2016-10-06 09:48:02 更新

オーク「……」


女騎士「ほう、ほう。これはまた大物をとっつかまえてきたな」


騎士団員「団長。彼は絶滅寸前の種であるオークの生き残りです。貴重なサンプルですから殺しちゃ駄目ですよ」


女騎士「えっ?敵国の新兵器とかではないのか?殺しちゃ駄目なのか?」


騎士団員「違います。駄目です。抑えてください団長」


女騎士「くっ、殺したい!」


オーク(何このフルアーマー女超怖い……)






女騎士「にしてもお前も災難だったなぁ。いきなりこんな牢獄紛いのところにつれてこられて、混乱したろう?」


オーク「あー……いえ。僕も行く宛はなかったんで」


女騎士「何?それでは自分からのこのことやってきたわけか。ははは、まるで衣食住を求めて刑務所にやってくる罪人のようだな」


オーク「……似たようなもんですよ」


女騎士「そう気を落とすなよ。何、調査が済めば解放される。それまでのんびり暮らせばいいだけのことさ」


オーク「………………。」


女騎士「それじゃあ私はまた沢山殺しに行かねばならんから、この辺りで失礼するぞ」


オーク「……あ、はい」


女騎士「また来て欲しいか?」


オーク「……任せます」


女騎士「愛想の悪い豚さんだなぁ。まぁいいや。行ってくる」


オーク「いってらっしゃい……」






女騎士「おーい豚さーん。元気か?」ギィィ……


オーク「…………」シャク……シャク


女騎士「あれ。なんだ貴様、何食べてるんだ?りんご?」


オーク「…… りんご」シャク


女騎士「へえ、りんごなんて食うんだな、お前さん。その図体で。腹膨れるのか?」


オーク「飯は…… ……済ませたんで。……おやつみたいなもんですよ」


女騎士「おやつ!?りんごがか!?お前、ヘルシーな奴だな……その図体で?」


オーク「……果物……うまいじゃないですか」シャク


女騎士「……いや……まあ……な?確かに美味いけど」


オーク「……」


女騎士「……」


女騎士「一個くれ」


オーク「はい」






女騎士「なあー。私はいつになったらお前を殺せるんだ?」ゴロンゴロン ガシャン ガシャ


オーク「……いや、殺しちゃ駄目なんですって。貴重なサンプルなんですから僕」


女騎士「むう、そうは言うがな……絶滅しかけている種ほど希少価値が増してより狩られるようになるんだぞ、普通は」


女騎士「貴重なものなど、貴重なだけではないか。……ん、しょっ…………宝石や嗜好品など、持っていたところで仕方あるまいて」


オーク「浮世離れした考えしてますよね、あなた。僕は宝石なんかも好きなんですけど」


女騎士「……。まあ。そう言われてみればそうだな。私の考えは確かに賛同されることは滅多に無い」


オーク「…………絶滅寸前の種なんて、生かしても意味ないと思うんですけどね。滅ぶべくして滅ぶものだと、思いますし」


女騎士「……お前の考えもあまり普通とは言い難いが。生物はみな生き、存続したがるものだろう?違うのか?」


オーク「まあ……普通はそうなんでしょうけど」



オーク「最後の一匹、なんてものになると、そんな考えも失せてしまいますよ」


女騎士「……ふむ。」


女騎士「そのことは知らなんだ。つまりあれか、今ここでお前を殺せばめでたくオークが絶滅するわけか」


オーク「そうなりますね」



女騎士「くっ、殺したい!」


オーク「駄目ですってば」






女騎士「……。」


オーク「……」



女騎士「なぁ」


オーク「はい」


女騎士「戦争はいつ終わると思う?」


オーク「…………さぁ。」


女騎士「あと何人殺せば、この鎧を脱ぐことが出来ると思う?」


オーク「……脱ぎたんですか?」


女騎士「いや。脱いだところで他に着るものも無いが」



女騎士「……お前は、人を殺したことがあるか?」


オーク「いえ。無抵抗でここまで来ましたから。殺す気も、そんな元気もありませんでしたし」


女騎士「そうか」



女騎士「なら、お前は童貞だな!」ビシッ


オーク「…… どういう経緯でそうなるんですか」


女騎士「知らんか?殺しの経験の有無も童貞処女、非童貞非処女というような言葉で区別するんだぞ」


オーク「そうなんですか」


女騎士「つまり私は何人もの男や女を喰ってきた夜の女王というわけだ!どうだ!ひれ伏せ童貞!」


オーク「…… 女も食ったんですか」


女騎士「ああ。私がこうして団長をつとめている事実があるだろう。女子供が戦場に出ることは珍しくない」


オーク「……。」


女騎士「……」



女騎士「子供相手はな。あまり心地いいものではないぞ」


オーク「……でしょうね」






女騎士「おーっす」ドガン


オーク「もう少し静かに入れないものですか?」


女騎士「そうは言うが地下牢の扉は鍵が無くても重いからなぁ。蹴り飛ばす以外に開ける方法が無い」


オーク「団員さんはヌルついた水を差し込んだりなんかしてましたけど」


女騎士「馬鹿野郎、団長である私がわざわざ捕らえてるオークに会いたいからあの水を貸せなどと言えるわけがないだろうが」


オーク「メンツってものがあるというわけですか。じゃ来るなきゃいいのに」


女騎士「戦うしか能の無い団長は戦いが無いと暇でな」


オーク「……そうですか。」



オーク「あの」


女騎士「ん?」


オーク「あなたはやっぱり強いんですか?」


女騎士「ああ。そうあるために作られたからな」


オーク「作られた?」


女騎士「幼少のころから人を殺す訓練だけをしてきた。より効率よく、より簡単に、より沢山の人間を殺せるように」


女騎士「そんな生活をして早十六年、親の指でなく短刀を握り続けた赤ん坊はしっかり成長してめざましく活躍しているわけだ」


オーク「……。」


女騎士「おかげで怖がられてばかりの私には友人がいなくてな。平時は暇なんだ」


オーク「……」


オーク「僕でいいなら、相手になりますよ」


女騎士「お?いいのか?ふとした拍子に殺すかもしれんぞ」


オーク「困るのは貴女ですよ。それに、幼少の頃から殺害に慣れているなら、衝動を抑えるということも出来る筈でしょう」


女騎士「うむ、まぁその通りだが。……」


女騎士「お前は変わっているなぁ」


オーク「絶滅寸前ですから、頭もおかしくなりますよ」


女騎士「そのくらいがいいさ。私も気がねなく話が出来る」






女騎士「…………」モグ シャク シャク……


オーク「…… どうしたんですか。その顔の傷」


女騎士「なあ」


オーク「はい」


女騎士「童貞と非童貞、処女と非処女では見える世界が全く違うということが、わかるか?」


オーク「………… どういうことでしょう。」


女騎士「抱くも殺すも同じだ。たった一度の薄皮を超えれば、そいつらはもう後には退けなくなる」


女騎士「経験のあるなしの壁は、果てしなく薄い。薄いが、とてつもなく大きい」ガブ


オーク「……。」


女騎士「やった者は未来永劫していない者の気持ちを理解することは出来ず、未経験であった頃の自分に戻ることは永遠に無い」シャク シャク


オーク「そりゃあ……そうでしょうね。経験の有無の壁なんて、どんなことにも言えることですよ」


女騎士「……。人殺しとな、呼ばれたんだ」ゴクン


オーク「……?」


女騎士「いつも通り仕事をしていたら、突然。顔も知らん人間にそう罵られた。そして、斬りかかられた」


オーク「……。」


女騎士「そいつは人を殺したことのあるような人間には見えなかった。剣を持つ手も震えていたし、何より泣きじゃくっていた」


女騎士「それでいながらそいつは、私と同じものになろうとしていた。自身が罵ったものに自身がなろうとしていたんだ」


オーク「…………。彼を、どうしたんです?」


女騎士「んー?あぁ、逃がしたよ。適当にあしらって、帰した。勝てない相手には挑むな、と」


女騎士「ただな……この職について、人殺しと改めて罵られたのは初めてだったんだ。売女が売女と罵られたんだ、そりゃそうだ、としか言い様が無い」


オーク「はじめて。だったんですか」


女騎士「おうとも。皆私が殺しの数を重ねるたびに喜んだからな。だから、今日のは新鮮で……少しだけ油断した」


オーク「それで、頬のその傷、ですか」


女騎士「……長年、人を殺していると、私は人殺しなのだな、と自分に目を向けることも無くなる」


女騎士「だから……なんだ。そう、純潔なヤツからの罵りが、妙に心に残った。生きている世界が違う相手に、至極真っ当なことを言われた」


オーク「けど、それがあなたの仕事なんでしょう」


女騎士「ああ。殺しは私の生活だ。殺すことが私の意義だからな。仕方ない。私は、そういうものだ」シャク モグモグ



オーク「……。」


女騎士「なあ」


オーク「はい」


女騎士「ひとりって、さみしいか?」


オーク「慣れてしまえば、どうとでも」


女騎士「そっか」



女騎士「……なあ」


オーク「はい」


女騎士「ひとりがひとりじゃなくなると、ひとりが辛くなるか?」


オーク「…………。まあ 少しは」


女騎士「そうか」




――カラン……。




オーク「……?」


女騎士「お前も誰かを殺してみろ。それから、外に行け」


女騎士「そうしたら、世界が変わる」


オーク「……。 ずいぶん綺麗なナイフですね」


女騎士「世界にふたつと無い代物だからな。ドラゴンの尾の骨から作ったんだ、いいだろう」


オーク「……」ス…… カ、チャ


女騎士「……。 ここは、退屈だろう?」


オーク「…… そうでも、ありませんよ」








オーク「……」サク…… サク


オーク「……」ショリショリショリショリショリ


オーク「……。」モグモグ



女騎士「おい」


オーク「あ、おかえりなさい」


女騎士「誰が果物ナイフに使えと言った」


オーク「でも貰っちゃった以上有意義に使わないと」


女騎士「神話級の一品を有意義に使う方法がそれか、お前。というかその図体で器用だな?指先、どうなってるんだ」


オーク「オークは割と器用なもんですよ、基本的に果物とか野菜とか採って暮らすんで」


女騎士「え、そうなの?物凄く攻撃的で多種族の女を襲ったりするんじゃないのか?また変なところで新事実を知ってしまった」


オーク「逆に聞きますけどあなたは僕を犯したいと思いますか?」


女騎士「いや全く。なんだそれ。そんな感覚なのか?絶滅しかけてるんだからこう、野獣みたいに常にビンビンみたいなことにはならんのか?」


オーク「多種族と交配して種が存続するとは思えませんけど……。まあ……とにかくそんな気持ちにはなりませんよ」


女騎士「つまらんな」



女騎士「私とまともに付き合えるとしたら、話し相手のお前くらいのものなんだが」


オーク「そんなこたないでしょう。誰かしらあなたを好いてくれる人はいると思いますが、美人ですし」


女騎士「そうは言うがな、出会いの場なんて戦場くらいのものだ。他の連中は私を神格化しているし、対等に渡り合える男もいつか私に殺される」


女騎士「その点で、私は同種族相手の交配は絶望的でな。おかげで腹の中だけは清廉潔白だ、膜が張りっぱなしだ」


オーク「おかしな話ですね」


女騎士「だろう?」



女騎士「この際破ってみないか?」ポンポン


オーク「やめときます」







女騎士「豚さん。」


オーク「何ですか。」


女騎士「今日はお前の話を聞かせろ。」


オーク「……僕のですか?面白くないですよ」


女騎士「駄作小説でも時間は潰せる。話してくれ」


オーク「…… ここ最近、あまり顔を見せていませんでしたからね。いいですよ、ちょっとだけ長話しましょう」


女騎士「助かる」




オーク「僕が生まれたのはもうずいぶんと前です」


オーク「何せ長寿が自慢の生物ですからね。そのまま数百年、あの森の中で暮らしてきました」


女騎士「森」


オーク「開拓された今は、街が建っていますけどね」



オーク「変わり映えのしない生活でしたが、ある時、親が行方不明になりまして」


オーク「兄弟姉妹の生まれにくい種族なので、家族がいなくなってからはひとりぼっちでした」


オーク「思えばたぶん、そのあたりで人間たちの狩りが流行りだしたんだと思います」


女騎士「肉にも皮にも骨にも利用価値があるオークの乱獲か。歴史の教科書にも載っている話だ」


オーク「ええ。あれは事実ですよ、実際僕がこうして一人でここにいるわけですし」



オーク「居場所を失ったわけでもなく、かといって安心してそこに暮らせられるかと聞かれれば、そうではありませんでした」


オーク「だから僕はある日、旅に出たんです」


オーク「果ても充てもない旅。開拓されていない森や草原を歩き続けて、時には山を越えて川を越えたりもしました」


女騎士「……。」


オーク「歩いて、歩いて、歩き続けて。いろんなものを見たし、いろんなものを食べた」


オーク「でも最後まで、僕の心が求めているもの何なのかがわからず、そして手に入れることもなく」


オーク「僕は結局、自分の故郷に帰ってきたんです」


女騎士「それで」


オーク「ええ、今に至ります。絶滅したと思われていたオークが、一匹。街の近辺で発見され、捕獲されました」


オーク「……僕の話は、以上です」


女騎士「…………そうか」



オーク「結局、僕自身が求めていたものが何なのか。今でもわかりません」


女騎士「……存外、この鉄格子の中で見つかるかもしれんな。」


女騎士「世界のどこも歩き回ったが、さすがにこの牢屋に来たことはなかったろう?」


オーク「はは、まぁたしかにそうですね…… ……見つかり、ますかね」


女騎士「見つかるさ。きっとな」





オーク「……。」


女騎士「ただいま」



オーク「……今日は、一段と傷だらけじゃないですか」


女騎士「鎧がな。何、生傷はどこにも無い」


オーク「…………」



オーク「あの」


女騎士「ん?」


オーク「やはり、戦況は芳しくないんですか。」


女騎士「ああ。私がこうして前線に出続けるということは、つまりそういうことだ」


女騎士「絶対国防圏も突破され、私がなんとか抑え込んではいるものの、この城の唯一の出入り口である砦を突破されれば、後は無い」


オーク「…………」


女騎士「まあ、よくやった方さ。私も強い方だが、向こうさんの兵器にはかなわん。技術力はここ帝国よりも向こうの共和国の方が頭三つくらい上だ」


女騎士「そしたらお前は晴れて自由だな。こんな場所とはおさらばだ」


オーク「ここが陥落したら……その時は、僕はどうなるんですかね」


女騎士「自由の身か、はたまた向こうにとらわれるかのどちらかだろうな。もしかしたら暮らしは上かもしれんぞ?」


オーク「……。」



オーク「あなたは」


女騎士「ん」


オーク「あなたはどうするんです?」


女騎士「さてな。どこかでのたれ死ぬだろう。極悪人の最後などそういうものだ」


オーク「そうじゃなくて。戦争が終わったとき、したいこととか、行きたい場所とか。ないんですか?」


女騎士「無いな。生まれてこの方この世界で暮らしているが故、他の楽しみを知らん」


オーク「……。」


女騎士「ま、仮に生き残ったとしても向こうの捕虜になることは確実だろう。人間扱いされんことは確かだな」



オーク「その」


女騎士「ん?」


オーク「名前」



オーク「あなたは、なんて名前なんですか?」


女騎士「……おかしなことを聞くな?今更。」


オーク「ここに来て、話し相手と言えばあなたくらいのものでしたから」


女騎士「名前か。困ったな、私には名前が無いんだ」


オーク「……? え。」


女騎士「ああ、ちょうどいい。お前がつけてくれ」


オーク「はい? …… え?」


女騎士「いいからつけろ。稀代の大英雄にしてこの上なく凶悪な殺人鬼に名前をつけろ」


オーク「……。 …………」




オーク「…… キリア。」


女騎士「ん?」


オーク「キリア というのは どうですか。」


女騎士「……ふむ。ふむふむ」


オーク「気に入らない……ので、あれば 他のを考えます……が」


女騎士「いや、気にいった。そうだな、私は、キリア。キリアだ」


オーク「お気に召してくれたなら 何よりです」


女騎士「ああ、ありがとな。これで私は、戦争が終わっても私でいられる」



女騎士「オックス。」


オーク「……?」


女騎士「お前の名前だ。今考えた。どうせお前にも名前はないんだろう?」


オーク「…… ええ ……まぁ」


女騎士「なんだ、不機嫌そうだな?他のにするか?パンチョとかモヘミンチョとか色々考えたが」


オーク「いえ オックスがいいです」


女騎士「従順で何よりだ、オックス。いい子だ。……これで、戦争が終わっても互いを互いに探せる」


オーク「……」


女騎士「行ってくるぞ、オックス」


オーク「ええ、また話をしましょう、キリア」









オーク「…………」


オーク(最近、彼女の姿をめっきり見なくなった)



オーク(……)


オーク(戦って、いるんだろうか)



オーク(食事が運ばれてくることもなくなった)


オーク(……一応 しばらく食べずとも生きていける体をしてはいるが)




オーク「……誰も、いないや」








女騎士(……。)




女騎士(全身が痛いな)


女騎士(あと、熱い)



女騎士(にしてもひとり相手に千人はやりすぎだろう)


女騎士(大隊ひとつ、私を相手取るためだけに出撃か)



女騎士(有名になったなぁ、私も)





女騎士(これで、終わり、なのかな)


女騎士(なんか、伝説、とか 鬼神、とか)


女騎士(そんな風に呼ばれる日々も、もう、終わる、のかな)



女騎士(…… 引き際が肝心だよな)


女騎士(このまま寝ちゃえば、気持ちいい、だろうなぁ)



女騎士(……)


女騎士(…………)


女騎士(…………………………)




女騎士(あいつは)


女騎士(どうしてるかな)



女騎士(ひとりぼっちは、慣れると、どうってことはないけど)


女騎士(それがふたりになっちゃうとな、つらいんだよな、ひとりって)



女騎士(それで)


女騎士(私は、あいつに、私と同じ、人殺しになってほしくて)


女騎士(私のことを、どこかで、わかってもらいたかった)



女騎士(嗚呼)


女騎士(畜生)






グ…………


ググ  …………グ



女騎士(ばかげて、いる)


女騎士(私と、同じ、境遇の者など)


ググ グ   グ


――――ゆ ら


女騎士(二人も、いるものか)










女騎士(まだ殺したい)



女騎士(殺し、足りない)




女騎士「…………」



女騎士「……殺し、たい」











オーク「…………」


「団長。奴らが捕獲していた希少種を発見しました。どうします?」


「帝国側が交渉材料として持ちかけてきたオークか。……まさか本当に居たとはな」


「持ち帰るぞ。奴らは肉も皮も牙も、余すところなく利用価値がある。その上、こんな状態ではろくな自衛の手段も持ってはおらん」


「はっ。……おい、聞いていたか?無駄な抵抗はするなよ、手間が増えるからな」


オーク「しませんよ。出来なかったから絶滅したんですし」ドッシリ


「の割には腰が重いな。……おい、お前。そっちを外せ」


「はい」


オーク「……」


オーク「団長さん、それにその部下がお二人、と。ずいぶん少人数ですね……ぁ痛たた」


「断りなく口を開くな、家畜。それがどうした」


オーク「ああ、いえ……大したことじゃありませんよ」


ガ、チャン


「外れまし」


ヒュパッ――――


オーク「わざわざこんな地下牢に足を運べるとは、ずいぶんな余裕があるんでしょうね、と」


オーク「そう思っただけです」――キラ、リ



ボト ボトボト ボト ボトボト



オーク「最後まで果物ナイフとして使いたかったんですけどね、これ」フキフキ


オーク「よ っこら しょ、と」グ、グ



オーク「……さて」


オーク「世界は、変わるのかな」



――――ギギ ギ…………ギ








女騎士「…………」




女騎士「屍、屍、屍。 …… 敵と味方の区別もつかん」


女騎士「はぁ ………… 私一人を相手取るための千人も、これで終わりか」


女騎士「それでも、城は陥落してるんだろうなぁ…… 山に囲まれた自然の要塞とはいえ、山を越えさえすればいいわけだからな」


女騎士「……でも、まぁ」



女騎士「気持ち、よかった、なぁ」


女騎士「ああ 私は、やっぱり」



女騎士「人殺し(きもちいいこと)が、大好きな、化け物だ」



……ふ、ら………………



女騎士(だから……もう、満足だ)


女騎士(たくさん逝かせて、たくさん感じた)


女騎士(――もう、いい、かな)





……


ぽすっ



女騎士「…………」


女騎士「……?」



オーク「おはようございます。」



女騎士「…… なんだ、お前……何しに来た?…… というかどうやって来た?」


オーク「開口一番がそれですか、キリア。せっかく迎えに来たのに。……ねぎらいの言葉のひとつもよこさないなんて」


女騎士「うるさい。黙れ。…… 何だ、その傷は、どろどろじゃないか、体中。」


オーク「ええ、外に出るのに邪魔な人間を全員殺してきました。めでたく僕も童貞卒業です。まったく、我ながらどうしてこんな簡単なことをせずにいたのやら」



女騎士「…… 全員……って……お前……」


オーク「おっと、傷でどろどろくしゃくしゃなのはお互いさまじゃないですか。……敵も、味方も……みんな、いないんです。ゆっくりしましょう、キリア」


女騎士「……あの、ナイフ、一本でか。……オックス」


オーク「…… 世界が変わりましたよ、本当に。僕は温厚な家畜から、人を襲って嬲り殺す化け物になってしまった」


オーク「まあ、とはいえ……僕が戦う様を見た人間なんて、一人も残っていませんけどね」


女騎士「…… …………。」


オーク「キリア」


女騎士「なんだ」



オーク「ここには化け物が二人います」


オーク「それも、他に同類の居ない化け物です。つまり僕らは、この世でたった二人きりというわけです」


女騎士「…… それが、どうした。何が言いたい、オックス」


オーク「……。」



オーク「旅に出ましょう、キリア。ここには僕らが帰るべき場所なんて無い」


オーク「二度とふたりがひとりになることのないよう、旅に出ましょう」



女騎士「……。 なんだ。傷だらけで動けなくて抵抗のできんおなごを持ち帰って連れまわすつもりか、オックス」


オーク「はい。その通りです。どうせ嫁になんて行けないでしょうあなた」


女騎士「くっ。殺したい。こいつ殺したい」


オーク「ははは。出来るものなら。今の僕なら全力でお相手できますよ」


女騎士「……。ああ、くそ。畜生。生意気になりやがって。そのナイフ私のだぞ。返せオックス」


オーク「嫌です。もらったものはもう返しません」




女騎士「…… ………… オックス」


オーク「何ですか、キリア」


女騎士「今からどこへ行く? 傷をいやせるような、落ち着いた場所がいいぞ、私は」


オーク「お任せあれ。世界中を旅した僕に案内できない場所なんてありませんよ」



オーク「――じゃ、行きましょうか」


女騎士「嗚呼。連れてけ、どこへでも」











富豪「ほほう、こいつが今日捕らえたばかりのエルフか」


商人「ええ、白い肌に美しい顔立ちと体……さらには不老という特性を持つ神話上の生物ですよ」


エルフ「……」


商人「いやあ、ワタクシもまさか現存しているとは思いませんでしたが……どうでしょう、――様。ここはひとつ固定資産として……」


富豪「いや!!!やっぱりかわいい女の子をモノみたいに扱うのはどうかと思う!!!!」


商人「へっ!?え、あ、はい。で、ではいかがいたしましょう、買われぬ、ということですか?(奴隷数十人買い込んだ果てに何言ってんだこのおっさん)」


エルフ「おーい。おっさーん。飯は?腹減った。おつかいの途中なんだぞこちとら。近くにいい店があるんじゃないのか」ガチャガチャ


富豪「嫁にする!!!!!!!この子俺の嫁!!!!!子供ぽんぽん産んでもらってその子供とも結婚する俺!!!!」ムッフー


商人「えー、あ、ではご購入なされるということでしょうか?毎度ありがとうございます……」


エルフ「なあさっきから何の話をしてるんだ?買うとか買わないとか。それはそうとこの鎖はなんなんだ、重いし堅いし」


商人「み、見てのとおり捕獲したてなので調教など事前の準備は何一つできてない状態ですので、そうですね、お値段の方は」


富豪「いい!!!はい俺の土地!!あげる!!」ベシ


商人「痛い!?権利書の渡し方雑でございますね!?ありがとうございます…… ほら、さっさと行けがきんちょ……」ドン


エルフ「あ痛。乱暴だな貴様。殺したい。あー殺したいなー。腹立ったなー。おかあさんからむやみに人殺しちゃ駄目だぞって教わってなかったら殺すのになー」


富豪「かわいい!!!すんごい俺好み!!そのすっごい生意気ぃな感じ!!だいすき!!これから俺のお嫁さんになって体全部でご奉仕するんだぞ、いいなっ!?」ギュ


エルフ「ぁう」


ヒュパッ


富豪「あれ」 ボト



商人「…… えっ?」


富豪「………………あああああああああああ!!?俺のみ、右手がああああ!?もうちんちんしごけないいいいい!!!!???」ブッシャーー


エルフ「きったない手で触るな、おっさん。ボットン便所みたいな匂いがしたぞ。あたしの体はおかあさんとおとうさんからもらった大事なものなんだ、そんな手で触るなクソッタレ。ていうか糞。糞そのものだ貴様なぞ」キラリッ


商人「ひ……!!?え、あ、おま、お前、どうやってあの鎖をっっ!!?」


エルフ「あ?ああお前もお前だ、親切を装って鎖で縛りつけるなど外道の所業だぞ、まったく。まあ力んだら切れたからいいが」ブンブン


商人「ひえええええ!!?な、なんだ、なんなんだっっ!!おおおれはいったい何をとっつかまえたっていうんだぁぁああっっ!!!!?」


エルフ「いちいち騒ぐな、大の大人が二人そろってみっともない。ああいや……実際みっともない大人か。ったく……おつかいが丸一日遅れたじゃないか、腹も減ったし……とんだ災難だ、くそ。殺したい」


商人「わ、わわわるかった、ごめんなさい、あやま、あやまりますから、い、いのちだけは、いいいのちだけはっっっ」ガタガタブルブルショワアアアア


エルフ「ん。あぁ。…………。 どうでもいい。さっさとどっかいけ、クソ共」


商人「は、ひいいいいいいいいい!!!!!」ドタドタ


富豪「……………………」シーン……


エルフ「……ったく…… ……ぁあ、それとなぁ!!!あたしはがきんちょなんかじゃないッ!!これだけは否定しておくぞ、クソの片割れぇッ!!!」





エルフ「――あたしの名前は、オーレリアだッ!!!最高の父親と最高の母親からもらった最ッ高の名前だッ!!!覚えておけェッ!!!」









後書き




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戦艦れきゅーさんから
2016-09-30 11:17:15

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2016-09-30 23:02:00

戦艦れきゅーさんから
2016-09-30 11:17:16

このSSへのコメント

1件コメントされています

1: 戦艦れきゅー 2016-11-01 16:41:26 ID: UNnNRV3k

面白かった
おっつん


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