2016-01-12 02:00:28 更新

前書き

※SS処女作です
※深海棲艦の設定や提督にオリジナル要素が強め

『トラック泊地シリーズ』



……………………


波が打ち寄せる。波が返る。


砂浜の布団に寝転がって、海水の毛布をかぶって寝転がっていると、

ああ自分は今、ここで生まれたんだろうかとふと思う。


無論、それは朦朧とした意識が創った錯覚に過ぎない。

自分で自分の姿を視認することはできないが

たぶん僕は、大陸間を渡った土砂や瓦礫やゴミと同じように、この砂浜に打ち捨てられている。


動き出そうにも、手足に力が入らない。

思考を浮かべるだけで精一杯だ。


……ん。

いや、手足が残っているのか。


華奢な腕に、馬蹄のような足……

飛行甲板と砲塔……尻尾がないから、てっきり五体不満足なのだと思っていた。


とはいえ、それがどうした。

自分は敗北したひとりだ。撃沈され帰還することもできず

砂浜に打ち上げられた艦艇になんの価値がある。


自沈もままならないというなら、もう、眠ってしまう他に無い。

砂浜の布団に転がり、海水の毛布をかぶって、生まれたての赤子のように眠ってしまえばいい。

そうすれば、そのうち――――






――――。


――?


……足音がする。


ざくざくと砂浜を踏み鳴らし、だんだんとこちらに近づく足音がする。

艦娘か?

いや、それにしては歩き方が力強すぎる。

海よりも陸で生きた時間の方が長いことを示す歩き方だ。


耳元で足音が止む。


嗚呼、もうどうでもいい。

殺すなら殺せばいい。殺さないなら好きにすればいい。

僕の腹を裂いたところで、出てくるのは……


「よ……ぃ、しょっと」


ふわ、と体が持ち上がる。

あまりにも体が抵抗を感じない、優しい持ち上げられ方だったから

てっきり自分がそのまま空に浮いたのかとすら勘違いした。


ごろん、と誰かの腕の中で体が転がり、自分を持ち上げた者の顔と目が合う。

瞳の色は銀。濡れた烏のような色の長い黒髪。

片側だけ伸びた髪は、片目を覆い隠していた。

……そして……白い軍帽に白い軍服…………?


…………??


「……こいつ、生きてるのか?……目は動いたし……大丈夫か」


顔をしかめてそう呟いた、この女は、僕を赤子のように抱き上げたまま、さっさと歩き始めた。

猛烈に嫌な予感と、妙な気力が湧いてきて、僕はこいつに反抗したくなった。


「……おい。あんた。僕をどうするつもりだ」


「ああ、あまり暴れるなよ。落っことしたら大変だからな」


「……。聞いてるのか?あんた、僕を」


「まぁ、元気があるのはいいことか。飯は食えるか?」


「………… ……は?」


「だから、飯は食えるのか?砂とか飲み込んでないか?喉に傷がついていたら大変だ」


「………………。」



……こいつは、なんなんだ?


疑問はつきなかったし、その横っ面をひっぱたいてやろうかとも思ったが

事実、僕は腹を空かしていたから、こいつの問いかけに、真面目に答えるしかなかった。


「…… …………食えるよ」


「おお、そうか。いかつい犬歯もあるものな、よしよし」


……。


僕は、いったいどこに連れていかれるんだ?




 


「…………。」


「いやー、さっぱりしたな。人がいないとああも広いのか、入渠施設は」


「…………」 


「体も洗ったし、飯にするか。魚は食えるか?共食いにならんか?」


「……ならねえよ。僕らをなんだと思ってるんだ」


……心底、こいつが解らない。


身なりは将官……一提督のそれだ。

胸元についた勲章の数と、肩章の星の数、線の太さから、こいつは少将であることが解った。

しかし……こいつの立ち位置が解ったところで、この状況の理解と打破には至らない。


こいつは、まず僕を風呂に放り込み、ひとしきり体を洗った後、自分も湯船に暫く浸かった。

その間に会話は無く、僕が呆れてさっさと出ようとしたら、こいつも続いて出てきた。


入渠施設……ドックは海に面していて

帰投した艦隊が直接入渠できるようになっていた。

深海のものとは違う入渠施設でダメージが修復するわけがなかったが、

それでも大分心労はとれたようだった。


そして、さっさとどこかを目指すこいつの後を追い

現在のこの状況である。


長い髪をくるくると巻いて頭に乗せ、上からタオルをかぶった姿は到底司令官には見えない。

着ている服もバスローブときた。

僕の着用していた衣服は洗濯機に放り込まれたから、着ているものは僕も同じなのだが。


幾度となく後ろから奇襲を決め込んでやろうと思ったものの、腹が空いていて満足に動けない。

とりあえず飯だけ食って、その後ここを制圧するか……――

――そう思ったところで、ここの異変に気づいた。


「……なぁ。おい」


「なんだ?サバは嫌いか?贅沢な奴だな、他にはブリとシーチキンしか無いぞ」


「そうじゃない。……ここは鎮守府だろ?艦娘はどうした」


「ああ、そんなことか」


振り返りもせず、そう答えやがった。

……。

そんなこと、なのか?


「ここ月曜島の艦娘はみんな遠征に出払ってる。東に行けば会えるが、今は彼女らも演習の真っ只中だ、相手にはされんぞ」


…………。


「……僕は――――」


お前らの敵だろうが、と言おうとした瞬間だった。


「ついたぞ」


足が止まり、背中にぶつかりそうになったところで僕も止まる。

目の前には、赤レンガの建物……

…………紛れもない僕らの爆撃の標的が、ずんと腰を据えていた。


「…………。」


絶句。

という言葉を表すのに、これ以上無い。


ぎい、と木の扉が開く。

贅沢にも空調をきかせているのか、冷たい風が中からふわりと吹いてきた。



「ほら、いつまでつっ立っている。さっさと入れ」


「…………。」


……たぶん、史上ではじめてのことではないだろうか。


僕は、こうして敵の拠点へ招待された。





罠かもしれない。


と、入ってから思った僕の頭は、どうやらすっかり腐れきっていたらしい。

こいつの妙な毒気にあてられたのだろうか。深海を支える一兵士が、敵に誘われるまま本拠地へ招かれるなど、断じてあってはならないことじゃないか。


……ああ、いや。

僕はもう沈んでいるから、関係のないことか。


うつむきながら考え事をしていたら、いつの間にか、執務室、と書かれた部屋に入らされていた。 

窓からは港が見える。クレーンがせわしなく動いている様子から、どうやら人の気はあるらしかった。


「長々と歩かせて悪かったな。適当に腰かけて待っていてくれ」


そういってこの場を後にしようとしたそいつを、僕は少し引き留めてやることにした。


「待てよ。……さっきからあんた、どういうつもりだ?打ち上げられた敵艦艇を、鹵獲したつもりなのか?だったらお笑いだな。僕は生憎と兵装の一切を失っているし、腹を裂いたところで得られるものもない。……こんなこと」


こんなこと、無意味だぞ、と言おうとした。


艦隊を支えるべき存在でありながら、容易く沈められた自分に対する自嘲を含めていた。


が。

それに対するこいつの反応は、溜め息をつきたくなるようなものだった。


「かんてい?ろかく?」


はじめて聞くぞそんな言葉、とでも言いたげに小さく首をかしげる。

妙に癪に障る仕草である。


「何を言っているんだ、私は砂浜に打ち上げられていた女の子を保護したにすぎん。けして、敵の主力である戦艦レ級を鹵獲したなどと、そんな馬鹿げたことをしたつもりは無い」


お前は最早、艦艇ですらないじゃないか。


と。

そう言っていた。


自嘲すらしてみせようとしたというのに、いざ面と向かってそう侮蔑を突きつけられると、到底黙ってはいられなかった。

拳を握り、牙を剥き出して、こいつの喉笛に食らい付いてやろうか――そう思った瞬間。

全身から一気に力が抜け出て、がくん、と膝が曲がる。押し隠していた疲労がとたんに吹き出したらしく、砂浜で寝転がっていたときのように、今度は執務室のカーペットにべたりと寝転んでしまった。


「……っ…………」


「おう、大丈夫か?すぐ飯を用意してやるから待ってろ」


砂浜で僕を持ち上げたように、また抱き抱え、僕をソファに寝かせる。

どうしてこうも抱き上げるのに慣れているのか、その理由を聞く気にもならなかった。


「肉と魚、どっちがいい?」


魚しかないんじゃなかったのか。


僕は目を向けずに答えた。


「……肉」


「そうか」



「まあ、魚肉しか無いんだが」


僕はこいつが心底嫌いだ。







飯を食いながら、僕は、この泊地についての説明を聞いた。


ここはトラック諸島と呼ばれている場所で、

最前線の重要拠点なのだと。

四季七曜の名をつけられた各島には、艦娘の寝床や簡易入渠施設、飛行場などがあり

戦艦空母などの主力である第一艦隊は春島、水雷戦隊である第二艦隊はここ月曜島、

第一艦隊の護衛をつとめる第三艦隊は夏島、遠征部隊である第四艦隊は秋島に居り、

狭苦しいが場所をもて余しているという、奇妙な場所であると説明された。


「……西には何があるんだ?」


「南北に別れた大きな水曜島や、金曜島なんかがあるな。あそこには小さいが町がある。深海棲艦の驚異に晒されている場所だというのに、撤退もせずに居座っているよ」


「…………信頼されてるんだな。お前ら」


「む。まぁな。最前線に送り込まれて、どうにかこうにか頑張っていたら、いつのまにか評価されていた。こっちとしては楽をしたいんだが」


「こっちとしては、楽をさせてる場合じゃないんだけどな」



実に奇妙な食事の場である。


多少ここの雰囲気に慣れてきた僕は、もっとも気にかかっていることを質問した。


「なぁ。これから僕をどうするつもりだ?」


「ん……別にとって食おうとしているわけじゃないぞ。ただ、この泊地はそう資源に困っているわけではない……」


「……自分のことは自分で決めればいい。お前はこうして生きてるんだから、何日でも何ヵ月でも悩んでくれてかまわんぞ」


……



僕自身の答えが決まるまで、ここに置く。

ということか。


……いよいよもって、こいつの正気を疑いたくなる。


「……深海に帰って、ここのことを報告するかもしれないだろうが。いや、するけど。……お前、本当にそれでいいのか?」


「それならそれで構わんよ。来る敵は艦隊の総力をもって迎え撃つだけだ」


「…………。」




結局……それから飯を食い終わるまで、互いが互いに口を開くことは無かった。


こいつは謎に満ちた女で、すべての行動原理が謎だ……と、そう思っていたが、

先程の会話から、なにか、違和のようなものを感じた。


あいつの本心など、知りもしないが

「迎え撃つだけだ」と言ったあいつの口ぶりが、妙に嘘臭かった――というより

僕には、適当に言い繕ったように聞こえた。






一人になった。

あいつは、食器を片付けて執務室をあとにして以来、戻ってこない。



一人で居座るここの執務室は妙に静かで、寂しく

それでいて、妙な心地よさもあった。


黒ぶちの窓の向こう側を眺めてみる。


空が見える。



水面を通さずに見る空が美しいことは知っていた。

けれど、いざ陸にあがり、空をみると

本当に清々しくて、綺麗に思えた。


……僕の艦載機はあそこを飛んでいるんだよな。



陸から見下ろす海は、なんだか、空と見分けがつかなかった。



「外は珍しいか、深海棲艦」



そう声をかけられて、ふと扉の方を見ると、

扉の前に金髪の少女が立っていた。


いや……少女、と例えるには、あまりにも釣り合っていない気がする。

跳ねて耳のようにみえるくせ毛、黒いリボン、金色の髪留めはいい。

そこではなくて、奥底に殺意を見え隠れさせる紅い眼に、一切の油断を覗かせない表情……

何よりも、佇まいが、彼女を少女でなくしていた。


「……白露型の制服――あんたは」


「そう。白露型駆逐艦四番艦、夕立。宜しくね」


「……夕立…………か」


「……いや、提督さんに報告にきたのはいいけど、肝心の提督さんがみえないときた……第二艦隊、帰投したんだけどな……」


はあ、とため息をつきつつ、すたすたと執務室に入ってくる夕立。

片脇には大きな封筒を抱えていて、かすかな硝煙の匂いがふわりと漂った。

そしてそのまま、ぼふんっ、と僕の横に腰かける。


「レっきゅん、なにか知らない?」


「提督なら…… ……レっきゅん!?」


「ん。たぶんあなたレ級だよね。だから、レっきゅん。なにか知らない?」


「……。提督なら食器を片付けに行ったよ、さっき僕と食事したんだ」


……ここは提督がああも自由なら、艦娘まで自由なのか?

いちいち突っ込む気にもならず、僕はまともに答えてやった。


「あー、じゃあキッチンか……判った、ありがとね」


聞くや否や、さっさと立ち上がり、その場をあとにしようとする夕立。

思わず、僕は、ちょっと待てとその背中を引き留めた。


「ん?」


「……お前は、なんとも思わないのか?僕がこうやって執務室に居ることに」


「うん」


即答だった。

こくりと頷いて肯定した夕立は、そのまま言葉を紡ぐ。


「提督さんが深海棲艦を連れ込むことは何度かあったから。それも例外なく、今にも呼吸を止めそうな子を、ね。」


……


「……何だって?」



「最初はチっきゅんで……次にリっきゅん、ヨっきゅん……だったなぁ。みんな、提督さんが連れてきて、ここでしばらく休ませてたよ」


……雷巡チ級、重巡リ級、潜水ヨ級……

そう呼ばれていたのだったか……?


「……それで……どうなった」




「みんな、同じ場所で眠った。そこに辿り着いた瞬間、ただでさえ絶え絶えだった呼吸がぴたりと止まって――」


「――ふわっと笑って、眼を閉じるんだ」




……赤く。


紅く、朱く。


燃えて、衝動のままに、艦娘の首を、へし折ろうと掴んだ。



「………――何、ノ」


「つもり、だ?」




艦娘は――夕立は首元の僕の手をそっと握り

顔色を微塵も変えずに答えた。



「慰霊だよ」


「海に生まれ、海に身を捧げた者達への……提督の、せめてもの、行い」



…………。


体のうちで燃え盛っていたものが引き、首を絞める手から力が抜ける。


「……そうかよ」


はっ……と、この上なく静かに夕立は息を整えた。


「……あとで、あなたも来てくれないかな。あの子たちの慰霊の場に」



「あなたは先に来た誰よりも……活きてるから」



…………。



しばらく立ち止まった後。

夕立は、すっと踵を返し、歩いていった。








「夕立に会ったのか?」


しばらくして、執務室に戻ってきたこいつは、真っ先にそう聞いてきた。

白い軍服に白い軍帽。

この姿なら、どこから見ても提督だ。


憎たらしいほどに。



「……会ったよ」


「……そうか。……何を、話した?」


「…………」



「その前に、質問に答えてくれ」


「……。何だ?」


「あんたは、どうして、こんなことをする?」



「…………」


ソファに深く腰かけて、うなだれたまま、僕は問いかけた。


提督はその場を腰を降ろし、机を隔て、僕の前で正座した。


「私には、殺すことしか出来ん」


その眼は真っ直ぐ僕を見ていた。


「私は軍人だ。人を殺す術を学び、人を殺す策を練り、人を殺す陣を組む。天地がかえろうと、その事実は変わらない。明日も、明後日も、私は人を殺すために生きる」


「…………」


「故に」



「私は、同じ人殺しを、人殺しとして弔いたいんだ」



「……」


こいつのことが、ようやくひとつ判った気がする。



こいつの言う「人」は、艦だ。

そして「人殺し」とは、軍人だ。


こいつは……


「……僕ら、深海棲艦を……艦娘と同じように弔いたいのか。……軍人として……提督として」


「…………。」


僕を見つめていた眼が、顔と一緒に小さく下を向く。

それはたぶん、こいつなりの頷き、肯定だろう。


どこまでも不器用な奴だ。


そう、僕は思った。



「……連れてけ」


立ち上がり、見下ろして、僕は言った。



「あいつらの所に、僕も連れていけ」


日が、もうすぐ沈もうとしていた。








落ち葉を踏みつぶして進む。

木々が進む者を迎えるように並んでいる。


洗い立てで乾いたばかりの僕の服は、すっかり葉っぱまみれになった。


「まだ先か?」


目の前を行く軍人は、自分の髪が服が汚れようと、全く気にする素振りも見せずに進んでいく。


「いや、もうすぐだ」


草や落ち葉だらけではあるものの、足場は踏み固められていて、道ができていて歩きやすかった。


「あんたは、この道を何度も通ってるのか?」


「日課だ。ちょうど、このくらいの時間のな」


木漏れ日が強く射し込んでくる。

出口が近いようだ。


木の葉のカーテンを押し退けた瞬間、眩しくて目を細めた。

それも一瞬で慣れ、細めた眼を開けた瞬間、僕は、暁の水平線を見た。



全身が硬直する。

水平線に沈む夕陽、それを写す琥珀色の海。

その何もかもが、僕の心を停止させるほど、美しかった。



「ここだ」


提督の声で、はっと意識を取り戻す。

目の前には黒い石碑があった。


「みんな、導かれるようにここで逝った」


今まで聞いた中で、最も悲壮に満ちた声で、彼女は言った。


あまりにも美しいその日の入りが、ここに辿り着いた彼女たちを導いたのだろう。

僕は、黒い石碑の前で膝をつき、刻まれた文字を読んだ。



ここに眠る、とも、海ゆかば、とも書かれていなかった。



そこには、ただ、三人の同胞の名が刻まれていた。




「…………」


「……みな」


石碑に手を沿える。

すぐそばに彼女たちがいるような気がした。


「今際に自分の名を教えてくれた」


石碑は冷たかった。

とても遠くに彼女たちは行ってしまったのだと気づいた。


「だから、こうして、彼女たちを弔える」

「海へと還った彼女たちを、確かなものに出来る」



深海棲艦が。

沈んだ後どうなるか、僕は知らない。


海にとけて消えるのか。

艦娘となって転生するのか。

鉄屑と化して海底に沈むのか。


そのどれであろうとも、

深海棲艦であった彼女たちは、

僕と共に戦った彼女たちは

沈んでしまえば、二度と、その形を得ることは出来なかった。


個として弔うことなど、願うことすら出来なかった。


けれど。



目の前に、その彼女たちの名がある。

手を伸ばせば届きそうな程遠くに、彼女たちが居る。


体に満ちていた力のすべてが、液体になって眼から溢れ出た。

声は出なかった。

ふらり、と、後ろに倒れそうになった。

けれど、背中と頭を打つことは無かった。

あいつの腕に抱き止められた。


「僕でも」


「…………涙を流せたのか」



「赦して、くれ」


「戦いを終わらせられない、私達を、赦してくれ」


かすれた声で、彼女はそう言っていた。

そんな声も出せたのか、と僕は思った。




「……なあ、提督」



「…… ……?」



「……僕の名はな」











大淀「提督。第四艦隊、帰投しました」


提督「ああ、お疲れ様。補給を終えたら、宿舎でゆっくり休んでくれ」 


卯月「うーちゃん、鼠輸送はもう疲れたぴょん……」


響「仕方ないよ。先日、ようやく第二次サーモン海戦を終えたばかりなんだ、資材も修復材も底を尽きている」


卯月「それは判ってるけど……」


提督「今日の夕飯はデザートに間宮の羊羮を用意したから許してくれ、卯月。いつもありがとう」


卯月「ぴょん!!?さすが提督ぴょん!!今日は一段と素敵っ!!」


叢雲「……あんた、頭の中までウサギなわけ……?」


睦月「でも嬉しいなぁ……間宮さんの羊羮、久しぶりだし。」


皐月「アイスもいいけど、やっぱり羊羮もね。ありがとう、司令官」


提督(まあ私が食べたかったからなんだが)



夕立「提督さん、第三艦隊も帰投完了。これで全員だよ」


提督「ああ、お疲れさま。ありがとう」


卯月「ぴょっ!?夕立秘書艦っ!?」


大淀「各員、夕立秘書艦に敬礼。」


\ザッ/   \ぴょんっ/


夕立「お疲れさま。怪我もしてないね、よしよし……じゃあ行こうか、みんな」








提督「……ふう。食べた、食べた」


木曾「……提督、羊羮一本まるごと食ったのか?食い過ぎじゃねえか、それ」


提督「頭脳労働に糖分は不可欠だ……ぅえっぷ」


木曾「限界近いじゃねえか……食事ぐらい無理すんなよなぁ」


提督「無理などしていないぞ。ただ食べたいだけ食べただけで」


木曾「腹八分目って言葉を知らねえのか。動けなくなるまで食ったら駄目だろうが、ったく」



提督「……木曾は厳しいなぁ」


夕立「あの子、第三艦隊の旗艦になってからちょっとオカンっぽい。いいことだけど。」


赤城「クククっ……満腹の沙汰ほど……飯は美味いっ……!」


提督「赤城もああ言ってるしいいと思うんだがなぁ」


夕立「あれは真似しちゃ駄目っぽい」



提督「レっきゅんはどうだ、美味いか?」


レ級「レっきゅん言うな。レ級でいいから」


提督「本当か?名前で呼ばなくていいのか?」


レ級「実名はもっと恥ずかしいっつーの!!いいよもうレっきゅんで……」


夕立「レっきゅん」


赤城「レっきゅんっ……!!」


レ級「…………おまえら。」

 



提督「……レ級。」


レ級「何だよ。」


提督「……後悔はしていないか?」


レ級「全然。もう艤装を背負えるほどの体力も無いし、あいつらの墓参りも出来るしな」


提督「……そうか」


レ級「……まぁ……なんだ」




レ級「鎮守府の飯も、悪くないよ」



提督「そうか」


後書き

以上、提督(プレイヤー)のわがままでした

レ級だいすき
狂気じみた笑顔の裏には
仲間だいすきな思いがあるんだよ
レ級とお風呂入りたい


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