提督「化け物の花嫁」後半
*この作品は"提督「化け物の花嫁」前半"の続編です。まだ見ていない方は是非そちらをご覧になってからお読みください!
[明朝 0700]
〈執務室〉
昨日に引き続き、今日も目覚ましは鳴らなかった。
故障ではなく、誰かが事前に止めたわけでもなく、単に、目覚ましをかけていなかっただけである。
寝ていないのだから鳴らさないのは当然だ。
朝食はまだ取っていない。いや、正直腹は減っているが、食べようと気持ちにはならない。その前に大きな問題が発生したのだから。
前代未聞の、限りなく大きな問題が。
「〜〜〜♪〜〜〜♪」ウキウキ
「〜〜♪」ワクワク
「…………」
「さあ、提督」イライラ
「説明して………もらいましょうか」イライラ
「なんで………なんでここに………」
深海棲艦がいるんですか!!!!!
[約八時間前 2300]
〈母港〉
「ぐおおおおはなせえええええええ!!」
「フフフ、アア…アッタカイワァ……」
「え?え?え?」
「な、なにが、」
黄昏ていた私のところに、突如として深海棲艦が、それも、その中でもダントツに強いと言われている中枢棲姫である。
白き(若干灰色)髪に赤い目という深海棲姫ならではの見た目に、髪の色と同じような色の肌。スレンダーなすらっとした美しい体つきで、大体高校生?くらいの体格だろうか。
しかしその艤装は他と比べてとんでもないものだ。赤と黒のおぞましいオーラを撒き散らし、体の数倍の大きさの艤装を身につけている。本体は華奢だが、艤装だけなら迫力はもちろん、性能もはるかに他の深海棲艦を凌ぐ。
と言われている。実際にこいつと戦ったことはない上、規模に差があるとは言え多数の深海棲艦の司令塔、その名の通り"中枢"。そうやすやすと接敵できた事象は少ない。
そして、その強く、珍しく、おぞましく、恐ろしく、禍々しく、憎々しく、懐かしいこの、この中枢棲姫が、今私の目の前に、艤装も装備せずにやってきた。
というか、抱きついてきた。
「ホントニヒサシブリ…………。ホントニアイタカッタワ………」
「離せ離せ離せ!私に触るんじゃあない!」
「アア…………懐カシイコノヌクモリ……声、顔、ニオイ………」
「聞こえているのか!離せと言っているんだ!(こいつ、結構な力で抱きしめているから腕が使えない!しかしなんとかして離れなければ………)」
なんとか引き離そうとするが、流石は中枢、深海化している私の腕力でも引き離せない。こんな細い腕のどこにそんな力があるのか。
にしてもいきなり現れてどうしたんだろうか。それに、会いたかったって………?
「提督」
「ん!?北上と大井か!?」
「は、はい!ご無事ですか、提督!?」
「怪我はない!怪我はないが……お前ホントいい加減離れてくれ」
「ヤーダーマダダキシメタイー」
「駄々こねているんじゃない!馴れ馴れしくこんなことを………」
「提督!今そいつを吹っ飛ばすからね!」
「多少痛むと思いますが、我慢してください!」
緊急事態だとようやく理解してきた北上と大井が、たまたま装備していた艤装を深海棲艦に向ける。
なお、陸上であるここでは魚雷は使えないため、通常の15.2cm連装砲を用いている。
「………不粋ナ者タチネ……。イイワ、ソレナラ………」
その瞬間、脳内にノイズが走る。
「(なんだ…………!このノイズ………まるでテレビの砂嵐のような……)」
ザァァァァァァッパァァァァン!!
そしてその数秒後、おおよそ20を超える深海棲艦の群れが突如海面から姿を現した。
「なっ………!(これはまさか、共鳴!?)」
「こんなに数がいるのね……」
「ジャマダテシナイデ…………」
「くっ……提督のためなら……!」
「よせ!!北上、大井!」
「提督!?」
「今攻撃をしても無駄だ!お前たち二人ではとても勝てる相手ではない!」
「そんな………そんなの、やってみないとわかんないよ!」
「いいから!とにかく落ち着いてくれ!
おい、こちらから攻撃しない限り攻撃しないと約束しろ!」
「モトカラソノツモリ………。アナタヲカナシマセタクハナイモノ………」
「それと、離れてくれ」
「ヤダ」
「おい!提督から離れろ!」
「ンン………ウルサイ……」
「とにかく、まずは離れて話さないか?」
「ンー、アナタガソウイウナラ……」
両腕を私の両脇に通して、互いの上半身を重ねるように抱きしめていたその腕をようやく話してくれた。気づかなかったが、どうやらコアラのように抱きついていたようで、実際に立った中枢棲姫は少しばかり背が低かった。大体165……はないくらいか。
しかし、抱きついていたのはどうも一人ではなかったようで、
「………」
「………」チョコン
「おい」
「ナニ?」
「お前の連れか?」
「ソウヨ。……ホラ、イッカイ離レマショウネー」
「ムー」
「北方棲姫か……」
「………エット、ヒサシブリ、パパ」
「「「!?!?!?」」」
「フフッ、ソウオドロカナクテモイイデショウ?」
「あ、ああ、ていと、提督が……」
「そんな……既にご家庭が…」
「待て待て待て待て!それについてはとにかく後で説明する!」
「セツメイモナニモミタママジャナイ?ア・ナ・タ❤︎」
「本当お前黙ってろ!!」
[そして現在]
「そこから先はお前たちも聞かされているだろう?」
「ええ……提督たちが深海棲艦と接敵したとことを知り、みんなが艤装を身につけて現場に向かいましたが……」
「『提督を殺されたくなければ私たちを鎮守府に招け』と言われて………」
「ソシテ今ニ至ル」
前述の通り、中枢は決して単独で来たわけではない。配下の深海棲艦、こいつ曰く計三十人の大艦隊でこの鎮守府に、昨日の2230には到着してという話だ。
中枢を最高指揮官として、港湾水鬼2隻、泊地水鬼2隻、北方棲姫1隻、防棲鬼3隻、水母棲鬼3隻、戦艦棲鬼1隻、そしてその他通常深海棲艦で構成された大艦隊は、少人数のグループに分かれて哨戒中の艦娘に気づかれないよう航行。当鎮守府で合流する算段だったらしい。
この人数、そして圧倒的戦力を有する深海棲姫と中枢に対し、こちらの艦娘が勝てる確率は低いと判断し、私はこの鎮守府にこいつらを"招いた"。
無論艦娘からは大反対されたが、向こうは好戦的ではなかったため、とりあえず休戦ということで説得した。
そんないざこざをやってとりあえず執務室に迎えたわけだが……。
「お前たちは遠征組だからな、知らなくて当然だ」
「でも……でもやっぱりどうなんですか!?敵がこの鎮守府に侵入しているんですよ!?いいんですかこれで!」
「落ち着け五十鈴。戦う意思がないということは、なにか用があってのことなんだろう」
「………なるほど、事情はわかった。ならば、此奴は何故提督の膝の上にいるのだ!?」
「あー、利根、これはだな……」
「ムー、パパハホッポーノパパダモン!」
「パ、パパ………!パパとはまさか……」
「おおおお落ち着け!とにかく話を聞いてくれないか!?」
「うわああああああああ!!提督の裏切り者おおおお!!」
「やめろ主砲をこっちにむけるんじゃあない!」
艦娘たちの動揺は大きい。
それもそのはずだ。今まで散々倒し尽くしてきた深海棲艦、それもそこそこ上位の強さの奴らがいるなら、鎮守府の安全的にも精神的にも慌てるだろう。
こんなこと、海軍の歴史を見ても前例のないことのはずだ。
「ネエアナタ」
「おい、これ以上ややこしくするな。私のことをあなたというな」
「デモ、夫ノコトハ普通コウ呼ブモノデショウ?」
「お、夫………」バタン
「あ!利根さん!」
「だ、大丈夫か!?」
「ええ………多分ショックで気絶しただけだと思います……」
「ネエ、ソンナコトヨリ、」
「なんだ?」
「ホカノ艦娘ハドウシタノ?」
「ああ………えーと」
執務室の扉を見る。開けてはいないが、向こうから殺気がビリビリ伝わってくる。おそらく戦艦級の誰かだろう。
「扉の前に三人、後は食堂か、海岸でお前を待ってる他の深海棲艦を警戒……まあ、にらめっこしているんじゃないか?」
「フーン」
「ネエネエパパ」
「おい、お前も私をパパというのはやめろ」
「ムー、ジャア、オトーサン?」
「だから、私はお前の父親ではないから、」
「エ、デモママハ、アノヒトガパパダッテイッテタヨ?」
「ママ、って誰だよ」
「」指差し
「」ニコニコ
「」唖然
「お前ら二人ともなんなんだ!」
「コノコモアナタニ会ウノヲタノシミニシテテネ。ア、ソウイエバコノアイダ面白イコトガアッテネ」
「何世間話始めたんだ!私が言いたいのは、どうして私がお前らと家族の設定になってるのかってことだ!」
「ンー?アレ、説明シタト思ウノダケレド………マアイイワ。ジャアアラタメテ説明シテアゲル」
「なに?」
「ミンナニ食堂ニ集マルヨウニ言ッテ。アナタダケジャナク、艦娘ニモ話シテオカナイトネ」
「………」
こいつは一体、何を考えているのだろうか。
[0730]
〈食堂〉
今や百を優に超える艦娘がこの鎮守府にいるが、集めてみると本当に多い。食堂は色々あって広々と作られているが、少し狭いようにも思える。
それも、私と中枢、北方棲姫を囲んでいるように集まっているのだから、なおさらなのだろうが。
「………」
「………」
「………?」
「「「「「………」」」」」
中枢は非常に落ち着いている。流石は司令塔、たとえ百を超える敵の前でもなんて事は無いわけだ。
かく言う私は、その百人の司令塔のはずなのに、先程から変な汗が止まらない。恐怖とかよりも、なんかこう、気まずさの頂点に立たされているような気分だ。
北方はキョロキョロと、中枢に抱きしめられながら周りを見渡している。特に怯える様子もなく、好奇心に満ちた目であたりを観察している。
艦娘は………明らかに敵意MAXだ。
「………私たちを呼び寄せたのは、まさかそこのそれですか?」
「あ、ああそうだ。こいつがみんなに話があるらしくてな」
「敵の分際で、何様のつもりだ?このくそったれの深海棲艦が」
「提督、いつ砲撃すればいいですカ?私、このビッチ共の脳天を早く吹き飛ばしてやりたいデース」
「…………不愉快ですね」
「いやいや、一回話をね、聞いた方がいいんじゃないか?」
「こんな糞虫どもの話なんて聞く価値ないだろ。早く殺そうぜ」
「賛成です。一緒の空気を吸っているだけで反吐が出そうです」
「おめおめとここまでやってきて、目的は何か知らないけど、それも死ねば関係ないでしょう?」
「ましてや私の提督に………いえ、私たちの提督に近づくなんて、万死にするわね。ただ殺すのも勿体無いくらい殺したいわ」
「本当みんな落ち着いてね、話をね、みんなで聞こうよって、」
「提督、早く砲撃許可を下さい。榛名もう……大丈夫じゃありません」
「任せて、提督の身は僕が守るよ」
「雷もいるわよー!」
「なのですー!」
誰も話を聞いてくれない………。
みんな目の前の深海棲艦を憎悪の対象としか見てない。戦場にいるときもこれまでこんな感じで戦ってきたのだろうか。見た目が女なだけにより一層怖い。
空母なんか弓矢もう構えてるし。比較的静かだなと思ったら攻撃態勢整ってるし。
重巡は姉妹たちで集まって、まるでゴミか何かを見るかのような目で睨みつけてるし。こんな怖い顔今まで見たことないし。
軽巡はさりげなく艤装展開してるし。もはや早く殺したいのか若干不機嫌になってるし。
駆逐艦は怯えてないし。なんか私の周りにハムスターみたいに集まってるし。『怖いから提督のそばにいるー』的なこと思っているかもしれないけど、さりげなくみんな魚雷隠し持ってるし。
戦艦くらいは大人しいかな?と思ったらバリバリ主砲向けてるし。なんだったら1番殺意に満ち溢れてるし。怖いし。
しかし中枢はそれを涼しい顔で眺めている。抱きかかえられている北方も特に怯える様子もない。
そして、しばらく無表情で艦娘の罵声を浴び続けた中枢だったが、一度だけ大きなため息を吐くと、重々しく口を開いた。
「ワタシハ………彼ヲツクッタ」
「は?」
「ソコノ………アナタタチノ提督ヲ、ツクッタ者ヨ」
沈黙が生まれた。
誰もが中枢を凝視する、
「アノ時………私ノ傘下ニイル深海棲艦ガ彼ヲヒロッテキタ。死ニカケテイテ、確カ………右腕ト両足、腹部ガナカッタワ」
「「「「「………」」」」」
「瀕死ノ彼ヲ見テ、スグニヒロッテキタ深海棲艦ニ詳細ノ説明ヲ求メタケド………、『流レテキタノヲヒロッテキタ。少ナクトモ砲撃ヤ爆撃デヤラレタ傷デハナイ』ト伝エラレタ」
「………」
「本来ナラ見殺シナノダケレド、私ハ彼ヲ実験台ニシタ」
「……実験台……?」
「ソウ……」
北方が不安げに中枢を見つめる中、中枢はさらに話を続ける。
〈中枢 説明〉
*あくまでセリフではないのでカタカナではなく普通の書き方でここは話を書きます。
そもそも深海棲艦は、元々深海に生息していた生物が、人間が沈めた軍艦に影響されて異常進化を果たした生命体。私やこの子のように、人に近い形を保っているのは、さらに合理化を徹底して肉体が進化をしたせい。
そのうち人間と戦うようになり、深海棲艦はその数を減らしていった。戦艦も空母も駆逐艦も軽巡も重巡も港湾も水母も。
中枢の私はなんとか戦力増強を計画した。まずは海の生物を深海棲艦にする方法をとった。海底資源はいくらでもあるから、この方法は大成功した。
しかし素体の差なのか、そこから生み出された深海棲艦は不安定で、安定したとしても弱い。数こそあれど大きな戦力とはなり得なかった。
そんな時、彼が来た。
彼は抵抗どころか死にかけた状態でやってきた。そこで私は閃いた。
人間なら、食物連鎖の頂点ならより強き深海棲艦が作れるのではないかと。
結果は成功。彼の肉体をベースとした人型深海棲艦の完成。男の深海棲艦も始めてだったから、同胞からはとても喜ばれた。
彼は………、聞いたかもしれないけれど、恐ろしく抗わなかった。脱走するその時まで、全く危害を加えてくることはなかった。
危険性がないと判断されたため、早々に戦闘に参加させたいとおもった。協議の末、実験体ではなく一人の仲間として迎えることにした。
始めはギクシャクしていたけれど、次第に仲良くなっていた。…………今のあなたたちほどじゃないけれど。
彼には憎しみも怒りも恨みも私たちに向けることはなかった。代わりに、そのほかの感情もないかのように、ただあるがままを受け入れていた。
そんな時、我々の本陣に艦娘が攻撃を仕掛けてきた。
まだ彼を戦線導入していなかった時に、唐突に攻め込んできた。
仲間は大勢死ぬかと思った。全滅も考えた。でも、予想外のことが起きた。
彼が私たちを守った。提督だった彼には、艦娘の戦略、陣形、性能の全てが理解できていた。
結果大勝。少ない被害で済んだ。
『命を救ってもらった礼だ。恩は返した。ただそれだけだ』と言って、不機嫌そうに話していたわ。
この時点で既に彼がきてから二ヶ月経っていたけど、私たちは彼の存在の大きさを認識した。私たちには彼が必要だと。
勿論これには戦略的な理由がメインだけど、実際は、精神的にも彼が必要だったのかもしないわね。"吊り橋効果"?だったかしら。私たちは無意識に彼に惹かれていった。
だけど、彼は消えた。
私たちの前からいなくなった。
私たちはなけなしの戦力を削って捜索をし続けたけれど、彼はとうとう見つからなかった。
みんな悲しそうだった。私も悲しかった。状況を好転させる希望が消えただけではない、かけがえのない大切なものを、私たちを守ってくれた彼を失ったのだから。
そこから長い間空っぽの日々を過ごしたわ。深海棲艦を作って、出撃させて、轟沈させて、仲間を出撃させて、轟沈させて………。
彼がいた頃とあまり変わらない日常だったけれど、ずっとずっと苦しかった。みんなも苦しそうに生きてた。たった二ヶ月の間に、私たちには人のような感情が芽生え始めたていたとういわけ。皮肉なことにね。
これを進化と捉えるか退化と捉えるか………いや、弱体化と捉えるかはあなたたちの自由。てでも確かに、彼がいた頃は出撃しても被害は少なかったし、彼がいなくなってからはみんないつも疲れていた。
この絶望の中、私たちは彼の行方を掴んだ。いいえ、彼自身が姿を見せた。
今からだと大体………三ヶ月前くらい?
そう、あなたたちが呼んでいる、"共鳴"。これを私たちも感知したの。
今すぐに会いたいと思ったのだけれど、生憎距離も遠いし艦娘の動向もある。だから慎重に慎重に進み、そしてとうとう、私たちはここにたどり着いた。
そして見つけたの、愛しの彼に。
〈食堂〉
誰一人声を発しない。
あれほど罵声を浴びせていた艦娘は皆黙っていた。バツが悪そうな表情で、怒られた後の幼い子供のように、苛立ちこそしていないが機嫌が悪い、みたいな。
中枢は北方をぎゅっと抱きしめた。北方も小さい手で抱きしめ返す。二人とも表情に暗い影を落として、言わなきゃよかったと思っているのだろうか。
「あー、それで、結局お前たちがここに来た目的っていうのは………?」
「………」
中枢は立ち上がり、私の前まで歩いてくると、完璧な気をつけの姿勢で、まるで紙を折り曲げるが如く、深々と美しいお辞儀をした。
そばにいる北方も頭を下げる。
「私タチノ元二、帰ッテキテクレマセンカ………………?」
「え?」
「再三言ウヨウダケレド、私タチニハアナタガ必要ナノ」
「……………敵である私に対して言っているのか?自分たちの軍門に下れと」
「イイエ……………正確ニハ違ウワ………」
「?」
「私達ハ深海棲艦ノ新タナ統治方法トシテ、人間二限ラズ多クノ生物ノ社会システム、"カゾク"ヲ取リ入レタノ」
「か、家族ぅ?」
「家族、ツマリハ両親ト子供、或イハ孫トイッタ生活的上下関係。組織デハナク、一個ノ共同体トシテ私タチハ深海棲艦ヲ統括スルコト二シタ」
確かに、私が見たあの深海棲艦たちは共同生活(要するにこの鎮守府のような暮らし)をしていた。ある程度の仲間意識というものもあったし、それが発展したということだろう。
家族を持たぬ私にはわからないが。
「つまりそれは……」
「ソウネ……言イ換エルナラ………」
「私タチノ、家族二ナッテクレマセンカ?」
[2300]
〈執務室〉
『ふーん』
「ふーんじゃない!どうにかできないか!?」
『いやいや、そんな相談されてもね………。あ、その深海棲艦共をぶっ殺せって依頼かい?』
「違う!どうにか穏便に、そうだな、"お引き取り願う"ことはできないか!?」
『穏便に解決できるレベルではないんだけどなぁ………』
中枢はその後、『焦らずゆっくり考えて。私たちは近海で待ってるから、決まったら呼んで』とだけ言って鎮守府から出て行った。
北方は少し渋っていたが、中枢が抱きかかえながら戻って行った。
艦娘たちは自室に待機させた。近海に深海棲艦がいる時に、遠征なら哨戒なんてあほらしいと思ったのだ。
それに………あんな戸惑っている精神状態で海には出せない。
『深海棲艦からのプロポーズねぇ………。しかも中枢棲姫なんて、逆玉の輿みたいなものかな?』
「なあ、どうすれば断れる?」
そんなわけで、なんとか中枢たちに諦めてもらうべく最後に残された最悪のアドバイザー、我が友黒崎に電話をかけたのだ。
医者に聞いてどうすんだとは思うかもしれないが、なにぶん相談に乗ってくれる親しいものがいない。
『てかそもそも』
「なんだ?」
『なんで断るって結論に至ってるの?』
「あ?それはそうだろ。私は今人類を守るべくこの鎮守府にいて、提督をしているんだぞ?なのに敵である深海棲姫の仲間入りなんて………そんなのは体だけで十分だ。」
『いやいや、もしかしたらこの件、うまくいけば終戦の一歩になるかもしれないよ?』
「なんだと?」
『簡単な話さ。"和平協定"だよ』
「……………はあ?」
『戦国時代の日本、中世・古代ヨーロッパにおいて、長引く戦いの解決法として、喧嘩が終わらないならいっそ仲良くしようっていう、つまりは和平が成立することが多くあった』
「………それで?それがどうつながってくるんだ?」
『その和平の方法の一つにね、政略結婚ってのがあるのさ』
「…………………………つまり、私と中枢が家庭に入ることで、深海棲艦との和平の足がかりにするってことか?」
『そゆこと』
盲点だった。
深海棲姫の提案を受けることによるメリット。どうも断ることばかり考えていたが、血を流すことなく戦争を終わらせることもできるのだ。
『君のことを"夫"って設定で話しているんだろう?なら尚更政略結婚じゃないか。君が相手を好きかどうかは………………まあいいとして、深海棲姫からの提案も、別に悪いことばかりじゃない』
「しかし…………」
「………………………艦娘たちが心配かい?」
「!!」
『どうなんだろうね。別に誰かが沈むわけじゃないけれど……………いや、だからこそか。自分たちの元を離れて、敵の軍門に下る。これだけでも裏切り者として十分嫌なやつだが、なんせ君んとこの艦娘、みんな君のことが好きだからなぁ』
「……………私は………」
『ついこの間失踪したばかりで、今度は亡命ときたもんだ。こりゃもう戦犯だね』
「………」
『君が決めることだよ。提案を受け入れるのは、ある意味最善ではある。でも、人間は別に善良な生き物じゃあない』
「………………ああ、わかった。ありがとう」
ガチャン
もっともなことを言われてしまった。
どうにも私は見えていないようだ。この問題に対し、もっとも注意しなければならないことを。
これは何が正しいとか、何が適切だとかの問題ではない。無論、私の一存で決められる問題でもないとは思うが。
とにかく、第三者に意見を求めるのは今回は不適切。当事者、関係者と話をして決めるんだ。
「しかし………あいつもたまにはまともなことを言うものだ」
[数分後]
〈鎮守府 中庭〉
コの字に作られているこの鎮守府は、その内側に中庭がある。簡素なベンチと芝生とほんの少しの植木が顔あるだけだ。庭というにはあまりに薄っぺらく、ただの平地というには少し要素が多い、中途半端な中庭。
平な部分が多いので、ここで食事を取るのもよし、昼寝するもよし、運動するもよしと言った感じで、決して荒れ果てることはなかった。
真夜中のここは月明かりだけが光源であり、青白い光がぼんやりと全体を照らすばかりで、周りの建物は少し気味悪く見える。
おまけに風通しが良い作りではない、人がいなければ物音一つしない静かな空間にもなる。
母港の端に次ぐ、一人で考え事をしたいスポットの一つである。
ベンチに腰掛け、雲間から姿を見せている月を見ながら大きくため息をつく。
「(ここは広いな…………。廊下から見るのとでは大きさが全然違う。公民館とかが建てられるくらいの広さはあるのか?)」
どうにも寝付けなくて、かと言って私室で眠るまで布団にくるまるのも、急ぎでもない書類を執務室で片付けるのも気乗りしないので、散歩がてらここに来た。
「む……………」
「あれ、提督?」
「時雨か」
「うん。こんな夜中にどうしたの?」
「………………………とっくに消灯時間は過ぎているはずなんだが?」
「誰も守ってないこと知ってるくせに。………………ちょっと眠れなくて」
「そうか…………私もだ」
ベンチで月を仰いでいると、同じく散歩をしていた時雨が近づいて来た。月明かりに照らされて、その容姿がはっきりと見える。
左に少しずれ、時雨のスペースを空けてやると、時雨は小さくお辞儀をして隣に座った。
「提督さ、」
「うん?」
「どうするつもりn」
「どうするつもりなのか、とでも聞きに来たのか?」
「………………うん」
「それを考えにここに来ている」
「そっか……」
「時雨はどうしてここに?夕立の寝相が悪いとかか?」
「……………………まあそんなところ。それよりちょっと悪い」
「なに?」
「艦娘たちが何人か、近海で待機している深海棲艦に攻撃を仕掛けようとしてたらしくて」
「なっ…………!」
「大丈夫大丈夫!僕たちでなんとか説得して来たから」
「………………その攻撃を計った艦娘の中に、夕立が?」
「うん。まあ、気持ちは分からなくもないけどね。でもやっぱり、勝手に動くのはまずいなと思って」
意外だ。てっきり時雨もその中に入っているものだと思っていた。
振り返ってみれば、時雨は比較的大人しいが、スイッチが入ってしまうと手に負えないタイプなので、こういう事の場合でもすぐに加勢するものだと思っていたからだ。
なんというかこう、闇を抱えて病んでいる、みたいなイメージだった。
「夕立の他は誰が?」
「天龍さんと摩耶さん、那智さんと曙ちゃんと………ああ、金剛さんと比叡さんと榛名さんと、あとは加賀さんと日向さんかな」
「……………まあ血の気の多い方ではあるな」
「長門さんがその動きに気づいてね、たむろしているのを見つけたからみんなで止めに行ったんだ。こんな時間だから、起きてる人だけでだけど」
「………………すまない」
「なんで提督が謝るのさ」
「いや……………そういう行動をしてしまうということは、お前たちを不安にさせてしまった私に責任があるわけだからな。止めてくれてありがとう、時雨」
「……………僕も不安だけど、提督を信じているからね。それに、今回の件は僕たちがどうこうできるものじゃない。提督が決めることだよ」
賢い子だと思った。時雨には今までなんども助けられてきたが、やはりこの問題の核心を見極める、先を見据える能力には驚かされる。どうにもいつも先を越されている気がしてならない。
「本当にありがとう。おかげで少し気が楽になった」
「ううん、大したことないよ。それに、」
時雨は立ち上がると、私の顔に両手を当てて、座っている私の膝に跨る。
月夜を背景に、そこには聡明な美少女が拡大され、色っぽい瞳で私を見つめている。頰に伝わる両手の体温が、ゆったり温めて思考を遅くさせる。
「し、時雨!?」
「僕たちがいる」
「え、え?」
「僕たちが提督のそばにいる。辛い時も苦しい時も、悩める時も悔やむ時も、ずっとずっといつまでも、僕たちがいるよ」
「時雨……………」
「だから………安心して。ね?ていとく…」
時雨はゆっくり顔を近づけ、目を細めてその唇を私の唇に……………
「月が綺麗だね………提督」
[同時刻]
〈南西諸島 とある鎮守府〉
ここに来たのは一般市民に被害が及んだことにある。
黒崎は、用意された和室で真新しい布団を敷きながら、無意識に今日会ったことを振り返る。
一週間ほど前、ここ南西諸島近海で、奇妙な深海棲艦の群れが目撃された。
南西諸島近海はそこまで深海棲艦の出撃は激しくない。軍の資源であるオイルやらなんやらが採掘できるにもかかわらず、敵が少ないことは嬉しいことだ。
大本営もここの防衛には力を入れており、あのカミソリ女…………園崎長官が元々着任していた鎮守府が中心となって周辺海域の警備している。
つまり、深海棲艦の軍団なんて現れるはずもない、と思われた。
ここ一週間の陸上、海上における被害と鎮守府への損害に関する報告書(改訂版)を眺めて思わずため息をついた。
「(沿岸防衛兵器は全て破壊され、周囲の漁港にも甚大な被害。死者こそいないものの、一般市民重傷者百五十人、軽傷者二百四人…………。艦娘は12艦大破、8艦中破、小破多数…………。四つの鎮守府の総数にしたって多いよなぁ………ここにおいては)」
沿岸付近に突如出現した深海棲艦の群れ、総数29は哨戒にあたっていた艦娘にも気づかれることなく攻撃を開始。急遽出撃した艦隊を返り討ちにし、沿岸部の街を壊滅させた。
僕を含めた軍医や陸軍、海軍を緊急招集し、復旧作業に参加させた。
統括である園崎長官は当時大本営への出張により、ここに戻って来たのは一昨日のこと。艦娘に関しては順調に回復しており、防衛体制はある程度不安はないが…………。彼女が現場にいたら少しは被害は小さくできたかもしれない。
しかし、そんなことより考えなくてはならないのは、今回の敵の出現のことである。
「(何故あの数に気づかなかった?話ではどれも深海棲姫級ばかりだったから…………単純に向こうが上手だったのか?)」
書類を丸めてゴミ箱に捨てる。明日も作業に参加するのだから、早めに休まなくてはならない。
「(いや……………)」
布団に体を滑り込ませて、体を丸くして目を閉じる。
「(そもそも敵の目的は、本当に沿岸部の襲撃だったのか?)」
昼間は蒸し暑いが、夜は気温が下がり、布団があってちょうどいい。しかしどういうわけか、背中に変な汗が滲み始めた。
「(陸上の街を襲撃するより、直接的な戦力、つまりは艦娘を攻撃すべきだ。非戦闘員なんて後で始末すればいい。しかしそれならなぜ、奴らは沿岸部に現れた?)まさか………襲撃はあくまでも目的ではない?ならば考えられる可能性は……………」
出現に気づかない艦娘。
意味のない襲撃。
普通では考えられない大軍。
……………そういえば、奴らはあの後どこへ?
「もしかして………………通過?」
[数日後]
〈食堂〉
「オハヨーパパー」
「オハヨウ、アナタ」
「何がおはようだぶっ飛ばすぞ」
[0700]
「ええと…………母港で見かけまして、話をきいたら、鎮守府に入りたい、お腹が空いたので鎮守府の料理を食べたい、と………」
「敵地に来ておいて飯を強請る深海棲艦がどこにいるんだ!間宮、お前も普通に飯を提供するんじゃない!」
「すいません!でも、この子が涙目で言ってくるので断りきれなくて………」
「パパ、ホッポー、魚飽キタ!」
「コノ子ガドウシテモッテ、マア、私モ、食ベテミタカッタカラ」
「お前たちは………………いや、なんか戦争しているのがバカらしくなってくるなもう」
食堂の片隅で、中枢と北方は間宮の作った海軍カレーとパフェを分けて食べていた。
ほかの艦娘は黙々と食べているが、目だけは二人を捉えている。
「ソレニシテモ、"パフェ"ッテ言ウノ?コレ、トッテモ美味シイワ!」
「ウン!コレ好キ!」
「ありがとうございます!あっ、じゃなくて………、て、てめぇらに食わせるパフェはねえ!………?」
「間宮、もう今更だから素直に喜んでいいぞ…………。」
「は、はい…………なんかこれが私たちの敵とは思えないですね………」
「こんな個体はおそらく前例はないだろうな。友好的というか馴れ馴れしいというか……」
「決メタワ!間宮サンナラ第二夫人ニ迎エテモイイワヨ!」
「ワー!ママガ増エター!」
「ええ!?ど、どうしましょう………」///
「勝手に決めてんじゃねぇよ。間宮もまんざらでもない顔するな」
「で、でもやっぱり私、正妻の方が……」
「ウーン、ソコハ後デシッカリ協議シマショ?」
「は、はい」
「はぁ…………もうわけわからん」
中枢と間宮はなんか勝手に仲良しになってるし、周りの艦娘すごく不機嫌な顔してるし、長門と武蔵は握力でコップ壊してるし、加賀は静かに艦爆を用意し始めてるし。
朝から異様というか、平和というか危険というか………。
「………………………………盛り上がってるところ悪いけど、間宮、私に日替わりを頼む。」
「あ、はい!今日は秋刀魚の塩焼きです」
「そうか………」
間宮を厨房に戻らせ、中枢の正面の椅子に座る。
「人間ッテイツモコンナ料理食ベテイルノ?羨マシイワ………」
「…………」
「コレハモウ間宮サンモ深海ニオ迎エスルシカ………。ウン、後デ皆ニモ紹介シテオキマショウ。」
「…………」
「ア、第二夫人ッテ言ッタノハ、第一夫人ハ私ダカラヨ?"英雄色を好む"トイウシ、私ハソノ辺ハ寛容ダカラ安心シテ!」
「…………」
「………エート、アナタ?」
「…………」
「オーイ、私ノダーリン」
「…………」
「アノ…………」
「…………なんだ?」
「ソノ…………怒ッテル?」
「…………当ててみろ」
「………………怒ッテナイ!」
「…………」
「…………怒ッテル…………」
「ほう、よくわかったな」
中枢は怒られた子供のように俯いてしまう。なんだったら若干涙目である。
こうみると普通の少女………だな(見た目は異形だが)。本当に我々はなんでこんな奴らと戦って来たんだ………。
「ヤ、」
「ん?」
「ヤ、ヤッパリ、間宮サンガ第一夫人ガイイ?」
「いやその話ではなくて、」
「ナニガイケナイノ?私ト間宮サンデハナニカ差ガアルトイウノ?料理ガデキルトカ?顔?胸?声?ソレトモ、子持チッテ言ウ設定ガ嫌?」
「だからその話ではない!」
「ウン?デハナンデ怒ッテ………」
「さりげなく飯食いに来てるんじゃあない!なんだこの空気!?なんだこの関係!?なにこの雰囲気!?私たちはお前たちとそんなに仲良かったか!?」
「ダッテ…………アナタガ何ヲ食ベテ、何ガ好キナノカ気ニナルシ………」
「女子高生かお前は!少女漫画じゃないんだからそんな乙女チックなことするな!」
「私ハ恋スル乙女ヨ!イエ、姫ヨ!」
「やかましいわ!」
ガチャン!皿パリーン!!
「そろそろ提督から離れてもらおうか………」
「な、長門!?」
「加賀さん、そっちはどう?」
「問題ないわ。いつでも発艦できる」
「加賀!それに赤城も!」
「僕たちの提督には………」
「指一本!」
「触れさせないわ!」
「なのです!」
「お、お前たち!?」
「あらあら〜、私も加勢、しちゃおうかしら〜?」
「馬鹿ね……敵地に堂々と乗り込むなんて♪」
「愛宕に高雄まで!」
「クソ提督!いいからさっさとそこを退いて!砲撃くらって死にたいの!?」
「私たちの出番ネ!my sisterも行くマスヨ!」
「「「はい!お姉様」」」
「え、ちょ、お前たち……」
あまりにも自然に溶け込み、振る舞い、慣れ、踏み込むその態度に、流石に艦娘たちも怒ったのだろうか。
「提督の第一夫人はこの長門だ!」
「」
「順番はどうとしても、私か赤城さんのどちらかが第一夫人、残った一方は第二夫人よ」
「加賀さん、別に私はどっちでもいいわよ?………ただ、提督が平等に愛してくださるのなら……」
「」
「提督は僕のお婿さんだ」
「あ、暁だって立派なレディなんだから!て、提督のお嫁さんにだってなれるし……」
「この雷以外、提督のお嫁さんにふさわしい艦娘はいないわ!」
「愛情なら誰にも負けないのです!第一夫人は電なのです!」
「」
「ちょっと愛宕?第一夫人は私、第二夫人はあなたってことでいいのよね?」
「摩耶と鳥海はまだわからないけど………、私はそれで賛成よ♪姉妹仲良く提督を独占できればそれでいいわ」
「」
「バーニングラァァァブ!!提督は誰にも渡さないネー!」
「い、いくらお姉様でも、第一夫人の座は譲れません!」
「姉妹とて容赦しません!」
「私の計算なら、提督既に私をお選びになっているはず。それなら私も応えるまで!」
「」
誰もなにも考えていませんでした!
真剣な顔して全員、婚期を逃すまいと奮闘する女にしか見えない!
これは予想外だったのか、中枢もお腹を抑えて必死に笑いを堪えている。北方は不思議そうにみんなを見て、そしてまたパフェを食べ続けていた。
なんか………平和だなここは。
「アナタッテ………フフッ、愛サレテルノネ………プククッ!」
「そりゃどうも。まあ嫌われるよりかはずっとましだよ」
「ソウネ………イイトコロダワ、ココハ」
「ああ全くだ。……………おっと、そろそろ止めるか………」
艤装を展開し、表に出て演習で決着つけるぞみたいな話になり始めているので、やる気満々のみんなを丁寧に引き止める。
なにやってんだ………?私は…………。
[1400]
〈執務室〉
「あの……………提督?」
「なんだ…………」
「その、えっと、執務中にその………子供を執務室に入れさせるのはちょっと………集中できないというか………」
「フーン♪フフーン♪」
「こらっ!北方棲姫!やかましいから外で遊んでこい!」
「イヤ!パパノオ仕事、見学スル!」
「わがまま言うな!ここにいたいならせめて鼻歌はやめろうろちょろするな勝手に物に触るな!」
「ホッポーモオ手伝イシタイモン!」
「あらあら………私の真似したい、というか、私に妬いているのでしょうか?」
「わからん………どうも外見年齢と精神年齢は同じらしくてな。この歳の子供はなんというか………好奇心旺盛、或いは単なるわがまま」
「まあ、子供というものはいつでもそういうものなのかもしれませんね。……………わかりました提督、私に任せてください」
執務中に見学と称して遊びに来た北方棲姫を、執務を手伝ってくれる我が秘書艦鹿島はペンを置き、北方棲姫に近寄る。
ちなみに、中枢は他の艦娘(比較的友好的な)と『提督の正妻にふさわしいためにはどうあるべきか』という、あまり聞きたくない題名の話し合いを、本日任務についていない暇な艦娘と行っている。
「ほ〜ら、北方ちゃん。こっちおいで〜」
「………」アトズサリ
「ふふっ、逃げたって無駄なんだから〜」ダキシメッ
「!?」
「うふふ、ちっちゃくて可愛くて、柔らかくてひんやりしてて、」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」ジタバタ
「はーいよしよし。あ、そうだ。私のそばだったら、提督のお仕事の見学、してもいいよ?」
「!!……………スル……」
「うんうん、じゃあそうしよっか」ナデナデ
「…………ムー」
「」
鹿島すげぇ…………。
幼子を容易に手懐けている………!当然のルーティンのように、慣れきっているかのようにだ。北方棲姫も、満足とはいかないが不満もないと言った具合に鹿島にされるがままだ!
微笑を浮かべる鹿島にゆったりと撫でられ、膝の上で抱きしめられている北方棲姫。
この二人に違和感がない!例えるならそう、親子ッッッッ!
鹿島から漂う母性!私に母の記憶はないが、これの母性は本能的に安心してしまう!甘えてしまう!
って違う違う。そうじゃない。
なんで普通に深海棲艦と仲良くしてるの?なんで友達とか知り合いとかじゃなくて、親子並の親密さを感じさせるの?どうしてこんなに微笑ましいの?
「ム、ム、アッタカイ……」
「もっと抱きついてもいいのよ?私はあなたに乱暴したりしないから」
「ラ、乱暴、シナイ………?」
「ええ。私はあなたの、味方」
「ミ、ミカタ……」
敵だよ?
[2200]
〈居酒屋鳳翔〉
「どうですか?安物ですけれど、中々美味しいでしょう?」
「水ノヨウナ色ダケド、シカシコノ強烈ナ味ト風味!コレハナンナノ?」
「お酒、と言います。お米という植物から作られる飲み物です」
「オサケ………。中々美味ネ!シカシ顔ガ暑クナッテイル気ガスル……………」
「アルコールという成分がありまして、あまり飲みすぎるとお身体を壊しますから、注意してくださいね?初めての方なら尚更」
「アリガトウ、ホウショー」
「あ、提督、お注ぎしますよ」
「あ、うん」
「アナタモオサケ、好キナノ?」
「………………ああ」
「フーン、デモアナタハ、黄色イノ飲ムノネ」
「……………」
「アナタ?」
「えーと、それはビールと言って、米ではなく麦という植物から作られるお酒なんですよ」
「ソウナノ。ネエ、チョット飲マセテヨ」
「………………」スッ
「アリガトー」ゴクゴク
「なあ鳳翔」
「はい?」
「……………なんとも思わないのか?」
「……………敵意なくここに来る方は、お客さんとして扱います。それは、たとえ深海棲艦でも同じ」
「そうか…………」
「…………ホウショー、彼ノコト好キナノ?」
「ええっ!?」///カァァァ
「ぶふっ!」
「ダッテ、アナタモ他ノ、彼ヲ慕ウ艦娘ト同ジヨウニミエル」
「えっと、えっと……」アタフタ
「お、おい!まあその話はまた、別の機会でいいだろう?…………ていうか、普通に鎮守府の一員みたいに過ごすな!!」
「アラ?私ハ今日一日デカナリ艦娘ノオ友達ガ増エタワヨ?」
「嘘………………だろ………」
「ミンナイイ艦娘タチネ。感心シタワ」ゴクッ
「なんなんだ………我々はなんでこんな奴らと戦争なんてしてるんだ………」
「ま、まあ提督?あまり気を落とさないでください。これもまた、一つの解決策かもしれません」
「そうだな………うん、そうだな……」
「ウーン………間宮サントホウショー、ドチラヲ第二夫人ニスベキカシラ……」
「ふ、夫人!!??」
「ぶふっ!(2回目)」
「ソウヨ。セッカク仲良クナッタノダカラ、一緒ニ幸セニナリマショ?」
「し、しあわせ………」////カァァァ
「こ、こら!!」
酔っているわけでもないのに、鳳翔は顔を真っ赤にして、中枢はそれを見て嬉しそうに笑って、コップに少し残った日本酒を一気に飲み干した。
[0000]
〈屋上〉
「どういうつもりなんだ」
開口一番、中枢に切り出した。
日をちょうど跨いだ頃、満月はちょうど真上に差し掛かり、雲ひとつない夜空と灯りの消えた地上を青白い光で照らす。
時雨と話した時は雲が少しあったが、今ではまるでプラネタリウムのような夜空が頭上にどこまでも広がる。
「セッカク誘ワレテ、トウトウ愛ノ告白カト思ッタノニ、イキナリソレ?」
鳳翔からの帰り道、海の戻ろうとしていた中枢を呼び止め、屋上で話さないかと持ちかけた時、そのときの中枢の顔はたしかに、妖麗で危なっかしい笑顔をして、静かにうなづいたのを覚えている。
うっかり惚れそうになったなんて言えないが。
「ここで無駄話をするつもりはない。酒を飲んではいるが、お互い、酔ってはいないようだからな」
「ソウネ……。マァセッカクノオ誘イダシ、話クライイイワ。……………勿論、ソレ以上モ…………❤︎」
「………っ!か、からかうんじゃない!私は真面目な話をしに来たんだ」
「フーン………真面目ニ将来ヲ考エテクレルキニナッタノネ?」
「その言い方は誤解を招くな………。だが、まあそういうことだ」
「私タチノ、将来。愛ノ行ク末……」
「違う」
思わずため息が出る。
「なぜここに来て友好的に接する?敵地に乗り込んで来たと思えばまるで親戚のように振る舞う。お前の意図はなんなんだ?」
「ウン?ソレハ前ニモ言ッタ通リヨ。アナタヲ家族ニ迎エルタメ」
「………………なぜ艦娘も仲良くしようとする、という質問なんだが?」
「ソレデモ答エハ変ワラナイワ」
「なに?」
「艦娘タチト仲良クナルノモ、アナタヲ家族ニ迎エルタメニ必要ナコト」
「……………え?」
「私タチ深海棲艦トアナタタチトノ戦争ハ現在、膠着状態二アルワ。コノママ戦争ガ長引クノハ、オ互イ良クナイト思ウ」
「……まあ、そうだな」
「本来、アナタヲ作ッタノハ戦争終結ノタメノ切リ札トシテ戦線導入スルタメ。人型深海棲艦ノ量産コソ、私ノ目標ダッタ」
「……」
「デモ状況ハ変ワッタ。アナタハ人類デモ深海棲艦デモナイ、全ク別ノ生キ物ニナッテシマッタ。ドチラニモ属サナイ、第三勢力トナッタ」
「私は、人類の味方だ」
「デモ他ノ人間ハソウ思ッテハナイ」
「それは…………」
「アナタハ人類デモ深海棲艦デモナイ、ツマリ、ドチラノ味方デモナイ、両者ノ共通ノ敵ニナッテシマッタ」
「…………たとえ敵視されても、私は人類の……私の艦娘のために戦う。そう決めたんだ。この体になってから」
「………………アナタノ覚悟ハワカッタワ。デモ、モシ私ノ提案ニ乗ルトイウノナラ、ソレモモウ必要ナクナルノ」
「政略結婚か………」
「……?」
「ああ、すまない。こちらの言葉では少し難しかったか。つまりは、私を仲介人した人類と深海棲艦との和平、だろ?」
「話ガ早クテ助カルワ!両者ト互角に渡リ合エルアナタナラ、両者ノ強敵デアルアナタナラ、コノ戦争ヲ終ワラセラレル。ドチラモ滅ビズニ、平和ガ手ニ入ルノ!」
「………」
「アナタハ艦娘モ親シイ人間モ失ウコトモナイ。私タチモモウ犠牲ヲ出ス必要モ、人類ヲ失ウ理由モナイ」
「………」
「ドウ、カシラ…………?」
満月だ。月明かりが地上を照らし、隣にいる中枢の顔がはっきり見える。
美しく、恐ろしく、か弱い異形の少女は、泣きそうな顔で私に訴えていた。体をこちらに寄せ、息がかかるかかからないかの距離まで近づいて、本当に必死に。
この時私は、一種の感謝と尊敬の念を心に感じた。過去の憎しみにとらわれず、今と未来を願う彼女は、戦争を続けようとするあの馬鹿な上官たちより、私を殺し損なったあの低脳共よりもずっと賢く、優しく、尊いものだと思った。
驚きと感動で言葉に詰まる。しかし月が浅い雲に隠れた時、はっと我に帰る。
「悪くない………。良い考えだと思う」
「デショ?ナラアナタカラ、」
「しかしいくつか穴がある」
「エッ…………」
「まず、人類にとっての敵は一般に、人類以外だ。そして人類は人類のみの平和を望む」
「………」
「お前たち深海棲艦は化け物という分類になっていて、和平どころか、意思疎通すらできないとされている。いや、できたとしても、馴れ合うなんてしないだろうな」
「何故…………」
「お前たちは殺しすぎた」
「!!!」
「地球の七割を占める海。それを放棄したことによる食糧難は人類同士の戦争をも招きかけた。残りの三割に逃げた人類にとって、海の奪還は悲願であるのだ」
「ソレハ……………。デ、デモ、私タチガ攻撃シナケレバソレデ………」
「第二に、人類にとって許すという行為はとても難しいことだ」
「……」
「深海棲艦に殺されて死んだ者。深海棲艦によって生活を失って死んだ者。海を失って死んだ者。死んだ者によって死んだ者。お前たちは人類の憎悪そのものだ。……………私のように、私の艦娘のように、お前たちを受け入れるものは少ない」
「ソンナ………」
「第三に、私は化け物だ。両者のとってはただの害。仲介人なんてとてもとても……」
「ソ、ソンナコトナイ!少ナクトモ、私タチハアナタヲ敵トハ………」
「他の中枢には聞いたのか?」
「ッ…………」
「お前のような友好的な深海棲艦がいることはわかった。しかし、深海棲艦にも、我々を憎くてたまらないものがいるはずだ」
「ソレハ……聞イテミナイト分カラナイケド…………」
「……………この戦争は長すぎた。もう和平はほぼ不可能だ」
月がまた現れた。再び地上を照らすその光は、深海棲艦の灰色の肌をうっすらと私に見せる。
若干俯いたその顔は、悔しさと悲しさを混ぜ合わせたような、絶望そのものを噛んだような顔をしていた。たまらなくなって泣き出してしまいそうな、そんな顔だ。
「ヤッテミナイト分カラナイジャナイ……」
「…………」
正直にいうと、私はただ怖いのだ。
どちらかが和平を無視して攻撃したら。和平が形骸化して、互いに敵視する世の中が変わらなかったら。私のせいで、全く必要のない犠牲を出してしまう可能性が。
私がどれだけ強大な力を持っていたとして、私が人類も深海棲艦も圧倒する力を持っていたとしても、絶対に、感情までは支配できない。
「すまん………」
「……………………イエ………イイノ」
深海棲艦は悲しげに答えると、すっと立ち上がった。
そのまま私に近づき、倒れこむように抱きつく。
「お、おい!?」
「ジャア和平ハ諦メル。ダカラセメテ、アナタヲ、アナタヲ頂戴」
「何を言って………むぐっ!?」
反論しようとした私の口をすかさず口で塞ぐ。
負荷にならない程度の体重をかけて、腕を回して重なるように私を停止させる。
一心不乱に舌を口腔内を侵入させ、唾液を飲み、たまに体を震わせて、息が上がるほどまで夢中になって私を貪った。
「私ニハ、アナタガ必要」
「…………お前………」
「ドウシテ………ドウシテ私タチカラ逃ゲタノ!? ドウシテ私タチヲ捨テタノ!?」
「………」
「アナタハ私タチノ希望ダッタ……。戦争ヲ終ワラセルタメノ、誰モ死ナナイ世界ノタメノ希望ダッタ!!」
「お前……」
「悲シカッタ!! 寂シカッタ!! ミンナミンナ同ジ気持チダッタ!! 」
「………」
「…………………………」
「…………………………」
「私ハ………アナタサエ帰ッテキテクレレバ………ソレデイイノ………」
「中枢、私には………」
「………オ願イ…………」
「………………」
泣き顔が視界いっぱいに広がり、強く握りしめられた軍服は今にも破れそうだ。肩を震わせて顔を抑える中枢は、戦場とは打って変わって、本当に弱くて、可哀想に見えた。
このまま頷けば、私は艦娘を捨てることになる。しかし首を横に振れば、私は中枢たちを捨てることになる。
普通なら敵を捨てるのだろうが、私は、私には両者を捨てたくない理由と、記憶がある。それが私の決断を鈍らせる。
つまるところ、どうすればいいのかわからないのだ。
「中枢、私は…………」
言葉に詰まる。声が、出ない。
その時だ。
「「!!!???」」
中枢と私の頭に同時に、音とは程遠いようなノイズが入る。
「これは………共鳴!?」
「…………マズイワ……!!」
「ど、どうした!?」
「今ノハ私タチノ仲間カラノ救援要請……!ツマリ、待機シテイル深海棲艦ガ交戦中ッテコト……」
「戦局は、お前たちが不利なのか?」
「エエ………。ソレモカナリマズイ状況。今スグニデモ行カナイト……!」
その答えに汗が滲み出る。
中枢の仲間はこの鎮守府の近海に待機しているらしく、私の艦娘も哨戒ついでにそいつらの警戒を任せている。
つまり、交戦中になったということは、その中の誰かが攻撃を始めたということ。
断定はできないが最も高い可能性はそれだ。時雨から聞いた話もある。艦娘たちには、十二分に攻撃をする理由がある。
その時私ははっとした。
私は人類の味方だ。私は深海棲艦と戦う使命を背負い、艦娘を指揮する権利を持ち、人類を守る義務がある。
中枢という敵を前にして、ごく普通に会話をし、まるで仲間のように話し、この状況に動揺している。
しかしこれはおかしいことだ。人類の味方なら、つまりは深海棲艦の敵。ならば私は動揺するのではなく、この慌てている中枢の首を刎ね飛ばすなりなんなりしなければならないはずである。
体と思考が、止まる。自分のすべきことが見えない。いや、見えすぎていて、わからない。
「…………ン、ドウシタノ?」
「………私は」
「?」
「私は人類の味方だ」
「!!」
その言葉と同時に現れた禍々しい艤装は、目の前の中枢を狙いゆっくりとその砲身を動かす。
戦艦級の主砲。敵を確実に殲滅するための、私の最強の兵装。
「………アナタ……」
「すまない。お前と私は敵同士だ。今、お前を行かせるわけには、いかない」
「ドウシテモ………邪魔スルノ……?」
「頼む。今はどうか行かないでくれ。もし加勢するというのなら、私はお前を殺さなくてはならない」
「私ノ仲間ガ、今死ヌカモ知レナイトイウノニ、ソンナノ容認デキナイワ!!」
「お前の意見はわかる。だが、私は、勝手な話だがお前を殺したくはない。お前は敵だが、できれば攻撃したくないんだ」
「ダカラッテ、アノ子タチハ沈ンデモイイトイウノ!?」
「お前ではダメだということだ!! 私には義務がある。お前がこのまま動かなければ、私はすぐさま現場に行き、事態を収束させられる」
「………交戦シテイルノハアナタノ艦娘デショウ?」
「!!…………分からない。だが、だとしても私が止められるはずだ」
「ナラ……」
中枢の目が鋭く私を睨み付けると、その体の何倍もある艤装が背後に突如出現する。
まるで生き物のような、黒く、醜く、恐ろしく、迫り来るような、艤装。
話には聞いていたが、確かにこれは、並大抵の戦力ではどうにもできない。少なくとも、私のところの艦娘が束になってかかっても、勝てるかどうか………。
「ナラ、私モ、アナタヲ止メル」
「なっ」
「アナタガ私タチノ敵ダトイウノナラ、ココデアナタヲ行カセレバ、私ハ敵ヲ送リコムコトニナル!! 仲間ヲ危険ニ晒スナンテデキナイ!!」
「しかし、それではどうしようもないだろ!大丈夫だ、私はお前の仲間を攻撃したりは、」
「私タチヲ捨テテオイテ?」
「ぐっ………」
「アナタヲ信ジタイケレド、私ハソレ以上ニ仲間ヲ信ジテル。アナタハ大切ダケレド、ソレト同ジクライ、仲間ガ大切」
「…………」
「…………」
無言で睨み合う。
互いに引かない姿勢だ。今、この瞬間さえも一刻を争うというのに、平行線、どころか、線の先端と先端が衝突している。
このまま、行かせてやりたい気持ちがある。しかし、それは艦娘たちを危険に晒し、提督としての義務を捨て、人間の味方という、この体になってもできる数少ないことを放棄すること。これを無視するわけにはいかない。
中枢も葛藤しているはずだ。私を仲間に迎えに来たが、しかしその中途半端な信用のせいで、仲間の無事を確認したいくせに、仲間にとっては危機なのかもしれないという、諸刃の剣に怯えている。
「中枢、いいからそこをどけ。私なら全て解決できる。悪いようにはしない」
「生憎、私ノ仲間ハ、私ガ守ル」
このままではラチがあかない。
そう思ったのは同時か、互いに距離を置き、脚を開いて構え、砲撃準備に入る。
よもや、言葉では解決不能。
「ソコヲドケェェ!! 人間!!」
「行かせんぞ!! 深海棲艦!!」
「二人とも、ストーップッッッ!!!」
[同時刻]
〈南西諸島 某鎮守府〉
「えっ、出撃させた!?」
「はい」
執務室で向かいに座っている園崎に対し、黒崎は思わず声を荒げた。
「確かに、『もしかしたらあの艦隊は、別の目的地があって、ここが襲われたのはただの前菜に過ぎなかったのかもしれませんね』とは言ったけれども、だからって追わせます!?」
「あれだけの数、いっぺんに片付けられるなら合理的でしょう?」
「園崎提督………いや、園崎長官。今は被害に遭った地域の復興をすべきですよ。それに、貴女のところの艦娘を退けるほどの軍勢、深追いすればさらに被害が、」
拡大するかもしれない、と言おうとしたところで、園崎は唐突に立ち上がり数歩窓に近づき外を眺めた。
「報告によれば」
「はい?」
「報告によれば、あの軍勢が向かった方向は、宮本提督の統括する鎮守府があるとか」
「!!」
「もしかしたら、面白いものが見られるかもしれません。この機を逃すのは少し惜しい」
「園崎長官、興味本位で艦娘を危険に晒すのは……」
「ご安心ください。艦娘には戦闘はなるべく避け、宮本提督のところに合流するよう行っております」
「………」
白い軍服を身にまとっていながら、発せられるオーラは黒々しいものだ。これから起こる事態をどう予想しているかは知らないが、白い歯を覗かせて笑みを浮かべているかの女は、明らかに危険だと、黒崎は思った。
「(どういうわけか、こいつは宮本くんに興味があるみたいだ………。それも、軍人仲間としてではなく、宮本會良という戦力を。深海化した人間の力を。)……ここの長は貴女です。自分はこれ以上何も言いますまい」
「感謝します。では、夜も更けてきましたから、そろそろお戻りになられてはどうでしょう」
言われなくてもそうするつもりだ。これでまた、心配事がひとつ増えた。
微笑で黒崎を見送る園崎は、美貌に比例するかのような、不思議で、不気味な雰囲気を漂わせていた。
次回予告
提督「化け物の花嫁」 ケッコン
このSSへのコメント