ミリオン部5.5 ゲスト
第6話の前振りとなります。ちょっと新キャラ加えました(キャラ案は別の方から頂いて...)
ゲスト
「ゲストを呼ぼうと思います!」
いつものように、部室という名の控室。高らかに宣言するのは一応部長の春日未来。その様子を見るのは結成時より1人少ない2人。最上静香と北沢志保。
「ゲスト?」
「ゲストって・・・何?」
2人は一呼吸空けてこのリアクション。集合して開口一番これでは仕方あるまい。
「??ゲストっていうのはお客さんって意味だよ?」
2人の疑問の意味は伝わらない。
「いや・・・そういう意味ではなくて・・・」
すでに静香は頭を抱えている。志保は最初から未来の相手は静香と決めてかかっているのか、最初の疑問を投げかけて役割は済んだという表情。ここに居る3人とあともう一人の矢吹可奈の4人が集まった際、未来の相手は静香、可奈の相手は志保というのが暗黙の了解となっている・・・本人たちが自覚しているのかはともかく。
「だったら何?静香ちゃん?」
純真無垢な表情で聞く未来。
「いや・・・だから・・・」
ちらりと志保の方を見るが、志保はあなたが担当でしょとでも言いたげな表情。いや、間違いなく言っている。
「はぁ・・・未来・・・ゲストって誰を呼ぶの?」
聞きたいことは山ほどあったが、何を聞けばいいのかわからないので、まず思い付いた疑問を投げかけた。
「ふっふっふ・・・」
未来は待ってましたかというような表情を、静香と志保はやってしまったという顔をする。特に何か起こると決まったわけでもないのに、未来のこの表情を見るとそう思ってしまう。条件反射みたいなものだ。
「なんと!ゲストに呼ぶ前に、今日は一度来ていただいております!」
未来はバッと右手を部屋の入口の方に手のひらを上になるようにかざし、ゲストを出迎える仕草を取るが・・・そこには当然誰もいなければ、誰も入ってくる気配もない。
「・・・」
ほんの数秒の沈黙が空気を一気に重くする。
「あ、あれ?」
どうやら、今の合図でゲストが登場という流れだったらしい。
「ちょ、ちょっと待っててね」
静香と志保の冷めた目線に冷や汗をかきながら、入り口へと向かい外に出る未来。
「誰が来るのかしら?」
「さぁ?」
「ちょっと、志保もお願いだから相手してよ」
「嫌ですよ。未来の相手は静香さんがするんじゃなかったんですか?」
やっぱり志保はそう思っていたらしい。
「ゲストの人は関係ないじゃない」
静香も誰が、それも何人来るかもわかっていないゲストを1人で相手をするのは嫌みたいだ。当然だろう。
「・・・はぁ、しょうがないですね」
さすがに、志保も何の罪もない(?)ゲストの相手をしないのはまずいと思ったのか、覚悟を決めたようだ。
ただ、2人がすでにゲストの相手が苦労することになると決めてかかっているのは、ゲストに悪いと思っていないのは仕方がないことなのだろう。
「(ちょっと、合図をしたら入ってきてくださいって言ったじゃないですか!)」
すると、外から未来とゲスト(?)の会話が聞こえてきた。
「(すまない。何が合図か聞いていなかったもので)」
聞こえてきたゲストの声は、知性の感じられる女性の声。年上の人だろうか?落ち着いたきれいな声だ。ただ、何となく聞き覚えがあるような、ないような・・・
「(それに・・・後の2人は?)」
「(さぁ、待ちくたびれてどこかに行ってしまったよ」」
どうやら、ゲストは今未来が話している1人と合わせて3人いるらしい。
「(え~。引き留めてくださいよ~)」
「(すまないね。止める間もなく行ってしまったんだ)」
静香は扉越しに聞こえてくる、落ち着いた言葉にすでに好意を覚えていた。あの未来の相手を落ち着いてこなせているなんて・・・と言ったところだろうか。
「(じゃ、じゃあ私探してきますんで、先に中に入っていてください)」
未来はそう言うと、どたばたと足音を立てながら走り去ってしまった。
『(ええーーー)』
静香と志保は無言で驚きを隠せずにいた。
「(・・・ふむ。仕方ないな)」
当のゲストは仕方ないと思ったのか、ドアノブに手をかけて、ガチャリと回した。
「(ゴクリ)」
静香と志保は身構える。先ほどのやり取りを聞く限り、身構える必要はないと思うのだが、それはそれ。未来が呼んだゲスト、警戒してしまうのは自然の摂理レベル。
「失礼します」
透き通った声が遮蔽物なしに聞こえた。やはり、どこかで聞いたことのある小枝。特に志保にはそう思えていた。
「初めまして。最上静香さん、北沢志保さん」
そう言って現れたのは、耳を隠すぐらいに伸ばした年上の女性。毛先が跳ねているのは、くせ毛だろう。服装は水色のシャツにチェックのネクタイ。下は青のスカートに上着を腰に巻いている。ひざ下までのこれもまたチェックの靴下に、黒のローファー。声からは大人しそうな印象を受けていたが、服装からは活発そうな一面も垣間見える。ただ、それよりも・・・
『・・・初めまして?』
静香と志保はそのセリフを疑問交じりに口にした。
「ああ、初めまして」
そう言うと、その女性はすたすたと机まで歩いて来て、
「隣、失礼するね」
志保の隣の席に座った。
「あっ、はい」
その人は静かに椅子を引き、静かに座った。動作には一切の無駄がなく、その動作もまた何かを2人に思い出させるようだった。
『・・・』
2人はその人を無意識に見つめていた。考えていることは同じ。「どこかで見たことがある気がする」である。
「どうかしたかな?」
その目線に気が付かないわけもなく、その人は隣に座った志保に聞いた。
「あっ、いえ、別に・・・」
何とも言葉にしにくい顔をする志保。仲間にはどんきつい言葉でも投げかけることができる志保といえ、初めて会う、しかも年上の女性にいきなり「どこかでお会いしましたっけ?」なんて聞くことは躊躇われた。
「?」
その人は志保の態度に疑問符を頭の上に浮かべる。その時、
「ただいま戻りました~!」
ドアを乱暴に開けて、未来が帰って来た。
「未来!」
たまらず静香が叫ぶ。
「いやいや、2人とも劇場の方に行ってて、すぐ見つかってよかったよ~」
未来はそんな静香や志保の様子に気付いているのか、気にしていないのか、構わずに自分のペースのまま。
「じゃあ、2人とも入って~」
「失礼しますね」
「おっじゃま、しまーす!」
そして、間髪入れず2人のゲストが部室に入ってくる。
1人は同い年ぐらいだろうか?頭には赤いベレー帽をかぶり、上着もそれに合わせて赤いジャケットに白のシャツ。先ほどの女性と同じように青のスカートだがフリルがついていて非常に女の子らしい。スカートの下から少し肌が見える程度のニーハイを履き、そして赤いブーツ。非常に女子力の高い服装をしている。
もう1人は年下?だろうか。髪は肩ほどまで伸ばしていて非常に女の子らしいが、元気いっぱいという感じで服装も白のTシャツにオレンジのパーカー。下はジーンズと非常にカジュアル。動きやすさ重視といった具合だろうか。未来と並んで今の状況でいなければ非常にいい印象を受けるはずだ。
しかし、2人にも先に来ていた女性と同様に非常に強い既視感を覚えた。
「はいはい。2人とも座って~」
未来は2人を仲に招き入れ、志保を先ほどの女性とで挟み込むように、元気いっぱいの女の子を。静香を挟み込むように自分ともう1人の同い年ぐらいの女の子を座らせた。
ほんの数秒の沈黙が訪れた。
「・・・未来、まずは紹介してくれないかしら?」
たまらず、静香が聞いた。
「え?ああ、ごめんごめん静香ちゃん。え~っとね。はなさんと、あとのちゃんと、あまねちゃんです!」
未来の紹介は、紹介の意味をなしていない。
「だから・・・」
その未来の言葉に静香はちらりとゲストを見まわしてから続けた。
「一体、この皆さんはどこから連れてきたのよ?」
言葉を選びたかったが、そんな言葉しか出てこなかった。
「え?どこからって・・・」
しかし、未来には静香の疑問の意味が伝わらない。よくあることだが、今日は、今日だけは伝わってほしかったと切に思う静香。
「・・・未来ちゃん。2人には事前に私達のこと話していなかったの?」
そんな様子を見かねたのか、年上の女性が未来に聞いた。
「え~っと、はい。驚かせようと思って」
それには成功しているが、その後のことは全く考えていなかったことがよく分かる。
「じゃあ、自己紹介をしないとだめですね。私は、真壁はなです。妹がお世話になっています」
その言葉に残りの2人も続ける。
「徳川あとの」
「所雨音(あまね)でーす!よろしくお願いしまーす!」
その紹介を聞いて静香と志保の2人に既視感の理由が分かった。
「真壁に、徳川に、所って・・・」
「瑞希さんと、まつりさんと、恵美さんの・・・」
「瑞希はうちの妹です」
「私のお姉ちゃんですね」
「うん、うちの姉貴だね」
2人の頭に3人の見知ったメンバーの顔が浮かぶ。確かに、3人ともどこか面影がある。特に真壁はなさんについては格好も似ている。なぜ思い浮かばなかったのだろうか、今思えば疑問である。
「そ、それで、なんでこの3人なの?未来」
知り合ったきっかけ、今回呼んだ理由。聞きたいことは山積みだった。
「私は未来ちゃんから直接連絡をいただいたわね」
「私もいきなり電話で呼び出されました」
「私も!私も!いきなりで驚いたよ~」
未来の代わりに3人が答えてくれる。状況を理解した静香と志保はあきれ顔になる。未来はどうにかして(恐らくそれぞれの姉から)番号を聞き出し、直接、それもいきなり呼びつけたらしい。何というか、ある意味尊敬できる行動力だ。
「えーっと、よく3人とも来てくれましたよね?」
志保はぶっちゃけて聞いてみた。正直自分ならそんないきなりかかってきた電話に出て、しかも呼び出されても応じるわけはないと思っていた。
「瑞希の同僚に会えるいい機会だと思って。あの子あまり自分から話してはくれないから」
はなはやさしい笑顔で答える。
「私も、姉がどんなふうにアイドルをやっているのか気になってましたし」
あとのは何か裏があるような笑みを浮かべながら答える。呼び方もお姉ちゃんから姉に変わっている。
「私も、姉貴がいつも楽しそうにアイドルやってるから気になって!これはチャンスだって思ってきました!」
どうやら、三者三様意味合いに多少違いはあるようだが、姉妹のことが気になって来たようだった。
成程、それならこの状況も多少は静香にも志保にも理解できた。
「じゃあ、未来。この3人をゲストに呼んでどうするつもりなの?」
そもそも部活の活動自体まだ数えるほどしかしていないし、劇場メンバーで参加していない人も多いのだ。今のタイミングでゲストを呼ぶ意味が理解できない。
「それはね・・・」
未来はよくぞ聞いてくれました、という顔になる。が、すぐに考え込んで静香と志保だけを部室の端に呼び込んだ。
「何よ?」
志保が不信げに聞いた。
「いやさ、さすがにあそこの3人に聞かせるのはまずいかなぁって」
そもそもいきなり呼びつけている時点で失礼極まりないと思っていないのは本人だけ。
「早く聞かせて・・・」
どうでもよくなったという態度の志保。静香はすでに諦めて聞く体勢になっている。
「いやね。志保ちゃんも静香ちゃんも、私も部活動で苦労・・・したでしょ?」
三者三様、苦汁をなめるような思い出が記憶の中から引っ張り出される。小人と踊り、二次元にダイブし、ジェダイの騎士になった記憶が・・・
「・・・それで?」
いち早く記憶の果てから帰還した志保が聞く。
「・・・うん。それで、可奈ちゃんにもそれなりに苦労してもらった方がいいかなって思ったんだけど・・・劇場メンバーで苦労する組み合わせって思いつかなくて・・・」
それはそうだろう。3人はあくまでも偶然の組み合わせで苦労しただけであって、あくまでも偶然に活動内容がそうなってしまっただけなのだ。あくまでも偶然に・・・
「だから、絶対苦労する組み合わせとして・・・」
「あの3人を呼び出したっていうの?」
「うん!」
静香の疑問に元気のいい(容赦のない)頷き。
『・・・はぁ』
確かに、苦労するに決まっている。静香と志保は振り返って何か話している3人のゲストを見て思った。
2日後
「たっだいま~、とーーちゃっく、いたっし~ましたー」
調子のはずれた歌なのか挨拶をしながら、誰かが部室に入ってきた。
「いらっしゃい」
「・・・どうも」
「こんにちわーー」
3人のゲストが応対する。
「・・・誰?」
続く
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