ミリオン部2 部活
ミリオンメンバーの雑談小説?みたいな感じです。第2話です
部活
「私達って学生だよね?」
何の脈絡もない内容ではあったけど
「何よ、当たり前でしょ」
落ち着きを取り戻した志保は、淡々と答える。
「じゃあさ、みんな何か部活とか入ってる?」
未来以外から疑問符が浮かぶ。
「こっちが忙しいから部活はちょっと入れてないな~」
「未来。私達にそんな暇あるわけないでしょ」
「静香の言う通りよ。そんな暇あるならレッスンしているわ」
可奈、私、志保と順に答える。基本的に全員同意見。アイドルとしてまだまだ頑張っていかなければならない私達に、そんな暇はない。
「だよね~。でさ、昨日友達と話しててさ、部活ってすっごい楽しそうなんだ~。だから、ここで部活出来れば、楽しく暇をつぶせると思うんだよね」
「あっ、それ楽しそう!すっごい楽しそうだね。未来ちゃん」
間髪入れずに賛成する可奈だけれど・・・私と志保は苦笑いをして顔を合わせる。悪い予感しかしない・・・
間違った集合時間から35分ほど過ぎた現在7時35分。早すぎる集合時間と連絡をしてきた相手に疑問を何故抱かなかったのか後悔を覚えながら、とても楽しそうに盛り上がっている2人を私と志保は見ているしかできない。
「これ、どうにかならないの?」
志保は2人には聞こえないように、私にそう聞いて来た。
「・・・(首振り)」
私は両手の掌を上にあげてお手上げのポーズ。可奈はどうか分からないけれど、未来を止める方法なんて、私が教えてほしい。
「・・・はぁ」
志保にもどうやら思い付かないらしい。(私に聞いてきた時点でないとは思っていたけれど)
「よし!じゃあ、ここにミリオンシアターの部活、ミリオン部を発足しよう!」
「おお!」
いつも通りにほぼノリだけで言い出す未来と、同じく賛成する可奈。
『はぁ・・・』
こっちも同じくいつも通りの友人たちを見て溜息をつく私と志保。
それで、具体的に何をするの?未来」
部活でもミリオン部でも何でもいいのだけれど、せめて時間までの暇つぶしにはなってほしい。
「う~ん、そうだね~」
楽しそうな表情なまま考え始める未来。その様子にワクワクしながら待っている可奈と、期待せずに見つめる私と志保。しかし、答えは出てこずに、未来の表情がどんどん怪しい方向へと変化していった。
「し、静香ちゃん。部活って何するんだっけ?」
やっぱり・・・
「知らないわよ。大体、部活って何か目的がある人たちが集まって作るものでしょ。何か目的がないとできないんじゃない?」
半分投げやり気味に言う。どうせあと1時間ほどで消え去る話題なのだから、ちゃんと考える必要もないだろう。
「目的・・・目的か・・・」
顎に手を添えて、如何にも考えていますといった様子の未来。
「目的ねぇ・・・」
それに呼応して腕を組んで考え始める可奈。どうやら、1時間も暇をつぶせることにもならなそうだ。目の前に座る志保も、閉じていた文庫本を開き始めている。私だけやることが無くて暇になってしまった。
暇なので一応部活の目的について考えてみる。口に出す気はないけれど、ちょうどいい暇つぶしにはなりそうだ。・・・部活かぁ。元々ピアノのレッスンを受けていたこともあって、部活に入るなんて真剣に考えたこともなかったなぁ。何より、こうやってアイドルを目指して頑張っている以上、部活に入る必要性も時間もないのだから、考えることなんてあるはずもなかったのだけれど・・・。
仮に、入るとしたら合唱部だろうか。ピアノももちろん好きだから吹奏楽部でもいいのだけれど、今は歌の方が好きだからやはり合唱部だと思う。
「よし、決めた!」
なんとなく考えていたら、未来が先に何かを思いついたみたいだ。時計を見てみるとさっきから10分ほど経っている。私もずいぶん考え込んでしまったようだ。
「何、何!未来ちゃん」
どうやら可奈は思い付かなかったらしい。
「ふふん。驚くよ~。こんなこと普通は思い付かないからね」
未来は如何にも名案が浮かんだと言っているかのよう。可奈もその答えに期待している様子。
「はぁ・・・なんなのよ。言うなら早くして」
志保は本を閉じて一応聞く気を見せている。変なところで律儀なんだから。
「それで、未来。どんなことを思いついたの?」
「ふふふ、聞いて驚かないでよ」
勿体付ける未来。随分と自信があるみたいだ。だいたい、いつも自信満々ではあるけれど。
「私達はアイドルを目指してるでしょ。でも、まだまだトップアイドルへの道は長い!」
「うんうん」
未来の口調に頷く可奈。
「だったら、こうやってできてしまったちょっとした時間も、トップアイドルに近づくために使うべきなんじゃないかって思ったんだ。でも、いざそういう話をしだしたら堅苦しくなるじゃない?だったら、部活ってことにしてしまえば楽しくやれるんじゃないかなぁって」
「へぇ」
志保が思わず声に出す。私も未来の提案に驚いた。なんで未来は偶に、本当に偶にこうやっていいことと言うのだろうか。それも、こんなどうでもいいタイミングで。
「すごいよ、未来ちゃん!ほんとすごいよ。それなら楽しくトップアイドルに近づけそうだね!」
可奈に至っては立ち上がって感動している。
「そうでしょ、そうでしょ」
声に出してはいないものの、感心している様子の私と志保。声に出してまで感動している可奈を見て、未来は満足そうだ。
「でも、それで具体的には何をするの?」
最初に会った印象から、こういった話は否定から入ると思っていた志保は、積極的に話を聞こうとする。こういったところは、近くに同じような友人がいる立場として、見習っていきたい。私はどうしても、放っておくことが多いから。
「へ?」
ただ、放っておきたくなるような返答が多いので、仕方ないとも思ってしまう。
「はぁ・・・やっぱりそこまでは考えてなかったのね」
志保もそこは予想通りだったらしい。
「ふふふ、それなら今度は私に名案があるよ」
未来の意見に触発されたのか、先ほどの未来のように自信満々な様子で可奈が言う。
「じゃあ、早く言って」
「もちろんだよ。私達シアターメンバーって個性的な人が多いじゃない」
『(あなたが言う)』
私と志保は声を出さずにハモった。
「だから、こうやって話す機会を作るだけでも、十分お互いに刺激し合えると思うの」
「・・・確かにそうかもしれないわね。実際仕事で会っても世間話ぐらいで踏み込んだ話はめったにしないし。打ち合わせとかは除いて」
私は素直に思ったことを口にした。
「おお、可奈ちゃんいい考えだよ、それ!いいね、それ!」
「でしょ~。でも、未来ちゃんがいいパスくれたからだよ~。ありがとう」
私の言葉に気を良くした様子の2人。
その時、控室隣の事務所のドアが開き、閉まる音が聞こえた。
「あれ、プロデューサー来たのかな」
「そうみたいだね。行こう、可奈ちゃん」
「うん」
そう言うと、2人はさっさと控室から出て行ってしまった。
「何なの?」
「さぁ?」
このままなんとなくこの話題は時間切れして終わると思っていたので、突然の出来事に私と志保は止まってしまう。
そのまま2人は時間いっぱい近くまで戻ってこなかった。志保も私も途中で2人のことは気にしなくなって、志保は文庫本を開き、私も誰かが置いて行った雑誌を読んでいた。
2人が出したアイデアは正直いいものだと私は思っている。確かに、あの2人が言う通り意識してアイドルについて話し合う機会なんて今はあまりない。部活というのはどうかと思うけれど、2人の言う楽しく話し合う場を設けるというのはいいかもしれない。
志保も2人の言葉に感じるところがあったのか、文庫本は開いているが、時折目線を外して考え事をしているようだった。
時間は経ち、ミーティングまであと10分ほど。すでにほかのメンバーも集まり始め、みんなそれぞれ時間をつぶしている。来ていないのは、ジュリアさん、紗代子さん、百合子、琴葉さんぐらいか。百合子もだけれど、琴葉さんや紗代子さんがこの時間に来ていないのは珍しい。
「たっだいまー」
「戻りましたー」
そんなタイミングで2人が戻って来た。2人の手には何か紙が握られている。
「あ~、未来ちゃん、可奈ちゃん、おはよ~ございます~。2人は元気ですね~」
入り口近くにいた美也さんが2人を出迎える。
「あ、美也さんおはようございます。これどうぞ」
そう言って可奈は手に持っていた紙を1枚手渡す。何なのだろうか、あれは?嫌な予感だけはしてくる。
「ほ?まつりにもですか?」
未来がまた近くにいたまつりさんに例の紙を渡している。
「え、なになに?私にもちょーだい」
私達の近くにいた海美さんが興味を持ったようで、素早く駆け寄っている。
「環も、ほしー」
「オー、私もほしいヨ」
それに釣られて控室内のみんなが可奈と未来の周りに集まり始める。
「海美さん、それちょっと見せてもらえますか?」
いち早く紙を手に入れて私達の近くに戻って来た海美さんに話しかけた。
「え、うん。いいよ」
海美さんは快く紙を渡してくれた。
「どうも」
そう言って私はすぐに紙を机の上に置き目を通す。向かいの志保も覗き込む。
『入部届』
紙の冒頭には大きくそう書かれていた。確かに、その紙は学校で見る入部届の体裁をなしていた。部活名が「ミリオン部」に固定されていることを除けば・・・
「はぁ、ミリオン部なのですか?いったい何をするんです?」
亜利沙さんが食い付いてしまった。
「ふっふっふ。いい質問ですよ、亜利沙さん。ミリオン部とは、なんと・・・」
未来が大仰に溜めて言い放つ。
「私達、ミリオンシアター組がトップアイドルになることを目的とした、私達アイドルのための、私達アイドルだけの部活なんですよ!」
それは全く説明になっておらず、本来なら更なる説明を待つ場面だったのだろう。でも、今いるメンバーが悪かった。
「おー、それは素晴らしいネ」
「いいですね、いいですね。亜利沙、これには目が鱗ですよ」
「へぇ、面白そうやん」
「部活・・・楽しそう」
「これは、ロコワールドをみんなに知らしめるのに使えるかもしれませんね」
なんとなく面白そうということで興味を持つエレナさん、アイドルという言葉に食い付いて賛同する亜利沙さん、暇つぶし程度にいなしている奈緒さん、部活という響きに惹かれている杏奈、自分のために利用しようとしているロコさん。考えはそれぞれでも、異議を唱える人が全くいない。
いや、私達と同じく不安げな目をしている人はいるのだけれど、あれの中に意見を述べに行こうとする人はいない。私達も、さすがにあの中に入っていくには勇気が・・・なんで、琴葉さんや紗代子さんがこの場にいないのだろうか。
「じゃあ、みんな入部届に名前書いてくださいね~」
可奈が機嫌よく言う。多分あの紙はプロデューサーにさっきまで作らせていたのだろう。2人に押し切られて作っている姿が目に浮かぶようだ。そして、そんなことを考えている間にも、みんな入部届に記入を始めている。これはもう止められない。
「はい、静香ちゃんも志保ちゃんも、どうぞ」
ニコニコ笑顔で紙を渡してくる可奈ちゃん。私と志保は目を合わせて、
『はぁ・・・』
溜息をついて、仕方なく、本当に仕方なく。入部届に記入するのだった。
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