ミリオン部6.1 はな
ミリオン部第6話の第一部になります。新キャラ紹介回みたいな感じです
真壁はな
戸惑いが隠せていない可奈に、はながやさしく声をかける。3人は何となく可奈が今回の件を教えていられていないことを察していたので、堂々としたものである。
「あ、はい」
戸惑いからはなの言葉に従い素直に椅子に座る可奈。部屋の奥側にはなとあとの、手前側に可奈と雨音がそれぞれ向かい合って座っている。
「まずは自己紹介だよね!ね⁉私は所雨音」
「徳川あとのです。よろしくお願いしますね」
「真壁はな。よろしく」
雨音は手を取って握手をしながら、あとのは営業染みた笑顔を浮かべながら、はなは微笑みながら自己紹介をする。
「は、はぁ・・・って、所に徳川に真壁って!」
3人は可奈の驚きに対して言葉ではなく、笑顔で肯定を示す。
「あ、そうだったんですね。確かに3人とも似ていてかわいいですもんね」
「は?」
「ん?」
可奈の言葉に一瞬切れたような声が聞こえたが(斜め前あたりから)、そこには笑顔のあとのが座っているだけ。
「(・・・気のせい?)」
決して気のせいではないのだが、可奈では気付けまい。
「それで、皆さんは一体なんでここに?」
ようやく、可奈は疑問をぶつけることができた。
「妹がどういう風にアイドルをしているのか気になっていてね。アイドルの活動とは直接関係はないとは聞いていたけれど、少しは知ることができるかもと思って参加させてもらったの」
「はぁ、そうなんですね」
はなの説明には誰に誘われた、どうして事前に可奈に知らされていなかった、などの説明がまるで抜けていたが、そこの部分には可奈は気が付かなかった。
「可奈ちゃんと呼んでも。いい?」
「あ、はい。どうぞ!」
瑞希と同様に不思議な雰囲気を纏っていながらも、加えて大人のお姉さんの落ち着いた雰囲気を醸し出しているはなに可奈は緊張してしまっていた。
「ふふ、私のこともはなでいいから」
「あっ、はい。はな・・・さん」
「はぁ・・・」
「うんうん」
そんな様子をあとのは面倒くさそうに、雨音は嬉しそうに見ている。だが、可奈にそんな様子に気付く余裕はない。
「ふぅ・・・」
しかし、そんな可奈をよそに、はなは今まで纏っていた大人の雰囲気を脱ぎ捨てて、無表情に黙りこくってしまった。
「???・・・えっ?」
急な変貌に戸惑う可奈。
「はぁ・・・」
「あ~あ、時間切れか~」
そんな様子にもあとのと雨音は戸惑いもせずに、変わりない反応を見せる。
「はなさん。猫かぶるの、時間制限があるそうなので・・・」
「にゃはは。この前も時間いっぱい持たなかったしね~」
「・・・」
どうやら自分だけが今の状態を理解していないことは、可奈は理解できたらしく
「え~と、はなさん?」
はなに話しかけてみた。
「・・・」
しかし、はなは声では応じずに可奈の方を向いただけ。その表情からは「何?」と聞こえていそうだった。・・・だと思う。
「・・・え~っと」
でも、どうやって話しかけていいのか可奈にはわからなかった。
「はなさん、イエスとノーの反応ぐらいはしてくれますよ~」
困り切っている可奈に雨音が教えてくれる。
「じゃあ・・・はなさん、長時間話せないんですか?」
「・・・(こくり)」
「(頷いた!)」
その様子に可奈は可愛いとも思ってしまった。何というか小動物っぽかった。
「え~っと、じゃあ・・・」
なんでですか?と可奈は聞こうとしたが、それは答えられない。
「何分くらいなら、話せるんですか?」
それでも答えられない質問をしてしまう可奈。
「確か、30分くらいでしたっけ?」
あとのが代わりに聞く。
「(こくこく)」
2回頷くはな。しゃべればこんな面倒なことすべて解決するのだが、それは無理な話。
「え~。でも私来てからまだ10分も経ってませんよ~」
「私達結構前から待ってましたからね~」
だったら話さないようにしていればと思う所ではあるが、雨音が黙らなかったので仕方ない。そして、可奈には伝わらない。
「う~、じゃ、じゃあ」
とりあえず、はなとコミュニケーションを取るためにはこちらから話しかけるほかないようだし、自分だけがはなと話し足りていない状況を理解した可奈は意を決した。
「はなさんは瑞希さんのお姉さんなんですよね?」
まずは軽く。
「(こくり)」
「はなさんは高校生ですか?」
そして軽く。
「(こくり)」
「話さないのって不便じゃないですか?」
若干重くなったが、可奈はそう思っていない。あとのと雨音がびくついた。
「(ぶんぶん)」
どうやらはなもそう思っていないようで、普通(?)に応対している。
「へぇ、そうなんですね・・・はなさんはアイドルに興味ってないんですか?」
「(こくり)」
質問が悪く、興味があるのかないのかわからない。あとのと雨音は目の前の2人のやり取りを見守ることに決めたようだ。
「え~っと、興味があるってことですか?」
「(こくり)」
「じゃあ、これを機にアイドルになってみたり・・・」
「(ぶんぶん)」
可奈の嬉しそうな一声は一瞬で消し去られた。興味はあってもそれは違うらしい。
「え~っと、アイドルに興味はあるけど、なりたくはない」
「(こくり)」
「それは・・・」
何とか正解を導こうと必死で考える可奈。
「!」
何か思いついたようだ。・・・いつも大体はずれているが、
「瑞希さんを応援するって意味で興味がある!」
「(こくこく)」
珍しく当たった。
「でも、アイドルって楽しいですよ」
「(こくり)」
でもの意味は分からないが、伝わってはいるようだ。
「はなさん、部活とかやってるんですか?」
「(こくり)」
「あ、じゃあ難しいですね~」
「(こくり)」
「体験で一度レッスンしてみるとか?」
「(ぶんぶん)」
「体験なんて、本気でやっているみんなに失礼?そんなことないと思いますけど・・・」
なんとなく会話を聞いていた2人の頭に疑問符が浮かぶ。
『(会話が・・・できてる?)』
はなの返答はイエスかノー。だから、別に見ていなくても相手の言葉を聞いていればやり取りは大体わかる。なので、2人は早々に目線を外してスマホと雑誌に目を落としていたのだが・・・
「そんなことないと思いますけど・・・」
「(ぶん)」
「スクールとかだと体験レッスンとかありますよ」
「(こくーん)」
「まぁ、スクールと劇場は違いますけど・・・」
2人の目の前で確かに可奈ははなと会話していた。
「身内ならそのぐらいいいんじゃないですかね?誰も気にしたりしませんよ?」
「(ぶーんぶん)」
「はなさんは気にしすぎだと思いますよ~」
やはりできていた。可奈は普通にしゃべっている。はなもいつも通りに首を振るのみ。さっきと変化はない。
「じゃあ、公演見に来てくださいよ~。招待しますから」
「(こてん)」
首を少し傾げるはな。
「そのくらいいいじゃないですか~」
「(ふるふる)」
「瑞希さんが恥ずかしがる・・・ですか?う~ん。そんなことないと思いますけど・・・。あっ!だったら、私の公演見に来てくださいよ!恥ずかしいけど、来てくれたらうれしいです」
「(こくんこくん)」
「わっ!ほんとですか!じゃあ、チケット、お願いしとかなきゃ~」
可奈は嬉しそうな様子。はなも口元が緩んでいる。しかし、あとのと雨音の2人は驚きをまだ引きずっている。はなとの付き合いは確かに長くない。長くないというか前回呼び出されたのを含めても2回目だ。でも、今の状況がおかしいことくらいは分かる。
「でも、やっぱり瑞希さんの公演も見に行きましょうよ~」
「(ぶんぶん)」
「瑞希さんだって恥ずかしいかもですけど見て欲しいですよ、きっと」
「(こくーん)」
「行きたいんだったら、行きましょーよー。私も見てみたいですし」
「(ぶーん)」
「ダメです。そんなんじゃ、いつまで経っても見に行けないじゃないですか?」
そして、いつの間にか可奈が上の立場になっている。それに、なんというか・・・
『(はなさん、かわいい)』
あとのと雨音の意見は見事に一致した。
特に何か変わったわけではないのだが、何となく受け答え(?)しているはなさんの表情が変化しているように見えることと、明らかに年下の可奈に話をリードされている様子が、とてつもなくかわいく見えてしまった。
「う~ん。でも最初はライブっとかって行きにくいですもんねぇ」
「(こくん)」
可奈リードの会話は続いている。どうやら可奈はいつの間にかはなとの会話術を習得してしまったようだ。
「あれ、なんでわかるんでしょうか?」
「さぁ・・・どこか抜けてると分かったりするんじゃないの?」
あとのと雨音が小声で憶測を話している。そして、あとのの言葉にはすでに容赦という単語がなくなっている。
「あとのさん・・・言いますね」
「猫かぶる必要ある人いないし」
あとのは基本的に最初猫を被って接してから見極めて、その皮を脱ぎ去る。手のひらを返した後の印象なんか関係ないといったようなスピードで。猫を被る必要がないと判断したのだから当然かもしれないが・・・
「じゃあ、まず私の公演に来てもらって、それから一緒に瑞希さんの公演行きましょうね。サイリウムなんかは私が貸しますんで」
「(こくこく)」
どうやら、話はまとまったようだ。
「話、終わったんですか?」
さすがに放ったらかしになっているのは気に入らなかったのだろうか、それとも会話に加わってみたかったのかは分からないが、あとのが2人に話しかけた。
「あ、うん」
「(こくん)」
「そですか」
しかし、あまり興味がなかった風のあとの。
「にゃはは。はいはーい。その公演、私も行っていいですか?」
「いいよ~。行こう行こう!」
可奈はそんなあとののことは気にしていない様子。
「や~ったね~、みんなでライブ~、公演だ~」
可奈はいつものように調子のはずれた歌を歌う。
「(にこにこ)」
はなは微笑ましそうにそんな可奈を見ている。
「にゃははは」
「はぁ・・・」
劇場のメンバーもそうだが、可奈の言動については3人とも(特にあとの)突っ込まない方がいいという結論に至ったようだ。
「それにしても、可奈さん。よくはなさんと話できますね?」
軽く雨音が聞いてみた。まぁ、気になってはいたし、聞いても大丈夫そうだと思ったんだろう。何が大丈夫かなのかはわからないが・・・
「えっ!あ~そう言えば・・・なんでかな?」
本人も分かっていなかったらしい。
「にゃはは、そうだったんですね~」
これは雨音も予想していたらしい。まぁ、そうだろう。
「でも、何となく表情見てれば言いたいこと分かってくるよ・・・多分」
必死に訴えてはいるが、それができるのは可奈だけだろう。
「(にこにこ)」
「はぁ・・・でも、はなさんそんなんでよく生きていけますね?」
心配で聞いているのだろうが、辛辣な単語が並べるあとの。
「あ、あとのちゃん・・・」
今更あとのの言葉に慌てる可奈。本当に今更である。はなも雨音もすでに何とも思っていないのに・・・
「にゃはは。でも、学校とか大変じゃありません?私、友達と話してないと退屈で死んじゃいますよ~」
「だ、だよね~。私も学校は友達と話してる時が一番楽しいもん」
「ですよね~。あっ、あと姉貴と家で話すのも楽しいですよ。姉貴、いろいろ教えてくれて優しいし」
「恵美さん、やさしいよね~。まつりさんもやさしいよね?」
「は?あの変人のどこが?いつも姫姫言ってるくせに、家ではグータラしてるだけだし」
どうやら、あとのの辛辣な言葉は姉のまつりに対して一番威力を発揮するらしい。
「あ・・・そう・・・なんだ」
さすがの可奈もたじろぐ。
「はなさんもやさしいですよね!瑞希さんの応援されてますし!」
「やさしいも何も、殆ど話とかしてないんじゃ、やさしいも何もないんじゃないです?」
「う・・・」
「にゃはは」
一回まつりの話を挟んでしまったからか、あとのの言葉が辛辣なままだ。しかし、
「そんなことないわよ」
『!!!』
突然、可奈の横、あとのの目の前、雨音の斜め前から声が発せられた。ありえないと思っていた声が・・・
「えっ?」
「今・・・」
「話して・・・」
固まる3人。
「誰とでも30分しか話せないなんて、私言ってないのよ(にこ)」
『・・・』
はなも瑞希と同様、一筋縄ではいかないようだった。
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