2015-02-11 00:23:28 更新

概要

第4話です


 連携プレイング


「はぁ、怖いなぁ・・・」

 楽しいはずと思って始めたミリオン部。今日は私が初参加する記念すべき日・・・なんだけど、この前可奈ちゃんから話を聞き、さらに活動日誌を読んだところで嫌な予感が頭をよぎった。

 可奈ちゃんは悪くないし、一回目の活動メンバーは私も選んだ(メンバーのスケジュール的なところもあったけれど)ので文句の言いようがない。・・・歩きながらもう一度手に持っていた日誌を読んでみる。そこには、いかにも志保ちゃんが困っている様子が浮かぶような活動内容が書かれていて、私にだけ伝えられていない今日の活動メンバーへの不安に拍車をかけていた。

「別に、誰が来ても大丈夫だけどさ~」

 みんなと仲がいいし、どんな組み合わせでも楽しく部活出来る自信も予感もしているんだけど、何となく不安が残る。

「志保ちゃん・・・意地悪とかさすがにしないよね?」

 私はそう口にしながら、シアターの裏口から中に入るのだった。


 控室、もとい部室の前に立つ。時間は10時ちょうど。メンバーの誰が来ているかわからいけど、少なくとも1人、2人は来ているはず。意を決してドアを開けると・・・

「あ、未来。おはよう」

 そこには琴葉さんがいた。

「こ、琴葉さん。おはようございます」

 緊張していたため、敬語で答えてしまった。そんな私に、琴葉さんはくすっと笑い

「何、かしこまっちゃって。未来らしくないじゃない」

「いや~誰が来てるかわからなかったから、緊張しちゃって」

 私は頭に手を置き、おどけながら答えた。

「え、そうなの?まだ来ていないけど、あとこのみさんと杏奈ちゃんが来るわよ」

 それを聞いて、私は大きく安心した。

「そ、そうなんですね!いや~安心しましたよ~。もしかしたら765プロの方々が待ってたらどうしようとか、考えちゃって・・・」

「ふふふ。確かに先輩ではあるけど、そんなに緊張する必要はないでしょ。今は同じ765シアターのメンバーでもあるんだから」

「そうなんですけどね」

 私も琴葉さんも笑いながら話す。いい具合に緊張が解けた。これは部活大成功の予感。

「ごめん、ごめん。遅くなって」

「遅くなりました」

 そんな時、ドアを開けてこのみさんと杏奈ちゃんがやって来た。2人の手にはそれぞれ同じ紙袋が握られていた。

「おはようございます。このみさん、杏奈ちゃん・・・それで、手に持ってるのなんですか?」

 偶然同じ紙袋を持って来たということもないだろうから、聞いてみた。

「杏奈が部活のために用意してくれたのよ」

 予想に反して、答えてくれたのは隣にいた琴葉さんだった。

「用意?」

「そういえば、未来ちゃんだったのね。4人目って。志保ちゃんに聞いても教えてくれなかったからちょっと不安だったんだけど・・・未来ちゃんなら大丈夫そうね」

 大丈夫そう?どういうことだろうか・・・

「ゲーム持って来たの。みんなでやろうって」

 杏奈ちゃんが紙袋の中身を見せながら教えてくれた。そこには確かに携帯用ゲーム機が2台とソフト2本が入っていた。恐らく、このみさんが持っている紙袋の中身も同じなのだろう。

「え~っと、なんでゲームなんです?」

 話の流れが読めずに困惑。

「私がこのみさんと杏奈に部活で何しようか相談したの。未来はその時来るって知らなかったから、相談できなかったんだけど・・・」

 ごめんね。とでも言いたげな表情で琴葉さんが説明する。

「それで、どうせやることも決まってないのなら親睦を深める意味も兼ねて遊ばないって私が言ったの」

 このみさんが説明をつなげる。

「だったら、ゲームはどう?・・・って言ったら」

「時間は限られているしちょうどいいかなって思って、そう決めたの」

「はぁ・・・」

 杏奈ちゃんらしいなぁっとか、琴葉さんにしては珍しいなぁっとか、いろいろ思っていたらそんな返事になってしまった。

「嫌・・・だった?」

 そんな様子を杏奈ちゃんが勘違いして、悲しそうに聞いて来た。

「う、ううん!そんなことないって!楽しそうだよね、ゲーム!さぁ、やろう!やろう!」

 杏奈ちゃんを安心させて、さらにさっきまで抱いていた不安を消し飛ばすように私は右手を上げてやる気を見せる。実際、みんなでゲームとか楽しそうで仕方ない。

「ふふ。じゃあ、始めましょうか?杏奈ちゃん。教えてね」

 このみさんは時折見せるお姉さんらしさを言葉に感じさせながら、杏奈ちゃんの肩に手を置く。見た目は姉妹というか、仲のいい友達そのものなんだけど・・・不思議。

「じゃ、じゃあ」

「あっちで座ってしましょ」

そして、前の様に控室中央の机に集まって、みんなでゲームを始めた。


 杏奈ちゃんが持って来たゲームは、前にちらっと見せてもらったやつだった。あれだ、みんなでモンスターをやっつけて、お肉焼いて、食べるやつ・・・違ったっけ?

 とにかく、杏奈ちゃんを除く3人は初心者だったので、最初の20分ほど杏奈ちゃんの説明を聞きながらプレイした。装備を選んでもらって、役割を決めて、町の外に出て、モンスターをやっつけて、お肉を焼いて(やっぱり焼いた)。

「みんな操作覚えたし、大きいやつ狩りに行こっか?」

「そうね。みんなうまくなってきたし」

「だ、大丈夫かしら。私まだ、自信ないんだけど・・・」

「大丈夫ですよ。琴葉さん。みんないるんだし。それに、杏奈ちゃんがいるなら問題ないですよ」

 私もさほどうまくない(ということが分かった)が、いつまでもこんな所でちまちまとお肉を焼いているよりはよっぽど楽しそうだ。

「う~ん・・・そうね。時間も限られているんだし、行きましょうか」

 琴葉さんもやる気になった。

「じゃあ、行こうか。場所は近い方がいいよね。相手もそれなりのが近くにいるからよさそう。みんなレベルは低いけど、役割がはっきりしてるからいい線行くと思う。いざとなったら、杏奈が守るし・・・とりあえずこのみさんは後方から支援攻撃。私と琴葉さんが前衛で、未来は回復役と琴葉さんの支援をよろしく。杏奈のことは気にしなくていいから、琴葉さんを守ってあげて」

『は、はい・・・』

 説明プレイ中にも思ったけれど、ゲームに関することとなると、杏奈ちゃんは人格がちょっと変わっている・・・ような気がする。アイドルの時も変わるし・・・よし、あれは第三の杏奈ちゃんと呼ぼう。

「じゃあ、行くよ」

 ちなみに、杏奈ちゃんと私は片手剣。琴葉さんは太刀。このみさんは弓。装備こそ始めたばかりで貧弱だけど、なかなかバランスがいいと杏奈ちゃんのお墨付きパーティー。

「ランスやアックス系がいてもいいんだけど、最初はちょっと扱いにくいかもだから」

と言われはしたものの、よくわかっていない顔を、私を含めて3人はしていた。

 ともあれ、4人のパーティーで一列になって町を出ていく。杏奈ちゃん、琴葉さん、私、このみさんの順で。小物の敵が前から横から後ろから現れては、杏奈ちゃんが高速で撃破するか、このみさんが弓で仕留めていく・・・やることが無い。

 進んでいくごとに、琴葉さんは杏奈ちゃんが突撃した際にこぼれた敵を確実に仕留めていく。私だけが何もしていない・・・わけにもいかないのでアイテムを使ったり、更にこぼれた敵を仕留めていく。

 ふと、画面から目を話してみんなの顔を見てみた。杏奈ちゃんは真剣な顔をしているけれど楽しそう。琴葉さんはまるで歌詞を覚えている時みたいに真剣な顔をしている。このみさんは・・・目が合ってしまった。2人で声に出さずに笑う。

 最初こそ不安でどうなるのかなぁ~とか思ったりしたけれど、なんだ、結構うまくいくものだ。琴葉さんがゲームっていうのが、まだ何となく違和感が残るけれど、こうやって真剣にプレイしているところを見ると、案外向いてるんじゃないかって思えてくる。

 でも、このまま私だけあんまり活躍できないのも癪だし、できる限り頑張っていこう!・・・と思っていたのだけれど。


「未来。アイテム遅い。攻撃を受けてからじゃなくて、受ける前にダメージを予測して使わないといけないじゃない」

「は、はい!」

「未来ちゃん、そこに立っていられると邪魔」

「す、すいません」

「琴葉。左側に回って隙を作ってくれる?杏奈がしとめるから」

「了解。ほら、早く動くのよ。未来」

「は、は~い・・・」

 目的の敵まであと少しといったところ。何度か敵を相手にしている間に、こんなことになってしまった。

「杏奈、さすがね」

「ううん。このみさんが援護してくれたおかげだよ」

「そんな謙遜しなくていいじゃない。私の攻撃なんて弱くて注意を引くことぐらいしかできていないんだから」

「このみさんこそ。援護のタイミングばっちりだったじゃないですか」

「え?そ~お」

 こんな感じ。私を除いた2人はすでに立派なゲーマー。私は言われるがままに動くだけ(偶に言っていることがわからない場合もある)。完全に置いて行かれている状態で、楽しくないわけではないのだけれど、何となく疎外感。

「目的のモンスターはすぐそこだから」

「大丈夫でしょ。今の私達なら」

「ええ、まさかゲームでこんなにメンバーとの連携を図れることができるだなんて思わなかったけれど・・・今ならどんなモンスターが来ても大丈夫な気がするわ。ね、未来」

「う、うん。そう・・・だね」

 ゲームでの連携と、アイドルでの連携はまた別だとさすがに私でも思うけど・・・いいのかなぁ?琴葉さん

「ふふ、どんなって言うのは言い過ぎだと思うけど、今回のモンスターはこのメンバーなら楽勝だと思うよ、杏奈。でも、気を抜かないようにね」

「ええ、もちろん」

「当たり前よ」

「じゃあ、行こうか」

『ええ』

 みんなそうやって話をする顔は真剣で、輝いていて、まるでステージ前の舞台裏を見ているかのよう。いや、それ以上の表情をしている。もちろん私以外。

 後のことは特に細かく話すまでもない。いつの間にかモンスターが現れて、杏奈ちゃんと琴葉さんが向かって行って。このみさんが弓を撃っていて。私はひたすらアイテムを怒られないようにタイミングを見て使っていただけ・・・(怒られはしたけど)


「最初はゲームなんてって思っていたけど、案外面白いものなのね。それにステージでみんなとより深い連携が取れるような気がしてくるわ」

「私もゲームはだいぶ前にやって以来久しぶりだったけど、最近のものはみんなと遊べて楽しいわね。操作は難しいけど、杏奈ちゃんが教えてくれたからすぐ覚えられたし」

「そう。みんながそう思ってくれたなら、杏奈、うれしいな」

「そ、そうだよね~。みんなでゲームって言うのも楽しかったよね~・・・」

 みんなは本当に心の底からそう思っているのだろう。まるでステージで大成功したような表情。私はダンスをミスしてしまったような気分。

「これはみんなにもおススメしてもいいかもしれないわね。最初は反対されるでしょうけど、やってみればみんなも納得するはずだわ」

 琴葉さんがまた変貌してしまっている。ゲームしていないのに。

「そう?だったらうれしいな。杏奈、喜んでみんなに教えるよ」

「私も友達に薦めてみようかしら」

 みんなどうやらこのゲーム熱を広めようとしているらしい。いつもの私なら、すっっっっごく楽しそうに思うのだろうけど、今日の私にはそれはストレスの種以外の何物でもなかった。

 でも、このそれに反対する意見も、説得出来る自信もない。だからというか、しょうがなくというか、私はこういうことしか思いつかなかった。

「もっと、別のゲームも試してからでいいんじゃないかな?」

 例えそれが、私にとってはつらい道になるかもしれなくても・・・

『そうね!(だね)(よね)』

 みんなのまぶしい笑顔を前に、私だけ抜け出すなんて真似できそうにもなかった。




活動記録

目的「トップアイドルになるための技術、意識の向上」(共通)

本日の活動「ゲームを使用してのメンバーの連携強化」

結果「メンバー同士の連携・信頼関係を強化することができました」

感想(田中琴葉)「みんなで楽しめればよいと始めたゲームでしたが、思いのほか効果を得ることができ、今後他のメンバーでも実践していければと思います。」

感想2(春日未来・記載せず)「誰か、助けてください」








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