ミリオン部3 ランニングガール
ミリオン部3話目になります。
ランニングガール
ひょんなことから発足されることになったミリオン部。略してミリ部(らしい)。活動内容不明。メンバーはミリオンシアターメンバー全員。目的だけははっきりしている・・・のだろうか?一応、トップアイドルになるためということらしいのだが、具体的な活動内容が不明では立つ瀬もない。
すでにあの日から3日。その間、みんなレッスンや公演準備などで忙しく、その話題は完全に忘れ去られているものだと思っていた。・・・思っていたのに。
「やっぱり・・・」
そう思わず口にしてしまった私が持っている携帯には、題名にミリ部。本文に集合時間と場所が書かれていた。
そして、次の日。先日と同じように打ち合わせ前の空き時間。ここも同じく集合場所に指定されていた控室に私は1人待っていた。
「誰も来ないって何なのよ」
メールを送って来た可奈さえも来ない。時間は前回とは違って少し遅く、現在午前9時50分で集合時間の10分前。打ち合わせが午後の1時だから、昼食の時間を考えて12時くらいまで付き合えばいいと思って早めに来たというのに・・・
誰も来る気配のない控室に1人いることに多少の不安を抱えながら、私はどうしたものかと考えていた。可奈が遅れてくるのはそう珍しくもない。静香が来ないのが気にかかるが、集合時間までは大人しく待っていよう。
そう結論付けて、私は何となく数日前と同じ席に座って文庫本を取り出した。百合子に借りたものだからファンタジー色が強くて、あまり好みではないのだけれどお勧めというだけあって、面白い。
「おはようございます」
2ページほど読み進めて、本の世界に入り込めそうになったときに、入り口から声が聞こえた。そこに立っていたのは真壁瑞希さんだった。
「あっ。おはようございます。真壁さん」
私は思わぬ人の登場に思わず立ち上がって挨拶をする。
「おお、北沢さん。わざわざ立ち上がって、おはようございます」
そんな私に頭を下げて挨拶を返してくれる真壁さん。
「おー、おはようネ」
その下げた頭の後ろから手を上げながら登場する島原さん・・・何、これは?
「はい。おはようございます」
私は島原さんへのあいさつを、真壁さんのように頭を下げて何となく行った。
「そんな、かたくるしい挨拶はイイよ」
私も年上の多いこのミリオンシアター内では、島原さんの言う通りに気を付けているのだが、今回は仕方ない。真壁さんにつられてしまった。
「あ、おはようございます。皆さん」
そして、島原さんのさらに後ろから現れたのは星梨花だった。
「星梨花。おはようネ」
「箱崎さん。おはよう」
「あ、星梨花。おはよう」
私は2人に対してよりも少し嬉しめに挨拶を返した。別に2人のことが嫌いだとかそういうわけでは決してないのだが・・・なんというか苦手。悪い言い方をすればだけれど。距離感がつかみにくいのだ、2人は。
それに星梨花とはあのライブからの古い仲だ。2人きりで話こそあまりしないものの一番気心が知れている。
「あ、もう4人揃ってるんですね」
星梨花は部屋の中を見てそう言った。・・・4人、揃っている?
「うん。揃った、揃った」
「じゃあ、早速始めよーヨ」
「えっ、何?」
私だけを置いて3人の中で話が進んでいるのがわかる。明らかに私以外の3人はこの状況に一切の疑問を抱いていない。
「ちょっと、星梨花。いい?」
私は一番話しかけやすい星梨花に事情を聞いてみることにした。嫌な予感だけはしているのだけれど・・・
「何ですか?志保さん」
純真無垢でこの状況を真剣に楽しんでいる様子の星梨花の笑顔。普段であれば見ていて気持ちのいいものなのだけれど、今ばかりは私の嫌な予感を助長する役割を果たすに留まってしまう。
「今日って、この4人で活動をするの?」
「はい・・・そうですけどって、可奈さんのメールに書いていなかったですか?」
可奈の、メール?
私はその言葉にすかさず自分の携帯を開き、例のメールを開く。が、そこにはそんなもの一切書かれていない。
「あれ、書いてないですね。私のには書かれてましたよ・・・ほら」
そう言って私に携帯を見せる星梨花。確かにそこには前半部分こそ同じだが、参加メンバーの名前(今いる4人の名前)がはっきりと書かれていた。
「私もあるヨ!」
「私も」
そう言って島原さんも真壁さんも形態を見せてくる。この距離だと内容までは見れないが、文字数的に星梨花と同じ内容のようだった。・・・だったら、なんで私だけ。
「あっ、そういえば確かに志保さんのアドレスここには載ってなかったですね」
「どういうこと、星梨花?」
「いえ、私たち3人には同じメールが同時に送られてきたんですけど、今思えば志保さんは送られていないなぁって」
私は星梨花のメールをもう一度見る。確かにそこには星梨花、島原さん、真壁さんのアドレスが送信先欄に載っていた。つまり・・・
「可奈ちゃん。志保さんのメールだけ別に送ったんでしょうか?」
「・・・でしょうね」
しかも、私に事前に知らせずに驚かせようといったたぐいのものではなく、普通に私を送信先に入れるのを忘れてしまったのだろう。それで、慌てて私にメールを送ったためにメンバーを記載し忘れた、と。送信時間がほんの1分ほどしか違いがないことから分かる。その時の可奈の様子が見て取れるようだ。・・・まったく。
「ふ~ん。まぁ、問題ないヨ。志保、楽しくクラブ活動しましょう!」
「おー」
「はーい」
「はぁ・・・そうですね」
この状況を受け入れるしかないと思った私は、覚悟を決めるのだった。
「それで、クラブ活動って何やるの?」
さっきまでやる気満々だった島原さんが着席直後に発言する。どうやら、勢いだけで楽しんでいたようだ。らしいと言えば、らしい。
「さぁ、何やるんでしょう?私、クラブには入ったことないので・・・」
星梨花も同様のようだ。
「真壁さんはどうです?」
あまり期待せずに、私は聞いてみた。
「私も入ったことない」
やっぱり・・・
「でも、やることは大体わかる」
「わぁ、ほんとですか?教えてください、真壁さん」
意外な言葉が返ってきて、星梨花も期待しているようだが、どうにも不安が目の前をよぎって仕方ない。
「部活は楽しめばいい。楽しいが正義」
「・・・」
間違ってはいない。間違ってはいないのだが、そこには具体性も目的もない。そんな言葉だけだと。
「オウ!それなら簡単だヨ!踊ればみんな楽しい。みんなでサンバ踊るヨ!」
「それは名案です、島原さん。踊りましょう」
島原さんの提案に躊躇なく応じる真壁さん。そして、
「確かにみんなで踊るのは楽しいですよね!私サンバは踊ったことないです。エレナさん、ぜひ教えてください」
「もちろんだヨ」
私だけが置いていかれてしまった。まぁ、分かってはいたけれど。私はそんな3人をできるだけ正しい方向に導こうと(多分無理だろうけれど)声をかけた
「ちょっと、部活は楽しむ・・・だけじゃ・・・」
のだけれど、あるものを目にして、言葉は途切れ途切れになってしまい、最後まで紡ぐことができなかった。
「志保さん。どうかしましたか?」
島原さんにサンバを教わろうとしていた星梨花が、私の様子に気が付いて話しかけてきた。どうかしたというか、なんというか
「真壁さん」
「何?北沢さん」
島原さんを見ながらサンバ?を踊ろうとしていた真壁さんに聞いた。
「その下のものは・・・」
「下・・・この子たちのこと?」
どうやら、そのことについて真壁さんに尋ねたのは間違いじゃなかったようだ。いや、間違いも何も、それ以外ありえないのだけれど・・・
「はい・・・その子?達のことです」
私は少しためらったが、その子?達に指を指して尋ねた。その子?達は真壁さんと同じようにサンバを踊ろう・・・としているのかは怪しいが、踊ろうとしているのは分かった。
「リトル瑞希」
「はい?」
「わぁ、リトル瑞希さんって言うんですか?かわいいですね」
「おー、リトル瑞希もサンバ踊るネ?」
星梨花は疑問も持たずに受け入れ、島原さんはまるで前から知っていたかのような対応。またも、私だけ・・・
そんな落ち込んで頭を下げていた私に1人?のリトル瑞希さん?が近づいてポンポンと足をたたく。
「励ましてる」
そうらしい。悲しくなってきた。
「志保!そんな落ち込んでたら駄目ヨ!踊ってテンション上げようヨ!」
島原さんは楽しそうにサンバを踊り始める。見ていて見事だし、楽しいのだろうとは思うのだけれど、さすがにこの状況でそんな早く回復はできない。リトル瑞希さんの励ましが続いているが、それは逆効果にしかならない。少なくとも今は。
いつもの私であれば、つい怒っていたと思うのだが、怒りづらい星梨花、怒っても無駄そうな島原さんと真壁さん。それにリトル瑞希さん・・・どう怒っていいのかさえ分からない。
「あ、リトル瑞希はサンバ苦手ネ?」
私を励まそうとしていたリトル瑞希(敬称略)はすでに島原さんにサンバを教わりに行っていたのだが、どうやらうまくいってない様子。
「ダンスは得意なはずだけど」
真壁さんはそう言っているが、当のリトル瑞希はうまく腰が触れないようで、隣り合っている者同士でよく頭をぶつけている。ちなみにリトル瑞希は総勢4人。私達をちょうど同じ人数。今はニュートンのゆりかご(金属球の振り子)のように順に頭をぶつけあっている。
「頭が重いからでしょうか?」
星梨花がそう指摘する。恐らくそうだろう。腰の動きが頭にまで伝わってしまってどうにもならないといった様子だった。
「リトル瑞希はどんなダンスが得意なんですか?」
私は半分やけになって真壁さんに聞いてみた。
「大体できるはずだけど・・・」
と言いながら真壁さんは目線をリトル瑞希に向ける。すると、リトル瑞希はサンバを止めて、きちんと一列に並び直して、踊り始めた。
「わぁ、上手ですね」
「オウ、ホント上手ネ!」
確かに、それは完璧な踊りだった。4人のリトル瑞希が一糸乱れぬ踊りを踊っていた。それはいわゆる「ランニングマン」と言われるもので、その場から動かずに走っているかのように見せるダンス。メジャーではあるので私達も練習をしたことはあるが、ここまで見事にはできない。
「どうやったらそこまで上手にできるんですか?教えてください、リトル瑞希さん」
素直に感動した星梨花が早速先頭にいたリトル瑞希に教えてもらおうとしていた。
「私にも教えてヨ」
島原さんも、
「じゃあ、私も」
なぜか真壁さんまでも。私はどうするべきか考えて・・・いや、さすがに流れは分かっているのだけれど、と足に感じるポンポンと小さな手でたたかれる感覚を感じながら些細な抵抗をしていた。
もちろん抗えるわけもなく、私達4人は同じく4人のリトル瑞希に「ランニングマン」を教えてもらっていた。
リトル瑞希による指導は的確で分かり易く(言葉は話さないが、何となく言いたいことがわかる)、みんな短時間で、踊りの比較的苦手な星梨花でさえ「ランニングマン」をマスターしていた。
そして最後に前列にリトル瑞希、後列に私達4人という並びで「ランニングマン」を踊ったのであった・・・何、これ?
活動記録
目的「トップアイドルになるための技術、意識の向上」(共通)
本日の活動「ダンス(ランニングマン)の練習」
結果「参加者全員ダンス技術向上」
感想(北沢志保)「参加者?(リトル瑞希)の技術を学ぶことができ、有意義であったと思います」
感想2(記載せず)「結果が伴ってしまっていることが、何となく腑に落ちません」
このSSへのコメント