2019-06-22 01:00:26 更新

*番外編の続きです。18歳未満はブラウザバックしようね!(建前)

(本編とは特に関係)ないです。













【重巡 高雄】


「ふぅ…………………」




[夜]

〈鎮守府 管理棟 風呂場〉

ゆっくりと息を吐きつつ、包み込むような温かさに身体を浸す。入浴剤のいい匂いと立ち込める湯気を肺いっぱいに取り込んで、同時に湯を全身に染み込ませていく。



「最高だ…………1日の中でもこの瞬間が一番と言ってもいい…………」



一人には少し広すぎる風呂場に、私の独り言が反響する。


この鎮守府において、風呂場という設備があることに、着任当初は驚いたものだ。士官学校では大浴場があったとはいえ、なんだかんだシャワーで済ませてしまいがちだった。鎮守府も同じなのだろうと思っていたが、意外も意外、もはやちょっとした銭湯である。


おそらくここに着任する提督や憲兵(と言ってもここには長いこと憲兵はいないが)、或いは来客用に作られたものなのだろう。独り占めと言われれば少し申し訳ない気もするが、この解放感と充実感、仕事終わりにはたまらない。



「ふう………………………………………………………………………………………………………おっと、うっかり寝てしまいそうだ」




深海化した私の身体は、疲労やダメージにはそれなりに耐性がついている。フルマラソンをしてようやく息が切れるかどうか、という体力と、弾丸では擦り傷程度にしか傷付かない耐久力。常人とはかけ離れた身体ではあるが、考え方によっては、プラスの面も大きいのかもしれない。



何より私は肉体的な疲労より、精神的な疲労の方が多い。


鹿島に手伝ってもらっているとはいえ書類の整理は大変だし、艦隊の編成や作戦の考案も時には神経をすり減らす。そして………………艦娘のメンタルケアもだ。



『提督は一体いつになったら私と子作りしてくれるんですか!』

『提督、川内とシたというのは本当ですか?』

『クソ提督!全部潮に聞いたわよ!!』

『し、司令官……、私とも、その………』

『僕もシたいのに……』

『hey! テイトクー!さっさと私のバージンを奪って下サーイ!』

『お、俺はいつでもいいんだけどよ……』



ケッコンカッコカリは、艦娘の能力を向上させ士気も上がったが、代償として人間関係の距離がより一層縮まった気がする。潮と川内の件はどういうわけか皆に知れ渡り、艦娘たちは私と肉体関係を持とうと躍起になっている。自分で言うのも恥ずかしい。


私は確かに、艦娘たちを愛しているし、大切に思っている。しかしそれは男女の仲と同一ではない。私はまだ、艦娘たちとそういう関係を取り持つべきだとは思わないのだ。たとえ今の彼女らの原因が、私にあったとしても。いや、尚更というべきか。



「どうにか二時間かけて弁明したが………、これ以上鎮守府内の風紀が乱れるのはまずいな…………」



随一の安らぎの場である風呂場でさえ、そのことで苦悩してしまう。どうにかしなければと、ずっと思っているのだが…………。







ガラガラッ






「ん?」

「失礼します、提督」



音の方向をみると、バスタオルを身体に巻いた高雄がそこに立っていた。



「…………」

「…………」



なんで、いるのかな?



「おい高雄、お前」

「はい、『入浴中』という札はかかっておりました。ですので、私もご一緒させて頂こうかと……」

「そうか。いや、そうではなく、」

「はい、風呂場にはしっかり鍵がかかっておりました。ですので少し荒っぽいのですが、鍵を壊させていただきました」

「そうか。いや、何してるんだお前」




頰を赤らめて小さく微笑む高雄。普段は生真面目な彼女だが、どうにも今日は様子がおかしい。風呂にまで入ってくる大胆な行動も彼女らしくない。



ちなみに、当然ではあるが艦娘と私の風呂場は全く別の場所にある。それは艦娘の数の問題が一番の理由ではあるが、今の彼女達ならここに押し寄せる可能性も否定できない。そのため普段私は扉に簡易ながらも鍵をかけている。たった今彼女が壊してしまったようだが。



「鍵は私が後で責任を持って直します。それより提督…………」

「な、なんだ」

「………………せっかくですし、お背中、お流ししましょうか?」



高雄はそう言うと、どこからともなくボディソープを取り出した。ここにあるものではない、おそらく自前のものだろう。手を見ると、身体に巻いているバスタオルとは別に、もう一つ小さなタオルも持っている。


「………………」


こういうことは初めてだ。止むを得ず共に入浴してしまったり、いつのまにか一緒に寝ていたりということはほかの艦娘含めて多々あったが、背中を流してもらう、という親切は今までに体験したことはなかった。



「さ、早くこちらに。提督のボディソープとは別の物を持って参りましたから、一度身体を洗った後だとしても構いませんよ」

「……………」

「………もう、提督。取って食おうというわけじゃないですよ。そんなに警戒しなくても………私はただ、日頃のお疲れの提督を癒そうとしているだけです」

「……………わかった」



確かに、高雄の言う通り、警戒する必要などないのだ。考えてもみろ、あの高雄が筋道立てることなく邪な行為に走るとは思えないし、何よりボディソープやらタオルやらしっかり用意して、本気で背中を流してくれようとしているではないか。それに、せっかくの厚意を無下にするなど失礼だ。



私は持っていたタオルを腰に巻き、湯船から上がって高雄に背を向けて座る。



「はい、では今からまず、提督の背中を洗っていきますね。ゆったり力を抜いて座っていてください。でも、うっかり寝ないでくださいよ?」

「分かってる。頼んだ」



高雄は持ってきた小さなタオルを濡らして、そこにボディソープを垂らして泡だて始めた。


「…………柿、か」

「はい!柿渋のボディソープです。他の植物由来のものと悩んだのですが、今回は私が特に気に入ってるものにしました」

「いい匂いだ。どうにも私は安物を買ってしまうからな。得をしたな」

「提督も、少しは贅沢をして方がよろしいですよ。自分のことになるとすぐ無関心になってしまうから………」

「悪い悪い」

「では、始めますね……」



背中に泡とタオルの感触が伝わる。肩から順に下へ横へと、優しく肌を擦るようにして洗ってくれている。しばし目を瞑り、高雄が背中を洗ってくれる音を聞く。


肩甲骨のあたりから背骨、広背筋から腰の辺り、泡を塗りたくるように手を進め、自分では手の届かないところも入念にやってくれる。


「いい具合だ。高雄」

「ありがとうございます。……………ところで、提督」ゴシゴシ

「なんだ?」

「最近、提督は潮ちゃんや川内ちゃんと淫らな関係をもった、という噂が流れておりまして………」ゴシゴシ

「!?ゴホッ!!ごヘェッ!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「もも、問題ない。少しむせただけだ」

「そ、それならいいのですが……」

「それで、なんの話だったかな?ああ、空飛ぶ円盤の話か」

「違います。話を逸らさないでください」

「はい………」

「私も詳しくはないのですが、潮ちゃんも否定するわけでもなく肯定するわけでもない反応でしたし、川内ちゃんも、少し不満そうではありましたがおおむね正しいと言っていました。……………そうなのですか?」ゴシゴシ

「い、いや!そんなことは、」

「提督、身体が固まってきましたよ。力を抜いて下さいね」ゴシゴシ

「お、おう」

「…………私は別に、提督が艦娘と肉体関係を持つのは構わないのです。その艦娘は妬ましいですが……」ゴシゴシ

「(怖いなぁ………)」

「しかし、私は以前より疑問でした。私たちが提督にどれだけの恋慕を抱いていようと、提督ははたして私たちを好いていらっしゃるのか」ゴシゴシ

「……………」

「もう少し具体的に言いますと、私たちと提督はあくまで仕事上の関係に尽きるのであって、特別な関係であることはやはり、望んで求めてはいけないのではないかと………」ゴシゴシ

「………………高雄」

「はい?」ピタッ



背を向けたまま、顔を見ることなく言う。正面きっては言えないことも、今なら自然に言える気がした。



「私は愛というものからもっとも遠く離れた存在だ」

「それはどういう………?」

「幼い時分に家族を戦争で失い、孤児院に行ったがそこもやがて戦火に巻き込まれた。黒崎家の引き取ってもらい、それこそ我が子のように育ててくれたものの、居候という域は出なかった。そして士官学校に入り、今ここにいるわけだが………。聞いてわかる通り、私は愛情や恋慕というものに関して、ほとんど体験のないままに育ってしまった。正直に言うと、"好きになる"とか"愛する"という行為について、まだまだ分からないのだ」

「提督…………」

「私はお前たちを愛している。しかしこの"愛している"は一体なんなのか。仲間としてなのか部下としてなのか、はたまた女としてなのか艦娘としてなのか。私はどうしても、自分の愛がはっきりしないまま生きてきた」

「…………」

「元より形のない概念なのは承知だ。だが、人間にとっても艦娘にとっても卑近なことである"愛"というものに、私はとても疎い。だから、お前たちの思いに応えてやれるか甚だ疑問なのだ」

「て、提督はっ、ご自身が思っている以上に、私たちを愛して下さっています!たとえ愛がなんなのか、はっきりとした答えがなくても私は……」

「…………お前たちはこの世の何よりも大切だし、お前たちと一緒にいるのは楽しい。だが、それは恋愛感情ではないのかもしれない。私は愛を知らないのだから」




立ち上がって、シャワー浴びて背中の泡を洗い流す。



「今日はもういい。そろそろ上がる」



高雄を一瞥もせずにそう言った。高雄がどんな顔をしているのか想像すると、風呂上がりだというのに鳥肌が立つほど恐ろしかったからだ。なるべく見ないように努めて、風呂場から去ることにした。



しかし、志半ばでそれは叶わなかった。




「提督っ!!」ギュッ

「え?」



突然背中から衝撃が来た。一瞬何が起きたのかわからなかったが、背中に伝わる暖かな柔らかい感触と、背中から腹にかけて回された白い腕を見て、抱きつかれていることを理解した。



思わず身をよじらせて振り返ろうとすると、あっさり振り返ったもののその口を高雄の口で塞がれてしまった。


「〜〜〜〜〜!!?」

「んんっ………」




数秒だったのか、それとも数分、いやもっと経っていたようにも感じられるほど、長いような短いような接吻をした。抱きつかれ、その上扉に半ば押し付けられているような体勢なので逃げようもなく、その上高雄は容赦なく口の中に舌を潜り込ませてきた。


柔らかな舌の感触と混ざり合う唾液の味に頭がショートしかけた頃、ようやく高雄は唇を離した。



「なっ、なんの、つもりだ………」

「提督は時々難しく考えてしまうところがあるので、今回は考えるより先に感じてもらいました」



湯に浸かり過ぎたせいか、それとも接吻が熱烈だったせいか頭がぼんやりする。高雄も目がトロンとして頰も紅いが、余裕ありげに口元を緩めて言った。


ほぼ裸で密着し合ったまま、しばらく見つめ合ってお互い息を整えていたが、やがて高雄はさらに私にゆっくりと抱きついた。狭い箱の中でもないのに、まるで身体と身体が接着したようである。



「提督」

「な、なんだ?」

「私は最初、『提督が私たちを好いているのか疑問だ』と言いました」

「………そうだな」

「ですが提督、それは疑問ではあっても問題ではないのです」

「………………は?」

「ええとつまりですね、私は単に、提督と両想いだったらいいな、と思っていただけなんです。愛がなんだとかいう哲学地味だことではなく単に気持ちとして、私たちを好きなのかどうか…………。いえ、もはや気持ちすら回りくどいですね。提督、私たちは寝ても覚めても提督を想っています。提督はどうですか?」

「ど、どうと言われてもな…」

「好きなのか嫌いなのか、単純に考えてみて、どっちなのですか?」

「単純に考えるなら、まあ、好きだ」

「まあ!嬉しいです!」



そういうとまた高雄は唇を重ねてきた。戸惑いが消えないまま、微睡むようにして舌を絡ませる。高雄を止めようという気は、今まさに消え失せようとしていた。



「たっ、高雄っ、はあっ…さっきも言ったと思うが、んむむっ………ぷはっ、好きと言っても恋愛感情なのかどうかはんんっ」

「ん…………はぁっ、わかってますよ………はむっん………それなら、その曖昧な"好き"を、私たちを女として"好き"になる方へ変えてしまうまでです♡」

「いやでもそれはんぐっ」

「ふふふ………提督のことですから、何かご立派な説教でもして下さるのでしょうが………、今日は何を言っても止まりません………!それに、提督の身体は正直ですよ………ほら」



唇を重ねていると、次は股間に刺激がきた。見ると、自分でも気づかないうちにそそり立ったモノが、高雄に優しく握られているのが見えた。



「(またこの展開かまずいぞこれは)」

「熱くて硬い………私の手の中で、ビクビクッて小さく跳ねて……。逞しくて、ちょっと可愛いですね」

「高雄」

「はい?」

「(まずはプラン1だ)そろそろ風呂場の暑さで逆上せてしまいそうだ。取り敢えず、ここから出ないか?」

「……………大丈夫です。たとえ逆上せて倒れても、私がしっかり介抱しますし、ここで逃げられたりするのは困るので」

「(失敗か………。ならばプラン2だ)た、高雄。申し訳ないんだが、実はまだ重要な仕事があるんだ」

「私よりも重要な仕事、ですか?」

「えっ、いやその………あっ、お前たちにとっての、重要な書類が残っているんだ。風呂に入っていたのは仕事がひと段落したからで、まだ、この後やらなくちゃいけないんだ」

「……………大丈夫です。書類があるなら私も後で手伝いますし、私の気持ちが仕事に負けるのは癪なので」

「(失敗か…………ならばプラン3だ!)あっ!高雄!」

「な、なんですか?」

「あんなところに、空飛ぶスパゲッティが!」

「………………提督」

「な、なんだ?」

「今回だけは、馬鹿めと言って差し上げますわ」



危機回避プラン3を持ってしてもこの状況からの脱出は無理らしい。最後の方とか、本当に呆れた顔で見てきた。


高雄は私のモノから手を離し、少しだけわたしから離れると、小さくため息をついて言った。


「ねえ……提督」

「ん?」

「私、というか女ならみんな、こういうことはそれなりに勇気を出してしているのですよ。その………じ、自分から殿方を誘うというのは」

「あ、ああ……」

「ですから、その時は潔く、相手の気持ちと自身の欲に素直になってしまうのが礼儀というものです。ええ、全く提督は、理性が働きすぎです」

「え……なんか、すまない」

「それとも提督は…………私とは、シたくないのですか?」



その時ハッとして、高雄を改めて見つめた。



普通(これは男女問わず)異性が裸体で現れたら、誰でもまずは目をそらすだろう。これは単純に、平静を保つには刺激が強すぎるのと、目のやり場に困り恥ずかしくなってしまうという、二つの理由がある。


これは何も、一度目や二度目とか、回数の問題ではない。身体をまじまじと隅々まで見る行為に、我々は全く慣れていない。それこそ医療に携わる人とかならあり得るかもしれないが、普通に生きていれば、誰だって動揺してしまう。


つまり、人は誰かの裸をじっくりは見ない。



しかし私はその時、妙に高雄の裸に視線が吸い寄せられ、そのままぴたりと動かなくなってしまった。



改めてしっかりと高雄の身体を見る。


帽子を被っていない髪は艶やかで美しい漆黒であり、薄っすらと発光しているのかと思うほど透き通るような白い肌と良いコントラストである。肩の辺りに視線を下げれば、鎖骨のラインとか肩の意外な華奢な具合とかに目を奪われる。隠すことなく露わになっている胸は、服越しよりも明らかに大きいことがわかる。先端の綺麗な桃色も、下の堀の様子も、女らしさの象徴性の現れである。さらに腹の辺りを見ると、美しいくびれにやはり注目してしまう。高雄は肉付きがよく、かといってふくよか過ぎるわけでもない丁度いいスタイルで、細くなっていく腰のあたりから、また再び広がってく尻の曲線には、一種の美すら見出せる。流石に恥ずかしいのか、手を前で組んで局部は見えないようにしている。太腿、膝、脛、踝、指先へと視線は流れていく。細すぎず太すぎない、健康的で美しい足だ。



「…………」ゴクリ

「ふふ………。じーっくり見なさって、そんなに私の身体は良いですか?」



少しの間をとって、「ああ」と返答した。それだって、言ったというよりかは口から音が漏れたようなものだ。普通なら照れるのを隠しながら目をそらすべきだというのに、私の身体はまるでゴルゴンに見つめられ石化されたように、ぴたりと動かなくなってしまっていた。


理性は働いている。しかし理性的に考えても、はたまた本能的に直感しても、私は今目の前の雌に完全に虜になってしまったのだ。



「高雄」

「はい」

「お前が………………欲しい」

「ええ、いいですよ。ぜーんぶ差し上げます」



そういうと高雄は次は私をゆったりと包み込むように抱きしめてきた。私はされるがまま、石像のままだ。


「この身体も、言葉も、知性も何もかも、全て提督、貴方のものです。私は今、完全に貴方のものになります。ですから提督………」

「…………」

「提督も、私のものになって下さい♡」





そこから先は、夢うつつというか、記憶が曖昧だ。結論を言うと、全てが終わった後私は案の定逆上せてしまい、倒れるようにして寝込んでしまったのだ。寝る前のことは、どうにも本当に自分の記憶なのかあやふやだ。



記憶の中の私は、獣のように高雄を抱いていた。乱暴に唇を貪り、豊満な胸を鷲掴みにして、それから四つん這いにさせた高雄を後ろから弄んだ。高雄は最初の方は、まだ余裕のある感じで、少し私の対応に驚いていたけれども、それでも悠々と私の欲を受け止めてくれた。しかし私のモノの相手をし始めてからは、自分の快楽で手一杯だったようだ。夜遅くとはいえ、生娘のような甘い声を大きく上げて、突く度に何度も痙攣していた。殆ど湯を浴びていない高雄だったが、しまいには汗が全身に馴染んで、肩を上下して昂ぶっていた。


身体が一つになっていくような感覚だった。体温が近づいていき、言葉を交わさずとも互いが求めているものを理解でき始めると、その感じはさらに強くなっていった。お互い喘ぐばかりで、おおよそ知性のかけらもなかったけれども、いやだからこそ、それができたのかもしれない。


はたしてその時、高雄が準備良く避妊具を持っていたかは定かではない。最低限の理性による判断が私はできていたのか、それとも欲に従ったのか。当事者でありながら、肝心要のところの記憶が抜け落ちてしまっている。



記憶の最後には、高雄が私の身体に倒れこんでいる姿があった。それからどうしたのかは知らない。その後の私の最新の記憶は、自分の布団で寝ていたことなのだから。










[後日]

〈執務室〉

「第三艦隊、帰還致しました」

「うむ」



出撃から帰還した第三艦隊の旗艦である高雄から、戦績と補給及び入渠申請書を受け取る。



高雄と面を合わせるのが恥ずかしくて、なんとなく気まずい雰囲気が続いていたが、当の高雄はいつもと何一つ変わらなかったので、すぐに普通に話せるようになった。互いにあの夜のことは語らず、あの日限りの泡沫であると、最近は思い始めた。


それにしても今日も高雄は綺麗だ。あの時の姿も相まって、一層良く見える。



「? どうしました、提督?」

「ん?いや、なんでもない」

「そうですか?少しボーッとしてましたから……」

「なんでもないよ。それより、出撃ご苦労だった」

「はい。艦隊の他の子達にも、もし会ったら声をかけてあげて下さい」

「わかったよ」



書類に目を通して、不備がないことを確認すると、手早く印を押して高雄に返した。



その時ふと、ちらりと高雄を見た。手渡す一瞬前、彼女はいつもとはまるで違う、そう、あの夜のような妖艶で甘美な笑みを浮かべていた。そして彼女の手は、自身の下腹部の辺りを、ゆっくり優しく撫でていた。















【軽空母 鳳翔】

[夜]

〈鎮守府 居酒屋鳳翔〉

この鎮守府において、酒の管理は鳳翔と間宮に一任している。


艦娘に対してアルコールが有効だったり、好き嫌いが分かれたりすることにはいささか疑問だが、とにかくこの鎮守府には酒飲みがいる。下戸なのもいれば殆ど飲めないものもいる。例えば隼鷹は大酒飲みだし、ひるがえって駆逐艦は酒を飲むと大半は手を回してしまう。



本来なら、料理の時に使う程度の酒しかなかったが、今では酒自体を楽しむ艦娘も多い。そこで設けられたのがこの"居酒屋鳳翔"だ。


台所当番の間宮はともかく、何故鳳翔が酒の管理を任されているのかと言えば、一番の理由としては責任感の強さだろう。そして世話焼きで、この鎮守府で一、ニを争う酒の強さを持つからだ。



「おっすー提督ぅー!………うぷっ」

「隼鷹か。………全く、またこんなに飲んで…………」

「へーきへーき。まだまだ、これから…」

「もう…、今日はこれでおしまいですよ」

「ええー!?もう終わりぃー?」

「吐かれても困るだろうさ……。さ、夜も遅いし、さっさと自室に戻れ」

「へーい……………」

「どうも、提督」

「こんばんは、提督」

「おう、加賀と赤城か。ここに来るなんて珍しいな」

「今日は趣向を変えてみようと思って、夜ご飯を控えめにしてきましたから。たまにはお酒を飲むのはいいですね」

「そうか………って、二人ともいつも通りおかわりしてた気がするけどな…」

「別腹がありますから」

「おかわりは譲れません」

「さいですか……」

「提督こそ珍しいですね、こちらにいらっしゃるなんて」

「ああ。酒が特別好きというわけではないんだが、たまに飲みたくなる」

「なるほど…。では提督、本日は何になさいますか?」

「うーん………」



畳8畳程度の部屋にカウンターを設置して、残ったスペースに所狭しと酒棚を並べたこのレイアウトは中々悪くない。この狭い感じが、客と客同士、または店主と客を近づけている気がしてどこか安心する。


鳳翔の後ろの棚にはいつものように日本酒が並べられている。倒れて割れたら大変そうだななんて思いつつも、またこの密集具合が良い。



「今日のオススメはなにかあるか?」

「そうですね………。少し俗かもしれませんが、この"五百万石"なんてどうでしょう。飲みやすいお酒ですよ」

「わかった。それにしよう」

「では水割りでお出ししますね」

「ありがとう」



グラスを取り出し、栓を開けてトクトクと注いでいく。冷ややかな色合いを見ると、日頃飲んでいる金剛の紅茶とか水道水とは全く異なるものだと改めて思う。


「さ、どうぞ……」

「ああ」



すぐに口に入れてしまう前に、まずは匂いを嗅ぐ。


「(ああ、これだこれ)」


鼻腔に広がる酒らしい匂い。それも、特に日本酒によくある香りだ。こうしているだけで酔える気がしてくるほどに、長く酒から離れていた私の身体は刺激された。


観察するように、少しグラスを傾かせて酒を躍らせてみる。煌く酒の波を見て、いよいよ満足して私は一思いにそれを喉に流し込んだ。



「(おおっ………これはこれは)」



酒の味が口の中を駆け抜けていく。久しく忘れていた日本酒の風味と刺激が舌から脳に一瞬で伝わり、弾けるようにして旨味がとめどなく押し寄せる。強い酒だとちびちびと飲まないといけないが、これは水割りというのもあるが、比較的飲みやすい酒のようだ。またこの冷えた具合もいい。身体に温度が染み込んでいくのがわかる。


まるで真水のように、一気にグラス一杯飲み干してしまった。鳳翔は流石に見兼ねて少し不安そうに見つめてきたが、むしろ身体は癒される程だった。



「まあまあ……そんなにいきなり飲み干して……」

「問題ない。そこまで強いわけでもないし、久し振りの酒だからな。口に含んだら止まらないんだ」

「隼鷹さんみたいなことを言って………。まあ、あの人はいつも飲んでますけれど」

「あれはむしろ呑まれてると言うべきだろうな。鳳翔、すまないがもう一杯」

「はい」

「提督、お酒が好きなんですか?」

「ん?まあ嗜む程度にはな。味を楽しむと言う点ではまあ好きだ。そこまで強いわけではないんだか………」

「へぇ〜。何かこだわりとかは?」

「基本は日本酒を飲む。ワインが嫌いというわけではないが、やはり日本男児の遺伝なのか、日本酒の方が好きだな。焼酎とかビールもいけるぞ」

「なるほど。私と赤城さんもたまにしか飲みませんからあまりお酒に精通しているわけではありませんが、確かに日本酒はどこか馴染みやすいところがありますね」

「でも、たまにシャンパンとか置いてありますよね、鳳翔さん」

「ええ。やっぱり居酒屋らしく、日本酒オンリーでいこうかなとも思いましたが、様々なお酒があるとそれもまた趣があっていいでしょう?」

「確かにな。今度は洋酒にも手を出してみるか」

「どうぞ、提督」

「お、ありがとう」



再び注がれた酒を、今度は少し口に含んで転がしてみる。じっくりと、それこそ酒が緩くなってしまうほどに。


「しかし考えみれば、酒なんては謂わばただの飲み物に過ぎない。なのにこんなに奥が深いなんてな」

「そうですね。世界中いろんなお酒があると聞きますし、熟成方法だけでもバリエーションは幾通りにもなりますから。歴史も古く、それこそお酒が原因で争いが起きたこともあるとか………」

「これがただのジュースだったらそうはいかないだろうな」



酒とは要は飲み物だ。外食した時出されるお冷やドリンクと同じなのだ。しかし、同じ飲み物であるにもかかわらず、酒の世界は広い。途方もない数の種類、飲み方、それにつまみも合わせれば本当に星の数ほどある。


士官学校時代は、安い酒を買ってきては(勿論生活や訓練に支障がない程の量を)、黒崎や他の連中とこっそり部屋で飲んだものだ。その時分、私はつい悪友につられてしまうところがあったので、大抵誰かが誘ってくるとつい乗っかってしまうのだった。


あの酒は決して旨くはなかったが、我々は酔うために飲んでいた節があった。酔いが回ってくるとつまみのいか焼きと枝豆を皿に出して、上官の悪口やら故郷の話をするのだ。



「(懐かしいな…………あの頃は、私もまだ人間だった………)」

「提督?」

「ん、ああすまない。考え事をしていた。で、なんだ?」

「私たちは、明日出撃もあるのでそろそろ失礼します。これ以上飲むと、酔いが明日まで残ってしまいそうですから」

「そうか。しっかり休めよ」

「はい。お休みなさい」

「おやすみなさい、提督」



赤城と加賀が店を出て行くと、いよいよ鳳翔と私の二人だけになった。



「鳳翔は確か、明日は特に何もなかったかな?」

「はい。演習も明後日ですし……、提督の気がすむまで、お付き合いしますよ」

「そうか?まあ私もそこまで飲むつもりはないが………ゆっくりさせてもらおう」



深海化してから、この身体は代謝や再生能力が著しく向上しているのは今までに語ってきた通りだが、それは何も外傷に限った話ではない。内臓器官………すなわち、内部からのダメージにも強くなっている。


たとえここで酒を樽いっぱいに飲んでも、急性アルコール中毒にはならないだろうし、酔い潰れて昏倒することもない。はっきり言えば、私はもう肉体的に"酔う"ことはできないのだ。鳳翔は気がすむまでいればいい、と言ってくれたが、私はそういう点ではもう、心が満たされることはないのだろう。


一見、深海化は肉体に利点しか与えていないと思ってしまうが、しかしこういう場合はそれが裏目に出てしまう。自分がもう普通ではないのだと認識してしまう。





ガタッ



「おや?」

「ふふふ、今日は私も飲ませていただきますね」



隣を見ると、割烹着を脱いでいつもの格好に戻った鳳翔が座っていた。私に注いだ酒を自分のグラスにも注いで、ゆっくりと流し込むように飲んでいった。



「…………っはぁ……。お酒なんて、私も久しぶりです。誰よりも触れているはずなのに、自分ではすっかり飲まなくなっていました。でもやっぱり、こうして飲んでみると美味しいですね」

「ああ」



久し振りの酒で面食らったのか、鳳翔は飲んでは息を吐き、飲んでは息を吐きを繰り返して、すっかり飲み干すことに困窮していた。酒に強い方とは言え、時間が空けば当然こうなる。


ようやっと二杯目。今度は先ほどより少しペースが早くなって、それでいて表情にも少し余裕が出てきた。



「美味しいですね………」

「そうだな」

「あの、提督…」

「なんだ?」



私もグラスの中を一気に飲み干して、半分くらいになった酒瓶から新たに注ぐ。


「せっかくですし………どうか私の愚痴を聞いてくださいませんか?こういう酔った時でないと、中々愚痴は吐けないもので……」

「別に構わんが…………珍しいな。何か嫌なことでもあったのか?或いは悩みか」

「嫌、というわけではないんですが………。少し困り事がありまして………」

「というと?」



鳳翔は突然、一気にグラスを飲み干して言った。


「先日高雄さんが」

「うむ、」

「『母親になったら、やっぱり子供のお洋服とか作っておかないといけませんか?』って質問をしてきたんです…………」

「…………ん?」

「確かに艦娘の中には、私のことを『お母さん』なんて言う子もいるけれど、私実際に子を持ったことはないのに………」

「…………」

「しかも、なんでそんなことを聞いてくるのでしょう。まるでもう子供ができることが決まっているみたいに………」

「………」

「ああそれと、その前は川内さんが」

「う、うむ」

「『気になる男性を確実に手篭めにして、子をこさえるようにするにはどうすればいいのかな?』って………」

「…………んん?」

「それってもっと恋愛経験豊富な、それでなくても私ではない誰かに聞けばいいと思うんです。愛宕さんとか鈴谷さんとか」

「…………」

「それに、川内さんなら夜這いでもなんでも簡単にできるでしょうに………」

「………」

「あと、その前は潮ちゃんが………」

「………………うむ」

「『提督との子供ができたかどうかって、どうすればわかるんですか?』って………」

「………………………」



ゆっくり横を見ると、今までに見たこともないくらいジト目の鳳翔と目が合った。




「なんてことだ…………」

「提督」

「はい」

「正座」

「はい」



言われた通り椅子から立ち上がって、それから素早く足を畳んだ。なんだったらこのまま額を地面に擦り付けてしまいたい。恥ずかしさと申し訳なさで、まともに顔を見られない。正直ここから投げ出したい。


「……………」グビグビ

「……………」

「……………」ゴクリ

「……………」

「……………」ガタンッ!

「……………」

「提督、私、この鎮守府でどういう風に思われているんでしょうか?」

「面倒見の良い、責任感のある、頼り甲斐があってそして美しい、みんな鳳翔さん、です」

「そうですか。ありがとうございます。嬉しいです。では提督、私と提督の関係はなんですか?」

「部下と上司です」

「なんでですか!?」



鳳翔は立ち上がって怒り始めた。


「なんで私というものがありながら他の子と先に関係を持つんですか!!優良物件だと思うんですけど!!思うんですけど!!」

「いや、あいつらは向こうから強引に……」

「押しに弱すぎる提督が悪いんです!」

「ええ………」

「百歩譲ってそれはいいとしましょう。ええ、他の子と肉体関係になるのは構いません。でも、どうして私が一番最初じゃないんですか!普通に考えれば立場的に一番なはずですよね!?」

「いや別に順番とかは問題ではない気がするぞ………」

「大問題です!先を越された女の気持ちはすごいんですからね!」

「はぁ……」



頬を膨らませて地団駄を踏んで怒っている。その度に結った髪がぴょんぴょん跳ねて可愛らしい。鳳翔は本気で怒っているのだろうが、どうにも緊張感がなく、申し訳なさがあまり湧いてこない。



「大体なんでみんな私に質問してくるんですか!なんですか、嫌味ですか!?『お先に失礼』ってことですかそうですか!」

「いや、鳳翔はどことなく母親のような雰囲気があるから……」

「誰がお母さんですか!私まだ処女ですよ!」

「いや、まあそういうことではないが……。と、とにかくまずは落ち着いたらどうだ?夜も遅いしあまり騒ぐのは………」

「む…………、確かにそうですね、失礼、取り乱しました」

「(なんとか落ち着いたか………)」



正気に戻った鳳翔は席に戻り、グラスに残っていた酒を一気に飲み干して大きなため息を吐いた。不満と怒りとアルコールが混じった、平時より何倍も重いため息だ。


私も立ち上がって席に座る。少し溶けた氷で僅かに量が増えた酒を飲み、また鳳翔を見てみる。



「……………」ゴゴゴ

「(まだ怒ってるのか………)」

「提督」

「は、はい」

「いいですか、今度からは節度を持って艦娘に対応すべきです。寮でも最近ではその話で持ちきりで、まるで競争するように提督を狙っています。来るもの拒まず、とは聞こえがいいですが、しかし誠実に応えられないのならむしろ相手を傷つけることになりますから」

「りょ、了解です」

「それから、まずゴムくらい用意してください。子育てはそんなに甘くありませんよ」

「はい(なぜわかるんだ…………)」



それきり鳳翔はしばらく黙った。ぼんやりと自分の店を眺めて、思い出したように酒を飲んではそれを繰り返した。


気まずくなって、私もそれを真似た。酒は何度飲んでも同じ味だけれども、とにかく今は酔って気を紛らわせようと思ったのだ。果たして私はこういう時どうやって相手の機嫌を直すのかわからなかった。






ちょうど月が真上に来たくらいだろうか。割と長い間お互い無言だった。しかしいよいよ、鳳翔は固く閉じていた口を開いた。


「……………私って」

「え?」

「私って、女としての魅力がないのでしょうか…………」

「(急にどうした)」



優しく微笑みかけるいつもの鳳翔は、怒りと落ち着きの果てにいよいよ自虐という謂わば自暴自棄の領域に達したらしかった。


「空母なら他の子が沢山いるし、軽空母なんてせいぜい遠征で使う程度………。航巡を含めて考えれば私の戦場での価値なんて殆ど皆無ですし」

「お、おい」

「居酒屋なんて開いてますけど、隼鷹さんみたいな常連さんからまだしも、殆どの艦娘はたまにしか利用してくれませんし」

「あの、」

「戦場での輝かしい姿もなく、割烹着を着ればせいぜいが居酒屋の女将。ふふ、たしかに提督が私に目もくれないのがわかります。ふふ、ふふふ…………」

「ほ、鳳翔さん?」



すると突然、鳳翔がタックルするような勢いで飛びついてきた。


「うおおっ!?ど、どうした?」

「提督ぅ〜私を見捨てないでくださ〜ぃ」

「えええ?」

「私、家事も料理も夜のお世話もできますよ?いいお嫁さんになりますからぁ〜」

「鳳翔お前、酔っ払ったのか!?」

「ふぇ〜ん」



怒ったり自虐に走ったりしたと思えば、鳳翔はとうとうポロポロと泣き出してしまった。先程は鳳翔を母親のようだと言ったが、今はまるでその逆である。



「お…………お、よしよし鳳翔」

「うう…………ぐすっ………ズビッ………」

「鳳翔、ああっと、泣くほどのことじゃないと思うぞ?私はお前を見捨てはしないし、うん、いい女だと思ってるよ」

「……………でも、私のこと抱いてくれないし…………」

「いや、自分から手を出すのは流石に……」

「なんですか、この意気地無し!チキン!提督!」

「(ご乱心だなぁ………というか、最後のは悪口じゃないだろ………)」

「……………じゃあ、提督。私が抱いてとお願いすれば、抱いて下さいますか?」

「………………それは、その」

「うぇぇぇぇぇぇん!!」













[次の日]

結局あの後、鳳翔は二時間ほど泣きっぱなしで、そのあとうとうとし始めた鳳翔を寮まで運んで寝かせた頃には、薄っすらと空が白み始めていた。


鳳翔はやはり酔っていたらしく、昨晩、私に愚痴をこぼしたところまでは覚えているようだが、その先はてんで要領を得なかった。



今回は珍しく事には至らなかった。それを惜しいとも思わないし、かと言って良かったとも思わない。


そもそも私はこれまでの艦娘………、つまり勢いに負けて関係を持ってしまった艦娘に対して、少なからずの責任を感じているのだ。


この責任というのは、口では一端のことを言っておきながら、結局は肉欲に負けてしまっていることだとか、複数の艦娘と関係を持ってしまっていることだとか、他の艦娘に関しても気持ちをしっかり伝えていないことだとか、数えればキリがないが、要するに、彼女らの愛に対してあまりに誠実さに欠けていることだ。


無論彼女らは気にもしないだろう。一度壊れてしまった彼女らには、以前のように私と自分たちの関係を冷静に熟考することはできない(今の彼女らにとってその点を理解しようとすれば、自己矛盾によって再び精神が破綻する恐れがある)。しかし私は違う。私はもうこの身を彼女らに捧げるつもりであるが、彼女らを壊してしまった過去があることを踏まえれば、『みんな愛し合ってハッピー』なんて都合のいい結末は容認できない。


だから私は言うべきなのだ。「お前たちはその感情は、本来お前たちが持っていたものではないから、私を好きになってはならない」と。


しかし言えない。それが不誠実だ。





「(とにかく、中途半端な気持ちで艦娘を抱くなんてできないしな………。本当に、これからは心を改めないと)」



廊下を歩きながら、ぼんやりと考える。すると向こうから鳳翔がやってきた。こちらに気づくと、にこりと微笑んだ。



「やあ鳳翔、聞きたかったんだが、二日酔いとかはないのか?」

「はい、特に問題ありません。いえ、記憶がない時点で問題なのですが………」

「そうか。まあ覚えてないことについては、知らないままでもいいと思うぞ」

「そ、そうですか………?私、実はすごく気になるのですが………」



不満そうに頰を膨らませるのを見て、少し安心する。



「じゃあ、私はこれから仕事があるので」

「ああ。頑張ってくれ」



何事もなく通り過ぎた。自分のではない足音が徐々に消えていく。



しかしその途中で、聞き間違いかもしれないがどうにも妙なことが聞こえた。



「いつか、抱いて下さいね、提督♡………」





私は振り返ることなく、執務室へと向かった。




後書き

暑すぎた五月も過ぎ去り、絵に描いたような梅雨を迎えた六月、皆様はどうお過ごしでしょうか?

こちらは最近なにかと(大体はテストで)忙しく、なかなか執筆できないため、投稿に間が空いてしまっております。本来なら本編を書き進めるべきなのですが、未だまとまったストーリーが完成していないため、今回も番外編を書かせていただきました。



……………というか、
番外編の方が読まれている気がするんですが?


いや確かにね、本編とか結構お話長くなっちゃってもはやssじゃないし、内容なんとなく暗いのは分かるよ?だからたまには趣向を変えて、官能系の内容のやつを書いたよ?だからってスピンオフの方が伸びたらちょっと複雑な気持ちなんだけど。

あれですか?エロい内容なら沢山読んでもらえるとかそういう典型的な風潮ですか?なにそれどこのラノベ戦法?あのね、これあくまで番外編だから。しっかり本編も読んで。




次の投稿はいつになるか分かりませんが、次こそはきっと本編を書きます。お楽しみに。


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このSSへのコメント

1件コメントされています

1: カメタロウ 2019-06-26 21:41:23 ID: S:Lhbkb_

本編もしっかり読んでいますよー、頑張ってください。
投稿楽しみにしています!


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