レ級「鎮守府の飯も、悪くないよ」提督「そうか」
※SS処女作です
※深海棲艦の設定や提督にオリジナル要素が強め
『トラック泊地シリーズ』
……………………
波が打ち寄せる。波が返る。
砂浜の布団に寝転がって、海水の毛布をかぶって寝転がっていると、
ああ自分は今、ここで生まれたんだろうかとふと思う。
無論、それは朦朧とした意識が創った錯覚に過ぎない。
自分で自分の姿を視認することはできないが
たぶん僕は、大陸間を渡った土砂や瓦礫やゴミと同じように、この砂浜に打ち捨てられている。
動き出そうにも、手足に力が入らない。
思考を浮かべるだけで精一杯だ。
……ん。
いや、手足が残っているのか。
華奢な腕に、馬蹄のような足……
飛行甲板と砲塔……尻尾がないから、てっきり五体不満足なのだと思っていた。
とはいえ、それがどうした。
自分は敗北したひとりだ。撃沈され帰還することもできず
砂浜に打ち上げられた艦艇になんの価値がある。
自沈もままならないというなら、もう、眠ってしまう他に無い。
砂浜の布団に転がり、海水の毛布をかぶって、生まれたての赤子のように眠ってしまえばいい。
そうすれば、そのうち――――
*
――――。
――?
……足音がする。
ざくざくと砂浜を踏み鳴らし、だんだんとこちらに近づく足音がする。
艦娘か?
いや、それにしては歩き方が力強すぎる。
海よりも陸で生きた時間の方が長いことを示す歩き方だ。
耳元で足音が止む。
嗚呼、もうどうでもいい。
殺すなら殺せばいい。殺さないなら好きにすればいい。
僕の腹を裂いたところで、出てくるのは……
「よ……ぃ、しょっと」
ふわ、と体が持ち上がる。
あまりにも体が抵抗を感じない、優しい持ち上げられ方だったから
てっきり自分がそのまま空に浮いたのかとすら勘違いした。
ごろん、と誰かの腕の中で体が転がり、自分を持ち上げた者の顔と目が合う。
瞳の色は銀。濡れた烏のような色の長い黒髪。
片側だけ伸びた髪は、片目を覆い隠していた。
……そして……白い軍帽に白い軍服…………?
…………??
「……こいつ、生きてるのか?……目は動いたし……大丈夫か」
顔をしかめてそう呟いた、この女は、僕を赤子のように抱き上げたまま、さっさと歩き始めた。
猛烈に嫌な予感と、妙な気力が湧いてきて、僕はこいつに反抗したくなった。
「……おい。あんた。僕をどうするつもりだ」
「ああ、あまり暴れるなよ。落っことしたら大変だからな」
「……。聞いてるのか?あんた、僕を」
「まぁ、元気があるのはいいことか。飯は食えるか?」
「………… ……は?」
「だから、飯は食えるのか?砂とか飲み込んでないか?喉に傷がついていたら大変だ」
「………………。」
……こいつは、なんなんだ?
疑問はつきなかったし、その横っ面をひっぱたいてやろうかとも思ったが
事実、僕は腹を空かしていたから、こいつの問いかけに、真面目に答えるしかなかった。
「…… …………食えるよ」
「おお、そうか。いかつい犬歯もあるものな、よしよし」
……。
僕は、いったいどこに連れていかれるんだ?
*
「…………。」
「いやー、さっぱりしたな。人がいないとああも広いのか、入渠施設は」
「…………」
「体も洗ったし、飯にするか。魚は食えるか?共食いにならんか?」
「……ならねえよ。僕らをなんだと思ってるんだ」
……心底、こいつが解らない。
身なりは将官……一提督のそれだ。
胸元についた勲章の数と、肩章の星の数、線の太さから、こいつは少将であることが解った。
しかし……こいつの立ち位置が解ったところで、この状況の理解と打破には至らない。
こいつは、まず僕を風呂に放り込み、ひとしきり体を洗った後、自分も湯船に暫く浸かった。
その間に会話は無く、僕が呆れてさっさと出ようとしたら、こいつも続いて出てきた。
入渠施設……ドックは海に面していて
帰投した艦隊が直接入渠できるようになっていた。
深海のものとは違う入渠施設でダメージが修復するわけがなかったが、
それでも大分心労はとれたようだった。
そして、さっさとどこかを目指すこいつの後を追い
現在のこの状況である。
長い髪をくるくると巻いて頭に乗せ、上からタオルをかぶった姿は到底司令官には見えない。
着ている服もバスローブときた。
僕の着用していた衣服は洗濯機に放り込まれたから、着ているものは僕も同じなのだが。
幾度となく後ろから奇襲を決め込んでやろうと思ったものの、腹が空いていて満足に動けない。
とりあえず飯だけ食って、その後ここを制圧するか……――
――そう思ったところで、ここの異変に気づいた。
「……なぁ。おい」
「なんだ?サバは嫌いか?贅沢な奴だな、他にはブリとシーチキンしか無いぞ」
「そうじゃない。……ここは鎮守府だろ?艦娘はどうした」
「ああ、そんなことか」
振り返りもせず、そう答えやがった。
……。
そんなこと、なのか?
「ここ月曜島の艦娘はみんな遠征に出払ってる。東に行けば会えるが、今は彼女らも演習の真っ只中だ、相手にはされんぞ」
…………。
「……僕は――――」
お前らの敵だろうが、と言おうとした瞬間だった。
「ついたぞ」
足が止まり、背中にぶつかりそうになったところで僕も止まる。
目の前には、赤レンガの建物……
…………紛れもない僕らの爆撃の標的が、ずんと腰を据えていた。
「…………。」
絶句。
という言葉を表すのに、これ以上無い。
ぎい、と木の扉が開く。
贅沢にも空調をきかせているのか、冷たい風が中からふわりと吹いてきた。
「ほら、いつまでつっ立っている。さっさと入れ」
「…………。」
……たぶん、史上ではじめてのことではないだろうか。
僕は、こうして敵の拠点へ招待された。
*
罠かもしれない。
と、入ってから思った僕の頭は、どうやらすっかり腐れきっていたらしい。
こいつの妙な毒気にあてられたのだろうか。深海を支える一兵士が、敵に誘われるまま本拠地へ招かれるなど、断じてあってはならないことじゃないか。
……ああ、いや。
僕はもう沈んでいるから、関係のないことか。
うつむきながら考え事をしていたら、いつの間にか、執務室、と書かれた部屋に入らされていた。
窓からは港が見える。クレーンがせわしなく動いている様子から、どうやら人の気はあるらしかった。
「長々と歩かせて悪かったな。適当に腰かけて待っていてくれ」
そういってこの場を後にしようとしたそいつを、僕は少し引き留めてやることにした。
「待てよ。……さっきからあんた、どういうつもりだ?打ち上げられた敵艦艇を、鹵獲したつもりなのか?だったらお笑いだな。僕は生憎と兵装の一切を失っているし、腹を裂いたところで得られるものもない。……こんなこと」
こんなこと、無意味だぞ、と言おうとした。
艦隊を支えるべき存在でありながら、容易く沈められた自分に対する自嘲を含めていた。
が。
それに対するこいつの反応は、溜め息をつきたくなるようなものだった。
「かんてい?ろかく?」
はじめて聞くぞそんな言葉、とでも言いたげに小さく首をかしげる。
妙に癪に障る仕草である。
「何を言っているんだ、私は砂浜に打ち上げられていた女の子を保護したにすぎん。けして、敵の主力である戦艦レ級を鹵獲したなどと、そんな馬鹿げたことをしたつもりは無い」
お前は最早、艦艇ですらないじゃないか。
と。
そう言っていた。
自嘲すらしてみせようとしたというのに、いざ面と向かってそう侮蔑を突きつけられると、到底黙ってはいられなかった。
拳を握り、牙を剥き出して、こいつの喉笛に食らい付いてやろうか――そう思った瞬間。
全身から一気に力が抜け出て、がくん、と膝が曲がる。押し隠していた疲労がとたんに吹き出したらしく、砂浜で寝転がっていたときのように、今度は執務室のカーペットにべたりと寝転んでしまった。
「……っ…………」
「おう、大丈夫か?すぐ飯を用意してやるから待ってろ」
砂浜で僕を持ち上げたように、また抱き抱え、僕をソファに寝かせる。
どうしてこうも抱き上げるのに慣れているのか、その理由を聞く気にもならなかった。
「肉と魚、どっちがいい?」
魚しかないんじゃなかったのか。
僕は目を向けずに答えた。
「……肉」
「そうか」
「まあ、魚肉しか無いんだが」
僕はこいつが心底嫌いだ。
*
飯を食いながら、僕は、この泊地についての説明を聞いた。
ここはトラック諸島と呼ばれている場所で、
最前線の重要拠点なのだと。
四季七曜の名をつけられた各島には、艦娘の寝床や簡易入渠施設、飛行場などがあり
戦艦空母などの主力である第一艦隊は春島、水雷戦隊である第二艦隊はここ月曜島、
第一艦隊の護衛をつとめる第三艦隊は夏島、遠征部隊である第四艦隊は秋島に居り、
狭苦しいが場所をもて余しているという、奇妙な場所であると説明された。
「……西には何があるんだ?」
「南北に別れた大きな水曜島や、金曜島なんかがあるな。あそこには小さいが町がある。深海棲艦の驚異に晒されている場所だというのに、撤退もせずに居座っているよ」
「…………信頼されてるんだな。お前ら」
「む。まぁな。最前線に送り込まれて、どうにかこうにか頑張っていたら、いつのまにか評価されていた。こっちとしては楽をしたいんだが」
「こっちとしては、楽をさせてる場合じゃないんだけどな」
実に奇妙な食事の場である。
多少ここの雰囲気に慣れてきた僕は、もっとも気にかかっていることを質問した。
「なぁ。これから僕をどうするつもりだ?」
「ん……別にとって食おうとしているわけじゃないぞ。ただ、この泊地はそう資源に困っているわけではない……」
「……自分のことは自分で決めればいい。お前はこうして生きてるんだから、何日でも何ヵ月でも悩んでくれてかまわんぞ」
……
僕自身の答えが決まるまで、ここに置く。
ということか。
……いよいよもって、こいつの正気を疑いたくなる。
「……深海に帰って、ここのことを報告するかもしれないだろうが。いや、するけど。……お前、本当にそれでいいのか?」
「それならそれで構わんよ。来る敵は艦隊の総力をもって迎え撃つだけだ」
「…………。」
結局……それから飯を食い終わるまで、互いが互いに口を開くことは無かった。
こいつは謎に満ちた女で、すべての行動原理が謎だ……と、そう思っていたが、
先程の会話から、なにか、違和のようなものを感じた。
あいつの本心など、知りもしないが
「迎え撃つだけだ」と言ったあいつの口ぶりが、妙に嘘臭かった――というより
僕には、適当に言い繕ったように聞こえた。
*
一人になった。
あいつは、食器を片付けて執務室をあとにして以来、戻ってこない。
一人で居座るここの執務室は妙に静かで、寂しく
それでいて、妙な心地よさもあった。
黒ぶちの窓の向こう側を眺めてみる。
空が見える。
水面を通さずに見る空が美しいことは知っていた。
けれど、いざ陸にあがり、空をみると
本当に清々しくて、綺麗に思えた。
……僕の艦載機はあそこを飛んでいるんだよな。
陸から見下ろす海は、なんだか、空と見分けがつかなかった。
「外は珍しいか、深海棲艦」
そう声をかけられて、ふと扉の方を見ると、
扉の前に金髪の少女が立っていた。
いや……少女、と例えるには、あまりにも釣り合っていない気がする。
跳ねて耳のようにみえるくせ毛、黒いリボン、金色の髪留めはいい。
そこではなくて、奥底に殺意を見え隠れさせる紅い眼に、一切の油断を覗かせない表情……
何よりも、佇まいが、彼女を少女でなくしていた。
「……白露型の制服――あんたは」
「そう。白露型駆逐艦四番艦、夕立。宜しくね」
「……夕立…………か」
「……いや、提督さんに報告にきたのはいいけど、肝心の提督さんがみえないときた……第二艦隊、帰投したんだけどな……」
はあ、とため息をつきつつ、すたすたと執務室に入ってくる夕立。
片脇には大きな封筒を抱えていて、かすかな硝煙の匂いがふわりと漂った。
そしてそのまま、ぼふんっ、と僕の横に腰かける。
「レっきゅん、なにか知らない?」
「提督なら…… ……レっきゅん!?」
「ん。たぶんあなたレ級だよね。だから、レっきゅん。なにか知らない?」
「……。提督なら食器を片付けに行ったよ、さっき僕と食事したんだ」
……ここは提督がああも自由なら、艦娘まで自由なのか?
いちいち突っ込む気にもならず、僕はまともに答えてやった。
「あー、じゃあキッチンか……判った、ありがとね」
聞くや否や、さっさと立ち上がり、その場をあとにしようとする夕立。
思わず、僕は、ちょっと待てとその背中を引き留めた。
「ん?」
「……お前は、なんとも思わないのか?僕がこうやって執務室に居ることに」
「うん」
即答だった。
こくりと頷いて肯定した夕立は、そのまま言葉を紡ぐ。
「提督さんが深海棲艦を連れ込むことは何度かあったから。それも例外なく、今にも呼吸を止めそうな子を、ね。」
……
「……何だって?」
「最初はチっきゅんで……次にリっきゅん、ヨっきゅん……だったなぁ。みんな、提督さんが連れてきて、ここでしばらく休ませてたよ」
……雷巡チ級、重巡リ級、潜水ヨ級……
そう呼ばれていたのだったか……?
「……それで……どうなった」
「みんな、同じ場所で眠った。そこに辿り着いた瞬間、ただでさえ絶え絶えだった呼吸がぴたりと止まって――」
「――ふわっと笑って、眼を閉じるんだ」
……赤く。
紅く、朱く。
燃えて、衝動のままに、艦娘の首を、へし折ろうと掴んだ。
「………――何、ノ」
「つもり、だ?」
艦娘は――夕立は首元の僕の手をそっと握り
顔色を微塵も変えずに答えた。
「慰霊だよ」
「海に生まれ、海に身を捧げた者達への……提督の、せめてもの、行い」
…………。
体のうちで燃え盛っていたものが引き、首を絞める手から力が抜ける。
「……そうかよ」
はっ……と、この上なく静かに夕立は息を整えた。
「……あとで、あなたも来てくれないかな。あの子たちの慰霊の場に」
「あなたは先に来た誰よりも……活きてるから」
…………。
しばらく立ち止まった後。
夕立は、すっと踵を返し、歩いていった。
*
「夕立に会ったのか?」
しばらくして、執務室に戻ってきたこいつは、真っ先にそう聞いてきた。
白い軍服に白い軍帽。
この姿なら、どこから見ても提督だ。
憎たらしいほどに。
「……会ったよ」
「……そうか。……何を、話した?」
「…………」
「その前に、質問に答えてくれ」
「……。何だ?」
「あんたは、どうして、こんなことをする?」
「…………」
ソファに深く腰かけて、うなだれたまま、僕は問いかけた。
提督はその場を腰を降ろし、机を隔て、僕の前で正座した。
「私には、殺すことしか出来ん」
その眼は真っ直ぐ僕を見ていた。
「私は軍人だ。人を殺す術を学び、人を殺す策を練り、人を殺す陣を組む。天地がかえろうと、その事実は変わらない。明日も、明後日も、私は人を殺すために生きる」
「…………」
「故に」
「私は、同じ人殺しを、人殺しとして弔いたいんだ」
「……」
こいつのことが、ようやくひとつ判った気がする。
こいつの言う「人」は、艦だ。
そして「人殺し」とは、軍人だ。
こいつは……
「……僕ら、深海棲艦を……艦娘と同じように弔いたいのか。……軍人として……提督として」
「…………。」
僕を見つめていた眼が、顔と一緒に小さく下を向く。
それはたぶん、こいつなりの頷き、肯定だろう。
どこまでも不器用な奴だ。
そう、僕は思った。
「……連れてけ」
立ち上がり、見下ろして、僕は言った。
「あいつらの所に、僕も連れていけ」
日が、もうすぐ沈もうとしていた。
*
落ち葉を踏みつぶして進む。
木々が進む者を迎えるように並んでいる。
洗い立てで乾いたばかりの僕の服は、すっかり葉っぱまみれになった。
「まだ先か?」
目の前を行く軍人は、自分の髪が服が汚れようと、全く気にする素振りも見せずに進んでいく。
「いや、もうすぐだ」
草や落ち葉だらけではあるものの、足場は踏み固められていて、道ができていて歩きやすかった。
「あんたは、この道を何度も通ってるのか?」
「日課だ。ちょうど、このくらいの時間のな」
木漏れ日が強く射し込んでくる。
出口が近いようだ。
木の葉のカーテンを押し退けた瞬間、眩しくて目を細めた。
それも一瞬で慣れ、細めた眼を開けた瞬間、僕は、暁の水平線を見た。
全身が硬直する。
水平線に沈む夕陽、それを写す琥珀色の海。
その何もかもが、僕の心を停止させるほど、美しかった。
「ここだ」
提督の声で、はっと意識を取り戻す。
目の前には黒い石碑があった。
「みんな、導かれるようにここで逝った」
今まで聞いた中で、最も悲壮に満ちた声で、彼女は言った。
あまりにも美しいその日の入りが、ここに辿り着いた彼女たちを導いたのだろう。
僕は、黒い石碑の前で膝をつき、刻まれた文字を読んだ。
ここに眠る、とも、海ゆかば、とも書かれていなかった。
そこには、ただ、三人の同胞の名が刻まれていた。
「…………」
「……みな」
石碑に手を沿える。
すぐそばに彼女たちがいるような気がした。
「今際に自分の名を教えてくれた」
石碑は冷たかった。
とても遠くに彼女たちは行ってしまったのだと気づいた。
「だから、こうして、彼女たちを弔える」
「海へと還った彼女たちを、確かなものに出来る」
深海棲艦が。
沈んだ後どうなるか、僕は知らない。
海にとけて消えるのか。
艦娘となって転生するのか。
鉄屑と化して海底に沈むのか。
そのどれであろうとも、
深海棲艦であった彼女たちは、
僕と共に戦った彼女たちは
沈んでしまえば、二度と、その形を得ることは出来なかった。
個として弔うことなど、願うことすら出来なかった。
けれど。
目の前に、その彼女たちの名がある。
手を伸ばせば届きそうな程遠くに、彼女たちが居る。
体に満ちていた力のすべてが、液体になって眼から溢れ出た。
声は出なかった。
ふらり、と、後ろに倒れそうになった。
けれど、背中と頭を打つことは無かった。
あいつの腕に抱き止められた。
「僕でも」
「…………涙を流せたのか」
「赦して、くれ」
「戦いを終わらせられない、私達を、赦してくれ」
かすれた声で、彼女はそう言っていた。
そんな声も出せたのか、と僕は思った。
「……なあ、提督」
「…… ……?」
「……僕の名はな」
*
大淀「提督。第四艦隊、帰投しました」
提督「ああ、お疲れ様。補給を終えたら、宿舎でゆっくり休んでくれ」
卯月「うーちゃん、鼠輸送はもう疲れたぴょん……」
響「仕方ないよ。先日、ようやく第二次サーモン海戦を終えたばかりなんだ、資材も修復材も底を尽きている」
卯月「それは判ってるけど……」
提督「今日の夕飯はデザートに間宮の羊羮を用意したから許してくれ、卯月。いつもありがとう」
卯月「ぴょん!!?さすが提督ぴょん!!今日は一段と素敵っ!!」
叢雲「……あんた、頭の中までウサギなわけ……?」
睦月「でも嬉しいなぁ……間宮さんの羊羮、久しぶりだし。」
皐月「アイスもいいけど、やっぱり羊羮もね。ありがとう、司令官」
提督(まあ私が食べたかったからなんだが)
夕立「提督さん、第三艦隊も帰投完了。これで全員だよ」
提督「ああ、お疲れさま。ありがとう」
卯月「ぴょっ!?夕立秘書艦っ!?」
大淀「各員、夕立秘書艦に敬礼。」
\ザッ/ \ぴょんっ/
夕立「お疲れさま。怪我もしてないね、よしよし……じゃあ行こうか、みんな」
*
提督「……ふう。食べた、食べた」
木曾「……提督、羊羮一本まるごと食ったのか?食い過ぎじゃねえか、それ」
提督「頭脳労働に糖分は不可欠だ……ぅえっぷ」
木曾「限界近いじゃねえか……食事ぐらい無理すんなよなぁ」
提督「無理などしていないぞ。ただ食べたいだけ食べただけで」
木曾「腹八分目って言葉を知らねえのか。動けなくなるまで食ったら駄目だろうが、ったく」
提督「……木曾は厳しいなぁ」
夕立「あの子、第三艦隊の旗艦になってからちょっとオカンっぽい。いいことだけど。」
赤城「クククっ……満腹の沙汰ほど……飯は美味いっ……!」
提督「赤城もああ言ってるしいいと思うんだがなぁ」
夕立「あれは真似しちゃ駄目っぽい」
提督「レっきゅんはどうだ、美味いか?」
レ級「レっきゅん言うな。レ級でいいから」
提督「本当か?名前で呼ばなくていいのか?」
レ級「実名はもっと恥ずかしいっつーの!!いいよもうレっきゅんで……」
夕立「レっきゅん」
赤城「レっきゅんっ……!!」
レ級「…………おまえら。」
提督「……レ級。」
レ級「何だよ。」
提督「……後悔はしていないか?」
レ級「全然。もう艤装を背負えるほどの体力も無いし、あいつらの墓参りも出来るしな」
提督「……そうか」
レ級「……まぁ……なんだ」
レ級「鎮守府の飯も、悪くないよ」
提督「そうか」
以上、提督(プレイヤー)のわがままでした
レ級だいすき
狂気じみた笑顔の裏には
仲間だいすきな思いがあるんだよ
レ級とお風呂入りたい
このSSへのコメント