2016-10-17 06:01:45 更新

概要

クリスマスの二次会、金剛から聞く艦娘の恋愛観、
まさかの提督のカクテルバーが始まる。
はっちゃける山城、慌てる加賀さん、頑張って話す潮。

そして、翌朝のトラブルと、艦娘や提督の本心が少しだけ。


前書き

まさかの長編クリスマス回、完結編です。

カクテルでやたら繊細なもてなし方をする提督、
ふざけたカクテル、
金剛の考える恋愛観の話、
焦ったり、怒ったりする加賀さん、
酔ってはっちゃける山城の暴れっぷり、
頑張って話し始めた潮と七駆のからみ、

そして翌朝のトラブルが見所でしょうか。


[第十六話 クリスマスだ!・後編 ]




―クリスマス、深夜。堅洲島鎮守府、執務室ラウンジ。


―クリスマスの二次会めいた飲み会が始まっている。


提督「さーて金剛、これは提督をやる前からの疑問だったんだが、金剛って大抵はどこでも提督大好きってイメージなんだが、実際のところはどうなんだい?提督と言っても千差万別だが、『実はこういう人が好き』みたいなのはあるのかい?」


赤城「あ、それは面白い質問ですね!『高速戦艦・金剛』と言えば、大抵は提督の事が大好きで、いつも明るく強い美人さん、というイメージですが。実際のところはどうなのか、すごく興味があるわ」


金剛「ンー、それは難しい質問ネー。たぶん、私が思うには、殆んどの『金剛』は、そんな事を考えもしていないと思うからデス」


陸奥「あら?そうなの?」


金剛「色々考える前に提督が居て、しかも高速戦艦で使い勝手が良いのもあるデショー?ほっといても色々考える前に信頼が分厚く積み重なっていくカラ、例えば『恋に恋する』みたいなところから関係が始まっても、いつの間にか厚い信頼関係が出来ちゃっている。そんな感じネ」


提督「なるほど、金剛がグイグイ行くうちに、いつの間にか本物の関係が出来上がりやすくなり、実際にそうなっている、と」


金剛「デモ私は、今回は自分が二人目の金剛だったので、存在がほぼ否定に近い環境になっちゃってたカラ、すごく色々考えさせられたネー」


扶桑「聞きましたよ?自分で解体申請を出すなんて、どんなに辛かったかしら。自分になぞらえるとわかりやすいもの。着任してみたら、既に先代の自分は提督とケッコン関係で轟沈、山城も長い付き合いで、私には違和感しか感じてくれない、なんて、頭では理解できても、心では無理ね」


山城「姉さま・・・」


金剛「なので私は、みんなに認めてもらおうと必死でしたネー。デモ、ダメでしたけど。提督や姉妹たちが自分を認めて受け入れてくれる日を信じるしかありませんデシタ。後はたまに、別の提督が迎えに来てくれたら・・・みたいな妄想で頑張っていたんデス。結局は、まさかの妄想実現endだったネー!」


提督「という事は金剛は、とても冷静におれの事を見ようとしている感じかな?」


金剛「最初は、解体を希望した気持ちから、ほとんど希望なんて持っていなかったネー。でも、きっとそこまで考えて、ああやって殴り合いまでしてくれて、私を必要なんだって伝えてくれた気がして、嬉しかったネ。・・・デモ」


提督「ん?」


金剛「あんなことされたら、『惚れてまうやろー!』って状態になるネー、コノコノー!って気分デース。こういうドラマチックな展開になるなら、最初から幸せだったよりお得な気がしマース!」


提督「それは何よりなんだが、じゃあ、あまり自分の好きなタイプとかは無い感じか」


金剛「まー、そうなるネー。デモ本当にわからないヨー?他の金剛も、本当に誰かを好きになっていたかはネー」


陸奥「考えさせられる話ねー」


叢雲「でも、たぶん私もそんな感じかもしれないわよ?金剛さんの言う事がわかるわ」


提督「叢雲はさ、しっかりしてる人が良いようで、意外とすごく優しいから、そうとも限らないところがあるんだよな。付き合いが長い人をほっとけなくなる感じと言うか」


叢雲「やっ、優しい部分なんかないわ!いつも厳しくしているし!」


赤城「あ、加賀さんと似てるかもしれませんね!加賀さんもそういう部分がすごくあるんですよ?」


加賀「ちょっと赤城さん、酔いすぎじゃないかしら?そんな事ないわ!」


提督「いや、言われてみれば何となくそうかも。あと、実は感情豊かなんじゃないかって感じる時があるな。気のせいかもしれないが」


加賀「・・・そう」


赤城「あっ!そうなんですよ!提督もわかります?」


加賀「・・・頭に来ました(小声)」


赤城「えっ?今なんて?加賀さん」


加賀「提督、そこのジョッキお借りしますね。赤城さん、もう少し飲みましょうか・・・」トクトクトクトクトクトク


赤城「いやこんなには呑めな・・・ちょっと加賀さん?・・・わぷっ」


加賀「こんな時くらい、グイッといきましょうか、赤城さん」


漣(わあ、ちょっと意外)


提督「(つっこむのやめよっと)・・・じゃあその、赤城さんはどうなんだ?」


赤城「わ、私は・・・わぷっ!」


加賀「お酒がまだ残ってますよ?・・・赤城さんは、たくさん食べさせてくれる人よね。それ以外は無いわ」


一同(加賀さん、地味に酷い・・・)


赤城「まあそれは、そうですね」


一同(あっさり肯定してる!)


提督「ある意味真実だけどな。食べ物をたくさん持ってこれるってのは、男ないしオスの存在意義と言える。最もシンプルでかつ、最重要な部分と言えるな。言い換えれば、優秀で喰いっぱぐれさせない人って事になるわけで」


加賀「物は言いようですが、良かったですね赤城さん、そんな解釈をしてくれる提督で」ムスー


赤城「もう。加賀さんて恥ずかしがり屋さんですよね」


加賀「くっ!」


提督「そうか、恥ずかしがり屋って考えると、色々と辻褄が合う部分が出てくるな。さすが赤城さん。パートナーの事をよく理解してるねー。でも、加賀さん、あまり気にせず言いたい事は言ってほしいね」


加賀「・・・・では、一つ伺います」


提督「なんでしょう?」


加賀「赤城さんは沢山食べますが、提督から見た赤城さんて、どういう女性に見えますか?」


赤城「加賀さん、いきなりどうしてそんな事を聞くの?」


加賀「気になるからです」


提督「ん、シンプルに言うと、よく食べるのはとても良い事と思っている。なぜなら、食べる分頭の回転も速く、かつ、強いからだ。話しててストレスを感じない。あと、美人!・・・そんな感じ」


赤城「まあ!ありがとうございます!」


加賀「・・・あなたは良い提督だわ」


提督「何でそうなるんだ?って、これ加賀さんも相当酔ってるな」


加賀「いえ・・・しかし、流石に気分が酩酊します」フラフラ


陸奥「ダメって事じゃない!もう。うふふ」


―加賀はカウンターに突っ伏し気味になってしまった。


赤城「おかしいと思ったら、照れ隠しでお酒をがぶ飲みしていたみたいですね」


陸奥「そんなに照れるような部分があったかしら?」


赤城「加賀さん的にはそうなんでしょうね、きっと」


山城「そういえば、加賀さんの質問を見ていて思い出したけれど、提督、姉さまの誘惑に良く屈しなかったですね。私はすごく複雑な気分なんですけど」ジトッ


扶桑「山城、提督を困らせてはだめよ?責任のある立場なのだから」


山城「いいえ、山城は納得がいきません!魅力のある艦娘や可愛い艦娘は沢山いますが、姉さまほど綺麗な艦娘なんていません。人間の女性と比べたって、姉さまほどの美人は居ないと思っていますから!その姉さまがあそこまで誘惑して落ちない提督って、男性機能か心に問題でもあるんじゃないですか?」ムスッ


扶桑「・・・山城、怒るわよ?」


―扶桑は笑顔で優しく言っていたが、一瞬だけ、凍り付くような殺気が漂った。


漣(うわ、これ扶桑さん怒ってる。こわっ)


金剛「ン?今の空気何かしら?」


陸奥「あらあら・・・(扶桑はやっぱり強いわね、この感じ)」


提督「いや、山城の言うとおりだぞ?提督でなかったら、いや、提督って立場やリスクさえ、秤にかけて負けそうなくらい心を揺さぶられたからね。正直に言うとさ」


扶桑「えっ?」


提督「結果はドッキリ的な試験で良かったけど、あれは人生で一番危険な時間だった。だから山城、そう怒らないでくれ。言いたい事はよくわかるし、今でも自分をちょっとだけ、情けなく思っているんだぜ。まあ、そんな時はスーパーカーについて考えるんだがな」


山城「何でスーパーカー?」


提督「とても速い車は、とてもよく効くブレーキを持っているだろ?」


陸奥「なるほどね」


足柄「うまい事考えるわね、提督!」


那智「ほう、自分の心のコントロールにも使えるな」


提督「でも次に同じような事があったら、たぶんダメだな。ブレーキがいかれるかもしれん。そんなところだぞ、山城」


山城「本当ですか?」ジイッ


―山城は提督の眼を覗き込んだ。山城も相当酔っているようだ。


提督(絡み酒なんだなぁ、きっと)


山城「・・・信じます。眼の奥にウソが無いですね。でも、姉さまは取らないで欲しいです」


何人かの艦娘(めんどくさいなぁ・・・)


扶桑「提督、すいません。大人げなかったですか?気を使わせてしまって、ごめんなさい」


提督「いや、気は使ってないよ。だから、山城の事は怒らないでやってほしい。あと、そういうわけなので、前回の件は気にしないでほしい」


扶桑「そんな事をおっしゃられると、扶桑、お酒の力を借りたくなってしまいますよ?うふふ」


提督「はは、参ったね」


漣(わぁ、また扶桑さんの魅力が炸裂してる)


曙(こっ、これは卑怯だわ・・・)


陸奥「いいなぁ、扶桑のそういうのは、本当に扶桑ならではよね。私には真似のしようがないんだなぁ」


荒潮「陸奥さんは十分すぎるくらい魅力があると思うわよ~?」


提督「そうそう!むっちゃんはむっちゃんでいい!」


如月(わかってはいたけど、層が分厚いなぁ。私は私なりに、頑張らなくてはね!)


提督「ところで扶桑、山城だって凄く可愛いよなぁ?」アイコンタクトー


扶桑「えっ?・・・あ、はい!そうですね」アイコンタクトー、ニコリ


―かなり酔っていた山城が、真顔になった。


山城「・・・えっ、えっ?姉さま?提督?いきなり何を言い出すの?」


提督「扶桑の誘惑で理性が崩壊寸前になっていて、たぶん次は無理、とは言ったものの、扶桑を取らないでって言われたし、代わりに山城を貰っていってもいい?髪をこう、もう少し伸ばしてもらう感じで」


扶桑「いいと思います。仕方がありませんものね。山城ったら、変に私に気を使っているのか、髪を伸ばさないんですもの。いい?山城、私はあなたの為に誰の所にも行かないわ。代わりにあなたが、提督の所に行くのよ?」


山城「ふあああああ!?ねっ、姉さま何て事を言い出すの?」


提督「良かった、これで誘惑に耐えたあの日も報われる」


漣「山城さん、ご主人様の事、よろしくお願いしますね・・・ぐすっ」ウソナキー


初風「そうね、なんだかんだ言って、扶桑さんと同じくらい美人な山城さんだもの、みんなで応援しないといけないわ。悲しいけれど(楽しい)」


山城「ちょっ、ちょっと待ってください!そんな不幸認めないわ!」ガタッ


陸奥「山城では、私も認めざるを得ないわね。扶桑と山城で、なぜか提督とケッコンしているのは山城の方が多いのも、きっとこんな経緯を辿ったからなのね。納得だわ」フゥ


山城「ちょっと、陸奥まで何を納得しているの?」


提督「山城、今日はこの二次会が終わったら、男性機能にも心にも問題がないかどうか、きっとはっきりするぞ」


山城「誰ともケッコンとか、そういう事をしないんじゃなかったの!?」


提督「健全だからもう無理。やめた。もう別の方法を探す」


扶桑「山城なら、私も納得だわ」


山城「そんな・・・・みんなでそんな・・・、私が悪かったけど、そこまでいじめる事ないじゃない!提督に言い過ぎたのは悪かったけど、姉さままで、そんな・・・」グスッ


一同(あ、今度は泣き上戸なんだ・・・)


扶桑「山城、気持ちは嬉しいけど、さっきのは言い過ぎよ」


提督「ごめん、こんな簡単に泣いちゃうとは思わなかった。悪ふざけが過ぎちゃったかな?もちろん冗談だから、そんな気にしなくて・・・」オロオロ


陸奥(あら、提督が慌ててる。女の子の涙にはやっぱり弱いのね)


山城「いいえ!こうなったら提督の所に行きます!責任とってくださればいいですよ。姉さまともこのままなら、山城はそれでいいです。私だって戦艦です。これくらいで本当に泣いたりしませんし、覚悟だって決めます!」グスッ


提督「えっ?」


漣「あれれー?」


扶桑「あら・・・山城、あなたもしかして・・・そうなのね?ふふっ」


山城「ちーがーいーまーすー!不幸なのは慣れてますし、自分で不幸を取りに行かないと、肝心なところで幸運が手に入りません。山城はもうそういうのは嫌なんです」


提督「一理あるなぁ。肝心なところでの幸運を逃さないために、普段は不幸を厭わない、と。・・・で、おれと一緒ってのが不幸に分類されているのは、まあ仕方ないのか・・・」フゥ


金剛「回りくどいのは感心しませんネー!要するに山城は、扶桑も提督も大好きなんデース!泣いたり怒ったり、とっても楽しそうネー」


扶桑「うふふ、良かったわね山城、金剛さんもあなたの事をよく分かってくれてるわ」


金剛「呼び捨てでオーケーね、扶桑。お姉さんは流石に全部お見通しなんですネー。提督、山城は提督に構って欲しいだけヨー。ちょっかいの出し方がちょっと面倒なだけネー」


提督「あー盲点だった。仕事の立場じゃない眼で見れば、そうだ、これ。確かにこういう子いるわ。なるほど、山城ってこういうところが可愛いんだな」


扶桑「あっ、提督も分かってくださいますか?」


陸奥「なるほどね」


漣「おっきなぼのだねー」


曙「ええー?漣から見たらそんな感じ?」


提督「ああ、なるほどね」


曙「納得されてるし!(も、もう少し素直になろっと・・・)」


山城「フンだ!みんなして言いたい事を言って。姉さままで。提督が美味しいお酒をたくさん出すからいけないんです!はしゃいじゃうじゃないですか!」


足柄「でも、私も山城さんの事が良く分かったわ。やっぱりこういう場も大切よね!」


那智「そうだな、やはり酒は大切だ」


山城「あと提督、私の不幸に関する考え方、あまり言わないでください。幸運が逃げちゃいますから」


提督「ごめん、そうだな」


山城「私は姉さまが大好きですが、皆さんの事もとても好きです。沈んだり、バラバラになるのは嫌なんです。ああもう酔い過ぎね!夜風に当たってきます」ガタッ


扶桑「山城ったら・・・しょうがない子ね」


提督「何だか色々納得できた。たまにはこういう席もいいものだな」


利根「山城は筑摩みたいにかわいいのじゃな。そういえば提督よ、小耳にはさんだのじゃが、『かくてる』を作れるんじゃろう?」


提督「良い事言ってくれた!よーし、色々出すぞ。みんなまだまだいけるかな?」


鳳翔「ええ、楽しみですよ?」


如月「わあ、司令官はカクテルも作れたりするの?ぜひいただきたいわ!」


金剛「提督はカクテルも作れるノー?眠ってる場合じゃないデスねー!」


扶桑「実は私も楽しみにしていましたよ?」


陸奥「ふふ、今夜の真打ちね!」


朧「提督、私も手伝っていい?ちょっと練習したい」


提督「いいよー!じゃあ始めるか」


磯波「あっ、私も覚えたいです」


漣「私も私もー!」


曙「私もだってば!」


潮「え、えーと私は・・・」オロオロ


提督「そもそもそんなにカウンターに入ったって身動きが取れないって!じゃあたまには、潮と朧でどうかな?それから交代で・・・って、潮は苦手なら、無理はしなくていいぞ?」


朧「任せてー!」ヒョイ


潮「・・・すいません」


漣「じゃあ私が行きまーす!」


提督「これは明日、みんな起きられないな、きっと。じゃあ、順番や種類はおれのプロデュースで。時々オリジナルを入れるから、感想よろしくー!潮はお客さんをやってくれ。もてなすから感想を聞かせてくれれば嬉しい」


潮「わ、わかりました!」


―こうして、深夜のカクテルバーが始まった。


提督「じゃあ、まずは王道、マティーニから!ちなみにベースのジンは『ボンベイ・サファイア』だ。マティーニはバーテンダーの数だけレシピがあったり、人によってレシピも違う。自分の好きなマティーニを見つけるのも楽しいぞ。これもまあ、おれ仕様だな」


利根「んん?提督、筑摩と吾輩のでは、色と入っているものが違うが、どちらも『まてぃーに』なのか?」


提督「良い質問だなー。利根姉さんのはジンは同じだが、ベルモットが甘いやつ、入っているのはチェリー、つまりサクランボだ」


筑摩「あの、私のは?」


提督「見てたら酒に強そうだったので、筑摩のはドライ・ベルモットにオリーブの実が入ってる。簡単に言うと、利根姉さんのは甘口、筑摩のは辛口だな」


利根「なるほどのう!そういうもてなしの妙もまた『ばーてんだー』の仕事なのじゃな。吾輩はこの甘さ、気に入ったぞ!」


足柄「私と那智姉のも辛口仕様ね!んー、おいしいわ!」


陸奥「提督と呑みに行くんじゃなくて、提督がカクテルを出してくれるというのが、最高にあなたらしくて面白いわね!私のも辛口、うん、美味しいわ!」


鳳翔「あら、私のと金剛さんのはうっすらと色がついていますね?」


金剛「あ、そうですネー。これは?」


間宮「私のも、そうみたいですね?」


如月「私のも、かな?」


提督「これもアレンジだが、四人とも、いつもは早く寝るだろう?なので、グレナデン・シロップを少し入れてあるのさー。ザクロの果汁だな。甘くて美容にいい。これがもう少し多くて、アメリカンチェリーにして赤みを強くしたのが、赤城さんと加賀さん、扶桑と山城のだな」


曙「オシャレだなぁ、クソ提督ったら。あれ?私と潮のは、色がなんか紫っぽくない?」


潮「あ、ほんとだ」


荒潮「私のも紫っぽいわよ?」


叢雲「私のもだわ」


提督「四人のはジンを『バイオレット・フィズ』ってのに変えてアレンジしてある。ポップで甘めにしたわけだな」


叢雲「プレゼントもそうだけど、ほんっと、あんたって武骨なようでいてマメよねぇ」


―こうして、提督の蘊蓄を交えたカクテルパーティが続いた。正統派のカクテルに、その成り立ち、細かなアレンジに、時には爆笑を誘うようなオリジナルレシピもあった。


陸奥「この真っ黒なカクテルは?」


提督「そいつの名前はブラック・カンパニーだ。ブラックコーヒーにカカオリキュール、高級ココアパウダーにブラックウォッカで、イメージは・・・」


金剛「ブラック企業ですネー?」


提督「こいつを呑めばブラック鎮守府の仕事も目じゃないぜ!」


山城「あっはっは!ブラックカンパニーって、おかしい!」


一同(今度は笑い上戸ね)


―2時間後。


提督「さてと、そろそろお開きにしようかね。みんなもだいぶ酔っただろう?楽しめたかな?」


陸奥「とっても楽しかったわ。提督、これ、よく考えたら、自分自身で私たちを労ってくれたって事よね?」


間宮「あっ!そういう事なんですね。提督、とても楽しかったですよ?」


提督「そんな大層なもんじゃないって。新しいレシピを色々試してみたかったしさ」


那智「司令、心遣いありがとう。私なりに全力を尽くさせてもらうよ」スッ


提督「いやこちらこそ!酒も銃もいける貴重な友でもある、沈まないでくれよー?」スッ


―那智と提督は握手をした。


足柄「とても楽しかったわ!提督、時間のある時でいいから、私にも作り方を教えてね!」


間宮「あの、私もご一緒させてください。カクテルもそうですが、応用してジュースとかも作れそうですから」


鳳翔「あの、よろしければ、私も少し教わりたいです」


提督「いいよ。すぐ上達できるだろうし、そうなったらおれも楽しませてもらうから、楽しみにしているよ」


赤城「提督、本当に今日は、お腹もいっぱいだし、最高でした!加賀さんがつぶれちゃったので、私、連れていきますね!おやすみなさい。・・・加賀さん、行きますよ?」


加賀「・・・鎧袖一触です」ムニャ


赤城「加賀さんたら、こんなになるまで。とても楽しかったのね」


筑摩「姉さんが眠ってしまったので、私、連れていきますね。姉さんもとても楽しんでいましたし、私もとても楽しかったです。皆さんも提督も、おやすみなさい!」


扶桑「提督、今日は本当にいろいろと、ありがとうございました。扶桑、これからもご期待に沿えるように、尽力いたしますね。・・・山城の事はすいませんでした。でも、この子なりに、とても楽しかったのだと思います」


提督「いや、山城の可愛さが良く分かったからね。酒の席であろうがなかろうが、何の問題も無いよ。明日はゆっくりでいいから、良く休んでくれ」


扶桑「ありがとうございます。ほら、山城、行くわよ?」


山城「・・・あ、姉さま?大丈夫です、山城は姉さまの手を煩わせることはいたしません、もう少し落ち着いたら戻りますので、このままにしてくださって大丈夫です」キリッ!


扶桑「本当に大丈夫なの?あなたがこれくらい酔うと、いつも記憶を無くしてしまうから、心配だわ。今日のやり取りだって、どこまで覚えているか?」


陸奥「あら、そうなの?山城はお酒にだいぶ強いと思っていたけれど」


扶桑「弱くはないけれど、早い段階で酔いが回り、酔ったままでお酒を呑むのがこの子の呑み方なんです。きっと、私に合わせようとしているうちに、そうなったのね。もしかしたら今日の二次会のやり取りも、明日には記憶がないかもしれないわ」


提督「そんなにかー、まあ今日の言動を見ると、完全に酔っぱらっていたんだろうな」


山城「そんな事ありません!山城は酔ってなんかいませんし、大丈夫です!」ムスッ


扶桑「そんな事言ってあなた、この前も酔っぱらって、船に持ち込んだ『浦霞』を勢いで全部飲んでしまってから、次の日私に『姉さま、いつの間に全部飲んだのですか?』なんて聞いて来たでしょう?」


山城「うっ!あれは・・・ごめんなさい、姉さまを疑って。でも、今は本当に大丈夫ですから!」


扶桑「そこまで言うなら、大丈夫ね。分かったわ、私は先に部屋に戻るわね」


―扶桑は心配そうにしていたが、部屋に戻っていった。金剛はいつの間にか突っ伏して寝ていたので、提督は上着をかけた。


提督「金剛は、寝ちゃってるか。後で連れていくか。・・・駆逐艦の子たちは元気だなぁ。ちょっとだけ片づけを手伝ってくれるかい?」


初風「途中から麦茶に切り替えちゃったけど、もう元気よ。これ、本当に効果があるのね」


提督「やっと顔色が良くなって何よりだよ」


荒潮「私もお手伝いができるように起きていたわ。利根さんの言葉がずしっと来たもの。提督が何かしている限り、サポートするのが秘書艦の務めね。うふふ」


如月「正直だいぶ眠いけれど、司令官に美容にいいカクテルまで作ってもらったら、みっともない姿は見せられないわ。私も見習いですもの!」


朧「今日は私もテンション高いよ。楽しいもん!」


漣「私とぼのは言わずもがなねー」


曙「ふん、当たり前だわ。秘書艦だもの」


潮「あの・・・なんだか私、全然役に立ってなくてごめんなさい・・・」


提督「何を言ってるんだ?」


潮「えっ?」


提督「今回の遠征作戦行動で、一番練度を上げつつ敵を撃破したの、潮だぞ?役に立ってないどころか、自分の役割をちゃんと果たしているし、仲間のサポート率だってとても高い。本当は頭をナデナデしてあげたいくらいだが、怖がられているから、カクテルを心を込めて作っていたんだぞ?」


朧「やっぱり提督はちゃんと見ていてくれているね。潮ってば、私より頑張っていたもんね!」


潮「あ、あの、怖がってはいないんですけど、うまく話せなくて・・・」


提督「半分冗談だ。大丈夫。分かっているって。だから変に近づいたりはしないけど、よく頑張っているのは知っているからな?って言っときたかったのさ。あーあともう一つ、新規の子をかばってくれるのは嬉しいが、命を落としたりはするんじゃないぞ?」


潮「あの・・・そんな・・・ありがとうございます!あの、実は私の方が、提督に避けられているのかな?・・・って」


提督「いや、避けてない。気を使わせたくなかっただけだぞ?」


潮「それに・・・胸が大きい子は好きじゃない(小声)、みたいな・・・誤解でしたけど」カァァ


提督「その辺の考え方は今日話した通りだが、嫌うとか避けるなんて事は無いって。・・・そもそも胸の有る無し関係なく、潮って可愛いだろう?引っ込み思案なのに強いのもポイント高いしさ。とても頑張り屋って気がするよ」


潮「かっ・・・かわ・・・」ボッ


―潮はうつむいてしまった。


潮「・・・何でぼのちゃんまで提督と仲良く話せてるのに、私はダメなんだろうって」


曙「うーん、私はほら、色々あったから・・・」


朧「私はそんなに話す機会は無いけど、特に気にしたことは無いかなぁ」


提督「そうだよなぁ?」


漣「ん?ちょっと待って、潮ー、もしかしてもう少しご主人様とお話ししたいのに、うまく話せなかった感じなの?」


潮「・・・うん、タイミングが悪かったり、私が上手く話せなかったりで」


提督「ごめん、全然気づかなかった。でも、言われてみれば何度か、そんな事もあった気がする」


潮「あの、提督は何も悪くないです。私がいつもタイミングが悪いだけです」


提督「じゃあ、今後はこっちから呼び出すなり、話しかけるなりするよ」


潮「そんな、その・・・」


漣「あ、そうしてあげてください。あと、時々おっぱいも触ってあげてくださいね」


潮「えっ?」


提督「なんて事を言い出すんだ漣ぃ!」


漣「駆逐艦も負けてはいないって事を身体で表現しているのが潮ですっ!」


潮「わ、私はそんな事考えてないよ?それに、提督はぼのちゃんしか触らないし」


曙「あっ、それはそのう・・・なんでなの?」ボッ


漣「あーっ、言われてみればそうだ!ご主人様ったら、ぼののお尻と皮膚のついた肋骨は何度か触ってるけど、私の事は全然触ってねーや!こんなの絶対おかしいよ!」


朧「皮膚のついた肋骨て・・・くふふ」


提督「すごい表現だな!」


曙「皮膚のついた肋骨ぅ?ふーん、その皮膚のついた肋骨に負けてんのは誰かなぁ?」プルプル


漣「けっ、添い寝する度胸も無い人に言われたくないんだお。テンプレツンデレ乙!」


曙「そっ、添い寝なんてできるわけないでしょう?バカじゃないの?」


提督「それなりに必要なら、別にしたっていいぞ?なんもしないし。最近悟りレベルがさらに上がってしまった気がするんだよな」


曙「えっ、ちょっと何を言い出すの?(退路塞がないでぇ!)そもそも何で私がクソ提督と一緒に寝なくちゃならないのよ。漣こそ、添い寝までしたくせに指一本触れられなかったんでしょ?」


荒潮「ねぇ提督、じゃあ私が添い寝したいって言ったら、添い寝してくれる?」クスクス


陸奥「あ、私もー、なんてね」フフ


提督「二人とも、あまりからかわんでくれよ?・・・とはいえ、金剛と漣の件があってから、自分の中の理性的なもんが、さらに強くなった気がするんだよな。んで、そういう自分を試したいというか」


初風「それ、男性としては進んじゃいけない方向じゃないかしら?提督としては立派なのだけれど」


曙「だから、クソ提督はもっとクソ提督にならないと心配だってのよ」


漣「なるほどー、ふーん?」


潮「・・・うう、だから私が話すといつもタイミングとか、おかしなことになっちゃって」


曙「あっ、ごめんね、潮」


漣「ごめんごめん。こういうノリになっちゃうとつい楽しくて」


提督「まあ、仲が良くて何よりだよ。潮、今後は気にしないで話しかけてくれよ?おれも話しかけるしさ」


潮「はい。何だか、すいません・・・」


磯波「潮ちゃん、わたしも引っ込み思案だからよくわかります。でも、思ったより話せるようになってきたんですよ。最初は緊張したりして大変だったんです」


潮「磯波ちゃん、ありがとう!」


―この件をきっかけに、磯波と潮は仲良くなっていく。


提督「さてと、片付けも終わり。じゃあそろそろ寝るかな。みんな明日はゆっくりで構わんからね」


―陸奥や、駆逐艦の子たちも、おやすみを言いながら執務室ラウンジを出ていった。


提督「さてと、・・・金剛、どうする」


金剛「・・・ン、sorry寝ちゃってたネー。ついていくヨ」ムニャ


提督「わかった。机まわりを片付けるから、ちょっと待っていてくれ。あっ!」


金剛「どうしたノー?」


提督「山城、もう散会だぞ?みんな引き上げたし、おれもそろそろ休む。自力で部屋に戻れるか?」


山城「ん・・・山城は眠ってもいないし酔ってもいませんよ~?あらぁ提督、かわいい高速戦艦を連れていますね~」ユラユラ


金剛「完全に酔っぱらっちゃってるネー」


提督「部屋まで送ろうか?」


山城「山城は大丈夫です!ここでもう少し休んだらお部屋に戻りますから、お手を煩わせることはありませんよ、提督」ピシィ


―山城はそう言うと、金剛に敬礼した。


金剛「エート・・・」


提督「それ提督じゃない、金剛だ」


山城「んん・・・暖房を切らないでおいてもらえますか?あと、麦茶いただきますね。少し休んでから戻るので、大丈夫です」


提督「わかった。じゃあお休み。風邪ひくなよ?」


―廊下。


金剛「提督、ちょっと汗かいちゃったりお酒臭いから、身支度を整えてから行くネー。寝ちゃってて構わないですからネー?」


提督「部屋まで送るよ。だいぶ足に来ているようだしさ」


金剛「ありがとうネー。提督は優しいデス」


―その頃、執務室ラウンジ。


山城「ふんだ。姉さまという人がいながら、駆逐艦の子たちや金剛と仲良くしちゃってー。扶桑型が一番なんだから!知っているんですからね、ここに二つしかない応急修理システムを、私と姉さまにこっそり装備していること・・・」


―山城は自室に戻ると、シャワーを浴びて身支度を整えた。扶桑はすでに深い眠りに落ちているようだ。


―ガチャッ、バタン


扶桑「・・・ん?山城、どこへ?・・・」スゥ


―提督の自室。


提督(シャワー浴びて歯を磨いてとっとと寝よ。もう眠すぎる。金剛はもうじき来るだろうし)


―提督は急いで身支度を整えると、常夜灯に切り替えてベッドに入った。気が緩んだのか、すぐに眠りに落ちてしまった。


―金剛の自室、浴室。相当の眠気を感じたが、金剛は頑張って起きて、シャワーを浴びていた。


金剛(眠いデス・・・でも、提督にくっついて眠りたいし、何もなくてもエチケットは大事デス。お酒くさいし、汗もかきましたネー・・・)


―金剛は浴槽に入って一息ついたが、やがてそのまま深い眠りに落ちてしまった。


―しばらく後、提督の自室、夜中。提督は暑くて目が覚めた。


提督(・・・ん?来てたのか金剛。いつもより密着してるな。・・・んっ?)


―昨日までなら、金剛は艤装服のまま提督の腕を抱きしめて寝ているが、今夜はあまり布の部分が触れていない気がした。


提督(二の腕かな?腕かな?ずいぶん柔らかいが、まさかな・・・)


―提督は再び眠りに落ちた。


―翌朝、マルナナサンマル。閉め忘れたカーテンのせいで、レースのカーテンを通して、部屋がうっすらと明るい。そのせいで目を覚ましたようだ。


提督(ん、朝か・・・金剛も良く寝て・・・あれっ?)


―髪がかかって顔が良く見えないが、そもそも、髪の色が黒だった。そして、金剛の香りでもない。どこか和風の、甘やかな香りがする。


提督(えっ?・・・何がどうなってる?)


―提督はベッドの中を覗こうとして、あわててそれをやめた。


提督(え?裸で寝てる?バカな?記憶には何もないが・・・しかも、今おれの腕に触れてるの、裸の胸だ!)


―提督は昨夜から今までの事を何度も思い出した。しかし、それらしい記憶はない。金剛がおらず、違う誰かが、少なくとも上半身裸で自分のベッドの中にいる。


提督(記憶がなくなるほどおれが酔った?いやそんなはずはない。金剛はどうしたんだ?)


―提督は眼を閉じた。なんとなく、慌てて起こすと、状況が悪化するような、そんな勘が働いた。じんわりと変な汗が背中とシーツを濡らす。そして、時計の音だけが大きい。


―モゾッ。隣の誰かが、動く気配がした。


??「んっ・・・んん・・・えっ?」


―状況に気づいたようだ。


??「嘘?・・・てい・・とく?嘘ぉ!」ガバッ!


提督「ん?なんだ?何で山城?あっごめん!」


山城「ここどこ?えっ?何で私、何もつけてないの?」バサッ


―山城はベッドから布団を引っ張ると、それで身を包んで床にぺたりと座った。


提督「おれが聞きたい。山城が何でここに?金剛は?」


―部屋を見回すと、山城の艤装服が椅子にかけてあった。山城は驚いた目で提督を見ている。


山城「・・・提督、私、二次会が始まるあたりから、記憶が途切れ途切れですけれど、これはどういうことですか?」


提督「いやおれが聞きたいよ!」


山城「まさか、提督、お酒で前後不覚になった私を・・・」


提督「いや本当に何もしてないって。違和感とかも無いはずだぞ?」


山城「嘘よ!だって現にこうして、私、服を着てない!」


提督「まず落ち着いてくれって!」


山城「・・・姉さましか、私の裸を見たことがなかったのに、酔わせて、ベッドに引きずり込んで、辱めを与えるなんて」グスッ


提督「いや、本当にわからないんだってば。おれは前後不覚になるほど呑んでないし、寝た後の事は覚えてないぞ?」


―コンコン、ガチャ


金剛「グッモーニン提督ゥー!あの後お風呂で寝過ごしちゃったヨ・・・・アレ?これはどういう状況ですカー?」


提督「おはよう金剛。いやこっちが知りたいよ。何で金剛じゃなく、山城がおれのベッドに入ってきてんの?って状況なんだが、山城が混乱しているんだ」


金剛「山城、感心しませんネー。私の代わりにベッドに入って、エッチな事をしてしまおうだなんて、とんだ泥棒猫デース!提督も提督ネー、私と山城を間違えちゃ、ノーですヨ!」


提督「そーじゃねぇぇぇぇ!しまいにゃ泣くぞ。山城も分かってない。おれは酔ってる女とはやんない主義だ。酒は酒、エロはエロだ。かなり付き合いの長い女でなきゃ、酔ってどうこうなんてしない。そもそもだなー、昨日も言ったが、おれは素面の女の子の反応を見る方が好きなんだよ!まず落ち着けっての!」


金剛「なんちゃって冗談ネー。私は提督の事を信じてるから大丈夫デース!扶桑ー、山城はやっぱりここにいたネー!」


―ガチャ


扶桑「おはようございます提督。私室に失礼いたしますね。・・・山城、あなたまた、やらかしたわね・・・」


山城「姉さま、だって・・・提督が・・・」


扶桑「提督があなたに何をしたの?あなたが自分で酔っ払って、服を脱いで提督のベッドに入っただけでしょう?昨夜、部屋に戻ってから、シャワーを浴びてどこかに行っちゃったじゃないの。私に付き合ってくれるのは嬉しいけれど、お酒に飲まれてはダメよ・・・」


金剛「私がバスルームで居眠りしなかったら、こうなってなかったネー。あ、提督が私と山城で両手に花で眠れたかもしれないですネー」


提督「山城、とりあえずなんもしてないから、そこは安心してくれ。心配なら、陸奥に言って検査でも何でもして貰ってくれ」


山城「私、何でここにいるかわからないんですけど・・・」


扶桑「いつまで覚えていて、いつから記憶が無いの?」


山城「二次会が始まったくらいから先は、あまり覚えていません」


金剛「あんなに、泣いたり笑ったり怒ったりしていたのにデスか?」


山城「ええっ?そんなこと言ってからかわないでください!」


提督「いや本当。山城は可愛いって結論になって、山城もみんなの事が大好きって言っていたが」


―ここで山城は、色々と思い出し始めた。


山城「・・・うう、私、何か楽しくて、提督の所に自分で来たかもしれません・・・」


扶桑「もう!山城ったら・・・。提督、とても驚かれましたよね?」


提督「いや、腕が胸に触れてしまっていたし、ちょっと見てしまったから、その、申し訳ない。とてもびっくりはしたが、自分が酔い過ぎて取り返しがつかない事をしてしまったかと思ったよ」


扶桑「それくらいは不可抗力です。山城が悪いのだから。それに、山城も魅力のある子です。他の提督なら、おそらく事故になっていたと思います。・・・山城、呑み過ぎはダメよ」


提督「いやびっくりしたよ・・・。いい酔い覚ましになったとも言えるけどな。しかしなんでこんな事を?」


金剛「たぶん山城は提督の事が好きなんですネー」


山城「そっ、そんな事ないわ!」


扶桑「しょうがない子ね。でも、はたから見たら、そうとしか思えない状況よ?」


提督「酔って部屋を間違えたんだろ。なあ山城?さ、解決したならおれはもう少しだけ二度寝するよ。扶桑と山城は、昼前に秘書艦として呼び出すので、それまでゆっくりしていてくれ」


扶桑「!すいません、何から何まで」


山城「提督・・・」


提督「山城、気持ちは落ち着いたか?びっくりするのは無理もないが、今後は気を付けてくれよ?悪い気はしないけど、悪いからさ。おれもびっくりしたぞ?」


山城「はしゃぎすぎました。後でちゃんと謝りますね。今、昨夜からの事を色々と思い出しています。では、失礼いたします」


扶桑「すいません提督。執務室の麦茶を、少しいただきますね」


―ガチャッ・・・バタン


金剛「大変でしたネー」


提督「かなり焦ったが、こういうの楽しいよな。いや大変だったけどさ」


金剛「そう言えるのはあなたのいいところですネー。提督」


提督「ところで、もう少しだけ寝るけど、どうする?」


金剛「ありがとうデス。くっつきますネー」


―執務室ラウンジ。昨夜の賑わいと異なり、今は山城と扶桑しかいない。二人は温めた麦茶を飲んでいた。


扶桑「山城、昨夜のあなたはいつもと全然違っていたわ。今の事もそうだし。どうしたの?」


山城「自分でもわかりません。私、なんだか変ですね。自分で自分がちょっと気持ち悪いです」


扶桑「・・・金剛の事でしょ?」


山城「そ、そんなことあるわけないですよ、姉さま。金剛が来たからって私がなぜおかしくなる必要があるんですか?」


扶桑「そう?じゃあ・・・私だけなのかしらね」


山城「えっ?」


扶桑「何でもないわ。クリスマスの夜だけ、一週間ほど続いてくれたらいいのに」


山城「姉さま?」


扶桑「気が付けば、いい子たちがたくさん増えているし、今後も増えていくのよね。そしてきっと、たくさんの子が、提督に信頼以上の気持ちを寄せていくようになるの。でも、提督は誰とも深い関係にはならないと言ったわ。そして、きっとあの人はそれを貫くと思うの」


山城「・・・・」


扶桑「金剛が添い寝をしても、あなたが間違えて裸で忍び込んでも、動揺は言葉だけで、提督の眼はいつもとても静かなのよ。でも、拒絶ではなくて、優しい眼なのよね。提督にとって、艦娘はどういう存在なのかしら?」


―ギイッ、バタン


陸奥「ふぁ、おはよう扶桑、山城。昨夜は楽しかったわね。提督はまだ金剛と一緒に眠っているのかしら?流石に頭が痛いわ~。なので、麦茶をいただきに来たのよ。・・・あら?クリスマス明けらしくない雰囲気ね?」


―扶桑と山城は、昨夜からさっきまでの事を陸奥に話した。


陸奥「扶桑も山城も提督の事が気になるのねー。気持ちはよくわかるわ。わたしもあの人の事は大好きだもの。じゃあ、気持ちの晴れるお話でもしましょうか」


山城「大好きって、あなたはそんな事を言う感じではなかったわよね?」


陸奥「そうよ?私もそれなりに悩んだのよ。今のあなたたちみたいにね。きっと次は金剛が同じ悩みを抱えるわね。立ち上がりも早いでしょうけれど」


扶桑「なぜ、そんな事が言えるの?あなたはそんな、確信めいた話し方をする子だったかしら?まるで・・・」


陸奥「提督みたい?うふふ。なぜかしらね?提督の考えが最近、何となくわかる気がするのよ。提督はね、私たちを拒絶したりする気はないの。自分が提督だから、私たちが艦娘だから、という割り切り方をしているわけでもないわ。だって、覚えているでしょう?私の事を命がけで守ろうとしたり、今回の金剛の件だってそう。ゆうべも、わざわざ自分で私たちを労ってくれていたでしょう?」


扶桑「そうね・・・。陸奥、山城、私ね、最近、自分の事が嫌いな時があるの」


陸奥「自分の事を好きな人なんて、そういないもんだよ、なんて、提督なら言うんじゃないかしら?」


扶桑「ふふ、今の感じ、提督によく似ていたわ。でもそうね、そうだわ。私ったら、ダメね」


陸奥「私ね、何となく感じることがあるの。提督って、何かにとても疲れたようなところがあって、その疲れた感じが気になるような、そんな感じがしないかしら?魅力的な女の子が、時に裸で、好意を前面に出してきても消せない何か、なんて、どんな事なのかしらね?」


山城「私は別に、好意を前面に出してなんかいないわ!」


陸奥「あなたの事だなんて言ってないわよ?」


山城「・・・・だいたい、提督がちょっと変なんです!一体、どんな経験をしてきたら、あんな人が出来上がるの?」


扶桑「そうね。本当に変な人。いいえ、変な提督ね。うふふ」


陸奥「提督はいつかきっと、もっと自分の事を話してくれる気がするの。それまで、私たちは信じて全力を尽くしましょう?私たちの事をとても大切に思ってくれているのは、間違いない事だと思うから」


山城「そうね、クリスマスだって、とても楽しかったわ」


―その少し後、提督の自室。金剛は提督の腕を掴んで寝息を立てていたが、提督は山城の件もあったのか、結局眠気が消えてしまっていた。


提督(まさかおれが、こんなクリスマスを過ごす日が来るなんてな。あれほど嫌っていた言葉なのに・・・)


―レースのカーテンから差し込む光は、冬なのに暖かい。隣では、金剛が静かに寝息を立てていて、腕から温もりと信頼が伝わってくる。


提督(本当はおれは、過去のどっかの時点で死んじまってて、今は死後の世界なり、幻想だったりしてな。ふふ。そうだとしたらクリスマスに憧れていたわけか。案外、そんなもんだったりしてな・・・)


―提督はとりとめのない思考で遊んだ後、ゆっくり眼を閉じた。来年のクリスマスは、この何倍も充実させよう。そんな事を考えていた。





第十六話 艦  



次回予告


何日か前、ロケット発射基地の防衛に向かう、特務鎮守府の提督たちと、絶望的な戦い。


ある提督と駆逐艦・浜風の最後の戦いと、別離、そして・・・。


特務鎮守府に着任したばかりの熊野は、全滅していく仲間を見ながら、

たった一人、遠く離れた日本に向かう事になる。


そしてクリスマスのころ、ある鎮守府では、内偵を行っていた憲兵が、

極悪な提督に、自殺に見せかけられて海に落とされていた。






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