ミリオン部7 反省会
ミリオン部つづきで~す。今回は前回の反省会
反省会
「何か言うこと、ある?」
「いいえ」
「未来は?」
「ないです、はい」
例のゲスト3人を巻き込んだ(むしろ主体となった)パーティーから12時間後。つまりは翌日の朝。ミリオン部という何をするのか、何をしているのか誰も把握もしていなければ理解もしていない部活の発足メンバーが集まっていた。
いつもの定位置に何も言わずに座り2人が怒り、2人が深く反省している。原因は言わずもがな昨日のことで、そうなっても仕方のないものが机の上に乗っていた。
「2万円・・・」
「よくもまぁ、こんなに・・・」
あれだけの人が集まって、ただで済むわけがない。そして、まだ小さい子たちもいるのに(自分たち含め)自腹でするにも結構な額だ。つまり、財布は別にあった。
「プロデューサーも人が良すぎだけど」
「ちょっとは遠慮しなさいよ、可奈」
「だって~」
雨音の勢いとあとのの一言「もらえるものはもらっておけばいいじゃん」に素直に応じてしまったとはさすがに言えない可奈。
「琴葉さんもいたはずなのに・・・」
「琴葉さん・・・恵美さんに説得されて」
『はぁ・・・』
頭を悩ませる2人の脳裏にいつもの場面が思い出された。
「いいなぁ~私も参加したかった」
「みらい~」
「だって~、どうせ怒られるなら参加したかったよ~」
その気持ちは分からなくもない。可奈から電話がかかって来ても出ないように示し合わせていた3人は昨日不参加となってしまった。声を掛けなかったというわけでは決してない。
「私だって・・・」
「・・・」
もちろん2人も参加したくないわけじゃない。むしろ参加したいに決まっている。騒ぐこと自体は好きではないけれど、2人もみんなといるのは楽しいのだから。
「それで、どうするんです。これ?」
「どうするって言われても・・・」
選択肢などあるわけもなく、
「あとでプロデューサーさんには、ありがとうございますって言っておけばいいんじゃないの?」
「そんなわけにはいかないでしょ!未来。・・・それしかできないんだけど」
そう、素直に好意に甘えるしかないのがつらいところ。でも、アイドルとはいえ14歳の中学生4人に2万円もそんなに簡単に用意できるはずもない。昨日参加したメンバーから今更集めるというのも何か違う気がするし。
「いいわ、せめて反省ぐらいはしましょう」
「そうですね。(めんどうだからって)放ったらかしていた私達にも責任はありますし」
本音を言うと全部当事者の可奈と張本人の未来に丸投げしたかったが、どう考えても後で割を食わされる羽目になると静香と志保は知っていた。すでに可奈を放っておいたせいでこんなことにまでなってしまったんだ、これ以上知らないふりをしておくわけにはいかない。
無言で2人は目と目を合わせて頷く。言葉を交わすよりも深くお互いを理解した瞬間だった(お互いに全く嬉しくない)
「まず、可奈は何かある?」
ないと言ったら即ダメ出しをする気満々の口調で聞く志保。
「ひゃい!・・・え~っと」
考える、考える考える。必死で考え、考えているポーズもとる。しかし、浮かばない。それはそうだろう。実際可奈はあの場にいただけで、いつの間にかああなっていただけなのだから・・・。あえて言うなら何もしなかったことだろうか。何かしたところで結果が変わらなかったことにも変わりはないだろうが。
「可奈?」
「ええっと、あるよ、ある!ちゃんとあるから!」
ないな。と志保は判断した。というか、元々そう思っていた。可奈に対してはこういう風に対応すること自体に意味があるのだと志保が一番理解している。
「未来は?何か、あるわよね?」
笑顔で、明るい口調で聞く静香。
「ええ、私?私か~・・・なんだろう?」
静香がやさしく聞くからだろう、未来の口調も明るい。内心可奈の様子から自分も怒られると思っていただけに、ほっとしているというのが大きい。
「何か、あるでしょ?」
「うん。そうだね~・・・いきなり3人は呼びすぎたかなぁ?」
「他には?」
間髪入れずに静香は聞く。
「え?他?え~っとそうだな~・・・可奈ちゃんだけじゃなくて私達も参加した方がよかったかなぁ?やっぱり」
「そう・・・他には?」
ここでようやく気が付く。
「(あたし、すんごく怒られてる)」
どう考えても怒られるタイミングなのだから察しろと静香は言いたいのだろうが、言っても聞かないことも静香は承知している。だからこそである。こうやって追い詰めて自覚させるのが未来には一番効果がある。
「未来、他には?」
笑顔の先の怒気にも気が付く。
「あはは、何かなぁ?」
笑い声も乾いたものへと変わる。
明らかに怒った顔で真っ直ぐに怒りをぶつける志保と、冷や汗を流しながら反省する可奈。静かな怒りを面に出さず着々と追いつめる静香に、乾いた笑い声で頭をフル回転させる未来。あとは時間が解決してくれるだろう・・・
「しっつれーしまーーーっす!」
まるで海美やエレナが入って来た時のような勢いで扉が開き、予想外の人物が入ってきた。
『雨音ちゃん!』
ことの張本人・・・というべきなのだろうか。所恵美の妹こと所雨音だった。
「にゃはは。どうもどうも。みなさんお揃いじゃないっすか~」
化粧台前から椅子を持ってきて、座る雨音。動きに無駄が全くない。
「あっ、これ皆さんの分なんでどうぞ食べちゃってください」
テーブルの上に置かれた紙袋。無地の茶色い紙袋はどこかの店のものではないようだ。
「これって・・・」
「昨日、兄貴に手伝ってもらって焼いて来たんですよ。紅茶のクッキー。結構うまくできたんでぜひ食べてください」
『(そう言えば、お兄さんもいるって言ってたっけ)』
まず4人の頭に浮かんだのはそれだった。
「・・・えっと、雨音ちゃんこれは?」
未来がそのお土産の意図を聞こうとする。言葉が若干足りない気がするが、
「ああ、これは昨日のお詫びです。いや~昨日は大騒ぎしちゃって・・・プロデューサーさんにもお金出して貰ったりして迷惑かけたんで・・・ああ、先にプロデューサーさんには渡してきましたよ、ちゃんと」
志保と静香は思った。
『こんな、こんな年下の子はこんなにも気が回って、行動力もあるのに・・・私は、私達はどうして・・・なんで未来(可奈)は・・・』
半分自己嫌悪、半分2人への説教が頭の中に渦巻く。そんな落ち込んでいる様子に気付いているのかいないのか、
「じゃあ、しっつれーしました!それでは、また!」
嵐のごとく颯爽と部屋を後にした。
「ほえ~すごいね~雨音ちゃんって・・・」
「あっ!未来ちゃん、これすっごくおいしいよ!」
「ほんと⁉私も食べる~」
「志保ちゃん達もどう?すっごくおいしいよ、これ」
「あっほんとだ。すっごくおいしい。紅茶の香りもして・・・。ほら静香ちゃんも食べようよ~」
遠慮という文字は2人には存在しない。いや、存在しているのかもしれないが、明らかに他の人よりもそのハードルは低い。
「ちょっと、可奈!」
「みらいーーー」
そして、2人に対しての志保と静香の怒りの沸点も低い。
『ごめんなさーい!』
「失礼」
コントのような言い合いの中、再び来訪者が訪れた。
「あ、あとのちゃん?」
2人目も偶然なのか・・・まぁ違うだろう。昨日の騒ぎの2人目の元凶、徳川まつりの妹、徳川あとのであった。
「・・・ああ、雨音ちゃんもう来てたんですね」
部屋をきょろきょろ探るように机までやってくると、置いてあるクッキーを見てそう言った。
「うん、さっき来て」
未来、静香、志保の3人は固まったまま。
『(前と違う)』
そう思った。それはそうだろう、今日あとのは猫を一切かぶっていない。昨日の段階で、この劇場にいる人はプロデューサー以外に媚を売る必要がないと判断したのだ。
「ふ~ん・・・結構おいしい」
「だよね、だよね」
「少なくともあのバカ姉が持ってくるお菓子よりよっぽど」
「あはは・・・そうなんだ。まつりさんらしいね」
ただ、知っているのと扱いに慣れているかは別問題。可奈にはあとのの相手は難しい。
「それで、あとのさん・・・は何か用事でも?」
「さん付けいらないから・・・一応昨日のお詫び渡しに。プロデューサーさんにね。あなた達の分はないから」
ポリポリとクッキーをつまみながら部屋の中を改めて物色するあとの。
「あの、何か?」
志保も静香もあとのの変貌(本人は当然気にしていない)について行けず、若干評価が下がりつつある。とは言っても、元々物静かで何を考えているのかわからない人ぐらいの評価だったので、それほど差はない。そもそもあの徳川まつりの妹という時点である程度諦めているというのが2人の本心だ。
「いえ、べっつに。よくあの状態から一日も経たずに片づけられたなぁっと思って」
「あっ、昨日あとのちゃん達が帰った後で小鳥さんと律子さんが手伝ってくれて・・・」
「は?そんなの聞いてないわよ、可奈!」
「だって~・・・(怒られると思ってたんだもん)」
「だってじゃないわよ・・・まったく」
「はぁ、後で謝っておかなきゃ」
再び頭を抱える志保と静香。
「・・・まぁ私には関係ないからいいけど」
スタスタと部屋から去ろうとするあとの。
「あれ、もう帰っちゃうの?」
「一応挨拶しに来ただけだし、用もないのにいたら邪魔でしょ?」
「そ、そんなことないよ。あとのちゃんと話せると私嬉しいよ」
「う、うん。私も嬉しい!」
可奈の言葉に即座賛同する未来。こういう時の2人の真っ直ぐで曇りのない意見は強い。
「へ、へぇ。そう・・・なんだ。まぁ今日は用事あるし帰るわ」
悪態はついても根は優しいあとの。さすがにこの2人にこれ以上の悪態はつけない。
「そっか~。じゃあまたお話ししに来てね」
「それは嫌」
「え!なんで~⁉」
あとのはドアノブに手を掛けながらちゃんと答える。やっぱり優しい。
「だって、ただでさえあのバカ姉と家が一緒ってだけでストレス溜まるのに、家の外でも遭遇する可能性が高い場所に来たくないに決まってるでしょ!昨日だって帰ってきたら、昼にあれだけ怒ったくせに「反省が足りない」とか言ってまた怒ってくるし。それも、何?「ちゃんとまつりが如何に姫であるかみんなに話してきましたか?」って話すわけないじゃん」
言葉に熱を帯びたタイミングでドアノブから手が離れた。・・・しかし、ドアはひとりでに開く。
「あれ?家ではジャージで腰に手を当ててココアをがぶ飲みしてるとでも言えばいいの?馬鹿らしい。姫らしさなんて家では0のくせに。いったいにゃ・・・」
一瞬でドアの先に首根っこをつかまれてあとのは消えた。
『・・・』
廊下からは何も聞こえない。どうやらもう帰ってこれないようだ。
「あとのちゃんもちゃんとお詫びに来てるし、やっぱり私もプロデューサーさんに何かしてあげた方がいいのかなぁ?」
「可奈だけじゃなく、私たち全員ね」
「ええ、そもそもは“未来”が原因だけど、私達も知ってて何もしなかったわけだし」
「やっぱり私になるの~静香ちゃん?」
『当たり前よ(です)』
「ふええ~」
4人はあとののことを見事になかったことにした。一瞬見えた赤地に白の水玉模様なんて見えているわけがないのだ。そうなのだ。
そんなもの、仮に見えてしまっていたならば、どう考えても触らぬまつりに祟りなし。触ればあとのまつり、になると決まっていた。
「可奈。せめて昨日の日誌ぐらいはちゃんとつけておきなさい。今後の反省にはなるわ」
「あっ、うん」
「そう言えば静香ちゃん。この前の書いていないって言ってた日誌は書いたの?」
「未来と一緒にしないで。ちゃんと書いたわよ」
「うう・・・私はちゃんと書いたんだからその言い方はひどいよ~」
「いつもちゃんとしていないからそう言われるのよ」
「志保ちゃんまで~」
そんな言い合いの中、可奈は日誌を開いて固まっていた。
「ん?どうしたの、可奈?」
いち早くその様子に気が付く志保。
「いや、え~っと・・・これ」
「何よ?」
そう言って可奈は真っ白なはずのページを3人の前に広げた。
活動記録
(例外につき、雛形を無視して書かせていただきます)
感想(真壁はな)
「今回はお招きいただいたとはいえ、部外者の立場である私達を参加させていただきありがとうございました。私達3人は考えや意見は異なっているものの、共通して参加させていただいたことに感謝しています。プロデューサーさんには事情をお話しして机などの使用許可はとらせていただきました。手伝っていただいた田中琴葉さんや高山紗代子さんには改めてお礼を言わせていただきたいです。お金に関しても劇場経費でおちるとのことでしたのでご心配しないでください。片づけも朝に3人で行おうと思っていたのですが、すでに音無小鳥さんと秋月律子さん達にしていただいたようで、すいませんが皆さんからお礼を伝えておいていただけると幸いです。それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。 真壁はな」
「あとのさん、片づけに来てくれたんですね。雨音ちゃんも・・・このクッキーはどちらかと言えばついでだったんじゃないかしら?」
「ちゃんとお礼言えばよかった・・・はぁ」
静香、志保が深く反省する。思っていた以上に今回のゲストはしっかりしていたようだった。
「ふ~ん、はなさんも今朝来てたのかなぁ?会いたかった」
「私も~。この前はあんまり話せなかったし・・・可奈ちゃんいっぱい話したんだよねぇ、羨ましい」
この2人の言葉に当然静香と志保は固まる。そして、
『あんたたちが一番しっかりしないといけないのよ‼』
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