
電(ひえっ……)
電「………………」
レ級「…………。」トントントン
電「…………」
レ級「…………」
電(どんな会話をすればいいのか皆目検討もつかないのです)
レ級「ここへは、何かを学びに来たのか?」
電「ほひぇっ!?」
レ級「あ、いや。視察とはいえ、ただ遊びに来るだけじゃ苦労しかしないからさ、ここ。他に何も無いし」
レ級「だから、そんなような目的があったんじゃないのかなーって思って」
電(レ級さん、なかなか鋭いのです……)
電「実は、ここの司令官さんに…………」
レ級「ほうほう」
電「…………ということなのです」
レ級「成る程なぁ。確かに桜花のカレーはあいつにしか作れないな」
電「なので…………」
電「…………おうか?」
レ級「あ、いっけね」
電(おうか……桜の花、の、桜花、でしょうか)
レ級「……ま、とはいえ隠すようなことでもないか。そう、桜花。ここの提督の名前。顔に似合わず可愛いだろ?」
電「素敵な名前だと思うのです」(顔は見たことありませんけど)
レ級「そう言ってやると、あいつも喜ぶよ」ジュウウ
電(揚がったのです)
レ級「はいよ、おまちどうさま……でも、カレーだけでいいのか?他に教わりたいこととか」コトン
電「いただきますなのです……今のところは、それだけなのです」
電「変な質問になりますが……他にも何か、教えてもらえることはあるのでしょうか?」
レ級「そうだな」
レ級「…………軍刀の手入れの仕方とか」
電「……持ってないのです」
レ級「近接格闘とか……」
電「……肉薄する距離まで近づこうとは思わないのです。喧嘩なんてもってのほかなのです」
レ級「…………」
レ級「あいつ、何ができるんだ……?」
電「…………さぁ……」もぐもぐ
電「あ、夕立秘書艦はどうなのでしょう」
レ級「あー、あいつは余計にやめとけ。寿命が縮まるぞ」
電「そうなのですか?それはどうしてなのです?」
レ級「自分の生命力を際限なくブッ放す方法とか、教えられる」
電「比喩じゃなくてマジで寿命が縮むのですか」
レ級「おう」
電「………………」
電「……レ級さんからは何かあるのです?」
レ級「僕かあ。…………僕はそうだな」
レ級「……えーっと、足音で艦娘と人間を区別できる」
電「へえっ、そうなのですか」
レ級「嗚呼、艦娘は海をスケートリンクみてーに滑って走るから、陸でもちょっとかかとをこするような歩き方をするんだ」
電(……靴のかかとがすぐ磨り減るのはそのせいだったのでしょうか)
レ級「で、提督は軍人だから、行進だとかの練習を延々とさせられるよな」
電「なのです」
レ級「だから……」
…………カツ、カツ、カツ
レ級「これは人間の足音」
ガラッ
天龍「おう、やってるかレ級」
レ級「……」
電「……」
天龍「……えっ、なんだこの空気」
レ級「なんでもない。ここは禁煙だぞ」
天龍「わーってるよ。そんな邪険に扱うなよ」
電(しゃがれた声の天龍さんなのです)「は、はじめましてなのです」
天龍「お。横須賀んとこの電だな。らっしゃい」
レ級「何にする?」
天龍「吸い物」
……
天龍「あー、そういうことか」
レ級「おう。よりにもよっておめーが来るとは思って無かったよ」ジャバジャバ
電「天龍さんはどうして軍人と同じ歩き方なのです?」ごちそうさまなのです
天龍「もう数年海に出てないからな。ていうか、出たら沈むし」
電(なんだか深くは聞かないほうがよさそうなのです)
レ級「というか桜花はいつごろ帰って来るんだ?買出しったってすぐ済むだろ」
天龍「さっき連絡があったから、もう帰ってくるんじゃねえか?あいつもさっさと帰ってきたいだろ、嫁が待ってるんだから」
レ級「違いねえ」
電(……仲良しなのです……)
……ザッ、ザッ……
電「……あ、これは艦娘の足音なのです?」
レ級「さて、どうだか……」
ガラッ
卯月「おなかすいたぴょんー、ごはんごはん」
木曾「レ級、チャオー。昼飯頼む」
睦月「もーへとへと……卯月ちゃんは元気だねぇ」
卯月「睦月は気を張りすぎぴょん、演習ったって沈むわけじゃないんだしリラーックスリラーックスぴょん」
木曾「お前は気を抜きすぎだ」スコッ
卯月「痛ってぇ!?」
レ級「当たったね」
電「当たったのです」
天龍「当たったな」
卯月「えっ、何」
木曾「レ級、親子丼三人前」
レ級「はいよー」
卯月「流されたぴょん!?」
電(……すこしだけ賑やかになったのです)
木曾「で、このちっこいのは」
レ級「提督妹んとこの電。遊びに来た」
電「お邪魔してるのです」
卯月「第二水雷戦隊遠征部隊の卯月ぴょん、仲良くするぴょん」
睦月「同じく遠征部隊の睦月だよ。よろしくね」
木曾「遠征部隊旗艦の木曾だ。よろしくな」
電(遠征部隊……)「よろしくなのです」
天龍「天龍だ」ズズ
電「よ、よろしくなのです」
*
……ザ、ザッ…………
響「待たせて悪かったね、電」
電「ご飯食べたり、お話したりしてたから、あんまり待ったようには感じなかったのです。大丈夫なのです」
響「そっか」
木曾さんたちから聞いた話によると、この鎮守府は水雷戦隊の力が強く
第二水雷戦隊が出撃部隊と遠征部隊に分かれてるそうなのです。
朝、出迎えてくれた主力艦隊、第一艦隊の戦艦空母さんたちは、いつもは月曜島から東にある春島の方で待機しているそうで
最前線で水雷戦隊を護る――絶対国防圏の役割をはたしている、とのことなのです。
トラック泊地から一歩外に出れば、そこは、敵と味方の勢力がひしめきあう激戦区……
……で、あるはずなのですが。
響「……はい、ここが客間…………」ガチャ
時津風「先週は時津風が譲ったでしょお!?だから今日は時津風が好きなの見るのーーっ!!」ググググ
皐月「キミが譲ったのは先々週、先週を譲ったのはボクッ!!時津風はすぐそうやって有耶無耶にして順番をややこしくするっ!!」ググググ
時津風「うやむやにしてるのは皐月のほうっ!!にぎゅぐぐぐぐぐぐぐ~~~~~っっっ」ギリギリギリ
リモコン「どうか武運長久を……」バキィ
皐月・時津風「あ」
響「……」
皐月「…………」
時津風「…………」
電「……」
皐月「よく来たね、電。客間はしっかり掃除して片付けておいたから気兼ねなく休んでくれ」ポイ
時津風「しれーの妹さんのとこの子だよね、時津風だよ、よろしくね、ね」ポイ
響「おい」
電(4Kテレビのリモコンを争ってぶっ壊すくらいには平和なのです……)
……人情に満ちた、いいところ……とは、前述の通りなのですが
加えてなんだか、ひどく平和ボケているようにも思えるのです……
*
……夕刻。
結局、しばらく待っても司令官さんは帰ってきませんでした。
響ちゃんいわく、月曜島に戻る前に春島に寄っているのかもしれないな、とのことなのです。
月曜島を夕立秘書艦が、春島を武蔵さんが統括しているらしく
その間の情報の伝達やなんかを、司令官さんが生身で行っているのだとか。
このご時勢、ネットワークを通じれば簡単に情報のやり取りはできるのですが……
その体で訪れて、顔を見せることに意味があるそうなのです。
……電には、よくわからないのですが。
で、現在。
皐月「…………」
時津風「…………」モグモグ
響「…………」
電「…………」モグモグ
\オイニーチャン、ツイデニオコサマランチデモタノンデミチャドウダ/
\ヨソモンラシイナ……アンマミカケンカオダ/
電(本来の目的を忘れてみんなでふっるいアニメ見てるのです)
皐月「ていうかさ、電」
電「はいなのです」
皐月「電はそもそも、どうしてカレーを作るんだい?料理なら、他にもあるじゃないか。卵焼きとか」
時津風「あー、それねぇ。時津風も気になってた。」
電「そ……それは、えーっと……」
~~
天原『……好きな料理?』
電『なのです。』
天原『うーん……私は別段なんでも食べるよ。好き嫌いできなかったし』
電『だからなのです!なんでも食べる司令官さんに、特においしく食べてもらえる料理が知りたいのです!』
天原『特においしく、かぁ……』
天原『あ。じゃあ、あれだ。ほら、金曜日に食べる……』
電『カレーなのです?』
天原『そうそう、カレー。あれ私好きなんだよねぇ』
電『わ、わかったのです!じゃあ、今週のカレー当番は電に任せてほしいのですっ!』
天原『お、ほんと?じゃあ期待しちゃおうかなぁ』
電『北上さん、実はこれこれこうで』
北上『おー、そっかー。りょーかい、かってに持ってってー』
電『ありがたいのです!』
北上『使ったらもどしといてねー』
~~
響「……で、ヨーグルトとルーの比率が5:5のカレーを作ったと」
電「なのです」
皐月「……それ、別に司令官に教わらなくてもいいんじゃないかな」
電「で、でも綾波秘書艦のカレーはど級においしいのです!……それで」
時津風「秘密を聞いたら、しれーの名前、と」
電「なのですッ」
皐月「……なんつーか……結構な行動力っていうか、バイタリティにあふれてるっていうか」
響「来てくれたのは素直に嬉しかったけどね」
電「で、でもそのおかげで、ここのことをよく知れたし、みんなと交流できたのです」
時津風「時津風も、ともだちが増えたのは嬉しいなー」パタパタ
皐月「まぁ、それはそうなんだけどさ」
皐月「……しかし、司令官のためにおいしいカレーを……かぁ」
響「それがどうかしたのかい?」
皐月「なんか、花嫁修業みたいだなーって」
電「…………へッ!?」
時津風「あー、それおもった。なんか、新婚さんみたいだよね。料理って」
響「……まぁ、お決まりって感じはしたね」
皐月「カレーで秘書艦の座を……?」
電「ちちち違うのですッ!!電はただ、少しでも天原さんの疲れを癒やそうとっ」
皐月「…………」
響「……天原、さん。」
電「ああああああああああああ!!!なんでもないのです!!なんでもないのです!!!!」ブンブンブン
響(極度にあわてるところは私と似ているな)
皐月「わかった、よーくわかった。うん」
時津風「……応援せざるを得ないなー、これはー……」
電「ああああああああ、あああああ…………」
提督「いったいどうしたんだ、客間で騒がしい」ガラッ
時津風「あっ、しれー!」
皐月「司令官!帰ってたのかい」
提督「嗚呼、ついさっき戻ったところだが……」
電「………………」
提督「……?」
電(髪をおろした司令官さんに瓜二つなのですああでも隠れてる目は反対ですし目の色も銀色でちょっと怖くもありますが凛々しくもあってなのでなので)ブルブルブル
提督「……?あ、梅花のところの電か。だから騒がしかったのか、お前達」
響(ほら電、がんばれがんばれ)
電(な、なのでっ、なのですのですっので)プルプル
時津風「あのねぇ、電がねー、しれーにお願いしたいことがあるんだって」
提督「ああ、そうだったな。そのために海を渡ってきてくれたんだったな……それで、お願いとは?」
電(あ、え、えあ、えっと、何でしたっけああそうだ花嫁修業)
電「しっ、しっ、司令官さんの姉君さんっ」
提督「うむ」
電「い、いい電を」
電「電を、お嫁さんにしてほしいのです!!」
提督「……えっ?」
響「」
皐月「」
時津風「わぉ」
*
――食堂、調理場
提督「ふふふっ、はははははは!ああ、そういうことか!なるほど、なるほど……ふふふっ」
電「………………なのです……」
提督「そうだな、まさしく花嫁修業だ。電は間違ったことは言ってないぞ」トントントン
電「違うのですっ!!電はただ司令官さんの舌をうならせたいだけなのです!!」
提督「わかってるよ。うまい飯を作れるのは嫁に行くときの強みになると、ただそれだけのことさ」トントン……
電「……花嫁になる相手がいなくても、花嫁修業はできるのです……」
提督「うむ、そういうことだな……」
提督「……先人の築いた技術というのは、偉大なものだ」
電「……」
提督「電。確かな確率を求めるために必要な試行回数はいくつか、知っているか?」
電「確率……?……ええと、たしか……そう、二千回ぐらいなのです」
提督「そう。料理のレシピというのは、それよりももっとたくさんの試行錯誤を経て出来上がったものなんだ」
提督「だから、基本や応用なんてものは、料理には本来あるべきものではないのさ。だから、レシピとはつまるところ、模範解答というわけだ」コトコト……
電「…………」
提督「面白いだろう?このカレールウができるまで、それはそれは長い年月がかかったと考えると」
電「……なのです」
提督「数式の公式を作り出すよりずっと難しい答えがここに用意されてるんだ。わざわざそれに手をかける必要はないさ」
電「司令官さん……提督さんがカレーをつくるとき、特別なことは何もしていないのですね」
提督「あぁ。ただいつも通り、レシピ通りに作っているだけだ」
電「……」ズズ
電「……おいしいのです」
提督「だろう?」
電「具材を切り分けて、ルウを煮込んで、お肉を入れて…………特別難しいことはないのです」
提督「それでいいんだ。楽で美味いのがカレーのいいところさ。しかも日をまたいでも美味いときた」
提督「…………作ってたら、私も梅花のカレーが食いたくなってきたな」
電(ばいか……梅の花なのです)「……司令官さんも、カレーを作れるのですか?」
提督「そりゃあ作れるさ。カレーは不思議なものでな、レシピどおりに作ってもその人にしか出せない味が出てくるのさ」
電「そうなのですか……」
提督「だから、電にも電にしか作れないカレーが作れるんだ。カレーに限らず、いろいろ挑戦してみるといい」
電「……やってみる……のです」
卯月「おなかすいたぴょんー、ばんごはーん、ばんごはーん」
提督「もう出来上がるぞ、待たせて悪かったな」
電「…………」
*
――夜。
電は雪風ちゃんと同じ部屋で寝ることになりました。
休暇は二日いただいたので、明日の夕刻には帰ろうと思うのです。
天原姉妹は、姉が桜花で、妹が梅花。と、思わぬ収穫ともいえる知識を得たのです。
……どちらも日本の春の象徴といえる花で、なんだかかっこいいのです。
雪風「じゃあ、電気消すね」
電「はい。おやすみなさい、なのです」
雪風「うん。おやすみ」
……この日。
電は、不思議な夢を見ました。
海の上で、必死で戦っていて……
だけど、自分が生き残る気は微塵もなくて。
それ以上に、誰かを生き残らせることに、『 』は必死になっていました。
弾薬が尽きて、魚雷も撃ちつくして……
それでもまだ、戦いは終わらなくて。
誰も彼も沈んでいく中で、『 』は、真っ暗闇の中にかすかに見えた、旗艦へ探照灯を――
…………。
……そこで、目を覚ましたのです。
電「………………」
雪風「……あ、おはよう。」
電「……おはよう……雪風。」
雪風「今日はいい天気だなぁ……洗濯物、よく乾きそうだ」
電「……そうね。」
雪風「……?どうかした?」
電「いえ、なんでも……」
電「なんでもないのです」
*
・某月某日
提督「まともな歓迎ができなくて、すまなかったな」
電「いえいえ。お邪魔させていただいて、とても楽しかったし、勉強になったのです」
夕立「それならこっちとしても嬉しい限りっぽい。今度はもっと大勢で来てくれてもいいんだよ?相応の用意をしておくからねっ」
提督「特に梅花は引きずってでも連れて来てくれ。いい加減引きこもりすぎだからな」
電「わ、わかりました、なのです」
天龍「体に気をつけろよォ」
木曾「あんたが言うことかい、天龍さん」
響「雷に会ったら、響は元気だと伝えてくれ。ここからじゃ、そうそう本土には帰れないからね」
電「うん。しっかり伝えておくのです」
電「……それじゃあ」
電「ばいばーい、なのですっ」
卯月「ばいばいぴょーん」
睦月「また来てねーっ」
時津風「ばいばーーいっ」
皐月「またねー。」
雪風「ばいばぁいっ……」
*
……あとがき。
トラック泊地は、掃き溜めから激戦区となり……
……そして、ひとつの家庭となっていました。
わいのわいのと楽しげに騒ぐ姿は、艦娘と提督の……鎮守府という場所の、最上のあり方を示していたように思います。
……もっとも、電は、その彼女たちが出撃する姿をみることはなかったのですが。
家庭的すぎるように見えたのも、そのせいかと思うのです。
あれから料理のレパートリーも、少しだけど増えたのです。
綾波秘書艦に負けないよう、電は、料理をひとつの特技に昇華できるよう、がんばるのです!
*
天原「………………」モグ……
電「…………」
天原「うん、おいしい。お姉ちゃんの味だ、なつかしい」
電「やったのですっ」
天原「……でもね」
電「はい」
天原「大なべひとつ、まるごとカレーで埋めるって、どういうこと」コンモリ
電「大量に作れば分量は誤差の範囲で収まると桜花司令官が」
天原「…………」
電「加えて、日持ちもすると」
天原「…………うん、そっか」
綾波「まぁ、みんなで食べればいいじゃないですか。そしたらすぐになくなりますよ」
天原「いや、そうなんだけどさ」
天原「……今日、何曜日」
電「土曜日なのです!」
綾波「三日間はカレーですね、提督」
天原「……カツとか入れてアレンジしてみるかぁ」
綾波「そうですね」
電「電もお手伝いするのですっ!」
――PS.
なんだかんだ横須賀も平和なのです。
この平和を護るために電達は戦っているのだと、再度実感したのです。
でもカツはレ級さんが揚げたほうが断然おいしかったのです。
このSSへのコメント