ミリオン部8 延長戦
第8話目 地味に前回の続きとゲーム内イベント絡めてます
猛省会
例のゲスト騒動から3日。アイドル一同はレッスンや公演準備に力が入っていた。例の4人も次回と次々回公演への出演がそれぞれ決まったことから、部活動は少し休もうということになっていた。反省をするいい機会でもあるというのが静香と志保の隠れた理由でもあったのだが、当の未来と可奈の2人は『これでしばらく怒られない』とでも思ったのか、安心した顔をして、しばらくの部活動休止に賛成した。
しかし、そう簡単に事が進まないのがお約束という物だろう。それに、例の一件で反省しなければならない人物はもう1人いたのだから・・・
「え~っと、これは、いったい・・・?」
レッスンを早めに切り上げることができた未来は、控室の様子に驚愕した。
「ほ?未来ちゃん、いらっしゃいなのです~。さぁ、さぁ。こっちに座るとよいのです」
迎えたのは徳川まつり。楽しそうに何かの準備を進めている。が、そんな様子は別に珍しくもなく、未来が驚く要因にはなりえない。未来が驚いたのは、
「ん~~~~~。んんん、ん~~~」
いつも自分達が座ってだべっている椅子にロープで縛りつけられている徳川まつりの妹、徳川あとのの姿を見たからだった。
「え~っと・・・まつりさん?なんであとのちゃんが縛られてるんですか?」
いつも誰にでもフレンドリーに、たとえ年上のまつりに対しても「まつりちゃん」と気さくに話しかけている未来だったが、今日は自然と空気を読んでいた。
「お仕置きなのですよ~」
「お、お仕置き?」
「はい、あとのちゃん。この前遊びに来た時に、ちょっ・・・とお痛が過ぎたので、今日ここで反省してもらおうと思って連れてきたのです」
笑顔で話しているが、笑っているようには見えなかった。
「へ、へぇ・・・そうなんですね~。あっ、じゃあ私、お先に上がらせてもらいますね」
「ん!んんんんんーーーー」
自己防衛のためにさっさと帰ろうとする未来にあとのがちょっと待てと言わんばかりに抗議する。
「ほ?あとのちゃんは未来ちゃんにいて欲しいのです?」
「(こくこくこく)」
高速で頷く。あとのからすればようやく訪れた道連れ(助けられるとは一切思っていない)。逃がすわけにはいかない。辛さは変わらなくても、自分一人だけと道連れがいるのとでは精神的負担が違う。
「じゃあ、未来ちゃんもどうぞなのです!歓迎するのですよ!」
「い、いや~でも、私はお仕置きされる理由が・・・」
「ほ?大丈夫なのですよ。あくまでもあとのちゃんへのお仕置きなので、未来ちゃんにはお仕置きにならないと思うのです」
「あ、ああ。そうなんですね」
よくわからないが、多分あとのちゃんの苦手なこと(もの)をさせる(使う)から、私には大丈夫ってことなんだろう、と納得した。というか、帰れなそうな空気にそう納得するしかなかった。
「じゃ、じゃあお邪魔して・・・」
鼻歌交じりで化粧台に向かい何かの準備を進めるまつり。椅子に縛りつけられている2人には恐怖でしかない。未来の祭りへの評価自体下がったわけではないのだが、先日のあとのに対する一件以来、徳川姉妹が揃った場合については例外になってしまった。
「あ、未来ちゃん」
「美奈子さん!」
そんな中、部室に入ってきたのは佐竹美奈子だった。両手で大きなボールを抱えている。嫌な予感がよぎった。
「あ、未来もいたんだ?」
「の、のり子さん?」
何だろう?何なんだろうこの組み合わせは・・・。何となく既視感があるし、嫌な予感もわいてくるこの組み合わせは・・・?
「はいほー。美奈子ちゃんにのり子ちゃん、準備はできたのです?」
「うん、バッチリ。残り物で処分に困ってたから喜んで譲ってくれたよ」
「こっちもバッチリ!」
一方のり子さんの手には大量のパックココアが抱えられていた。・・・嫌な予感はどうやら当たっている。
「え~っと、まつりさん?」
「ほ?なんなのです?未来ちゃん」
「お仕置き・・・なんですよね?あとのちゃんの」
「はいほー。そうなのです!でも、まつりも鬼ではないのです」
鬼ではないけどそれ以上の何かだと未来は思った。
「だから、こうなのです!」
まつりはそう言うと大きな紙を両手でいっぱいに広げた。どうやらさっきまでこれを書いていたらしい。そこには、
「『あとのちゃんの好き嫌い克服チャレンジ』?」
そう書かれていた。
「そうなのです~。あとのちゃんはなぜか焼きマシュマロも普通のマシュマロも苦手なのです。こんなに美味しくてかわいいマシュマロが食べられないなんて勿体ないのです」
そういうまつりも先日の企画では時折つら・・・
「どうかしたのです?」
・・・まつりは美味しそうにマシュマロを企画で食べていた。美奈子の言っていた残り物とはそれのことだろう。
「じゃあ、早速チャレンジ開始なのです!」
そう言うとまつりはあとのの猿ぐつわを外した。
「ばっか、そんなことできるわけ・・・」
「するの・・・です?」
あとのの声を途中で止めたのはフォーク。持ち手がまつりのトレードマークである赤地に白の水玉模様の入った一品。それがあとのの鼻先に突き付けられていた。
「・・・はい」
そして、唖然としたままの未来と、観念して静かになったあとのをよそに、準備が進められていった。
チャレンジャー席に座っているのは2名のチャレンジャー。徳川あとのと春日未来。
目の前の机には業務用と思える大きさのボールいっぱいに入ったカラフルなマシュマロ。そして普通はビールを飲むために用意される大きなジョッキ。そこには並々とココアが注がれてあった。
それらが置かれた机はきれいなテーブルクロスが敷かれていて、それが上に置かれた銀色の巨大なボールの違和感を際立たせていた。未来は思った。いや、悟った。
「(やっぱり、これは私もお仕置きだ)」
本当にまつりが未来に対しても怒っているのか?本当にただ単純にマシュマロを食べさせてあげたかったのかもしれない(いつも可奈と一緒におやつばっかり食べているから)。
「あっ、おかわりも勿論あるからね♪」
「ココアもたっぷり持ってきてやったからな!」
好意で向けられる2人の目も恐怖しかない。
「(こ、これ全部食べないといけないのかな?)」
「(食べないと絶対帰してもらえないわよ)」
あとのと未来は小声で話すが回避する考えはすでにない。どう考えてもこの3人から逃げられるわけがない。
「じゃあ、始めるのです~杏奈ちゃんどうぞ!」
「はい、杏奈だよ。じゃあ、未来ちゃんとあとのちゃん、準備はいい?」
どこからか突然現れた杏奈。すでにアイドルモードになって司会進行を始めている。手にはリトルアンナ。リトル瑞希とは違って、ただのパペット。杏奈が手を動かすたびにぴょこぴょこ動いてかわいい。
「では、まずチャレンジャーに今の気持ちを聞いてみましょう。まずは・・・未来ちゃん!どう、チャレンジ成功できそう?」
「え、成功ってこれ全部食べればいいの・・・かな?ど、どうだろうね。こんなに食べたことないから、分かんないかな?」
「それはしたことがないから、チャレンジのし甲斐があるってことかな!やる気満々だね、未来ちゃん!」
「・・・」
これはダメなやつだ。未来は思った。
「あとのちゃんはどう?」
「・・・知らない」
「これは挑戦的な一言!杏奈には分かりますよ。あとのちゃんは自信ありと見ました。それをあ・え・て、隠してるんですね!」
スイッチを入れた杏奈はめげない、引かない、リトルアンナが突き刺さる(頬に)
「ではでは!2人とも準備はいいですか?」
『(ごくり)』
再び目の前の山盛りマシュマロに目を向けて覚悟を決める。決めるのはいいのだが、達成できる気は両者とも全くない。どう見ても胃の容量をはるかに超えている。
「じゃあ、いっくよーー」
緊張感が走る。何故かいきなり巻き込まれ、マシュマロを食べるというだけのことで、しかも控室で、観戦者もいない、ただスタッフが最恐というだけで最高潮の緊張感。
美奈子ものり子も満面の笑顔。まつりも笑顔だがあとのには恐怖の笑顔。唯一救いがあると思われた杏奈もスイッチが入って何かの向こう側に・・・
「チャレンジ、スタート!」
「なのです~!」
「(カーン!)」
のり子がゴングを鳴らす。未来とあとのは「何でこんなことをしなくてはならないんだ?」という疑問を抱えながらマシュマロに手を出す。
「うっ」
未来は一口で察した。これはやばい・・・と。ただただ甘いマシュマロ。おいしい、確かにおいしいしいくらでも食べられると言いたい。・・・でも現実は違うのだ。こんな甘いものだけを、甘いココアを片手にいくらでも食べられるはずがない。
そんなことを頭で巡らせながら、未来は戦友を見る。
「・・・」
すでに満身創痍だった。
「もう、あとのちゃんは本当にマシュマロが苦手なのです。好き嫌いはダメなのですよ?」
苦手というか・・・冷や汗までかいているし、好き嫌いのレベルを超えている気がする。
「あとのちゃん・・・大丈夫?」
未来は自分のペースで食べながら聞く。
「・・・」
顔だけを動かし、未来と目が合うあとの。
「(あっ、もう限界なんだ)」
涙が眼の端にあふれ始め、口の中で咀嚼するのをためらわれているマシュマロが詰まっていて、ココアが注がれたコップを持つ手がプルプルと震えている。
「あ、あの。まつりさん?」
「なんなのです?未来ちゃん」
「あとのちゃんって、なんでマシュマロ苦手なんでしょうか?」
未来の質問にまつりが考えるそぶりを見せる。未来はそんな中でも片手でぱくぱくと律儀にマシュマロを食べ続け、美奈子はマシュマロを追加し、のり子はココアを注ぎ足すタイミングを見計らっている。
「おっと、ここであとのちゃんの過去が明らかになるのか⁉」
杏奈ちゃんのスイッチはオンのまま。
「そうですね~・・・確か私が残した分を食べてもらっていたのですよ。そうしていたらいつの間にか、食べたくないって言い始めて・・・それから、次は食べれないって言い始めて・・・それから・・・」
「分かりました、それ以上はいいです」
元から大体読めていたことだが、あとののマシュマロ嫌いはまつりが原因だった。ついでに言えば、まつりが好きなものは全部嫌いだし、嫌いなものも大体が苦手である。
「さぁ、こうなってくると未来ちゃんの頑張りにチャレンジの成功がかかってくる!」
「え?そ、そうなの?・・・えっ?これ私が全部食べないといけないのー」
目の前に見える全く減っていないマシュマロの山(美奈子の自然な追加による)。そして、未だに見えない美奈子が抱えている在庫。そのすべてを・・・
「私が食べないといけないの~~」
まぁ、当然無理に決まっている。
「未来ちゃんおかわりいる?」
「ま、まだいいです」
のり子さんがココアを注ごうとするが、まだ半分も減ってない。
「(まずい、本当にこのままだと私が頑張らないといけない)」
あとのはそれでもがんばって食べようとしている。なんでそこまでしようとしているのかと言えば・・・
「ほ?」
この人物の圧力に他ならない。
「う~ん。このままだとチャレンジ失敗してしまいますよ、あとのちゃん?」
ようやくというか、どう見ても無理な状況を指摘するまつり。
「あとのちゃん、ギブアップしよ?」
「(ぶんぶんぶんぶん)」
未来の提案に激しく反対するあとの。涙をためながら否定するその姿は必至。ギブアップたたものならば、どんな恐ろしいことになるかわからないとでも言いたげ。
「でも、全然食べれてないし・・・あっそうだ!みんなでチャレンジってことにしましょうよ!まつりさんや杏奈ちゃん達もみんなでチャレンジを成功させるんです!」
自分はいいことを言ったと言わんばかりに、胸を張る未来。
「・・・(ぱくぱく)」
「あとのちゃんは続ける気みたいだよ?」
「ええ~」
みんなあとのの頑張りを見守る。杏奈ちゃんのスイッチもオフ気味になって、美奈子やのり子もおかわりの手を止めている。
「はいほー。あとのちゃんは流石なのですよ。でも・・・この調子だとスペシャルなお仕置きは回避できないのです~」
「(ビクッ)」
「スペシャルな・・・お仕置き?」
「何なの、まつりちゃん。それは?」
「なんだ、まつり。ココアもっと用意した方がいいのか?」
美奈子はマシュマロを追加しようとし、のり子もそれに応じて動き出す。未来の顔色が青ざめる。
「違うのですよ。達成できなかった場合のス・ペ・シャ・ルなお仕置きなのです。あとのちゃんはこれから1週間毎日マシュマロご飯なのです~」
『え⁉』
あとのの涙の種類が変わった気がした。諦めのような涙に・・・
「まつりさん、これって私達が手伝ってもいいの?」
「私も、ダメかな?」
「アタシもアタシも」
「ほ?別に構わないですが・・・みんなは優しいのですね。あとのちゃんは感謝しないといけないのです」
涙の種類がまた変わる。
マシュマロの在庫は予想以上だった。美奈子が持って来たマシュマロの総量は確実に人2人分の致死量を超えていた。それでも、5人であれば何とかできた。というかした。
「はいほー!みなさんお見事なのです~。あとのちゃん、これに懲りたら変なことを言ってはいけないのですよ?」
「(こくん)」
そう言って、部屋を後にするまつり。残された5人は祭りの後の様に疲弊しきっていた。
ただ、そんな中未来は1人思っていた。
「(美奈子さんって、自分でも結構食べるんだなぁ)」と
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